2022年6月6日更新会社・事業を売る

表明保証条項とM&A

M&Aの実行において表明保証条項を設定することで、リスクを減らすことができますので設定するようにしましょう。表明保証条項の基本的な概要についてだけでなく、デューデリジェンスとの違いや、表明保証条項に違反した場合の判例についても解説します。

目次
  1. 表明保証条項とM&A
  2. 表明保証条項とは
  3. 表明保証条項の目的と効果
  4. 表明保証条項に違反した場合は
  5. 表明保証条項違反の判決事例
  6. まとめ

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表明保証条項とM&A

M&Aは、会社の今後を左右する大規模な取引になります。そのうえ、多くの時間や労力、専門知識を必要とし、いくつかの契約締結も行います。例えば、M&Aアドバイザリーとの提携仲介契約や、秘密保持契約があります。

またM&Aを進めていくうえで、買収する意向と合意に至った際に基本的な内容を確認する「基本合意契約」、そして最終的な合意内容が書かれた「最終契約」を締結します。特に最終契約は、M&Aの中でも最も大切な契約であり、そのひとつに、「表明保証条項」が含まれます。

M&Aの実施にあたっては、買い手と売り手は双方が慎重に検討を重ねていきます。どれだけ検討を重ねても、将来的にトラブルが100%起こらないと限りません。

そのため表明保証条項は、M&Aでのトラブルに対処できる対応策として非常に有効です。しかしM&Aに携わった経験がない経営者の方にとっては、対応が難しいものです。

そこで今回は、M&Aにおける表明保証条項について詳しく解説します。M&A契約に関わる方は必見の内容です。

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表明保証条項とは

M&Aの取引を進めていくうえで、表明保証条項について正しく理解しておくことが大切です。ここでは、表明保証条項の概要やその内容についてご紹介します。

①M&A契約における表明保証条項とは

表明保証条項は、M&A以外にも広く一般的に使われています。一般的な意味としては、契約内容に嘘偽りがない旨を保証する条項です。つまり、「M&Aのプロセスで開示した内容は、全て真実です」と相手方に表明するものです。

具体的には、対象となる企業の貸借対照表上に記載されていない偶発債務および潜在債務など、買手企業に対して追加的な債務が存在しない旨などを保証してもらう必要があります。

元来「表明保証条項」は、欧米圏のM&Aで活用されていました。しかし近年、日本でもM&Aが活用されるケースが増加しています。それに伴い日本でも、表明保証条項を活用する事例が増えつつあります。

②売り手側・買い手側からみる表明保証条項

M&Aに関連するトラブルは、株式譲渡契約や事業譲渡契約における最終契約書の表明保証条項を巡って訴訟紛争が起こっているといっても過言ではありません。そのため、表明保証条項では、M&A契約で定めた内容は正しい内容であると証明します。

買い手側は、M&Aの過程で一般的にデューデリジェンス(買収監査)を実施することが必要です。表明保証条項をできるだけ多く設定し、リスク回避につなげようとします。

しかし売り手企業側において、表明保証条項にもし違反が起こるとペナルティが発生します。そのため、表明保証条項をできるだけ減らしたいとするでしょう。

③表明保証条項の内容

表明保証条項の内容は、M&Aで締結する契約によってさまざまです。表明保証は、最終契約書の中における「表明保証条項」に記載されています。前述したとおり、買手側にはリスクを最小限に抑えるために、できる限り多くの条項を挙げるようにしましょう。

しかし売主側は、損害賠償請求されるのを防ぐために、表明保証条項を少なくしたり、修正を買主側へ求めたりすることで調整します。このように当事者間の交渉と調整によって表明保証条項の内容が決定されます。一般的には、下記内容が盛り込まれます。

  • 開示していない簿外債務や偶発債務が存在しない
  • 第三者の特許権等を侵害していない
  • 訴訟等が存在しない
  • 財務諸表や事業内容に虚偽がない

各M&A契約によっては、他にも条項をプラスされるケースもあります。売り手側は、表明保証条項には事実を記載しなくてはいけません。

表明保証条項を定めるためには専門的な知識が必要になる、M&Aの専門家へアドバイスを求めるのがおすすめです。

M&A総合研究所には、専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、培ったノウハウを活かしM&Aをフルサポートいたします。

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表明保証条項の目的と効果

次に、表明保証条項の目的と効果をお伝えします。M&Aの買い手側にとって、リスク回避の面で良い効果をもたらします。

①表明保証条項の目的

表明保証条項の目的としている調査範囲は、事業や財務、税務、環境、IT、人事、法務などの種類があります。これらは全て盛り込む必要はなく、M&Aの取引の内容によって必要なデューデリジェンスを選択します。デューデリジェンスを実行することで、M&Aで生じるリスクを軽減できます。

また、現実に即した企業価値(買収金額)を設定できます。ただし、デューデリジェンスの効果は絶対ではありません。デューデリジェンスで簿外債務などが発見されれば、その分売却価格は下がってしまいます。

売り手側がそれを避けるために、嘘の情報を提供したり、不都合な情報を隠したりする恐れがあります。買い手側はそのためにも、表名保証条項を定めるのです。

②表明保証条項とデューデリジェンス

デューデリジェンスによるリスク回避には限界があります。そこで表明保証条項を定めれば、リスク回避の効果を高めることができます。表明保証条項では、売り手企業側に「開示情報に嘘偽りがない旨」を約束させます。

仮に表明保証条項の事項に違反があった場合、売り手側に責任追及できます。具体的には、損害賠償の請求やM&A契約の解除を実行できます。そのため、万が一虚偽があっても、自社への悪影響を最小限に留められます。

そもそも、表明保証条項の設定を相手に伝えるだけで、リスク回避の効果が発揮されます。売り手側からすると、嘘をついたらペナルティが発生するため、虚偽の情報を開示するインセンティブが抑制されます。

以上の通り、表明保証条項にはリスク回避の効果を期待できます。つまり、デューデリジェンスの効果を補完するのです。

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表明保証条項に違反した場合は

M&Aの表明保証条項に違反した場合はどうなるのでしょうか。その場合、 買い手側は違反した売り手側に損害賠償請求や補償請求ができる可能性があります。それぞれについて説明していきます。

損害賠償請求の可能性

M&Aの表明保証条項に書かれていた内容が事実と違っていた場合には、故意、過失による損害賠償請求される可能性があります。損害賠償請求は、買い主側が損失を補てんするために金銭などを請求します。

補償請求の可能性

法律上、賠償と補償は違っています。賠償は、違法な行為を受けた損害の埋め合わせですが、補償は適法な行為だったのにもかかわらず起こってしまった損害の埋め合わせをすることです。M&Aにおいて、損害賠償請求も補償請求も一般的に同じ意味で使われています。

表明保証条項違反の判決事例

表明保証条項の設定を実施しても、後々違反が発覚するケースは多いです。その際買い手側は、どのような対応を取れるのでしょうか。表明保証条項の違反は、裁判所により債務不履行として損害賠償の請求や契約解除ができます。

①損害賠償請求

違反が生じた際には、相手側へ損害賠償を請求できます。表明保証条項に関して、明白な違反の場合には、契約内容に基づき損害賠償請求が可能です。ただし、契約書に違反時の対応について明確に定めておく必要があります。

買い主側の損害賠償請求が認められた判決

消費者金融会社に対する表明保証条項違反に関する裁判です。消費者金融のA会社の企業買収を検討し、株式を全て取得しようと事前にデューデリジェンスを実施しました。そして譲渡契約を締結し、買収が成立しました。

しかし、その後財務諸表は正確ではない情報であり、A会社の買収時は実際よりも帳簿上高く評価していることが明らかになったのです。そのため、買主側が損害賠償請求を求めました。

表明保証の事項について、買い主側が善意かつ無重過失だったとして損害賠償請求を認め勝訴判決となりました。

言い換えると、違反として裁判所に認められるためには、買主に善意かつ無重過失であることが必須です。この事例では、買い主側の資産などの調査活動は十分に実行されていたと裁判所に判断され、損害賠償請求が認められました。

しかし、買い主側に重大な過失があった場合は売り主側の責任は免れることが示された重要な判例です。要するに裁判になった場合、しっかりと調査して明らかにしているものであれば、損害賠償請求が制限されるのです。

買い主側の損害賠償請求が認められなかった判決

売り主側が正確な表明保証をしっかりと行ったことにより、損害賠償請求が却下されたケースもあります。このケースでは、売り主はM&A締結前に重要な情報を正しく提示していました。

そのため、買い主側は買収を行うかどうか判断するための重要な情報を、事前に知りえることができたと判断され、売り主側の表明保証条項の違反ではないという結果でした。

言い換えれば、売主側が正しい情報を開示することによって、訴えられた際に表明保証による責任は負わなくても良いということです。

他にも契約書に表明保証に関する記載がなく、損害賠償請求が却下されたケースもあります。現実的には、表明保証違反の証明は難しいものです。

不安要素がある場合は、しっかりと契約書にて具体的にどのような行為が表明保証違反となるか定めましょう。加えて、違反時の対応も具体的かつ明確に設定しなくてはいけません。損害賠償を請求するためには、この点に注意しましょう。

②M&A契約の解除

また、M&A契約を解除することも可能です。基本的には、損害賠償請求で対応することになりますが、表明保証違反によって多大な損失となる恐れがある場合、契約自体を解除した方が良いでしょう。

しかしM&A契約までに、売り主や買い主ともに相当な時間と費用、労力を費やしています。それを考えると、契約解除は有効な手段とはいえない場合もあります。

損害賠償請求および補償請求を前提とした契約締結の方が、メリットがある可能性もあるので、慎重に検討しなければなりません。

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まとめ

今回は、M&Aにおける表明保証条項について詳しく解説しました。M&Aの遂行には、数々のリスクが付きまといます。買い手側にとって、特に大きなリスクとなり得るのが、簿外債務や偶発債務です。そのため、デューデリジェンスの実行は、リスク回避のうえで重要です。

M&Aの表明保証条項を定める際は、専門家に相談するのをおすすめします。要点をまとめると、下記になります。

・M&A契約における表明保証条項とは
→「全ての情報を虚偽なく開示した」旨を約束する条項

・表明保証条項を設定するタイミング
→M&Aの最終契約書の締結

・表明保証条項の目的と効果
→リスク回避の効果を高める、デューデリジェンスの効果を補完する

・表明保証条項に違反した場合
→損害賠償請求や補償請求が請求される可能性がある

・表明保証条項違反の判決事例
→損害賠償の請求、M&A契約の解除

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