2021年4月29日更新節税

株式譲渡と住民税

上場株式でも一般株式でも株式譲渡を行って利益が出れば、所得税と住民税が課税されます。本記事ではそのうちの住民税にフォーカスし、株式譲渡での住民税の申告・納税の実態に迫ります。特に税制改正で変更となった上場株式譲渡所得の課税方式選択には、注意が必要です。

目次
  1. 株式譲渡とは
  2. 住民税とは
  3. 株式譲渡における住民税
  4. 株式譲渡における住民税の計算方法
  5. 上場株式譲渡時の課税方式選択自由化(平成29年度税制改正)
  6. 上場株式譲渡で選択できる住民税の課税方式
  7. 所得税と住民税で課税方式を変えるメリット
  8. 所得税と住民税で課税方式を変える際の注意点
  9. まとめ

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株式譲渡とは

株式譲渡が意味するのは、言葉そのままに株式を第三者に譲り渡すことです。言語的には対価のあるなし、どちらも含めた表現ではありますが、対価を伴わない株式譲渡であれば、株式贈与、株式の無償譲渡と呼称するのが一般的でしょう。

従って、通常、株式譲渡と言えば、株式を有償で譲渡する意味合いになります。そして、ひと口に株式譲渡と言いましても、それは大きく分けて2種類の株式譲渡があります。その一方が上場株式譲渡であり、もう一方がそれ以外の一般株式譲渡です。

①上場株式譲渡

上場株式の取引は、原則的に誰もが株式市場で自由に行える投資行為・売買行為です。この場合の原則とは、主としてインサイダー取引に抵触しないことがルールとなります。そして、その取引の中で株式譲渡を行うことは、基本的に譲渡利益を得ることを目論んでの行為です。

株式譲渡を実施して得た譲渡益には、税金が課されるのは言うまでもありません。

②一般株式譲渡

上場株式と違って一般株式は、会社のオーナー経営者やその親族、役員など限定された立場の人しか所有していません。一般株式とは非上場株式ですから、当然ながら株式市場での取り扱いもありません。

つまり、一般株式譲渡が発生するのは、M&Aなどで会社の経営権を相手に承継するときです。平たく言えば、一般株式譲渡=会社の売却ということになります。そして、M&Aでの株式譲渡も、資本金額など株式入手時点より高値で売却できれば、差額分の利益を得られます。

要するに、一般株式の場合も株式譲渡を行えば、基本的には譲渡益を得られるという点では、上場株式譲渡と変わりはありません。ただし、一般株式譲渡にあたっては、いくつかの手続きを経て実施しなければならないという相違点があります。

M&Aで一般株式譲渡をするのは、先方に経営権を移転させることが前提です。従って、それを実施しようとする場合、相手との協議から始まり、大筋合意後も細かい取り決めや手続きが必要になります。

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住民税とは

日本における住民税とは、1月1日時点で自身が住んでいる地域に納付する税金です。住民税は、正確には市区町村民税と都道府県民税の2種類に分割されるのですが、総称として住民税と呼びます。また、住民税は、国税である所得税と違って地方税です。

地方税である住民税は、各自治体の財源としてダイレクトに住民が納付する税金ということになります。そのため、各自治体で課税率の可変が認められており、課税率は全国一律ではないという特徴があります。ただし、驚くほど税率の差が発生したケースは今までありません。

そして、住民税は個人のみならず、法人も課税対象です。さらに、住民税には納税方法にも特徴があります。納税者自らが自治体に納税する方式は普通徴収と呼ばれ、自営業者のような個人事業主などが、普通徴収により住民税を納付します。一括納付、または4分割納付が選択可能です。

サラリーマンのように、会社に雇用されている給与所得者に対しては、特別徴収が適用されます。特別徴収とは、会社が毎月の給与額から住民税分を差し引いて給与を支払い、その差し引いた住民税額を社員に代わって各自治体に納付する方式です。

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株式譲渡における住民税

株式譲渡で譲渡益が出れば、当然ですが、そこには所得税と住民税が課税されます。住民税の基本的な仕組みとしては、前年度の所得金額に応じて課税される所得割と、所得額とは無関係に定額課税される均等割で構成されています。

株式譲渡に対する住民税は、株式等譲渡所得割として個別に税金が課されるのが基本です。ただし、上場株式譲渡と一般株式譲渡とでは、住民税が課税されるルールにおいて相違点があります。

上場株式譲渡の場合、3種類ある課税方式の中から任意の方式を選択することが可能です。しかし、一般株式譲渡の場合は選択の余地がなく、申告分離課税のみが唯一の方法です。上記3種の課税方式についての詳細は後述します。

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株式譲渡における住民税の計算方法

原則的に、株式譲渡の所得は、上場株式譲渡でも一般株式譲渡でも申告分離課税です。申告分離課税とは、他の所得とは切り離して個別に税額を計算します。課税される譲渡所得は、株式売却によって獲得した金額から、取得費用や譲渡費用を差し引いた金額です。

具体的には、上場株式譲渡の場合、取得費用とは株式の購入金額を意味します。証券会社への手数料などが譲渡費用です。一般株式譲渡での取得費用とは、創業者であれば会社の設立費用である資本金額であり、後継者であれば先代からの株式取得時に支払った金額になります。

一般株式譲渡での譲渡費用に該当するのは、M&A仲介会社に支払う仲介手数料などです。それらを当てはめて計算した株式譲渡所得に対して、上場株式譲渡、一般株式譲渡のどちらに対しても、住民税の税率は5%と定められています。

また、住民税とは別に所得税も課税されます。所得税の課税率は15%+2037(令和19)年までの時限措置として0.315%の復興特別所得税の合計15.315%です。住民税の納付額は、以下の計算式で算出できます。

  • 住民税=(譲渡金額-取得費-委託手数料等)×5%

なお、株式譲渡所得で認められている申告分離課税ではない、総合課税とはどのような税率なのか、念のため確認しておきましょう。所得に対する総合課税では、まず住民税の課税率は10%です。所得税は累進課税のため、所得金額によって以下のように税率が変動します。

所得額 ~195万 ~330万 ~695万 ~900万 ~1,800万 ~4,000万 4,000万超
税率  5%  10%  20%  23%   33%   40%   45%

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上場株式譲渡時の課税方式選択自由化(平成29年度税制改正)

2017(平成29)年度の税制改正で、上場株式譲渡所得に対する住民税と所得税の課税方式が自由に選択できるようになりました。改正以前は、所得税の確定申告を行った時点で自動的に課税方式は定まり、住民税の課税方式は所得税のそれと統一されるシステムだったのです。

それが左記の税制改正によって、現在は上場株式を源泉徴収ありの特定口座を用いて譲渡した際に、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができます。例えば、所得税は申告分離課税を選ぶ一方で、住民税は申告不要制度を選択できるのです。

上場株式譲渡所得のみの適用であるため、M&Aによる一般株式譲渡所得では従来どおり、同じ課税方式で所得税と住民税が課されます。また、株式譲渡で損失もある時に行える損益通算も、上場株式と一般株式間では行えません。

M&Aの株式譲渡では相応の金額で株式を売却し譲渡所得を得られるはずですから、株式譲渡後の税金対策にも心配りをしておきましょう。

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上場株式譲渡で選択できる住民税の課税方式

上場株式譲渡に限って選択可能な住民税の課税方式は、下記の3種類です。

  1. 申告不要制度
  2. 総合課税
  3. 申告分離課税
それぞれ順を追って概要を説明します。

①申告不要制度

申告不要制度では、株式譲渡所得の確定申告を経ずに住民税を納税します。源泉徴収ありの特定口座を用いて上場株式の譲渡を実行すると、基本的に申告不要制度を用いることになります。

本来、株式譲渡で得た利益が年間20万円以上ある場合には確定申告が必要です。しかし、証券会社に株式取引用の口座を開設する際、源泉徴収ありの特定口座を選んでおけば、自動的に住民税が源泉徴収されるシステムになっています。

そして証券会社が、源泉徴収された住民税を代わりに支払ってくれることになるため、本人は確定申告が不要となるのです。

②総合課税

総合課税とは、他の所得と合算したうえで住民税を計算・納付する方式です。ただし、住民税の計算方法で述べたとおり、総合課税での住民税の課税率は、分離課税の課税率の2倍にあたる10%です。

理論的な可能性として、住民税の課税方式として総合課税を選択できるようになってはいますが、選んでもメリットがないため、選択されるケースはほぼありません。

③申告分離課税

すでに説明してきたとおり、申告分離課税とは、他の所得とは切り離して個別に税額を計算し、確定申告を行って納税する方式です。源泉徴収ありの特定口座を用いていない場合、申告分離課税によって住民税を支払うことになります。

証券会社で開設できる口座には、一般口座、源泉徴収されない特定口座、源泉徴収ありの特定口座と種類があります。後日の納税のことも考え、開設する口座を選択ておきましょう。

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所得税と住民税で課税方式を変えるメリット

上場株式譲渡所得について、所得税と住民税で課税方式を変えるのは面倒に感じる人もいるかもしれません。しかし、よく調べて比べてみると、課税方式を変えることによって、節税できる可能性があります。節税が可能なパターンになり得るのは以下のケースと考えられます。

  • 所得税:申告分離課税
  • 住民税:申告不要制度

ただし、上記の組み合わせが誰でも節税になるわけではありません。例えば、所得税では、複数の上場株式取引を行っていて譲渡所得が赤字のものもある場合、確定申告で損益通算が行えるため節税につながります。

また、前年の繰り越し譲渡損失があれば、当年の譲渡所得額から控除可能です。ちなみに、この繰り越し譲渡損失は3年間持ち越せます。そして、国民健康保険や後期高齢者医療保険加入者の場合は、住民税の申告不要制度を選択することで、それらの保険料を抑えることが可能です。

保険料なので厳密には節税ではありませんが、いずれにしても個人の譲渡所得状況により詳細なシミュレーションを行わないと結論が出せないかもしれません。安易に自己判断するよりも、税理士に相談したほうがよいでしょう。

所得税と住民税で課税方式を変える際の注意点

メリットがあることには、デメリットもついてまわるものです。上場株式譲渡所得の納税で、所得税と住民税の課税方式を選択して変える場合も、デメリットとは言わないまでも注意すべきポイントがあります。特に気をつけたい2点について記します。

①保険料の増額に注意

地方自治体が算出している国民健康保険料や医療費の自己負担割合、後期高齢者医療保険料や介護保険料は、その基準値として住民税の課税対象所得金額が用いられています。つまり、上場株式譲渡所得の住民税課税方式を、総合課税または申告分離課税を選んだ場合、保険料が増額します。

住民税の納税額にだけとらわれて課税方式を選んだ場合、節税できた金額よりも保険料などの増額分のほうが高くなってしまう可能性があるのです。該当するケースである場合、節税金額と保険料増額分の比較をしてから課税方式を選ぶようにしましょう。

②申告期限に注意

上場株式譲渡所得に関する所得税の確定申告を行って、そのまま何もしないでいると、住民税の課税方式は所得税と同じものになってしまいます。従って、所得税とは違う住民税の課税方式を選択したい場合、住民税の申告書を別途作成し、自治体に提出しなければなりません。

そして、この住民税の申告書についての扱いが自治体側でも明瞭になっておらず、明確な提出期限が公表されていないケースがほとんどです。通常、自治体から住民税額の決定および納税通知書が届くのは6月頃ですから、それに先んじて住民税の申告書を提出するようにしましょう。

言葉の表現上では矛盾とも受け取れますが、申告不要を選択したい場合でも住民税の申告書を提出しないと、確定申告した所得税の課税方式が適用されてしまうのです。場合によっては、自治体のスタッフ自体も、この意味が理解できない可能性もあります。

必要に応じて自治体に問い合わせと確認をしながら、自身の意図についてはっきり宣言して理解を得るようにすることも肝要です。

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まとめ

同じ株式譲渡でも、上場株式と一般株式では課税上の規定が分けられていました。特に上場株式の場合、所得税と住民税とで別々の課税方式を選択できるようになったのは、節税という観点で喜ばしいことです。

しかし、その反面、ルールが複雑化してしまい、対応者である自治体側に精通しているスタッフが少ないという事態も生じています。上場株式譲渡所得の納税方法に関しては、当面、まず税理士に相談することをお勧めします。本記事の要点は、以下のとおりです。

【株式譲渡所得に課される住民税の計算方法】
  • 住民税=(譲渡金額-取得費-委託手数料等)×5%
【株式譲渡所得での住民税の課税方式】
  • 上場株式譲渡所得:申告不要制度、総合課税、申告分離課税から選択できて場合により節税が可能
  • 一般株式譲渡所得:申告分離課税

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