M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年5月8日更新資金調達
M&Aにおける銀行の役割は?融資・アドバイザリー業務の特徴や銀行を利用したM&Aのポイントを解説
中小企業の有力な資金調達先である銀行は、M&Aでも欠かせない存在です。銀行はM&A向け融資だけでなく、M&Aアドバイサリー業務も担います。この記事では、M&Aにおける銀行の役割、M&Aでの銀行融資のポイント、M&Aで銀行を利用する際の手数料について解説します。
目次
銀行もM&Aの相談先の一つ
どのような中小企業でも、代替わり、つまり事業承継のタイミングが訪れます。それに伴い昨今では、後継者難を抱えている中小企業によるM&Aの件数が増加しています。まだM&A全体の比率で見ると少ないものの、今後はM&Aを利用した事業承継は増えると予想されます。
ほとんどの中小企業経営者にとって、M&Aは初めて接するものです。したがって、第三者に相談し業務委託することになるでしょう。公認会計士や税理士、商工会議所など、M&A業務に携わる業者は多く存在し、「銀行」もM&Aに携わる業者の一つです。
M&Aにおける銀行の役割
企業経営者が銀行に対して、まずイメージするのは資金融資でしょう。M&Aにおいても銀行はその意味で頼れる存在ですが、銀行がM&Aで担う役割はそれだけではありません。M&Aの場面では、銀行はM&Aアドバイザリーとしての顔も持つのです。
①M&Aに必要な資金融資
M&Aで銀行に最も求められる役割は「資金融資」です。中小企業のほとんどは銀行から融資を受けています。
通常の運転資金のみならず、M&Aに必要な資金を融資してもらうことも可能です。自社の主取引先銀行であれば、M&Aでの融資も前向きに引き受けてくれるでしょう。
②M&Aアドバイザリー
表立って知られてはいませんが、銀行はM&Aアドバイザリー業務も請け負っています。M&Aアドバイザリーとは、M&A実務を遂行する各種専門家の総称です。M&A実務のどの部分を担うかにより、下記3種類に大別されます。
- 財務アドバイザー(FA=Financial Advisor)
- 法務アドバイザー
- 税務アドバイザー
財務アドバイザーは、M&A業務全般を取り扱うことになります。法務アドバイザーは法務分野、税務アドバイザーは税務分野の担当です。また、仲介業務を専門に行うM&A仲介会社も、M&Aアドバイザリー業務を実施しています。
銀行はM&Aアドバイザリーとして、基本的には財務全体の支援を行います。つまり、銀行は上記分類のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の役割を果たすのです。
銀行によるM&Aアドバイサリー業務
銀行が行うM&Aアドバイザリー業務は、他のM&A仲介会社などとは何か違いがあるのでしょうか。銀行によるM&Aアドバイザリー業務の実態について見てみましょう。
銀行が行うM&Aアドバイザリー業務の2つの特徴
ひと口に銀行と言っても、そこには、地方銀行、メガバンク、外資系投資銀行があり、日常業務にも差異があるように、M&Aに関しても、そのスタンスや取り組み内容も違いがあります。ただし、M&Aに関してはメガバンクと外資系投資銀行は類することも多く、両者合わせて説明します。
①地方銀行によるM&Aアドバイザリー業務
地方銀行においても、M&Aアドバイザリー業務は行われています。ただし、地方銀行にはM&Aについての専門知識を持った人材数が十分とは言えず、あくまでも仲介・紹介業務に徹しているケースがほとんどです。従来から、地方銀行はM&A仲介業務に消極的でした。
しかし、近年、融資先であり顧客である地方の中小企業では、後継者難という課題が表面化してきており、その解決手段としてM&Aで事業承継する手段を講じていくため、近年は積極姿勢に転じつつあります。
②メガバンク・外資系投資銀行によるM&Aアドバイザリー業務
メガバンクや外資系投資銀行は、地方銀行と比べ積極的にM&Aに関わっています。その特徴としては、他のM&A仲介会社などと比べると、比較的大規模なM&A案件を取り扱っていることです。特に外資系銀行の場合、証券会社と比べても規模の大きいM&A案件を取り扱っています。
メガバンクや外資系投資銀行は、M&A業務担当人員についても地方銀行とは違って充実していますが、基本的に少数精鋭でM&Aに取り組む点が特徴です。また、大規模なM&A案件に限定する傾向があり、中小企業がM&Aアドバイザリー業務を依頼しても断られる可能性があります。
銀行をM&Aアドバイザリーとして起用する際の2つの注意点
ここでは、銀行をM&Aアドバイザリーとして起用する際の注意点を解説します。
自身の利益を優先される可能性がある
最近、銀行がM&Aの相談役として活動し、そこから収益を得ることが増えています。しかし、銀行の主な業務はお金を貸す「融資」です。M&Aの相談役としての活動は、銀行の付加的な業務の一部です。特に地方の銀行は、ただお金を貸すだけでなく、自分たちが持つ情報やつながりを使って、顧客の企業が成長する手助けや、経営のアドバイスもしています。
銀行にとって、企業がM&Aを成功させて成長することは、長い期間、その企業との取引を続けるための良い機会です。ただ、注意が必要なのは、銀行が企業にM&Aを勧める際、買収の価格を安く見せて、後で長期の融資をすることを狙っている場合があることです。
利益相反取引に該当する可能性がある
銀行をM&Aアドバイザリーとして起用する際は、「銀行にとってM&Aは利益相反取引となる点」にも要注意です。買い手側が銀行をM&Aアドバイザリーに起用する分には問題ありませんが、売り手側にはおすすめできません。
その理由は、売り手側がM&Aアドバイザリーに起用した銀行が、買い手企業にM&A向け資金を融資すると、売り手側が損をする可能性が高いからです。前述のとおり、銀行の本業は、あくまでも資金融資になります。銀行にとってM&Aは、買い手側の買収資金を融資するビジネスチャンスです。
銀行は買い手企業に融資するために、売り手側の利益を度外視してM&A取引の成立をめざすかもしれません。買収資金が高額すぎると融資額を回収できなくなる可能性が上がるため、そのリスクを下げようとしてM&Aの買収価格を低額とすることもあり得ます。
しかし、買収価格が安ければ、売り手側にとって減益なのは明らかです。100%の断言はできませんが、銀行のビジネススタンスを考えると、M&Aの場面では売り手側よりも買い手側の利益を優先する傾向もみられます。
M&Aにおける銀行融資の3つのポイント
本項では、M&Aにおいて銀行融資を得るためのポイントを取り上げます。きちんとした準備も行わずにM&A向け資金融資を銀行に申し込んでも、断られてしまうのが関の山です。M&Aの実現に向けて、銀行から融資を受ける用意を行いましょう。
ポイントとは、銀行が融資する際に何を重視するのかを知ることです。それによって具体的な対策も取れますから、M&Aでの銀行融資も受けやすくなると考えられます。
①収益・財務状況
M&Aでの融資の際には、銀行は収益状況を最も重視しています。売り手企業の収益性に加えて、買い手企業の財務状況も確認対象です。特に、財務や会計に対する管理能力が評価されます。
どれほど買収対象が魅力的な事業であっても、それを運営する買収側に経営能力がなければ事業は成り立ちません。銀行はM&A後に融資金の回収をしなければならないため、この点を重視するのは至極当然です。
買い手企業としてM&Aを検討し始めた段階で、並行して自社の財務や会計管理システムを見直し整備しておくと良いでしょう。
②買収価格
M&Aの買収価格も、銀行が融資を検討する際に重要視される項目の一つです。特に銀行は、のれん代が買収価格に占める割合を気にします。のれん代とは、M&Aの買収価格のうち、売り手会社の純資産額を上回る部分です。
つまり、M&Aで生じるシナジー効果や将来の収益性を金額化したものです。のれん代の金額は予測に基づいて決定するため確約された金額ではありません。仮にのれん代が過大評価であった場合、M&A後の資金繰りが悪化する可能性があります。
もし、資金繰りが悪化すれば、銀行はM&Aの融資資金を回収できなくなるリスクが高まります。確実に資金を回収するというスタンスで考えれば、銀行にとってのれん代は少ないに越したことはありません。
したがって、銀行から見てのれん代が妥当でないと判断されれば、M&A向けの融資は断られてしまう可能性があります。M&Aの買収資金を銀行からの融資でまかなおうとする場合は、買収価格(のれん代)には気を配っておく必要があるでしょう。
③売り手企業の持つ有形固定資産
M&Aの売り手企業に価値があるほど、銀行からの融資を受けやすくなります。その中でも銀行がM&Aの売り手企業を評価する際に最重要視するのは、有形固定資産です。確実性や客観的評価を好む銀行は、無形固定資産よりも有形固定資産を優先的に評価します。
有形固定資産は換金しやすいということがメリットになるのです。その中でも、土地や建物は銀行の評価を高める筆頭格であり、それらを多く保有する企業がM&Aの売り手企業であれば、銀行から融資を受けられる可能性は目に見えて高まります。
なお、M&Aの売り手企業の有する資産が無形固定資産中心だった場合、それぞれの価値について丁寧に詳しく銀行に説明する準備を怠らないようにしましょう。説明する価値に理解が得られれば、M&Aへの融資実行の確率は高めることができます。
M&Aで銀行を利用する際の手数料
最後に、M&Aで銀行を利用する際の手数料について見ていきましょう。融資を受ければ利子が発生するのは当然ですから、それ以外のM&Aアドバイザリー業務を依頼した場合の手数料と、投資銀行で資金調達を実施した場合の手数料についての概要を述べます。
①アドバイザリー業務
銀行をM&Aアドバイザリーとして起用する場合、他のM&A仲介会社と同等の費用が発生します。主として、以下の3つの手数料があり、それぞれ個別に説明します。
- 着手金
- リテイナーフィー
- 成功報酬
着手金
着手金は、M&Aの業務を依頼し委託契約が成立した時点で発生する手数料です。各銀行ごとに着手金の金額は異なり、また実行しようとするM&Aの規模によっても変わります。相場としては、100万円〜3,000万円程度とだいぶ開きがある数字となります。
地方銀行よりもメガバンクや外資系投資銀行のほうが、M&Aの手数料は高くつきます。着手時という最初の段階で支払うため、M&A交渉が成立しなかったとしても、この着手金は返還されません。なお、M&A仲介会社によっては、着手金無料の業者もあります。
リテイナーフィー
リテイナーフィーとは、銀行とM&Aアドバイザリー契約を締結した場合に毎月支払う手数料です。数ヶ月から半年単位で、まとめて手数料を支払うケースが大半です。M&Aが成立した際は、成功報酬からこのリテイナーフィーを差し引くことが一般的になっています。
念のため、具体的に説明すると、成功報酬が1,000万円、支払い済みのリテイナーフィーが500万円だった場合、M&Aの成立時点で支払う成功報酬分は500万円です。この手数料の性質上、M&Aが成立するまでの期間が長期化するほど、費用負担が増していきます。
M&Aが長期化すると予想される場合や、途中期間の負担費用を削減したい場合には、リテイナーフィーの支払いが不要の銀行を選びましょう。なお、リテイナーフィーが発生しないM&A仲介会社もあります。
成功報酬
M&Aが実際に成功した時点で支払うことになる手数料が成功報酬です。銀行を含め、ほとんどのM&Aアドバイザリーはレーマン方式によって、この成功報酬の金額を決定します。レーマン方式では、M&Aの取引金額の数%分を成功報酬として設定します。
金額一律のパーセンテージではなく、細分化された金額によってパーセンテージは異なる仕組みです。同じレーマン方式でも、当然ながら銀行によってパーセンテージの数値や細分化される金額は異なります。
M&Aの成約価格によっては数百万から数千万円単位で手数料の額が変動しますから、事前確認しておきましょう。
②資金調達
投資銀行を通じてM&Aの資金調達をするという手法もありますが、その場合は手数料が発生します。投資銀行からM&A資金を調達する際は、社債や公募増資を行います。どの方法を用いるかによっても、必要となる手数料は異なります。
一般的には、社債のほうが増資よりも手数料率は低くてすみます。M&Aの費用を抑えたいケースでは、社債による資金調達がおすすめです。
M&Aにおける銀行の役割まとめ
本記事では、M&Aにおける銀行について解説しました。M&Aにおいて銀行は、資金融資やM&Aアドバイザリーとしての役割を果たします。買い手側企業が銀行をM&Aアドバイザリーに起用することで、資金調達も含めて円滑にM&Aを進めらるのはメリットでしょう。
ただし、売り手側企業では、銀行をM&Aアドバイザリーにすることは必ずしも有利とはならないこともあります。M&Aの場面・目的に応じてうまく銀行を使い分けるようにしましょう。本記事の要点は、下記のとおりです。
【M&Aにおける銀行の役割】
- 資金融資、M&Aアドバイザリー
【銀行が行うM&Aアドバイザリー業務の特徴】
- 地方銀行:仲介業務がメイン
- メガバンク・外資系投資銀行:M&A仲介会社と比べると比較的大規模なM&A案件を取り扱う
- 買い手会社の利益を最優先する
- 収益と財務状況、買収価格、売り手企業の持つ有形固定資産に着目する
- アドバイザリー業務:着手金、リテイナーフィー、成功報酬
- 資金調達:社債のほうが低金利
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