M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
2022年6月6日更新会社・事業を売る
有料老人ホームのM&A・買収の最新動向/相場/メリットを解説【事例あり】
入所する高齢者に介護などの支援を提供するのが有料老人ホームの事業です。当記事では、有料老人ホーム業が抱える問題をはじめ、M&Aの動き、M&Aの手法、買収の相場、関係者が享受できるメリット、スケールメリットの獲得を目的としたM&A事例などをまとめています。
目次
有料老人ホームのM&A・買収の最新動向
法律に従って入居する希望者に介護などの生活支援を提供する有料老人ホームは、事業の形態によって、3つのタイプ(介護付有料老人ホーム・住宅型有料老人ホーム・健康型有料老人ホーム)に分類されています。
介護報酬の抑制や、競争の激化、人材不足などの問題に直面しているため、同業・異業種からのM&Aが盛んな業種とされています。
有料老人ホームとは
規定された老人福祉法に従って、入居を希望する高齢者に、食事・介護など身の回りの世話を施すのが有料老人ホームです。大半は営利を目的とした法人によって運営され、入居する高齢者の状態・希望に合わせて、3種類の施設が用意されています。
老人ホームの特徴
老人福祉法第29条に規定された内容に沿って、入居する高齢者向けに入浴をはじめ、排せつ・食事の介護、食事の提供、家事、健康管理のどれかを提供するのが有料老人ホームです。
事業を行うには都道府県知事の許可が必要で、営利を目的とした法人による経営が主体とされています。とはいえ、事業者の形態を限定してはいないため、社会福祉法人なども有料老人ホームの運営を行っています。
有料老人ホームの運営では、介護居室と入居者1人あたりの床面積に基準を定めています。介護居室は1室あたり18㎡で、入居者1人あたり13㎡としています。
老人ホームの種類
入居する老人に介護などのサービスを提供する有料老人ホームは、3つの種類に分けられます。
- 介護付有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- 健康型有料老人ホーム
①介護付有料老人ホーム
介護をはじめとしたサービスを入居する高齢者に提供するのが介護付有料老人ホームです。老人を入居させて、厚生労働省が定める食事・介護・家事・健康管理のどれかを提供します。
介護付有料老人ホームでは、1つのサービスに限定した提供も可能ですが、いくつかのサービスを提供することも認められています。入居後に介護を要する状況に至っても、特定施設入居者生活介護の規定により、入居を継続させつつ、介護のサービスを提供します。
厚生労働省が定める特定施設入居者生活介護を行う有料老人ホームは、以下の基準を満たす必要があるとされています。
人員の基準 | |
管理者 | 1名 |
生活相談者の割合 | 要支援・介護者100:生活相談者1 |
看護・介護職員の割合 | 要支援者10:看護・介護職員1 要介護者3:看護・介護職員1 (要支援・介護者が30人以下の場合は看護職員は1名、30人を上回る場合は50人ごとに1名) |
機能訓練指導員 | 1名以上 |
計画作成担当者 | 介護支援員を1名以上置く(基準の割合は、要支援・介護者100:計画作成担当者1) |
設備の基準 | |
介護居室 | 個室か4名以下の部屋 プライバシーが保たれ介護に必要な広さががある 地下に設けない 出入り口を1つ以上も受け避難に適した空地・廊下・広間に面している |
一時介護室 | 介護に必要な広さがある |
浴室 | 身体が不自由な者の入浴が可能な広さがある |
便所 | 居室を設けた各階に設置し、非常用の設備がある |
食堂・機能訓練室 | 目的を果たすための広さを確保している |
施設全体 | 車いすでの移動を可能とする広さと構造を有している |
②住宅型有料老人ホーム
入居する高齢者に生活の支援サービスを提供するのが住宅型有料老人ホームです。入居を続ける際に、介護を必要とする状態に至っても、外部の訪問介護サービスを受けながら、入居する施設での生活を提供しています。
介護付有料老人ホームの入居者よりも、ある程度自身だけで生活を送れる方が入居する施設といえます。また、現在では要介護の状態にはないけれど、要介護の状態に至る場合を想定した方向けの施設とも捉えられます。
③健康型有料老人ホーム
入居する高齢者に食事などの支援を行うのが健康型有料老人ホームです。介護支援を必要としない高齢者向けの施設で、介護を必要とする状態に至ると、施設ではサービスを提供できません。入居者が介護を要する状態に至ると、施設の退去を求めます。
犯罪などのトラブルや、病気の発症・持病の悪化・転倒などによる負傷、災害の発生などを想定して、一人暮らしで身寄りがいない高齢者に対し、安全な施設での暮らしを提供しています。
有料老人ホーム業界が抱える課題
入居する高齢者に必要なサービスを提供する有料老人ホームの業界では、要介護者の増加や、介護給付費の増加、介護報酬の改定、施設増加に伴う競争の激化、介護人材の不足、倒産の増加などの問題を抱えています。
- 要介護の対象となる高齢者が増加
- 介護給付費をいかに抑制するか
- 介護報酬の度重なる改定
- 介護施設の増加による競争激化
- 介護士の圧倒的な不足
- 倒産を選ぶ経営者も増加傾向
1.要介護の対象となる高齢者が増加
他者の支援がなければ日々の生活に支障をきたしてしまう要介護の方は、年々増加する傾向にあります。厚生労働省が公表する平成30年度の「介護保険事業状況報告」では、要介護1~5と認定された方の数を472.9万人としています。
平成18年度では332万人としていたため、12年の間に140.9万人の増加が見て取れます。
出典:厚生労働省/平成30年度介護保険事業状況報告
要介護者が増えている状況でも、平成30年度の有料老人ホームの施設数は1万4,454施設で、定員数は55万2,350人としているため、要介護者の数に見合った定員を満たしているとはいえません。
もちろん、すべての要介護者が高い入居費用を支払って、有料老人ホームに入るわけではありませんが、要介護者の数と施設定員数の差から、満室を理由に入居先が決まらない要介護者も存在しています。
出典:厚生労働省/平成30年社会福祉施設等調査の概況
2.介護給付費をいかに抑制するか
有料老人ホームの事業者は、介護サービスを入居者に提供することで、保険者である市町村から介護報酬の給付を受けます。
しかし、日本では高齢化が進行し、働く世代が収める介護保険料が減っていますし、要介護者の認定数増加に伴い、支給される介護給付費の額も上昇しているのが現状です。財政の圧迫が進めば、社会保障のシステムは破綻します。
政府は介護給付費の抑制するために、不正な介護報酬の請求・請求額の誤りに目を光らせているため、請求内容に不備がある有料老人ホームの事業者には、介護報酬額の減額や事業所の取消しが実施されています。
3.介護報酬の度重なる改定
介護報酬はこれまでに、平成24・26・27・29・30・令和元年に改正が実施されています。令和元年の改正では、介護職員等特定処遇改善加算が設けられたり、栄養スクリーニング加算が削除されたりしています。
有料老人ホーム事業では、このような介護報酬の改定が度々実施されているため、対応しきれずにいる事業者は、経営への影響を危惧しています。
4.介護施設の増加による競争激化
有料老人ホームの事業は、平成18年に老人福祉法が改正されたことを受けて、事業運営で満たすべき規程が緩和されています。
定員数を10名以上とした規定がなくなり、提供サービスは食事のみから、食事の提供・介護支援・家事・ 健康管理のどれかを提供すればよいとされたため、有料老人ホーム事業に参入する法人が増加する傾向にあります。
また、日本では高齢化の進行は今後も加速すると予測されているため、将来性のある事業だと捉えた異業種の参入も増加傾向にあることから、入居者の確保で競争が起きています。
5.介護士の圧倒的な不足
厚生労働省が令和元年に公表した「福祉・介護人材確保対策について」によると、平成29年度の介護士は186.8万人としていますが、2020年度末にはおよそ216万人、2025年度末にはおよそ245万人の需要を求めている点から、介護士不足の状況が窺えます。
政府は処遇の改善などの施策を講じてはいますが、有効求人倍率の高さが示している通り、介護人材の確保が事業運営での課題に挙げています。
出典:厚生労働省/福祉・介護人材確保対策について
6.倒産を選ぶ経営者も増加傾向
競争の高まりを受けて、既存の事業者のなかには、悪い立地・高い入居費用・居室内での死亡などを要因として、入居者が定員に満たない有料老人ホームが存在します。
以前は競争相手が少なかったことで、高い入居率を維持できていましたが、規制の緩和と事業の将来性により、新規に有料老人ホーム事業を始める法人が増加したため、良い条件を掲げる事業者に入居者を奪われて、倒産を選ぶ事業者が増えています。
株式会社東京商工リサーチが公表する2019年の「老人福祉・介護事業」倒産状況では、有料老人ホームの倒産件数を11件としています。
2010~2015年までの平均がおよそ4.7件で、2016~2019年までの倒産件数が平均で10.5件のため、倒産を選ぶ事業者の増加が見て取れます。
出典:株式会社東京商工リサーチ/2019年「老人福祉・介護事業」倒産状況
有料老人ホーム業界のM&A・買収の最新動向
有料老人ホーム業では、同業によるM&Aの増加と異業種の参入が見られ、人材不足の解消や、事業規模・エリアの拡大を理由に、事業者のM&Aを行っています。
- 同業種によるM&Aの増加
- 異業種からもM&Aにて参入
- 人材不足解消を目的としたM&A
- 事業規模・エリア拡大を目的としたM&A
1.同業種によるM&Aの増加
有料老人ホームの1つに分類される介護付有料老人ホームには、都道府県が受け入れる施設の数に制限が設けられています(平成18年に実施された介護保険法の改正)。
制限なく有料老人ホームの設置を認めてしまうと、市町村が負担する保険料が増加することで、介護保険制度が成り立たなくなるため、有料老人ホームの事業者の意思だけでは施設の数を増やせない状況にあります。
運営する施設の数を現在よりも増やすには、許可が下りるのを待つよりも、認可されている同業者をM&Aで買収する方が手っ取り早いため、同業者に対するM&Aが増加傾向にあります。
2.異業種からもM&Aにて参入
有料老人ホーム業は、介護報酬の改定や、介護給付費の抑制などの問題を抱えているものの、2025年には介護給付費が21兆円ほどにまで達するとの試算を打ち出しているため、市場の成長を見越して、介護事業に携わってこなかった業種もM&Aで参入を果たします。
3.人材不足解消を目的としたM&A
有料老人ホームで働く人材は、労働環境の悪さから、有効求人倍率が高く、人をあつめにくい業種といえます。
募集をかけても必要な人材があつまらないことから、新たに介護事業に参入する買い手は既存の有料老人ホームを人材ごと買収して、不足する人材を確保しています。
売り手には、人材不足で事業が続けられなくなる例が見られるため、豊富な人材を抱える大手へのM&Aで、不足する人材を供給してもらい、事業の継続を図っています。
4.事業規模・エリア拡大を目的としたM&A
有料老人ホームの事業は総量規制が設けられていることから、新規での施設運営には、都道府県知事の許可を得なければ、事業の拡大が望めません。
許可が下りたとしても、事業運営の開始までに時間を要することから、迅速な事業規模とエリアの拡大を図るために、既存の有料老人ホームをM&Aで取得しています。
有料老人ホーム業界のM&A・買収手法
有料老人ホームの事業・事業会社をM&Aで買い取る際には、株式の取得で会社自体を買い取る株式譲渡と、有料老人ホームの事業に関する資産などを譲り受けによる方法の事業譲渡が用意されています。
株式譲渡
有料老人ホームの事業を営む会社の株式を買い取って、経営する権限を取得するのが株式譲渡です。株主の構成が変わるだけの取引のため、事業運営に必要な許可も引き継がれます。
ただし、売り手が介護保険法に反していると欠格事由に当てはまり、買い手は指定取り消しの期間があけるまでは、有料老人ホームの運営を始められないため、M&A実行の前には徹底した調査が求められます。
事業譲渡
有料老人ホームの運営に関係する資産などを譲り受けるのが事業譲渡です。引き継ぐ対象を選べる方法のため、負債や不要な資産、並行して行う別事業などの引き継ぎを回避できます。
とはいえ、有料老人ホームの許可は引き継がれないため、買い手には事業を譲り受けてからの申請が必須です。また、社員の雇用なども買い手による再契約が求められるため、必ずしも売り手が抱える社員の雇用を引き継げるとはいえません。
以上のことから、有料老人ホームをM&Aで買い取る際には、2つの買収方法に見られる特徴を把握した上で、目的を遂げられる方法を選ぶことが重要です。
有料老人ホーム業界のM&A・買収相場
有料老人ホームの事業・事業会社のM&A相場は、営業利益の2~5年を目安として、取引価格が算出されています。
保有する施設の数・算出方法によって相場に開きが見られますが、概ね1,000万~数億円の価格を有料老人ホームのM&A相場としています。
ちなみに、相場よりも高い価格で取引される有料老人ホームには、離職率の低さや、必要人材の確保、良い立地などの特長が見られます。
【有料老人ホームの相場】
- 営業利益の2~5年
- 1,000万~数億円での取引が多い
有料老人ホーム業界のM&A・買収のメリット
有料老人ホームのM&Aでは、具体的にどういった利益が得られるのでしょうか。取引の当事者に加えて、関係者である従業員と施設を利用している入居者も、M&Aの実施で利益を得られます。
売り手の利点は後継者問題や経営の安定などで、買い手の利点は許認可の取得やスケールメリットの享受などが挙げられますし、従業員には待遇の改善やキャリアアップなどの利点があり、入居者には提供サービスの向上などの利点があります。
売り手のメリット
有料老人ホームの売り手が享受できる利点は、後継者問題の解決をはじめ、経営の安定化・容易な人材確保・個人保証と担保の解消・売却益の獲得です。
- 後継者問題の解決
- 大手グループの力で経営安定
- 大手グループの力で従業員確保がしやすくなる
- 個人保証・担保の解消
- 売却益を獲得
後継者問題の解決
親族や会社の関係者のなかに、有料老人ホームの経営を引き継ぐ人物がいなくても、M&Aなら社外の人物に経営を任せられます。
後継者が決まっていても、経営者の体調悪化・死亡などが起これば、育成が間に合っていない状態で、引き継ぎを進めてしまい、承継後の経営状態を悪化させかねません。
しかし、M&Aなら他事業・同事業での経営経験を持つ相手に経営を引き継げるため、承継後も施設の運営継続が見込めます。
大手グループの力で経営安定
有料老人ホームをはじめとした介護事業を営む大手の傘下に入ると、豊富な資金・経営ノウハウ・事業ブランドなどの経営資源が供給されるため、資金繰りに困っている・自社のみでの事業展開には限界があるなどの売り手は、M&Aによって経営の安定化が望めます。
大手グループの力で従業員確保がしやすくなる
自社よりも大きな会社は、多くの人材を抱えている可能性があります。そのため、大手グループの傘下に入れば、グループ内で抱えている人材から、自社への派遣を求めることも可能です。
これなら、自力で人材を確保する負担を軽減できるため、介護士などの職員の確保が容易に行えます。
個人保証・担保の解消
有料老人ホームをM&Aでは、買い手に売り手経営者の個人保証・担保を肩代わりしてもらえれば、個人保証・担保の解消は可能です。金融機関から承諾を得る必要があるものの、買い手は売り手に比べて信用力が上回るケースが多いため、承諾は得られやすいといえます。
売却益を獲得
有料老人ホーム会社の株を譲り渡すと経営者(株主)が譲渡益を手にできますし、事業関連の資産などを譲ると、会社に譲渡益が入ります。
新しい会社の設立・経営からの引退を考えるなら、経営者が対価を得られる株式譲渡をおすすめしまし、他事業に注力するなら、会社が対価を獲得する事業譲渡がおすすめです。
買い手のメリット
有料老人ホームの買い手が得られる利点は、許可の取得をはじめ、規模・エリアの拡大や、スケールメリット・人材・自社にはない介護サービスの獲得などが挙げられます。
- 認可取得ができる
- 規模・エリアの拡大
- スケールメリットの獲得
- 介護人材の獲得
- 新しい介護サービスの獲得
- スムーズな立ち上げ・新規参入が可能
認可取得ができる
有料老人ホーム会社の株式を取得して、経営権を得られれば、施設の運営許可を承継できます。これなら、総量規制による申請を待たなくても、即座に事業を始められるため、許可を申請する手間と時間を省けます。
規模・エリアの拡大
有料老人ホームなどの介護事業には、介護給付費を抑制するために、総量規制が設けられているため、新たに施設を建てたとしても、申請が通るまでに時間を要したり、申請が通らなかったりします。
しかし、M&A(株式譲渡)で対象会社を買収すれば、許可を引き継げるため、総量規制による申請を経ずに、有料老人ホーム事業の規模を大きくしたり、別エリアへ事業を広げられたりします。
スケールメリットの獲得
有料老人ホームをM&Aで買い取ると事業の規模が大きくなるため、食品・物品の購入費用の低下や、業務の効率化、提供サービス・知名度の向上などが図れます。
有料老人ホームをはじめとした介護事業は、スケールメリットの効果が現れやすい業種とされているため、買収する対象を同業者に据えると、メリットの獲得が望めます。
介護人材の獲得
M&Aを活用すれば、有料老人ホーム事業・会社の買収により、抱えている人材の確保が可能です。株式譲渡であれば雇用をそのまま引き継げますし、事業譲渡であっても社員との再契約により雇用を継続させられます。
新しい介護サービスの獲得
医療機関や介護保険施設の運営を行っている事業者が、有料老人ホームを買収すれば、新たな介護サービスの獲得で事業の幅を広げられます。さらに、既存事業との兼ね合いから、利用者の囲い込みが可能です。
有料老人ホームの入所者に対する健康診断を自社の医療機関で賄い、入所者にリハビリ・療養・体または心の障害が生じた場合には介護保険施設への入所を勧められるため、既存事業との相乗効果も狙えます。
スムーズな立ち上げ・新規参入が可能
運営している有料老人ホームの事業・会社を買収するため、一から事業を立ち上げる必要がありません。事業を始めるまでの準備期間がいらないため、買収してから時間を置かずに事業を始められます。
もちろん、売り手が備える運営のノウハウなどを利用できるため、異業種による参入も可能です。
従業員のメリット
有料老人ホームの社員への利点には、キャリアップ・買い手の教育制度の利用・処遇の改善が挙げられます。
- キャリアアップに繋がる
- 大手グループの教育制度が利用可能
- 雇用や処遇の維持・改善
キャリアアップに繋がる
M&Aでは、概ね雇用先の会社よりも事業規模の大きな会社が買収を行うため、M&Aで所属する有料老人ホームが買い手の傘下に入れば、買い手による面談で、新たな仕事・役職を任される例も散見されます。
つまり、既存の会社では評価されていなかった能力を認めてもらえれば、キャリアアップが望めるため、M&Aの実施は社員にも利益のある行為といえます。
大手グループの教育制度が利用可能
事業規模の大きな会社が買い手となれば、雇用先の売り手がM&Aで傘下に入ることで、買い手の支援制度を活用できます。買い手が介護福祉士などの資格取得を支援していれば、介護職員を束ねる役職や、施設を取り仕切る施設長へのステップアップも可能です。
雇用や処遇の維持・改善
買い手は有料老人ホームの事業を続けること目的にM&Aを行うため、既存の雇用条件が維持される可能性が高いといえます。
また、買い手の会社が所属する会社よりも規模が大きかったり、事業譲渡で雇用の再契約を行ったりすると、M&A後には雇用・処遇が改善される例も散見されます。
利用者のメリット
有料老人ホームのM&Aに見られる利点は、M&Aの当事者と売り手の社員だけではありません。入居する高齢者にも、サービスの質が高まる・利用価格の変更という利点が挙げられます。
- サービス向上の可能性
- 価格改定の可能性
サービス向上の可能性
M&Aで事業規模が大きくなれば、業務の効率化や、出費の削減、必要人員の確保などを果たせるため、行き届いた支援・新たな設備の購入などが実施されるため、入居者に提供される介護支援などの質を高める可能性があります。
価格改定の可能性
買い手がM&Aの実施でスケールメリットを得られると、業務効率の改善や、入居率の上昇、物品の購入費削減などを果たせます。
得られたスケールメリットを入居費用などに反映させるために、入居契約に明記された価格改定を実施すれば、以前よりも抑えた価格に変更される可能性があります。
スケールメリットの獲得のM&A・買収事例
スケールメリットの獲得を目的にした有料老人ホームの事業・事業会社に対するM&Aの事例では、以前から介護事業を行っていた企業に加えて、新規参入を果たした企業が買い手となり、有料老人ホームの事業・事業会社を買い取っています。
事例① 株式会社ワイグッドケアのM&A
埼玉県などで有料老人ホーム事業を行う株式会社ワイグッドケアは、2020年の8月に、栃木県にある3つの有料老人ホーム施設を事業譲渡で譲り受ける契約を結びました。
株式会社ワイグッドケアは、栃木県内の老人ホームの施設が不足している現状から、M&Aで事業を譲り受けることで、スケールメリットの獲得を図り、提供サービスの質を高めるとしています。
事例② 綜合警備保障株式会社のM&A
個人・法人向けにセキュリティサービスなどを提供する綜合警備保障株式会社は、2020年の4月に、株式会社らいふホールディングスの株式をすべて取得し、子会社としました。
対象会社は、有料老人ホームなどの介護事業会社を束ねる持株会社です。介護事業では、有料老人ホームの運営のほか、訪問・通所介護などを行い、首都圏にある47の施設で、2,000を上回る部屋を用意しています。
綜合警備保障株式会社は、警備事業を主力としつつも、関連する高齢者向けの介護事業へも事業の幅を広げています。介護事業会社を傘下に収める持株会社を買収することで、事業領域の拡大を進められると判断し、対象会社へのM&Aを実施しています。
事例③ 株式会社ソラストのM&A
医療機関の向けの支援・保育・介護事業などを行う株式会社ソラストは、2020年の3月に、有料老人ホームなどの介護事業を行う株式会社恵の会と有限会社恵の会の株式をすべて取得し子会社としました。
株式会社ソラストは、2030年までに、すべての事業エリアに、有料老人ホームなどの各種介護施設を1つ以上設置する目標を掲げています。
M&Aの対象である株式会社恵の会と有限会社恵の会は、大分エリアで高齢者向けの介護施設を26も抱えており、有料老人ホーム・サービス付きの高齢者向け住宅・デイサービスは、大分県で上位の運営規模を誇っています。
株式会社ソラストは、M&Aの実施により、対象地域でのエリア拡大とサービスの向上を図る方針です。
事例④ 株式会社揚工舎のM&A(事業譲渡)
有料老人ホームを含む介護事業や、介護用品のレンタル・販売を行う株式会社揚工舎は、2019年の7月に、有限会社アカネケアコンサルトから有料老人ホームの事業を買収しました。
株式会社揚工舎は有料老人ホーム事業のグループ入りにより、東京近辺での事業拡大を叶えられるとして、東京都の小平市に施設を構える対象事業をM&Aで譲り受けています。
事例⑤ 株式会社揚工舎のM&A(株式譲渡)
有料老人ホームを含む介護事業や、介護用品のレンタル・販売を行う株式会社揚工舎は、2019年の5月に、介護付の有料老人ホーム事業を行う株式会社光風苑の株式をすべて取得し子会社化しました。
株式会社揚工舎は、有料老人ホーム事業を傘下に加えることで、事業の拡大と間接業務の効率化を図る方針です。
事例⑥ 株式会社サン・ライフによるM&A
ブライダル・葬儀・法要などの事業を行う株式会社サン・ライフは、グループ会社・株式会社クローバーを介して、2018年の3月に、株式会社ノーマライズが営んでいる住宅型の有料老人ホームを事業譲渡で買い取りました。
対象会社が保有する施設は神奈川県の厚木市にあり、全70室、定員70名で、有料老人ホームを営んでいます。株式会社サン・ライフは対象の施設をM&Aで譲り受けることで、介護事業の拡大を進める方針です。
事例⑦ センコーグループホールディングス株式会社のM&A
物流・商事・ライフサポート事業などを行うセンコーグループホールディングス株式会社は、2017年の9月に、フィットネス事業を行う株式会社ブルーアースのほか、関連会社2社(接骨院・有料老人ホームの運営会社)の株式をすべて取得し子会社に加えました。
センコーグループホールディングス株式会社は、幅広い年代に向けたライフサポートを実施するために、介護の分野に事業領域を広げるべく、M&Aでの買収を決めています。
事例⑧ ソニー・ライフケア株式会社のM&A
介護事業会社を束ねるソニー・ライフケア株式会社は、2017年の7月に、新株予約権を付けた社債の行使に加え、株式会社ゆうあいホールディングスの株式をすべて取得して、子会社としました。
ソニー・ライフケア株式会社は、M&Aの実行により、株式会社ゆうあいホールディングスの傘下にある、介護付きの有料老人ホームの運営会社も自社グループに加えています。
自社グループの経営資源を活かして、取得した有料老人ホーム事業で提供するサービスをより一層高めるとしています。
事例⑨ 株式会社京進のM&A
学習塾・英会話・保育事業などを行う株式会社京進は、2017年の6月に、有料老人ホームをはじめとした介護事業を行うシンセリティグループ株式会社の株式をすべて取得し、子会社としました。
M&Aの手順は、シンセリティグループ株式会社が自社の代表取締役が保有する4社の株式を取得した後、株式会社京進がシンセリティグループ株式会社の株式を買い取る形で進められています。
株式会社京進は、社会への貢献を考えて、介護事業領域への進出を図るために、対象会社を傘下に収めました。買収により両社が備えているノウハウを融合させて、介護事業での新たなサービス提供を図る方針です。
事例⑩ 関西電力株式会社のM&A
エネルギー・送配電事業などを行う関西電力株式会社は、2017年の4月に、有料老人ホーム・在宅介護事業を行う京阪ライフサポート株式会社の全株式を、京阪ホールディングス株式会社から取得し、自社グループに加えました。
関西電力株式会社は、高齢者向けのサービスが高まっている現状から、介護事業にも進出しているため、今回のM&Aにより、介護事業の強化を図るとしています。
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まとめ
入所する高齢者に介護などの支援を提供する有料老人ホーム業は、介護報酬の改定や、介護士の不足、競争の激化などの問題を抱えているため、事業を継続できない事業者はスケールメリットの獲得などを目的とする買い手への譲渡を選んでいます。
【有料老人ホーム業界が抱える課題】
- 要介護の対象となる高齢者が増加
- 介護給付費をいかに抑制するか
- 介護報酬の度重なる改定
- 介護施設の増加による競争激化
- 介護士の圧倒的な不足
- 倒産を選ぶ経営者も増加傾向
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対象の財務諸表を連結修正を行って正しい金額(連結会計)に再計算をする必要があります。ここでは、そもそも連結会計とはどういうものなのか、連結決算には絶対必要な連結財務諸表の作成方法から連結修正の方...
【2021年最新】webメディア売却の事例25選!動向や相場も解説
webメディアの売却・買収は、売買専門サイトの増加などの背景もあり年々活発化してきています。本記事では、webメディア売却の最新事例を25選紹介するとともに、売却・買収動向やメリット・デメリット...
株式譲渡と事業譲渡の違いは?税金、手続き、メリットについて解説【図解】
M&Aの主な手法は株式譲渡と事業譲渡ですが、両者は手続き・税金・メリット・デメリットなどあらゆる点で違います。本記事では、株式譲渡と事業譲渡の違いについて図解も交えながら解説しています。...
会社売却でかかる税金はいくら?計算方法、税金対策をわかりやすく解説
会社売却にかかる税金は、株式譲渡・事業譲渡といったスキームによっても違い、株式譲渡の場合は株主が個人か法人かによっても違います。この記事では、会社売却にかかる税金に関して計算方法を解説するととも...
会社を売るタイミングはいつ?業績から最適な売り時を考えて売却しよう!
M&Aによる会社売却はタイミングが重要で、同じ会社でもタイミングの違いによって売却価格が大きく変わる可能性があります。この記事では、会社売却の適切なタイミング、会社売却のメリットや利益を...
【2021】出版業界のM&A動向と事例9選!会社売却・買収の実績を解説!
出版業界は、電子書籍の普及と紙媒体の衰退といった大きな変化の渦中にあり、業界再編などを目的としたM&Aが活発です。本記事では、出版業界の最新M&A事例9選を紹介するとともに、出版...
宅配・フードデリバリー・ケータリング業界のM&A動向は?事例や相場も解説【2023年最新】
本記事では、宅配・フードデリバリー・ケータリング業界のM&A動向や最新事例などを解説します。近年は宅配・フードデリバリー・ケータリング業界が好調を維持するとともに、M&A動向も活...
M&Aの手数料はなぜ高いのか?レーマン方式や支払う費用の相場、計算方法、仲介会社の報酬体系を解説
昨今、M&Aが年々普及していく一方で、M&Aの手数料の高さがクローズアップされるようになりました。本記事では、M&A仲介会社の手数料が高い理由やレーマン方式・手数料相場、...