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2022年6月1日更新事業承継
事業承継と経営承継円滑化法
経営承継円滑化法を活用すれば、事業承継の煩雑な手間を省略できる可能性が高まります。平成30年の税制改革では、事業承継税制について特例措置が創設されました。事業承継の現状、経営承継円滑化法の目的、経営承継円滑化法と事業承継税制の改正内容について解説します。
事業承継と経営承継円滑化法
事業承継は中小企業にとって経営の重要な課題となるものです。引退など様々な事情を抱えた経営者にとって、スムーズに事業承継が実行できるかは一番頭を悩ませるポイントでしょう。そんな時に役に立つのが経営承継円滑化法です。
経営承継円滑化法を活用すれば、事業承継の煩雑な手間を省略できる可能性が高まります。今回は事業承継に役立てられる経営承継円滑化法についてお伝えしていきます。
事業承継の現状
これまでは親である経営者が引退する場合、息子や娘である後継者が事業承継をする親族内事業継承が定番でした。しかし昨今、中小企業を中心に事業承継の現状に変化が起こっています。
社長の平均年齢は年々上昇傾向にある
帝国データバンクの全国社長年齢分析(2019年)によると、全国の社長の平均年齢は59.7歳と過去最高を更新しました。年小規模別では1億円未満の企業における70代〜80代の割合が他の年商規模と比べて高く、高齢化が顕著に現れています。
また2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は245万人、そのうち半数の127万が後継者が不在とされています。結果、中小企業の廃業の急増により、2025年まで約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると予想するデータが出ています。
このデータからも分かるように、中小企業ほど後継者不在による事業承継が進んでいないことが伺えます。
事業承継の変化
中小企業の事業承継が円滑に行われないと、廃業、最悪の場合は倒産してしまうことになりかねません。また経営者の引退に伴って、廃業するケースも少なくありません。黒字経営にも関わらず、会社が廃業に陥ってしまうのです。
中小企業の廃業は、会社にある貴重なノウハウや地域の雇用などが失われてしまうことに繋がります。昨今では経営者が自分の子供にただ会社を引き継がせるだけでなく、会社内の従業員や社外の人間を後継者に据えたり、M&Aで事業承継を達成するというケースが増えています。
現在の事業承継は非常に多種多様であり、会社の実情によって柔軟に対応していかなければならないものだといえるでしょう。
事業継承を検討している経営者の方は、専門家のアドバイスを受けるのがベストです。M&A仲介会社であるM&A総合研究所は専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、培ったノウハウを活かしM&Aをサポートいたします。
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参照:中小企業庁「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」
経営承継円滑化法の目的
経営承継円滑化法は正式名称を「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」といいます。その名の通り中小企業の事業承継をサポートすることを目的とした法律です。
事業承継に際して発生し得る負担を軽減
経営承継円滑化法は平成20年から施行され、中小企業の事業承継に際して発生し得る負担を軽減するために多くの経営者によって活用されています。そもそも事業承継は簡単にできるものではなく、長期的な視点で取り組まなければならないものです。
後継者の選定・育成だけでなく、相続のための準備や税務、各種手続きなど煩雑な手続きなどが多くあります。とりわけ税務面を考えると経営者の負担は決して小さくありません。
事業承継の際には会社の経営権を引き継がせるために、一定以上の(あるいは全ての)株式を後継者に取得させる必要があります。しかし経営権を得られるだけの株式はかなりの数になるものであり、同時にその価格も大きくなります。
当然ながらそれだけ大きなお金が動くならば課税される税金の大きさも膨らみます。そうなれば経営者や後継者にかかる負担は大きくなるでしょう。その際に役立つのが経営承継円滑化法です。
詳しくは後述しますが、経営承継円滑化法の平成30年の税制改革では、事業承継税制について特例措置が創設され、金銭的な負担の軽減や、相続や贈与で事業承継を行う際に後継者に経営権がスムーズに承継されるようにするためのサポートが盛り込まれています。
中小企業の事業承継が円滑に取り組む仕組み
さらには後継者が会社を引き継いだ後の支援や親族外承継を実現させるための支援など、中小企業の事業承継を成功させる様々な取り組みがなされてします。この経営承継円滑化法を活用できれば、中小企業の事業承継はさらに円滑に進むようになるでしょう。
経営承継円滑化法と事業承継税制
経営承継円滑化法には「事業承継税制」、「民法の特例」、「金融支援」の3つの主軸があり、それぞれが事業承継を支えるものになっています。いずれも中小企業の事業承継に役立つものであり、事業承継の様々な場面で活用することができます。
ここでは3つの主軸それぞれについて詳しくお伝えしていきます。
①事業承継税制
事業承継税制は事業承継の際に役立つ税制であり、主に事業承継の際に発生する相続税や贈与税の負担軽減に役立ちます。通常、事業承継において重要なことは後継者に経営権を持たせるために必要な株式をいかに取得させるかです。
この際、後継者の株式の取得は主に相続、贈与、譲渡といった3つの手法で行われます。ただ、経営権を獲得できるだけの株式を取得させるとなると、相応のお金を用意しておくべきものです。
譲渡のように後継者が直接取得する場合はある程度の資金力がないと取得は難しくなります。相続や贈与の形で取得させる場合でも相続税・贈与税を看過することはできません。まとまった株式に対して発生する相続税や贈与税は、後継者の負担を大きくするのです。
平成30年度の税制改正の内容とは?
そんな時に役立つのが事業承継税制です。平成30年度税制改正では、事業承継税制について、10年間の措置として納税猶予の対象となる 非上場株式等の制限の撤廃や、納税猶予割合の引上げが行われました。
事業承継税制の最大のメリットは事業承継で株式を取得した際に発生する相続税・贈与税に100%の納税猶予を設けることで実質的に相続税・贈与税の負担がなくなる点にあります。これは後継者にとっては事業承継の際にかかる税金をさらに軽減させることができます。
税制改正で対象者が1人の経営者と1人の後継者だったものから、複数の株主に加えて最大3人の後継者が対象に含まれるようになるなど、親族外承継のケースも想定した対象設定がされるようになりました。
とはいえ事業承継税制の支援は無条件ではなく、各都道府県知事から認定を受けた中小企業であることに加え、経営に関する様々な条件を守らなければならなくなります。ただ、平成30年度の改正ではこの条件も緩和されるようになりました。
元々事業承継税制の支援の条件の一つに5年間その会社の雇用を8割以上維持し続けることが含まれていました。もしそれが実現できなかった場合は納税猶予が解除されてしまうことになります。
しかし平成30年度の改正以後はその条件が緩和され、8割以上の雇用維持が実現できなかったとしても、納税猶予は継続されるようになりました。その場合、雇用維持ができなかった理由報告に加え、経営悪化などが原因だった場合は認定支援機関の指導を受けなければなりません。
納税猶予が解除されてしまうような形になっていた改正前と比べるとかなり緩和されたといえるでしょう。このように事業承継税制が以前より使いやすい制度に変化しており、事業承継においてかなり役に立つものだといえるでしょう。
②民法の特例
経営承継円滑化法における民法の特例は主に「遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)」、「遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)」という2つの特例の適用を受けることができるというものです。
これは両方組み合わせることも可能です。
「除外合意」の概要
これは事業承継への遺留分の影響を考慮して設定されている支援です。もし事業承継の際に株式を後継者へ相続させる手法を取った場合、経営者にとって難しいのは自身が亡くなった後の相続を全てコントロールすることができない点です。
相続は相続人1人だけに株式を含めた財産を引き継がせるだけでなく、他の親族にも承継され得るべきものです。
当然経営者が遺言書で財産の配分を指定しておくことである程度コントロールはできますが、それでも別の相続人が遺留分を侵害されていると判断した場合は遺留分減殺請求を行うことが可能であるため、結局経営者がコントロールできない範囲で遺産が分配されてしまう可能性が高くなります。
とりわけ中小企業のような規模の会社であれば、贈与による事業承継で後継者に100%の自社株式を承継させるのがベストで、なおかつその後の経営も安定します。
相続の過程で株式が分散し、別の親族の手に渡るようなことになれば、経営に介入できる別の人物を作ることになり、経営に悪影響が発生するだけでなく、最悪事業承継自体成立しなくなる可能性があります。
そのため、あらかじめ株式を遺留分対象から除外することにより、後継者への株式承継を邪魔されないようにすることができます。加えて株式の分散を未然に防止することにもつながります。
「固定合意」の概要
例えば、経営者から後継者に自社株式の贈与をした後に、後継者の経営努力により自社株式の価額が上昇したとしても、遺留分の額に影響しないことになります。そのため相続時に、他の相続人から予想外の遺留分の主張を受けることがなくなります。
固定する合意時の時価は、合意時における相当な価額であるとの税理士、 公認会計士、弁護士などの専門家による証明が必要になってきます。
ただ民法の特例である「除外合意」「固定合意」を使うには、遺留分権利者(推定相続人)全員の合意を得ておく必要があります。この全員の合意が得られない場合は、民法の特例を使えないため注意してください。
③金融支援
経営承継円滑化法の主軸最後の1つが金融支援です。この金融支援は経営者の死亡によって後継者が会社を引き継ぐ際にかかる資金を支援するためのものです。経営者の突然の死亡によって後継者および会社の金銭的負担が急増することは珍しくありません。
発生した相続税などの支払いもあれば、他の相続人に株式が分散してしまった場合に改めて株式を買い戻すようなことも考えられます。
経営承継円滑化法における金融支援はそれらのようなケースの支援を目的としており、中小企業信用保険法や株式会社日本政策金融公庫法、沖縄振興開発金融公庫法の特例を活用できます。
昨今の事業承継の多様化を鑑み、金融支援も様々な形態の事業承継に対応できるようになっているため、中小企業の経営者も様々な形で活用できるでしょう。
参照:経済産業省「経営承継円滑化法 申請マニュアル」
経済産業省「遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)」
経営承継円滑化法以外の事業承継支援
経営承継円滑法以外にも事業承継の支援はあります。経営承継円滑法は事業承継の問題に対処できるように経営者や後継者を資金面や制度面でサポートし、会社の継続を実現するためのものでした。
その他に「後継者不在」という状況に対応するための事業承継ファンドや、事業引継ぎ支援センターなどといった施設も中小企業の事業承継に役立ちます。
冒頭でも触れたように中小企業の事業承継は国や事態が支援するような課題であり、また事業承継自体が多種多様な手法が行われている現状に合わせ、事業承継への支援自体もより多様化しています。
中小企業の事業承継に関する問題は簡単に解決できるものではなく、少子高齢化が今後も深刻化していく以上、事業承継が困難になる中小企業は今後も増えていくと思われます。
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まとめ
今回の記事をまとめると以下のようになります。
・事業承継に際して様々な問題を抱えている経営者は多い・経営承継円滑化法は事業承継税制、民法の特例、金融支援の3つの主軸がある
・事業承継税制は相続税、贈与税の100%納税猶予を実現する
・民法の特例は遺留分から株式を除外できるなど様々な特例の適用を受けられる
・金融支援は事業承継に際して資金的な援助を行うというもの
経営承継円滑化法は事業承継を行う経営者のための支援制度であり、有効に活用するようにしましょう。適用を受けることができれば経営者や後継者、そして会社の負担を大きく減らせるようになるでしょう。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。