2021年4月27日更新資金調達

優先株式とは?優先株式のメリット・デメリット、種類やM&Aでの活用法を解説

優先株式は黄金株なども該当する種類株式のひとつであり、配当や剰余金を優先的に受け取れる権利が付加されている株式のことをいいます。当記事では、優先株式のメリット・デメリット、優先株式を発行する場合の優先株式設計について解説します。

目次
  1. 優先株式
  2. 優先株式は「参加型」「非参加型」「制限参加型」の3種類
  3. 優先株式の様式は「累積型」「非累積型」の2つ
  4. 優先株式は損したくない人向け
  5. 優先株式のメリット・デメリット
  6. 優先株式設計のポイント
  7. 優先株式の評価
  8. まとめ

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優先株式

優先株式とは種類株式の1つです。種類株式は普通株式と違って、特別な権利が付与されている株式のことを指します。

そのため、優先株式は通常株式とは違う扱いをされるのです。

例えば、配当や会社清算のときに普通株よりも優先して残余財産を受けることが可能です。しかし、議決権には制限が付けられています。

通常、優先株が上場されることはありません。一方、普通株よりも劣後される劣後株もあります。

優先株が世に知れ渡ったのは1990年台後半に大手銀行に対して行われた優先株式による公的資金注入です。銀行は優先株を発行し、国がその株を買い取りました。

優先株式は「参加型」「非参加型」「制限参加型」の3種類

優先株式には大きく分けて3種類のタイプがあります。

  1. 参加型
  2. 非参加型
  3. 制限参加型
それぞれ、わかりやすく説明しますね。

完全参加型優先株式

優先株式として事前に決められている優先される分配を受けた後、さらに普通株主と同じ分配も受けられるタイプです。

ただし普通株主と同じ条件のため、割合に応じて分配量は変わります

たとえば、会社の清算額が1,000万円だったとしましょう。参加型優先株式が100万円の優先配分権を持っていたとき、まず優先分の100万円を受け取ります。

また、比率30%であれば残り900万円の30%である270万円を追加で受け取ることとなるのです。

非参加型優先株式

優先株式として事前に決められている優先される分配のみを受けられるタイプです。

参加型優先株式と違って、普通株主と同じ配分を受けることはできません。

たとえば、会社の清算額が1,000万円だったとしましょう。非参加型優先株式が100万円の優先配分権を持っていたとき、優先分の100万円を受け取ります。

しかし、非参加型優先株式であればいくら比率があっても追加で受けることはできません。

もし、比率が30%であれば優先分はもらわずに普通株式の株主と同じ分配で270万円受ける方が多くの資金を受けられます。

制限参加型優先株式

参加型優先株式であっても一部制限が設けられているタイプです。

つまり、文字通り制限が設けられます。優先株式の分配をした後、一定の比率までであれば普通株式の株主と同じ分配を受けることができます。

たとえば、会社の清算額が1,000万円だったとしましょう。参加型優先株式が100万円の優先配分権を持っていたとき、まず優先分の100万円を受け取ります。

また、比率30%であっても「優先権2倍まで」という制限が付けられていれば優先分100万円の2倍である200万円を追加で受けることが可能です。

優先権2倍よりも少なければ、比率に合わせた額を受けられます。

優先株式の様式は「累積型」「非累積型」の2つ

ここまで優先株式の種類についてお話してきましたが、さらに様式もあります。

  1. 累積型
  2. 非累積型

それぞれの違いを分かりやすく説明していきますので、参考にしてくださいね。

累積型優先株式

累積型優先株式であれば、今年度中に定められた優先株配当金の金額に届かなくても次年度以降に回収することができます。

なぜなら、余剰金から時期以降の優先株主配当金と一緒に支払われるからです。

全く回収できないわけではないので、リスクを抑えることが可能です。

非累積型優先株式

一方、非累積型優先株式は累積型優先株式と違って次年度以降に回収することができません

つまり、その年度内に決められた優先株配当金に届いていなければ今後も回収することができないのです。

繰越ができないため、しっかりと不足しないか吟味をする必要があります。

優先株式は損したくない人向け

ここまで優先株式について説明をしましたが、難しいという人も多いかと思います。

もし、簡単に説明するなら優先株式は損をしたくない人に向いている株式です。

なぜなら、配当や余剰金の配当をするにあたって普通株式の株主よりも先に配当される権利があるからです。しかし、優先株式には議決権に制限があったりほかの株式に転換できないような制限が設けられています。

そのため会社の経営に参加することができない可能性が高いです。

どちらかというと、配当金や余剰金分配において確実に利益を獲得したい投資家におすすめの株式といえます。

実際、アメリカ・ヨーロッパでは優先株式を使った投資をする人が増えています。優先株式は普通株式よりもかなり高額なため日本ではまだメジャーになっていません。

しかし、投資額に見合った大きなリターンが確実に返ってくるのです。また、会社にとってもほかの株式よりも高い株価で取得させて資本金を増額させられるのでメリットがあります。

そのため、積極的に優先株式を発行したいと考える企業も多くなってきました。特にベンチャーファイナンスで使われる事例が増えています。

優先株式のメリット・デメリット

優先株式とはどのようなものかを説明してきました。

ここからは、優先株式を利用した際にどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説していきます

  1. 投資家
  2. 会社
それぞれ、上記2つに分けて詳しく説明します。

①投資家にとっての優先株式のメリット

投資家にとって優先株式を使って投資するメリットは、投資回収に対する優先権の確保ができることです。

全ての投資先の事業がうまくいくわけではありません。普通株式で投資していた場合、リターンがあまりなく損をしてしまったり、一切資金が戻ってこないことも考えられます。

こうなるとなかなか投資ができないものです。

しかし、優先株式であれば必要最低限の投資を回収し、リスクの回避につながります。

①投資家にとっての優先株式のデメリット

投資家にとっての優先株式には以下2つのデメリットがあります。

  1. 株式の売買には向かない
  2. 議決権の制限が設けられていることが多い
それぞれ、わかりやすく解説していきます。

投資家側デメリット1.株式の売買には向かない

投資家のデメリットは、株式の売買に向いていないことです。

投資家が株式の売買によって利益を出そうとするのであれば、享受できるメリットは少なくなります。というのも、優先株式は普通株式と同じようにすぐに得ることができません。

手離れの悪い株式なので、投資家が売りたいと思ったタイミングですぐに売れないのです。

さらに優先株式は流動性が低いため、大きな利益が出せる可能性はほとんどありません。投資家の目指す利益の出し方によってはあまり大きなメリットは得られないでしょう。

投資家側デメリット2.議決権の制限が設けられていることが多い

優先株式の多くは、議決権が制限されています。

そのため、投資先の企業の経営に問題があったとしても経営に介入することはできません。仮に投資先の企業が倒産するような判断をしてしまっても優先株式の株主は黙って見ておくしかないのです。

もちろん、優先株式の中でも議決権の制限が設けられないものもあります。もし、経営に介入したいと思っているのであれば、事前にどのような制限が設けられているのか確認しておきましょう。

②会社にとっての優先株式のメリット

会社にとっての優先株式のメリットは多く2つあります。

  1. 資金調達に使える
  2. 株主に会社経営に介入されない
それぞれ、わかりやすく説明します。

メリット1.資金調達に使える

会社の資金調達に使うことができます。

なぜなら、普通株式と比べると高い価格で株を買ってもらえるからです。実際日本でもスタートアップやベンチャーファイナンスに活用される事例が増えてきました。

会社法が平成17年に施行されて以降優先株式も扱いやすくなったため、通常投資を受けにくい会社が投資家を集めるために活用し始めたのです。

メリット2.株主に会社経営へ介入されない

株主からの会社経営介入を防ぐことが可能です。

なぜなら、優先株式に対して会社は制限を設けることができるからです。そのため、資金調達をしながらも投資家たちからの指図を受けたり口出しされたりすることを防げます。

株主に操作されず、役員だけで会社経営をしたい場合にも有効です。株主による経営への影響を防ぎたいのであれば優先株式を活用しましょう。

②会社にとっての優先株式のデメリット

会社が優先株式を活用することの唯一のデメリットは、イメージが良くないことです。

というのも、日本では「優先株式への投資」がまだまだ少ないです。今でも一般的には普通株式で投資を行います。アメリカやヨーロッパでは1つの投資の形として認識されていますが、今でも日本では印象が良くありません。

特別な手続きを行ったり種類株式の発行のために定款の変更を行う必要があります。

また、日本では一般市場で優先株式は流通していません。そのため「企業の救済」のための株式という認識がされています。「あの企業の経営が悪いのでは?」と勘ぐられる恐れもあるでしょう。

日常的な資金調達であっても、救済されている企業という印象を持たれる可能性があることを覚えておくべきです。

優先株式設計のポイント

優先株式が有用なことをお話してきました。

しかし、注意しておきたいポイントが以下2つあります。

  1. 優先株式設計と配当コスト
  2. 優先株式における議決権制限範囲
それぞれ順番に目を通していきましょう。
 

①優先株式設計と配当コスト

優先株式設定において、配当コストは押さえておくべきポイントです。

優先株式は持っているだけで投資家が利益を獲得できます。そのため、会社が抱える配当コストは大きくなるでしょう。

しかし、配当コストを懸念して優先株式を通じて得られる利益を抑制してしまうと買ってもらえず維持ができなくなる恐れも出てきます。

このように、配当コストを高くすると会社にかかるコストは大きくなるものの、配当コストを低くしすぎると投資家に買ってもらなくなるといった矛盾が生じるのです。

そのため、配当コストと投資家の得られる利益のバランスはとても大切です。

優先株式でも制限を付けたり非累積優先株式にするなど、会社が損しない工夫をする必要があります。参加型株式や累積型にすると投資家にとっては有利ですが、会社は配当コストが増えてしまいます。

このように利益のバランスを十分に考慮し、優先株式を発行しましょう。

②優先株式設計における議決権制限範囲

続いて、優先株式設計における議決権制限範囲についても確認しておきましょう。

優先株式には様々な制限を付けることができます。中でも議決権をどこまで制限するのかは大切なポイントです。なぜなら、議決権制限範囲によって、株主の経営介入度合いが大きく変わるからです。

万が一、議決権に制限を設定していなければ、持ち株の割合の少ない優先株式の株主の意見が通ってしまったり意思決定が遅れてしまうかもしれません。思い通りの経営ができなくなるため、株主総会決定事項の適用範囲を定めておくことをおすすめします。

制限を設ける場合には、株主総会で議決権を行使できない旨や議決権が行使できる条件を記載しておきましょう。

一方で、ベンチャーやスタートアップ企業は議決権制限範囲を定めないことも多いです。なぜなら、投資家による経営のアドバイスを受けたいと考える経営者もいるからです。自社の状態によって最適な議決権制限範囲を定めましょう。

優先株式の評価

優先株式は、投資家にとって利益の確保ができるのでおすすめです。

また、資金調達をしたい会社も積極的に発行すべき株式といえます。ただし、会社の実情によって制限を加え会社が損しないような工夫が必要です。

さらに、会社の定款を書き換えたり制限の検討をしたり、複雑化しやすい株式でもあります。

優先株式は一般市場で取引がされておらず、市場価格を出すことができません。そのため、評価モデルを利用して評価する必要があります。優先株式の評価モデルには、格子モデルやブラックショールズ式といったものが一般的です。

正確な評価ができているかの判断は難しいですが、評価モデルに従って評価するしかないのが実情です。

まとめ

優先株式とは、配当や余剰金の分配を優先的に受けられる株式のことです。

普通株式よりも優遇される権利があり、投資家向けの株式となっています。一方で発行会社も資金調達することができるのです。まだまだ日本では浸透していないですが、アメリカやヨーロッパでは一般的に行われる投資方法です。

今後日本でも広まっていくことが期待できます。

しかし、救済イメージが強く、経営が傾いているという判断をされかねません。また、経営に関する制限を設けておかなければ、自分の思い通りの経営がスムーズにできない恐れもあります。

優先株式のメリットとデメリットを理解した上で、賢く活用しましょう。

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