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2021年4月26日更新事業承継
事業承継の信託
中小企業にとって事業承継は会社を存続させるために、確実に成功させたいと願うものです。そのような経営者にとって、事業承継信託は非常に有効的な方法となり得るでしょう。事業承継信託を活用する方法は、理解が足りないとせっかくのメリットを享受できない可能性があります。
事業承継のための信託
昨今、中小企業を中心に多くの経営者の頭を悩ませている事業承継。せっかく後継者の選定ができても、会社の経営権を円滑に譲り渡すことができなければ事業承継が成功したとは言えません。
ただ最近は、事業承継を考えている経営者に向けに事業承継用の信託が行われており、経営者にとって心強い味方になりつつあります。今回は事業承継のための信託の特徴や種類、使ううえでのメリットを解説します。
事業承継信託とは
そもそも事業承継信託とは、どういったものなのでしょうか。
もともと信託とは財産を持つ人(委託者)がその財産を特定の信託行為を通じて受託者に託し、財産を持つ人が定めた目的通りに財産を管理・分配・処分し、その行為を通じて発生する利益を委託者が定めた受益者に提供する法律関係のことをいいます。
信託されるのは株式
平成19年の法改正以降、信託はその種類が増えており、近年では中小企業の事業承継に役立つ形で設計された信託サービスが提供されるようになりました。事業承継信託の場合、信託されるのは株式です。
受託者を誰にするかによって信託は、「民事信託」と「商事信託」に大きく分かれます。「商事信託」は、内閣総理大臣から免許を得ている、あるいは登録を受けている信託会社の信託になります。
「民事信託」は、受託者について基本的に制限はないため、営利目的出なければ個人や法人でも受託者となることが可能です。平成19年の法改正によって、営利目的でない民事信託の利用がしやすくなり、事業承継の信託の活用が広がりました。
金融機関によっては、事業承継を信託するときに「自社株信託」という名目でサービスを提供しているところもあります。
つまり、事業承継信託とは、金融機関に対して会社の株式を信託し、条件に従って後継者へ株式を引き渡すことをいいます。
自由度が高く確実に事業承継ができる
会社の株式を一定以上保有すると経営権が発生するため、受け取った後継者に経営権を確実に譲ることができます。事業承継信託は、相続や譲渡よりも、自由度が高く確実に事業承継ができるため、事業承継信託を検討する経営者が多いです。
株式は一定以上所有することで初めて経営権を発生させるものであり、経営者が後継者にいかに株式を引き継がせていくかが重要なポイントです。もちろん、事業承継信託を使わずとも株式を贈与や相続といった形で後継者に引き継がせることは可能です。
しかし確実に後継者に株式を所有させ、経営権を確立させることは決して簡単なことではありません。もし後継者と他の後継者候補が対立するような事態になれば、株式の取り合いになるような事態が発生します。
また単純に株式を贈与・相続するだけで後継者に手元に渡らず、株式が他の親族の手に渡ってしまう可能性もあります。
経営者が遺言書に残す方法もありますが、もし経営者の意図がしっかりと周囲の人間と共有されていなければ遺言書通りに相続が進むとは限りません。
万が一、後継者以外の人間が一定以上の株式を所有する事態になってしまうと経営権が確立せず、逆に株主としての権力を行使され安定的な経営が阻害される恐れもあります。
何よりせっかく会社を引き継がせた後継者が本来のポテンシャルを発揮できない経営環境になってしまい、会社存続が危うくなってしまいます。
事業承継のプロセスをより円滑に遂行し、さらに事業承継を成功させるうえで事業承継信託は欠かせない存在になり得ます。
M&A総合研究所ではM&Aの知識・経験が豊富なアドバイザーがフルサポートをいたします。相談は無料で行っておりますので、M&Aをご検討される際には気軽にご相談ください。
事業承継における信託の種類
事業承継の信託には、信託方法によって名前が違ってきます。ここからは、事業承継に役立つ3種類の信託をそれぞれご紹介していきます。
①遺言代用信託
遺言代用信託とは、委託者が信託会社や金融機関と遺言の内容に則した契約を結び、委託者の死後に確実にその契約を実行してもらうという形の信託です。本人が生存している間は、管理や運用を任せることが可能です。
こういってしまうと、似たような名前の「遺言信託」と混同してしまうかもしれません。しかし、遺言代用信託と遺言信託は、全く別物になりますので気を付けましょう。
遺言信託は、信託会社や金融機関が委託者の遺言の作成をサポートし、完成した遺言を保管、そして委託者が死亡し相続が発生した際に委託された遺言を確実に遂行していくことに重きを置いています。
そのため遺言信託の効果は、委託者が死亡して初めて効力を発揮するものです。委託者は遺言にあるように財産分与が遂行されているのかを見届けることはできません。しかし、遺言代用信託は信託会社や金融機関と契約を締結した時点で効力を発揮します。
生前から意図通りの遺言が効力を発揮していることを委託者は確認できるため、より確実に事業承継を達成できます。
②他益信託
他益信託とは、経営者が自社の株式を第三者の受託者に信託し、受益者に後継者を定めるという信託です。他益信託の最大のメリットは経営者が後継者に自社の株式を託しつつも、経営権を保持できる点にあります。
これは、株式の議決権と財産権を分けているからこそできることです。他益信託は経営者に議決権を保持させたままにしておくことができ、同時に財産権を後継者が得る形にできます。
さらに他益信託は後継者に議決権を持たせる形にもできるため、経営者の理想的な設計にできることも魅力です。
③後継ぎ遺贈型受益者連続信託
後継ぎ遺贈型受益者連続信託は後継者を受益者にしつつ、万が一、後継者が死亡した際に、その受益権が消滅し、受益権を別の後継者に移すことができる信託です。
つまり、複数の後継者を経営者の設定した順番に沿って受益者に据えることができる方法であり、後継者に万が一があった際に対応できます。後継者が高齢化している際は、うってつけの信託といえるでしょう。
しかし、信託法第91条により、信託期間は30年と定められており、30年を超えると新たに受益権を承継することが一度しかできなくなってしまうので気を付けてください。
事業承継の信託の設定方法
事業承継の際の信託の設定方法は、大きく分けて3つの方法があります。いずれの設定方法を使うかは実際に事業承継を行う経営者の都合に合わせて判断されるものであるため、いずれの方法が優れているということはありません。
あくまで経営者が描く事業承継のプランに適したものを選ぶようにしておきましょう。
①信託契約を締結する
これは、委託者と受託者の間で信託契約を締結するという設定方法です。原則として信託契約を締結したときに効力が発動するようになっています。この設定方法であると受益者が契約当事者になれなくなりますが、問題はありません。
基本的に受益者は一方的に利益を得られる存在であるため、契約当事者になる必要がないと考えられているためです。ただ、事業承継ではあまりない構図かもしれませんが、受託者は受益者に「受益者になった」という旨を伝える必要があります。
②遺言書に信託を期待する
これはシンプルに遺言書に信託を記載するという方法であり、遺言書である以上、遺言と同時に(つまり委託者が死亡した際に)効力が発生するようになっています。ある意味、遺言信託と同じようなタイミングで信託の効力を発生させるといったケースです。
これも一概に悪い方法とは言えませんが、委託者が死亡したタイミングでなければ効力が発揮しないため、早い段階から信託の効力を発揮させたいと考えている人には不向きな設定方法といえます。
③自己信託による信託宣言
自己信託とは特殊な信託の設定方法であり、平成19年の法改正以降から使えるようになった信託です。自己信託は自分自身を委託者であると同時に受託者に設定するものであり、信託される財産は委託者や受託者の固有財産とは切り離して管理されるようになります。
自己信託の場合、委託者と受託者が同一人物であるため契約当事者になることはできません。そのため、委託者の単独意思表示として扱われる信託宣言を行うことになります。
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事業承継の相談
事業承継信託のメリット・デメリット
他の事業承継の手法とは違う事業承継信託ですが、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは事業承継信託のメリットとデメリットをまとめてみました。
事業承継信託のメリット
事業承継信託のメリットは3つあります。
経営者の理想にかなった柔軟な事業承継が可能
事業承継信託の最大のメリットはその柔軟さにあります。事業承継信託を使えば、株式の議決権と財産権を切り離したうえで設定できるため、経営者が会社の経営権を保持したまま後継者に株式の財産権を承継させることができます。
受益権の設定や行使する条件を経営者の意向に沿った形にすることで後継者の地位が脅かされにくくなるのです。また昨今では、認知症による経営者の判断能力低下をする前の対応策としても期待が高まっています。
従来の事業承継であると後継者の株式の承継は相続や贈与、譲渡といった形が多くあります。相続は経営者の死亡後になるため、「コントロールがしにくい」「贈与は時間と手間がかかる」「譲渡は後継者に一定以上の資金力が求められる」など、さまざまな面で難点があります。
しかし事業承継信託であれば、経営者の理想に沿った形でプランを組み立てられるため、従来の方法では理想的な事業承継は難しいという経営者にとって、最も最適な方法といっても過言ではありません。
後継者の地位を確実に固められる
事業承継信託のメリットは、後継者の地位を確実に固められるという点にもあります。
信託は信託会社などの機関を間に挟んだうえで株式を承継する相手(受託者、受益者)を設定できるため、後継者の地位を確実に固められると同時に経営者の意向を反映させやすい形式になっています。
そもそも信託では株式の議決権と財産権を切り離せるため、経営者の経営権をキープしたまま後継者への承継準備を着実に進められる点は経営者にとって都合が良いものといえるでしょう。
また、信託の設定方法によっては後継者の次の後継者も設定できるため、実際に信託が行われる際は第三者(信託会社など)の手でしっかり承継の実務が進められ、後継者を巡ったトラブルが起きにくいことも経営者にとってうれしいポイントといえるでしょう。
経営に空白ができない
事業承継は相続という側面があるため、経営者の死亡後、遺産分割協議などさまざまな出来事が発生してしまうと、事業承継が完了するまで会社の経営に空白ができてしまう恐れがあります。
しかし、信託は基本的に委託者である経営者が死亡したと同時に、迅速に議決権や受益権が移動するようになっているため、余計な作業を挟む必要がありません。
そのため、事業承継がスピーディーに行われるようになり、相続のゴタゴタで会社の経営に空白ができてしまう、というような最悪な状況を避けられます。
事業承継信託のデメリット
事業承継信託のデメリットは2つあります。
事業承継信託を遂行する相手がいないと活用できない
受託者には、信託財産の名義人となって管理を遂行するものであって、受託者に対する信頼が前提です。そのため、法律上で受託者には義務が課されています。
「善管注意義務」「忠実義務」「分別管理義務」「公平義務」などの義務があり、これらを遂行するにふさわしい人材が子供や親族内、関係者に見つからない場合があります。
理解を得るのに労力がかかる
信託は法改正によって事業承継への活用の幅が広がりましたが、まだ新しい方法であり周囲の理解を得るのに労力がかかります。
事業承継の円滑化には、今後期待がもてますが、法務や税務両面からの十分な検討が必要になってきます。そのため、事業承継で信託を利用する場合は、専門家への相談は不可欠といえるでしょう。
M&A総合研究所には、専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、培ったノウハウを活かしM&Aをフルサポートいたします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
信託の活用方法/ケース
実際に事業承継信託を活用した場合、どういったことになるのでしょうか。さすがに全てのケースを紹介するのは難しいですが、ここではとある中小企業を一例に、実際に事業承継信託を使った場合のオーソドックスなケースを紹介していきます。
【ケース①】
会社経営者Aは経営している会社の創設者であり、会社の株式を100%保有しています。そのようなAにはBとCといった子供が2人おり、後継者にはBを指定しています。しかし、会社経営者Aの財産の大半は会社の株式であり、生命保険などの金融資産は持っていません。
そのため、もし後継者であるBを優先とした相続を行った場合、現状の財産ではCの遺留分を満たせない状況になっていました。そこでAは信託を利用し、受託者をB、受益者をCに設定しました。
これにより、株式の議決権(経営権)はBに移譲するが、財産権(株式の配当など)は受益者であるCに移譲するようになったのです。これによりBの後継者としての地位を守りつつ、Cの遺留分を確保した相続が実現しました。
【ポイント】
ある意味最もオーソドックスな信託活用といえます。信託の最大のメリットである株式の議決権・財産権の区分けを利用することで後継者が議決権を行使できるように設定しつつ、それ以外の親族は受益者として設定することで遺留分の財産は確保できるようにしています。
普通の相続のように株式を分けると、どうしても株式が分散してしまい、後継者以外の人間が経営に口出しできる権限を持ってしまうことがありますが、この信託の活用法を使えば後継者以外が保有する株式は実質的に議決権がない株式になるため、経営における発言権がなくなります。
つまり受益権が別の子どもの手に渡っても、後継者の会社における地位を守ることができるというわけです。
事業承継信託を使う際の注意点
事業承継信託を実際に使う際、注意点が2つあります。ここでは、その注意点をそれぞれお伝えしていきます。
①事業承継信託への理解を共有しておく
事業承継信託は平成19年の法改正以降に一般化した事業承継の手法であるため、他の手法と比べると比較的新しく、また信託という特殊な形式を使うため、その仕組みを理解している人は少ないでしょう。
そのため、実際に事業承継信託を使う際には信託に対する知識を、後継者をはじめとした事業承継にかかわる関係者と共有しておくことが重要です。
②遺留分には注意しておく
これは事業承継信託だけというよりも、相続も含め他の親族の遺留分については注意しておくようにしましょう。信託は他の親族が内容に関して口を出せないような設定になっているからからこそ、後継者の地位を確立させやすいというメリットがあります。
しかし前述の通り、他の親族の遺留分を無視し後継者に偏った設定もしやすくなっています。結果、実際に信託を行う際に、余計なトラブルが発生してしまう恐れがあります。
もし他の親族が信託の内容に不満を持ち、遺留分を確保するために遺留分減殺請求を使うような事態になると、法廷での紛争にまで発展するような可能性があります。そうなると、スムーズな事業承継の実現は難しくなってしまいます。
事業承継信託を使う際には、他の親族の遺留分も加味したうえで設定や条件付けを作っておくことがおすすめです。
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事業承継の手続き【法人・個人事業主向け】
まとめ
中小企業にとって、事業承継は会社が存続するか否かの分水嶺であり、成功させたいと願うものです。そのような経営者の気持ちをかなえるうえで、事業承継信託は非常に有効的な方法となり得るでしょう。
ただ、事業承継信託を活用する方法は比較的に新しいものであり、理解が足りないとせっかくのメリットを享受できない可能性があります。事業承継信託を活用する場合、信託に関する知識を少しでも多く蓄えておくことがおすすめです。
今回の記事をまとめると、以下の通りです。
・事業承継信託とは
→事業承継を円滑化するうえで有効的な方法
・事業承継信託は大きく分けて3種類
→遺言代用信託、他益信託、後継ぎ遺贈型受益者連続信託
・事業承継信託の設定方法も大きく分けて3種類
→信託契約を締結する、遺言書に信託を期待する、自己信託による信託宣言
・事業承継信託を使う場合は
→信託への理解を周囲の人間と共有し、他の親族の遺留分に注意しておく
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