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2021年4月29日更新資金調達
有利子負債比率とは?業種別ランキングや適正目安・計算式を解説
財務状況の安全性を測る上で、有利子負債比率は役立つ指標です。中小企業であれば100%以下が有利子負債比率の適正目安と言われており、70〜80%であれば理想的です。有利子負債比率を活用し、M&Aや経営分析に役立てましょう。
目次
有利子負債比率
M&Aや投資・融資を成功させる為には、経営分析が必要です。経営分析ではROEやROAなどの指標が使われます。
有利子負債比率も経営分析に使われる指標の一つであり、企業の安全性が図れるのです。
この記事では、有利子負債比率に関して詳しく解説します。
有利子負債比率とは?有利子負債比率の意味
最初に、有利子負債比率の意味について解説します。
有利子負債とは、利息を含めて返済しなければならない負債と自己資本のバランスを指す経営指標です。
主な有利子負債には、銀行等からの借入金や社債が該当します。
多くの中小企業は社債を発行していないので、有利子負債は短期借入金と長期借入金の合計となるのです。
有利子負債比率は財務状況の安全性を表す指標です。そのため、有利子負債比率が低いほど投資するリスクが低いと言えます。
有利子負債は毎月(毎年)金融機関等に金銭を支払う為、その分だけキャッシュが流出します。
有利子負債が多いほど流出するキャッシュも多くなる為、資金繰りが悪化する可能性が高まり、資金繰りの悪化が進行すると、倒産するリスクも高まります。
今現在業績の良い企業でも有利子負債比率が高いケースでは急激に経営が悪化するリスクがあります。
有利子負債比率を計算するうえでの注意点
上述の通り、有利子負債比率は企業の安全性や返済できる見込みがあるかなどを示す指標です。
しかし、中小企業に関しては、有利子負債比率を計算する上で、注意点を把握しておく必要があります。
注意点というのは、「返済する義務のない負債は除く」というものです。
返済する義務の無い負債の例としては以下のようなケースが挙げられます。
- 債権放棄や塩漬けが容認されている役員や身内からの借入金などの負債
- 返済期限のない代表者や身内に対する未払金など
返済期限がない、また、返済義務のない負債を除いたうえで負債比率を計算することで、より正確に負債比率が算出されます。
また、銀行などの金融機関から融資を受ける場合は、返済義務や返済期限を除いて、有利子自己負債比率を計算したほうが、有利になります。
なので、有利子負債比率は、返済する義務のない負債は除いて計算しましょう。
有利子負債比率の計算式
有利子負債比率の意味が分かった所で、有利子負債比率を求める為の計算式をご紹介します。
有利子負債比率は、下記の計算式により算出できます。
- 有利子負債比率=有利子負債÷自己資本(株主資本)×100%
理解を深める為に、2つの計算例により理解を深めましょう。
- 例1)有利子負債:15億円、自己資本:30億円
- 例2)有利子負債:50億円、自己資本:200億円
それぞれの有利子負債比率は、下記の通り計算されます。
- 例1)有利子負債比率=15億円÷30億円×100%=50%
- 例2)有利子負債比率=50億円÷200億円×100%=25%
有利子負債の金額自体は例2の方が多いものの、有利子負債比率は例2の方が低い(安全性が高い)です。
有利子負債の金額だけでは安全性を測ることは困難であり、自己資本との比率により安全性を判断できる訳です。
財務状況の安全性を測る際は、有利子負債の金額ではなく、有利子負債比率を確認しましょう。
自己資本比率と有利子負債比率の違い
自己資本とは企業が株主等から借入れた原則、返済の義務がない資本のことを指します。
たとえば、返す必要のない株主からの出資金や資本準備金などのことで、返済義務のある銀行からの借金より自己資本が大きければ大きいほど経営が安定していると判断することができます。
この自己資本の大きさを判断するための財務上の指標が自己資本比率です。
自己資本比率は総資産にたいしての自己資本の割合を計測するものとなっていて、この数値の高さと企業の財務の安定性は比例します。
一方、有利子負債は、自己資本に対する有利子負債の大きさを測るための指標で、その数値は小さいほど経営が安定しているということになります。
つまり、自己資本比率が高く有利子負債比率の小さい企業は財務が安定しているといえます。
有利子負債比率の適正水準と目安
次に、有利子負債比率の適正目安をお伝えします。
低い方が良いとされる有利子負債比率ですが、具体的にはどの程度が適正目安なのでしょうか?
一般的な中小企業であれば、100%以下が適正目安と言われています。
100%を超えると自己資本よりも有利子負債の方が多い状態となり、資金繰り悪化や経営不振に陥るリスクが一気に高まります。
よほどの理由がない限り、有利子負債比率は100%以下を維持しましょう。
100%以下が適正目安と言っても、低いほど良いという訳ではありません。
全く負債が無ければリスクはない一方、事業を成功させる資金が不足する可能性が高まります。
事業の成長を図る為には、数百万円〜数千万円規模の投資が必要となる場合があります。
中小企業が自己資本のみで数百万円〜数千万円を確保する事は困難である為、銀行から大規模な資金調達を行う必要があります。
事業の維持・成長を目指す上でも、最低限の借入は必要でしょう。
有利子負債比率の平均
この項では、有利子負債比率の平均について解説します。
適正目安は100%以下ですが、有利子負債比率の平均はどの程度なのでしょうか?
2013年に「商工総合研究所」が調査した結果によると、中小企業の有利子負債比率は平均で190%程度でした。
このデータは、経営状態が著しく悪い企業も含んでいます。
優良な生存企業に限定すると、有利子負債比率の平均は顕著に低くなります。
生存企業の有利子負債比率平均は、約75〜80%程度と言われています。
つまり会社経営を維持し続ける為には、80%程度の有利子負債比率が理想であると言えます。
有利子負債比率とD/Eレシオの違い
有利子負債比率と似た指標に、「D/Eレシオ」が存在します。
この項では、有利子負債比率とD/Eレシオの違いについて解説します。
(1)有利子負債比率とD/Eレシオの違いとは
D/Eレシオとは、負債(Debt)が自己資本(Equity)の何倍に当たるかを表す倍率であり、「負債資本倍率」とも呼ばれています。
有利子負債を株主資本で割ることで算出でき、低倍率であれば財務能力が安定していると判断できます。
D/Eレシオは下記計算式により算出されます。
- D/Eレシオ(倍)=有利子負債÷自己資本
お気づきかと思いますが、式自体は有利子負債比率とほぼ同じです。
有利子負債比率とD/Eレシオの違いは、財務状態の安全性を「パーセンテージ」で表すか「倍率」で表すかにあります。
表し方こそ違うものの、表す意味自体は基本的には同じです。
(2)ネットD/Eレシオとは
D/Eレシオの発展的な指標に、「ネットD/Eレシオ」と呼ばれるものがあります。
ネットD/Eレシオとは、有利子負債から現預金を差し引いたものを用いたD/Eレシオであり、純有利子負債比率とも呼べる指標です。
下記の計算式により、ネットD/Eレシオは算出可能です。
- ネットD/Eレシオ=(有利子負債-現預金)÷自己資本
手元に現金がある場合、実質的な返済額は有利子負債から手元の現預金を差し引いた金額となります。
D/Eレシオが悪くてもネットD/Eレシオが良い場合には、経営上のリスクは小さいと判断できます。
ネットD/Eレシオが0倍であれば、手元の現預金の方が有利子負債よりも多いので実質的には無借金と言えます。
事業にレバレッジを効かせる目的で借入しているケースでは、ネットD/Eレシオが0倍となる場合もあります。
営業キャッシュフロー対有利子負債比率とは
有利子負債比率の発展的な経営指標に、「営業キャッシュフロー対有利子負債比率」と呼ばれるものがあります。
この指標は、営業活動で得られるキャッシュフロー(営業CF)によって、有利子負債をどの程度賄えるかを表す指標です。
支払能力を表す財務指標であり、比率が高いほど返済能力が高いと判断出来ます。
営業キャッシュフロー対有利子負債比率は、下記の計算式により導き出せます。
- 営業キャッシュフロー対有利子負債比率=(営業CF÷有利子負債×100%
例えば営業キャッシュフローが30億円、有利子負債が15億円の場合は、以下の様に営業キャッシュフロー対有利子負債比率が計算されます。
- 営業キャッシュフロー対有利子負債比率=(30億円÷5億円)×100%=200%
有利子負債の2倍もの営業キャッシュフローを得られる為、非常に返済能力が高いと言えます。
有利子負債比率が企業の安全性を表す一方で、こちらは企業の支払能力を表す指標であり、両者は全く異なる意味合いを持ちます。
名前こそ似ているものの、何を表すかは全く異なるのでご注意ください。
有利子負債比率の業種別ランキング
最後に、有利子負債比率の業種別ランキングをご紹介します。
今回は、「EDIUNET」が2014年に発表したデータを参考にします。
「EDIUNET」によると、有利子負債比率の業種別ランキングは下記になります。
- 旅館業(584.88%)
- 木材・木製品製造業(376.32%)
- 証券業(351.31%)
- 電気業(292.80%)
- 繊維工業(274.29%)
全企業を調査した訳では無いので現実との差異はあるものの、ランキング上位の業種は非常に有利子負債比率が高いです。
有利子負債比率が100%を切る業種も存在します。
鉄鋼業や通信業、卸売業等は、有利子負債比率が100%を切っており、比較的安全性の高い業種であると言えます。
有利子自己資本比率を改善する方法
有利子負債比率を改善するための方法として以下の3つが挙げられます
- 自己資本を増やす
- 借入金などの有利負債を減らす
- デット・エクイティ・スワップ(DES)
それぞれ見ていきましょう。
自己資本を増やす
まず、有利子負債比率をよくするための方法として「自己資本を増やす」というやり方が挙げられます。
そして、その自己資本を増やす方法は、以下の二つです。
- 出資する
- 今まで企業が出してきた利益の累積額(内部留保)を増やす
とはいえ、すぐに「出資ができる」とすれば、有利子負債比率をよくする必要はありません。
また、内部留保を厚くすることは、一筋縄ではいきません。
そのため、「自己資本を増やす」ことは、簡単にできることではありません。
ですので、有利子負債比率をよくするために「自己資本を増やす」というやり方は、理論上正しくても、現実的には難しいです。
借入金などの有利負債を減らす
有利負債比率を減らす2つ目のやり方として、「借入金などの有利負債を減らす」という方法があります。
例えば、「借入金などの有利負債を減らす」方策として以下のような手段を取ったとします。
- 受取手形がある場合、割り引いてできた資金を短期借入金の返済にまわす
- 株式などの投資有価証券など重要度が低い資産を売却した金で、短期借入金を返済する
上記二つの場合、売却した資産がマイナスになった時、分母の自己資本(内部留保)が減少します。
しかし一方で、分子の借入金は減少するので、有利子負債比率はよくなるというカラクリです。
さらに、売却損が出た場合は税金が削減できるので、資金の流出も少なくなり、資金繰りもよくなります。
要するに、有利子負債比率をよくする方法としては、「借入金などの有利負債を減らす」やり方が効果的だといえます。
デット・エクイティ・スワップ(DES)
最後にご紹介するのが、「デット・エクイティ・スワップ(DES)」という手法です。
デット・エクイティ・スワップ(DES)とは、多額の借入金などがある企業が、その債務を資本に交換するというやり方のことを指します。
D E Sを社長借入金などが大量にある企業が行うと、有利子負債比率の分母である自己資本が増えるので、有利子負債比率は良くなります。
しかし、そもそもDESは債務超過に陥った企業が事業を立て直すために行使するものです。
なので、債務超過に陥っていない企業が財務比率をよくするという理由だけで簡単に使うべきではありません。
また、DESという手段をとることで、貸借対照表の見栄えは良くなります。
しかし、必ず借入金を返して欲しい場合を除いて、社長借入金も資本金貸し手側の金融機関からすると、大差はありません。
だとすれば、返済の意思がないのであれば(あるいは実質的に返済が不可能な場合)、社長借入金を自己資本に加えた比率で判断してもらえるよう金融機関に依頼したほうが、手間がかかりません。
なお、決算書の見栄えをよくしたい場合や事業再生のためDESが必要な場合は、税務上の判断等対処が困難な場合があるので、顧問税理士との話し合いが必要になります。
まとめ
今回は、有利子負債比率に関して解説しました。
有利子負債比率は財務状況の安全性を表す指標であり、比率は低ければ安全性が高いと判断可能です。
中小企業であれば100%以下が有利子負債比率の適正目安と言われており、70〜80%であれば理想的です。
有利子負債から現預金を差し引いた値を用いる場合もあり、こちらは事実上の借金額を表しています。
有利子負債比率は非常に役立つ経営指標ですので、是非とも活用してください。
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