M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年4月23日更新業種別M&A
クリニックの業界動向とM&Aのメリット!流れや売却・買収事例と成功のポイントを解説【2024年最新】
本記事では、病院・クリニック業界の現状やM&A相場、成功・失敗の要因、事例を徹底解説します。病院・クリニック業界では、買い手・売り手ごとにM&Aの目的は異なります。期待できるメリットを把握し、M&Aの成功を目指すことが大切です。M&Aを検討中の方は必見です。
目次
クリニック業界の概要
まずはクリニック業界の概要をお伝えします。
クリニック業界の定義
クリニックとは、病床が19床以下もしくは病床を持たない小規模な医療機関のことです。医院や診療所などと呼ばれる施設が該当します。その他、歯科診療所もあります。
クリニックでは、軽い病気やケガ、慢性期疾患の診療が中心となっています。
クリニックと病院の違い
病院とは、医療法によると「医師または歯科医師が公衆または特定多数人のために医業や歯科医業を行う場所」のことであり、複数の診療科があることや20人以上患者が入院できる医療機関のことです。
大学病院や市民病院といった総合病院が該当します。
クリニックと病院は、「身近な疾患はクリニック、重度な疾患などは病院」とされていますが、どちらも日本の医療制度を支える重要な存在です。
クリニックの現状
次に、クリニック業界が置かれている現状について解説します。
クリニックの統計情報
現在の国内の病院・クリニックの動向を把握するために、厚生労働省の資料「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」から抜粋し、全国の医療施設数と前年度との比較を下表にまとめました。
種別 | 施設数 | 増減数 | 開設数 | 再開数 | 廃止数 | 休止数 |
---|---|---|---|---|---|---|
クリニック | 104,292 | +1,680 | 9,546 | 229 | 7,612 | 483 |
歯科クリニック | 68,500 | -113 | 1,352 | 70 | 1,252 | 145 |
病院 | 8,205 | -33 | 63 | 1 | 92 | 5 |
表を見てわかるとおり、歯科クリニックは非常に数が多いために、独立してカウントされています。そして、病院、クリニック、歯科クリニックを合計すると、2021年10月現在での日本の医療施設数は、180,396施設です。
表における「増減数」は、前年度と比較した数になります。その右横の「開設数・再開数・廃止数・休止数」は、増減数の内訳です。廃止・休止する病院・クリニックの数が多いことに、驚かれた方も多いのではないでしょうか。
クリニックの競争激化
昨今の病院・クリニック業界では、診療報酬の切り下げが問題視されています。従来のように、診療をしていれば収益を上げられる状況が変化しているのです。したがって、病院・クリニック間における競争も年々、激化しています。
「景気に左右されない」印象とは反対に、赤字経営に陥る病院やクリニックも多いのが現実です。それに加えて、いかなる業界でも悩まされる後継者不足・人手不足などの問題も相まって、まさに生き残りをかけた競争が繰り広げられています。
そのため、病院・クリニック業界でも、事業の多角化・シェア拡大・収益性向上などの取り組みが活発化しており、M&Aも経営戦略の1つとして広く活用されるようになりました。
クリニックの市場環境
厚生労働省の「令和4年度 医療費の動向」によると、過去5年間の日本の概算医療費は以下のように推移しています。
- 2018(平成30)年度:42兆6,000万円
- 2019(令和元)年度:43兆6,000万円
- 2020(令和2)年度:42兆2,000万円
- 2021(令和3)年度:44兆2,000万円
- 2022(令和4)年度:46兆円
毎年増え続けてきた医療費が2020年度はコロナの影響もあり、前年より減少しました。しかし全体を見ると、増加傾向にあることがわかります。
出典:厚生労働省「医療費の動向調査」
経営者の高齢化
厚生労働省の「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、診療所に従事する医師は「60〜69歳」が最も多く平均年齢も60.2歳となっています。一方、病院は「30〜39歳」が一番多く。平均年齢も「病院(医育機関附属の病院を除く)」では 47.2 歳、「医育機関附属の病院」 39.3 歳となっています。診療所の高齢化が特に目立つ結果となっています。
帝国データバンクの「全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」では、業種別の後継者不在率が最も高いは自動車ディーラ(66.4%)の次に、病院・診療所(クリニック)など「医療業」65.3%となっています。
後継者不在の背景として、少子化や資格を必要とするすることから後継者が見つかりにくいといった要因があります。
出典:厚生労働省「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」
休廃業の増加
帝国データバンクの「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021 年)」より、診療所のの休廃業・解散件数は471件と前年の14.8%増でした。理由としては、コロナ禍での受診控えや医療従事者の休職や労働環境悪化などがあります。
今後、先述した経営者の高齢化や後継者不在もあり休廃業・解散はさらに増加すると考えられます。
出典:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021 年)」
社団法人の病院・医療法人とは
病院・クリニックの開設には自治体の許可が必要です。医師・歯科医師、または法人が開設申請可能ですが、病院・クリニックには非営利性が求められるため、営利企業である一般法人は開設が認められません。
したがって病院・クリニックの開設が可能なのは、医療法人、学校法人、公益法人、厚生農業協同組合連合会などに限られますが、ほとんどは医療法人です。医療法人は、その成り立ちの違いにより2種類に分かれます。その1つが社団医療法人です。
社団医療法人は、出資者からの資金や医療設備の提供を得て設立されます。この出資者のことを「社員」と呼びますが、当然、従業員という意味ではありません。たとえるなら、株主と同じ意味合いです。そして、社員総会によって役員の選任・解任を決めます。
社団医療法人の場合、役員名は理事(取締役に該当)、理事長(代表取締役に該当)、監事(監査役に該当)です。なお、理事長になれるのは、医師・歯科医師資格者に限られています。厚生労働省によると、全医療法人の99%が社団医療法人です。
財団法人の病院・医療法人とは
もう1種類の医療法人が、財団医療法人です。財団医療法人は、資金や医療設備の寄付を受けて成立します。したがって、社団医療法人のような社員は存在しません。その代わりに評議員が選ばれ、社員と同様の役割を担います。
評議員に選ばれる資格があるのは、医療従事者、病院・医療法人経営経験者などです。評議員の数は、理事の数より多くなくてはいけません。理事は原則3名以上、監事は1名以上ですから、最低でも5人の評議員が必要です。
病院・クリニックの業界構造
病院・クリニックの開設者は、以下のように分類できます。
- 国
- 公的医療機関(自治体、日本赤十字社など)
- 社会保険関係団体
- 医療法人
- 個人(医師・歯科医師)
- その他(社会福祉法人など)
上記の「その他」に含まれるものとして、大企業が社員の福利厚生のために設立する病院があります。営利企業が病院を開設するのは本来、認められませんが、社員向けの病院という前提の場合、特別に認められているのです。
病院経営における赤字割合の現状と対策については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニック業界の事業承継の方法
クリニック業界の事業承継の方法には、以下の3つが挙げられます。
親族内事業承継
親族事業継承とは、配偶者や子どもなど経営者の親族に事業を引き継ぐ手法です。一般的にクリニックの事業承継で一番最初に検討されます。
しかし、少子化や原則医師である必要のあること、また親族が医師であっても取り組みの違いや経営に関する方針の違いから親族内事業承継は減少傾向にあります。
親族外事業承継
親族外事業承継とは、親族以外の医師免許を持つクリニック内の従業員へ事業を引き継ぐ手法です。親族への引き継ぎが難しい場合に選択される場合が多いです。
親族外事業承継のメリットとして、クリニックで長年勤務している従業員が承継候補となるため、クリニックの方針などを理解しており従業員からの理解も得られやすい点が挙げられます。一方で、継承側には多くの資金が必要になるため資金準備が難しい点がデメリットとして挙げられます。
M&A活用の事業承継
M&A活用の事業承継とは、クリニックの譲渡先を仲介会社などM&Aの専門家が探し第三者が事業を引き継ぐ手法です。近年多く用いられるようになってきています。
後継者が周りにいない場合でも事業承継を実現することができます。
クリニックのM&A・売却・買収動向
ここでは、病院およびクリニック業界の現状やM&A・売却・買収の動向に関して、以下の4項目に分けて解説します。
①診療報酬の切り下げによるM&A
現在の日本では、高齢者の増加(65歳以上の人口が約28%)により、社会保障費負担の増加・税収の伸び悩み・財政状況のひっ迫などを背景とした医療制度改革が推進されています。
この改革によって診療報酬が切り下げられていますが、この流れは今後も続く見込みです。診療報酬は病院・クリニックの収益の柱であり、診療報酬が引き下げられれば収益減に直結するため、経営上の大きな障壁であるのは、いうまでもありません。
②医療従事者が慢性的不足によるM&A
医師や看護師は病院・クリニック経営に必要不可欠の経営資源であり、サービスの質を大きく左右する要素でもあります。多くの病院・クリニックではこれらの医療従事者が慢性的に不足しており、事業を継続するための人材確保が非常に困難です。
特に看護師に関しては「7対1看護配置」制度の影響により、各病院・クリニック間において看護師採用の競争が激化したことで、大幅な人手不足状況が継続しています。
7対1看護配置とは、患者7人に対して看護師1人が配置される制度であり、条件を満たせれば高く設定された診療報酬を受けることが可能です。その一方で、「10対1」や「13対1」といったように看護師1人が対応する患者数が多くなるほど、診療報酬が低くなります。
看護師の大量確保が収益単価を上げる意味でも非常に有効であるため、各病院・クリニック間で採用競争が激化しているのです。さらに、労務管理が厳格化されたことも、この採用競争に拍車をかけています。
このように診療報酬の切り下げも相まって厳しくなった経営環境の中で、廃業に追い込まれる医療法人が増加傾向であるのを否めません。
③設備投資の必要性によるM&A
国が進める地域包括ケアシステムに関する施策や耐震対策などの影響を受けて、将来的に多額の設備投資が必要となる病院・クリニックが多い見込みです。こうした設備投資のための借入増も、病院・クリニックを経営するうえで大きな負担となり得ます。
④さまざまな目的のもとM&Aが実施されている
日本の人口構成や政府施策を考慮すると、市場環境が大きく好転する要素が少ないことから、病院およびクリニックでは、生存をかけて重要な経営判断を迫られています。
M&Aも経営判断の1つとして実施されており、事業存続・資金調達・事業承継を目的とするM&Aが増加傾向にあるのです。
そもそも医師は個人でクリニックを開業できる専門職であるため、若い医師を引き受けるために比較的小規模なクリニックを買収するM&Aも、今後は増加すると予測されています。
医療法人のM&Aについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックの売り手側のM&Aメリット
クリニックのM&Aで売り手が獲得できるメリットは、以下のとおりです
後継者問題を解決できる
経営者が高齢化する中、後継者が不在であるために病院・クリニックの存続が困難になっているケースが目立っています。後継者問題を抱える病院・クリニックがM&Aを実施すれば、事業承継が実現し病院・クリニックを存続させられるのです。
地域医療の観点から見ても、医療機関の存続は大きな意味を持ちます。
経営の安定化が期待できる
M&Aによって大企業や大手グループの傘下に入ることができれば、大規模な経営資本の活用で経営を安定化させるメリットが期待できます。また、大企業の知名度・ブランド力などにより、社会的な信用度の向上も見込めるでしょう。
同地域内でM&Aを実施すれば、地域の医療機関が持つ機能を向上させつつ、地域の医療体制発展への貢献も望めます。
従業員の雇用を確保できる
事業存続が困難になっているケースに関して、M&Aには従業員の雇用を確保するメリットも期待できます。仮に病院・クリニックを廃業してしまえば、在籍する医師・看護師・事務スタッフなどの雇用継続が不可能となってしまうからです。
設備投資による経営の効率化が図れる
病院・クリニック事業の一部を売却するケースでは、売却で獲得した資金を設備投資に回すことで、経営の効率化が図れます。事業存続に必要不可欠である考え方「選択と集中」を実現する方法としても、M&Aは大いに有効です。
創業者利益を獲得できる
M&Aによる売却で、病院・クリニックの創業者は利益を獲得できます。このときに獲得した利益は、引退後の生活資金や他の事業への投資など自由使途資金です。
眼科クリニック業界のM&A・売却・買収事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックの買い手側のM&Aメリット
クリニックのM&Aで買い手が獲得できるメリットは、以下のとおりです。
医療従事者を確保できる
昨今、医師・看護師の採用競争が激化しており、スムーズな採用活動の実施は困難な状況です。M&Aによって売り手の病院・クリニックと統合すれば、売り手に在籍する医師・看護師をそのまま引き継げます。
特に看護師数を増やせられれば、診療報酬上のメリットが生まれる可能性も高いでしょう。
医療事業をスムーズに開始できる
M&Aによる買収では、医療従事者だけでなく、医療施設もそのまま引き継げます。医療業界の事業は専門性が高く、事業の開始には相当の準備が必要です。
そこで、M&Aを活用すれば、完成した状態の病院・クリニックや医療環境を入手できるため、事業の開始を円滑化できるメリットが期待できます。
機能の多角化・専門性の推進が図れる
M&Aによる買収では、これまで未対応だった診療領域などを確保でき、機能の多角化が図れます。病院・クリニック同士の統合では専門性も推進され、市場における存在感の強化も期待できるのです。
これらの効果は企業規模の拡大にもつながるため、経営上、大きなメリットを享受できます。
病床規制に対応できる
病床規制がある環境下では、M&Aの実施によって認可病床数を増加できます。病床数は患者の受け入れ可能人数のことであり、医療サービスの実力を左右する要素です。既存の医療施設で増床を図るよりも、M&Aでは比較的容易に病床を増やせるメリットがあります。
病院・クリニック業界は許可制の規制業界です。したがって、病床規制以外にもさまざまな規制が存在します。M&Aの実施によって、こうした規制をクリアしていくことが大切です。
経費の削減が期待できる
M&Aによる分院などで拠点を増やせれば、購買面・外部への委託費用面で、取引先との交渉力を強めることが可能です。取引交渉で値引き幅を広げられれば、経費の削減にもつながります。
複数の拠点で共通する経費を一元化できれば利益率の上昇も望めるため、より効率的な経営が目指せるのです。
病院・クリニックの事業売却・M&A動向については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニック業界のM&A・売却・買収の流れ
病院・クリニック業界でM&Aによる売却・買収を行う場合、クロージングまで一連の流れがあります。ここでは、買い手側と売り手側の流れをそれぞれ見てみましょう。
売り手側の流れ
まずは売り手側の流れを紹介します。
M&Aの専門家への相談
M&Aの仲介会社など専門家に相談することで、医療経営の承継に関しての確認やM&A実施するかどうかについてアドバイスをもらえます。また、M&Aは通常業務と並行して進めていく必要があります。業務に支障をきたさないためにも、専門家の相談から始めることがおすすめです。
病院・医療法人のM&Aでは医療法など、一般的なM&Aとは異なる制約があります。そのため、経験豊富なM&Aアドバイザーのサポートを受ける場合が少なくありません。
売却先の選定
依頼するM&A仲介会社を決めたら、本格的に相手先企業を探していきます。希望条件を伝えると条件に合った企業をいくつか紹介されるため、交渉したい相手先をそこから絞り込むのが一般的な流れです。
交渉先選びでは、自社がM&Aを行う目的を念頭におくことが大切です。M&A仲介会社から交渉したい相手先へ打診を行い、相手企業もM&Aに前向きであれば交渉へと進みます。
トップ面談・条件交渉
トップ面談では、売り手側・買い手側双方のトップが直接顔を合わせ、互いの意思や人柄、経営理念などを確認し合います。通常トップ面談では金額交渉などは行わず、書面で伝わりづらい方針や文化といった部分の確認や信頼関係構築を目的としています。
その後、双方がM&A成立に向け前向きな姿勢であば、より具体的な条件を交渉していきます。
基本合意の締結
交渉でM&Aの使用スキーム・価額・条件など互いが大筋で合意したら、その内容を書面にまとめた「基本合意契約」を締結します。あくまでも基本合意書は、現段階で合意した内容を明確にしたものです。法的拘束力はなく、M&A成立を確約するものではありません。
しかし通常、独占交渉権・秘密保持・デューデリジェンスへの協力義務など一部条項については法的拘束力を持たせます。
デューデリジェンスの実施
基本合意締結後に、デューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスとは対象企業を財務・法務・人事・ITなどの側面から調査することです。
買収側は相手側の抱えているリスクや潜在リスクをデューデリジェンスによって洗い出し、買収して問題ないかや、価額は妥当であるかなどを検討します。
一般的に買収側企業がデューデリジェンスの費用を負担しますが、売却側は資料の提出など協力を求められた場合は誠実に対応することが大切です。
最終交渉と最終契約の締結
買収側がM&A実行をデューデリジェンスの結果に基づき判断したら最終交渉を行い、細かな条件を決定します。
デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終交渉が行われるため条件や価額の変更がなされるケースもあります。最終交渉で取り決めたすべての内容に双方が合意したら、最終契約を締結します。
最終契約はそのすべてに法的拘束力があるため、締結後に一方的に破棄や違反をすれば損害賠償請求の対象となります。締結前によく内容を確認しておくことが重要です。
クロージング
最終契約書で取り決めた内容に沿いクロージングでは、株式の交付や株主名簿の名義書き換え、対価の支払いなどを行います。M&Aスキームによって必要手続きが変わるため、M&A仲介会社と相談しながら抜けや漏れのないよう慎重に進めます。
なお、クロージング日は「クロージング条件」を満たしている必要があります。一般的に最終契約締結から一定の準備期間として設けます。クロージングが終わればM&A手続きは完了です。
買い手側の流れ
買い手側のM&Aの流れは、下記のとおりです。
- 買収するための戦略の立案
- M&Aアドバイザーの選定
- 買収先候補へのアプローチ
- 交渉、デューデリジェンス
- 最終契約締結
- クロージング
買収候補先へのアプローチでは、トップ同士の話し合いがすでにできており、買収対象となる病院が決まっているケースもあります。また、交渉の段階で基本合意を締結する場合もありますが、これは必須ではありません。クロージングでは、買収代金の払込などが行われます。
歯科業界におけるM&Aの売却/買収事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
病院・クリニック業界のM&A・売却・買収の成功と失敗
これまで、買い手と売り手ごとに獲得できる病院・クリニックのM&Aメリットを見てきましたが、M&Aは失敗してしまう可能性もあるため、あらかじめ成功要因を把握しておくのが大切です。ここでは、病院・クリニック業界のM&Aの成功要因と失敗要因を確認します。
病院・クリニック業界のM&A・売却・買収の成功要因
これまで見てきたメリットを十分に獲得できているM&Aは、成功ケースといえます。たとえば、医師不足により病院・クリニック事業の一部を譲渡したことで、選択と集中による経営資源の効率的な活用を実現できたケースは、「M&Aに成功した」のです。
さらに、買い手側もM&Aの実施により想定していた事業を買収し、事業領域の拡大という目的を達成したのであれば、売り手・買い手の双方にとって成功事例といえます。以上のことから、双方がメリットを享受できるM&A相手を見つけるのが、M&Aの成功要因です。
病院・クリニック業界のM&A・売却・買収の失敗要因
M&Aにおける失敗として深刻なのは、従業員の離職です。医師や看護師などの医療従事者は、病院・クリニックの事業運営に与える影響が非常に大きいため、従業員の離職は最も避けなければなりません。
特に、人材不足の病院・クリニック業界では転職が容易です。M&Aスキームの選定や買収資金の調達も重要ですが、医師・看護師が1人も欠けることなくM&Aが成約することを、常に念頭に置きながら手配を進めましょう。
クリニック業界のM&A・売却・買収を成功させるポイント
病院・クリニック業界でM&A・売却・買収を実施する際には、以下に挙げるポイントに着目しましょう
①開設などの手続きの確認
たとえば、病院の開設主体は、国、自治体などの公的部門と、医療法人、社会福祉法人、公益法人、個人などの民間部門と大別され、それぞれ手続き方法は異なります。許可制事業である病院・クリニックでは、1つひとつの手続きが重要ですから、よく確認しましょう。
②許認可の引き継ぎに注意する
M&A実施によって病院・クリニックの経営者が変わるのであれば、許認可の引き継ぎを行わなければなりません。この許可要件で注意したいのは、各自治体独自の事務処理を行うことから、必ずしも統一されたフォーマットやプロセスが敷かれているわけではない点です。
スムーズに病院・クリニックの許認可を得るためにも、自治体の担当窓口とよくコミュニケーションを取って交渉・折衝を行い、支障が出ないようにしましょう。
③医師・看護師を流出させない
病院・クリニックを買収する側にとって、医師・看護師をまとめて獲得できることもM&Aの1つの目的です。しかし、経営者主体が変わることに不安や異論を持ち、医師・看護師が退職してしまうケースがあります。
これは単に人材の流出にとどまらず、退職した医師や看護師を慕っていた患者の離脱にもつながる由々しき問題です。したがって、医師・看護師の流出は極力、避けなければなりません。
M&A実施の際は、早い段階から各医師・看護師とコミュニケーションを持ち、待遇改善を図るなどもして、人材がM&A後も退職しないための対策を取りましょう。
④適切なM&Aスキームを選ぶ
病院・クリニックは一般企業とは異なりますから、M&Aスキームも特殊です。まず、株式交換・株式移転・会社分割のような組織再編手法は存在せず、また、株式も存在しないた、株式譲渡も行えません。
したがって、実施できるM&Aスキームは、事業譲渡、合併です。また、病院・クリニックのM&A固有のスキームとして、医療法人理事の交代、または理事などの出資持ち分譲渡があります。
病院・クリニックのM&Aの場合、以上の選択肢の中から最適なM&Aスキームを選ぶことは、とても重要です。
⑤相手先の選び方
一般の企業のM&Aであれば、異業種間でもM&Aは成立します。しかし、病院・クリニックは許可制の事業で開設可能者も限定されるため、M&Aの取引相手候補は多くありません。したがって、そのことを念頭に置いて、取引相手候補を選定する必要があります。
⑥M&Aの専門家に相談する
病院・クリニックのM&Aで最適なスキームを選ぶためには、M&A仲介会社など専門家のアドバイスが役立ちます。病院・クリニックのM&Aは一般企業のM&Aとは異なる点が多いため、相談先は病院・クリニックのM&A実績を持つ専門家であることが重要です。
⑦行政との折衝
一般的な企業のM&Aでは発生しないのですが、病院・クリニックのM&A後に後継者が事業を再開させる場合は、管轄行政の許可が必要です。また、許可要件は地方自治体により異なることもあります。事前に許可を得られるようにM&Aを始める前から行政との折衝を行っておくのがベストだといえます。
クリニックのM&Aの売却相場
ここでは、クリニックのM&Aの売却相場について解説していきます。
クリニックの簡単な相場計算
あらかじめ売却相場を知っておくことで、安く買い叩かれずに済みます。また、高値で打診して成約が決まらないという事態を避けることもできます。クリニックのM&Aであれば、以下の計算式で算出されるものが一つの目安です。
- クリニックの相場 = 時価純資産+直近の利益の2~5年分
時価純資産とは、病院・クリニックの所有する資産や設備の現在の価値から、借金や負債を引いたものです。上記の計算式は年倍法と呼ばれており、直近の利益をもとにして将来の収益性を簡単に見積もったものです。収益の安定性や成長性が高いほど高く評価されます。
クリニックの売却額の目安を詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください。
クリニックの売却相場に影響がある要因
クリニックの企業価値評価に影響を与える要因をご紹介します。
プラスの影響要因
純資産
・時価の高い自己所有の土地・建物を保有
・時価の高い施設・設備を保有
収益性・将来性
・知名度が高い
・患者数が多い
・良い立地
・優秀なスタッフがいる(継続雇用が可能)
引き継ぎが容易
マイナスの影響要因
純資産
・負債が多い(金融機関からの借入金、リーズ残債)
・残業代未払い退職給付引当金など未計上の負債がある
収益性・将来性
・知名度が低い
・患者数が少ない
・立地が良くない
・将来的に損害賠償を課されるなど、クリニックの評判を落とすリスクがある
引き継ぎが困難
上記の中でも特に、引き継ぎの点は事業承継で重視されるポイントになります。院長が一人で診療している場合、患者は院長でそのクリニックを選んでいる可能性が高いです。そのため、いくら利益が出ている場合でも、将来的に院長が抜けたクリニックの価値を考えた際に収益性の面で評価を下げなくてはなりません。
したがって、譲渡後もしばらくは診療にあたり患者の引き継ぎを行うことを視野に入れることも大切です。また、クリニックの名称に院長個人の名前が入っている場合も検討が必要です。名称の変更は知名度に影響を与え、患者離れを招く恐れがあります。
事業承継までに時間がある場合は、あらかじめ名称を個人名を含まないように変更することで問題を避けることができます。
クリニックの具体的な譲渡価額を調べる方法
上記で紹介した算定方法を、病院・クリニックの経営者自身がいきなり駆使するには無理があります。そこで、病院・クリニックの具体的な譲渡価額を算定するには、M&A仲介会社などの専門家を活用するのがおすすめです。
クリニックのM&A・売却・買収にかかる期間
一般企業のM&Aは、最短で3カ月程度、通常は半年~1年程度の時間がかかるとされています。一方、病院・クリニックのM&Aの場合は、一般企業よりも長い期間がかかってしまうでしょう。これには2つの理由があります。
1つ目の理由は、病院・クリニックの売り手が絶対的に少ないことです。どんなに買い手が病院・クリニックのM&Aを実施したくても、売り手がいなければ成立しません。つまり、売り手探しに時間がかかってM&Aの機関が長くなってしまうのです。
2つ目の理由は、病院・クリニックのM&Aでは、一般企業のM&Aと違って行政機関との手続きが必要になることが挙げられます。病院・クリニックは行政機関の許認可が必要な事業ですから、M&A実施の際には当事者同士の手続きだけではすみません。
行政機関との手続きも発生する分、一般企業のM&Aよりも時間がかかることになります。
医院継承の親子・親族承継のメリット・デメリットについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックのM&A・売却・買収の相談先
病院・クリニックのM&Aは、専門性が高く、業務や設備などに関する知識にも精通している必要があります。ここでは病院・クリニック業界のM&Aの主な相談先を紹介します。
①金融機関
銀行や信用金庫などの金融機関でも、M&Aの相談ができます。地元の金融機関は地域に根ざしているため、条件の合う病院があればスムーズに話が進むでしょう。しかし地方の病院やクリニックの場合、その地域周辺だけで最適な条件を探すのは難しいケースもあります。
②事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者がいない、あるいは後継者不在の中小企業・小規模事業者に対して、助言や情報提供、マッチングなどを支援しています。全国47都道府県に設置された、公的相談窓口です。
事業承継・引継ぎ支援センターには、M&Aや事業承継に関する専門家が在籍しています。
③弁護士・税理士・公認会計士事務所
M&Aを行う弁護士・税理士・公認会計士事務所も、有力な相談先です。これらの士業の中には、病院やクリニックなど、医療分野に特化している事務所もあります。事前に、ホームページなどでリサーチしてから相談するのがよいでしょう。
④マッチングサイト
マッチングサイトは、相談先ではなくM&Aの相手探しの場です。簡単に全国規模でM&Aの候補先を探せるといったメリットがあります。医療分野に特化したサイトや無料で利用できるサイト、無料相談も行っているサイトなど、提供内容はさまざまです。
複数のサイトを比較し、病院やクリニックに合った最適なマッチングサイトを利用するのがよいでしょう。
⑤M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&Aを専門に取り扱っており、M&Aのトータルサポートを行っているのが特徴です。病院やクリニックの売り手と買い手をマッチングさせ、M&Aの専門的な知識や経験を生かしたアドバイス・サポートを受けられます。
クリニックの事業承継については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックのM&A・売却・買収の事例4選
ここでは、クリニックのM&A・売却・買収の事例を4つご紹介します。
徳洲会によるベテル泌尿器科クリニックの事業承継
2022年3月、徳洲会がベテル泌尿器科クリニックの事業承継しました。徳洲会グループは全国で多数の病院・診療所・クリニック・介護施設・訪問看護ステーションなどを展開する医療法人です。
ベテル泌尿器科クリニックは札幌市で泌尿器科の診療を行う、有床のクリニックです。院長の体調不良によって、従来通り診察できなくなったとして徳洲会へ譲渡しました。
廣仁会が昭和皮膚科クリニックを現院長個人に承継
2021年5月、昭和皮膚科クリニックの院長が廣仁会の昭和皮膚科クリニックを事業承継しました。廣仁会は北海道および宮城県に展開する皮膚科を中心とした医療法人です。今回の事業承継により、昭和皮膚科クリニックは新体制となります。
豊栄会によるきゅう眼科医院の事業承継
2020年1月、豊栄会はきゅう眼科医院を事業承継しました。豊栄会は東京、埼玉に眼科を展開する医療法人です。
きゅう眼科医院は静岡に展開する眼科です。今後は、最良の医療を目指していくとしています。
真生会による田中内科クリニックの事業承継
2019年1月、真生会が田中内科クリニックを事業承継しました。真生会は富山県で総合病院などを展開する医療法人です。
田中内科クリニックは富山県で消化器・内科・呼吸器専門の診察を行なうクリニックです。事業承継により真生会の内科医師が院長として就任し、地域へ医療を提供していくとしています。
クリニックのM&A・事業承継の案件一覧
ここでは、参考情報として、M&A総合研究所が担当している病院・クリニック業界のM&A案件情報を掲示します。案件内容は、病院・クリニックの売却希望案件です。
①住宅街に隣接する歯科クリニック(歯科医師複数在籍)
エリア | 千葉県 |
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売上高 | 5,000万円〜1億円 |
営業利益 | 1,000万円〜5,000万円 |
譲渡希望価額 | 1,000万円〜5,000万円 |
譲渡理由 | 院長が高齢のため |
②歯科クリニック(2000年開業)
エリア | 東京都 |
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売上高 | 1,000〜5,000万円 |
営業利益 | 非公開 |
譲渡希望価額 | 5,000万円〜1億円 |
譲渡理由 | 後継者不足による事業承継 |
クリニックのM&A・売却・買収のまとめ
一見すると病院・クリニック業界は景気に左右されない印象ですが、赤字によって厳しい経営を余儀なくされている病院・クリニックも多いのが実情です。それと同時に、後継者不足や人材確保が困難である問題も深刻化しています。
近年では病院・クリニック業界でも、事業の多角化・市場規模の拡大・収益性の向上を図る取り組みが活発化し、経営戦略の選択肢の1つとしてM&Aが注目されている状況です。
ただし、病院・クリニックのM&Aには特殊性が多いため、病院・クリニック業界に精通しているM&A仲介会社の起用が、M&Aをスムーズに進めるポイントになります。
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