M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年8月20日更新会社・事業を売る
株式価値とは?株主価値、時価総額との違い、計算方法もわかりやすく解説
株式価値はM&Aでの会社売買の際、売買価額を決定づける基となるものです。本記事では、株式価値と企業価値・事業価値との意味の違い、株式価値の計算方法3体系(コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチ)を解説します。
株式価値とは
一般的に株式価値と言えば、株式市場で公開されている株価がイメージされます。しかしながら、M&Aで買収対象会社の株式価値を考える場合、株式市場での株価と株式価値は同額とはなりません。
一般株主となるための株価と、会社の経営権を得るための買収額の基となる株式価値では、意味合いが異なることがその理由です。また、M&Aで非上場会社を買収しようとする場合、そもそも非上場企業の株式は市場取引されておらず、公の株価というものがありません。
したがって、M&Aでの買収対象会社が上場企業であれ非上場企業であれ、M&Aの場面では独特のコンセプトに基づいた計算方法を用いて、買収対象会社の株式価値を算定し買収額を導き出すことが行われています。
株式価値と企業価値、事業価値の違い
株式価値と類似する用語として、企業価値と事業価値というワードを耳にしたことがある方もいるでしょう。どれも密接な関りがあるものですが、それぞれの意味は少しずつ違います。混同して会話をしてしまうと、とんだ誤解を生むかもしれませんので、ここで整理しておきましょう。
まず、最も大きな価値を示すのが企業価値です。文字どおり会社の全ての総合的な価値になります。しかし、このままでは少し抽象的なので、具体的に言い換えてみましょう。企業価値とは貸借対照表に記されている資産の総額全てを足し込んだものが該当すると考えてください。
同一の表現で株式価値を言い表すなら、企業価値から有利子負債分を差し引いたものが株式価値と言えます。一方、企業価値の大半の部分を占めているのが事業価値です。この場合、企業価値に含まれている、事業とは関係性のない休眠資産などを差し引くと事業価値になります。
企業価値とEVの違い
EVとは、Enterprise Valueの略称です。Enterpriseは、「企業」と「事業」どちらの意味にも用いられます。ただし、企業価値の英訳はCorporate valueです。一方、事業価値の英訳がEnterprise Valueになります。企業価値をEnterprise Valueとは言わないので注意しましょう。
株式価値と株価
株式価値と株価の相関関係について、もう少し具体的に見てみましょう。上場企業の株価は株式市場で公開されていますから、投資家の取引によって変動していくものです。それに対し、株式価値は主にM&Aでの会社売買において、その買収額を決定づけるものです。
株式価値を導き出すにあたっては、その会社の貸借対照表上にある数値を何らかのベースとして行われる方法が確立されています。会社の規模や業種などだけで画一的に決められる数字ではなく、各企業によって千差万別の結果となるのが常です。
したがって、情報公開されている上場企業同士のM&Aを見ても、その買収額が株式市場の株価の総額とは異なるケースは多くあります。単純に株価だけで判断するのではなく、その会社を多角的に分析し見い出された価値も加味することで、初めて株式価値は計算されるのです。
しかし、株式市場での株価は、株式価値算出にあたって一定の参考値とはなります。そのため、参考値の存在しない非上場企業の株式価値を算定するにあたっては、特有の苦労があります。非公開株式は、株価が一切計算されていないため、その価値が曖昧になっているからです。
その曖昧さが、非公開株式の価値をめぐって売り手側と買い手側の思惑の違いを表面化させ買収価額をめぐってトラブルとなる可能性もあります。中小企業がM&Aを実施する際には、非公開株式に特有の曖昧さを踏まえたうえで、株式価値を評価しなければなりません。
また、株式価値を算出する方法は多種あります。その会社に合った株式価値の計算方法の選択が必要です。さらに、事前協議を綿密に実施し、お互いの合意も大事になります。重要なのは、買い手のニーズと合致した条件の売り手であることは言うまでもありません。
株式価値と株主価値
株式価値に類似する用語として、「株主価値」という言葉もあります。株主価値とは、株主に帰属する価値という意味合いです。実際の算定にあたっては、企業価値から負債を差し引いて計算します。つまり、実質的に株式価値とほとんど同じ意味です。
ただし、英訳すると、株式価値はEquity Value、株主価値はShareholder Valueとなります。
株式価値の計算方法
M&Aの場面で用いられる株式価値の計算方法には、いくつもの種類が確立されています。それらは3つの体系に分類され、それぞれの呼称は以下のとおりです。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
コストアプローチ
株式価値の算出方法としては、とてもベーシックな手法であるのがコストアプローチです。ストックアプローチ、ネットアセットアプローチとも呼ばれるコストアプローチには、いくつかに分類される計算方法が存在します。
そのコンセプトは、貸借対照表にある純資産をベースとする株式価値の計算方法です。計算方法がシンプルでわかりやすいというのが特徴ですが、コストアプローチでは賃借対照表、つまり帳簿上の純資産を絶対視するため、それ以外の要素は切り捨てます。
将来的なキャッシュフローや収益力など、買収対象会社の将来性やポテンシャルへの評価が加味されません。そのため現状では、コストアプローチは、廃業する際の清算時に用いられるケースがほとんどとなっています。
清算する会社であれば将来性を考慮する必要がないのが、その理由です。株式価値を算出するコストアプローチの代表的な計算方法は以下の4つがあります。
- 簿価純資産法
- 再調達原価法
- 清算価値法
- 修正純資産法
①簿価純資産法
簿価純資産法は、1株あたりの株式価値の算出を以下の計算式を用いて導き出します。
- 貸借対照表の純資産額÷発行済み株式総数
純資産額は簿価のまま以下の計算で求めます。
- 資産総額-負債総額
②再調達原価法
会社が所有する個別の資産や負債を、あらためて取得し直すと仮定し、その場合に必要となる費用から株式価値を導き出す計算方法が再調達原価法です。M&Aにおける会社買収というよりは、主として不動産の鑑定に用いられるコストアプローチになります。
③清算価値法
清算価値法は、その名前のとおり、会社を清算する場面を想定し、その会社の持つ全ての資産を処分した場合に得られる金額を計算する手法です。通常、最も低い株式価値が導き出される算出手段になります。
④修正純資産法
修正純資産法は、主要な資産と負債は時価に換算して純資産額を算定し、株式価値を計算するコストアプローチです。全ての資産と負債を時価に換算してから純資産額を求める場合は、時価純資産法となります。
インカムアプローチ
現在、M&Aでの株式価値算定において、最も主流である方法がインカムアプローチです。インカムアプローチとは、貸借対照表だけでなく、キャッシュフローなどの将来的な収益も加味して株式価値を計算します。特に一番用いられているのがDCF法と呼ばれる手法です。
DCF法とは、Discounted Cash Flow法の略であり、将来的に企業が生み出すフリーキャッシュフローに着目して株式価値を計算します。具体的には、中期程度の事業計画を策定し、その収益予測を基としてフリーキャッシュフローを求めるものです。
さらに将来的に発生し得るリスクを割り引くことで、株式価値を導き出します。DCF法に限らずインカムアプローチでは、貸借対照表には表れない、その会社のポテンシャルや将来性を加味して株式価値を決めるのが最大の特徴です。
そのようなインカムアプローチですが、残念ながらデメリットも存在します。インカムアプローチで定める株式価値の根拠となるのは事業計画書です。事業計画とは現時点から将来を予測したものであり、そこには策定者の主観が加わります。
予測は予測に過ぎず、断言はできません。そのため、インカムアプローチでは、できるだけ緻密で客観的な事業計画書が求められます。このようにインカムアプローチは、特徴自体を裏返すとデメリットになってしまう点があり、重宝でありつつも注意が必要な株式価値の算出方法です。
インカムアプローチによる株式価値の算定を行いたいとお考えであれば、経験豊富なM&Aの専門家にサポートを依頼することをおすすめします。どのM&A専門家にするかお悩みの場合には、M&A総合研究所にご相談ください。
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マーケットアプローチ
インカムアプローチに続いてM&Aで多く活用されている株式価値の計算方法が、マーケットアプローチです。実際の市場で成立している株式価値を参照します。マーケットアプローチとは、類似する実在企業や実際に成立したM&Aを参照して、株式価値を決定していくのです。
他のアプローチと比べ、現実感があり説得力のある株式価値を見い出せると言っていいでしょう。ただし、マーケットアプローチを実施する際に必要となる、類似する企業やM&Aの取引を見つけることが、実は困難です。
探す対象としては上場企業に限られます。しかし、こちらのM&Aが中小企業のものであれば、会社の規模が根本的に違うため、参照できる相手が見つからない場合も多々あるのです。その場合は、マーケットアプローチ実施は断念せざるを得ません。
そのため、非上場の中小企業同士のM&Aでは、マーケットアプローチはほとんど活用されないのが現実です。また、運良く参照できる会社が見つかったとしても、株式価値に会社の将来性が加味されてはいない点も注意しておく必要があります。代表的なマーケットアプローチは以下の3つです。
- 類似会社比較法
- 類似業種比較法
- 類似取引比較法
①類似会社比較法
類似会社比較法とは、上場企業の中から類似する経営規模の会社を探し出し、その会社の各種経営データを参照して、M&Aの買収対象会社の株式価値を導き出す方法です。M&Aの買収対象会社が非上場の場合、同規模の上場企業があるかどうかは、甚だ低い確率と言えるでしょう。
②類似業種比較法
類似業種比較法は、国税庁が公開している、上場企業の業種ごとの平均経営数値を参照して、M&Aの買収対象会社の株式価値を算出する方法です。M&Aの買収対象会社と類似する業種のデータとはいえ、複数の企業の平均値であり、M&Aで用いるには有効ではありません。
③類似取引比較法
類似取引比較法は、公表されている類似したM&Aの事例を参考比較することにより、M&Aの買収対象会社の株式価値を計算するマーケットアプローチです。類似するM&Aを見つけ出せれば、非常に参考性が高く有効な株式価値算出につながります。
類似会社比較法と同様に、類似するM&A取引を見つけることは困難と言わざるを得ませんが、上場企業が非上場企業をM&Aすることはよく行われていることなので、類似会社比較法よりは、参考事例が見つけやすいかもしれません。
株式価値のまとめ
株式価値は、その企業の価値を多角的に分析して算出するのが理想的です。しかし、各計算方法の説明で述べたとおり、それぞれメリット・デメリットがあります。そこで、現在のM&Aで株式価値を算定する場合、複数の計算方法を組み合わせるのが一般的です。
1つの計算方法に限定することなく、複合的・総合的に買収対象会社の株式価値を算出します。各アプローチの計算そのものは専門家に任せてよい部分ですが、各アプローチ・計算方法のコンセプトについては頭に入れておくようにしたいものです。本記事の要点は以下のようになります。
・株式価値とは
→M&Aの際に買収対象会社を多角的に分析して見い出す価値
・株式価値と企業価値、事業価値の関係性
→企業価値=有利子負債+株式価値
→事業価値+事業外資産(休眠資産など)=企業価値
・コストアプローチ
→貸借対照表から株式価値を算出するが、清算する会社向けとされ通常のM&Aではほとんど用いられない
・インカムアプローチ
→M&Aで株式価値を計算する際に最も用いられる方法であり、将来の予想収益を価値に組み込むのが特徴
・マーケットアプローチ
→既存の上場企業の株式価値や取引を参照する方法だが、中小企業同士のM&Aではあまり利用されない
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。