2023年9月22日更新資金調達

M&Aにおけるエスクローの意味とは?メリット・デメリットについて紹介!

日本のM&Aでは、活用されているケースは少ないとされている仲介サービス「エスクロー」があります。海外では多く活用されていますが、この「エスクロー」とはどういう意味なのでしょうか。ここでは、エスクローの意味や仕組み、メリット、デメリットを紹介します。

目次
  1. エスクローとは?
  2. エスクローの仕組み
  3. エスクローの手法
  4. エスクローのメリット
  5. エスクローのデメリット
  6. エスクローを活用したM&Aの事例
  7. 安全にM&Aを行うにはエスクローを活用しよう!
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日本のM&Aでは、まだまだ活用されているケースは少ないとされている仲介サービスの「エスクロー」があります。
アメリカを初めとして海外では多く活用されていますが、この「エスクロー」とはどういう意味なのでしょうか。
ここでは、エスクローとはどういう意味であるか、M&Aにおけるエスクローの意味とはどういことなのか、そして、エスクローの仕組み、メリットやデメリットを紹介し、さらにエスクローを活用したM&Aの事例について紹介していきます。

エスクローとは?


エスクロー(escrow)の意味は、物品の売買において二者合意が成立すると買い手側が商品の代金を第三者に預け、確認されたら売り手側が商品を引き渡すという仕組みのことをいいます。
つまり、信頼のおける第三者が契約当事者の中立として入って代金決済など取引の安全を確保するためのサービスです。
M&Aではこのサービスを活用しています。
M&Aでは多額のお金が動くことから、確実に安全に取引が行われることを望んでいるためです。
ここでは、「M&Aにおけるエスクローの意味」「M&Aでエスクローが利用される理由」「エスクローが利用される規模」について紹介していきます。
 

M&Aにおけるエスクローの意味

M&Aにおけるエスクローの意味とはどういうことなのでしょうか。
先述でも話しましたが、エスクローとは確実に安全に取引が行われるためのサービスであり、損害のリスクを回避するためという意味です。
M&Aでは売買契約とは別に「エスクロー契約」というのがあります。
契約者双方の間に金融機関みたいに第三者として入り、代金の決済などの安全性を担保するというサービスのことをいいます。
アメリカなど海外のM&Aではよく活用されています。

M&Aでエスクローが利用される理由

M&Aでエスクローが利用される理由としては次のことが挙げられます。
M&Aを成功させるためには買収額だけではなく、デューデリジェンスにも費用がかかるなどいろいろな資金が必要とされます。
また、合併や買収後に経営などに影響を及ぼすリスクなどが発覚すると譲受側の企業は多大な損失をかぶることになります。
デューデリジェンスとは、M&Aの最終契約を結ぶ前段階として実施される譲渡側の企業の経営などの状況把握をするための調査のことを意味しています。
このエスクローを利用することで、M&Aが完了した後で入金をすることになっているため譲受側の企業は完了するまでにデューデリジェンスを実施することができます。
また、譲渡側の企業においてもエスクロー事業者が譲渡の資金を保管しているので入金額を確認することができ、M&Aに対して不信感を抱きにくくなります。
M&Aは多くの資金が動くことから、エスクローを利用することで譲渡側の企業にも譲受側の企業にも安心で公正な取引をすすめることができるという点がM&Aでエスクローが利用される理由となっています。

エスクローが利用される規模

エスクローは1930年代の大不況がきっかけとなり、住宅に関連する税金などが支払うことができない国民の救済措置として制定され、アメリカの不動産取引が最初でした。
その後、不動産取引での決済方法として発展し、今ではあらゆる売買取引に活用されています。
今では、不動産取引以外にも電子商取引や証券・証書などのやりとりでも活用されています。
ただし、まだ日本ではあまり活用される事例が多くありません。

エスクローの仕組み

ここではどのような流れで実際にエスクローを活用してやり取りが行われているのか、エスクローの仕組みについて次の順に紹介していきます。

  1. 買い手が代金を預ける
  2. 売り手が入金を確認し買い手に商品を渡す
  3. 買い手が商品を受け取る
  4. 売り手が代金を受け取る

①買い手が代金を預ける

最初は買い手と売り手が取引に合意し、取引契約書を取り交わして契約内容を関係者に公表します。
そこから買い手側は取引契約書の内容、条件に従って、代金をエスクロー事業者に預けます。
エスクロー事業者はその代金を預かります。

②売り手が入金を確認し買い手に商品を渡す

次にエスクロー事業者は代金を保管していることを売り手側に連絡します。
売り手は買い手からの入金がエスクロー事業者に預けられたことを確認すると商品を買い手に渡します。

③買い手が商品を受け取る

次に買い手側は売り手側から商品を受け取ります。
もし、商品が届かなかったり、契約の内容とは違う商品が届いたりというトラブルが発生した場合には、このエスクロー取引は不成立となります。
エスクロー取引が不成立となった場合には、エスクロー事業者によって保管されている入金金額は買い手側に戻ります。

④売り手が代金を受け取る

最後に買い手側が商品を受け取ったという内容が確認できると、エスクロー事業者は売り手側に代金を支払います。
これで取引は完了となります。

【関連】M&Aで用いる契約書とは?種類や契約手順もわかりやすく紹介| M&A・事業承継の理解を深める

エスクローの手法

日本ではエスクローを活用する場合に関連する規制がありません。
日本でのエスクローの手法は信託契約と銀行口座の2つがあります。
ここではそれぞれの手法について紹介します。

信託契約

エスクローの手法の1つめは「信託契約」です。
信託契約を利用する手法としては、買い手側はまずエスクロー事業者に資金を預けて、信託財産として管理してもらうという方法です。
買収や合併などの買収額以外に、損害賠償金としての資金も信託として扱えます。
その後、条件が満たされたときに売り手側に代金が渡されます。
信託契約は次の流れで行われます。

  1. 買い手側の企業とエスクロー事業者が信託契約をする
  2. 信託財産として資産をエスクロー事業者へ預ける
  3. エスクロー事業者は管理、運用をする
  4. 契約条件が満たされると売り手側の企業に信託財産を渡す
信託財産として預け、運用してもらうことで倒産した場合などのリスクからへだてることができる「倒産隔離」という機能があります。
信託契約することができるということでM&Aを実施するにあたって安心感がありますが、手続きなどはとても内容が細かく、契約できるまでには法定記載事項など確認事項が多くあります。
また、多くの契約書が長文のものが多いため、時間をかけての長期化になることを考えておきましょう。

銀行口座

エスクローの手法の2つめは「銀行口座」です。
銀行口座を利用する手法としては、エスクロー事業者が買い手側や売り手側の名義にてエスクロー口座を用意して送金を行う手法です。
銀行口座は次の流れで行われます。

  1. 買い手側、売り手側、エスクロー事業者のいずれかの名義で口座を作る
  2. 買い手側の企業が買収金額などを口座に入金する
  3. エスクロー事業者がその口座の運用や管理をする
  4. 契約条件が満たされると売り手側へ買収額を渡す
銀行口座も信託契約と同じく、エスクロー事業者が管理や運用をして条件が満たされると初めて売り手側の企業に代金が渡されます。
信託契約と比べると、信託契約ほど長期化せず、コストも抑えることができ速やかなエスクローを実現することが可能であるため、M&Aの実施を速やかに行う場合に活用することができます。
ただし、倒産隔離は不十分であり、エスクロー事業者が倒産などした場合に入金額を保証してもらえない可能性があることを覚えておきましょう。

エスクローのメリット

エスクローを活用することでのメリットはどういうことがあるのでしょうか。
エスクローを活用するメリットには次の2つがあります。

  • トラブルが起きたときに取引を保全できる
  • 見解の相違がないようチェックする機能を果たす

トラブルが起きたときに取引を保全できる

エスクローを活用するメリットの1つめとして「トラブルが起きたときに取引を保全できる」というメリットがあります。
例えば、代金の未払いなどの金銭授受のトラブルを防ぐことができます。
売り手側は決済条件が満たされたとしても代金を受け取ることができるのか心配になります。
また、買い手側は代金を全額支払ったあとの障害発生時の障害賠償を支払ってもらえるかの心配があります。
これらの心配をエスクローを活用することで第三者が保証してくれるという安心感を得られることができるため、取引を保全できるというメリットがあります。

見解の相違がないようチェックする機能を果たす

エスクローを活用するメリットの2つめとして「見解の相違がないようチェックする機能を果たす」というメリットがあります。
取引をする上で売り手側と買い手側と認識相違が起こることはあります。
例えば、M&Aによる契約内容と違う点が多いとなると契約そのものが決裂してしまう可能性があります。
決裂などを抑えるために取引にエスクローを活用することで第三者機関として契約内容を可視化させ、売り手側、買い手側双方に不公平な状況にならないようになるというメリットがあります。

エスクローのデメリット

エスクローを活用することでデメリットがあります。
先述ではエスクローを活用することでのメリットを紹介しましたが、デメリット(注意点)があることも理解しておくことも必要です。
エスクローを活用することでのデメリットは次の2つになります。

  • 手数料が発生
  • 手続きが面倒

手数料が発生

エスクローを活用することで起こり得るデメリットの1つめは「手数料が発生」というデメリットがあります。
エスクローを活用する場合にはエスクロー事業者に手数料を支払わないといけません。
M&Aを行う場合に仲介会社に依頼するときに支払わないといけないサービス利用費と同じ意味になります。
手数料の金額はエスクロー事業者によりそれぞれ変わりますが、相場としては取引価格の1~2%になり、契約書に「取引金額の何パーセント」と記載されています。
買収額などとは別に手数料が発生するというデメリットがあります。

手続きが面倒

エスクローを活用することで起こり得るデメリットの2つめは「手続きが面倒」というデメリットがあります。
エスクローを活用する場合、M&Aの契約とは別にエスクローによる手続きや支払い条件などいろいろと細かく設定をしなければいけません。
そのため、買い手側も売り手側もそれぞれ手間が増え、手続きが面倒になってしまうというデメリットがあります。

エスクローを活用したM&Aの事例

ここではエスクローを活用してM&Aを実施した事例を紹介します。
活用事例を知ることでエスクローをうまく活用できる術を理解していただければと思います。

アーンアウト条項の締結で利用する

1つめの事例は「アーンアウト条項の締結で利用する」という事例になります。
M&Aでは多くの資金が必要とされますので、支払い金額を条件つきで分割することができる「アーンアウト」という制度を利用することがあります。
アーンアウト条項において「買い手側の企業は買収金額のうち一部分を支払い、残りの金額分を譲渡側の企業が売り上げのような目標を達成したときに支払う」ということが可能となります。
費用損失などのリスクを回避するために、エスクローとアーンアウトの両方を活用します。
エスクローとアーンアウトを活用することで買い手側、売り手側の双方の企業にとって安心感があり確実なM&Aの実施につなげることができます。

買収対象が複数存在するときに利用する

2つめの事例は「複数の買収対象が存在するときに利用する」という事例になります。
買収対象の企業が複数存在するときには、買収対象の企業はチェーン店があり各店舗と契約をしなければならないということがあります。
複数存在する場合、M&Aを実施する上で難航を示す場合があります。
例えば、チェーン店などはその各店舗と契約を行わないといけないのですが、1つの店舗でも理解を示さない、賛同しないとなるとM&Aが完了しないということがあります。
その場合にエスクローを活用することでスムーズに進めることができます。
エスクローでは一括だけではなく分割支払いがあるため、店舗ごとに支払いを完了することができるからです。

エスクロー口座から分割してリリースする

3つめの事例は「エスクローの口座から分割してリリースする」という事例になります。
前項にて複数の買収対象企業が存在するときに利用するといいという事例を紹介しましたが、エスクロー口座から分割して支払うことができます。
エスクロー口座の支払いは一括払いだけではなく、分割の支払いの選択をすることが可能だからです。
複数の譲渡企業が存在する場合にはそれぞれの店舗、契約者と契約をしなければなりません。
エスクローの支払いを一括としてしまうと1つの店舗でも契約がまとまらないことになるとM&Aが成立することができません。
そのため、分割支払いとしておくことで、契約が完了したところから支払う(リリース)することができ、M&Aが効率的になるからです。

【関連】クロスボーダーM&Aを成功させるには| M&A・事業承継の理解を深める

安全にM&Aを行うにはエスクローを活用しよう!

本記事ではM&Aを行うときにはエスクローを活用しようということで、M&Aにおけるエスクローの意味やメリットやデメリット、そしてエスクローを活用したM&Aの事例などを紹介していきました。
まだ日本でエスクローを活用してM&Aを実施する事例は多くありませんが、拡大を続けているM&A業界では、安全にM&Aを行うための方法としてエスクローを活用することは重要となってきています。
安全にM&Aを行うためにもエスクローの意味や仕組みなど概要、メリットやデメリット、そして事例を理解していき、正しく売買が行われるための参考としてください。

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