2024年5月25日更新会社・事業を売る

配当還元方式とは?評価方法、非上場株式の計算例、事業承継・相続時の活用も紹介

配当還元方式は、非上場企業における株式の場合に、配当のみに着目して株式価値を算定する手法です。少数株主の株式価値算定に適しています。本記事では、配当還元方式の概要、具体的な計算方法や事業承継・相続時の活用方法などについて解説します。

目次
  1. 配当還元方式とは
  2. 配当還元方式の要件
  3. 配当還元方式の計算方法
  4. 配当還元方式による評価は特例的な位置付け
  5. 配当還元方式を承継対策・相続で活用するポイント
  6. 配当還元方式を活用する際の注意点
  7. 配当還元方式をM&Aで使用するなら仲介会社に相談
  8. 配当還元方式のまとめ

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配当還元方式とは

M&Aの交渉における最大のテーマは売買価額です。その際、売り手・買い手双方の希望額だけでは話がまとまりませんので、客観的基準をもって売り手企業の評価を行い、話し合いの基準となる価額を算定します。

この企業価値評価とは、いい換えれば売り手企業の株式価値の評価となりますが、非上場中小企業のM&Aで用いられる企業価値評価手法の1つが、配当還元方式です。配当還元方式では、過去の配当額から将来の配当額を予想し、そこから該当企業の株式価値を求めます。

具体的には、過去2年間の配当金額を利率10%で還元し、元本である株式の価額を算出します。別な表現でいえば、現段階で配当を行った場合、その金額がいくらであるかを計算することによって、現在の株式価値を見いだすのです。

配当還元方式は、その性質から、特に少数株主の株式価値を算出するのに有効です。本来、企業価値評価は、会社の資産全てを合わせて評価するべきですが、配当還元方式は配当のみに着目する、やや特殊な手法である点に注意しましょう。

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配当還元方式の要件

この章では、配当還元方式の要件について見ていきましょう。

同族株主とは

課税時期(相続では相続開始時)における評価会社の株主のなかで、株主の1人及び同族関係者が持つ議決権の合計数が評価会社における議決権総数の30%以上(株主の1人及び同族関係者が持つ議決権の合計数が一番多いグループが持つ議決権の合計数が50%超であれば50%超)の場合における株主及び同族関係者が、同族株主です。

同族関係者とは、同族関係にある個人あるいは法人をさします。この個人となるのは、下記の人です。

  • 該当する株主の親族
  • 該当する株主と内縁関係にある人
  • 該当する株主の使用人
  • 該当する株主からの金銭その他の資産により生計している人
  • 上記の人と生計をともにする親族

中心的な同族株主とは

課税のタイミングで、同族株主の1人かつ株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹または1親等の姻族(同族関係者である会社のなかで、これらの人が持つ議決権の合計が議決権総数の25%以上の会社も入れる)が持つ議決権の合計が、議決権総数の25%以上である場合の株主が、中心的な同族株主です。

親、祖父母、子、孫などが、直系血族になります。祖父母よりも上の世代、孫よりも下の世代も直系血族です。

中心的な株主とは

中心的な株主について見ていきましょう。

課税のタイミングで、株主の1人または同族関係者が持つ議決権のトータルが、議決権総数の15%以上における株主グループのなかで、どれかのグループに独りで議決権総数の10%以上の議決権を持つ株主がいれば、その人が中心的な株主です。

配当還元方式の計算方法

配当還元方式の計算方法について、具体的に見ていきましょう。まず、計算の前提となる過去2年間分の1株あたりの平均配当金額を算出する必要があります。その計算式は以下のとおりです。

  • 年配当金額=直前期末以前2年間の配当金額÷2÷1株当たりの資本金額を50円とした場合の発行済株式数

上記の年配当金額を当てはめ、以下の計算式によって配当還元価額が算出できます。

  • 配当還元価額=(年配当金額÷10%)×(1株あたりの資本金額÷50円)

ただし、この計算式では、配当がない会社は配当還元価額がゼロを割ってしまいます。そこで配当還元方式では、年配当金額が2.5円未満となる場合、2.5円の下限価額で計算することを覚えておいてください。

非上場株式の計算例

前項の計算式の具体例を以下に示します。前提条件は以下のとおりです。

資本金額 1,000万円
発行済株式数 1,000株
1株あたりの資本金 1万円
前期配当金総額 100万円
前々期配当金総額 100万円

はじめに年配当金額を算出します。

  • (100万円+100万円)÷2÷(1,000万円÷50円)=5円

上記を用いて配当還元価額を算出します。
  • (5円÷10%)×(1万円÷50円)=1万円

この会社の場合、配当還元方式で算出した1株の評価額は1万円です。

計算時の注意点

配当還元方式は、配当のみに着目した企業価値評価手法であるため、その特徴を理解して取り扱う必要があります。特に、特別配当・記念配当・中間配当といった、配当の種類ごとの取り扱いには注意しなければなりません。

具体的な配当還元方式における算定の注意点は、以下の3点です。

  • 特別配当や記念配当は除く
  • 中間配当の扱いに注意
  • 評価企業の事業年度の注意

特別配当・記念配当の除外

特別配当とは業績が好調だった場合、一時的に支払うボーナスのような配当であり、記念配当とは「創立〇周年」「上場〇周年」などの記念時に支払われる配当です。

これらの配当は一時的なものなので、配当還元方式で計算するときの配当額には含めません。配当還元方式では、定期的に支払われる普通配当だけを基に価値評価を行います。

中間配当の取り扱い

中間配当とは、決算期以外に支払われる配当のことです。たとえば、決算が3月の会社が9月の半期時に中間配当を支払うケースがあります。一時的な配当である特別配当や記念配当と違って、中間配当は定期的に支払われる配当です。

したがって、配当還元方式で計算する際は、中間配当も考慮する必要があります。配当還元方式における中間配当の取り扱いは、決算期に支払われる普通配当と単純に足し合わせ、合計額を年間の配当額とするのです。

評価企業の事業年度の確認

国税庁の配当還元方式では、相続や贈与が発生した期日の事業年度、その前年度期末から過去2年間に支払われた配当の年間平均額を配当金額として採用します。相続や贈与が発生した期日から過去2年間ではないので、注意が必要です。

また、設立したばかりで前の事業年度が存在しない場合は、配当還元方式を使えません。その場合は、純資産価額方式や類似業種比準方式など、ほかの手法を用います。

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配当還元方式による評価は特例的な位置付け

本来、株式価値を評価する場合、会社の全ての資産に着目して評価を算定します。その点、配当還元方式では株式の配当金にのみ着目している点で、特例的評価方法と位置付けられるでしょう。

それに対し、原則的評価方法と位置付けされているものもあり、具体的には以下の2つです。

  1. 純資産価額方式
  2. 類似業種比準方式
それぞれの概要を説明します。

純資産価額方式とは

純資産価額方式とは、貸借対照表に記載されている純資産額に着目した評価方法です。具体的には、純資産額を発行株式数で割り、1株あたりの価値を計算します。

類似業種比準方式とは

類似業種比準方式とは、評価対象企業と類似する上場企業を探し、その上場企業の平均株価、年間利益額、1株あたりの配当金、純資産価額などを参考にして、評価対象企業の価値を算定するものです。

配当還元方式を用いるべき場面

配当還元方式は、主に同族会社または同族株主のいる会社において、同族株主ではない株主の株式価値を評価する場合に用いられます。同族会社・同族株主とは、少数の株主が大きな議決権を持っている会社やその株主のことです(細かい定義は法人税法で規定)。

また、同族株主でない株主は少数株主であることが多いですが、実際に配当還元方式を用いる際は、その株主が法人税法で規定する同族株主にあたらないかを確認する必要があります。

少数株主に配当還元方式を用いることが多いのは、相続税や贈与税を計算するときです。配当還元方式では会社が持つ資産や価値のうち配当しか考慮しないため、ほかの手法で計算したときよりも評価額が安くなり、相続税や贈与税の額を抑えられます

少数株主が配当還元方式を用いる理由

少数株主でない株主の場合、株式価値の評価には純資産価額方式や類似業種比準方式など、配当還元方式ではない方法が用いられます。では、なぜ少数株主かどうかによって、株式の評価方法を変えるのでしょうか。

株式を保有する主な意味は、議決権を得られることと配当を得られることです。しかし、同族会社は同族株主の意見がほぼとおってしまうため、少数株主が議決権を持つメリットはほとんどありません。

つまり、少数株主が株式を保有するメリットは事実上、配当が得られることだけです。この場合、純資産価額方式や類似業種比準方式で株式価値を評価すると、配当しかメリットがない少数株主にとって、株価は高過ぎます。

したがって、配当だけに着目した配当還元方式を用いることで、少数株主にとって適切な株価を算出できるのです。

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配当還元方式を承継対策・相続で活用するポイント

少数株主向けの株式評価方法とされる配当還元方式ですが、経営者など大株主が事業承継や相続に向けて活用する方法もあります。それは、従業員持株会や役員持株会を組織・運営する方法です。

従業員持株会を組織するメリット

従業員持株会を組織することは、大株主である経営者が所有している株式の一部を持株会に譲渡することになります。つまり、経営者は財産が減り、相続者が相続税を抑えられるのです。

従業員持株会がある企業は、客観的に見て福利厚生上の評価も高まります。従業員にとっても、持株会があれば、そこに加盟することで財産形成が可能となりメリットです。

また、従業員は、株式を所有することでそれまでとは意識が変わり、会社の業績向上に意欲的になることもあり得る点が、二次的なメリットといえます。

従業員持株会を組織するデメリット

従業員が株式を所有したまま退職すると、自社株式の外部流出です。それを避けるために、退職時は必ず売り渡す規定を設けましょう。退職者が一時期に集中すると、買い戻し費用が多額になる点も留意してください。

持株会を組織する以前から自社株式を所有している従業員がいた場合、その従業員が持株会に加盟しない場合は、全体的な株の管理がしづらい点もデメリットです。

持株会に譲渡する株式数も考慮しましょう。持株会の所有する株式数によって、経営者の実権がおびやかされてはいけません。

役員持株会を組織する選択肢

事業承継で親族ではない役員を後継者にする場合、役員持株会を組織して後継者に株式を譲渡する方法が有効です。役員持株会経由での譲渡であれば配当還元方式で株式の算定ができるため、税負担を抑えた株式の譲り渡しができます。

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配当還元方式を活用する際の注意点

配当還元方式を利用するにあたり、いくつかの注意事項が存在します。まず、原則的評価方式の方が評価額が低くなる可能性があります。

一般的に少数株主は、配当還元方式で株式評価額を算出した方が良いとされます。しかし、原則的評価方式の方が評価額が低く算出されるケースもあります。その場合は、原則的評価方式を採用した方がいいでしょう。

また、会社によっては配当をしていないようなケースもあるかもしれません。ただし無配当の場合でも、株式評価額は0円にはなりません。無配当の場合、1株当たりの直近2年間における平均配当金を2円50銭として計算されます。

また、1株当たりの年配当金額が2円50銭以下の場合も2円50銭として計算されます。配当還元方式を活用する際は注意しましょう。

配当還元方式をM&Aで使用するなら仲介会社に相談

M&Aでは配当還元方式をはじめとするさまざまな企業価値評価を行うため、M&A仲介会社など専門家のサポートを得るのがおすすめです。

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配当還元方式のまとめ

配当還元方式は、非上場企業の株式の場合に、配当のみに着目して株式価値を算定する手法です。特に、少数株主の相続・贈与など限定された場面で使われます。配当還元方式は事業承継の際にも活用できるので、その特性を知っておくと便利です。

実際に配当還元方式を用いた対策を実施したい場合は、M&A仲介会社など専門家に相談することをおすすめします。

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