2024年1月31日更新会社・事業を売る

M&AにおけるPMIとは?概要や手法、重要性、成功・失敗事例も紹介

PMIはM&Aの成功に直結する重要なプロセスですが、他国に比べると日本ではその重要性が十分に認識されていないといえます。ここでは、M&AにおけるPMIの重要性、PMIの進め方、PMI計画の策定やセミナーなど、事前知識を得る方法などを解説します。

目次
  1. M&AにおけるPMIとは?
  2. PMIの重要性
  3. PMIを始めるタイミング・期間
  4. PMIの成功のためのポイント(譲受側)
  5. PMI成功のためのポイント(譲渡側)
  6. PMIの流れ・進め方
  7. PMIの手法・統合内容
  8. PMIの成功事例
  9. PMIの失敗事例
  10. PMIの事前知識を得る方法
  11. M&AにおけるPMIのまとめ
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M&AにおけるPMIとは?

PMI(ピーエムアイ)とは、M&A後の経営統合を実行するプロセスをさし、M&Aで最も重要なプロセスの一つです。経営統合によるシナジーを最大化するために、新組織体制の下で長期的成長を支えるマネジメントの仕組み作りおよび企業価値の向上を推進します。

しかし、日本のM&AではPMIがしっかり行われるのは珍しく、PMIが不十分なためにM&Aで想定したシナジー効果を得られないケースは少なくありません。PMIは、M&Aの結果を左右するプロセスです。

今回は、PMIの意味を確認するとともに進め方や各プロセスのポイント、成功の秘訣などについて解説します。

PMIの概要・意味

PMIは「Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)」の略称です。M&A成立後における経営の統合プロセスをさします。

M&Aが成功であるかどうかは、PMIが成功するかによるといっても過言ではありません。買収前に期待した経営効果が実現できるかどうかは、PMIの成功により効果が発揮されるかが変わります。

経営面や業務面だけを統合すればよいわけではなく、従業員の意識面も統合しなければなりません。PMIを行う目的は、M&A効果の最大化とリスクの最小化であり、経営・業務・意識の3つを統合できてはじめて十分な効果が発揮されます。なかでも意識面の統合はデリケートで非常に難しいといわれるため、時間をかけて慎重に進めていくことが重要です。

PMIの重要性

PMIは、M&Aで想定したシナジー効果を実現し、その効果を最も発揮させるプロセスですが、PMIがしっかりと行われた事例は、決して多くありません。

M&Aでは対象企業との統合合意を取るために労力を割くあまり肝心の経営統合、つまりPMIに関して力が注がれないケースが多いです。本来PMIは、明確なビジョンと明確な計画を持って行います。

不十分なPMIの実施は、結果的に会社の成長へ悪影響を及ぼすため、M&Aのシナジー効果を得たい場合、PMIの適切な実施は必要でしょう。

しかし、M&A後の会社は安定していないため、PMIを適切に実行するのは困難です。PMIを行う際は、M&A専門家の協力を得るのがよいでしょう。

M&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には専門的な知識や経験が豊富なM&Aアドバイザーが在籍しており、M&Aをフルサポートいたします。

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PMIに知っておくべき、リスク

PMIはM&A後の事業運営を成功させるために不可欠な工程ですが、必ずしもうまく進むとは限りません。そのため、PMIで生じうるリスクをあらかじめ理解しておき、対策を取っておくことも重要です。想定される主なリスクは以下の3つがあります。

  1. 業務・経営上の混乱
  2. 従業員の反発や離職
  3. 想定した統合の効果が得られない
上記3つのなかで特に注意したいのは、従業員の反発や離職です。ノウハウや高いスキルをもつ従業員の存在は、円滑な事業運営に不可欠なものであり、中小企業の場合は人的資源が特に重要となります。

M&Aの実施についてすべての従業員が好意的に受け取るとは限らないため、丁寧に説明をして理解を得なければ反発や離職につながり、ひいては業務上で混乱が生じる要因ともなるでしょう。譲受側・譲渡側の経営者はPMIで生じうるリスクをよく理解しておき、事前に対策を行っておくことが重要です。

PMIによって期待できる成果

PMIがうまくいけば、M&Aに想定していた効果やシナジー発揮に期待できます。PMIによって期待できる成果には主に以下があり、それらすべてが十分得られれば、本当の意味でM&Aが成功したといえるでしょう。

予定していたシナジーの発揮

M&Aを行う際は、実施する前にシナジーを予定することが多いです。予定していたシナジー効果を上手に発揮するためには、経営統合をうまく進めて早く終わらせることが大切といえます。

できるだけ早く統合させれば効果を早い段階から得られるため、経営統合後、迅速に動けるよう準備を行ってください。

社員が抱く不満の解消

M&Aは異なる企業文化を持つ会社同士が統合するため、従業員間に摩擦が起こることも懸念されます。従業員には買収されたことをよいと思わない人もいるでしょう。

キーマン条項などで会社の重要な業務に携わる人は引き止めできますが、M&Aをよいと思ってない場合は業務に支障が起きないよう前もって説明などを行い理解してもらうことが大切です。

その他の従業員にも同じように説明などを実施して理解を得なければ損失を生じる可能性もあるので、PMIは慎重に進めてください。

内部統制やシステムの構築・統合

M&A後、統合した会社は不安定になるため、PMIの整備が十分でなければ業務での失敗、統合したシステムの不具合が発生しやすいです。適切な対処を行わなければ、業務が停滞し業績が低下するでしょう。

そうなれば、想定していたシナジー効果を得られず、M&Aが破談し莫大な損失の発生にもつながります。

買収された会社が中小企業の場合は、上場会社に耐えられる統制を築かなければなりません。中小企業は、内部統制が築かれていないことが多いです。内部統制の整備ができていなければ、業務がスムーズに進みません。

内部統制やシステムの構築や統合は、慎重・スピーディーに進めましょう。また、システムや内部統制などの方針に関してもグループに合わせましょう

PMIを始めるタイミング・期間

ここまで述べたように、本当の意味でM&Aを成功させるにはPMIの成否が大きなカギを握ります。では、PMIはM&A後のいつ頃から始めればよいのでしょうか。ここでは、PMIを始めるタイミングと必要とされる期間について説明します。

PMIを始めるタイミング

中小企業庁「中小PMIガイドライン ~ 中小M&Aを成功に導くために~」

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

PMIを始めるタイミングはもちろんクロージング後ですが、PMIの計画策定や準備はM&A交渉の早い段階から進めておくことが成功のカギともいえます。というのは、PMIの検討をいつ頃から始めるかによって、M&A効果やシナジー効果の実現が変わるためです。

上のグラフは中小企業が公表している「中小PMIガイドライン」のものですが、これをみるとM&Aプロセスの早期からPMIの検討を開始したケースでは、期待を上回る効果あるいは期待通りの結果が得られていることがわかります。

M&Aは実施前に想定していた効果・シナジーが十分発揮されて、はじめて成功といえるものです。譲渡側・譲受側はM&A交渉の早期段階からPMIの方針・計画をよく話し合っておき、M&A成立前から準備を進めていく必要があります。

PMIの期間

PMIを行ってからシナジー効果が発揮されるまでには、少なくとも1年程度は必要です。事業内容によっては十分な効果が得られるまでに数年かかることもあります。

PMIは長期的に取り組まなければならず、成功させるためには事前の計画策定はもちろんのこと、譲受側企業・譲渡側企業の経営者や担当者間の信頼関係が構築されていなければなりません。

PMIには年単位の期間が必要となることを十分理解したうえで、譲受側企業・譲渡側企業は意思疎通を図りながら早期にM&A効果が得られるよう工夫しながら進めることが重要です。

PMIの成功のためのポイント(譲受側)

PMIは複数の課題を解決するため、多角的にさまざまな物事に取り組みます。これを成功させるポイントは、下記のとおりです。

クロージング日までに統合計画の作成

PMIの計画はクロージング日までに作成しておく必要があります。というのは、PMI推進チームの人材を決めたり、キーパーソンの離職防止対策を行ったりなど、さまざまな準備や確認が必要となるためです。

これらはPMIを進めるうえでの課題となりやすいため、譲受側企業・譲渡側企業はトップ面談後あるいはデューデリジェンスが行われるタイミングを一つの目安としてPMIの具体的な進め方を協議し、準備を開始しておく必要があります。

あらかじめPMIの順をしっかり行っておくことで、クロージング後に生じやすい混乱を最小限にとどめることが可能です。

M&A専門家を活用したPMI計画の策定

PMIを成功させる不可欠なポイントは、統合プランをスムーズに、かつ長期的な視点で策定することです。PMIは統合1日目から始め、その段階で綿密なプランがなければ見とおしを立てるのが困難でしょう。従業員に指示を出す根拠も曖昧になります。

加えて、PMIは長時間かかる可能性があり、完璧な経営統合の実現には現場レベル、会社の構成要素からの調整も必要です。そのため、統合プランも長期的な目で定めます。M&Aを行う段階から買い手会社と売り手会社で、網羅的かつ長期的な統合プランを策定する必要があるのです。

策定する統合プランは、曖昧ではいけません。統合のプロセスを段階的にわかりやすく整理したうえで、それぞれのプロセスを遂行する担当者をあらかじめ決定し、詳細な統合プランを策定します。M&Aは契約を結ぶ段階でかなり労力を使うため、PMIに向けた統合プランの策定を進めるのは簡単ではありません。

統合プランを策定する場合は、経営コンサルティング会社やM&A仲介会社などM&Aに協力する専門家とともに行うほうが良いでしょう。

買収後のPMIにおける意思決定プロセスの確立

PMIを実行する際は、意思決定プロセスを確定しておけば楽です。M&A後は経営陣も含め、従業員も新しい組織体制に慣れておらず、現場で混乱が発生することが予測できます。経営統合を進める過程で意思伝達が円滑に行われなければ、PMIも停滞するでしょう。

統合プランを策定すると同時に、統合後の意志決定プロセスも確定させれば、その後におけるPMIが円滑に進みます。意思決定プロセスを確定させる際は、M&A後の組織がどのような形になるか想定し、組織における最適な意思決定プロセスを組んでください。

そのためには、M&Aの交渉が行われる段階から買い手と売り手の意思を共有することが重要です。最初の交渉段階から買い手と売り手のニーズが合致しているか、PMIの方法に問題はないか、などを協議する必要があります。

PMI推進のための人材確保

PMIは現場レベルでさまざまな統合を行うために適切に実行し、なおかつ適切な判断を他の従業員にくだせる有能な人材の確保が不可欠です。PMIを行う過程で従業員は新しい決まりごとや業務を理解しながら、日々の業務をこなす必要があり、負担は大きくなります。

ルールや業務プロセスが確定していなければ、日々の業務すらうまくできないこともあり得るでしょう。経営陣が目指す統合プランを理解し、適切に指示を出して従業員を動かす人材がいれば、従業員の負担を減らしつつ統合プラン遂行のサポートを任せられます。

統合プランにある各種プロセスの担当者となる有能な人材は、あらかじめ確保しましょう。そのような人材が流出する事態は回避してください。コア事業のみならず、総務や経理、法務などのバックオフィス業務を担当する部署の人材にもいえることです。

PMIを失敗させないためのリーダーシップ

精神論になりますが、PMIではリーダーシップも大切です。M&Aでは買い手会社も売り手会社も組織が大きく変わるため、不安や混乱を感じることは避けられません。

業務レベルで意思疎通ができない、企業文化が異なるなどの原因で従業員同士の摩擦が生まれたり、役員同士が自身の利害に固執するあまり意見が対立したりするシチュエーションが発生することも十分に考えられます。

そのため、経営者はそのような事態を解決し、混乱する従業員を力強く導くリーダーシップが求められるでしょう。リーダーシップは、統合後の各部署を取り仕切る責任者クラスの従業員にも求められます。

立場の上下はあっても、部下に指示を出す立場の人間が混乱し、明確な意思決定ができない場合はPMIが円滑に進みません。現場、そして会社全体のより早い安定化を図るためにも、指示を出すポジションの人間はリーダーシップを意識しましょう。

投資回収のために焦らない

譲受側にとって、M&Aは自社の成長を目的とした巨額投資であり、どのように投資額を回収していくかは非常に重要な問題です。可能な限り短期間で回収したいと考えるのはごく自然なことですが、投資回収ばかりを考えるあまりに拙速な改革を行ってしまうと、PMIが失敗して投資回収が難しくなってしまいます。

M&A後の事業がうまくいき十分な成果を得るためには、譲渡側企業の協力が不可欠です。ですが、PMIが行われるタイミングでは両社の信頼関係も浅いため、過剰なコントロールやマネジメントは結果的に譲渡側企業の反発につながる可能性が高くなります。

投資回収はもちろん考えておくべきことですが、譲受側企業は焦りすぎるとPMIが失敗に終わるリスクがあることをよく理解しておくことが重要です。

"当たり前"の強要はしない

譲渡側企業と譲受側企業は、M&A前は別々に事業運営を行っていたため、どちらにも自社にとって当然という暗黙のルールがあるでしょう。ですが、自社にとっては当然であっても、他社からみれば独自ルールに感じるものもあります。

M&Aでは譲受側企業のほうが規模が大きいケースがほとんどであり、大手企業であれば経営体制や業務システムが整備されているところが多いです。譲受側企業の経営者や従業員はそのような環境で業務を進めていれば、無意識に「これが普通」「当然こうあるべき」というような発言や考えに至ることもあるかもしれません。

ですが、譲渡側企業の立場になれば、このような発言や考えは不信感や不安感を感じる可能性もあるものです。信頼関係が構築されていなければ、異なる企業同士が一緒に事業を進めていくことは非常に難しくなります。

譲受側企業だけでなく譲渡側企業も、自社の「当たり前」は相手にとっては通用しないこともあることを再認識し、変更などが必要な場合は理由や目的などをしっかり説明するなどの配慮が重要です。

PMIのビジョン・意味を現場に共有

PMIのビジョンや行う意味を経営陣から現場の従業員まで明確に共有することも重要です。PMIの意味やビジョンが浸透していない従業員が多い場合は、そもそも経営陣がPMIの意味を理解していないこともあります。

そのような状態ではPMIが行えないどころかトラブルが発生し、M&A自体が破談になることも考えられ、統合プランの遂行も難しいでしょう。PMIを行う前に経営者から現場の従業員までPMIのビジョンを共有することが大切です。

売却側社員とのコミュニケーションの円滑化

売却側には、買収をマイナスに捉える社員が多くいることも考えられます。買収側のみでPMIを成功させるのは困難なため、売却側の社員もPMIに含まなければなりません。

そのため、売却側でM&Aにネガティブな感情を持つ社員の理解を得る必要があるのです。PMIは売却側における社員とのコミュニケーションを徹底・円滑化し、お互いを理解しながら進めていかなければなりませんが、相手側に気を使いすぎるのもよくありません。

気遣いのつもりでも必要な議論を行わなければ、単に放任している状態ともいえ、事業を円滑に進めていくことがかえって難しくなります。コミュニケーションの円滑化は難しい部分も多いですが、事業運営や業務遂行に必要な議論は積極的に行うことが重要です。

PMI成功のためのポイント(譲渡側)

PMIは譲受側企業が単独で進めて成功するものではなく、譲渡側企業の協力が不可欠です。ここでは、PMI成功のために譲渡側企業が意識すべきポイントを説明します。

オーナーからしっかり説明

譲渡側の従業員にとってM&Aは突然の出来事であり、少なからず不安を覚えるのが普通です。従業員の不安や不信がつのれば離職につながりかねないため、譲渡側企業の経営者は自身の口からM&Aに至った理由や目的、今後のビジョンなどを丁寧に説明する必要があります。

PMIは従業員の協力なしに成功することはできないため、不安な気持ちを取り除き、PMIに対して前向きに取り組んでもらえるよう、説明の場を設けることが重要です。また、その際は譲受側企業の経営陣も同席し、今後の方針などの説明を行うとよいでしょう。

変化を恐れない

M&Aを行ったということは、少なからず自社に変化が起こるということでもあります。自社がより成長していくためには、従来の在り方にこだわりすぎたり、変化を恐れたりしていると何も始まりません。

もちろん自社の良い点や強みは残すべきですが、改善すべき点は変化を恐れず取り組んでいく姿勢も大切です。M&Aは企業が成長するための有効な戦略であることを意識し、変化を前向きに受け入れることもPMIの成功につながります。

譲受側への発信

譲渡側企業には「自社(事業)を売却した」という気持ちが少なからずあり、譲受側企業に対して提案や意見があっても伝えにくいということもあるでしょう。ですが、自社の意見や提案を伝えることは、決して関係を悪化させるものではありません

むしろ、自社の考えを伝えることで風通しがよくなり、信頼関係が強固になるケースも多いはずです。譲受側企業も双方の成長・発展につながる意見や提案は積極的に取り入れたいと考えることが多いので、譲渡側企業から譲受側企業へ発信していく姿勢も必要といえるでしょう。

PMIの流れ・進め方

この章では、M&AにおけるPMIの流れや進め方を見ていきましょう。

①統合方針を固める

PMIの流れとして、まずは統合方針を固め「どのようなステップを踏むのか」「どのような方法で進めるのか」を具体的に決定します。経営統合の方針には以下のパターンがありますが、どれを選ぶかで方向性も変わるため各々の特徴を理解しておくことが重要です。

  • 連邦型統合:独立した会社として譲渡側企業を存続させ自主性を維持する
  • 支配型統合:譲渡側企業はM&A後も残すが経営には譲受側企業が積極的に関与する
  • 吸収型統合:譲渡側企業が譲受側企業に吸収され、ひとつの法人格として経営を行う

「連邦型統合」では役員構成も大きく変わることがなく、基本的には代表取締役の変更もありません。異業種M&Aで譲渡側企業の業績が良い場合に用いられることが多い方針です。譲渡側企業は独立性が維持されるため社内の混乱や反発は少ない点がメリットですが、シナジーは発揮されにくくなります。

「支配型統合」の場合、譲渡側企業の代表取締役や役員構成もM&A後は大きく変更されます。実務上では、新しい代表取締役には譲受側企業の人間が就任し、役員も過半数派遣されるケースがほとんどです。

譲渡側が経営を実質的にコントロールするため早期のシナジー発揮が見込みやすい方法であり、同業種間のM&Aで譲受側企業が優位であるケースで多く用いられます。

「吸収型統合」は吸収分割や吸収合併、事業譲渡などによって行われたM&Aで多くみられる統合方針です。この方針では、譲受側企業の意向に従い、譲渡側企業は事業運営を行います。

3つの方針では統合スピードが一番速く、早期のシナジー効果発揮が見込めますが、急速に統合を進めるため現場の負担が非常に大きくなる点がデメリットです。

②ランディング・プランを策定する

続いての流れは、クロージングしてから数カ月以内に行うべき統合作業を計画するランディング・プランの策定です。クロージングしてから3カ月~6カ月以内に行う作業を計画に入れるのが一般的で、売却側と買収側での作業を含めます。

経営全般におけるいろいろな経営領域がありますが、管理面と事業面の見直しが主です。管理面は組織・規定類・経営管理の見直し、コミュニケーションの推進、人事・労務面の変更などが実施されます。事業面は原材料費などの原価見直しや販管費・管理費の見直しです。

③具体的な100日プランに落とし込む

続いて、中長期的な課題を解決するために作られる100日プランです。クロージングしてから100日間で行われる課題への解決策をスケジューリングした計画で、経営改革プランや中期経営計画を策定します。

100日プランは、プロジェクトチームを作って現場レベルも含んで行い、M&Aにより外部から異なる風が入るので抜本的な変革ができるでしょう。100日プランで、今まで不可能だった改革を現場レベルから行えます。

プロジェクトチームは買収側から派遣された人と売却側におけるプロパーの人を混ぜたチームにすることが望ましいです。

④PMIを実施・検証する

ランディング・プランや100日プランは、実施しながら進捗に遅れがないか、効果はきちんと出ているか、など計画とずれがないか適切に把握しなければなりません。

全体会議は月次で各分科会は週次で把握を行い、計画に対する進捗を比べたり新しい課題が出たら対応したりします。分科会で把握した課題が他の分科会にも影響がありそうなときは、他の分科会と共有するなどして全体で進めてください。

PMIの手法・統合内容

PMIは、課題を解決するために実行するのがスタンダードな進め方です。ここでは、M&AにおけるPMIの手法を見ていきましょう。

①経営体制・組織構造の統合

PMIにおいて人と企業文化の統合は、M&Aの懸念事項である従業員の流出を防ぐためにも実践するのが大切です。もともと付き合いがある会社同士のM&Aでも、ともに業務を行えば感覚や関係性が変化して、細かな認識や価値観の差が摩擦を起こす可能性があります。

異業種の会社によるM&Aの場合は、根底の経営理念や風土などがずれる可能性もあり、従業員同士の連携が難しくなることもあるでしょう。何より避けたいのが従業員の内部対立です。

買い手会社と売り手会社の間で上下関係の認識ができれば、派閥ができて対立が生じる恐れがあります。そうなれば連携どころかコミュニケーションも取りにくくなるでしょう。

従業員がM&Aに対して不満を持つことも危険です。M&Aに不満があれば、業務における意識のすれ違いや企業文化の衝突が顕在化し、従業員の流出を招くことになりかねません。

経営統合の実践にもつうじますが、買い手会社と売り手会社の経営陣は従業員レベルでの意識や価値観の差、企業文化における摩擦の有無を知り、適切に対処を行う必要があります。

②人事・総務・法務制度などの統合

PMIで最も重要なフェーズは、業務統合の実践です。買い手会社も売り手会社も、それぞれの理念や経営戦略、マネージメントフレーム、現場の状況があり、互いに合致させる必要があります。

現場レベルから業務のノウハウ、ビジネスの全体的な流れ、従業員の働き方における傾向などを把握し、経営統合に反映させましょう。

買い手会社と売り手会社の従業員は何度もミーティングを行い、互いの認識をすり合わせることも重要です。それぞれの会社が当たり前と思うことが違うことは珍しくありません。従業員の業務に対する認識の不一致は業務の停滞だけでなく、経営統合の成功を阻害します。

現場レベルでしかわからないことも多いため、買い手会社と売り手会社が力を合わせ、営業だけでなく法務や税務、財務などさまざまな観点から分析を行う必要があるのです。

上場会社が買い手、非上場会社が売り手のM&Aでは、PMIは非上場会社が上場会社に応じるケースがよくあります。

③業務システムの統合

会社のシステムやインフラなどの統合も、PMIで解決すべき課題です。システム、インフラ、人事、経理、総務、決算日、支払日などは会社の基本的な構成要素で、これらの統合は簡単ではありません。各部署の負担は、M&Aを行うと倍増することが予想されます。

この負担が部署の不調和や反発、混乱を生み出しトラブルの種になるため、買い手会社と売り手会社の各経営陣は、社員にPMIを行う意味を入念に説明し、負担を減らせるよう的確な指示を出してください。

④事業内容・取引先の再検討

事業を統合するシナジー効果の大きさにより、選択と集中を行います。業務を続ける計画や、両社の仕入れ先などの分析、取得したデータからの事業展開立案、担当業務の割り当てなどを行います。

製品やサービスで重なる点は統廃合し、スケールメリットを追求することも欠かせません。

会社には各取引先があるため、両社が同業であれば共通して購入しているものは1つにするなど、取引先を見直すことも大切です。事業面の統合は、シナジー効果の獲得にダイレクトにつながるPMIといえます。

⑤業績評価システムの見直し

経営統合の効果が、きちんと計画どおりとなっているか検証するために、測定・分析できるシステムを見直します。KPIの設定・マネジメントサイクルを取り入れて、定期的にモニタリングを行いPDCAサイクルを回すことが大切です。

KPIの設定に関しては、業種や事業内容、職種などで異なり、マネジメントサイクルを取り入れて高めればより利益が生じるといえます。M&Aでどれくらい効率よく成果が出ているのかを何度も確認して精度を上げれば、目標達成率が高まるでしょう。

【関連】シナジー効果の意味とは?M&A成功事例や多角化戦略、使い方をわかりやすく解説

PMIの成功事例

この章では、M&AにおけるPMIの成功事例を見ていきましょう。

日本電産

日本電産は、2019年11月までに66件のM&Aを行いました。技術力を持つ経営が悪化した会社を買収し、経営改善を行い立て直して事業を広げています。

日本電産は、「高値づかみをしない」「PMIと経営に関与」「シナジー効果」に重点を置いてM&Aを行っており、参入の段階で値段を抑えて失敗するリスクを抑えているのです。

PMIに前向きに関わることで失敗するリスクを下げ、買収によるシナジーを早めに出現させて買収額を回収しています。

サントリー

2014年1月のサントリーホールディングスによるビーム社の買収も、PMIの成功事例です。

世界のいろいろな地域で両社の強いブランド展開にプラスして、販売網や技術交流などをとおしたシナジー効果が目的でした。これにより、サントリーにおけるウイスキーの販路が世界へ広がり、業績が広がっています。

トップが徹底して現場レベルでのコミュニケーションを図ったことが成功を導いており、ファンクション同士の話し合いで理解が進みシナジーも生じました。ビーム社の独立性を保ち放任することなく進めたことも成功のカギです。

楽天

楽天は、他社があまりM&Aを行っていない2000年代からM&Aを実施し、楽天トラベルや楽天証券などの前身会社を買収しています。

楽天は、インターネット基盤と証券、アパレル、旅行などの分野を結びつけて、売上高を上げました。売上面やコスト面でシナジーを創出し、各分野で成功しています。

各分野のシナジーを上手に発揮させて業務範囲を広げたことが成功のポイントです。楽天市場、楽天ブックス、楽天トラベル、楽天証券、楽天銀行など事業を幅広く拡大しています。

KDDI

KDDIはM&Aを前向きに行い、買収によるインフラを整えるクロスセルやスマホのコンテンツを強めるなどの見解でM&Aを実施しています。

KDDIは、既存事業とシナジーを創出することを前提にM&Aを行い、CATV、携帯電話、インターネットなどを通貫したサービスの提供、これらをまとめて割引となるプランの作成で業績を拡大しました。

自社のサービスに幅を持たせるとともに、通信とライフデザインを合わせて事業も広げて、新しい価値への投資も進めています。既存事業とのシナジーやサービスの融合を進めたことが、KDDIの成功につながっているのです。

JT

JTは、1999年5月にRJRIを買収し、2007年4月にGallaherを買収しました。これらは、国際的な競争力を高めるために実施されています。海外のM&Aにおける知見を深めて経験を積み、スケールを広げました。

経験から事前準備も実施でき、短い間にPMIを行ってシナジー効果も早く獲得しています。その結果、海外市場向けの販売本数が高い水準となりました。

参考:日本たばこ産業株式会社「特集:Gallaher社の買収について」

PMIの失敗事例

次に、PMIの失敗事例を見ていきましょう。

マイクロソフト

マイクロソフトは、2014年4月にノキア携帯端末事業を買収しました。マイクロソフトは、「ノキアの携帯開発力を得ることで携帯端末の開発促進」「ノキアブランドにおける利用者の獲得」のために買収を行っています。

しかし、携帯端末市場でマイクロソフトの携帯端末シェアは広がらず、iPhoneやアンドロイド端末が市場で人気を集めている状況です。

ノキアブランドは一定数の利用者を保持していたため、ノキアブランドを残してハードウェア事業を継続していればコアな支持者を残せたでしょう。

DeNA

DeNAは、2014年10月に、iemoとペロリを買収しました。iemoを買収することでキュレーション事業を広げて、短い期間で収益が期待できる事業へと拡大することがDeNAの狙いでした。ペロリも買収し、新しい事業構想を具体化して進めたのです。

しかし、ペロリ運営のMERYに盗用疑惑の批判が出て、DeNAの法務部門も警告したのですが、DeNAは問題をそのままにしてM&Aを進めます。

その後、DeNA運営のキュレーションサイトを閉鎖し、MERYも公開を停止しました。急いでM&Aを進めたため、高いKPIが設定されて失敗した事例です。

参考:株式会社ディー・エヌ・エー「キュレーションプラットフォーム事業開始に関するお知らせ」

パナソニック

パナソニックは、2009年12月に三洋電機の株式を得て子会社化しました。これは、両社のノウハウを共有して生まれるシナジーを目的に行われています。

しかし、民生用リチウム電池市場における競争の激化や円高・ウォン安による価格競争のため、期待したシナジー効果を得られていません。そのため、パナソニックは2012年3月期に三洋電機ののれんを減損しました。

当初に見込んでいた両社のノウハウがある技術力の共有によるシナジー創出も予定したシナジーが得られず、人材が流出しています。

ウォルマート

ウォルマートは、2008年6月に西友を買収しました。ウォルマートはこの買収をきっかけとして、日本でのM&Aを促進しシェアを広げることを狙っていましたが、期待した業績の改善とならず、累積赤字となりました。

PMIで価格設定を変更し、安価な商品を販売する戦略でしたが、消費者が低価格に慣れて他の店に顧客を奪われてしまったのです。ウォルマートは2020年11月に、KKRおよび楽天へ西友を売却しています。

参考:西友合同会社、 KKR & CO. INC.、 楽天株式会社、ウォルマート・インク「KKRと楽天、ウォルマートから西友株式取得完了」

みずほ銀行

第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が2002年4月に合併して、みずほ銀行が設立されました。銀行業界はデータの集約により販売コストなどを下げられ、固定コストも削減できます。この合併はこれらのコスト削減が狙いで行われました。

しかし、統合した日に大規模なシステム障害が起こり、銀行は多大な損害を被ってしまいます。前もってシステム移行の準備はされましたがスケジュールが遅れ、直前に必要なテストも実施できずに移行されて行った合併でした。

PMIの事前知識を得る方法

PMIはM&Aの成否を左右する重要なフェーズです。課題の分野は多岐にわたり、また期間も長期にわたるため、事前に入念な準備が必要となります。

特にこれまでM&Aを実施した経験がない企業は、経営者や経営企画部などに在籍するM&A実務担当者がPMIはどのような流れで進めるべきか、どのような点に留意するべきかなど、事前に知識を得なければなりません。

そのための方法として、主に以下の2点があります。それぞれメリットがあるため、本業との兼ね合いや担当予定の職責を勘案しつつ、企業や担当者に合う方法を選択すると良いでしょう。

①セミナーへの参加

M&Aに関するセミナーは、その内容の幅広さから目的に合うものを選択する必要があります。M&Aに関するセミナーはさまざまな開催者によって随所で開かれていますが、PMIの重要性が認識されてきた近年ではPMIに的を絞ったセミナーも増えているのです。

セミナーの開催者

M&Aに関する非常に重要なフェーズについて知識を得る機会なので、実績や信用力がある、または多くの情報を適切かつ正確に発信する企業などが開催するものを選びましょう。

具体的にはインターネットで検索するほか、コンサルティング会社が発刊するメールマガジン内での紹介や新聞広告の確認、またはM&A仲介会社や商工会議所の相談窓口に相談することで効率的に探せます。

セミナーの内容

セミナーでは領域ごとに専門家が招かれ、当該領域での一般的なPMIの進め方や課題、留意すべき点などを説明します。経験談や成功例、失敗例などを語ることもあるでしょう。

セミナー内で、参加者同士やパネラーなどと交流の場が設定されるケースもあり、同志とその場で意気投合して後々頼りにできる人脈づくりに発展することもあります。

セミナーの内容は開催者や登壇者によって異なるため、目的意識を持って探してください。内容が専門的になればなるほど、セミナーは有料になる可能性が高いです。

セミナーに参加するメリット

セミナーに参加するメリットは、経験談を直接聞ける点です。説明者がどのようなM&A案件を手掛けたかを知れば、参加者側も自ずと手触りが感じられ、より鮮明な記憶を実地で生かせます。

セミナー内では、デスクトップでは得られない情報を獲得でき、「ここだけの話」のような有効な情報は、後々大きな影響力を持つでしょう。例えば、経営陣が社内にいつM&Aを開示したか、企業間の人事交流はどのような職務レベルで実施すべきか、などです。

登壇中の説明に関して確認したい点や、参加者がセミナーをつうじて聞きたいことがある場合も、質疑応答の時間などを活用して専門家に直接確認できます。

②関連書籍の閲読

関連書籍の閲読でも、PMIの事前知識が得られます。書籍の閲読による知識獲得のメリットは、その手軽さです。自分のペースで知識を獲得でき、手元に書籍さえあれば急な課題をすぐに解決できることもあります。

昨今、M&AひいてはPMIに対する関心の高まりからPMIをテーマにした書籍が急増しており、以下に紹介するものは、PMIに関して学ぶために適した書籍です。
 

  • M&Aシナジーを実現するPMI: 事業統合を成功へ導く人材マネジメントの実践
  • ポストM&A成功戦略:企業価値を最大化する統合の実践シナリオ
  • 日本型PMIの方法論:中堅・中小企業を成長させるポストM&Aのプロセス

M&Aでどのようなシナジー効果を得たいのか念頭に置き、各課題に対処する必要があります。M&A実行前に書籍の閲読をとおして、目的や統合後における理想の姿をあらためてイメージすることが重要です。

M&Aシナジーを実現するPMI:事業統合を成功へ導く人材マネジメントの実践

実務ガイドブックで、体系的にPMIを解説しています。PMIの実態と課題からPMIの全体像、ハード(組織、人事)とソフト(企業、組織文化)の両面におけるPMIなどが実務を中心に記してあり、事例やケーススタディも交えて具体的に解説している書籍です。

ポストM&A成功戦略: 企業価値を最大化する統合の実践シナリオ

ポストM&AはPMIをさし、M&Aの成立後(ポスト)における成功を戦略的に解説しています。発売以来、長きにわたってPMIを学ぶための本として読み継がれているのでおすすめです。

日本型PMIの方法論:中堅・中小企業を成長させるポストM&Aのプロセス

2019年に発刊された中小企業のPMIという切り口でPMIの実務をまとめています。内容は、実際にM&AのPMIを手掛けた著者の経験と理論が基となっているため、参考になる情報が多いでしょう。

【関連】M&Aセミナー活用のメリット・デメリット​とは?​種類​や注意点を解説
【関連】M&Aおすすめの本・書籍とは?本・書籍で学びたい内容、勉強方法もご紹介

M&AにおけるPMIのまとめ

日本のM&AではPMIはなおざりにされがちで、専門家のM&A仲介会社や経営コンサルティング会社でもPMIを軽視するケースがあります。PMIを失敗すれば、M&Aの失敗につながるといえるほど重要なプロセスです。おろそかにせず、早い段階から準備することをおすすめします。

今回の記事をまとめると、以下です。

・PMIとは?
→M&A後の経営統合を進めるプロセス:業務統合の実践、システムやインフラの統合、人と企業文化の統合、などの課題を解決する形で進行

・PMIを成功させるポイントは?
→①指示を出す人間はリーダーシップを持つ
 ②PMIのビジョンと行う意味を明確に共有
 ③PMIをどのように進めるべきかなど、事前知識をセミナーや書籍などから得る

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