2021年4月24日更新会社・事業を売る

偶発債務とは?M&Aで問題となる種類、対策を解説

偶発債務とは現段階では生じておらず、将来に特定の条件を満たすと発生する債務です。M&A取引において偶発債務の存在を発見するには、デューデリジェンスの実施が必要不可欠となります。今回は、M&Aで問題となる偶発債務について説明します。

目次
  1. 偶発債務とは
  2. M&Aにおける偶発債務の取り扱い
  3. M&Aで問題となる偶発債務の種類(法務分野の調査が必要なもの)
  4. M&Aで問題となる偶発債務の種類(法務分野の調査が不要なもの)
  5. まとめ
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偶発債務とは

偶発債務とは

偶発債務とは、現段階では発生しておらず、将来的に一定条件を満たした場合に発生する債務を指します。必ずしも債務として発生する確証はなく、詳細な発生予測ができない点に大きな特徴が見られます。

代表例を挙げると、未払い労働賃金・訴訟による損害賠償債務・債務保証などが、偶発債務として捉えられています。たとえ偶発債務の存在自体をある程度予測できても、債務の発生有無を確実に読むことは不可能です。多くの企業では、偶発債務に備えた貯蓄ができていません。

そのため、偶発債務が条件を満たして実際に債務が発生した場合には、返済に悩まされることになります。

偶発債務の会計処理方法

偶発債務は、将来的に一定条件を満たした場合に発生する債務であるため、一般的に決算日の段階では負債額の予測が難しく、貸借対照表には計上しません。そもそも貸借対照表は、企業の財政状態を利害関係者に正確に伝える目的を持つ書類です。

上記の理由から、債務の発生が不確定な段階では、財務諸表に偶発債務の内容・金額を注記して利害関係者に情報提供するのです。将来的に偶発債務の発生確率が高まった段階で、貸借対照表に引当金として計上します。

このように会計上では、偶発債務は債務と確定した段階ではじめて負債として計上される性質を持ちます。

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M&Aにおける偶発債務の取り扱い

M&Aにおける偶発債務の取り扱い

偶発債務の問題は、M&A実施時に最も深刻化します。情報開示時に発覚しなかった偶発債務が、M&A取引後に債務として発生するおそれがあります。その結果として、M&Aにおける買い手側が売り手側の債務を引き継ぐケースも珍しくありません。

偶発債務は、M&Aにおいて非常に難しい要素として捉えられています。偶発債務の段階では、発生確率・債務確定時の具体的な債務額などの予測が困難であるためです。買い手側では、売り手側を詳細に調査する「デューデリジェンス(買収監査)」の実施が必要です。

なお、売り手側からするとM&Aによる偶発債務の譲渡を幸運だと捉えがちですが、場合によっては契約違反として買い手側から損害賠償を請求されるおそれがあります。M&Aでは、売り手側においても偶発債務を慎重に確認する必要があります。

ここからは、デューデリジェンスの重要性、実施時のポイント、実施に求められる能力を解説します。

デューデリジェンスの重要性

デューデリジェンスは、数あるM&Aプロセスの中でも非常に重要視されています。デューデリジェンスとは、売り手側の開示情報にはない潜在的なリスクを探し出すプロセスです。具体的には、売り手側の企業情報について、提供された書類と相違がないか確認・調査します。

偶発債務は、債務として計上されていないため、デューデリジェンスを徹底しなければ発見不可能です。

また、デューデリジェンスの実施で企業価値を左右する問題を発見できれば、買い手側は買収価格の引き下げ交渉を実施できます。適正価格で買収するためにも、重要なプロセスだといえます。

デューデリジェンス実施時のポイント

ここでは、デューデリジェンス実施時のポイントとして、「漫然と調査しない」、「将来的な債務発生を想定して債務者を確定させておく」という2点を解説します。

漫然と調査しない

仮に偶発債務の有無を知らずにM&Aを実施して、後に債務が発生した場合には、基本的に買い手側が返済する義務を負います。自社の利益を向上するためにM&Aを実施したにも関わらず、偶発債務の存在により余計な費用を発生させてしまいます。

一方で売り手側からすれば、偶発債務は隠しておきたい存在だといえます。偶発債務が発覚すれば、企業価値の低下を招きかねないためです。上記の理由から、M&Aでは買い手側が偶発債務の存在を積極的に調査します。

とはいえ、偶発債務の発見は非常に困難であり、漫然と調査していては発見不可能です。デューデリジェンスを効率良く済ませるためにも、買い手側では以下の対策を講じるとよいでしょう。

  • 関係者や当事者に対して直接質問する
  • 各役員会議の議事録を閲覧する
  • その他重要な書類や議事録などに目を通す

将来的な債務発生を想定して債務者を確定

上記の対策を講じても偶発債務を発見できないケースも見られます。入念にデューデリジェンスを実施しても、見落とすおそれがあるのです。偶発債務が発見できなかったケースを予見しつつ、リスク管理しておくことも大切だといえます。

将来的な債務の発生を想定して、債務者を確定させておくことが有効策です。偶発債務が債務として発生した後に買い手側が債務を返済すると、もともと偶発債務を抱えていた企業に対する求償債権が発生します。

これにより、偶発債務の返済費用を請求可能です。もともと自社のものではない債務を返済することから、ほとんどの買い手側が求償債権の行使を検討します。とはいえ、求償債権の発生時には売り手側に返済能力が残っていないケースも多いため、求償債権の回収が困難です。

以上を踏まえると、偶発債務の発生を事前に想定して債務者を確定させておくことが大切です。

デューデリジェンス実施に求められる能力

デューデリジェンス実施には財務・法務分野の専門知識が必要であるため、ほとんどのM&Aケースにおいて公認会計士・税理士・弁護士などの専門家にプロセスを依頼するのが一般的です。

見方を変えれば、M&Aでデューデリジェンスを依頼する場合には、高度な専門知識・分析能力が備わっている専門家を選ばなければなりません。さらに、専門家にはM&Aの重要部分を担う責任感も必要不可欠です。

M&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には、専門的知識や経験が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しており、培ったノウハウを活かしてM&Aプロセスをフルサポートいたします。

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)相談料は無料となっておりますので、M&Aでの買収に不安を感じる場合はお気軽にご相談ください。

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M&Aで問題となる偶発債務の種類(法務分野の調査が必要なもの)

M&Aで問題となる偶発債務の種類(法務分野の調査が必要なもの)

ここからは、M&Aで問題となる代表的な偶発債務を紹介します。はじめに紹介するのは、法務分野の調査も求められる2種類の偶発債務です。

  1. 未払い労働賃金
  2. 訴訟による損害賠償債務
それぞれの偶発債務の特徴を見ていきます。

①未払い労働賃金

未払い労働賃金の中でも、特に従業員の残業代未払いが偶発債務として問題になりやすいです。日本では、固定残業代のみを支払って、時間外労働の時間に応じた残業代を支給しない企業が珍しくありません。

また、「残業は従業員の任意行為である」と捉えて固定給のみを支払い就業時間内では終わらない業務を課す企業や、そもそも残業代を支払わないと宣言する企業なども存在します。こうした企業をM&Aで買収する場合、従業員から残業代を請求されるおそれがあります。

時間外労働の事実があり、なおかつ残業代未払いの証拠があれば、請求が認められる可能性が高いです。一見すると社内環境が良好な企業であっても、従業員が任意で残業しているケースが見られるため、デューデリジェンスを実施して十分に調査しなければなりません。

ちなみに、ひとことにデューデリジェンスといっても、調査分野に応じて複数の種類に分かれます。偶発債務を探すには、財務デューデリジェンスを実施するのが一般的です。ただし、未払い労働賃金に関しては、法務デューデリジェンスの対象にも含まれます。

上記2種類のデューデリジェンスを実施しても、必ず発見できるという保証はありません。財務・法務分野のデューデリジェンスを実施する各機関が、それぞれ報告しながら偶発債務の発見を目指すことが大切です。

②訴訟による損害賠償債務

訴訟による損害賠償債務はもともと法務に関する問題ですが、偶発債務の調査を中心に考えると財務デューデリジェンスの対象にも含まれます。調査対象となる売り手側が訴えを起こしている・訴えられている場合には、訴訟内容に関わらず偶発債務と捉えられます。

特に注意すべきケースは、売り手側が訴えられている場合です。一般的に訴訟の結果は、予測できないケースがほとんどです。判決により賠償金を支払う必要が生じた場合、買い手側が賠償金の支払い義務を負うおそれがあります。

なお、M&A実施前に売り手側が賠償金を支払う場合であっても企業資産が減少するため、結果的に売り手側の企業価値低下につながります。ここで注意すべきポイントは、訴訟段階に満たない争いも確認しておく点です。

デューデリジェンス実施時に偶発債務ではなかった争いが、将来的に訴訟へと発展する可能性は十分にあり得ます。デューデリジェンスでは、訴訟に至る前の争いにも目を向けると良いです。

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M&Aで問題となる偶発債務の種類(法務分野の調査が不要なもの)

M&Aで問題となる偶発債務の種類

ここでは、法務分野の調査が不要であるケースが多い偶発債務として、以下の2つを紹介します。

  1. 債務保証
  2. デリバティブ取引
それぞれの偶発債務の特徴を見ていきます。

①債務保証

債務保証は、売り手側が保証人となっている場合に生じる偶発債務です。具体的には、売り手側の企業・その経営者が取引先企業などの債務保証人となっている場合は、故意の有無・債務返済者の財務状況などに関わらず、偶発債務として捉えられます。

保証対象である借入金の返済が済んでいれば偶発債務は消滅するため、M&A実施時に考慮する必要はありません。ただし、返済が済んでいない場合には、売り手側の企業価値を見直す必要があります。

仮に偶発債務を持つ本人に返済する意思があっても、突然経営が傾いて企業が倒産するおそれがあるため安心できません。たとえ経営が順調な企業であっても、自然災害・海外の市場状況などによって、本人の意思に関わらず返済能力を失うケースもあります。

さらに、債務保証は個人ではなく企業が債務を背負うケースが多いため、債務額が高額となる傾向があります。デューデリジェンス実施時には、帳簿・取引議事録などを念入りに確認することが大切です。

②デリバティブ取引

デリバティブ取引とは、金融派生商品の取引のことです。具体的には、先渡取引・先物取引・オプション取引・スワップ取引などが該当します。多くの上場企業では、デリバティブ取引について、適切に時価評価を実施したうえで、貸借対照表に資産・負債を計上しています。

その一方で中小企業では、貸借対照表にデリバティブ取引が反映されていないケースが多いです。計上していない場合には偶発債務となるため、デリバティブ取引の有無を取引ごとに確認する必要があります。

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まとめ

まとめ

債務は、企業価値を低下させる要因です。たとえ安価でM&Aによる買収を実施できたとしても、偶発債務が債務として発生すれば、結果的に割高の取引となりかねません。M&A取引で偶発債務を引き継ぐリスクを減らすには、十分なデューデリジェンスが必要不可欠です。

デューデリジェンスは、買い手側にとってリスクを軽減する重要なプロセスです。詳細な調査を済ませたうえで、M&A取引の実施を決定することが理想だといえます。

一方で売り手側にとっても、偶発債務は重要な存在です。偶発債務を故意に隠してしまえば、将来的に損害賠償を請求されるおそれがあります。会社売却の検討時には社内の偶発債務を探したうえで、買い手側に偶発債務の存在を申告すると良いです。要点をまとめると、以下のとおりです。

・偶発債務とは
→将来的に一定条件を満たした場合に発生する債務

・偶発債務の会計処理方法
→債務と確定した段階ではじめて負債として計上する

・M&Aにおける偶発債務の取り扱い
→基本的に買い手側が債務を引き継ぐため売り手側に対するデューデリジェンスの実施が必要となる

・デューデリジェンスの重要性
→偶発債務発見のほか適正価格で買収するためにも重要なプロセスである

・M&Aで問題となる偶発債務の種類
→未払い労働賃金、訴訟による損害賠償債務、債務保証、デリバティブ取引に関する偶発債務など

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