赤字になったら会社はつぶれる?赤字経営のメリット・デメリット、赤字決算について解説
2020年11月29日更新業種別M&A
病院・医療法人のM&Aの7つのポイント!買収積極企業は?【持分あり/なし】
病院・医療法人のM&Aは株式会社の場合とは手続きが異なるため、違いを把握したうえで最適なスキームを選択しなければなりません。本記事では、病院・医療法人のM&Aについて、持分のあり・なしでの違いを含めた成功のためのポイントや積極買収企業などを中心に紹介します。
目次
病院・医療法人のM&A
M&Aは一般的に株式会社を対象に行われるケースが多いですが、個人事業のクリニックや医療法人であってもM&Aの実施は可能です。
とはいえ、株式会社のM&Aと病院・医療法人のM&Aでは、手法・手続きなどの面で相違点があるため、あらかじめ十分に理解しておかなければなりません。
本記事では病院・医療法人のM&Aについて幅広く解説していますが、まずは病院・医療法人およびM&Aに関する基本的な用語の意味について解説します。
病院・医療法人とは
病院とは、けが人や病人に対して診察・治療などの医療行為を施したり、けが人や病人を入院させて収容したりする施設のことです。
病院と似た言葉に診療所がありますが、有しているベッド数によって、20以上なら病院・20未満なら診療所というように区別されています。そのほか、医師数や医師一人あたりが診察する患者数などにも違いが見られるのです。
また、医療法人とは、病院・診療所・介護施設などを運営する社団・財団をさします。株式を発行せず出資・基金などで設立され、利益に対する配当は行われないといった点が特徴的です。
病院・医療法人の特徴
病院・医療法人の開設やベッド数の増設(増床)を行うには、開設地域の都道府県知事などから許可をもらう必要があります。なお、開設・増床を行いたい地域において既存の病床数が医療計画の定める基準病床数を超えている場合には、都道府県知事などは新たな開設・増床を認める必要はありません。
このことから、新規参入・事業の拡大が行いにくい業界であるといえます。また、医療法により病床の種類ごとに必要な有資格者の配置基準が定められている点も病院・医療法人に見られる大きな特徴です。
診療報酬の観点でも有資格者の配置状況に応じた点数配分が設定されていることから、他の業界以上に人材の維持確保が重要な経営課題として掲げられています。
M&Aとは
M&Aとは、株式譲渡・事業譲渡・吸収合併・会社分割といった手法により会社を売買する取引の総称のことです。英語では合併を「Mergers」買収を「Acquisitions」と表記されるため、頭文字を取ってM&Aと呼ばれています。
M&Aは、大企業だけでなく中小企業や個人事業、病院や医療法人でも実施可能です。特に最近では、中小企業の事業承継手段として、政府によってM&Aが推進されています。
M&Aを円滑に進めたい場合、M&A実務の専門家であるM&A仲介会社を利用するケースが多いです。そのほか、金融機関・公的機関の相談窓口を利用したり、弁護士・税理士からM&Aに強い事務所を探して相談したりする選択肢もあります。
病院・医療法人のM&Aの動向
もともと病院・医療法人は営利を目的としないため、他業界のように利益拡大を目指した積極的なM&Aは起こりにくいという特徴があります。
しかし、近年では医療報酬・薬価基準の引き下げに加えて、建替えによる投資コスト増大という問題が深刻化しており、経営が苦しくなった病院・医療法人がM&Aにより大手に売却する事例が徐々に増加している状況です。
上記の傾向をきっかけとして、大手の病院・医療法人では規模拡大・広域展開に向けたM&Aの実施を図っていますが、さまざまな制限が設けられているために業界再編は十分に進んでいるとはいえません。
その一方、他業種から医療関連業界に参入するためのM&Aは活発化しています。例えば、レンタカー事業などを営むオリックスや、ガス会社のエア・ウォーターといった他業界の企業が、医療関連企業を積極的に買収している状況です。
さらに、多くの病院・医療法人では医師・看護師不足の状況に陥っていることから、サービスの質低下や診療報酬の低下を防ぐために、人材確保を図るM&Aの実施も目立っています。
病院・医療法人のM&Aの7つのポイント
病院・医療法人のM&Aは株式会社のM&Aとは異なる部分があるため、ポイントを正しく押さえておく必要があります。特に出資持分は重要なポイントで、あり・なしの違いによりM&Aの手続き・税務などが変わるため注意しましょう。
出資持分のあり・なしの違いは医院を開業している医師自身も正しく把握していないケースが多いため、M&Aを検討する際はあらためて知識を整理しておくと良いです。
- 病院・医療法人の持分ありと持分なしとは
- 持分ありの病院・医療法人のM&A
- 持分なしの病院・医療法人のM&A
- 病院・医療法人のM&Aで見られる手法
- 病院・医療法人のM&Aは開設主体によって手続きが異なる
- 病院・医療法人のM&Aによる人事
- 相談するM&A仲介会社
それぞれのポイントを順番に見ていきます。
①病院・医療法人の持分ありと持分なしとは
病院・医療法人は、出資持分ありの医療法人と出資持分なしの医療法人に分かれます。
出資持分ありとは、医療法人を設立する時にお金を出した人(出資者)が、その医療法人に対して財産権を持っていることをさします。これに対して、出資者が財産権を持たない場合は、出資持分なしです。
平成19年3月31日までに設立された医療法人は出資持分である一方、同年4月1日以降に設立された医療法人は出資持分なしと区別されます。
②持分ありの病院・医療法人のM&A
持分なしの病院・医療法人は開始から十数年ほどの新しい制度により誕生したことから、現時点では多くの病院・医療法人が持分ありとしてM&Aを実施しています。
持分ありの病院・医療法人のM&Aでは、主に出資持分譲渡の手法が採用されます。出資持分譲渡とは、出資持分の譲渡により事業承継を行う手法であり、株式会社の株式譲渡に相当する手法です。
出資持分譲渡は株式譲渡と同じく病院・医療法人をまるごと引き継ぐ手法であるため、資産だけでなく負債も引き継ぐ点や、従業員の再雇用手続きの必要がない点などが株式譲渡と類似しています。
③持分なしの病院・医療法人のM&A
持分なしの病院・医療法人のM&Aでは、出資持分譲渡を利用できないため、事業譲渡など他の手法を採用する必要があります。
持分なしの病院・医療法人のM&Aでは、会社分割を利用して行う選択肢が有力です。会社分割は持分ありの病院・医療法人では採用できないことから、持分なしの医療法人ならではの手法だといえます。
持分なしの病院・医療法人を譲り渡した旧理事・旧監事に対しては、対価として退職金を支払う仕組みです。ただし、退職金の額が大き過ぎると問題になるケースがあるため、別途報酬を支払って対応する場合もあります。
④病院・医療法人のM&Aで見られる手法
病院・医療法人のM&Aでは、株式会社のM&Aとは手法が異なるため注意が必要です。ここで、病院・医療法人のM&Aで見られる手法をまとめて確認しておきましょう。前提として、株式会社のM&Aでよく利用される株式譲渡は、株式を発行しない病院・医療法人では採用できません。
このうち、出資持分ありの病院・医療法人では、株式譲渡の代わりに出資持分譲渡が採用されます。出資持分譲渡は株式譲渡と同様に比較的簡便な手続きであり、病院・医療法人をまるごと承継できる手法です。
一方で、出資持分なしの病院・医療法人では、株式譲渡も出資持分譲渡も採用できません。そのため、出資持分なしの場合は、事業譲渡・会社分割など他の手法を採用してM&Aを実行します。
⑤病院・医療法人のM&Aは開設主体によって手続きが異なる
病院・医療法人は、開設主体が多種多様である点も特徴的です。開設主体は、公的部門と民間部門の2種類に大きく分けられます。具体例を挙げると、国・都道府県・市町村が開設主体となる場合は公的部門に該当し、医療法人・社会福祉法人・公益法人および企業・個人が開設主体となる場合は民間部門に該当するのです。
上記に挙げた開設主体の種類により許認可などの届出の提出先などが変わることから、求められるM&A手続きも異なります。
⑥病院・医療法人のM&Aによる人事
病院・医療法人のM&Aに伴う人事の仕組みを、「社員」「従業員」に分けて把握しておきましょう。M&Aでは、まず「社員」が新しく入れ替わり、新たな社員による社員総会で新しい理事・監事などが選出されます。
医療法人における社員とはいわゆる従業員のことではなく、意思決定の最高機関である社員総会の構成員であるため株式会社の株主に近い存在です。ただし、「社員=出資者」というわけではなく、出資者でなくても社員に該当するケースがあります。
病院・医療法人で働く従業員については、出資持分譲渡によるM&Aでは、基本的に今までの雇用契約がそのまま承継されます。なお、事業譲渡によるM&Aでは、いったん雇用契約を解除し退職させたうえで、あらためて再雇用するという仕組みです。
⑦相談するM&A仲介会社
病院・医療法人をM&Aで売却・買収する際は専門的な手続きが求められるため、M&A仲介会社などの専門家からサポートを受けることが一般的です。
ただし、M&A仲介会社は非常に数が多く、開業に専門の資格が必要なわけではないため、質の良い仲介会社を選定しなければなりません。
例えば、医療関連事業に特化しているM&A仲介会社や、自分の病院・医療法人と同規模の実績を豊富に持つM&A仲介会社を選ぶと良いでしょう。
病院・医療法人における業界大手のM&A事例5選
ここからは、病院・医療法人における業界大手のM&A事例として、以下の5つを紹介していきます。
- 医療法人沖縄徳洲会による社会医療法人社団木下会の吸収合併
- 一般社団法人巨樹の会による杵島郡大町町立病院の取得
- 社会医療法人北斗による熊谷総合病院の取得
- 医療法人啓仁会による秀島病院の吸収合併
- 医療法人伯鳳会による国仲病院・小国病院の取得
各事例にあるポイントを押さえて、自身がM&Aを行う際に計画策定の参考にすると良いでしょう。それでは、ぞれぞれの事例を順番に紹介していきます。
①医療法人沖縄徳洲会による社会医療法人社団木下会の吸収合併
2019年12月、医療法人沖縄徳洲会は、社会医療法人社団木下会(千葉県松戸市)を吸収合併しました。本件M&Aの主な狙いは、経営の合理化および、コンプライアンス・ガバナンスの強化です。このM&Aに伴い、沖縄徳洲会は、千葉西総合病院の運営法人となっています。
なお、沖縄徳洲会は、2018年8月には医療法人湯池会も吸収合併しています。これにより、沖縄徳洲会は、湯池会に所属していた北谷病院を取得しました。このM&Aは当事者間の連携強化を目的に実施されており、北谷病院における医療従事者の高齢化や後継者不在といった問題の解決が図られています。
②一般社団法人巨樹の会による杵島郡大町町立病院の取得
2017年6月、一般社団法人巨樹の会は、佐賀県杵島郡大町町より杵島郡大町町立病院を取得しました。本件M&Aの主な狙いは大町町立病院の深刻な施設老朽化の解決を目指した点にあり、M&A後には新しく大町病院が開業されています(同年8月に「大町診療所」に変更)。
ただし、2020年3月、大町診療所は、施設老朽化・経営赤字を理由に閉鎖されました。地域医療の継続を図って実施されたM&Aでしたが、結果的には目的を果たせなかった事例だといえます。
③社会医療法人北斗による熊谷総合病院の取得
2016年5月、社会医療法人北斗は、JA埼玉県厚生連より熊谷総合病院の事業を取得しました。本件M&Aの主な狙いは、関東エリアへの事業進出にあります。
買収側の北斗は、北海道の十勝でクリニック・介護施設などを運営している社会医療法人です。また、日本とロシアの合意による経済協力プランの元で、ウラジオストク市内にリハビリセンター・画像診断センターなどを開設しています。
北斗の理事長である鎌田氏は病院・医療法人領域において法人同士の合併や連携を元に地域の医療提供体制を再構成する必要性を感じており、実現に際して地域医療構想・地域包括ケアシステムを構築する一貫として熊谷総合病院の取得に至りました。
④医療法人啓仁会による秀島病院の吸収合併
2008年1月、医療法人啓仁会は、秀島病院を吸収合併しています。秀島病院はバブル期の地価上昇時に銀行融資を利用して病院規模を拡張したものの、スタッフ不足・事業計画の不在・過剰投資による債務超過などの問題が深刻化し、M&A当時には経営が立ち行かなくなっていました。
上記の状況を受けて啓仁会による経営支援が始まりましたが、その後の銀行を交えた協議により銀行が一部の債権を放棄したことで、吸収合併に至ったという経緯があります。なお、秀島病院は個人病院であることから、M&Aに伴い医療法人化されて「吉祥寺南病院」に名称が変更されました。
なお、M&Aの結果として単年度の黒字化に成功しており、啓仁会にとって経営上の効果があったことが報告されています。
⑤医療法人伯鳳会による国仲病院・小国病院の取得
2005年10月、医療法人伯鳳会は、整理回収機構より医療法人十愛会の国仲病院を取得して、「明石はくほう会病院」としました。なお、2007年2月には、同じく十愛会で医師不足に悩んでいた産婦人科病院の「小国病院」の事業を承継しています。
これらの統合により伯鳳会ではグループとして30を超える事業所を構えることになり、赤穂中央病院に本部を置きながら、本部管理の元で各施設を運営する体制を構築しました。
譲渡側である国仲病院は経営破綻し、小国病院は存続の危機に立っていましたが、伯鳳会が事業を引き継いで以降は、医師が充足し継続的な医療の提供に成功しています。
病院・医療法人での異業種によるM&A事例5選
ここからは、病院・医療法人での異業種によるM&A事例として、以下の5つを紹介していきます。
- 東芝と医療社団法人社団緑野会のM&A
- 日本郵政と社会福祉法人恩賜財団済生会グループのM&A
- NTT東日本と東北医科薬科大学のM&A
- 日立製作所と医療法人社団大坪会のM&A
- セコムと倉本記念病院のM&A
このように、日本の大手電機メーカー・通信事業を手掛ける企業・警備サービス会社など、病院・医療法人のM&Aに関わる業種は幅広いです。各事例にあるポイントを押さえて、自身がM&Aを行う際に計画策定の参考にすると良いでしょう。それでは、それぞれの事例を順番に紹介していきます。
①東芝と医療社団法人社団緑野会のM&A
2018年3月、東芝は、自身が運営する東芝病院の全事業を医療社団法人社団緑野会に対して譲渡しました。本件M&Aの狙いは、地域のニーズに沿った医療提供を実現することです。
M&A当時、東芝は運営する東芝病院を含めて業績悪化に悩まされていました。医療領域において高度な知識・技術を有する緑野会への譲渡により、東芝病院のさらなる医療の質の向上が図られた事例です。
②日本郵政と社会福祉法人恩賜財団済生会グループのM&A
2017年4月、日本郵政は、横浜逓信病院の事業を社会福祉法人恩賜財団済生会グループに対して譲渡しました。横浜逓信病院は、横浜市において内科・外科・小児科などの医療を提供する病院です。もともとは日本郵政による運営が行われていた逓信病院のひとつで、戦後期より地域密着で医療を提供してきました。
本件M&Aの狙いは、赤字経営の解消にあります。M&A後には、済生会の元で済生会東神奈川リハビリテーション病院が設立されて、リハビリを主軸とする患者対応により高齢患者に医療を提供している状況です。
③NTT東日本と東北医科薬科大学のM&A
2015年9月、NTT東日本は、自身が経営するNTT東日本東北病院の事業を東北医科薬科大学に対して譲渡すると発表しました。NTT東日本東北病院は、東日本大震災の被災地に緊急医療を提供してきた実績を持つ病院です。
本件M&Aの主な狙いは医師・看護師不足の解消にあり、NTT東日本は東北地方における医療領域の課題解決を図るために譲渡を決めています。M&A後は東北医科薬科大学「若林病院」として、東北の復興に向けた人材育成・医療提供を目指している状況です。
④日立製作所と医療法人社団大坪会のM&A
2014年4月、日立製作所は、自身の運営する小平記念東京日立病院の事業を医療法人社団大坪会に対して譲渡しました。小平記念東京日立病院は、1960年の創立以来、地域に根ざした総合病院として医療を提供してきた病院です。
本件M&Aの狙いは、日立製作所における採算の改善にあります。地域医療のノウハウを有する大坪会の傘下に置くことで、持続的な病院経営につなげられるとして事業譲渡を行っています。
M&A後は、大坪会の元でリハビリテーション科や医療福祉相談室などを備える東都文京病院が設立されて、地域のニーズをかなえる医療が提供されている状況です。
⑤セコムと倉本記念病院のM&A
1998年9月、セコムは経営危機に陥り破綻した倉本記念病院の土地・建物を取得しました。本件M&Aの狙いは、医療分野への進出です。M&Aの1カ月後にはセコム千葉病院として開業する予定であったものの、医師会などから反対を受けて、同年12月にセコメディック病院として開業に至っています。
2017年には民間企業で初めて看護師の指定研修機関として厚生労働省から認可されており、医療サービスのさらなる拡大に注目が集まっている状況です。
病院・医療法人がM&Aを行うメリット
病院・医療法人のM&Aは他業種に比べてまだまだ活発とはいえません。この背景には、株式会社のM&Aに比べて手続きがわかりにくい点や、医師自身もM&Aのメリットを十分に理解できていない点も深く関係しています。
この章では、病院・医療法人のM&Aにはどのようなメリットがあるかについて、買い手側・売り手側双方の立場からまとめました。
売り手側
ここでは、病院・医療法人がM&Aを行う売り手側のメリットについて解説します。売り手側の主なメリットとしては、以下の4点が考えられます。
- 廃院を避けることができる
- 地域医療の空白を作らない
- スタッフの雇用先を確保する
- 設備投資・事業の拡大を円滑に進められる
それぞれのメリットを順番に見ていきましょう。
廃院を避けることができる
近年の日本ではいかなる業種でも経営者の高齢化による廃業が問題になっており、病院・医療法人もその例外ではありません。親族や身近な人間に医師免許を持っている人がいない場合、地域に必要な医院・医療法人が廃院する事態に陥ってしまいます。
そこで、M&Aにより医院・医療法人を継いでくれる人を広く募集し、廃院を避けるという選択肢が有力となるのです。
地域医療の空白を作らない
病院・医療法人は地域住民にとって必要不可欠な存在であるため、医師の都合で簡単に廃院を選ぶことはできません。特に病院・医療法人が不足している地方部では、ひとつの病院・医療法人が廃院しただけでも地域医療に大きな空白を生み出してしまいます。
しかし、M&Aにより病院・医療法人を事業承継して存続させれば、地域医療を維持できるのです。
スタッフの雇用先を確保する
病院・医療法人を廃院してしまうと、これまで働いてきたスタッフを解雇しなければならないという問題が生じます。そのため、スタッフの雇用先の確保を主な目的として、病院・医療法人のM&Aを実施するというのも有力な選択肢です。
特に出資持分譲渡の場合は、基本的にスタッフの雇用がそのまま継続されるため、再雇用が必要な事業譲渡などと比べると利便性の高い手法だといえます。
設備投資・事業の拡大を円滑に進められる
M&Aによる譲渡で大手企業の傘下に入れば、買い手側企業の経営資源の活用により、新たな設備投資や大規模な修繕などを行いやすくなります。これにより、事業の拡大がスムーズに進むため、事業の安定化・収益力の向上などが図れるのです。
買い手側
次に、病院・医療法人のM&Aにおける買い手側のメリットを解説します。買い手側の主なメリットは、以下の4つです。
- グループの拡大
- 新規エリアへの事業展開
- 人材を確保できる
- 地域参入障壁などの規制を避けられる
それぞれのメリットを順番に見ていきましょう。
グループの拡大
グループ展開している大手の病院・医療法人では、M&Aで他の病院・医療法人を買収してグループ拡大を図るという手法を採用しています。M&Aでは、新たに病院・医療法人を設立するよりもコスト・手間を削減しながら病院数を増やせる点がメリットです。
新規エリアへの事業展開
新規エリアに新しい病院・医療法人を設立する場合、手続きが面倒なだけでなく、設備投資・人材の確保など多くの費用・手間が発生します。そのうえ、すでに当該エリアで地盤を築いている競合病院との競争に勝ち抜くことも困難です。
その一方、既存の病院・医療法人をM&Aで買収すれば、既存の設備や顧客などを引き継いだうえで、手早く事業展開できます。
人材を確保できる
病院・医療法人では、立地・設備などの条件に加えて、優秀な医師・看護師・事務スタッフなどの在籍有無も経営に大きく影響します。人材面に関しては、新規で求人をかけても優秀な人材がなかなか応募してきてくれないというケースもあるのです。
しかし、病院・医療法人をM&Aで買収できれば、売却側の病院で働く優秀な人材を手早く獲得できます。
地域参入障壁などの規制を避けられる
病院、クリニックを新規開設・増床する場合、該当する地域の都道府県知事などから許可を受けなければなりません。そのうえ、該当地域の医療計画に定められた基準病床数を超えてしまうと、新規開設・増床が許可されない場合もあるのです。
上記のような規制は、病院・医療法人の新規参入・事業拡大において大きな障壁となっています。しかし、M&Aによりすでにある病院を買収すれば、こうした規制を回避可能です。
病院・医療法人のM&Aに積極的な企業は?
この章では、近年、病院・医療法人および関連企業をM&Aで積極的に買収している企業を紹介します。
- T&Cメディカルサイエンス
- H.U.グループホールディングス
- オリックス
- メディカル・データ・ビジョン
- 双日
- エア・ウォーター
- EP綜合
- 大東建託
- 都築電気
それぞれの企業について詳しく見ていきましょう。
①T&Cメディカルサイエンス
T&Cメディカルサイエンスは、再生医療・医療機器販売・病院の運営および管理などを手掛けている会社です。2014年に中国の北京徳恒国際医療服務有限公司と資本業務提携を結ぶなど、積極的に病院・医療法人のM&Aを行っています。
北京徳恒国際医療服務有限公司は会員制クリニックの国際医療サービス会社であり、本事例は日本の次世代検診技術や再生医療の提供を目的としたM&Aとされています。
②H.U.グループホールディングス
H.U.グループホールディングス(旧:みらかホールディングス)は臨床検査企業の持株会社で、国内三大臨床検査センターのひとつであるエスアールエルを子会社に持っています。
2018年、H.U.グループホールディングスは臨床検査事業を譲受するために、社会医療法人愛仁会と資本業務提携を締結しました。愛仁会は関西で病院経営を展開していたことから、関西エリアでの事業拡大も見据えたM&Aとされています。
③オリックス
オリックスは、金融事業やレンタカー・リースをはじめ多くの事業を手掛けている会社です。医療関連では、医療法人向けの融資やCT・MRI搭載車両のリース事業などを手掛けています。
2014年、オリックスは、医療機器販売会社であるイノメディックスを子会社化しました。また、2017年には医療機関向け業務支援サービス会社(CMCおよびメディマージュ)と資本業務提携を締結するなど、医療関連のM&Aを積極的に実施しています。
④メディカル・データ・ビジョン
メディカル・データ・ビジョンは、病院向け経営支援システムや診療データベースなど医療関連製品・サービスを提供している会社です。
2019年、メディカル・データ・ビジョンは、メディカルドメインの全株式を取得し完全子会社化するM&Aを実施しています。メディカルドメインは、医療系システムの開発・販売会社です。本件M&Aにより、医療ビッグデータ構築による自社グループの成長が目指されています。
⑤双日
双日は、自動車事業・化学・金属・都市開発などさまざまな事業を手掛ける総合商社です。医療関連では機械・医療インフラ本部を設置しており、アジアや南米への医療インフラ事業などを行っています。
2014年、双日はキャピタルメディカと資本業務提携を締結するなど、病院・医療法人のM&Aを積極的に進めています。本件M&Aにより、海外向けに日本式の医療システムを提供して、海外病院事業の推進を図りました。
⑥エア・ウォーター
エア・ウォーターは国内産業用ガスの大手企業ですが、医療機器・病院設備工事などの医療関連事業も手掛けています。
2015年にエア・ウォーターは北陸地方の医療機器メーカー「エムシーサービス」と資本提供したほか、2016年には歯愛メディカルとの資本業務提携および川本産業への公開買付けを実施するなど、病院・医療法人関連のM&Aを積極的に推進しています。
⑦EP綜合
EP綜合は、治験施設支援機関(SMO)において治験業務などを手掛ける企業です。2013年、EP綜合は、同じく治験施設支援機関であるジェービーエスの全株式を取得し完全子会社化しています。
本件M&Aは、大学病院・総合病院など大規模病院への支援拡大および国際共同治験や難病の臨床試験などへのサポート充実化を目的に実施されました。
⑧大東建託
大東建託は、建設事業と不動産事業を中心に、太陽光発電や介護・保育事業なども手掛けている会社です。2015年、大東建託はソラストの株式を取得して資本業務提携を締結しています。
ソラストは、医療業務請負と介護サービスの会社です。本件M&Aに伴い、大東建託では不動産関連事業におけるシナジー効果を獲得し、新たなサービスを提供して企業価値の向上を目指しています。
⑨都築電気
都築電気は、情報システムの構築を提供するシステムインテグレーターです。通信回線サービス・情報機器・ソフトウェアといった幅広いサービスを提供しています。
2017年、都築電機は、病院や福祉関連事業をはじめセメント・コンクリート製造やソフトウェア開発なども手掛ける麻生グループと資本業務提携を締結しています。本件M&Aの目的は、両社の医療関連事業におけるノウハウを統合し、シナジー効果を獲得することです。
病院・医療法人のM&Aを行う際におすすめの相談先
病院・医療法人のM&Aを行うには幅広い知識と経験が求められるため、M&A仲介会社などの専門家への相談が必要不可欠です。専門家に相談すれば、M&A手続きがスムーズに進むだけでなく、医師としての本業への支障も最小限に抑えられます。
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まとめ
病院・医療法人のM&Aは、株式会社のM&Aとの違いや、出資持分あり・なしの違いなどを把握したうえで、最適なスキームを選択しながら手続きを進めていく必要があります。M&A仲介会社など専門家のサポートを受けつつ、慎重に手続きを進めていくことが成功につながる大きなポイントです。
【病院・医療法人のM&Aの7つのポイント】
- 病院・医療法人の持分ありと持分なしとは
- 持分ありの病院・医療法人のM&A
- 持分なしの病院・医療法人のM&A
- 病院・医療法人のM&Aで見られる手法
- 病院・医療法人のM&Aは開設主体によって手続きが異なる
- 病院・医療法人のM&Aによる人事
- 相談するM&A仲介会社
【病院・医療法人がM&Aを行う売り手側のメリット】
- 廃院を避けることができる
- 地域医療の空白を作らない
- スタッフの雇用先を確保する
- 設備投資・事業の拡大を円滑に進められる
【病院・医療法人がM&Aを行う買い手側のメリット】
- グループの拡大
- 新規エリアへの事業展開
- 人材を確保できる
- 地域参入障壁などの規制を避けられる
【病院・医療法人のM&Aに積極的な企業】
- T&Cメディカルサイエンス
- H.U.グループホールディングス
- オリックス
- メディカル・データ・ビジョン
- 双日
- エア・ウォーター
- EP綜合
- 大東建託
- 都築電気
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。