M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
2021年5月9日更新会社・事業を売る
シンガポールのM&Aとは?事例や成功のポイント、M&A件数を解説
シンガポールのM&Aは、実施するメリットが非常に大きい一方で、外資規制の対象となる業種の把握など、専門的な知識が必要になるものです。シンガポールでM&Aを成功に導くためには、専門家のサポートを受けながら、M&Aを着実に進めていくことが重要です。
目次
シンガポールのM&A市場の規模
シンガポールのM&A市場は、過去数年間で着実に成長しています。
M&Aにおけるグローバルシンクタンクであるimaa(The Institute for Mergers, Acquisitions and Alliances)の統計によると、2013年から2019年までのシンガポールのM&A件数と金額は、次のように推移しています(1985年からの統計のうち、2013年から2019年の数値を参照しています)。
M&A件数 | 金額(10億USドル) | |
2013年 | 675 | $36.29 |
2014年 | 855 | $73.9 |
2015年 | 778 | $65.48 |
2016年 | 859 | $62.55 |
2017年 | 965 | $79.72 |
2018年 | 1,000 | $60.46 |
2019年 | 988 | $82.67 |
この結果からわかるように、M&Aの件数・金額のいずれにおいても減少と増加を繰り返す傾向が見られます。一方で、5年間全体で考えるとM&Aは順調に推移していることがわかります。
特に2013年から2014年にかけての増加が目立つほか、2018年は過去5年間の中でもM&A件数が最多となりました。2013年と比較すると約1.5倍増加しています。また、M&A金額は2019年が最高値となっています。
シンガポールのM&A件数・金額が伸び続ける理由
長期的に見ると、シンガポールのM&A件数と金額は、着実に増加しています。M&Aの件数や金額は、減少と増加を繰り返してはいるものの、M&A市場は着実に成長しているといえるでしょう。ここでは、シンガポールのM&A件数と金額がここまで伸びた理由について解説していきます。
- 一部の業種だけに外資規制が実施される
- 節税効果がある
- ビジネス上のメリットが多い
①一部の業種だけに外資規制が実施される
シンガポールでは、一部の業種だけに外資規制が実施されます。これはシンガポールの大きな特徴でもあります。
多くの国では、外国資本が国内事業に参入する際に、外国資本の出資比率など一定の制限を定めています。しかし、シンガポールでは、このような規制を包括的に定めた法令がありません。
公益事業などの一定の業種においては、それぞれ個別の法令で許認可の取得などの要件が定められていますが、あくまで業種ごとの個別の規定となり、包括的な外資規制ではありません。
つまり、シンガポールでは、国家の安全にかかわる特定の部門を除いて、原則として外国資本による全額出資が認められています。また、一定の業種における出資比率の制限以外は、外国資本による資本金についての制限もありません。
この特徴は、シンガポールが外資の国内参入を積極的に奨励していることを意味します。そのため、外国企業を含めたM&Aも活発化しやすくなります。
さらに、シンガポールは海外からの投資を積極的に受け入れたことで、飛躍的な成長を遂げた国でもあります。このような背景も、M&Aの増加の原因といえるでしょう。
②節税効果がある
シンガポールの法人税率は17%で、日本よりも低い税率が定められています。また、優遇税制の適用によってさらに税率が下がる場合もあります。このような点もシンガポールへ進出するメリットであり、M&Aの活発化につながっているポイントです。
特に近年では、海外進出のためにM&Aを活用する事例が増えています。税金面も含めてシンガポールを選択する企業は多いでしょう。このこともシンガポールでM&Aが伸びている要因の一つだといえます。
③ビジネス上のメリットが多い
ビジネス上のメリットが多い点もM&A加速の原因になっています。シンガポールの強みは、金融システムの安定、インフラ整備の充実、優遇税制、地理的な優位性などが挙げられます。いずれもビジネス的なメリットにつながるため、シンガポールへの進出を後押ししているでしょう。
さらに、一部の業種のみに外資規制が実施されていることを含めると、他のアジア諸国と比較した際、シンガポールはより良いビジネス環境が整っているといえます。そのため、アジアの統括拠点をシンガポールに置く企業が増加しており、海外拠点の確保のためにM&Aを検討する企業も増加しています。
このような状況を踏まえると、アジア拠点として魅力が多いこともシンガポールのM&Aが増加している要因だと考えられるでしょう。
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シンガポールでM&Aを実施するメリット
前項でご紹介したポイントも踏まえ、シンガポールでM&Aを実施する以下のメリットについて、詳しく解説していきます。
- 外資規制におけるメリット
- 法人税率におけるメリット
①外資規制におけるメリット
シンガポールには、一部の業種を除いて外資規制がないため、よりスムーズな海外進出が可能です。外国資本の出資比率の定めがない場合、外国資本が全額出資して事業を開始することもできます。
出資比率を考慮することなく、いきなり外資だけで事業を開始できるのは、海外でビジネスを開始するうえで非常に大きなメリットです。そのため、短期間でアジア拠点を構築したい場合などはM&Aにおいても大きなメリットがあります。
一方で、日本では、外国資本が全額出資して参入することは基本的にできません。他国も、包括的な外資規制が設けられているケースがほとんどです。つまり、海外進出を考える企業としては、参入に時間と手間がかかるというデメリットがあります。
②法人税率におけるメリット
先述したように、シンガポールの法人税率は17%です。この税率は、他のアジア諸国と比較すると低い水準であり、優遇税制の適用によっては税率がさらに下がる場合もあります。そのため、M&Aによるアジア拠点の構築を検討する際、シンガポールには税金面でもメリットがあるのです。
M&Aを実施する際は、税金対策について考えておくこと必要がありますが、シンガポールでは法人税率が低いため、M&Aを実施しやすくなっています。
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シンガポールでM&Aを成功させるためには
シンガポールでM&Aを成功に導くためには、外資規制の対象となる業種や代表的なM&Aの手法など、重要なポイントについての知識を得ておく必要があります。とりわけ規制対象となる業種については確認しておく必要があるでしょう。
シンガポールには包括的な外資規制を定めた法令はありません。ただし、業種によっては個別の法令によって一定の要件が定められています。
そのため、シンガポールでM&Aを実施する場合は、外資規制対象の業種であるかを確認し、資本規制や許認可などの要件を事前にチェックしておく必要があります。ここでは、規制対象となる以下の業種についてご紹介します。
- メディア(放送事業、新聞社)
- インフラ(電気事業、ガス事業)
- 製造業
- 光ディスク
- 金融
- 法律サービス
- その他(事前にライセンス取得が必要な業種)
①メディア(放送事業、新聞社)
放送や新聞などのメディア事業は、外資規制が実施されています。放送や新聞などのメディア事業については、外資の出資割合や外国人の取締役就任についての規制となり、他の国と同様の外資規制となっています。
また、一定の割合以上の株式を取得する場合、国内・外資を問わず、事前承認が必要です。例えば、放送事業の場合、外資による出資制限として、外資による株式および議決権の49%を超えて保有する際に、事前承認が必要となります。
さらに、出資規制として、5%以上の議決権株式の取得や保有、処分を実施する場合などでは事前承認を受けなくてはなりません。このように、株式の取得や保有においては、それぞれ制限・規制の内容が定められています。加えて、放送事業と新聞社でそれぞれに必要なライセンスが異なるため注意が必要です。
②インフラ(電気事業、ガス事業)
電気・ガス事業は、法律上、外国資本の参入は制限されていません。以前は、電力の小売市場は1社が独占している状態でした。そのため、外国資本の新規参入は難しい状況でしたが、近年は市場の自由化が進んでいます。
しかし、一定の議決権の取得などにおいては出資規制が設けられています。例えば、電気事業の場合では、5%超12%未満の持分保有者を監督官庁に届け出る必要があるなど、それぞれで規制が設けられています。また、必要となるライセンスなども規定されています。
③製造業
「ビール・スタウトビール」「葉巻、たばこ」「延伸鋼製品」「ガム」「マッチ」の製造は、事前に許可を取得する必要があります。
④光ディスク
CD、CD-ROM、DVD、DVD-ROM、VCDを販売目的で製造する場合、ライセンスの取得が必要です。
⑤金融
議決権株式の取得などにおける出資規制、最低資本規制、必要なライセンス、出店規制などが定められています。例えば、出資規制では、シンガポールの地場銀行に対して5%以上の議決権株式の取得や保有、処分を実施する際には事前承認が必要とされています。
⑥法律サービス
必要となるライセンス、シンガポールの弁護士が保有しなければならない議決権の割合、その他の要件が規定されています。
⑦その他(事前にライセンス取得が必要な業種)
国内・外資を問わず、事前に一定のライセンス取得が必要な業種があります。その主な業種は、小売業、飲食業、不動産業、建設業、運輸・物流業、製造業、電気通信業、教育産業、医療・介護サービス、その他サービス業とされています。
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シンガポールにおけるM&Aの代表的な手法
ここでは、シンガポールのM&Aの代表的な以下の手法について説明していきます。
- 株式取得
- 事業譲渡
- 合併
- SOA
①株式取得
株式譲渡や新株引受などは、日本における手法とほぼ同じように使用できます。
②事業譲渡
特定の事業のみを譲渡できることや、資産などの個別の移転手続きが必要になるなど、日本における事業譲渡とほぼ同じ仕組みで活用できます。
③合併
シンガポールでは、日本と同様に吸収合併や新設合併の仕組みがあります。一方、合併と関連した会社分割や株式移転、株式交換の仕組みはありません。
日本の会社法上では、組織再編として、合併(吸収合併・新設合併)、会社分割(吸収分割・新設分割)、株式移転、株式交換があります。このうち、シンガポールの会社法上では合併のみが存在するため注意が必要です。
一方で、会社分割と株式移転については、事業譲渡や後述するSOAという仕組みにより、同じ効果を得られます。
④SOA
SOA(スキーム・オブ・アレンジメント/Scheme of Arrangement)は、主に資本再編・組織再編や、債権者・出資者との利害調整のために行われる手法です。
SOAは、日本の会社法にはない仕組みで、会社が債権者や株主に対して組織再編などのスキームを提案し、その承認(議決権総数の4分の3)および裁判所の承認が得られた場合に法的拘束力を持つという仕組みになっています。
つまり、一定の債権者や株主の承認、そして裁判所の承認さえ得られれば、特定の債権者や株主の反対があったとしても、組織再編などを実施できる仕組みになっています。
SOAは、裁判所が関与する手続きであるため、当事者の合意や承認を得ることが困難な場合に、組織再編などを実現することが可能です。そのため、複雑な交渉が必要なケースや、交渉が難航した場合などは、SOAを実施するケースがあります。
また、SOAは、M&Aの手法としても活用され、日本の会社法でいう会社分割(吸収分割・新設分割)と株式移転のような効果を得られます。
シンガポールでのM&Aは専門家のサポートを受けよう
シンガポールでのM&Aは、外資規制の対象となる業種や、SOAも含めた手法など、それぞれ専門的な知識が求められます。
外資規制の対象業種やM&Aの手法など、日本とほぼ同じように考えられますが、SOAなどの日本にはない仕組みが登場することもあります。そのため、自社の独力だけで判断することは非常に困難です。
また、自社だけでM&Aを進めると、トラブルの発生につながる恐れもあります。そのため、シンガポールでM&Aを成功させるためには、シンガポールのM&Aに精通した専門家のサポートを受けることがおすすめです。
M&A総合研究所であれば、専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーによる専任フルサポートを行っています。
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まとめ
近年、世界各国でM&Aの活発化が目立ちます。これはシンガポールも例外ではありません。さまざまな企業がシンガポールへの進出やM&Aを実施している状況を踏まえると、シンガポールのM&A市場は今後さらに活性化する可能性もあります。
シンガポールは、海外からの参入を積極的に受け入れ、成長を遂げたという背景があります。現在でもその姿勢は変わらず、一部の業種を除いて外資規制がないこと、法人税率が低いことなど、海外進出をしやすいビジネス環境が整っており、M&Aの活発化にもつながっています。
一方で、外資規制の対象となる業種の把握や、日本のM&Aの手法との違いなど、専門的な知識も必要です。シンガポールでM&Aを成功に導くためには、専門家のサポートを受けながらM&Aを進めていくことが重要です。
要点をまとめると下記のとおりです。
・シンガポールのM&A市場の規模
→2018年は過去5年間の中でもM&A件数が最多、M&A金額は2019年が最高値
・シンガポールのM&A件数・金額が伸び続ける理由
→一部の業種だけに外資規制が実施される、節税効果がある、ビジネス上のメリットが多い
・シンガポールでM&Aを実施するメリット
→外資規制、法人税率におけるメリットがある
・シンガポールでM&Aを成功させるためには
→外資規制の対象となる業種や代表的なM&Aの手法についての知識を得ておく
・シンガポールにおけるM&Aの代表的な手法
→株式取得、事業譲渡、合併、SOA
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