2022年12月14日更新会社・事業を売る

株主割当増資とは?目的、メリット・デメリット、注意点を解説

株主割当増資は、新株の発行によって資金調達する方法の一つであり、自社を除いた既存株主に対し、持ち株数に応じて新株の割り当てを受ける権利を与えるという方法です。株主の構成や持ち株比率を変えずに増資できるメリットがあります。

目次
  1. 株主割当増資とは
  2. 株主割当増資と第三者割当増資の違い
  3. 株主割当増資のメリットとデメリット
  4. 株主割当増資を行う手順
  5. 株主割当増資の注意点
  6. 各増資方法の特徴を比較
  7. 株主割当増資のまとめ

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株主割当増資とは

新株を発行する際、その株式を発行する会社を除いた既存の株主に対し、新株が割り当てられる権利を付与することが特徴です。ただし、保有する株数に応じた権利であることがポイントです。大まかにいうと、既存の株主(自社を除く)に新株を割り当てて出資を受ける形で、資金を調達する方法です。

株主への割り当ては持ち株数に応じて行われるのも、株主割当増資の特徴です。株主割当増資では2つの重要なポイントがあります。以下で、それぞれ詳しく解説します。

既存の株主(自社を除く)

株主割当増資は、既存の株主のみに新株の割り当てを受ける権利を与えるだけで、既存の株主より出資を受けることから、新たな株主は登場しません。ただし、ここでいう「既存の株主」には、自社(自社株)は含まれません

これから当該増資を実施しようとしている会社が自己株保有している場合、株主割当増資で割り当てとなる「既存の株主」に自社(その株式の発行会社)は含まれず、自社以外の株主のみが対象となります。例えば、A社が自社の株式を保有している場合、本来であればA社自体がA社の既存の株主に含まれます。

しかし、株主割当増資は「自社を除いた既存の株主に対して新株の割り当てを受ける権利を与える」仕組みです。株主割当増資の場合はA社が自社の株式として保有しているものに対し、新株の割り当てはできません。

これは、自分で自分に割り当てられないことを意味します。株主から出資を受けることで、はじめて資金調達を実現できます。自社が自分自身に出資しても新たな資金調達にはならず、自社以外の株主から出資を受けるからこそ、新たな資金を手に入れることが可能です。

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持ち株数に応じて

株主割当増資では、株主の保有する株数に応じて新株の割り当てを受ける権利が与えられます。例えば、持ち株数20株に対して1株を割り当てるケースを想定すると、100株を持つ株主には5株、40株を持つ株主には2株が割り当てられる仕組みです。

結果として、株主はそれぞれ105株と42株を保有することになります。上記の例でいえば、持ち株数20株に対して1株という割合が決まっているとおり、新株の割り当ては、それぞれの株主の持ち株数で割合が決められています。

これを株主ごとに変えることはできません。この例でいえば、40株を持つ株主に5株を割り当て、100株をもつ株主に2株を割り当てることはできません。あらかじめ決められた割合を守り、それぞれの持ち株数に応じた株を割り当てる必要があります。

株主割当増資と第三者割当増資の違い

ここでは、第三者割当増資との違いを解説します。

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第三者割当増資とは

第三者割当増資とは、株主割当増資によらない方法で新株の割り当てを受ける権利を与えることです。株主割当増資では既存の株主のみを対象としていましたが、第三者割当増資では既存株主以外にも新株を引き受ける権利を付与できます。

第三者割当増資では、既存の株主であるかどうかは関係なく、既存の株主を含めた特定の第三者に新株を割り当てられます。

第三者割当増資の目的

第三者割当増資は、資金調達、M&A手法としての活用、他社との関係性強化を図る手段として実施されます。とはいえ、主な目的は、株主割当増資と同じく資金調達です。

第三者割当増資との違い

第三者割当増資では引き受ける人を募集し、その募集に応じて株式の引受けの申込みをした人に対して新株を割り当てる流れです。この場合、引受けの申込みをする人は既存の株主だけではなく、新たな株主が登場する可能性もあります。これが、割り当ての対象を既存の株主だけとする株主割当増資との大きな違いです。

既存の株主に対する割り当てでも、株主割当増資では持ち株に応じて決まった割合の新株を割り当てるのに対し、第三者割当増資では持ち株に応じて割合を決める規定はありません。既存の株主に対して割り当てる場合でも、持ち株数に応じた割合となっていない場合は、株主割当増資とはならずに第三者割当増資となります。

例えば、ある会社に3人の株主がいたケースを想定すると、その中の1人にのみ新株の割り当てを受ける権利を与えてしまうと、それは株主割当増資ではなく第三者割当増資となります。

株主割当増資のメリットとデメリット

会社は状況や事情に応じて、それぞれ最良の増資方法を選択しますが、選択に際してどのような点に留意しておくべきでしょうか。ここでは、株主割当増資におけるメリットとデメリットを解説します。

株主割当増資のメリット

株主割当増資のメリットは、主に以下の2点があります。

  • 資金を調達しても返済の必要がない
  • 株主の構成や持ち株比率が変わらない

これら株主割当増資における2つのメリットを以下で詳しく解説します。

①資金を調達しても返済の必要がない

これは第三者割当増資にも共通していますが、株主から受ける出資は返済する必要がありません。同じ資金調達の方法には、金融機関などから借り入れする方法もあります。金融機関などから借り入れたお金は、利息とともに返済しなくてはなりません。

しかし、増資は、実際にお金を借り入れているわけではなく、新株を発行して出資を募る点が特徴的です。株主には配当金を支払うのですが、これは出資してくれたことへの返済や利息ではなく、あくまでも利益の一部を株主に還元する(支払う)性質を持ちます。

出資を受けたからといって株主に返済する義務はなく、借りたわけではないため利息がないことを意味し、会社としては返済しなくてもよい資金を調達できます。この点は、金融機関などからの借り入れと比較した場合に大きなメリットです。

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②株主の構成や持ち株比率が変わらない

株主割当増資は、株主の構成と株主の持ち株比率に変更がありません。この点が、株主割当増資の最大のメリットです。

他の増資方法では新株の発行の際に、新たな株主が登場する可能性があります。これにより、新しい株主の出資によって効率的に資金を調達できるメリットはある一方で、その株主に会社をコントロールされてしまうおそれもあります。

保有する株式が多ければ多いほど、その株主は株式会社に対して強い力を持ちます。株主割当増資の場合は、新たな株主にコントロールされるおそれがなく、また株主の構成に変更がないので、一人の株主だけが突然多くの株式を保有することもありません。

これまでの株主の構成や持ち株比率が今までと変わらずに、効率のよい資金調達が可能です。

株主割当増資のデメリット

増資に限らず、物事にはメリットがあればデメリットが存在します。メリットはよく認識している人がいる一方で、デメリットをきちんと認識していない人は少なくありません。

デメリットの認識が甘かったことで後々にトラブルへと発展してしまうこともありますので、株主割当増資のデメリットもよく認識しておきましょう。

①株主の理解を得る必要がある

株主割当増資は株主の持ち株比率が変わりませんが、これは会社としてはメリットになっても、株主としてはそれほどメリットがありません。同じ出資をしたとしても、株主割当増資では他の株主との持分比率は変わりません。

持ち株比率が変わらないのなら、株主間での力関係はこれまでと同じです。それにもかかわらず、株主は出資をすることになるため、株主にとってはそれほど魅力的な手法ではありません。

株主にとって恩恵のある行為でなければ、株主が株主割当増資を拒否して実現しない可能性もあります。株主によっては「持ち株比率が変わらないのに」と考える人もいるでしょう。株主割当増資を実現するには、株主の理解を得る必要があります。

ただし、理解を得るために時間がかかってしまうと、資金調達にも時間がかかってしまいます。

②費用や手間がかかる

第三者割当増資でもいえることですが、株主割当増資には多くの費用や手間がかかります。株主割当増資を行うためには、株主総会などの法律上で定められた機関の決議を経なければなりません。資本金が増加することで、登記上の変更手続きを行う必要もあります。

これにより、登録免許税や司法書士への報酬などが発生し、増資した額によっては税額が上がることもあります。このような費用と手間がかかるので、短期間での資金調達が難しい増資方法です。

株主割当増資を行う手順

基本的な実務手順は、主に以下のとおりです。

  1. 募集事項の決定
  2. 株式の申し込み
  3. 株式の引き受け
  4. 割り当てを受けた者が出資を履行

募集事項とは、株式を募集するにあたって定める条件のことです。この募集事項は、株主総会や取締役会などの決議で決まります。

公開会社の場合

公開会社の場合は、取締役会で募集事項を決定します。決定した募集事項は、株式の引き受け申し込み期日の2週間前までに株主へ通知しなければなりません。

非公開会社の場合

非公開会社の場合は、定款に別段の定めがない場合とある場合とで決議機関が異なります

定款に別段の定めがない場合

定款に別段の定めがない非公開会社の場合は、株主総会の特別決議で募集事項を決定します。こちらも、引き受けの申し込み期日の2週間前までに株主へ通知しなければなりません。

定款に別段の定めがある場合

取締役会設置会社でない株式会社では取締役の決定によって(取締役会設置会社では取締役会の決議によって)、定款に「募集事項の決定ができる」とする定めがあれば、取締役または取締役会の決議で募集事項を定めます。

募集事項の決定後は、上述した場合と同様の日までに株主に対して通知をします。株主は株式の申し込みをすると、割り当てを受けることができ、出資する仕組みです。

株主割当増資の注意点

株主割当増資には費用と手間がかかるデメリットがあります。株主総会や取締役会などでの決議も必要です。株主割当増資を行う場合は、要件を満たしているかどうかも確認しなければなりません

ただし、株主割当増資ではメリットが大きいです。株主割当増資を検討する際には、費用や手間とのバランスを考え、実行するかどうかを判断する必要があります。

多少の費用や手間がかかっても、それ以上のメリットに期待ができると判断できれば、株主割当増資での資金調達は魅力的です。株主割当増資を行った際には適切な会計処理も必要です。

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各増資方法の特徴を比較

その他の増資方法にも、メリットとデメリットがあります。ここでは、それぞれのメリットとデメリットを株主割当増資と比較します。

第三者割当増資のメリット・デメリット

第三者割当増資のメリットとしては、資金調達後に返済が必要ない点は株主割当増資と同じです。株主割当増資にはないメリットとして、新たな株主が登場することは、例えば取引先や銀行などの深い関係のある第三者に割り当てられることを意味します。

すでにある程度の信頼を得ている相手からは、資金を集めやすいです。これまで以上に信頼関係を安定させることも可能です。

一方で新しい株主が出てくることで、特定の株主に会社をコントロールされてしまうおそれもあります。持ち株比率が変わるため、少なからず影響が出てしまいます。既存の株主の力が弱くなることで、意思決定がスムーズに進まない可能性がある点は注意しましょう。費用や手間がかかる点は、株主割当増資と同様にデメリットです。

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第三者割当増資の流れ

簡単に、第三者割当増資を実施する際の流れをまとめました。

  1. 募集事項の決定
  2. 株主に対する通知・公告
  3. 引受け申込み希望者に対する通知
  4. 引受けの書面を交付
  5. 割当先の決定および申込者への通知
  6. 出資の履行

以上の流れを株主割当増資との違いを意識したうえで把握しておきましょう。

公募増資のメリット・デメリット

公募増資とは、不特定多数の投資家から資金調達することです。新株発行での増資というと、むしろこのイメージを持つ人が多いでしょう。公募増資では、第三者割当増資と同様に、既存の株主ではない新たな株主が出てきます。

一方で、両者には違いもあります。第三者割当増資では特定の第三者を新株の割り当て先としますが、公募増資は不特定多数の投資家に割り当てることになりますので、広範囲での資金調達が可能です。

ただし、より広範囲で新しい株主が登場するため、第三者割当増資以上に会社のコントロールを奪われてしまうおそれがあります。株主割当増資よりも広範囲での資金調達が可能な点はメリットですが、デメリットにも転じる可能性がある点も注意しなければなりません。

株主割当増資のまとめ

株主割当増資は、新株を発行して資金調達する方法の1つであり、自社を除いた既存の株主に対して、持ち株数に応じて新株の割り当てを受ける権利を与える方法です。既存株主の構成や持ち株比率は今までと変わらずに資金調達できることがメリットです。

一方で、費用や手間がかかるデメリットもあります。何事にもメリットがあればデメリットもあるように、株主割当増資にもそれぞれ良いところがあれば、悪いところもあります。これを考えたうえで株主割当増資とするのかを事前に検討しなければなりません。

株主割当増資はあくまでも増資の方法の1つとして、状況に応じて第三者割当増資や公募増資も検討しましょう。自社だけで答えを出すのではなく、専門家に相談することもおすすめします。

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