2023年1月8日更新会社・事業を売る

新設分割の手続きとは?手順、メリット・デメリットを解説

新設分割は、新しく会社を設立するため株主総会や登記など手続きが複雑です。この記事では、新設分割の手続き、具体的なスケジュール、期間などについて解説します。メリットやデメリット、吸収分割との違いも紹介していますので、参考にしてください。

目次
  1. 新設分割の手続き
  2. 新設分割手続き6つのステップ
  3. 吸収分割の手続き・流れ
  4. 新設分割のスケジュール
  5. 新設分割の手続きまとめ

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新設分割の手続き

新設分割という手法をご存じでしょうか?新設分割とはM&Aにおける手法の一つであり、会社分割の一種です。ただし、最近はM&Aの手法が多様化し、いずれも手続きが異なるため、混乱・混同しやすい人が増えています。

M&Aについて正しく理解するためにも、それぞれの手法を区別しておくことは重要といえるでしょう。今回は新設分割の手続きや手法について詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。

新設分割とは

新設分割は会社分割と呼ばれる手法の一種です。会社が持つ事業の権利義務の一部、あるいは、全て新設会社に承継させます。この点をふまえると会社内の事業を他の会社に譲渡する事業譲渡と似ています。

しかし、手続きのプロセスや課税の範囲が異なるのです。事業譲渡は基本的に他の会社に事業を譲渡するため、2社以上の会社間で行われます。

一方、新設分割は新会社を設立したうえで自社事業の権利義務を承継させるため、一つの会社内で完結します。その点で、複数の会社間で実施される事業譲渡とは大きく異なっているといえるでしょう。

新設分割の種類

新設分割は、主に物的新設分割と人的新設分割の2種類に区分できます。物的新設分割のケースでは、元会社は新設会社の株式を保有するので、元会社が新設会社の親会社になるように分割可能です。

分社型新設分割との呼び名でも知られています。事業承継の際に2つの事業をそれぞれの後継者に割り当てる際や、グループ会社内で事業を兄弟会社として独立させるときに活用される機会があります。

人的新設分割の場合、分割前の会社が新設会社に事業承継をする際、新設会社の株式を元会社の株主に対価として交付するのが特徴的です。分割型新設分割との別名で呼ばれることもあります。グループ会社の子会社からほかの子会社に事業を移転する場合に利用される傾向です。

旧商法では、物的分割と人的分割に分けられていましたが、新会社法において人的分割は廃止され、物的分割に統一されました。人的分割が物的分割の一種に過ぎないとの考え方もあったからです。

ただし、元会社に対価を交付後、余剰金の配当などを元会社の株主に交付し、人的分割と似た結果を得る方法もあります。

新設分割と吸収分割の違い

新設分割は会社分割の一種であると紹介しました。会社分割の手法には吸収分割もあります。新設分割の理解を深めるためにそれぞれの違いを見ていきましょう。

実施に関わる会社の数

新設分割は新しい会社を設立し、そこに事業の権利義務を承継させる手法です。そのため、新設分割は分割を実施する一つの会社内で完結します。

それに対して、吸収分割は会社が分割した事業の権利義務をほかの会社に承継させる手法です。吸収分割は2社以上の会社内で実施されます。ただし、新設分割はほかの会社と行うケースもあります。

効力の発生日

新設分割と吸収分割は全く異なる手法ですが、実際の手続きはほとんど同じです。ただし、効力発生日が異なるので注意してください。吸収分割の効力は吸収分割契約において発生しますが、新設分割では新設した会社の登記が完了した段階で発生します。

株主総会における承認の必要性

新設分割が株主総会の承認を得なければならないのに対し、吸収分割は、吸収分割会社が存続する株式会社の特別支配会社であった場合に株主総会を省略できます。この点も手続きの違いが現れてくるので押さえておきましょう。

新設分割のメリット・デメリット

事業譲渡は、事業承継の際に従業員の雇用契約および取引先との契約がリセットされることから、再度締結し直す必要があります。一方、新設分割はそのプロセスが不要であるため、従業員や取引先に逐一同意を得なくても実行可能です。

新設分割では現金の代わりに株式が対応しているため、現金が用意できない場合でも支払えます。ただし、新設分割にデメリットがないわけではありません。新設分割は株主総会をスキップできない手法であるため、手続きが面倒です。

株主が多い会社は株主総会の開催にも手間取りますし、一定規模以上の新設分割を行う場合は債権者に異議申し立ての機会を与える必要も生じます。万が一債権者が反対すれば個別に弁済する必要があり、手続きがさらに煩雑になることも少なくありません。

新設分割は会社の一部を新設会社に移す手法であるため、承継したくないものまで引き継ぐリスクもあります。簿外債務や偶発的債務など経営に不要なものまで承継するため、それが原因で経営戦略が揺らぐ可能性があることも認識しておきましょう。

吸収分割のメリット・デメリット

ここで、吸収分割のメリット・デメリットについても見ていきましょう。

まず、吸収分割のメリットとして、少ない資金で実行できることが挙げられます。事業承継の対価として株価の発行を選ぶと多くの現金を用意する必要がなく、「適格分割」が適用となれば消費税が生じません。

移転手続きがシンプルで、承継会社はシナジー効果が効率的に発揮できる点もメリットです。移籍させる労働者に個別に同意をとる必要がないこともメリットといえます。

デメリットは、株価や株主構成が変わってしまう可能性、経営統合によって現場が混乱する可能性などです。

【関連】新設分割と吸収分割の違い

新設分割手続き6つのステップ

新設分割の手続きは主に6つの手順を踏みます。それぞれのプロセスを知ることで新設分割のイメージが明確になるでしょう。この章では、新設分割の各種手続きの詳細を順を追って伝えていきます。

①新設分割計画の立案

新設分割の手続きの中で、経営者が一番意識しておくべき事柄は新設分割計画です。新設分割計画の作成は、新設分割のスケジュールを計画するプロセスで、新設分割を成功させるとともに理想的な効果を得るうえで重要です。

長期的な視点で計画

新設分割計画は長期的な視点で作成する必要があります。新設分割は組織再編を目的に行うことが多いですが、そのプロセスは煩雑化しやすく、長期間を要するケースも少なくありません。計画が遅延すれば、さまつな事柄に気を取られ、本来の目的が揺らぐ可能性もあります。

社内で目的を共有

新設分割に限らず、組織再編やM&Aは従業員の反発を受けることも少なくありません。新設分割は一つの会社内で完結できるため、企業文化が異なる従業員の間で摩擦が発生する場面は少ない傾向です。

ただし、新たな組織に再編されることで働く環境が変わり、抵抗感を抱く従業員がゼロとは限りません。計画を作成する際は新設分割の目的を社内でしっかり共有し、従業員からも同意を得ておくことが重要です。

実務について協議・決定

新設分割の実務的な部分もあらかじめ入念に協議、決定しておく必要があります。株式の交付先や負債の処理、債権者への対応、発生する税金などを網羅し、把握しておきましょう。

特に注意すべき点が行政許認可の扱いです。新設分割に限らず会社分割では行政許認可が基本的に承継されますが、事業の種類によっては行政許認可が承継されず、改めて取得し直すケースもあります。手続きに手間がかかることがあるので、事前に把握しておくとよいでしょう。

②新設分割計画書の作成

新設分割計画ができたら、新設分割計画書を作成します。新設分割計画書には、下記の必要事項を記載しなくてはなりません。

  • 設立する会社の目的、商号、本店の所在地に加えて発行可能株式の総数など、設立会社の定款で定めること。
  • 設立する会社が設立した際の役員などに関すること。
  • 設立する会社が新設分割を行った後に分割する会社から承継する資産、債務、雇用契約に加えてその他の権利義務に関すること。
  • 分割の対価に関すること。
  • 設立する会社の資本金や準備金の額に関すること。
  • 分割する会社が新株予約権を発行している場合、設立する会社が新株予約権を持つ新株予約権者に向けて、分割する会社の新株予約権に代わって設立する会社の新株予約権を交付するなら、その新株予約権における義務の承継などに関すること。
そのほか、剰余金の配当なども記載すれば新設分割計画の作成は完了です。

③事前備置・官報公告

新設分割計画書を作成した後は、まず事前備置を行います。分割する会社が新会社を設立してから6ヶ月経過するまで、一定事項を記載した書面を本店に備え置く必要があります。記載事項は、以下のとおりです。

  • 新設分割計画
  • 分割における対価の相当性を示すこと。
  • 分割型新設分割である場合、それに関係する一定のこと。
  • 計算書類などに関係すること。
  • 効力が発生してから設立する会社の債務がある場合、その履行の見込みに関係すること。

事前備置の後は官報公告を行います。公告の記載事項として、新設分割の実施や、新設分割によって設立する会社の商号・住所、貸借対照表の要旨、債権者が一定期間異議を唱えられる旨などがあります。

各債権者への公告も実施し、日刊新聞紙や電子公告が公告するように定款で定められている場合は、各債権者への公告を省略することが可能です。官報で公告する会社の場合、省略できないので注意しましょう。

④株主総会

新設分割では新設分割計画を承認してもらうために、株主総会で決議を取る必要があります。株主総会の前には、株主総会招集通知を送るのが一般的です。原則として、1週間前(株式を公開している会社では2週間前)までに完了させる必要があります。

定款で定められているなら1週間より短い期間で通知しても問題ありません。株主総会で新設分割に反対する株主がいた場合は、株式買取請求権が与えられます。ちなみに新設分割は株主総会の過程を省略できませんが、例外もあります。

分割する会社の総資産額における5分の1以下だった場合、株主総会で新設分割計画の承認を得る必要がありません。株主総会を省力する場合、新設分割計画に反対する株主に株式買取請求権が与えられることはありません。

⑤債権者保護手続き

株主に新設会社の株式を渡す場合、債権者は新設分割計画に対して異議を申し立てられるので、必要があれば債権者保護手続きを行います。

まず、分割する会社は債権者に対し、所定の事項を官報公告(定款によって官報以外の公告をする場合はそれを行う)、および催告します。ただし、債権者が申し立て期間内(1ヶ月を下らない期間)に異議を唱えなかった場合、新設分割を承認したと見なされるでしょう。

異議を申し立てた場合は新設分割で債権者を害するリスクがない場合を除き、債権者に対して弁済・債務に相当する担保を提供します。あるいは、債権者に弁済を受けさせることを目的とした相当の財産を、信託会社などにします。

⑥新設分割の登記

新設分割は登記で締めくくりです。具体的には、「分割する会社の変更登記」と「新しく設立する会社の設立登記」の2つが必要です。この変更の登記と設立の登記は、同時に行わなければなりません。

その際、二種類の申請方法があります。一つ目は同時申請です。同時申請は分割する会社と新しく設立する会社が同じ登記所の管轄区内にある場合、別々で申請書を作成して同時に提出する方法です。

もう一つの申請方法は経由申請になります。経由申請は、新しく設立する会社が分割する会社の登記所の管轄区内にない場合に行い、新設する会社の登記所を経由して申請する形式を取ります。

登記に伴う登録免許税

登記を行う際には登録免許税が発生し、登録免許税は分割会社と新設会社で金額が異なるのが特徴的です。設立する会社は、承継会社が株式会社か合同会社である場合、登録免許税は資本金の7,000分の1の金額になります。

7,000分の1の金額が3万円未満であれば、登録免許税は3万円です。設立する会社が合名会社や合資会社の場合は、6万円になります。分割会社は、本店の所在地で分割会社の変更登記を行う場合、登録免許税は3万円、支店の所在地で登記する場合は9,000円です。

【関連】新設分割計画書とは?新設分割計画書作成の注意点や新設分割と吸収分割の違いを解説
【関連】会社分割における登記

吸収分割の手続き・流れ

この章では、吸収分割の手続き・流れについて見ていきましょう。

吸収分割契約の締結

最初に、分割会社と承継会社で吸収分割契約を結びます。いろいろな事項が会社法第757条や第758条により定められており、主な締結事項を締結します。前もって吸収分割契約の締結に向けて、重要事項を決めるための取締役会の決議が必要です。

分割会社と承継会社に事前開示書類を備置

「株主総会を行う日の2週間前」「株主への通知・公告のどちらか早い日」「債権者への催告・公告のどちらか早い日」の中で最も早い日から吸収分割の効力が生じた後6か月間事前開示書類を備置しなければなりません。

労働者への事前通知

分割会社は、労働承継法が定める期限までに労働者への事前通知を行います。記載する主な事項は、「承継される事業概要」「分割手続きを行う日程」「分割会社と新設される会社の名称や事業内容」「予定される従業員の業務内容や就業場所」「転籍拒絶などへの異議申出期限日」です。

反対株主の株式買取請求通知

株主には反対する権利があるので、反対株主は公正な価格で株式を買い取ってもらうことを会社へ請求する株式買取請求権があります。反対株主へ、株式買取請求通知を効力が生じる日の20日前までに行いましょう

株主総会招集通知や新設分割実施の知らせと一緒に送付することをおすすめします。

債権者保護手続の実施

債権者は吸収分割に対し異議を申し立てられます。吸収分割の際は、官報による公告や債権者への個別催告を行い、定款に載っていれば、日刊新聞紙か電子公告、官報による公告の2つがある場合、個別催告は必要ありません。

債権者からの承認を得る手続きはいりません。効力が生じる日の1か月前までに公告・催告を行い、効力が生じる日までに手続きを終わらせましょう

株主総会の特別決議

吸収分割の手続きを進める際、株主総会の特別決議で承認を得ることが欠かせません。招集通知は開催される日の1週間前までに行いましょう。上場企業、電子投票などを行う非上場企業は、2週間前までです。招集通知と一緒に行うことをおすすめします。

承認を得るためには、議決権を持つ株主が株主総会に過半数以上出席、かつ3分の2以上が承認する必要があるので注意してください。

登記申請

効力が生じてから2週間以内に登記申請をしましょう。分割会社と承継会社の双方が手続きを行います。この際、登録免許税と官報広告費の費用が必要なことを忘れないでください。

分割会社と承継会社に事後開示書類を備置

手続きを終えるには、会社法第791条、第801条に定められているとおり、分割会社と承継会社の本店に効力が生じた日から6か月間、事後開示書類を備置します。

新設分割のスケジュール

新設分割は長期的な期間で行う必要があります。今回紹介するスケジュールはあくまで目安であり、トラブルなどが発生した場合は時期が前後することもあるので注意してください。ここでは、7月1日を効力発生日にした設定でスケジュールの例を見ていきましょう。

【7月1日を効力発生日にした場合のスケジュール】

期間 内容
4月中旬 新設分割の準備開始。新設分割計画を設定したり、債権者への確認や従業員との協議などを実行したりしていきます。
5月1日 取締役会決議にて新設分割計画を承認し、株主総会の招集を決定します。また官報公告の申込みも行います。ほかの公告手段に関しても同様です。
5月10日 従業員に事前通知を行います。
5月25日 官報公告の場合、新設分割の公告が掲載されます。また、債権者への個別催告や新設分割の契約者などに対する事前備置も実行します。
6月1日 株主総会の招集通知を送ります。反対株主などに対しても通知します。
6月25日 株主総会で決議をとり、新設分割計画の承認を取ります。また、債権者の新設分割に対する異議申し立てを行う期間はこのタイミングで満了を迎えます。
7月1日 分割する会社の分割、新しく設立する会社の設立に関する登記を申請します。
それ以降 分割に関係する書類の事後備置を行います。

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新設分割の手続きまとめ

新設分割は事業譲渡と同じようなメリットを得られるうえ、一つの会社内で完結させられる点がメリットです。ただし、新しく会社を設立するだけあって、株主総会や登記など手続きが煩雑になりやすい傾向があります。

新設分割は長期間を要し、トラブルなどがあればさらに長期化する可能性もあります。万が一期間が長引いても各種手続きをおろそかにせず、新設分割の目的を忘れないように取り組みましょう。

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