2023年11月7日更新会社・事業を売る

コストアプローチとは?算定方法とメリット・デメリットをわかりやすく解説

コストアプローチとは純資産額を基準に企業価値を算定する方法の総称です。本来、コストアプローチは事業を継続しない会社に対し多用されます。簿価純資産法、時価純資産法、清算価値法、再調達原価法がコストアプローチの主要な手法です。

目次
  1. 企業価値評価の算定方法とは
  2. コストアプローチとは
  3. コストアプローチの種類
  4. コストアプローチ以外の企業価値算定方法
  5. コストアプローチのメリット・デメリット
  6. コストアプローチのまとめ

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企業価値評価の算定方法とは

M&Aの際、売却候補の企業に対し実施されるのが、企業価値評価です。企業価値評価は、しばしばバリュエーション(valuation)とも呼ばれます。バリュエーションによって導き出されるのは、売却候補企業の値段です。

M&Aでは、最終的には買い手と売り手の交渉によって買収価格が決まります。その交渉の発端となる大事な数値が、バリュエーションによって算定した金額なのです。バリュエーションが実施される場合、専用の算定方法が用いられます。

また、その算定方法は1つではなく、数多くある算定方法の中から複数のものを用いて総合的に算定するのが、現在のM&Aで実施されている手法です。バリュエーションの数ある算定方法は、3つの種類に分類されています。

その3つの分類とは、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチです。本記事では、その中のコストアプローチに焦点を当て、コストアプローチの詳細に迫ります。

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コストアプローチとは

企業価値評価を算定する方法の1分類であるコストアプローチとは、貸借対照表の純資産価値に着目して行われる手法です。主として、非上場の中小企業に対し使用されるケースが多い傾向にあります。  

コストアプローチは、上述したように貸借対照表の純資産を用いて算定を行うことから、別称として「ストック(stock=株式資本)アプローチ」や「ネットアセット(net asset=純資産)アプローチ」と呼ばれることもあるので、注意してください。

コストアプローチには、純資産価値をベースに客観的に企業価値を算定できること、および比較的容易に算定ができるというメリットがあります。しかしながら、コストアプローチによる企業価値評価には、収益性や将来性、価格変動などの要素が含まれていません。

また、純資産に本来あるべき含み益も算定されないため、完全にその時点での価値だけによる売却が前提になってしまいます。このため、コストアプローチは会社の資産全てを売却するような場面でよく活用されます。例えば、コストアプローチは会社を清算する際に用いられます。

M&Aと同時に会社が消滅し、買い手の会社に取り込まれるケース(廃業コスト削減のためのM&A)の際には、将来の収益性を踏まえる必要がありません。その場合においては、企業価値をシンプルで客観的に算定できるコストアプローチがふさわしいのです。

つまり、売り手企業の事業を継続させる場合のM&Aのバリュエーションとしては、コストアプローチは不向きな手法と言えます。そのため、昨今のM&Aでは、特殊なケースを除いてコストアプローチが用いられることが少なくなってきています。

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コストアプローチの種類

コストアプローチに分類される代表的な手法には、以下の4種類があります。1つずつ個別に、どのようなコストアプローチなのかを説明していきます。

  1. 簿価純資産法
  2. 時価純資産法
  3. 清算価値法
  4. 再調達原価法

M&Aに際してコストアプローチを実際に使用するのは、あまり一般的でないM&Aの内情が含まれる場合であると言えるため、その内情と算定方法の特徴とを考え合わせる必要があります。

目の前のM&Aのケースでは、どのバリュエーション方法を用いるのが適切か、見極めなければいけません。

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①簿価純資産法

簿価純資産法とは、貸借対照表に則って帳簿資産の合計から株式価値を計算していく方法です。自己資本を株式価値に当てはめる考え方なので、自己資本額を発行済みの株式数で割れば、すぐに一株あたりの価値が算出できます。

なお、その際に必要な修正を加えて計算する場合は、修正簿価純資産法と呼ばれます。いずれにしても、貸借対照表のみを用いる極めて簡単な方法であるため、計算の簡易さが簿価純資産法の最大の特徴です。しかし、帳簿には全ての資産が計上されていないことがあり得ます。

例えば、企業によっては以下のような資産は、帳簿に載っていない可能性があります。

  • 長期に渡って滞留されている在庫
  • 回収できていない状態の売上債権
  • 償却不足の固定資産  

帳簿に載っていない資産があっては、簿価純資産法の根底が崩れてしまいます。その場合、算定された企業価値が正確であるとは、とても言えません。このような状況もあり、簿価純資産法は、コストアプローチの方法としては、あまり活用されなくなりました。

帳簿が絶対的に正確であると判断できない限りは、簿価純資産法を使用しないほうが良いでしょう。

②時価純資産法

資産全てを一度、時価に換算し、そこから負債の時価を差し引いて実際の資産額を算定する方法が、時価純資産法です。時価純資産法では、帳簿に未計上の資産や負債も全部時価として評価されます。

時価で算出された純資産額から、支払手形や買掛金などの営業債務を差し引いて企業価値を算定します。また、その企業価値から有利子負債を差し引くことで、株式価値を算定することができます。

時価純資産法は、その会社の資産・負債の実態を、時価として正確に評価したうえで実施します。つまり、不確かな要素が多い簿価純資産法と比べて、企業価値や株式価値を、より正確に算出できるわけです。

しかし、コストアプローチの欠点である将来の収益性については、時価純資産法でも考慮されていません。したがって、事業を継続する会社への評価に時価純資産法を用いることは、やはり適していないと言えるでしょう。

③清算価値法

コストアプローチとは、元々事業が消滅する=清算される状況で使われるケースの多い手法ですが、その点に完全に特化しているのが清算価値法です。対象企業の全資産の売却額から、正味売却価額(弁済する負債の金額を差し引いた残余額)をベースに算出します。

清算価値法は、売り手の会社を消滅させることを前提としています。清算価値が株式価値を上回るケースで用いられます。事業を継続しないケースでは、最も手っ取り早い手法です。ただし、以下の要因により、算出結果よりも実際の価値が低くなる可能性があります。

  • 清算に伴うコストがかかる
  • 売り急いだ結果、時価どおりに不動産を売却できない 
  • 機械などは換価しづらい

④再調達原価法

再調達原価法は、他の手法とは少々毛色の違う手法になります。再調達原価法とは、会社に帰属する形になっている個別の資産や負債を、その時点で再取得する際にかかる再調達原価をベースに企業価値を計算する方法です。

この方法によって計算された時価純資産額は、会社に必要な投資額と捉えられます。 つまり、その会社にM&Aが必要か否かの判断材料となります。M&Aによる会社消滅や会社の清算が前提になっている、他のコストアプローチとは一線を画す手法です。

しかし、この手法は、売り手側がM&Aを受けるべきかどうかを決定する際の手段であり、バリュエーションという目的には合っていません。

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コストアプローチ以外の企業価値算定方法

バリュエーションで用いられる企業価値評価の算定方法は、コストアプローチ以外にも2つ存在します。それらは、インカムアプローチ、マーケットアプローチと言われています。コストアプローチとは、また違った観点の手法であるインカムアプローチとマーケットアプローチの概要を掲示します。

インカムアプローチ

その会社の将来的なキャッシュフローに着目して企業価値を評価する方法が、インカムアプローチです。会社の将来的な収益力を予測して企業価値に含められるので、その会社の本質的な魅力や価値、期待できるシナジー効果を価格に反映できます。

したがって、コストアプローチとは違い、「事業を継続する会社」を前提としている手法です。ただし、将来的なキャッシュフローとは、予測の範疇を出ません。予測である以上、そこに恣意性や期待値が加わってしまう可能性は否定できないものです。

つまり、M&A後に想定したような収益が上がらない可能性もあるため、できるだけ厳密なバリュエーションが必要でしょう。そして、インカムアプローチには、事業計画を作成してキャッシュフローを予測するDFC法と、株主への期待配当額を計算する配当還元法の2つがあります。

DFC法は、現在のM&Aの現場で最も一般的に使われるポピュラーな方法です。しかし、配当還元法は、配当金に基づいて株主価値を評価する方法尾であるため、M&Aではほとんど使われません。

マーケットアプローチ

同一業者、類似する規模の他社、類似するM&A事例などをピックアップし、それらの市場株価・経営指標をベースにして企業価値を算定する方法が、マーケットアプローチです。マーケットアプローチでは、市場取引の実態や投資家達の意向を反映したうえで企業価値を算定できます。

したがって、マーケットアプローチには説得性が高いという特徴があります。ただし、類似するケースが見つかるかどうかという問題があり、見つからなければマーケットアプローチは実施できません。

また、株式市場が不安定になっている場合は、正確な企業価値が算定不可能となるリスクもあります。一般的にマーケットアプローチは、インカムアプローチで算定した企業価値の正確性をチェックする目的で使用されています。

つまり、答え合わせ的なニュアンスが強い算定方法と言えるでしょう。マーケットアプローチには市場株価法、マルチプル法など様々な方法があります。

マルチプル法については、以下の動画で弊社M&Aアドバイザーが計算例を用いて解説しておりますので、是非ご覧ください。

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コストアプローチのメリット・デメリット

ここでは、コストアプローチを用いるメリット・デメリットを順番に解説します。

メリット

コストアプローチで会社の価値を評価する最大の利点は、客観性が高いことです。

これは、会社の貸借対照表に記載されている純資産の価値を元に計算するため、誰が計算しても結果が変わらないからです。このため、M&Aの価格交渉では、双方が納得しやすい強固な根拠を提供します。また、特別な財務指標を使わずに済むので、計算方法が比較的簡単で、特に中小企業の経営者にとって使いやすいです。

デメリット

コストアプローチには欠点もあります。会社が将来稼ぐであろう利益を価値評価に反映させることができない点です。

この方法は基本的に会社を解散して資産を売る場合の価値を算出するもので、通常のM&Aのように会社がそのまま存続する場合の価値を見るのには適していません。また、会社が持っている不動産などの資産が市場価格で上がっている場合でも、その価値を反映させることができないのです。

コストアプローチのまとめ

コストアプローチは簡易な計算方法であるため、過去には、中小企業同士のM&Aに活用される場合の多かったバリュエーションです。しかし、その間に新たに確立されたインカムアプローチのDCF法が、現在のM&Aのバリュエーションでは主流となっています。

コストアプローチは用いられるにしても、補助的な用途に限定されるようになりつつあります。ただし、コストアプローチ手法の根底にある、算定の考え方については把握をし、頭の中に入れておくことは、企業評価の場面で役立つはずです。

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