M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年5月31日更新会社・事業を売る
中小企業M&Aの動向や流れを徹底解説!スキームと売却価格・成功事例やメリットもわかりやすく紹介
中小企業のM&A件数は年々増加しており、近年はますますM&Aの重要性が高まっている状況です。M&Aを検討する場合は、現状や流れを知っておくと役立ちます。この記事では、中小企業M&Aを行う際の流れや注意点を事例とともに解説します。
目次
中小企業M&Aの動向
中小企業によるM&Aはほとんど情報が公開されておらず、正確な現状の把握は難しいです。しかし、中小企業によるM&Aが年々増加傾向にあるのは確かで、今後もさらに増加すると推測されています。
もともと中小企業のM&Aは事業承継を目的に実施されるケースが多いですが、近年ではシェア拡大など経営戦略の一環としてM&Aを活用する事例も増加中です。以上のことから、中小企業にとってM&Aの重要性は今後ますます大きくなると考えられます。
中小企業の定義
中小企業と定義される範囲は中小企業基本法と法人税法上で異り、その定義は原則であり業種によっても違います。各法における中小企業の定義は下表のとおりです。
業種 | 中小企業基本法の定義 | 法人税法上の定義 |
小売業 | 資本金が5000万円以下あるい従業員数が50人以下の企業 | 資本金1億円以下 |
卸売業 | 資本金が1億円以下あるいは従業員数が100人以下の企業 | |
サービス業 | 資本金が5000万円以下あるい従業員数が100人以下の企業 | |
製造業その他 | 資本金が3億円以下あるいは従業員数300人以下の企業 |
中小企業は法人税率が軽減されるなど、大企業と比べるといろいろな軽減措置がありますが、提要されるためには上表「法人税法上の定義」に該当していることが条件です。
参考:中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」
参考:経済産業省「(参考)中小企業・小規模事業者の定義」
M&A件数の推移
M&A実施件数は増加傾向となっており、2020年は新型コロナの影響により足踏みしたものの、21~22年は増加して2022年は4,304件と過去最高を記録しました。
この件数は公表案件数のみを集計したため、実際はもう少し多く実施されていると推定され、国内でのM&Aは以前にくらべ活発化していることがうかがえます。
参考:中小企業庁 2023年版「中小企業白書」第2章:新たな担い手の創出
中小企業庁 2023年版「中小企業白書」第2章:新たな担い手の創出 より
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap2_web.pdf
M&A実施総件数が増加した理由のひとつとして考えられるのは、事業承継・引継ぎ支援センターの相談者数増加です。中小企業基盤整備機構が2022年に公表した資料によれば、2021年度の相談者数は20,841者で前年度比178%と大きく増加しました。
また、2021年度に同センターが支援したM&A(第三者承継)の成約件数は、前年度比110%となる1,514 件であり、相談者数・M&A成約件数ともに過去最高を記録しており、中小企業においてもM&A件数が増加していることがわかります。
参考:独立行政法人「 令和3年度 事業承継・引継ぎ支援事業の実績について」
参考:中小企業庁 2023年版「中小企業白書」第2章:新たな担い手の創出
独立行政法人中小企業基盤整備機構 「令和 4 年度 事業承継・引継ぎ支援事業の実績について 」
出典:https://www.smrj.go.jp/press/2023/a19vbo00000057kn-att/20230530_press01.pdf
上の円グラフは、M&A成約件数の業種・譲渡企業の売り上げ規模を表したものです。この結果をみると、M&Aが成約した業種ではサービス業や製造業の割合が高く2業種で全体の約半数を占めています。
譲渡企業の売上規模は、3000万円以下が約32%、3000万超~1億円以下が約32%と、売上規模1億円以下の企業割合が全体の6割となりました。
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構 「令和 4 年度 事業承継・引継ぎ支援事業の実績について」
中小企業M&Aの今後の予測
2020年は新型コロナの影響によってM&A件数・取引金額はともに減少しましたが、2022年は中小企業における事業承継M&Aが大きく伸びました。
2025年には団塊世代経営者の多くが引退時期に入ることも、M&A実施件数の増加理由と考えらえました。また、譲受側のほとんどは大手・中堅規模の企業ですが、個人による買収ケースもみられました。
今後は、事業承継目的でのM&Aが2025年頃にますます活発になるほか、近年のM&A仲介会社数の急増を受け、M&A実施件数は大きくの増加すると考えられます。
中小M&Aハンドブック
近年ではM&Aによる事業承継の実施件数が増えてきているものの、まだまだ中小企業経営者にとっては馴染みのないものです。中小企業庁は中小M&Aについての正しい理解を広めるため、「中小M&Aハンドブック」を策定しています。
中小M&Aのポイントをイラストやマンガを取り入れてまとめられており、中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン(2020年3月策定)」対応した内容です。
後継者不在の中小企業を対象としたM&Aについてわかりやすく書かれており、初めてM&Aを行う企業・経営者にとって役立つ内容となっています。
中小企業M&Aの課題
M&Aに対するマイナスイメージ
経済産業省「 中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」より
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdf
M&Aは以前に比べると広く認知されるようになってきていますが、M&Aに対しマイナスイメージを持っている人はまだまだ多いのが現状です。
上の円グラフは2018年に行われた 「事業承継の実態に関するアンケート調査(東京商工会議所による実施)」の結果ですが、全体の14%がM&Aをよい手段だと思わないと回答しています。
よくわからないと回答した47%を合わせると全体の6割を占め、よい手段だと思うと回答した39%を大きく上回る結果となりました。
中小企業庁 2021年版「中小企業白書」 第3章 より
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap3_web.pdf
国内の中小企業経営者は高齢化が進んでおり、地域経済への影響なども考えると適切なタイミングでの事業承継が必要です。中小企業問題は国の課題でありM&Aは有効な解決手段のひとつですが、マイナスイメージも大きなネックとなっていました。
そのような状況を鑑み、中小企業のM&A・事業承継を後押しすべく、国は「中小M&Aガイドライン」制定などさまざまな施策を打ち出しています。
その効果もあり、M&Aに対するイメージも以前に比べ向上してきました。上のグラフをみると、若年層の経営者ほどM&Aにプラスイメージを持っていることがわかります。
買い手企業が見つからない
買い手企業がM&Aを行う最大の目的は、事業の成長・発展です。そのため、売り手企業が優れた技術やノウハウをもっていたり、人材や設備が充実していたりすればマッチングしやすく、スムーズに買い手企業がみつかる可能性が高くなります。
しかし、業種や事業エリアなどによって買収ニーズは異なるうえ景気動向も影響するため、なかなか買い手企業がみつからないケースがあるのも事実です。
従業員のモチベーション低下
M&A後の事業運営がうまくいかなければ、買い手企業は費用をかけて企業・事業を取得した意味がありません。そのため、M&A後はPMIと呼ばれる統合作業を行いますが、そのなかには従業員のモチベーション維持も含まれます。
売り手企業のなかには、M&Aにマイナスイメージをもつ従業員もいるでしょう。もし、従業員の融和がうまく進まなければ不和が生じたり離職してしまったりする可能性もあります。
統合後の業務に支障をきたしかねないため、M&A実施について丁寧に説明して理解を得るとともに、PMIを慎重に進めることが重要です。
給与・人事・組織体系の統合における課題
M&A後、売り手企業は買い手企業の方針に従って事業を進めることになり、給与・人事・組織体系なども合わせなければならないため負担も大きくなります。
また、従業員の給与や待遇も買い手企業と同じになりますが、M&A後に整理解雇がされる可能性があるのも事実です。
売り手側企業にとっては従業員の雇用維持は目的のひとつであることが多いため、M&A後に齟齬がないよう交渉時に取り決めておく必要があります。
売り手企業の経営不安
赤字や債務超過など経営不安を抱えている場合、自社(事業)を買ってくれる企業はみつからないと考える経営者も多いです。
もちろん経営状態がよい企業のほうが買い手企業がみつかりやすいのは事実ですが、ノウハウや技術などが評価されてM&Aが成立するケースも十分あり得ます。
もし経営不安を理由にM&Aを諦めているのであれば、一度M&A専門家へ相談してみましょう。
低い企業評価位によるM&Aの不成立
中小企業のM&Aでは、交渉の相手先がみつかっても企業評価が低いためM&Aが不成立に終わるケースもあります。もちろんM&Aは必ず成立するというものではありませんが、成功させるためには戦略も必要です。
戦略策定が難しいと場合はM&A仲介会社などの専門家に相談し、アドバイス・サポートを受けながら進めていくことでM&Aの成功率をあげることができます。
中小企業がM&Aをする目的
中小企業がM&Aを行う目的には、主に以下の4つがあります。
中小企業庁 「2021年版中小企業白書 第3章: 事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用 」
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap3_web.pdf
従業員の雇用維持
事業承継ができないなどの理由で廃業する場合、経営者にとって大きな悩みとなるのは従業員の雇用です。ともに働いてきた従業員を解雇することは、経営者にとって苦渋の決断にほかなりません。
M&Aによる自社の売却では、重要員の雇用維持が可能です。中小企業のM&Aではほとんどが株式譲渡で行われますが、その場合は雇用契約もそのまま譲受側企業へ引き継がれます。
譲受側企業にとっても優秀な人材を一度に確保できるため、双方にとってメリットの大きい方法といえるでしょう。
事業の成長・発展
長い不況が続くなか事業の将来性に不安を持つ中小企業の経営者は多く、特に成熟産業や衰退産業で今後大きな発展が見込めない業種の場合はなおさら不安も大きいものです。
そのため、自社のリソースでは将来的な成長が難しいと判断し、早期の段階でM&Aにより売却する中小企業も増えてきています。
事業の成長・発展させる手段としてM&Aは非常に有用です。譲受側にもさまざまなメリットがあり、たとえば以下のようなものが挙げられます。
- 自社が持たない技術の獲得
- 事業の多角化や海外進出の実現
- 同業種の買収による市場シェアの拡大
後継者問題の解決
後継者不足による事業承継問題は、中小企業のM&Aが増えている最も大きな理由です。近年はいわゆる団塊世代における中小企業の経営者が70歳代に突入し、世代交代の大きな転換期に入っています。
近年は子供が代々家業を継ぐ考え方が薄れ、子供がすでに別の職業に就いて後継者にできないケースが増加しています。少子化により、経営者自身に子供がいないケースも多いです。
子供自身は家業を継いでも良いと思っているものの、苦労をさせたくない思いから経営者側が子供による事業承継を断るケースも存在します。こうした事情を踏まえると、後継者が見つからない中小企業にとってM&Aによる事業承継は非常に有力な選択肢です。
また、経営者だけでなく従業員の高齢化も進んでいますが、長年の技術と経験が必要な仕事では若手が育ちにくいために経営を維持できなくなるケースもみられます。
廃業してしまうと貴重な技術やノウハウも消滅してしまいますが、M&Aを行えば他社へ引き継ぐことできるので、このような目的も中小企業M&Aでは非常に重要です。
売却利益の確保
中小企業のM&Aで、主に利用されるスキームは株式譲渡です。株式譲渡では株主である経営者は創業者利益を獲得できます。
利益を得る目的のもとで中小企業をM&Aで積極的に売却するケースは、主にベンチャー企業などで盛んに実施されている手法です。中小企業のM&Aは、株式上場によるイグジットに代わる手段として今後増加していくでしょう。
M&Aは株式上場に比べて厳しい上場基準を満たす必要がないために実行しやすい点や、上場により不特定多数の投資家が株主となるリスクを回避できる点などが主なメリットです。
中小企業M&Aの手法
本章では、中小企業のM&Aで実際に用いられている手法を紹介します。
主なメリット | 主なデメリット | |
株式譲渡 | ・売却利益の獲得(譲渡側) ・株式の過半数取得で支配権掌握(譲受側) ・手続きが比較的簡便 ・M&A後も独立性が保ちやすい |
簿外債務などの承継リスク(譲受側) |
事業譲渡 | ・法人格は移行せずM&A後も経営できる(譲渡側) ・譲渡対象を選べる ・簿外債務などの承継リスクがない(譲受側) |
・契約上の移転手続きが煩雑 ・税務上の優遇措置がない |
会社分割 | ・権利・義務をそのまま引き継げる(譲受側) ・買収資金が不要(譲受側) |
・株価下落のリスクがある ・人事制度やシステム統合で混乱が生じる可能性 |
株式交換 株式移転 |
・株主の2/3以上の合意で実行できる ・資金調達が不要 ・M&A後も経営統合を急ぐ必要がない |
・株価下落のリスクがある ・株主構成の変化 ・手続きが複雑で登記が必要なケースもある ・多くの費用・時間がかかる |
株式譲渡
株式譲渡とは、会社のオーナーが保有する株式を買い手に譲渡し、買い手企業の子会社になる手法で、会社の経営を承継させる手続きをさします。
株式譲渡のメリット
中小企業M&Aにおける株式譲渡の主なメリットは、以下です。
- 売却利益を獲得できる(売り手)
- 株式の過半数取得で支配権が掌握できるので反対株主がいても柔軟な対応ができる(買い手)
- 手続きが比較的簡便である(双方)
- M&A後も売り手側企業(被買収企業)はそのまま存在するので独立性が保ちやすい
売り手側のメリットとして、売り手の経営者(株主)が株式の売却利益を獲得できる点が挙げられます。売却利益とは、株式を売却して得られる対価と株式の取得価格における差額であるため、まとまった現金を得ることが可能です。
株式譲渡の場合、買い手企業は経営権を確保するため過半数の取得を目指すのが一般的ですが、経営権が確保できれば反対株主がいても柔軟な対応がしやすくなります。
ほかのM&A手法と比較して株式譲渡の手続きが容易であることも、双方のメリットといえるでしょう。
株式譲渡のデメリット
会社法上、株式譲渡は売り手企業の権利義務を買い手企業が包括承継するため、買い手企業にとっては、「売り手企業における簿外債務などのトラブルを引き継いでしまう可能性がある」点がデメリットとして挙げられます。
買い手企業は、デューデリジェンスを徹底することで、M&Aによるリスクを極力下げることが重要です。
事業譲渡
事業譲渡や会社分割は、中小企業M&Aにおいて株式譲渡の次に採用される機会の多い手法です。事業譲渡とは、会社における財産の一部またはすべてを他の会社に譲渡するスキームをさします。
事業譲渡のメリット
中小企業M&Aで事業譲渡を用いるメリットは、主に以下が挙げられます。
- 会社は存続するので引き続き経営ができる(売り手)
- 譲渡対象を選べる(双方)
- 簿外債務の承継リスクがない(買い手)
事業譲渡では何を譲渡の対象とするかを細かく決められるので、売り手は自社に不要な事業のみを切り離すことや、買い手は欲しい事業だけを取得することが可能です。
買い手にとっては、簿外債務を承継するリスクの低減にもつながり、売り手の経営権は移行しないので事業譲渡後も引き続き自社を経営できます。
事業譲渡のデメリット
事業譲渡では、契約上の移転手続きに多くの手間・時間がかかるほか、税務上の優遇措置がないため税負担が重い点がデメリットとして挙げられます。
会社分割
会社分割とは、会社が手掛ける事業(全部あるいは一部)を切り出して既存他社あるいは新設会社に移転する方法です。
企業の組織再編で活用されるケースが多く、既存企業へ事業を移転する「吸収分割」と新設した企業へ移転する「新設分割」とがあります。
会社分割のメリット
会社分割の主なメリットは以下が挙げられます。
- 従業員や取引先の契約をそのまま引き継げる(売り手)
- 新株の発行を対価とすると買収資金が不要(買い手)
会社分割は権利義務が包括承継されるため、売り手は従業員の雇用や取引先との契約も買い手に引き継ぐことが可能です。株式を対価にできるため、買い手は新株発行をすれば買収資金が不要です。
会社分割のデメリット
会社分割は、買い手企業が上場企業であれば1株あたりの利益が低下して株価下落のリスクがあるほか、人事制度やシステム統合によって現場が混乱する可能性がある点がデメリットです。
株式交換・株式移転
株式交換とは、完全子会社となる側の全発行済株式を、完全親会社となる側の株式と交換することで完全親子関係を成立させる方法です。
株式を交換する比率は、完全親会社となる側・完全子会社となる側それぞれの株式価値を算出し、その額を基に決定します。たとえば、完全親会社となる側の株式価値が1,000円、完全子会社となる側が200円と評価された場合の交換比率は5:1です。
一方の株式移転では、新たに持株会社を設立して完全親子関係を成立させます。株式移転によって企業グループを作る組織再編手法です。
実施後は、新設される持ち株会社が「株式移転設立完全親会社」完全子会社となる側は「株式移転完全子会社」となります。株式交換では完全親会社になるのは既存企業ですが、株式移転は新設会社であるのが両者の違いです。
株式交換・株式移転のメリット
中小企業M&Aで株式交換・株式移転を採用すると、メリット(買い手側)は、主に以下のとおりです。
- 売り手側株主における3分の2以上の合意で、100%の株を取得できる(買い手)
- 親会社の株式が対価の場合は資金調達が不要(買い手)
- M&A後も売り手企業は別法人扱いであるため経営統合を急ぐ必要がない(双方)
株式交換や株式移転は、買い手企業が売り手企業を完全子会社化する場合に用いられます。対価に自社株式を選択すれば十分な資金がなくても子会社化でき、親子会社なので無理に経営統合する必要がない点もメリットです。
株式交換・株式移転のデメリット
株式交換・株式移転には、以下のデメリットがあります。
- 買い手企業が上場企業だと株価下落のリスクがある(売り手)
- 買い手企業の株主構成が変化してしまう(買い手)
- 手続きが複雑で登記が必要なケースもある(双方)
- 多くの費用・時間がかかる(双方)
株式交換・株式移転では、買い手企業が現金ではなく株主資本を用いて取引を行うため、少しでも条件が悪いとみなされると株価が下落する可能性が高いです。
中小企業M&Aのプロセスの流れ
本章では、中小企業M&Aにおけるプロセスの流れを、売り手側の視点から説明します。
①マッチング
自社のM&Aにおける目的・戦略を策定した後、多くのM&A候補企業を調査し、自社のニーズに合致する企業を選ぶプロセスはマッチングと呼ばれます。
M&Aの目的・戦略の策定や、M&A候補企業の調査にあたり、M&A仲介会社をはじめとした専門家の力を借りるのが一般的です。
M&Aの目的設定・戦略策定
多数の候補から交渉に進む相手先を見つけるため、マッチングを行う前に、自社内でM&Aを実施する理由・目的を明確化させることがポイントです。
自社の課題や今後の事業プランなどを策定したうえで、「M&Aを実施する必要性」の意思決定を行い、自社にとって適切なM&A手法を選択します。
相手先企業の選定・アプローチ
上記のプロセスを実施した後に、相手先企業の選定(ソーシングおよびマッチング)のプロセスに移ります。
M&A仲介会社が提供するノンネームシートを活用し、買い手企業に提供することで、匿名で手続きがスムーズに進むでしょう。相手先企業を絞ったら、秘密保持契約を締結したうえで自社の情報開示を行います。
②基本合意
基本合意の段階では、以下の流れでプロセスを進めます。
- トップ面談・条件交渉
- 基本合意契約の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
トップ面談・条件交渉
本格的な契約を行う前に行う買い手企業と売り手企業双方の経営者による面談がトップ面談です。
互いの人間性や企業文化などへの理解を深めることが主な目的で、M&A実行に向けて情報交換、意見交換、質疑応答が行われます。トップ面談後、両社の希望取引価額や取引条件などの具体的な交渉へ進み、大筋合意したら基本合意契約の締結へと移行します。
基本合意契約書の締結
基本合意書は、それまでの交渉で決められたスケジュール、取引条件、M&A手法などを合意するための契約書です。基本合意契約自体は基本的に法的拘束力を持ちませんが、買い手企業における独占交渉権の獲得や表明保証には法的拘束力がおよびます。
デューデリジェンス(買収監査)の実施
買い手側によりデューデリジェンス(買収監査)が実施されます。これは、外部のM&A専門家が派遣されて、売り手企業の設立時にまでさかのぼって調査するプロセスです。
売り手側には、調査進行のために株券・原始定款・各種議事録などの資料提出が求められるため誠実な姿勢で対応しましょう。デューデリジェンスが終了すると、最終合意に向けて役員の処遇や今後のスケジュールなど詳細な内容を決定します。
③クロージング
M&A交渉がまとまり、最終契約書として締結する作業をクロージングと呼びます。
M&Aにおける最後のプロセスですが、買い手企業や売り手企業の従業員にとっては、契約内容を実現するための第一歩です。M&A後における経営統合のプロセスはPMIと呼ばれます。
最終契約書の締結・クロージング
最終的なM&A条件が決まり、契約内容に両社の相違がなければ最終契約書を締結します。
通常、最終契約書にはクロージング条件という、満たされなければ取引延期や解除になる条件が付され、最終契約締結から一定期間経過後、条件が満たされた場合にのみクロージングが可能です。
クロージング後は、「買い手売り手への譲渡金支払い」「売り手側経営者における私的資産の買い取り」「株券や会社代表印などの引き継ぎ」などのプロセスが実施されます。
経営統合(PMI)の実施
買収後は、PMI(経営統合プロセス)を行う流れです。買い手からすると、「買収成立後における経営能力の向上」をM&Aの目的に掲げるケースが多いため、PMIはM&Aプロセスの中でも非常に重要な位置付けです。
一般的にPMIはクロージング前から開始されるケースが多く、以下の流れで進行します。
- 統合方針の決定
- ランディングプランの策定
- 100日プランの策定
- 統合実施・効果検証
統合方針はM&A戦略のもとで定められる両社の統合方針で、ランディングプランは、統合方針を実現するための経営体制や人事評価体制などの構築をさします。
M&A後の3ヵ月間程度は、ランディングプランに基づき定められた100日プランの行動計画を実施し、効果検証しながら統合を進めるのが一般的です。
中小企業M&Aの売却価格の計算方法
本章では、中小企業M&Aにおける売却価格の計算方法として、以下の3つを簡単に紹介します。
①コストアプローチ
コストアプローチは、企業における純資産の時価評価額などをもとに株主資本価値を算定する方法のことです。 評価対象企業を構築するうえで必要なコストに着目して企業価値を評価します。
時価純資産法や簿価純資産法と呼ばれる計算方法を用いるのが一般的です。
②インカムアプローチ
インカムアプローチは収入にもとづいた企業価値算定方法であり、将来得られる収入であるキャッシュフローや利益などの指標を用いて企業価値を算定します。
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)と呼ばれる計算方法を用いるのが一般的で、キャッシュフロー計画に基づいてシミュレーションするので柔軟な評価ができる点がメリットです。
主観的な要素も多く混じってしまうため、将来キャッシュフローや割引率の見方により、結果に違いが出やすいデメリットもあります。
③マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、売り手企業と類似の事業を営む企業を選定し、その企業における株式の取引価格をもとに企業価値を算出する方法です。
具体的には、評価対象企業における決算書などの数値に係数(一定の率)を乗じて価値を算出します。類似会社比較法や類似取引比較法と呼ばれる計算方法を用いるのが一般的です。
売却価格の決定について
M&Aにおいて売却価格の交渉ベースとなる企業価値は、比較的簡単な方法を用いれば個人で算出することも可能です。しかし、M&Aでの取引価額(売却価格)は最終的に買い手企業と売り手企業が交渉合意した額であり、価格決定には買い手企業の主観が大きく反映されます。
実際のM&Aでは、適正価格の何倍・何十倍といった高い金額で最終合意するケースもあるため、企業価値はあくまでも目安と考えておくとよいでしょう。
中小企業M&Aでかかる税金
M&Aを行い利益が出た場合は所得とみなされるため、課税の対象となります。課される税金や税率は手法によって異なり、また自社が売り手と買い手のどちらであるかによっても違うため事前の確認が必須です。
株式譲渡の税金
株式譲渡は中小企業のM&Aで最も多く用いられる手法です。株式譲渡を行った際は、売り手・買い手に以下の税金が課されます。
買い手側
原則として課税は生じません。
売り手側
売り手側に課される税金および税率は、譲渡者(株主)が法人・個人のどちらであるかによって変わります。それぞれに課される税金と税率は下表のとおりです。
株主が法人の場合 | 株主が個人の場合 | |
税金・税率 | ・法人税 ・法人事業税 ・法人住民税 ・特別法人事業税等など ※法人税は比例税率、法人の種類や資本金などで変わる |
・所得税・・・15% ・復興特別所得税(2027年まで)・・・0.315% ・住民税・・・5% |
計算方法 | {株式の売却価格-(譲渡費用+株式の取得費用)} ×法人税等30〜40% =株式の譲渡所得×(30〜40%) |
{株式の売却価格-(譲渡費用+株式の取得費用)} ×(所得税15.315%+住民税5%) =株式の譲渡所得×20.315% |
事業譲渡の税金
事業譲渡は、複数事業を行う企業が事業の一部または全部を売却する手法であり、選択と集中を目的とする場合などに多く活用されています。事業譲渡時に売り手側・買い手側に課される税金は、それぞれ以下のとおりです。
買い手側
譲受対象に不動産が含まれている場合は不動産取得税(課税標準額×税率で算出、税率は取得不動産により異なる)が課されます。また、取得した不動産を登記する場合は登録免許税(土地の価格×15/1000)の納付も必要です。
そのほか、消費税も課税対象となりますが、一般的な商取引同様、消費税は売り手側へ支払う価額に税額分を上乗せし、売り手側が納めます。
売り手側
譲渡側企業には、事業譲渡によって得た利益(譲渡益=事業の売却額-譲渡対象資産の簿価)に対して法人税・法人事業税・法人住民税・地方法人税が課されます。以下はその計算式です。
{事業の譲渡価格-(譲渡する資産+譲渡する負債)}×法人税等30〜40%=事業の譲渡所得×(30〜40%) |
会社分割の税金
会社分割は事業の一部(または全部)を切り出して他社へ承継させる手法であり、会社法上の組織再編に該当する行為です。
会社分割など組織再編で生じる税金は、原則として資産および負債の移転は時価を用いることとなっており、その評価損益が法人税の課税対象となります。
ただし、会社分割などの組織再編行為が特定要件を満たしている場合(税制適格組織再編)は、資産および負債の移転で簿価を用いることが認められており、評価損益を計上しないため課税はありません。
なお、特定要件を満たさない会社分割などの組織再編行為の場合は、原則どおり法人税が課されます。
中小企業M&Aの手数料
中小企業M&Aの場合、ほとんどのケースでM&A仲介会社に支援業務を依頼します。では、M&A仲介会社に支援業務を依頼した場合はどのくらいの費用がかかるのでしょうか。ここでは、M&A仲介会社の主な手数料を紹介します。
相談料(事前相談)
相談料(事前相談料)は、仲介業務委託を正式に依頼する前段階の相談時にかかる手数料です。相場は数千円〜1万円程度/回ですが、最近は相談料がかからない仲介会社が多くなっています。
相談に出向く前に、相談料の有無や料金設定について公式ほなどで確認しておくと安心でしょう。
着手金(業務委託)
着手金とは、M&A仲介会社と業務委託契約を締結した時点で生じる手数料で、中小企業の場合は50〜300万円程度が相場です。ですが、着手金は必ずしも発生するわけではなく、最近は着手金無料の手数料体系を採用しているM&A仲介会社も増えています。
また、着手金はM&Aが不成立に終わったり何らかの理由で取引を中止したりした場合も、返還されない手数料です。
月額報酬(リテイナーフィー)
月額報酬は、M&Aが完了するまで(M&A仲介会社との契約が完了するまで)毎月かかる手数料です。相場は30万〜200万/月程度であり、案件規模や難易度によっても変わるといわれています。
また、月額報酬も、着手金と同じくM&Aが不成立に終わった場合でも返還されることはありません。月額報酬がかかるM&A仲介会社は少ないですが、手数料体系に設定されている場合はM&Aが長期化するほど費用負担が大きくなるので、事前によく確認しておきましょう。
中間報酬
中間報酬は、M&Aプロセスが一定段階に達した時点で生じる手数料をいい、基本合意締結時を発生タイミングとしているM&A仲介会社が多いです。
成功報酬額の5%〜20%程度を中間報酬とするM&A仲介会社が多いですが、30〜200万円程度の固定額が設定されている手数料体系もあります。
また、中間報酬はM&Aが成立した場合は、その分を成功報酬から差し引くM&A仲介会社が多いです。ですが、もしM&Aが不成立に終わった場合は支払った中間報酬は返還されません。
デューデリジェンス(買収監査)費用
M&Aのデューデリジェンスは、売り手企業の法務・財務・税務・人事などの分野について、事前に提出された情報が正確であるか、買収によるリスクがどの程度あるかを買い手企業が調査することです。
実施タイミングは基本合意締結後であり、基本的に費用は買い手が全額負担します。デューデリジェンスの分野は幅広いため、範囲をある程度絞って行うのが一般的です。
また、調査は各分野の専門家(弁護士・会計士・税理士など)が行うため、費用は各専門家が設定している料金体系で決まります。
費用はどの分野まで調査するかによって変わりますが、中小M&Aの場合は数十万円〜200万円程度を目安と考えるとよいでしょう。
成功報酬
成功報酬はM&Aが成立に至った時点で生じる手数料です。ほとんどのM&A仲介会社が「レーマン方式」と呼ばれる算出方法を用いており、一般的なレーマン方式では算定基準額に1〜5%の料率をかけて成功報酬額を決定します。
レーマン方式は算定基準額が高くなるほど料率が下がる仕組みであり、一般的な料率は下表のとおりです。
算定基準額の範囲 | 手数料率 |
~5億円 | 5% |
5億円超~10億円 | 4% |
10億円超~50億円 | 3% |
50億円超~100億円 | 2% |
100億円超~ | 1% |
また、算定基準額は譲渡価額・企業価値・移動総資産・オーナー受取額の4つがあり、M&Aの取引価額が同じ場合は算定基準額が移動総資産であるレーマン方式が最も成功報酬額が高くなります。
業務遂行時に生じた実費
担当M&Aアドバイザーが企業価値評価や企業概要書作成などのために支店や工場などへ行った際の交通費など、M&A業務にかかった実費が別途請求されるM&A仲介会社もあります。
実費負担が高額になるケースはあまりありませんが、業務委託契約前に確認しておくと安心でしょう。また、実費の個別清算はせずに成功報酬に含むM&A仲介会社もあります。
中小企業M&Aを成功させるためのポイント
ほとんどの中小企業経営者は、M&Aの経験がないため、あらかじめ成功のポイントを押さえたうえで慎重に手続きを進めていく必要があります。
①M&Aを行う理由や目的が明確
中小企業のM&Aを成功させる条件の一つとして、M&Aを行う理由や目的が明確である点が挙げられます。理由と目的が明確でないと、どのような基準で売買相手を選定すれば良いのかわからないうえ、交渉時に相手へはっきりとした主張ができません。
事業承継が目的なのか売却益が目的なのか、はっきりと相手に立場を表明しましょう。
②M&Aを行う影響を把握する
M&Aの実施は当時会社だけでなく、株主・取引先・従業員・親族・金融機関へも少なからず影響を与えます。M&Aを行う際は、このような関係先への影響も十分把握しておくことが重要です。
中小企業の場合、経営者(オーナー)が全株式を保有しているケースが多いですが、株主に親族が含まれている場合もあります。そのようなケースではトラブルにならないよう事前にしっかり説明してことが重要です。
また、従業員や取引先にとって雇用や取引がM&Aによってどうなるのかという点は、最大の関心ごとであり不安要素でもあります。特に従業員の場合は離職につながることもあるため、丁寧な説明と対応が必要です。
金融機関から融資を受けている中小企業は多いですが、M&Aに伴い保証の解除手続きも必要となります。融資取引のある金融機関にとって、取引先の経営者が誰になるかは重要なことなので、M&Aアドバイザーに相談しながら手続きを進めていくようにしましょう。
③議決権の確保・協力者への打診
中小企業では経営者が全株式を保有しているケースが多いですが、規模が比較的大きい企業になると株式が分散している場合もあります。
株式を譲渡するには、株主総会の決議が必要です。M&Aを成約したものの、株主に反対されて株式を譲渡できない事態に陥らないよう注意しなければなりません。
議決権割合に不安がある場合は、M&Aを成約させる前に必要な議決権を確保しましょう。
④売却価格の算出
中小企業のほとんどは非上場企業であるため、適切な株価を算定するうえで問題が生じます。上場企業のように市場株価がないため、異なる方法で価格を算出しなければなりません。
売却価格の算出方法には、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチなどの種類があり、これらを組み合わせて適切な価格帯を見積もるのが一般的です。
上記を踏まえて、最終的に経営者同士の交渉により価格が決定されます。適切な売却価格の算出は、中小企業M&Aにおける成功のために必要不可欠です。
⑤買い手側は取引価格の上限を決めておく
M&Aを行う買い手側企業にとって「いくらで買収するか」というのが争点のひとつになります。買収するにあたり、買い手企業は取引価格の上限を決めておくことが重要です。
M&Aの最終取引価額は交渉で決定するため、買収プレミアムをいくらにするかによって金額が大きく変わります。買収プレミアムが適正でなければ投資回収までの期間が長くなるだけでなく、状況が変われば回収はおろか既存事業にも影響を及ぼしかねません。
上限を決める際には、売り手企業の企業価値にM&A後に得られるであろう収益を加算して考えるのが一般的です。交渉時は、算出した根拠もしっかり示すことができれば、売り手企業への説得力も増します。
⑥M&Aに精通する人材の確保
企業がM&Aを検討・実施する際は、社内の各部門から担当者を選び、プロジェクトチームを作ることが一般的です。
組織体制が整備されている大企業では、経営企画、事業企画、財務・法務から担当者を選抜できますが、中小企業では難しい場合もあります。
そこで、秘匿性、重要性の高い案件を任せられ、社内に影響力を持つ人物をあらかじめ選ぶと良いでしょう。
⑦専門家への相談
中小企業経営者で、M&Aに詳しい方は非常に少ないです。自身のみで売却先を探して交渉し、契約書を作成できる方はほとんどいません。
中小企業がM&Aを成功させるには、M&A仲介会社などの専門家へ相談して進めていくのがベストです。手数料が不安で相談をためらう方もいますが、ほとんどのM&A仲介会社は初回の相談料が無料なので、無料相談で手数料について質問するのも良いでしょう。
M&Aの実施をお考えの際は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所は中小・中堅規模のM&A案件を主に手掛けるM&A仲介会社です。
M&A総合研究所では、M&Aの知識・実績の豊富なM&Aアドバイザーが、親身になって案件をフルサポートいたします。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)無料相談をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
中小企業M&Aにおける注意点
中小企業では、大企業と比較して法務や会計の体制が未整備である場合が多いです。中小企業のM&Aでは、以下の点に留意すると良いでしょう。
①株式に関しての把握
通常、中小企業は株式を証券取引所に上場していない譲渡制限株式です。譲渡制限付株式は、会社法上、譲渡するのであれば譲渡承認機関の同意が必要になります。
オーナーの親族が株主や取締役の場合は、当該親族の反対により株の譲渡ができずM&Aが中断する場合があるため、注意しましょう。売り手企業が株券発行会社であれば、株主が株券の紛失問題を生じる場合もあります。
株券にまつわるトラブル発生時の対応
株券を紛失した場合は、「株券の再発行」や「株券不発行会社への移行」といった手段が考えられます。「株券の再発行」は、株主が会社に対して株券喪失登録を行った後1年が経過すると、紛失された株券は無効で株券の再発行が可能です。
M&Aの株式譲渡などで株券再発行まで1年間も待てない場合は、株主総会で定款変更するなどして「株式不発行会社への移行」を行うと良いでしょう。
②監査資料の準備
基本合意を行った後には、M&A後の財務トラブルや税務トラブルを未然に防ぐため、デューデリジェンスの実施が必要です。
デューデリジェンスは、売り手企業が自社資料を提出して士業や専門家が精査する流れになりますが、中小企業では、社内体制の未整備により「決算書類」「各種議事録」「取引基本契約書」といった資料が揃わず、デューデリジェンスが実施できない場合があります。
その際は、専門家の助言も受けながら、代替手段やリカバリーの手段がないか検討しましょう。
③コンプライアンス
中小企業では、大企業と比較して法令順守意識が弱い場合があります。例えば、株式会社は定時株主総会後に決算公告を行う義務があるものの、決算公告を行っていない中小企業は多いです。
手続上の間違いが存在するのは仕方ないとして、間違いの重要度やリスクを精査し、許容範囲内か否か検討しましょう。
中小企業M&Aに関する本・書籍
中小企業M&Aの情報はインターネットでも入手できますが、書籍からの情報も質が高いためチェックしましょう。本章では、中小企業経営者の方がM&Aを理解するためにおすすめの書籍を4冊ピックアップして紹介します。
①M&Aで創業の志をつなぐ 日本の中小企業オーナーが読む本
『M&Aで創業の志をつなぐ 日本の中小企業オーナーが読む本』は、実際にM&Aを行った中小企業の事例を紹介している本です。M&Aによる会社売却に興味があるものの、実際どのように進んでいくのかイメージが沸かないと悩んでいる方が、具体的なイメージをつかむのに最適な本といえます。
著者は大手M&A仲介会社の代表取締役社長である中村悟氏で、豊富な経験にもとづいた信頼できる情報が得られる書籍です。
②Q&Aでよくわかる 中小企業のためのM&Aの教科書
『Q&Aでよくわかる 中小企業のためのM&Aの教科書』は、中小企業の経営者が知っておきたいM&A知識をQ&A方式でわかりやすく解説した本です。100件を超えるM&A成約実績にもとづくわかりやすい記述が特徴的といえます。
③トップM&Aアドバイザーが初めて明かす 中小企業M&A 34の真実
『トップM&Aアドバイザーが初めて明かす 中小企業M&A 34の真実』は、インテグループ代表取締役社長の藤井一郎氏により、仲介会社や買い手・売り手の本音、裏事情などが記された本です。型どおりの知識を身に付けるよりも実践的な感覚を知りたい方におすすめします。
④下町M&A 中小企業の生き残り戦略
『下町M&A 中小企業の生き残り戦略』は、下町の中小企業M&Aにおける物語をとおしてシナジー効果が得られる過程を記した小説仕立ての本です。理念的な本は読みづらい方にもおすすめできます。
中小企業M&Aに関する相談先
中小企業がM&Aを検討する際は、M&A専門家への相談からはじめる場合が多いです。従来、M&Aの相談先は公認会計士や税理士、金融機関が主でしたが、近年はその他にもM&Aの専門家が多く活動するようになりました。以下では、中小企業のM&Aにおける相談先や専門家を紹介します。
①M&A仲介会社
M&A仲介会社は、中小企業同士や大企業と中小企業のマッチングを得意とするM&A専門家です。
買い手企業と売り手企業を見つけ、その間に立って交渉をリードし、M&Aを成約まで導きます。証券会社などと比較すると、仲介方式での支援、中小規模向けの支援を行っている点が特徴です。
中小企業のM&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所は中堅・中小企業のM&Aを主に手掛けている仲介会社で、経験豊富なM&Aアドバイザーが親身になってサポートいたします。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)無料相談を受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
②事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業M&Aの支援を目的とした公的機関です。47都道府県に設置され、事業承継を中心としたM&A案件の相談を受け付けています。
運営者は経済産業省からの委託を受けた地方の商工会議所などで、職員は地元の士業や金融機関出身者などですが、M&A案件をクロージングまでサポートしてくれない点は民間事業者との違いです。
参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
③取引関係にある金融機関
金融機関は、銀行、信託銀行、信用金庫などの種類を問わず、M&Aの相談に乗ってくれることが多いです。
M&A仲介やアドバイザーをサービスラインとして持つことも多く、M&A候補のマッチングや買収条件交渉のサポートなどが期待できます。金融機関は与信情報を管理しているため、改めて自社資料などを提出する必要がない点も特徴です。
④商工団体
地域に存在する「商工会議所」「企業団体」「組合連合会」などが、地元中小企業のためにM&A支援を行っている場合があります。M&A候補先の紹介だけでなく、補助金や法令など公的制度に関するアドバイスを受けることが期待できるでしょう。
⑤士業事務所
弁護士、税理士、公認会計士といった士業事務所も、独自のネットワークを使って中小企業のM&A支援を行うことがあります。
弁護士
弁護士の仕事は、法務の専門家として企業の法務に関するアドバイスです。企業経営者やその親族が持つ株式処分の相談も多く、その場合に事業承継やM&Aを一つの選択肢として示します。
M&Aを行うにあたり、弁護士は、会社資産の整理、契約書作成支援などを行います。
税理士
税務の専門家である税理士は、顧問先の企業からM&Aに関する相談を受ける場合が多いです。税務の観点から適したM&Aスキームの提案や、税務デューデリジェンス、経営支援などを行います。
公認会計士
公認会計士は、主に企業の財務書類作成を代行します。また、財務の専門家として、企業価値評価や債務整理などを行う点も強みです。対象会社の財務情報を把握してM&Aを行うため財務書類を整理することで、会社の信頼性向上が見込めます。
⑥M&Aプラットフォーム
M&Aプラットフォームは、インターネットを介したM&Aのマッチング支援サービスで、M&Aを検討している企業(売り手・買い手)のほか、個人でも利用できます。
一般的なM&Aプラットフォームは利用者登録することで案件を探すことができ、交渉したい相手先がみつかれば直接連絡することが可能です。
M&Aの交渉や契約等の必要手続きは基本的に自身で進めますが、M&Aプラットフォームを運営するM&A仲介会社に支援を依頼できるところもあります(依頼時は別途費用が必要)。
中小企業M&A時に仲介会社を選ぶポイント
中小企業がM&Aを行う場合、支援業務を依頼する仲介会社はどのよう選べばよいのでしょうか。ここではM&A仲介会社を選ぶ際にチェックすべき5つのポイントを紹介します。
専門的分野やM&A実績を持っている
M&A仲介会社のなかには、特定の業界・業種に特化した支援を行っているところもあります。非特化型のM&A仲介会社でも、在籍M&Aアドバイザーはそれぞれ得意分野を持っていることがほとんどです。
自社と同じ業界・業種のM&Aを得意としているM&A仲介会社やM&Aアドバイザーに支援業務を依頼すれば、M&Aが成功する可能性もあがります。
また、その際はM&A支援実績も忘れずに確認しておきましょう。自社と同じ業界・業種のM&A実績が豊富にあれば、ノウハウや経験による充実したサポートに期待できます。
予算・サービス内容に合う料金体系
M&A仲介会社の手数料体系は複雑であるうえ、各手数料の業務範囲は会社によっても違いがあります。手数料負担は抑えられるほうが当然よいですが、それは自社に必要なサービスが含まれていることが前提です。
手数料の面からM&A仲介会社を比較する場合は、費用対効果があるか、自社に必要な支援が業務に含まれているか、予算的に問題はないかの3点を検討することがポイントです。
自社と同規模の実績がある
自社と同規模のM&A支援実績をどれだけ持っているかという点も、M&A仲介会社を選ぶポイントのひとつです。主に扱っている案件の規模が自社と大きく違う場合、相手先探しに時間がかかったり、適切な相手先がみつからなかったりする可能性もあります。
自社の業界・業種の実績を確認する際に、同規模のM&A支援実績があるかという点も確認しておきましょう。
スタッフの対応や相性
M&A取引が完了するまで、担当アドバイザーとはさまざまな情報を共有し、経営者自身の思いや自社の弱みなども伝えながら進めていきます。
満足度の高いM&Aを実現するためには、M&Aアドバイザーの対応や相性も重要な要素のひとつです。もしM&Aアドバイザーの対応が誠実でなかったり、相性が悪くなんとなく話しづらいと感じたりした場合は、躊躇せずに担当者を交代してもらうとよいでしょう。
情報管理が徹底している
M&Aでは自社のさまざまな情報を交渉相手先企業へ開示しますが、そのなかには財務情報や独自ノウハウや技術など、万一漏洩すれば企業価値を損ないかねないものも多く含まれます。
秘密保持契約を締結したうえで情報開示を行うのは当然ですが、M&A仲介会社の情報管理体制が万全であることも重要です。
業務委託契約書には情報管理についての説明も含まれていますので、締結前によく確認して不明点や疑問点が解消されない場合は、M&A仲介会社を変えることも視野に入れるべきでしょう。
中小企業M&Aの成功事例
最後に、実際の中小企業M&Aのなかから成功事例を4つピックアップして紹介します。
事業拡大を目的に譲渡を決断したM&A
この成功事例は、自社のさらなる成長と事業拡大を目的に譲渡を行ったM&Aです。譲渡側の株式会社SANETTY Produceは舞台イベント制作を手掛ける企業で、2.5次元作品の制作に強みを持ち多数の実績を有しています。
譲受側は、メディア・コンテンツの企画・製作事業を手掛ける株式会社CRESTです。アニメーション・ゲーム・舞台など、さまざまなコンテンツを手掛けています。
譲渡側のSANETTY Produceは、今後さらに事業を拡大するためには大手他社の傘下入りが有効だと考えており、CRESTであれば以前から考えていたゲームやアニメの舞台化への取り組みが促進できるとの判断から本M&Aに至りました。
参考:SANETTY Produceの全株式の取得
自社のさらなる発展を目的に譲渡を行った同業種間のM&A
この成功事例は、自社のさらなる発展を目指して譲渡を決断した同業種間のM&Aです。譲渡側の宇部塗装工業株式会社は山口県の企業で、新設塗装や塗替えなどの各種塗装工事を手掛けています。山口県西部を中心に事業を展開しており、豊富な工事実績と多数の有資格者が強みです。
譲受側の株式会社クナイホールディングスは、宇部塗装工業と同じ山口県に本社があり、グループでは塗装工事・法面保護工事・交通安全施設工事などを手掛けています。山口県東部を中心に事業を展開しており、公共工事の分野に強みがある企業です。
譲渡側の社長は、もともと80歳になったら引退して若手に自社を任せるつもりでいましたが、今後さらに業績を伸ばしていくためにはM&Aによる大手の傘下入りが有効だと判断し本M&Aに至りました。
両社は同県の同業者ということもありM&A前から面識があったことや、会社の距離が近いことも決め手になった理由だと社長は話しており、現在は子息に自社を引き継いでいます。
事業成長のためブランド力の強い企業への傘下入りを決断したM&A
この成功事例は、事業成長と事業環境改善を目的にブランド力のある企業への譲渡を決断したM&Aです。譲渡側の株式会社未来ボックスは横浜市にある企業で、アプリケーションやシステムの企画設計から運用・保守までサービスを展開しています。
譲受側の株式会社アミューズは、各種イベントや関連グッズの企画製作、アーティストの育成およびマネジメントなどを手掛ける山梨県の企業です。
譲渡側の未来ボックスはコロナ渦による影響を受けた際に事業環境の改善が必要だと考え、自社の強みである技術力や開発力を活かし、弱みである営業力を補完できるブランド力の強い企業を相手先として希望していました。
アミューズへの譲渡を決断した理由は「業界内でオンリーワンの存在であること」や「自社の強みを評価してくれたこと」だといい、M&A後は自社のノウハウを活かせる場面が増えたと実感していると、未来ボックスの社長は話しています。
参考:未来ボックス 株式取得のお知らせ
後継者不在による事業承継と新事業展開のために行った異業種とのM&A
この成功事例は、後継者不在による事業承継と将来の新規事業展開を考え、異業種への譲渡を決断したM&Aです。譲渡側の株式会社リンクジャパンは福島県に本社をおき、日本酒・ウイスキー・ワインなどの酒類販売事業を手掛けています。
譲受側のANEW Holdings株式会社は、プラットフォーム事業やオンライン上のサービス提供などを行う千代田区のコンサルティング会社です。
譲渡側であるリンクジャパンの社長は体調を崩したことをきっかけに事業承継を本格的に考えましたが、後継者がいなかったためM&Aによる譲渡を視野にいれるようになりました。
酒類小売業の将来に対する不安もあったため、これまでチャレンジしてきた新規事業なども活かせる経営基盤の安定した相手先企業への譲渡を検討していたといいます。
ANEW Holdingsは新規事業や色々な取り組みを積極的に行っている点が大きな決め手となり、本M&Aに至りました。
中小企業M&Aの現状まとめ
従来、M&Aは大企業が主に実施していましたが、今後は中小企業が積極的にM&Aを実施すると考えられます。中小企業経営者の方も自身には関係ないと思わず、自社に役立つ手段としてM&Aを理解すると良いでしょう。
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