M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年3月4日更新会社・事業を売る
株式取得とは?意味や買収との違い・手続き・相談先などをわかりやすく解説
株式所得は売り手企業の株式を取得してM&Aを実施しますが、新株引受や株式交換、株式譲渡などその方法も多岐に渡ります。そのため、何をどのようにすればいいのか理解できていない方もいるでしょう。本記事では、株式所得とはどのようなものなのか、意味や使われる理由、メリットやデメリットなどをまとめて紹介します。
目次
株式取得とは?定義・意味
株式取得とは、売り手企業の株式を取得し、買収を実施するM&A手法です。シンプルで代表的な方法だといえます。会社名をはじめ、資産や債務権利、契約関係など会社のすべてを引き継ぎ、株主が変わる以外に大きな変化は生じません。
個別に結んだ契約内容も承継可能で、時間やコストをおさえられるので、さまざまな場面で役立っています。しかし、企業を丸ごと引き継ぐため、買収した後に簿外債務などが見つかるケースも多いです。
その場合、時間とコストを削減し買収を行っても、かえって高い費用がかかってしまいかねません。健全な財務状況を維持する売り手企業を選ばなければ、株式取得に失敗しやすいです。株式取得を活用する際は、デューデリジェンスと呼ばれるリスク調査を実施する必要があります。
買収との違い
企業買収とは、他の会社の経営権を手に入れることです。よく株式取得と混同されることがありますが、株式取得はその手段の一つです。株式取得は、他の会社の株を買うことで、その会社をコントロールする権利を得る行為です。要するに、企業買収が目標なら、株式取得はその目標に到達する方法の一つです。企業の買収には株式を買収する以外にも、その会社の運営する事業を直接購入する方法もあります。
株式取得の方法と種類
この章では、株式取得の方法と種類を解説します。
発行済の株式取得の方法
買収対象である企業がすでに発行している株式を取得するケースでは、主に下記の方法が取られます。
- 株式譲渡
- 市場内買付
- 株式公開買付
- 株式交換・株式移転
- 第三者割当増資
- 相対取引
①株式譲渡
すでに発行されている株式を譲渡し、会社の経営権を掌握する株式取得の手法です。売り手企業の株式を大部分買い占めた状態で会社自体を承継し、一般的に売り手企業の株式を50%保有すれば買収や子会社化が実現します。
2/3以上の株式を保有すると、株主総会での特別会議を独自に実行でき、経営の実権をさらに掌握できます。仕組みや手続きがシンプルなので、株式取得の中で頻繁に使用される方法です。対価として現金が手に入るので、定年を悠々自適に過ごせるハッピーリタイヤが可能です。株式譲渡は、後継者問題を解決できる手法としても注目を集めています。
②市場内買付
売却・譲渡側企業が上場企業の場合に利用できる株式譲渡方法が、市場内買付です。上場企業が発行する株式は公開取引市場で売買できるので、買収したい企業が発行する株式を公開取引市場で買い集め、対象会社の経営権を引き継げます。
この際に売買できる株式は、一定の流通量があるので、短い期間で必要とする株式を集めやすいです。ただし、株式を短い期間で大量に買うと、株価が上がることもあります。
③株式公開買付
株式公開買付(TOB)では、買収側が買い付ける株式数・価格・期間などを公告や個別通知で株主に周知し、それに賛同した株主が保有する株式を売却すると、対象企業の買収を実現できる仕組みです。
株式公開買付では、買い付け価格を割高に設定するため、必要とする株式数が集めやすいです。
④株式交換・株式移転
株式交換では、売り手の発行済み株式の一部やすべてを買い手に買収させます。その結果、売り手は買い手の子会社となり、完全親子会社関係が成立します。
株式交換は、経営悪化や新たな事業参入を目的に、会社を立て直す際に活用できる株式取得の手法です。
⑤第三者割当増資
第三者割当増資とは、 企業が新たに株式を発行し、株主以外の第三者に対して株式を割り当てることをいいます。
株主以外の第三者に対して新たな出資者を迎え、資金調達を行うことができます。
【第三者割当増資の流れ】
- 企業が新たに株式を発行することを決定します。
- 企業が、株式を割り当てる対象となる第三者を募集します。
- 第三者から応募があった場合、企業と第三者が契約を締結します。
- 契約に基づき、第三者は株式の申し込みを行い、出資金額を支払います。
- 企業は、出資金額に応じた株式を第三者に割り当てます。
- 第三者は、株式を取得することで、企業の株主となります。
⑥相対取引
相対取引とは、株式市場に出回っている既存の株式を、売り手と買い手が直接取引する方法です。
証券会社や取引所を通さず、相手と直接やりとりをすることができます。
【相対取引の流れ】
- 株式を売りたい人と株式を買いたい人が出会います。
- 売り手と買い手が、株式の売買条件を合意します。
- 合意した条件に基づいて、売り手が株式を譲渡し、買い手が金銭を支払います。
- 取引が完了したら、売り手は株式を引き渡し、買い手が株式の所有者となります。
相対取引は、手数料が発生しないため、他の取引方法に比べて取引コストが低くなるというメリットがあります。ただし、相手との直接取引によって、情報の非対称性が生じることがあるため、投資判断を誤るリスクがあることにも注意が必要です。
新規発行の株式取得方法
次に、新規発行の株式取得方法を解説します。
- 新株引受
- 新株予約権の行使
- 第三者割当増資
①新株引受
発行済み株式を譲渡する株式譲渡に対して、新規に発行する株式を買い占める方法が新株引受です。売り手が新たに株式を発行し、買い手がそれを買い占めます。これにより、株式の大半を所有し、会社の所有権を握れる仕組みです。
株式取得の対価は、現金ではなく株式払込金になります。基本的に資本の強化や財務状況の見直しなどを目的に実施するため、株式譲渡とは異なり、ハッピーリタイヤには不向きです。また、売り手の規模が大きい企業や株主が分散している企業に対して、株式譲渡で買い占めた株式のみでは保有率が足りないときなどにも新株引受が活用されます。
②新株予約権の行使
前もって定められた将来のある時点に前もって定められた価格で新しく発行する株式を引き受ける権利を、新株予約権といいます。新株予約権を行使すれば、新規発行株式を取得することが可能です。
③第三者割当増資
第三者割当増資は、増資のために実施されるケースが多いです。株式取得による買収を行うときに用いることもあります。
第三者割当増資は、株式が非公開の中小企業などで活用される方法です。新規に発行した株式を特定の第三者に買い取ってもらうことで、株式取得が実現します。株式購入で経営権を得るので市場内買付と類似していますが、新株の割り当てを行うために市場内買付とは異なった株式取得方法です。
株式取得と買収、事業譲渡の相違点
この章では、株式取得と買収、事業譲渡の相違点を解説します。
株式取得と買収の相違点
まず、株式取得と買収の違いから紹介します。買収は、その名のとおり買収を行うためのM&A手法であり、狭義のM&Aです。狭義のM&Aには、合併や分割もあります。一方、株式取得は、狭義のM&Aである買収を行うためのM&A手法です。いい換えると、M&Aによる買収を行うために株式取得を行います。
株式取得と事業譲渡の相違点
株式取得は経営のすべてを譲渡しますが、事業譲渡は一部の事業を譲渡する手法です。株式取得では消費税がかかりませんが、事業譲渡ではかかります。
株式取得で譲渡する対象は株式ですが、事業譲渡では事業です。株式取得は株式譲渡契約・株式交換契約の手続きであるのに対して、事業譲渡は事業譲渡契約である点も特徴です。状況に応じて最適な手法を検討しましょう。
株式取得における株主提案権の重要性
株主提案権とは、株主が一定の事項を株主総会の目的とすることを請求する権利、議題につき株主が提出しようとする議案の要領を招集通知に記載または記録することを請求する権利、および株主総会で議案を提出できる権利を総称したものです。経営に参加する権利である共益権の1つにも該当します。
企業が他の企業の株式を取得しようとする目的の1つに、この株主提案権の獲得が挙げられます。株主提案権の行使を受けた会社では、その適法性をチェックし、適法であれば株主総会で取り上げなければなりません。
具体的には、公開会社では、提案株主の資格・提案の方法・提案の内容・提案の数・泡沫提案制限の各項目の確認が求められます。
株式取得のメリット・デメリット
株式取得には魅力的なメリットがある一方、見落としてはならないデメリットもあります。株式取得を効果的に実施できるよう、長所と短所を事前に確認しましょう。ここからは、株式取得のメリットとデメリットを紹介します。
①株式取得のメリット
まずは、株式取得のメリットです。
- 他のM&A手法よりも手続きが簡単で、後継者不足の問題をスムーズに解決できる。
- 株式譲渡は売却の対価が現金なので、高齢や体調不良で会社を承継した際に老後の資金を得られる。
- 買い手は個別の契約を結び直す必要がなく、簡単に会社の経営権を握れる。
- 株式を買い占める割合によって、経営権掌握の度合いを調整できる。双方の持株比率によって、柔軟な資本設計が可能。
- 会社の立て直し・再編・事業拡大を図れる。売却や傘下参入によって、資金面に余裕が生まれる。
- 買い手は、取引先のネットワーク、サービス、商品の振り幅などが増え、事業拡大につながる。
株式取得でも、市場内買付や株式公開買付など株式譲渡の手続きでは複雑な手続きが求められません。比較的短期間で手続きを済ませることが可能です。また、届け出などに制約がなく、原則として許認可は承継されるので、会社の株主に変更があっても登記申請を行う必要がありません。
そのほか、株式譲渡は、さまざまな経営計画に用いることができます。具体例を、以下に挙げました。
- 第三者割当増資による新規事業・事業拡大の資金獲得
- 株式移転による経営統合を通じた事業の効率化・競争力の強化
- 業種の近い企業の買収による従業員数の確保
- 買収され大企業の子会社になることによる経営の安定化
②株式取得のデメリット
次に、株式取得のデメリットを解説します。
- 会社全体を引き継ぐので、特定事業の所有権のみを保有できない。事業の一部を保有したい場合は、事業譲渡と呼ばれる手法を使うが、取引ごとに契約を結び直す必要がある。
- 会社自体が全て買い手企業に譲渡されるので、その後における経営方針に現在のオーナーが納得できないケースも生じる。社風も変わる可能性があり、従業員が窮屈な思いをしかねない。
- 中小企業は株主の多くが身内であるものの、株主が分散しているケースもある。その際は株式を集約する手間がかかる。
- 売り手は譲渡する際に債権も承継されるため、簿外債務によって買い手が損失を被るリスクがある。そのため、買収する前には徹底的な事前調査が必要。
多くの株主を持つ企業を買収しようとすると、株主一人ひとりが異なる考えを持っているため、交渉が難しくなることがあります。このような場合、交渉が長引くと多くの時間と費用が必要になり、それでも結局、合意に至らず交渉が失敗に終わるリスクもあります。
資金面にもデメリットがあります。買収したい企業の株価が高ければ、株式取得するために、多額の資金が必要です。そのため、株式取得による買収のタイミングを考慮しなければなりません。特定の事業や資産だけを取得したい場合は、株式取得ではなく事業譲渡の実施を検討しましょう。
株式取得を行う目的と株式比率
この章では、株式取得を行う目的と株式比率を解説します。
自社株を投資家にアピール
自社株を投資家にアピールするために、自社株を株式取得する株式会社もあります。これは、自社の株価が本来の価値より過小評価されているケースや、株式が大量発行されて流通株式数が増えすぎているケースに多いです。
自社株の株式取得で、市場に流通している自社株の流通量を減らしたり、1株当たりの価値を上げたりすることが可能です。自社株の株式取得を広域にアナウンスすれば、投資家に自社をアピールできます。
買収防衛策
自社の株価が安い場合、自社を買収したい他社から敵対的買収を仕掛けられることがあるため、それを防ぐために自己株式を株式取得するケースも見られます。
自己株式を株式取得し、自社の持ち株保有率を高めると、必要な株式数を奪われることを防止可能です。自社株を多く買うと株価が上がり、敵対的買収に必要な資金が増えるので、相手企業が株式公開買付を断念する可能性が高まります。
ストックオプションの付与
取締役・従業員へストックオプション(事前に定められた価格で株式を取得できる権利)を付与するために、自社株を株式取得するケースがあります。ただし、このケースで株式取得するには多額の費用が必要です。
一方、会社が取締役・従業員などにストックオプションを付与すると、取締役・従業員の仕事に対するインセンティブが高まります。
他社の子会社化
他社発行の株式を株式取得すると、その会社を子会社化することが可能です。他社発行の株式を株式取得する際は、子会社化を目的とするケースが少なくありません。
株主提案権の獲得
前述のとおり、株主提案権の獲得も、株式取得の目的の1つです。株式取得の際、経営陣が意識すべき要素が株式比率で、株式比率は持株比率とも呼ばれ、株主が所有する株式比率のことをさします。株主は株式比率によって得られる権利が異なり、株式比率と株主の権利は以下のように推移します。
- 株式の1%以上:株主総会における議案提出権を獲得
- 株式の3%以上:株主総会の招集・帳簿の閲覧が可能
- 株式の1/3以上:特別決議の拒否が可能
- 株式の1/2超:株主総会の普通決議が可能。特別決議はとおせないが、この段階から会社内で一番の権力を持つ
- 株式の2/3以上:株主総会の特別決議が可能。会社内の重要な事柄を決定できる。会社のオーナーであれば、株式比率の維持が重要
- 株式の100%:会社を完全に支配している状態
株式比率によって株主が得られる権利は大きく変わり、経営者は株式比率を意識しながら株数をコントロールしなければなりません。
株式取得の注意点
株式取得では、主に株式比率に関して注意すべき点があります。株式取得によって損失を被らないよう、2つのポイントを把握しておきましょう。
①意思決定のスピードが遅くなる
株式比率は株主の権利と直結し、株式数を多く保有する株主が大きな権力を持ちます。株式数が発行済み株式全体の1/3以上を持つ株主は、経営に対して一定以上の影響力を及ぼす仕組みです。
株式会社である以上、株主の権利や利益を保護することは義務であり、経営に影響力を持つ株主にとって重荷になるリスクがあります。例えば、経営陣が迅速に進めたい経営改革があっても、株主が議案に反対すれば実行できません。
対立した株主は、会社における意思決定のスピードを低下させます。そのため、上場会社ではMBOによって非上場会社となり、短期的な利益を求める株主を切り捨てるケースも少なくありません。
②後継者の支配権が弱まる
非上場会社の多い中小企業でも、株式比率に注意しましょう。株式比率は、事業承継の際にとりわけ大きく影響します。経営者は後継者に経営権を獲得できるだけの株主を承継させますが、他の株主に株式が分散すると後継者の支配権が弱まるのが基本です。
そのため、非上場会社の中小企業は、後継者に可能な限り株式の100%を承継させ、難しい場合は最低でも2/3以上を引き継ぎましょう。これを実現するには、後継者に株式を承継できるよう、さまざまな手段を活用する必要があります。事業承継の手段に相続がありますが、遺留分減殺請求などで親族に分散されるおそれがあるため、贈与や譲渡といった手段を組み合わせると良いでしょう。
株式取得と友好的買収、敵対的買収の関係性
株式取得は、買い手が売り手の株式を買い占める手法です。株式の買い占めるためには、複数の方法があります。双方の会社が合意して株式を譲渡する友好的買収と、売り手側役員の同意なしに買収をしかける敵対的買収の2種類です。
日本企業で実施されている株式取得は、友好的買収がほとんどです。しかし、ごくまれに敵対的買収をされる事例があります。対策として、自社株を自社で保有する自社株取得が活用されている状況です。
自社の持株保有率を高めれば、経営権を獲得するために必要な株式数を他の企業に奪われずに済むためです。自社株を買収するほど株価を上昇させやすく、買収に必要な資金の引き上げによって株式公開買付のハードルも高められます。
株式取得の仕訳と会計処理
この章では、株式取得の仕訳と会計処理を解説します。
①買い手の仕訳と会計処理
買い手の場合、株式を取得した数量によって仕訳と会計処理は変わります。支配権を獲得できるまで株式取得した場合、株式取得は子会社株式の勘定科目に計上します。1/3超の株式を取得した場合は関連会社株式、売り手の意思決定に影響を及ぼさない株式数を取得した場合は投資有価証券の勘定科目に計上する決まりです。
②売り手の仕訳と会計処理
売り手の場合、支配権や影響力の度合いに応じて計上した勘定科目から株式の取得原価を控除し、株式における売却対価との差額を売買損益に計上します。
第三者割当増資の仕訳と会計処理
第三者割当増資の仕訳と会計処理について、説明します。
書い手側
第三者割当増資において、買い手は出資金額に応じた株式を取得します。その際の仕訳方法は、以下のようになります。
【1. 出資金額を支払った場合】
例えば、買い手が10万円で10株の株式を取得した場合、以下のように仕訳を行います。
- 「株式投資」の勘定科目に、取得した株式の金額(10万円)を借方で記帳します。
- 「現金」の勘定科目に、出資金額の金額(10万円)を貸方で記帳します。
【2. 株式を仮受けした場合】
株式を仮受けした場合は、出資金額をまだ支払っていない状態です。その場合の仕訳方法は、以下のようになります。
- 「仮受金」の勘定科目に、株式の仮受金の金額を借方で記帳します。
- 「株式投資」の勘定科目に、株式の金額を貸方で記帳します。
以上が、第三者割当増資における買い手側の仕訳方法です。買い手が実際に出資金額を支払った場合には、株式投資の勘定科目に借方で記帳し、現金の勘定科目に貸方で記帳します。
株式を仮受けした場合には、仮受金の勘定科目に借方で記帳し、株式投資の勘定科目に貸方で記帳します。
売り手側
第三者割当増資において、新株の発行会社は、出資金額に応じた資金を調達するために株式を発行します。その際の仕訳方法は、以下のようになります。
【1. 株式を発行した場合】
例えば、株式を1株1万円で1,000株発行した場合、以下のように仕訳を行います。
- 「現金」の勘定科目に、出資金額の金額(1,000万円)を借方で記帳します。
- 「新株発行」の勘定科目に、発行した株式の金額(1,000万円)を貸方で記帳します。
【2. 株式を仮受けした場合】
株式を仮受けした場合は、出資金額をまだ受領していない状態です。その場合の仕訳方法は、以下のようになります。
- 「仮受金」の勘定科目に、株式の仮受金の金額を借方で記帳します。
- 「新株発行」の勘定科目に、発行した株式の金額を貸方で記帳します。
以上が、第三者割当増資における売り手側(新株の発行会社)の仕訳方法です。
株式を発行した場合には、現金の勘定科目に借方で記帳し、新株発行の勘定科目に貸方で記帳します。株式を仮受けした場合には、仮受金の勘定科目に借方で記帳し、新株発行の勘定科目に貸方で記帳します。
株式交換・移転の仕訳と会計処理
株式交換・移転については、会計基準に基づき、その実態に応じた複雑な会計処理が定められています。
専門的な観点から、個別財務諸表における会計処理の概要について紹介します。
株式交換
親会社の会計処理では、受け取った子会社株式を資産として計上し、資本金(及び資本準備金)を増加させます。受け取った子会社株式の金額は、会計基準に基づいて区分(「取得」「共通支配下の取引」など)によって決定されます。
子会社の株主の会計処理は、「投資が清算された」か「投資が継続している」かによって異なるという認識が必要です。「投資が清算された」場合、受け取った対価を時価評価し、子会社株式の帳簿価額との差額を損益として認識します。
一方、「投資が継続している」場合は、子会社株式の帳簿価額をそのまま引き継ぐため、交換損益は認識されません。
株式移転
親会社は、受け取った子会社株式を資産として計上し、資本金(及び資本準備金)を増加させます。これらの株式の金額は、取得企業か非取得企業かによって定められています。
子会社の株主の会計処理では、「投資が清算された」場合には損益を認識し、「投資が継続」する場合には損益は認識されません。なお、株式交換・移転は株主間での株式の移動であるため、会社本体での会計処理は不要です。
株式取得を買収先が望む理由
M&A手法は多数存在し、いずれもデメリットを兼ね備えています。近年は求人倍率が高く人手不足が深刻化しているため、買収時に再度雇用契約を結び直すと、その機会に従業員が転職して人材が減る可能性があります。そのようなリスクを回避するために、個別契約を再度結ぶ必要がない株式取得を選択するケースも珍しくありません。
株式取得の流れ
株式取得の流れは、上場会社と非上場会社で異なります。それぞれの違いを把握すれば、株式取得の内容に関してさらなる理解を深められるでしょう。
①上場会社の株式取得
上場会社の場合、株式が市場に公開されているので、株式取得の際は一般的な投資家のように好きな銘柄を好きなだけ購入します。ただし、M&Aでは、会社同士の合意にもとづいてTOB(株式公開買い付け)を実行するケースがほとんどです。
TOBは市場外で行われる株式取得のことで、会社同士が株式の価格や取得株数を決めたうえで実行されます。実施される主なケースは、必要な株式取得に手間がかかる場合や、発行されている株式の1/3以上を取得する場合などです。
敵対的買収ではTOBと市場での株式取得を組み合わせることが多いですが、市場での株式取得だけで買収するケースもあります。
②非上場会社の株式取得
非上場会社の場合、株式が市場に公開されていないため、株式取得に手間がかかります。基本的に非上場会社は株式の売買に対応していないので、取得自体が不可能なケースも珍しくありません。株式の取得が可能でも、非上場会社の株式が譲渡制限株式であるケースが多く、取得には株式を発行する会社の株主総会で承認を得る必要があります。
③第三者割当増資の流れ
第三者割当増資の手続きは会社法で細かく規定されており、これに基づいて適切な手順で進めなければなりません。非上場会社では「既存株主に対する募集事項の通知または公告」は不要であり、手続き面で違いがある点に留意しておきましょう。
- 新株主募集の条件決定
- 既存株主に対する募集事項の通知または公告、株式の申込
- 株式の割当に関する決議
- 新株主による出資の履行
- 登記申請
④株式交換・移転の流れ
株式取得には大きく分けて「株式交換」と「株式移転」の2つの方法があります。
【株式交換の流れ】
- 自分が所有する株式と交換する相手の株式を決めます。
- 交換条件を決め、合意書を交わします。
- 合意書に従って、自分が保有する株式と相手が保有する株式を交換します。
【株式移転の流れ】
- 株式の売り手と買い手が出会います。
- 売り手が株式の移転登記をするための譲渡証券を作成します。
- 売り手と買い手が、株式の譲渡条件を合意し、譲渡証券と引き換えに金銭を支払います。
- 譲渡証券と支払いが完了したら、売り手は株式の移転登記を行い、買い手が株式の所有者となります。
以上が、株式交換と株式移転の流れです。株式取得には、このように手続きが必要ですが、証券会社や投資信託などの専門機関に相談することで、スムーズに取引することができます。
自社株を取得する際の手続き
株式取得は他の会社を買収するケース以外に、自社株を取得する際にも用いられます。自社株を取得する際の手続きは、特定の株主から取得する場合と、株主を特定しないで取得する場合の2種類です。
①特定の株主から取得する手続き
自社発行の株式を特定の株主から取得する手続きは、主に下記になります。
- 株主総会で決議する5日前までに、全ての株主に売主追加請求の行使について知らせる。
- 株主総会の特別決議で取得する自社株の種類・株式数や株式取得が認められる期間などについて定める。
- 株主総会の特別決議の結果をもとに取締役会の決議で取得する自社株の種類・株式数や取得する際における対価の総額について決定する。
- 取締役会における決定事項を株主に通知する。
- 自分が保有する株式の譲渡を希望する株主は、株式の種類と数を決めて申し込む。申し込まれた会社が意思表示をしなければ承諾されたことになる。
株主総会の特別決議では、主に以下の事項を定めなければなりません。
- 取得する自己株式の種類や株式数
- 自己株式取得の対価として株主へ交付する金銭の内容や金額
- 株式取得が認められる期間
- 会社法第158条に基づく通知を特定の株主へ行う旨
株主総会の特別決議で特定の株主から自己株式を取得することが決まると、以下の事項を取締役会の決議で決めます。
- 取得する自己株式の種類や株式数
- 自己株式を1株取得するのと引き換えに支払う対価の内容や金額、計算方法
- 自己株式を取得する際の対価総額
- 株式の譲渡申込日期日
決まった内容を株主に通知・公告することで、株主は保有する株式の譲渡を申し込むことが可能です。
②株主を特定しないで取得する手続き
次に、株主を特定しないで取得する手続きを解説します。
- 株主総会の普通決議によって、取得する自己株式数や株式を取得できる期間などを定める。
- 株主総会の普通決議にしたがって、取得する自己株式数や取得の引き換えに交付される総額などを決定し、株主に対して自
- 株式取得における決定事項を通知する。
- 自分が保有する株式の譲渡を希望する株主は、株式数を決めて申し込む。
株主総会の普通決議にもとづいて取締役会で下記の事項を決め、全株主へ自己株式取得における決定事項を通知・公告しなければなりません。
- 取得する自己株式数
- 自己株式の取得と引き換えに交付される金銭の内容や金額、計算方法
- 自己株式の取得と引き換えに交付される金銭の総額
- 株式譲渡の申込期日
株式取得に関する相談先
株式取得によるM&Aを実施して企業買収を行う際は、M&A仲介会社などのM&A専門家に相談すると良いでしょう。株式取得による企業買収を進める際は、財務面や経営面でのトラブルが生じる可能性があります。自己株式を実施する場合は、複雑な手続きが必要です。株式取得を行う前にM&Aの専門家に相談すれば、トラブルを前もって防ぎ、複雑な手続きをしっかり理解できます。
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株式取得のまとめ
株式取得は、M&Aの中でも比較的簡単に行える手法です。ただし、リスクを減らすためにもデューデリジェンスに力を入れる必要があります。買い手、売り手ともに、それぞれの条件に一致した企業との取引が重要です。株式取得を検討の際は、専門家を活用しながら実施することをおすすめします。
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M&Aは事業継続やシェア拡大の目的達成のために行われ、その取引を成功させるためにも法務デューデリジェンスは欠かすことができません。そこで本記事では法務デューデリジェンス(法務DD)を詳し...
トップ面談とは?M&Aにおける役割や進め方・成功のためのポイントも解説!
トップ面談は、M&Aの条件交渉を始める前に行われる重要なプロセスです。当記事では、M&Aにおける役割や基本的な進め方を確認しながらトップ面談の具体的な内容と知識を解説します。トッ...
ディスクロージャーとは?M&Aにおける意味やメリット・デメリットまで解説!
ディスクロージャーは、自社イメージの向上や株価の上昇を実現する目的として実施されることが多いです。 本記事では、そんなディスクロージャーの意味や種類、メリットとデメリット、実施のタイミングなど...
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【2024年最新】webメディア売却の事例25選!動向や相場も解説
webメディアの売却・買収は、売買専門サイトの増加などの背景もあり年々活発化してきています。本記事では、webメディア売却の最新事例を25選紹介するとともに、売却・買収動向やメリット・デメリット...
株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。