M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
2023年3月9日更新業種別M&A
IT業界のM&Aの事例60選!動向やメリットも徹底解説【2023年最新】
本記事では、IT業界のM&Aの事例を中心に紹介します。IT業界は今後も発展が期待できるため、市場の好調も続く可能性が高いです。また、M&Aが積極的に実施されており、新たなビジネスモデルが生まれる業界でもあります。IT企業のM&Aを検討している方は必見です。
目次
IT業界の最新M&A事例20選【2023年】
人材不足などの問題解消に向けて、IT業界ではさまざまな企業がM&Aを実施している状況です。本章では、IT業界におけるM&A成功事例のうち、「2021年に発表された最新M&A事例」を取り上げます。
それぞれの事例からポイントをつかんで、自社のM&A戦略策定にお役立てください。
- プリンシプルがEboost Consultingを買収
- ジーニーがREACTを買収
- Kaizen Platformがディーゼロを買収
- インターネットイニシアティブがPTC SYETEM(S)PTE LTDを買収
- 廣済堂がx-climbのIT関連事業である新会社を買収
- テリロジーがクレシードを買収
- CAICAがZaifホールディングスを買収
- ナレッジスイートがAI CROSSのビジネスチャット事業を買収
- アクシスがヒューマンソフトを買収
- ミックウェアがエイチアイを買収
- 野村総合研究所がSQA Holdco Pty Ltdを買収
- 店舗流通ネットがアニーを買収
- gooddaysホールディングスがアネックスシステムズを買収
- 駅探がマーベリックのインフィード広告事業を買収
- トゥルースがビーイングを買収
- 飛島建設がアクシスウェアを買収
- でらゲーがモブキャストゲームスのゲームタイトルを買収
- 土木管理総合試験所がアドバンスドナレッジ研究所を買収
- ビーネックスグループがレフトキャピタルを買収
- アソビューがそとあそびを買収
①プリンシプルがEboost Consultingを買収
2021年8月、プリンシプルは、アメリカに拠点があり出資子会社であるPrinciple America Co., Ltd.をとおして、Eboost Consultingを買収し、子会社化しました。
プリンシプルは、北米やアジアを中心に、デジタルマーケティング戦略・デジタル広告・SEO・Web解析などのデジタルマーケティング支援やBIツール導入・データ活用プラットフォーム構築支援など、海外進出支援事業を行う会社です。
本件M&Aの対象企業であるEboost Consultingは、eコマース向けの有料ソーシャル・有料検索・Amazon広告を専門とするデジタルマーケティングを展開しています。本件M&Aにより、プリンシプルは、日米共同でプロジェクトを推進できる体制やグローバル対応の向上を目指しています。
②ジーニーがREACTを買収
2021年8月、ジーニーは、REACTの株式をすべて取得し、完全子会社化しました。ジーニーは、広告プラットフォーム事業・マーケティングSaaS事業・海外事業を行っている会社です。対象会社であるREACTは、チャットボット制作サービス「Engagebot」の企画・開発・運営をメインに事業を行う会社です。
本件M&Aにより、ジーニーグループは、チャット型Web接客サービス領域で機能拡張・強化を行い、収益機会の拡大を目指しています。
③Kaizen Platformがディーゼロを買収
2021年7月、Kaizen Platformは、ディーゼロの株式7割を取得し、子会社化しました。Kaizen Platformは、サイトソリューション事業・KAIZEN VIDEO事業を行っている会社です。
対象会社であるディーゼロは、Webサイト企画・制作、スマートフォンサイト、アプリ企画・制作、モバイルサイト企画・制作などを行っています。
本件M&Aにより、UXソリューションの提供価値向上とともに、新たな市場機会の創出を目指しています。
④インターネットイニシアティブがPTC SYETEM(S)PTE LTDを買収
2021年4月、インターネットイニシアティブは、シンガポールに拠点を置くPTC SYETEM(S)PTE LTD(以下、PTC社)のすべての株式を取得し、子会社化しました。
インターネットイニシアティブは、世界8カ国11都市の海外事業所にてネットワークサービスおよびシステムインテグレーション提供との国際事業を行っています。
対象会社であるPTC社は、優良な顧客基盤とシンガポールにて、ストレージ・サーバー関連のシステム構築を中心に高品質なソリューションの提供を行う会社です。今回のM&Aにより、ASEAN地域における事業基盤の拡大とソリューション提供体制の強化を目指しています。
⑤廣済堂がx-climbのIT関連事業である新会社を買収
2021年3月、廣済堂は、x-climbがIT関連事業を会社分割して、新設するx-climbソリューションのすべての株式を取得し、子会社化しました。
x-climbは2013年に設立された会社で、受託開発とSES事業を中心にAIの開発やデジタルマーケティングに強みのある会社です。今回のM&Aにより、廣済堂のグループにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進を目指しています。
⑥テリロジーがクレシードを買収
2021年3月、テリロジーは、クレシードの株式の9割を取得し、子会社化しました。テリロジーは、ネットワークセキュリティ分野の製品およびソリューションを、大手金融機関やグローバルカンパニーなど大手企業の顧客をメインに事業を行っています。
一方、対象会社のクレシードは、情報システム業務支援・代行事業を手掛けており、中小企業の顧客をメインとしている会社です。
今回のM&Aにより、テリロジーは中堅・中小企業の顧客を取り込み、顧客基盤の相互乗り入れをとおして事業機会の拡大・強化を目指しています。
⑦CAICAがZaifホールディングスを買収
2021年3月、CAICAは、自社の持分法適用関連会社であるZaifホールディングスが第三者割当により発行する普通株式を引き受けるのに加えて、Zaifホールディングスの株主より普通株式を取得することで、Zaifホールディングスを連結子会社化しました。
CAICAは、金融分野のシステム開発をメインとするIT企業です。本件M&Aの対象企業であるZaifホールディングスは、暗号資産の取引所運営・暗号資産の取引所運営に関するシステム開発・販売などを行っている企業です。
今回のM&Aにより、迅速な経営判断の実現・シナジー効果の発揮・暗号資産交換所の運営事業を含む、今後の成長領域の拡大を目指しています。
⑧ナレッジスイートがAI CROSSのビジネスチャット事業を買収
2021年3月、ナレッジスイートは、AI CROSSからビジネスチャット事業を買収しました。
ナレッジスイートは、DX事業、BPO事業を行う会社です。DXクラウドは、インターネットサービスの企画・開発や、運営・業務効率化および改善に関するコンサルティング事業を行っています。
今回のM&Aにより、国内発のビジネスチャット「InCircle(インサークル)」との連携・拡張開発を進め、顧客基盤のさらなる拡大および、次世代のビジネスに特化したDXサービスのスーパーアプリ化の実現を目指しています。
⑨アクシスがヒューマンソフトを買収
2021年3月、アクシスは、ヒューマンソフトの株式すべてを取得し、子会社化しました。アクシスは、システムインテグレーション事業とクラウドサービス事業を行っています。ヒューマンソフトは、システムインテグレーション事業を展開している会社です。
アクシスは今回のM&Aにより、ヒューマンソフトの優秀なIT関連の技術者をグループに迎え入れ、グループ全体の人員体制の強化と事業の多様化を目指しています。
⑩ミックウェアがエイチアイを買収
2021年3月、ミックウェアは、エイチアイの株式すべてを取得し、完全子会社化しました。ミックウェアは、カーナビや車載ソフトウェアの開発を行っている会社です。
対象会社であるエイチアイは、アートスパークホールディングスの連結孫会社であり、受託のシステム開発を行っています。今回のM&Aにより、ミックウェアでは、自社が営む車載ソフトウェア開発事業のさらなる強化・発展を目指しています。
⑪野村総合研究所がSQA Holdco Pty Ltdを買収
2021年3月、野村総合研究所は、SQA Holdco Pty Ltdの株式すべてを取得し、子会社化しました。SQA Holdco Pty Ltdは、Planit Test Management Solutions Pty Ltd(以下、「Planit」)の持株会社であり、オーストラリアのシドニーに拠点を構えています。
野村総合研究所は、コンサルティング・金融ITソリューションなどのサービスを提供しています。対象企業のPlanitは、ITテスティングの専⾨家集団であり、1,000名を超えるテスト専門家が在籍しているのが特徴です。
主にITシステムの品質向上に関わるコンサルティングやテスト自動化ツールなど、幅広いサービスを展開し、オセアニア地域の大手の金融機関や政府公共機関などの顧客を保有しています。
今回のM&Aにより、Planitのノウハウ・サービス・顧客基盤を獲得し、さらなるグローバル事業の拡大を目指しています。
⑫店舗流通ネットがアニーを買収
2021年3月、店舗流通ネットは、アニーの株式すべてを取得し、完全子会社化しました。本件M&Aの取引金額は非公開です。買収側の店舗流通ネットは、店舗リース事業・店舗不動産ファンド事業・人材事業・プロモーション事業・工事事業などを手掛けています。
売却側のアニーは、製菓・製パン店専用顧客管理POSシステムを提供する企業です。1993年に設立され、2003年6月より洋菓子店用のPOSレジシステム「ninapos」の発売を開始しています。
その後は、顧客の声に応えながら改良を重ねて製菓全般と製パンに対応する主力商品へと進化させており、約350社(850店舗)で使用されるPOSレジシステムへの成長に成功しています。本件M&Aの目的は、コーポレートスローガンである「明日の街、もっと楽しく。」の実現です。
そのほか、店舗流通ネットでは、新事業の開発と展開を加速させて、グループのシナジー効果の最大化と発展を目指すと発表しています。
⑬gooddaysホールディングスがアネックスシステムズを買収
2021年3月、gooddaysホールディングスは、傘下企業のオープンリソースを通じて、アネックスシステムズのすべての株式を取得し、連結子会社化しました。オープンリソースは、流通系システム開発を行っています。
対象会社であるアネックスシステムズは、Webシステム開発の会社です。2017年度よりオープンリソースとアネックスシステムズは業務委託契約により、リソースおよび営業基盤の移管を進めてきました。
今回のM&Aにより、事業ポートフォリオや顧客基盤の拡充・収益向上・企業価値向上を目指しています。
⑭駅探がマーベリックのインフィード広告事業を買収
2021年2月、駅探は、マーベリックのスマートフォン向けインフィード広告事業広告事業を買収しました。駅探は、経路検索サービスなどの事業をメインに行っているIT企業です。マーベリックは、スマートフォン向け広告配信関連のシステム開発などを行っています。
本件買収は、駅探が、マーベリックから分社して設立するサークアの株式すべてを取得する形です。今回のM&Aにより、駅探は、経路検索サービス「駅探ドットコム」の収益拡大や経路検索サービスの事業拡大を目指しています。
⑮トゥルースがビーイングを買収
2021年2月、ビーイングは、MBOにより株式を非公開化しました。そして、トゥルースがビーイングにTOBを実施し、すべての株式を取得しています。トゥルースは、ビーイングの会長が務める会社で、株式取得および保有が事業内容です。対象会社となったビーイングは、建設業向けに土木積算ソフトの販売を行っています。
今回のM&Aは、MBOによる非公開化を目的に実施されました。ビーイングは、土木積算分野に依存した事業構造で安定的な経営を続けているものの、昨今の建設業のICT化の流れによる事業構造の変革が課題です。
近い将来に戦略的な投資が必要で、株価の下落などの悪影響が生じることが懸念されていました。今回のM&Aは、中長期的な利益につながる戦略を遂行する目的のもと、MBOにより株式を非公開化し、TOBが実施されたのです。
⑯飛島建設がアクシスウェアを買収
2021年2月、飛島建設は、アクシスウェアの株式すべてを取得し、子会社化しました。飛島建設は、土木・建築工事における事業全般や、コンピュータを活用した情報処理およびハード・ソフトウェアの開発、エネルギーの供給などの事業を行っている会社です。
アクシスウェアは、情報システム基盤の構築や、業務システムアプリケーションのコンサルティング・設計・開発および保守、教育事業、経理業務・労務管理業務のアウトソーシング事業、労働者派遣事業など、幅広い事業展開を行っていました。
今回のM&Aにより、飛島建設は、アクシスウェアの高い技術力と企画・開発力を生かし、 次世代型事業運営体制の構築と革新的ビジネスソリューションの提供など、事業領域の拡大を目指しています。
⑰でらゲーがモブキャストゲームスのゲームタイトルを買収
2021年1月、でらゲーは、モブキャストホールディングスの子会社であるモブキャストゲームスのゲームタイトルを買収しました。対象となったのは、モブキャストゲームスと共同開発したゲームタイトル「キングダム乱-天下統一への道-」です。
今回のM&Aの目的は、モブキャストホールディングスにおけるゲームタイトルの選択と集中にあります。
⑱土木管理総合試験所がアドバンスドナレッジ研究所を買収
2021年1月、土木管理総合試験所は、アドバンスドナレッジ研究所の株式をすべて取得し、子会社化しました。土木管理総合試験所は、建設コンサルタントとして、土質・地質調査試験、非破壊調査試験および環境調査試験など、幅広い業務を行っています。
アドバンスドナレッジ研究所は、熱流体解析ソフトウェアの開発や、気流・温熱環境解析に関するコンサルティング技術を保有している会社です。今回のM&Aにより、事業展開におけるワンストップサービスの拡充や企業価値の向上を目指しています。
⑲ビーネックスグループがレフトキャピタルを買収
2021年1月、ビーネックスグループは、アロートラストシステムズを傘下に持っているレフトキャピタルのすべての株式を取得し、子会社化しました。アロートラストシステムズは、金融・流通・製造などの業界でシステム開発のサービスを提供する会社です。
ビーネックスグループは、技術者派遣事業や組み込み開発などを行っている会社です。今回のM&Aにより、IT領域で新たな顧客基盤の開拓を目指しています。
⑳アソビューがそとあそびを買収
2021年1月、アソビューは、アカツキから、そとあそびの株式すべてを取得すると発表しました。本件M&Aの取引金額は非公開です。買収側のアソビューは、休日の便利でお得な遊び予約サイト「アソビュー!」を展開しています。
売却側のそとあそびは、アウトドアレジャー専門予約サイト「SOTOASOBI」を運営する企業です。長年の運営により培ったノウハウ・アウトドアレジャー事業者との強固な信頼関係・ネットワークなどを生かした企画力・コンテンツ獲得などによって、事業・売上ともに継続的に成長しています。
本件M&Aの目的は、アクティビティ領域のコンテンツ拡充・ユーザー基盤の拡大および、事業者の共同開拓・サポート体制の共通化・一体的なシステム開発体制の構築によるシナジー獲得などです。
IT企業の事業承継については、下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
IT業界大手によるM&A事例20選
ここでは、IT業界の大手企業による事例を取り上げます。これらの成功事例のポイントを押さえておけば、自社のIT企業におけるM&A戦略の策定に役立てることが可能です。それぞれの事例を順番に確認します。
- サイバーエージェントがリアルゲイトを買収
- ディー・エヌ・エーがIRIAMを買収
- ソフトバンクがイーエムネットジャパンを買収
- マイナビがFacePeerを買収
- DMM.comがアイデアクラウドを買収
- NTTがNTTドコモに対してTOBを行い買収
- PR TIMESがismを買収
- ハードオフコーポレーションがインフォノースを買収
- メルペイがOrigamiを買収
- 日立製作所がREAN Cloud LLCを買収
- メルカリがマイケルを完全子会社化
- ヤフーがdelyを買収
- マネックスグループがコインチェックを買収
- エイチームがIncrementsを買収
- KDDIがソラコムを買収
- 富士通が古河インフォメーション・テクノロジーを買収
- NTTデータがシャープビジネスコンピュータソフトウェアを買収
- ソフトバンクグループがARM Holdings plcを買収
- NECがArcon Informatica S.A.を買収
- ヤフーがイーブックイニシアティブジャパンを連結子会社化
①サイバーエージェントがリアルゲイトを買収
2021年7月、サイバーエージェントは、リアルゲイトの株式を過半数取得し、子会社化しました。リアルゲイトは、渋谷エリアを中心に、スタートアップ企業やクリエーター向けにシェア型オフィスを企画・運営している会社です。
サイバーエージェントは、インターネット広告事業・メディア事業・ゲーム事業をメインとした事業を行っています。今回のM&Aにより、不動産領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目指しています。
②ディー・エヌ・エーがIRIAMを買収
2021年7月、ディー・エヌ・エーは、IRIAMの株式を追加取得し、20%の持ち株比率を100%に引き上げ、子会社化しました。ディー・エヌ・エーはインターネット関連企業です。対象会社であるIRIAMは、インターネット上のリアルタイム動画配信サービスであるライブストリーミング事業を行っています。
今回のM&Aにより、ライブストリーミング事業の成長および、新たな市場やジャンルへの挑戦など、一層の事業拡大を目指しています。
③ソフトバンクがイーエムネットジャパンを買収
2021年5月、ソフトバンクは、TOBにてイーエムネットジャパンの株式を4割取得し、子会社化しました。
ソフトバンクは、通信事業・ブロードバンドインフラ・移動体通信事業などを主な事業としています。対象会社であるイーエムネットジャパンは、ネット広告を行っている会社です。
今回のM&Aにより、ネット広告の分析や運用戦略で協力し、顧客へのマーケティングDX(デジタルトランスフォーメーション)支援体制の強化や顧客基盤の拡大の強化を目指しています。
④マイナビがFacePeerを買収
2021年3月、マイナビは、FacePeerを買収し子会社化しました。
マイナビは、就職・転職・アルバイトなどの求人情報サービスに加えて、ニュースなどを含めた総合情報サービス会社です。対象会社であるFacePeerは、BtoBtoCに特化したビデオ通話のプラットフォームである「FACEHUB」など、ITを活用した事業を展開しています。
昨今、オンラインコミュニケーションの需要がさらに拡大する中で、今回のM&Aにより、さらなる機能補強・体制強化・サービス普及を目指しています。
⑤DMM.comがアイデアクラウドを買収
2021年2月、DMM.comは、アイデアクラウドの株式すべてを取得し、完全子会社化しました。
DMM.comは、オンラインゲーム・電子書籍・動画配信をはじめ、さまざまなサービスを展開する企業です。2020年よりオンライン展示会プラットフォーム事業のサービスを展開しています。
今回の対象会社であるアイデアクラウドは、AI・AR・VR・VTuberなどの先端技術事業に強みがあり、2020年よりオンライン展示会プラットフォームを手掛ける会社です。今回のM&Aにより、新たなサービスの展開やオンライン展示会事業のさらなる強化を目指しています。
⑥NTTがNTTドコモに対してTOBを行い買収
2020年11月、NTTは、子会社であるNTTドコモの株式に対して公開買い付けを行いました。TOBに応募した株式をすべて買い取った場合、NTTはNTTドコモの株式取得比率を6割から9割に高めています。
本件買収により、NTTドコモはNTTの完全子会社となり、所定の手続きを経て上場廃止となりました。今回のM&Aの目的は、NTTが携帯通信市場における世界での主導権を再び確立するためとしています。
⑦PR TIMESがismを買収
2020年9月、PR TIMESは、ismの株式すべてを取得し完全子会社化すると発表しました。本件M&Aの取引金額は非公開です。買収側のPR TIMESは、東京都に本社を置くPR会社です。2005年12月に設立され、同名のプレスリリース配信サービスの運営や、企業の広報・広聴活動の支援を主な事業としています。
売却側のismは「もっと、わたしらしく」を理念に、「女性の働くを楽しくする」ことにつながる事業を展開し、働く女性向けコミュニティーを運営する企業です。本件M&Aの目的は、PRパートナー事業や運営メディアのコンテンツ制作体制の強化・働く女性向けコミュニティーとのシナジー効果の最大化にあります。
⑧ハードオフコーポレーションがインフォノースを買収
2020年2月、ハードオフコーポレーションは、インフォノースの株式すべてを取得し、子会社化しました。ハードオフコーポレーションは、リユース品の取り扱いの大手企業です。対象会社となっているインフォノースは、POS(販売時点情報管理)システムの開発・保守を行っている会社です。
ネット通販とリアル(実)店舗との融合によるオムニチャンネル戦略を推し進めており、今回のM&Aにより、システム開発の内製化促進を目指しています。
⑨メルペイがOrigamiを買収
2020年1月、メルペイは、Origamiの株式すべてを取得し子会社化すると発表しました。株式取得価額は非公開です。買収側のメルペイは、メルカリの子会社としてスマートフォン決済事業を手掛けています。
対する売却側のOrigamiは、M&A以前よりQR・バーコード決済サービスを展開していた企業です。本件M&Aの実施には、「スマートフォン決済事業における競争の激化」が背景にあるとされています。M&A後は、両社の持つ強みを生かしながら、日本におけるキャッシュレス化のさらなる推進が図られている状況です。
⑩日立製作所がREAN Cloud LLCを買収
2018年7月、日立製作所の米国子会社であるHitachi Vantaraは、パブリッククラウドサービス事業を展開するREAN Cloud LLCの株式を取得し、子会社化しました。
日立製作所は、OTとIT、プロダクト・システムを組み合わせて解決する社会イノベーション事業をグローバルに展開しています。
対象会社であるREAN Cloud LLCは、リーディングクラウドサービスプロバイダーとしてアメリカ市場で高く評価されている会社です。また、ビッグデータやIoT技術、ソリューションなども提供していました。
今回のM&Aにより、統合的なクラウド関連サービス事業の拡大や、デジタルトランスフォーメーションの加速を目指しています。
⑪メルカリがマイケルを完全子会社化
2018年10月、メルカリは、マイケルを完全子会社化しました。本件買収価格は8,800万円です。買収側のメルカリは、ウェブ・インターネット関連事業を手掛ける会社であり、フリマアプリを運営しています。対する売却側のマイケルは、自動車ユーザーに向けた関連サービスを提供する企業です。
今回の完全子会社によって、メリカリはマイケルの有する関連データや顧客・コミュニティー基盤の吸収を通じて、自社運営アプリにおける個人間売買のサポート強化を図っています。
⑫ヤフーがdelyを買収
2018年7月、ヤフーは、delyの株式を追加取得しました。ヤフーは子会社を通じて、すでにdelyの株式15.9%を保有済みであり、本件で株式保有率が45.6%となり連結子会社化しています。
delyは、レシピ動画サービス「kurashiru」(クラシル)を運営するベンチャー企業です。「kurashiru」は、20代から40代の女性を中心に利用されている人気サービスです。今回のM&Aにより、ヤフーのコンテンツ力強化とdelyの収益力強化を目指しています。
⑬マネックスグループがコインチェックを買収
2018年4月、マネックスグループは、コインチェックの株式すべてを取得し、完全子会社化しました。マネックスグループは、証券や投資助言などのサービスを行っている金融の大手企業です。
対象会社であるコインチェックは、仮想通貨の取引所サービスを運営するIT企業です。本件M&Aでは、本格的に仮想通貨事業に参入する目的で、先駆者のコインチェックを買収しています。
⑭エイチームがIncrementsを買収
2017年12月、東証1部のエイチームは、Incrementsの株式をすべて取得し、子会社としました。エイチームは、スマートフォン向けゲームを開発する会社です。対象会社であるIncrementsは、プログラマー向け技術情報共有サービス「Qiita」などを運営しています。今回のM&Aにより、新しい事業展開の加速を目指しています。
⑮KDDIがソラコムを買収
2017年8月、KDDIは、ソラコムの株式をすべて取得し、連結子会社化しました。KDDIは、日本の大手通信事業会社です。対象会社であるソラコムは、通信プラットフォーム「SORACOM」を提供し、IoT領域における業界をけん引する会社です。
今回のM&Aにより、KDDIのIoTビジネス基盤とソラコムの通信プラットフォームを連携させ、国内・海外におけるIoTプラットフォームの構築および新たなIoTビジネスの創出を目指しています。
⑯富士通が古河インフォメーション・テクノロジーを買収
2017年5月、富士通は、古河インフォメーション・テクノロジーを買収しました。本件買収価格は非公開です。買収側の富士通は、国内最大手の総合エレクトロニクスメーカーとして、コンピューター・情報システム・電子デバイスなどの製造や販売を幅広く行っています。
対する売却側の古河インフォメーション・テクノロジーは、古河電工グループの企業として、光ファイバーや電子部品で世界トップクラスのシェアを誇っている企業です。今回の買収により、富士通は、古河電工グループとの関係強化を図っています。
また、古河電工グループの有するITシステムを総合的にサポートしつつ、古河電工グループのIT技術・ノウハウを吸収して富士通における製造技術の強化を図っています。
⑰NTTデータがシャープビジネスコンピュータソフトウェアを買収
2016年11月、IT業界で日本最大手のSIerであるNTTデータは、シャープの孫会社であるシャープビジネスコンピュータソフトウェアを買収しました。本件買収価格は24億4,000万円です。売却側のシャープビジネスコンピュータソフトウェアは、スマートフォンなど組み込みソフトウェアの開発を手掛けています。
この買収により、NTTデータは、IoT関連事業への進出を果たしました。最先端のIT技術を取り入れるために実施したM&Aとして、この事例は典型的です。もともとNTTデータは、以前にも海外の企業を中心に積極的なM&Aを実施していました。
一連のM&Aにより、企業全体の規模拡大に成功し、日本のSIerにおけるトップ企業に成長しています。NTTデータは、今後もIoT関連事業の拡大のために、国内外を問わず積極的なM&A実施を図る見込みです。
⑱ソフトバンクグループがARM Holdings plcを買収
2016年9月、ソフトバンクグループは、ARM Holdings plcの株式をすべて取得し、完全子会社となりました。
ソフトバンクグループは、通信事業・インターネット広告事業・ファンド事業などをさまざまな方面で展開するIT企業です。ARM Holdings plcは、半導体技術の研究・開発を行っている会社です。
今回のM&Aの目的は、知的所有権を既存市場と新規市場の双方で浸透させ、イノベーションを起こす投資を拡大することでした。
⑲NECがArcon Informatica S.A.を買収
2016年8月、NECは、Arcon Informatica S.A.を買収しました。本件買収価格は非公開です。買収側のNECは、国内最大手のコンピューターメーカーとして、インターネット事業にとどまらずコンピューター・電気通信機器の製造・販売なども手掛けています。
対する売却側のArcon Informatica S.A.は、ブラジルに拠点を持ち、ITセキュリティにまつわるコンサルティング・システム構築などの事業を手掛けるITセキュリティ会社です。M&A以前より、幅広い業種で大手クライアントを抱えていました。
この買収によって、NECは、買収企業の有するITセキュリティ技術・ノウハウおよび大手顧客への対応力の獲得に成功しており、これらを応用しながらブラジルにおけるITセキュリティ事業の推進ながを図っています。このように、海外進出の契機としてもM&Aは活用可能です。
⑳ヤフーがイーブックイニシアティブジャパンを連結子会社化
2016年6月、ヤフーは、イーブックイニシアティブジャパンを連結子会社化しました。本件買収価格は約20億円です。買収側のヤフーは、ポータルサイトを運営しています。対する売却側のイーブックイニシアティブジャパンは、電子書店の運営およびオンライン書店の開発・運営を手掛ける企業です。
この連結子会社によって、ヤフーは買収企業の持つ技術・ノウハウを吸収しながら、自社で運営する電子書籍事業のさらなる発展を図っています。
IT企業は株式譲渡・会社譲渡については、下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
IT業界注目のM&A事例15選
ここでは、IT業界注目のM&A事例を取り上げます。それぞれの事例からポイントをつかんで、自社のM&A戦略策定にお役立てください。
- 楽天グループがRakuten USA, Inc.とAltiostar Networks, Inc.を買収
- Googleがpringを買収
- ディー・エヌ・エーが日本テクトシステムズを買収
- ユナイテッドがリベイスを買収
- ブログウォッチャーがコロプラの位置情報分析事業を買収
- テクノホライゾンが市川ソフトラボラトリーを買収
- GMOフィナンシャルホールディングスがワイジェイFXを買収
- ダスキンがEDISTを買収
- じげんがベーシックの比較メディア事業を買収
- ガイアックスがロコタビを買収
- アイスタディがエイム・ソフトを子会社化
- モルフォがTop Data Scienceを子会社化
- ナレッジスイートがビクタスを買収
- マネックスグループがコインチェックを完全子会社化
- ロゼッタがエニドアを買収
①楽天グループがRakuten USA, Inc.とAltiostar Networks, Inc.を買収
2021年8月、楽天グループは、完全子会社であるRakuten USA, Inc.をとおして、Altiostar Networks, Inc.の株式を追加取得し、完全子会社化しました。
楽天グループは、コマースやアド&マーケティング・コミュニケーションズ&エナジー・インベストメント&インキュベーション・フィンテックなどの事業を行っている会社です。
対象会社であるAltiostar Networks, Inc.は、楽天モバイルが事業展開する「Rakuten Communications Platform」で、Open vRAN ネットワーク機能に関するソフトウェアを提供しています。
今回のM&Aにより、パートナーシップを強化し、世界のモバイル業界に向けて、ソフトウェア中心の仮想化されたサービスの導入拡大を目指しています。
②Googleがpringを買収
2021年7月、メタップスは、持分法適用関連会社pringの保有するすべての株式を、Google International LLCに譲渡しました。メタップスは、ファイナンス・マーケティング・DX支援・モバイルアプリ事業を行っている会社です。
pringは、お金のコミュニケーションアプリ「pring(プリン)」の企画・開発・運営の事業を行っています。今回のM&Aにより、メタップスは事業ポートフォリオを見直しつつ、Googleとのパートナーシップに伴い、事業展開を加速させて、さらなる企業成長を目指しています。
③ディー・エヌ・エーが日本テクトシステムズを買収
2021年7月、ディー・エヌ・エーは、自社を株式交換完全親会社、日本テクトシステムズを株式交換完全子会社とする株式交換を行いました。
ディー・エヌ・エーは、ゲーム・エンターテインメント・スポーツ・ライブストリーミング・ヘルスケア・オートモーティブ・Eコマースなど、さまざまな事業展開を行っています。
対象会社である日本テクトシステムズは、認知機能検査関連におけるシステムの販売・製造、認知機能関連システム、認知症領域のデータプラットフォーム構築などの事業を行う会社です。
今回のM&Aにより、既存サービスの強化・エビデンス創出を飛躍など、お互いの経営資源を最大限に生かしながら企業の成長を目指しています。
④ユナイテッドがリベイスを買収
2021年6月、ユナイテッドは、リベイスのすべての株式を取得し、子会社化しました。ユナイテッドは、DXプラットフォーム事業・インベストメント事業・アドテクノロジー事業・コンテンツ事業などを手掛ける会社です。
対象会社であるリベイスは、デザイナーと企業をマッチングするデザイン特化型クラウドソーシングサービスをメインに行っている会社です。
今回のM&Aにより、両社が保有するサービスを組み込むことで、さらなるサービスの強化・拡大と、対応領域の拡大、クロスセルによる案件増加を目指しています。
⑤ブログウォッチャーがコロプラの位置情報分析事業を買収
2021年6月、ブログウォッチャーは、コロプラの位置情報分析事業を買収しました。ブログウォッチャーは、ユーザープロファイルを活用したライフログ活用事業、行動分析、Webサイト構築によるソリューション提供などの事業を行っています。
コロプラは、ゲーム事業・VR事業・投資事業をメインに行っており、今回対象となった事業は、位置情報分析コンサルティングサービスを提供する「おでかけ研究所」です。今回のM&Aにより、事業の持続的な成長と事業価値の向上を目指しています。
⑥テクノホライゾンが市川ソフトラボラトリーを買収
2021年6月、テクノホライゾンは、市川ソフトラボラトリーのすべての株式を取得し子会社化しました。テクノホライゾングループは、映像&IT事業・ロボティクス事業を行う会社です。
そして、対象会社である市川ソフトラボラトリーは、画像処理技術の提供や開発、一般消費者向け・教育機関向けのソフトウェアの開発・販売を手掛けている会社です。
今回のM&Aにより、両社の共同開発と販売網を活用した事業拡大を目指しています。
⑦GMOフィナンシャルホールディングスがワイジェイFXを買収
2021年5月、GMOインターネットの連結子会社であるGMOフィナンシャルホールディングスは、ワイジェイFXのすべての株式を取得し、子会社化しました。
GMOフィナンシャルホールディングスは、金融商品取引業などを行う連結子会社の経営管理および、それらに関連する業務を行う会社です。対象会社であるワイジェイFXは、第一種・第二種金融商品取引業、投資助言業を行っています。
今回のM&Aにより、ノウハウや経営資源などの連携を強化し、サービスの価値向上とシェアの拡大を目指しています。
⑧ダスキンがEDISTを買収
2021年4月、ダスキンは、アドベンチャーの子会社であるEDISTのすべての株式を取得し、完全子会社化しました。ダスキンは、訪販グループ・フードグループ・海外展開などを行う会社です。
アドベンチャーはコンシューマ事業や投資事業を行っており、EDISTは洋服などのレンタルサイト運営を行っています。
今回のM&Aにより、EDISTのオンラインマーケティングノウハウの融合によって、訪販グループのサービスドメインの拡充を目指しています。
⑨じげんがベーシックの比較メディア事業を買収
2020年11月、じげんは、ベーシックの比較メディア事業を買収しました。じげんは、ライフメディアプラットフォーム事業を展開している会社です。
対象会社であるベーシックは、SaaS事業・メディア事業を手掛けている会社です。今回のM&Aにより、メディア市場のシェア拡大・グループの既存事業との相乗効果を目指しています。
⑩ガイアックスがロコタビを買収
2020年6月、ガイアックスは、ロコタビの株式を追加取得して子会社化すると発表しました。本件買収により、従来の持ち株比率11.56%を50.002%にまで引き上げています。株式取得価額は非公開です。
買収側のガイアックスは、ソーシャルメディアおよびシェアリングエコノミーに注力しながら、法人向けのBtoB事業や一般消費者向けのCtoC事業を展開する企業です。売却側のロコタビは、海外在住の日本人に観光案内・現地サポート・ビジネス翻訳・食事アテンドを依頼できるマッチングサイトを運営しています。
M&Aの目的は、シェアリングエコノミー関連サービスの拡充にありました。
⑪アイスタディがエイム・ソフトを子会社化
2019年9月、アイスタディ(現:クシム)は、エイム・ソフトを子会社化すると発表しました。株式取得価額は3億6,800万円です。買収側のアイスタディは、人材育成や採用支援事業を中心に手掛けつつ、eラーニングシステムの開発販売・イベントサービスの映像配信などのIT事業も行っています。
売却側のエイム・ソフトは、IT業界でコンサルティングやシステム開発支援を行っていました。今回の子会社化によって、アイスタディはエイム・ソフトの抱える専門性が高い従業員を手に入れて、さらなる事業拡大を狙っていく見込みです。
⑫モルフォがTop Data Scienceを子会社化
IT業界では、組み込み機器の画像処理技術を用いた各種ソフトウェア開発を手掛けるモルフォと、フィンランドでヘルスケアや産業用IoTなどの事業を展開するTop Data ScienceのM&Aも興味深い事例です。
2018年11月、モルフォは、Top Data Scienceを子会社化しました。本件買収価格は5億7,300万円です。これによって両社の技術やノウハウを生かした事業を共同開発していく姿勢が取られています。
もともと両社は業務提携を結んでおり、ディープラーニングを応用した新技術を開発するなど、一定の成果を挙げていました。今後も、モルフォとTop Data Scienceの共同開発によって、画期的な技術が世に送り出されていくものと見られます。
⑬ナレッジスイートがビクタスを買収
IT業界における最重要課題のひとつとされる「人材不足の解決」を目指したM&Aが、2018年9月のナレッジスイートによるビクタス買収です。クラウドサービスを取り扱っているナレッジスイートは、IT技術者の育成や派遣事業を手掛けるビクタスの買収でIT技術者育成事業に進出しました。
本件の買収価格は3億1,700万円です。これに伴い、市場のニーズに備えた技術力や研究開発体制の獲得により、収益基盤を強化しながら安定的な経営基盤を獲得しています。この事例は、IT業界の課題への解決策としてM&Aが用いられた典型例です。
⑭マネックスグループがコインチェックを完全子会社化
2018年4月、マネックスグループは、コインチェックを完全子会社化しました。本件買収価格は36億円です。買収側のマネックスグループは、ネット証券の「マネックス証券」を運営しており、ブロックチェーンや仮想通貨の持つ大きな可能性に着目して仮想通貨交換事業への参入準備を進めていました。
対する売却側のコインチェックは、国内仮想通貨取引所の先駆者的企業です。TVコマーシャルを積極的に実施しながら、仮想通貨や自社の認知度を急速に強めました。今回の完全子会社化によって、マネックスグループは、コインチェックの手掛ける事業を全面的にサポートすると表明しています。
また、コインチェックの有する経営・システム管理に関する技術・ノウハウ・人材を吸収しながら、仮想通貨ビジネスの強化を図っています。
⑮ロゼッタがエニドアを買収
これは、最先端のIT技術を持つ企業同士がM&Aを実施した事例です。2016年8月、AIを活用した自動翻訳支援ツールの開発・翻訳受託サービスを手掛けるロゼッタは、翻訳者クラウドソーシングサービス「Conyac」を運営するエニドアをM&Aにより買収しました。本件買収価格は約14億円です。
この買収により、ロゼッタは自身の技術とエニドアの技術をかけ合わせてシナジー(相乗)効果を獲得するだけでなく、両社が得意とする翻訳の分野を組み合わせてシェア・顧客の拡大にも成功しています。
昨今ではAI・ソフトウェアを用いた自動翻訳事業が盛んであり、将来的に一般化すれば翻訳・通訳業界の構造やビジネスモデルを一変させる可能性が高いです。そのため、ロゼッタとエニドアのようなM&A事例は、業界全体を変革する可能性を秘めた事例といえます。
IT業界におけるM&Aの失敗事例5選
本章では、IT業界におけるM&Aの失敗事例として以下の5つを取り上げます。
- エイチームによるIncrementsの買収
- ディー・エヌ・エーによるiemoとペロリの買収
- マイクロソフトによるノキア社の買収
- グリーによるポケラボの買収
- タイムワーナーとAOLの合併
それぞれの失敗事例を見て、自社のM&A戦略策定に生かしましょう。
①エイチームによるIncrementsの買収
2017年12月、エイチームは、Incrementsの株式すべてを取得し連結子会社化しました。本件M&Aの取引金額は14億5,300万円です。買収側のエイチームはソーシャルゲームをはじめ、複数のWebサービスを展開しています。
売却側のIncrementsは、プログラマー向けの情報共有サービス「Qiita」などを提供する企業です。本件M&Aの目的は、中長期的成長の実現や企業価値向上の加速化にありました。ただし、M&A直後にエイチームの業績は伸長したものの、2019年以降は売上が伸び悩んでいます。
この要因には新型コロナウイルス感染症拡大の影響も含まれますが、M&Aの失敗事例として捉える有識者も少なくありません。
②ディー・エヌ・エーによるiemoとペロリの買収
2014年10月、ディー・エヌ・エーは、キュレーションサイトを運営するiemoおよびペロリを買収しました。本件買収価格は合わせて約50億円です。
買収側のディー・エヌ・エーは、モバイルゲーム開発・配信を主業としながら、SNS運営および電子商取引サービスなども手掛けています。
M&Aの目的は新たな収益源の獲得にありましたが、サイト内に不正確な内容・医師の監修がない医療情報・著作権侵害コンテンツなどが大量に掲載されている事実が明らかになり、M&A後に10のサイトを閉鎖しました。
こうした一連のトラブルにより買収価格を回収できず、結果的に減損を計上したのです。事態は大きく報道されてディー・エヌ・エーは謝罪会見を実施したほか、企業イメージ悪化を免れぬ事態に陥りました。
この失敗は、売却側のコンプライアンス意識の低さを買収前に見抜けなかったことが主な原因となり生じたとされています。また、企業価値評価にも疑問の声が挙がっており、組織内で統一されたM&A戦略の重要性が叫ばれた事例です。
③マイクロソフトによるノキア社の買収
2014年4月、マイクロソフトは、ノキア社の携帯電話事業を買収しました。本件買収価格は54億4,000万ユーロ(約72億ドル)です。買収側のマイクロソフトはアメリカ・ワシントンに拠点を構えており、ソフトウェアを開発・販売しています。
対する売却側のノキア社は、フィンランド・エスポーに本社を持つ、通信インフラ施設・無線技術を中心とする開発ベンダーです。本件M&Aの目的はスマホ分野の開発推進にありましたが、M&A後にマイクロソフトの業績は悪化し、買収価格を上回る減損処理に加えて大量のリストラを実施しています。
失敗の要因としては、アップル・グーグルの圧倒的なシェアの存在が深く関係していると考えられています。また、企業文化の違いを十分に理解できず、経営統合がスムーズに進まなかった点もひとつの要因です。
④グリーによるポケラボの買収
2012年10月、グリーは、ポケラボの株式すべてを取得し完全子会社化すると発表しました。本件M&Aの取引金額は138億8,600万円です。買収側のグリーは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス 「GREE」を運営しており、ソーシャルメディア事業を中核に据えています。
売却側のポケラボは、2007年に設立されたゲームデベロッパーであり、「やきゅとも!」「サムライ戦記」など登録者200万人を超えるゲームを複数開発している企業です。本件M&Aの目的は、スマートフォンにおけるモバイルソーシャルゲームの開発力強化にありました。
しかし、M&A後にスマホゲームの流行が転換したことで、ポケラボの業績は落ち込んでしまいます。結果として、2015年6月期末には減収を記録し、約103億円の赤字を計上しました。
⑤タイムワーナーとAOLの合併
2000年1月、タイムワーナー(現:ワーナーメディア)は、AOLとの合併を発表しました。タイムワーナーは、アメリカの総合メディア企業です。対するAOLは、アメリカのインターネット企業の大手として知られています。
本件M&Aの目的は、ケーブルテレビ網を利用したブロードバンド接続およびコンテンツのネット配信などにおける相乗効果の獲得でした。
しかし、合併後の新会社「AOLタイムワーナー」は、2002年の決算で1,000億ドル規模の膨大な赤字を計上したのです。
その後も社内の融合は円滑に進まず、2009年にAOLが分離したことで両社の合併は終了しました。失敗の主な原因は、合併後にITバブルがはじけたことや、タイムワーナー側とAOL側における企業文化に相違があったことなどが挙げられます。
IT業界とは
ここでは、業界の定義を整理します。そもそもITとは情報技術(Information Technology)の略称であり、システム・アプリ・ソフトウェア・情報処理・通信インフラといったインターネット関連技術のことです。
上記を踏まえて、IT業界とは情報技術に関する業界をさしますが、多くの業種・職種が絡み合いながらさまざまな技術・サービスが提供されている点に特徴があり、一概に定義するのは困難です。また、近年では、IT企業の業種的なすみ分けがボーダレス化しています。
とはいえ、IT業界は、大まかにソフトウエア系・ハードウエア系・情報処理系・通信インフラ系・インターネットサービス系・クラウドサービス系などに分類が可能です。
IT統合でM&Aを成功させる方法については、下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
IT業界に該当する企業
IT業界に該当する企業には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、IT業界の系統別に代表的な企業を紹介します。
まず、企業ソフトウエア系のIT企業の代表例は、以下のとおりです。
- 日本オラクル
- NTT DATA
- トレンドマイクロ
- オービック
- 東芝テック
- アドビシステムズ
続いて、ハードウエア系のIT企業の代表的な存在としては、以下の3社が挙げられます。
- 日立
- SONY
- パナソニック
最後に、通信インフラ系のIT企業の代表例は、以下の4社です。
- NTT東日本
- NTTドコモ
- KDDI
- ソフトバンク
IT業界の最新M&A動向【2023年】
ITとは情報技術(Information Technology)の略称であり、システム・アプリ・ソフトウェア・情報処理・通信インフラなどのインターネット関連技術のことです。ここからは、ITを専門的に手掛ける企業が属する「IT業界」に見られる特徴・問題点などを中心に解説します。
IT業界とIT市場の特徴
IT業界は、多重下請け構造などの大きな仕組みで成り立っています。具体的な内訳は、大手企業の一次請けから、開発・運営業務を担う二次請け・三次請けと連なるピラミッド形の構造です。IT業界では、大手・中小企業・ベンチャー企業など、さまざまな規模の企業がひしめき合っています。
従来のIT業界では受託型ソフトウェア開発が主流でしたが、昨今は業態が多様化しています。また、IT技術の発展によって、IT・クラウドサービス・ビッグデータ・IoT・認証システム・VRなど、さまざまな技術が続々と登場している点も特徴的です。
ここにスマートフォンの普及拡大が重なったことで、事業の種類も急速的に増加しています。加えて、マイナンバー制度の導入・金融業界のシステム更新・IT技術の導入などにより大規模案件が増えており、IT企業へのニーズは年々高まっている状況です。
現代は、あらゆるモノがインターネットに接続される時代です。IT技術の発展が続く限り、IT業界は今後も多様化を続けます。こうした特徴を持つIT業界の市場は非常に大きく、2020年度には総額で12兆9,700億円(前年度比0.6%増)にまで達しました。
近年は東日本大震災やリーマン・ショックの影響で一時的に低迷期が見られたものの、投資の回復も相まってIT業界の市場は徐々に拡大を続けています。
IT業界が抱えている問題点
一見すると好調なIT業界ですが、実は慢性的な問題点「人材不足」を抱えている状況です。好調であるはずのIT業界で発生している人材不足は、IT技術の発展が原因となり生じています。
IT業界は良くも悪くも発展が著しく、新技術が登場するスピードは非常に速いです。そのため、新しく登場した技術に人材が追い付けない状況が生じています。また、公的機関・大企業などでもIT技術の導入が加速度的に進んだことで、IT業界への需要が急増した状況も人材不足に拍車をかけました。
この「新技術の登場スピード」と「需要の増加」が要因となって、IT業界は慢性的な人材不足に悩まされています。IT業界全体では、約30万人の人材不足が発生しており、約8割のIT企業が人材不足に悩んでいる状況です。
人材不足の傾向は今後も継続する見込みで、2030年には約79万人にまで拡大するおそれがあります。今後も人材不足が拡大すれば、IT業界の根底を揺るがす致命的な事態に陥りかねません。
IT業界のM&A動向
IT業界に見られる主なM&A動向は、以下のとおりです。
- 増加傾向にある(特に人材確保を目的とするM&A)
- 異業種・他業種からの参入も増えている
- 異業種・他業種を買収する事例も増加中
IT業界では、人材が定着しにくく新しい人材を取り入れることが難しい傾向がありました。この傾向は特に中小企業やベンチャー企業で強く、過酷な労働環境が「ブラック企業」の状態を引き起こしやすくなっているのが現状です。
そのため、常日頃から納期に追われるハードスケジュールが人材に悪影響を与えて、離職してしまうケースも少なくありません。なお、常に新しい技術が登場するIT業界では、40代以上の人材と20代の人材との間でスキルや知識に大きな差が生まれやすいです。
したがって、減少した人材を40代以上の人材で補うことは非常に困難です。こうした性質が見られるIT業界では、求人倍率も高い傾向にあります。とはいえ、もはや新卒採用・中途採用などでは人材をまかなえず、真剣に人材不足を解消しなければならない状況です。
このように人材不足が原因の問題を解決するうえで、M&Aは非常に有効な手段となります。また、多様化するIT業界の現状を受けて、ニーズに対応すべく異業種・他業種とのM&Aも増加中です。
IT業界でのM&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所には、M&Aに関する専門知識・経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、培ってきたノウハウを生かしてM&Aをフルサポートいたします。
通常、M&Aでは半年〜1年程度の期間が必要とされていますが、M&A総合研究所ではスピーディーなサポートを実践しており、最短3カ月での成約実績も有しています。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ、譲受企業様は中間金がかかります)。相談料は無料となっておりますので、お気軽にお問い合わせください。
IT業界の積極買収企業一覧
本章では、IT業界の積極買収企業を5社紹介します。これらの企業はIT業界のM&Aで有力なパートナー候補に位置付けられるため、概要を把握して自身のM&A戦略に生かしましょう。
企業名 | 事業概要 | アピールポイント |
ラック | ・業界トップレベルの技術を駆使したセキュリティサービスの提供 ・金融機関をはじめ大手企業・官公庁向けにITソリューションを提供する独立系ITベンダー |
セキュリティ監視、セキュリティ診断、緊急対応などのセキュリティをはじめ、メインフレームからスマートフォンまで幅広いプラットフォームに対応したシステム開発を提供 |
Branding Engineer | ・ITエンジニア向けに仕事のマッチング、独立支援、スキル教育などの事業を展開 ・自社メディアも運営して、エンジニアやビジネスパーソンの関心の高いトピックを扱い、広告収入を獲得 |
・主軸の人材派遣サービスではユーザー数13,000人超 ・取引経験のある社数は数千社 ・顧客基盤に加えて他社媒体へのコンサルティングでも実績を挙げているメディア運営ノウハウを提供可能 |
ナレッジスイート | 中堅・中小企業向けCRM/SFAクラウドサービスのほか、SaaSを提供するDX事業とシステム開発やIT技術者派遣を行うBPO事業を展開 | M&Aだけでなく、出資・事業提携も含めて迅速に判断可能 |
freee | 「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに、個人事業主から中規模法人まで対応 ・会計、人事労務、税務申告などのバックオフィス業務を自動化する統合型クラウドERPを提供 |
・23万の有料課金事業者を持つサービスの開発を通じて培ったチーム開発のノウハウやインフラを保有 ・生産性高く製品開発を実現できるほか、スキルアップにもつなげられる |
アクシス | ・金融分野で豊富な業務ノウハウを持ち、都市銀行などのシステム開発を手掛けるSI事業が主力 ・2018年にクラウドサービス事業を開始 ・法人向けに車両位置情報などを提供するサービス「KITARO」も好調 |
・2020年9月、東証マザーズ上場 ・大手SIerとの太いパイプが強み ・金融機関や官公庁向けなど公共性の高い仕事に携わり安定した収益を確保 ・プログラムレスのクラウドサービスも開発 |
IT業界におけるM&Aの4つのメリット
本章では、IT業界におけるM&A事情を具体的に紹介します。IT業界は非常にM&Aが活発な業界であり、人材不足といった慢性的な問題の解消などさまざまな理由でM&Aを実施する必要に迫られています。IT業界でM&Aを実施するメリットは、以下のとおりです。
- 人材不足の解消
- 新技術の獲得
- 経営基盤の強化
- 海外市場の進出
それぞれのメリットを順番に紹介します。
①人材不足の解消
IT業界におけるM&Aの最大のメリットは、人材不足の解消にあります。IT業界では慢性的に人材不足に陥っており、新卒採用や中途採用では追い付かないため、スピーディーな人材確保手段としてM&Aは最適です。
M&Aを活用すれば、まとまった数の人材を確保できるだけでなく、すでに研修を受けてスキルを身に付けた質の高い人材を引き継げます。一般的な採用活動よりも人材の数および質をまとめて獲得できるM&Aであれば、企業の人材不足を効率的に解決が可能です。
ITやIoTなど最先端技術に特化した人材が欲しい場合も、これらの技術を持つ事業を買収すればノウハウと人材を両方獲得可能です。現時点では、IT業界の人材不足は根本的な解決方法が見つかっていないため、M&Aによって人材不足解消を図るIT企業は今後も多く見られると推測されます。
②新技術の獲得
IT業界は常に新しい技術が開発されており、いかにこれらを取り入れていくのかが重要視される業界です。M&Aを活用すれば、新技術を持つ企業をそのまま取り込めるため、新技術の開発費用・時間を大幅に省略できるメリットが得られます。
AIやビッグデータなどの最先端技術は研究に多くの時間がかかるため、M&Aによって丸ごとを承継できれば、得られるメリットが非常に大きいです。そのため、昨今では異業種の企業がIT技術の強化に向けてIT企業を取り入れるケースも増加しています。
近年は、IoTなどさまざまなモノが当たり前のようにインターネットにひも付けられる時代です。そのほか、小売・人材派遣・翻訳・通訳など多様な分野でIT技術は活用されています。こうした傾向に伴い、自社のIT部門を強化するために、IT企業をM&Aで買収する企業が増加中です。
M&Aは、異業種からの新規参入でも、新事業立ち上げにかかる時間・コストを削減できる点に大きなメリットがあります。
③経営基盤の強化
これはM&Aの売り手側となる場合に期待できるメリットですが、M&Aを活用すれば経営基盤を強化できます。特に中小・ベンチャーのIT企業は、規模の都合上、資金繰りが厳しく融資を受けることが困難です。
とはいえ、新技術の開発をはじめシステム・サーバーなどの維持費を踏まえると、IT企業では常に一定以上の資金を確保し続ける必要性があります。そのため、大企業に自らを売却して大手の資本を取り入れながら経営基盤を強化するM&Aケースも増加中です。
④海外市場の進出
IT業界の国内市場は好調ではあるものの、人口減少も相まって全体的に縮小傾向にあります。人材不足の深刻化と同時に少子化も進んでいる中で、IT企業の海外市場への進出は有効な経営戦略です。
海外市場に進出すれば、新たな市場を開拓しながら海外のIT企業の技術を取り込めます。また、海外の人材も取り込めるため、人材不足の解決も可能です。昨今では、たとえM&Aを実施せずとも、人材確保のために外国人労働者の採用に目を向けるIT企業も増加中です。
国内にとどまらず海外に飛び出していくことも、有意義な経営戦略とされています。
IT企業の売却額を上げる方法については、下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
IT業界におけるM&Aの3つのデメリット
IT業界のM&Aにはさまざまなメリットがある反面、デメリットも少なからず存在するため注意が必要です。そこで本章では、IT業界におけるM&Aのデメリットとして以下の3つを取り上げます。
- 債務のリスク
- M&Aによるシナジー効果が薄い
- 社員の退職、社風の不一致
それぞれのデメリットを把握して、IT業界のM&Aにおける失敗を回避しましょう。
①債務のリスク
1つ目のデメリットは、債務のリスクです。M&AによりIT企業を買収する場合、売り手側企業が抱える簿外債務・偶発債務などをそのまま引き継いでしまう可能性があります。特に偶発債務は、M&A後に発覚するとトラブルを引き起こしやすく、企業の資金力を低下させたり、業績を悪化させたりするおそれがあるのです。
M&A後に想定外のトラブルに見舞われないよう、M&Aプロセスとしてデューデリジェンスを徹底して実施しましょう。
②M&Aによるシナジー効果が薄い
2つ目のデメリットは、シナジー効果の獲得です。たとえM&A取引を無事に終えられたとしても、想定していたシナジー効果が得られない可能性があります。そもそもシナジー効果の獲得可能性は、相手企業との相性が良いほど上昇する仕組みです。
そのため、少しでも相性の良い相手企業を見つけられるよう、広いネットワークを持つM&A仲介会社にマッチングを依頼すると良いでしょう。
③社員の退職、社風の不一致
3つ目のデメリットも、相手企業との相性にまつわるものです。M&A相手との相性が悪い場合、社員の退職が発生するおそれがあります。具体的にいうと、社風や待遇面で自社と相手企業との間で差異が存在すると、これに不満を感じた社員が離職する可能性が高いです。
場合によっては優秀な社員が大量に離職してしまい、IT企業の経営に深刻な悪影響を及ぼしかねないため、M&Aの際はPMIプロセスも念入りに実施しましょう。
IT業界におけるM&Aの注意点
IT企業ではM&Aが積極的に行われているものの、注意点も存在します。IT企業における最大の注意点は、「専門家の数が少ない」点です。IT業界は常に新しい技術が誕生しており、これに応じてビジネスモデルも刻々と変化しています。
そのため、新しい技術・ビジネスモデルに精通したM&A専門家が慢性的に不足している状況です。そのため、IT企業がM&Aのサポートを得ようと考えても、適切な専門家を見つけられずM&Aを円滑に進められないケースが目立っています。
IT業界でM&Aを成功させるには、自社に最適なM&A専門家を選ぶ方法を知っておくことも必要不可欠です。なお、M&Aだけでなく最先端のIT技術に関する専門家の不足も問題視されており、需要と専門家数のバランスが取れておらず、新技術の導入が妨げられています。
近年はIT企業専門のM&A仲介会社・コンサル会社が誕生しており、中には最先端技術に対応する業者も存在します。とはいえ、現時点ではこうした業者も数が少なく、IT業界全体をバックアップできるほどには至っていません。以上のことから、専門家の増員はM&A・IT業界ともに解決すべき課題といえます。
IT業界におけるM&A仲介会社の選び方
M&Aを実施する際にまず考慮すべきなのは、専門家への相談です。M&Aプロセスは複雑であるため、専門家の協力のもとで進めていくことをおすすめします。そこで最適なのは、M&A仲介会社の利用です。
昨今では相談料が無料であったり完全成功報酬制を採用していたりする会社が多く、なるべく手数料をかけずにM&Aを実施したい中小規模のIT企業におすすめの相談先といえます。
ここからは、IT業界でM&Aの仲介会社を選ぶ方法として、3つのポイントを紹介します。以下のポイントを基準にすれば、自社のM&Aで最適な仲介会社を見つけることが可能です。
- IT業界M&Aの実績が豊富であるか
- 料金体系がわかりやすく明確であるか
- 担当者がついてくれて親切であるか
それぞれのポイントを順番に解説します。
①IT業界M&Aの実績が豊富であるか
はじめに確認すると良いポイントは、「IT業界でのM&Aの実績が豊富であるかどうか」です。具体的にいうと、自社が行うM&Aと類似する規模の案件を取り扱った経験のある仲介会社に依頼すると、より適切なサポートが受けられます。
M&A仲介会社の実績を調べる際は、公式サイトを確認したり、実際に問い合わせたりすると良いです。たとえM&Aの成約実績が豊富であったとしても、IT業界におけるM&A実績が少ないようでは自社にとって最適な仲介会社とはいえません。
そのため、M&Aを検討したら、IT業界M&Aの実績に自信のあるM&A仲介会社を選ぶことがポイントです。
②料金体系がわかりやすく明確であるか
次に確認すると良いポイントは、「料金体系がわかりやすく明確であるか」です。後から予想外の請求をされて困ることがないよう、仲介会社の報酬体系を事前に確認しておくと安心して相談できます。昨今では、完全成功報酬型の料金体系を採用するM&A仲介会社も少なくありません。
また、依頼前の相談料金・着手金・中間報酬などさまざまな手数料を無料にしている会社も多く存在します。とはいえ、M&A仲介会社ごとに採用している料金体系は多種多様である点には注意が必要です。
M&Aを正式に依頼するときは、あらかじめ詳しく見積もりを出してもらえる仲介会社に依頼することをおすすめします。
③担当者がついてくれて親切であるか
最後に確認すると良いポイントは、「担当者がついてくれて親切に相談に乗ってくれるかどうか」です。依頼するM&A仲介会社によっては、担当者に専属でついてもらえないケースも少なくありません。
担当者に専属でついてもらえない場合、状況に応じて専門家がサポートしてくれる体制自体は心強いものの、困ったときに納得できるまで話を聞いてもらえないケースが多いです。自社のM&Aのためには担当者が専属でつく仲介会社を選ぶと良く、担当者がIT業界に詳しければ詳しいほど安心できます。
以上、IT業界におけるM&A仲介会社の選び方のポイントでした。ここからは、上記のポイントを踏まえたうえで、IT業界のM&Aに強い仲介会社を具体的に紹介します。
IT業界のM&A案件一覧
本章では、M&A総合研究所が取り扱っているIT業界のM&A案件一覧を紹介します。
事業の概要 | 売上高 | 営業利益 | 譲渡価格 |
元請SIer | 1億円〜2.5億円 | 〜1,000万円 | 希望なし |
物流・金融・保険のシステム・ソフトウエア開発 | 1億円〜2.5億円 | 非公開 | 5,000万円〜1億円 |
BPO企業 | 2.5億円〜5億円 | 1,000万円〜5,000万円 | 希望なし |
SES事業者 | 2.5億円〜5億円 | 1,000万円〜5,000万円 | 希望なし |
M&Aアドバイザーからのコメント
IT業界では、グローバル化の加速およびAI・IoTをはじめとする技術革新によって国内の市場規模が急速に拡大しており、今後も伸長が継続すると予測されています。ただし、最先端技術に対応可能な人材が不足しており、課題の解決が急務です。
そこで、M&Aにより、システムエンジニア(SE)やWebデザイナーなどの人材を確保して社員の教育にかける時間を削減しつつ、「多重下請け構造」からの脱却を図る大手IT企業が増加しています。現代はIT化が成熟し、いかなる企業でもIT技術なしでは業務を遂行できず、SEの必要性が加速度的に増す時代です。
経済産業省の調査によると、IT人材の平均年齢は2030年まで上昇の一途をたどり、高齢化の進行が予想されています。また、労働集約業態である日本のIT人材の低生産性を前提とすると、将来的に40~80万人規模で人材不足が生じるおそれがある状況です。
その一方で、IT業界では「自社の成長を加速させるために大手企業の経営資源を活用する」考え方が浸透しており、経営戦略のひとつとしてM&Aが広く認知されています。買い手側は買収後の対象会社とのシナジー効果の獲得を意識してM&Aを実施するため、売却企業ではさらなる発展を期待できます。
加えて、売却側としてもIPOに変わる出口戦略としてM&Aを選択する企業が増加しており、今後もIT業界ではM&Aが盛んに実施される見込みです。とはいえ、IT業界には独自のコミュニティーが存在し、投資家や起業家がお互いに情報共有するなど、特徴的なM&A取引が実施されています。
市場環境の変化は急激で目まぐるしいことから、M&Aにより着実に自社の成長を加速させるためにも、業界に特化したM&Aアドバイザーからサポートを受けると良いでしょう。
IT業界のM&Aのまとめ
IT業界は今後も発展が期待でき、市場の好調も続く可能性が高い業界です。これに伴いM&Aが積極的に行われており、常に新たなビジネスモデルが生まれる業界でもあります。
しかし、業界全体が好調であるゆえに人材の数が間に合っておらず、需要と供給のバランスが崩れつつある点がネックです。
以上のことから、IT業界では、M&Aの活用により、抱えている問題をいかに解決していくかを模索するのがポイントといえます。
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