M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年5月27日更新事業承継
中小M&Aガイドラインとは?概要やポイント、ハンドブック、事業引継ぎガイドラインも解説
経済産業省は、後継者不在の中小企業がM&Aによる事業承継を目指す際の指標として、中小M&Aガイドラインを策定しました。中小M&Aガイドライン策定に至った経緯と、中小M&Aガイドラインの構成内容の詳細を紹介します。
中小M&Aガイドラインとは
2020(令和2)年3月、経済産業省は、「中小M&Aガイドライン」を策定し、これを公表しました。中小M&Aガイドラインは、後継者不在で廃業危機にある中小企業に向け、M&Aにより第三者に事業承継することの手引き書という位置付けです。
従来は、2017(平成27)年に策定された「事業引継ぎガイドライン」が用いられてきましたが、これを全面改訂して中小M&Aガイドラインが新たに策定されました。
事業引継ぎガイドラインを変更した理由・目的
事業引継ぎガイドラインでは、事業引継ぎ準備の必要性、M&Aの手続き方法や注意点、トラブルへの対応方法などが説明されていました。事業引継ぎガイドラインの発表から5年が経過し、その間、後継者不在の中小企業がM&Aで事業承継するケースも増えてきています。
しかし、帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2020年)」によると、中小企業の後継者不在率は65.1%(経営者が60歳以上の場合は39.5%)と、依然、高い状態となっており、まだまだ予断を許しません。
そして、現状分析の結果、第三者に会社を売却することに抵抗感を持つ中小企業経営者は、いまだ相当数存在する結論に達しました。そこで、ガイドラインの中身について、より実践的にM&Aが理解できるように、具体例なども交えた内容に改訂したのです。
また、中小企業のM&Aを支援する立場になるM&A仲介業者に対し、事業のスタンスについて指針を出すことによって、中小企業のM&Aがさらに促進できることも狙っています。
中小M&Aガイドラインの概要
中小M&Aガイドラインは、中小企業のM&Aをスムーズに進めるため、M&Aに関する基本的な内容が説明されています。また、それと合わせて、M&A仲介業者などの支援者に向けた行動指針も記しており、その狙いは支援機関の留意点の明文化です。
- M&Aの基本事項・手数料の目安など
- M&A業者向けの適切なM&Aのための行動指針の提示
M&Aの基本事項・手数料の目安など
中小M&Aガイドラインでは、M&Aを進めるうえでの売り手側の基本姿勢や注意点、M&A手続きの流れなどを説明しています。M&Aを実施する際の基本姿勢について詳しく紹介しているのは、中小企業の場合、ほとんどの売り手にとってM&Aは初めての経験だからです。
M&Aの経験がなく身近なものではないために、「M&A=身売り」などのようなネガティブなイメージを持っている経営者も多くいます。そのイメージが根底にありM&Aをちゅうちょすることによって、結果的に廃業に至ってしまう企業も少なくありません。
そのような事態を防ぐため、中小M&Aガイドラインでは手数料の具体的な計算方法を示したり、具体事例の掲示などを多く交えたりして、M&Aの実像を説明しています。
M&A業者向けの適切なM&Aのための行動指針の提示
中小M&Aガイドラインでは、M&Aの支援者向けの行動指針も示されています。前述のように、多くの売り手にとってM&Aはなじみの薄いものであり、適切な判断を下しながら進めていくためにはM&A支援者のサポートが不可欠です。
ところが、M&A支援者の行動内容はそれぞれに委ねられてきており、売り手は相談するM&A支援者・専門家によって、支援の質に差が生じる状況がありました。
そこで、中小M&Aガイドラインでは、M&Aをサポートする側に一定の行動指針を示すことで、支援内容の透明性と公平さが保てるようになることを狙っています。
M&Aをサポートする側が常に一定以上の質を保つことにより、売り手側は安心してM&Aによる売却を行うことができるようになるのです。
第1章の内容「後継者不在の中小企業向けの手引き」
中小M&Aガイドラインは、第1章と第2章に分かれています。ここではまず、第1章「後継者不在の中小企業向けの手引き」の内容を見ていきましょう。第1章は、以下の6節で構成されています。
- 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義等
- 中小M&Aの進め方
- M&Aプラットフォーム
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 仲介者・FA の手数料についての考え方の整理
- 問い合わせ窓口
なお、4節の「事業承継・引継ぎ支援センター」は、公表されている中小M&Aガイドライン内では「事業引継ぎ支援センター」と表記されています。
しかしながら、事業引継ぎ支援センターは、2021(令和3)年4月に「事業承継ネットワーク」と統合され、新たに事業承継・引継ぎ支援センターと名称が変わりました。したがって、本記事では新名称を用いることといたします。
①後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義等
第1節の「後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義等」では、以下の4項目について述べられています。
- 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義
- 中小M&Aの事例
- 譲り渡し側にとっての基本姿勢
- 譲り渡し側にとっての留意点
後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義
ここでは、中小M&Aガイドラインの位置付けと目的が述べられています。それが集約されているといってもいい言葉が、「中小M&A」です。
単にM&Aといわず、中小企業が行うM&Aという強調表現をしているのは、大手企業が日常的に経営戦略として行うM&Aと、後継者不在の中小企業が事業承継を目的として行うM&Aとは、同じM&Aでも一線を画すものとの判断に基づいています。
また、両者には目的性の違いだけでなく、M&Aの金額規模という面でも差があるのは一目瞭然です。したがって、大手企業が行うようなM&Aも含めた一般的なM&A論を語るだけでは、事業承継のために初めてM&Aを行おうとする中小企業経営者には内容が足りません。
このような認識の下、中小M&Aガイドラインでは、中小企業経営者に真の意味で役立つ、M&Aに関する情報提供を掲げています。
中小M&Aの事例
この項では、中小M&Aガイドラインと同時に公表された「参考資料」内に掲示されている、M&A事例の分類が示されています。全18事例が8分類されており、各分類の内容は以下のとおりです。
- 小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例
- 経営状況が良好でない中小企業において中小M&Aが成立した事例
- 親族内承継の頓挫から中小M&Aに移行し成立した事例
- 意思決定のタイミングが中小M&Aの成立内容に影響を与えた事例
- 譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例
- 従業員の反対にもかかわらず成立した事例
- 廃業を予定していたものの中小M&Aが成立した事例
- 何らかの理由により中小M&Aが成立しなかった事例
譲り渡し側にとっての基本姿勢
中小M&Aにおける譲り渡し側、すなわちM&Aで事業承継を行おうとする側が、そのM&Aに対してどのようなスタンスであるべきかについて、以下の3点にわたって述べられています。
- 中小M&Aに関する基本的な認識の変化
- 従業員・取引先などへの影響の緩和
- 譲り受け側から見た、譲り渡し側の事業の魅力
譲り渡し側にとっての留意点
ここでは、M&Aで事業承継を行うとする場合の譲渡側が注意すべきことについて、以下の3点を挙げ説明がなされています。
- 早期判断の重要性
- 秘密保持の徹底
- 中小M&A手続き進行上の留意点
②中小M&Aの進め方
第2節の「中小M&Aの進め方」では、以下の3項が掲示されています。
- 中小M&Aフロー図
- 中小M&Aに向けた事前準備
- 中小M&Aにおける一般的な手続きの流れ(フロー)
中小M&Aフロー図
以下の図のとおり、中小M&Aを行う場合の各プロセスにおける、当事者である中小企業側の動きと、それに対応可能な各支援機関が示されています。
出典:経済産業省「中小M&Aガイドライン」https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf
出典:https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf
中小M&Aに向けた事前準備
この項では、中小M&Aを行う場合に事前に行うべき準備について、以下の4点を挙げ、その説明がなされています。
- 支援機関への相談
- 後継者不在であることの確認
- 引退後のビジョンや希望条件の検討
- 中小M&Aに先立つ「見える化」「磨き上げ」(株式・事業用資産などの整理・集約)
「見える化」とは、会社の現状を分析し経営課題を明らかにすることです。「磨き上げ」とは、その経営課題に取り組み、経営の改善を行うことを意味します。また、事業承継を目的とするM&Aで用いられるスキーム(手法)は、株式譲渡です。
株式譲渡をスムーズに行うためには、経営者以外に株式が分散しているならば自身に集約しておくべきことと、事業用資産などが第三者名義になっていればその変更手続きを行っておくべきことなどが述べられています。
中小M&Aにおける一般的な手続きの流れ(フロー)
ここでは、先に掲げたフロー図を基に、中小M&Aにおける各プロセスの説明がなされています。説明で示されている各プロセスは以下のとおりです。
- 意思決定
- 仲介契約・FA契約の締結(仲介者・FAを選定する場合)
- バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
- 譲り受け側の選定(マッチング)
- 交渉
- 基本合意の締結
- デューデリジェンス(DD)
- 最終契約の締結
- クロージング
- クロージング後(ポストM&A)
デューデリジェンス(Due Diligence)は、英単語の頭文字を取って「DD(ディーディー)」とも呼ばれます。意味は、買収側が実施する売り手企業に対する精密監査をさしています。
クロージング後のポストM&Aとは、PMI(Post Merger Integration)のことです。M&Aが成立した後の経営統合プロセスを意味します。
③M&Aプラットフォーム
第3節の「M&Aプラットフォーム 」は、以下の項目で構成されています。M&Aプラットフォームとは、インターネット上でM&Aの取引相手が探せる、M&A専用のマッチングサイトのことです。
- M&Aプラットフォームの基本的な特徴
- M&Aプラットフォーム利用の際の留意点
- M&Aプラットフォームの手数料
M&Aプラットフォームの基本的な特徴
ここでは、M&Aプラットフォームを活用する場合のメリットを中心に述べられています。具体的には、M&Aに敷居の高さを感じてしまうような小規模な事業者でも利用しやすいことと、専門家を通さずに当事者同士のみでM&Aを進めることが可能な点などです。
M&Aプラットフォーム利用の際の留意点
M&Aプラットフォームは便利である反面、注意すべき点として以下2つのポイントについて説明がなされています。
- 情報の取扱い
- 利用するM&Aプラットフォームの選択
M&Aプラットフォームというサービス自体、近年になって行われ始めたばかりで、現在、その数も日増しに増えてきている状態です。したがって、それらを相互に比較し、どのM&Aプラットフォームを利用するかという選び方がキーになります。
また、基本的にM&Aプラットフォームでは、取引相手が見つかった後、交渉や手続きを当事者間で行うことになるため、M&A経験のない中小企業の場合、それをどう乗り切るかという点も留意事項です。
M&Aプラットフォームの手数料
この項では、M&Aプラットフォームの手数料に焦点を当て、以下の2点の説明が行われています。
- 料金体系
- 具体例
現状では、M&Aプラットフォーム利用の際、譲り渡し側は無料であることが多いものの、今後のサービス展開ではどうなるかわからないことなども述べられています。
全国の中小企業のM&Aに数多く携わっているM&A総合研究所では、M&Aマッチングサイト「M&Aプラットフォーム」を運営しています。譲り渡し側は手数料が無料で、譲り受け側も登録と情報検索は無料です。
当事者間での交渉や契約書の作成・チェックなどの各種手続きに不安がある場合には、M&A総合研究所のアドバイザーに仲介業務を依頼できるようになっています(この場合、手数料は発生します)。詳細は、以下のリンクよりご確認ください。
④事業承継・引継ぎ支援センター
第4節では、事業承継・引継ぎ支援センターが行っている支援内容について、以下の2つに区分し説明が行われています。
- 事業者同士の中小M&Aの支援
- その他の支援
事業承継・引継ぎ支援センターの前身である事業引継ぎ支援センターは、経済産業省・中小企業庁からの委託事業として、全国の各都道府県に設置されました。運営は自治体ごとに行われていますが、多くは商工会議所の事務局が置かれ、その主体となっています。
事業者同士の中小M&Aの支援
この項では、以下の2点に内容を分けて、事業承継・引継ぎ支援センターが行う支援の説明がされています。
- 支援フロー
- センターの構築するデータベース
支援フローは以下の3段階に区切られ、その内容が説明されています。
- 初期相談対応(一次対応)
- 登録機関などによるM&A支援(二次対応)
- センターによるM&A支援(三次対応)
事業承継・引継ぎ支援センターは公的機関ですから、相談や支援など基本的に全て無料です。ただし、上記のフローにある登録機関(M&A仲介業者)に業務を依頼することになった場合は、その機関に対し手数料が発生します。
その他の支援
ここでは、以下の2項目が挙げられ説明がされています。
- 後継者人材バンク
- 経営資源の引継ぎ
後継者人材バンクとは、事業承継による起業を希望する個人と後継者不在の中小事業者をマッチングする、事業承継・引継ぎ支援センターの独自事業です。経営資源の引継ぎでは、廃業希望者の事業資産などの引継ぎ相談にも応じています。
ただし、単に廃業手続きを支援するのではなく、M&Aという方法論を用いて経営資源の引継ぎを行う提案なども含めた対応です。
⑤仲介者・FAの手数料についての考え方の整理
第5節「仲介者・FAの手数料についての考え方の整理 」では、以下の4項目に分かれて説明がなされています。
- 手数料の種類
- レーマン方式
- 具体例
- 業務内容と手数料の関係
なお、FAとは、フィナンシャル・アドバイザー(Financial Adviser)のことです。譲り渡し側・譲り受け側のどちらかとのみ契約し、そのM&A支援を行う機関をさします。したがって、譲り渡し側・譲り受け側の両者と仲介契約し業務を行う機関は、FAとは呼びません。
これら用語の説明も、中小M&Aガイドライン内で説明が掲載されています。
手数料の種類
M&Aで発生する手数料の種類として、以下の4つが説明されています。
- 着手金
- 月額報酬
- 中間金
- 成功報酬
このうち、成功報酬額の算定方法は、各支援機関により算定基準額が異なるため注意が必要です。ここでは、算定基準額を以下の3種類に大別し、その説明がなされています。
- 譲渡額(譲受額)
- 移動総資産額
- 純資産額
譲渡額(譲受額)とは、成約したM&Aの取引額です。移動総資産額とは、譲渡額に譲り渡し企業の負債額を加算したものをさします。そして、純資産額とは、譲り渡し企業の資産と負債の差額のことです。
レーマン方式
成功報酬額の算定は、上述した基準額に対して、下表に示すような手数料率を掛け合わせて行います。この計算手法がレーマン方式です。なお、表内の手数料率はあくまでも一般的なケースであり、各支援機関によって手数料率や価額帯が異なる場合もあります。
基準額 | 手数料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超10億円以下の部分 | 4% |
10億円超50億円以下の部分 | 3% |
50億円超100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
具体例
ここでは3つの事例が挙げられ、具体的な手数料の計算内容も示されています。大いに参考となるでしょう。
業務内容と手数料の関係
M&A手数料には、業界横断的な一律性がありません。したがって、依頼する支援機関の対応内容と手数料見積り額とをすり合わせ、比較検討することの重要性が説明されています。ほとんどの支援機関では無料相談が可能なので、遠慮せずそれを活用することが肝要です。
⑥問い合わせ窓口
第6節「問い合わせ窓口」では、実施中の中小M&Aでの疑念や、M&A完了後に生じた疑問などの相談窓口として、以下の2つの問い合わせ先が紹介されています。
- 事業引継ぎ支援センター(現事業承継・引継ぎ支援センター)
- 日本弁護士連合会(ひまわりほっとダイヤル)
第2章の内容「支援機関向けの基本事項」
中小M&Aガイドラインの第2章は「支援機関向けの基本事項」です。支援機関が依頼業務を行う際の行動規範となるべく、以下の6節で構成し細かく指針が示されています。
- 支援機関としての基本姿勢
- M&A専門業者
- 金融機関
- 商工団体
- 士業等専門家
- M&Aプラットフォーマー
①支援機関としての基本姿勢
第1節「支援機関としての基本姿勢 」では、中小M&Aを実施しようとする事業者を全面的に支援すべく、その支援機関に求められる業務スタンスについて、以下3点の切り口で指針が示されています。
- 依頼者(顧客)の利益の最大化
- それぞれの役割に応じた適切な支援
- 支援機関間の連携
依頼者(顧客)の利益の最大化
中小M&Aでは、ほとんどの経営者はM&Aを経験したことがありません。したがって、支援機関による適切なアドバイスと建設的な料金体系などにより、単に中小企業の廃業を防ぐだけでなく、依頼者が幸福感と達成感を得られるM&Aの実現に尽力すべきと訴えています。
それぞれの役割に応じた適切な支援
支援機関ごとに求められる役割は違うものです。M&A専門業者は、マッチングを中心にトータルサポートを行います。金融機関はM&Aを後押しする役割、商工団体はM&Aの入り口としての役割、士業等専門家は各専門分野の支援を行う役割などがあるのです。
支援機関間の連携
中小M&Aガイドラインでは、それぞれの支援機関がその役割を全うしつつ、各支援機関同士が連携することで、M&A支援の質を向上させられるとしています。
②M&A専門業者
第2節「M&A専門業者 」は、以下の6項目で構成されています。
- M&A専門業者による中小M&A支援の特色
- 行動指針策定の必要性
- 各工程の具体的な行動指針
- 仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策
- 専任条項の留意点
- テール条項の留意点
M&A専門業者による中小M&A支援の特色
近年は、中小企業を専門に支援するM&A専門業者が増え、M&Aの増加に貢献してきました。一方で、M&A専門業者には許可制・免許制は導入されておらず、一般的な法規制が整備されていないといった現状もあります。
そのため、M&Aの進め方に関してはM&A専門業者に委ねられている面が多く、M&A専門業者によっては適切に業務を進められない可能性がある点が過大です。
行動指針策定の必要性
上記のようなM&A業界の現状を踏まえ、中小M&Aが透明性・公正性を担保して実施されるためには、一定の行動指針が必要であることを説いています。
各工程の具体的な行動指針
この項では、M&Aフローの各プロセスにおける支援機関の姿勢・業務内容について、細かく注文が述べられています。中小M&Aを行おうとする事業者にとっては、心強い内容です。念のため、M&Aフローを再掲しておきます。
- 意思決定
- 仲介契約・FA契約の締結(仲介者・FAを選定する場合)
- バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
- 譲り受け側の選定(マッチング)
- 交渉
- 基本合意の締結
- デューデリジェンス(DD)
- 最終契約の締結
- クロージング
- クロージング後(ポストM&A)
仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策
前述したFAの説明で述べた契約形態、つまり、譲り渡し側か譲り受け側のどちらかとだけ契約してM&A支援を行う場合、この契約形態をアドバイザリー契約といいます。一方、支援機関が譲り渡し側・譲り受け側双方と契約し両者の間に入る形態の場合は、仲介契約です。
後者の仲介契約を厳密に考えるとき、本来、利益が相反する立場にある譲り渡し側と譲り受け側の間で、支援機関が公正に中立性を保って業務を行えるのかという問題点が指摘されています。具体的な懸念点は、M&Aを成立させるために一方に妥協を強いる可能性です。
特にその妥協が譲り渡し側に向けられやすい傾向があり、その点に警鐘を鳴らして、具体的な対応策を示しています。
専任条項の留意点
専任条項とは、独占委託契約をさします。つまり、専任条項が含まれたM&A業務委託契約の場合、依頼側は並行してほかのM&A支援機関に何の相談・依頼もできません。これは、依頼側のセカンドオピニオンの機会を奪うものです。
中小M&Aの譲り渡し側がM&A未経験者であることを考慮すれば、1つの支援機関だけに全てを委ねるのではなく、現状確認や疑問解決のためにセカンドオピニオンを得る機会を極力、阻むことがないように求められています。
テール条項の留意点
テール条項とは、M&Aが成約に至らず支援機関と依頼者との契約が終了したとき、その契約終了から一定期間内に、成約しなかったM&A当事者間でM&Aが成立した場合、支援機関は手数料を得られるというものです。
これは、依頼側が支援機関に支払う手数料の負担をなくすためにあえて破談にし、依頼契約終了後、当事者間のみでM&Aを成約するような事態を防ぐものとされています。
しかし、場合によっては、テール期間が長期に及んだり、M&Aが成約した場合の相手を無限定にしたり(支援機関が全く関わっていない取引相手も対象にする)など、不穏当となる可能性が捨てきれません。
そこで、中小M&Aガイドラインでは、テール期間は2~3年程度、対象は当該支援機関が仲介に関わった事業者のみとするよう、明確な基準を示しています。
中小M&Aガイドラインで示されているような懸念点が存在しない、安心・信頼してM&A支援を任せられるおすすめのM&A専門業者として、M&A総合研究所があります。
M&A総合研究所は、M&A・事業承継に豊富な経験と知識を持ったアドバイザーが案件ごとに専任となり、相談時からクロージングまで徹底サポートを行うM&A仲介会社です。
また、通常は10カ月~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月でスピード成約する機動力という強みもあります。契約形態はアドバイザリー契約ですから、利益相反行為の懸念も無用です。
そして、料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」となっています(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。随時、無料相談をお受けしておりますので、M&A・事業承継をご検討の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
③金融機関
第3節「金融機関」では、金融機関が中小M&A支援を行う場合に求められる行動指針や留意点が、以下の3項にわたって述べられています。
- 金融機関による中小M&A支援の特色
- 主な支援内容
- 中小M&A支援に関する留意点
金融機関による中小M&A支援の特色
この項では、金融機関の立場の特殊性が述べられています。中小企業は金融機関に取引口座を開設しており、その多くが融資を受けている関係です。したがって、金融機関には必然的に取引企業(融資先)の経営情報は集約されています。
金融機関と中小企業の間には、このような身近で緊密な関係性があることから、金融機関にM&Aの相談を持ち掛ける中小企業は少なくありません。場合によっては、金融機関の顧客同士でM&Aのマッチングが成立することさえあります。
しかしながら、各金融機関・各支店によってM&A支援の対応力はバラツキがあるため、有力な支援機関とはいえないケースもあるのが難点です。そこで、中小M&Aガイドラインでは、その改善を望む旨も記されています。
主な支援内容
この項では、金融機関が中小企業に対して行っている経営支援・M&A支援について、以下の3つに分類してその内容が解説されています。
- 気付きの機会の提供、「見える化」、「磨き上げ」支援
- 中小M&A実行支援
- 中小M&A実行以後に関する支援(ポストM&A支援)
中小M&A支援に関する留意点
この項では、以下の4つの観点で、金融機関が中小M&A支援を実施する際に求められる行動指針が語られています。
- ほかの支援機関との連携
- 情報管理の徹底
- 譲り渡し側が事業再生局面にある場合の中小M&A支援のあり方
- 経営者保証に関するガイドラインの順守
特にほかの支援機関との連携は、「支援体制をこれから本格的に整備する場合」「支援体制を構築中の場合」「支援体制を運用中の場合」の3つのケースに分け、注意を促しています。
また、情報管理の徹底に記載されているのは、「対外的な情報管理の徹底」「対内的な情報管理の徹底」という両面での注意点です。
④商工団体
第4節「商工団体」では、いわゆる商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、商店街振興組合連合会などの公的商工団体・機関に対する行動指針が、以下の構成で提示されています。
- 商工団体による中小M&A支援の特色
- 主な支援内容
- 中小M&A支援に関する留意点
商工団体による中小M&A支援の特色
会員制という側面はあるものの、各種商工団体は公的機関です。それゆえに、各地域の商工会や商工会議所などは、地元の中小企業にとっては、最も身近な経営相談の相手というポジションを得ています。
したがって、事業承継・中小M&Aの最初の相談先となることも多く、事業承継・引継ぎ支援センターの運営事務局を任されている商工会議所も少なくありません。
主な支援内容
この項では、商工団体が担うべき中小M&Aの支援内容・役割について、以下の2つのポイントを挙げています。
- 気付きの機会の提供
- 適切な支援機関への橋渡し
中小M&A支援に関する留意点
この項では、商工団体がM&A支援を実施する際に求められる行動指針について、特に以下の2つに注力するよう求めています。
- 情報の取扱いの注意点
- ほかの支援機関との連携
⑤士業等専門家
第5節「士業等専門家」では、以下の5種類の士業に向けて、中小M&A支援の際に求められる行動指針が記されています。
- 公認会計士
- 税理士
- 中小企業診断士
- 弁護士
- その他の士業等専門家
公認会計士
公認会計士については、以下の3項目が掲示されています。
- 公認会計士による中小M&A支援の特色
- 主な支援内容
- ほかの支援機関との連携
このうち、主な支援内容の説明では、以下の6点にわたって課題や検討ポイントが挙げられています。
- 適正な財務書類の作成支援
- プレM&A支援
- バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
- 財務DD(デューデリジェンス)
- 債務超過企業に対する中小M&A支援
- 中小M&A実行以後に関する支援(ポストM&A支援)
税理士
税理士について述べられている項目は、以下の3点です。
- 税理士による中小M&A支援の特色
- 主な支援内容
- ほかの支援機関との連携
上記のうち、主な支援内容の項では、以下の8つの点における望ましい行動指針が提示されています。
- 適正な税務申告書等の作成など
- 中小M&Aに伴う経営者保証解除の円滑な実現に向けた支援
- 中小M&Aの課税関係などを踏まえた適切な助言および提案
- 中小企業等経営強化法における登録免許税・不動産取得税の特例、許認可承継の特例
- 税務DD(デューデリジェンス)
- バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
- マッチングサイトなどの活用
- 債務超過企業に対する中小M&A支援
中小企業診断士
中小企業診断士に対する提言は、以下の3項で構成されています。
- 中小企業診断士による中小M&A支援の特色
- 主な支援内容
- ほかの支援機関との連携
そのうち、主な支援内容は、以下の6点で行動指針への提言がなされています。
- 気付きの機会の提供
- 中小M&A前後の企業価値・事業価値向上への貢献
- 企業概要書の作成などの支援
- 中小M&Aに伴う経営者保証解除の円滑な実現に向けた支援
- ビジネス(事業)DD(デューデリジェンス)
- 債務超過企業に対する中小M&A支援
弁護士
弁護士に向けた中小M&A支援での提言は、以下の3項に分かれています。
- 弁護士による中小M&A支援の特色
- 主な支援内容
- ほかの支援機関との連携
これらのうち、主な支援内容に関しては、以下の5点に分け行動指針が掲示されています。
- 株式・事業用資産などの整理・集約の支援
- 契約書などの作成・リーガルチェック
- 中小M&Aに伴う経営者保証解除の円滑な実現に向けた支援
- 法務DD(デューデリジェンス)
- 債務超過企業に対する中小M&A支援
その他の士業等専門家
以上の4士業以外にも、中小M&A支援に関わる可能性がある士業は以下のものがあります。
- 行政書士
- 司法書士
- 社会保険労務士
これらの士業専門家においても、ほかの士業専門家と連携し、職責に基づいた適切なM&A支援を行うことについて、中小M&Aガイドラインでは求めています。
⑥M&Aプラットフォーマー
第6節「M&Aプラットフォーマー」では、M&Aプラットフォーム(M&Aマッチングサイト)を運営する企業に向けた、中小M&A支援における行動指針が、以下の構成で記されています。
- M&Aプラットフォーマーによる支援の特色
- 主な支援内容
- 中小M&A支援に関する留意点
M&Aプラットフォーマーによる支援の特色
M&Aプラットフォームの特徴として、安価(場合によっては無料)でM&Aの交渉相手を探せます。また、M&A仲介業者を介さず、当事者自らがサイト上で相手を探せるため、M&A仲介業者に相談することを敷居が高く思う事業者でも、とっつきやすいのがメリットです。
以上2点の特徴を持つM&Aプラットフォームについて、中小M&Aガイドラインでは、これまで中小M&Aに及び腰であった事業者を後押しする存在と位置付けています。
主な支援内容
この項では、M&Aプラットフォーマーに求められる行動指針について、以下の観点で提示がなされています。
- マッチングの機会の提供
- 後継者不在の中小企業に対する中小M&Aに係る意識醸成
中小M&A支援に関する留意点
この項では、中小M&A支援においてM&Aプラットフォーマーに求める注意すべきポイント・行動指針を、以下の3項目に関して述べられています。
- サービス内容の明確化
- 掲載案件の信頼性
- ほかの支援機関との連携
以上のうち、特に掲載案件の信頼性については、具体的な留意点として以下の2つを提起しています。
- 掲載案件の実在性の確認
- 掲載案件の進捗状況の確認
中小M&Aハンドブックとは
中小M&Aハンドブックは、中小M&Aガイドラインの第1章の内容を、マンガ表現などでより簡潔にわかりやすくまとめたものです。実際、中小M&Aガイドラインは、文章のみで構成され、それが綿々と続く内容であるため、M&A未経験者には、とっつきにくい印象があります。
その点、イラスト中心で全24ページという内容の中小M&Aハンドブックは、M&A未経験者に打ってつけの内容・ボリュームです。中小M&Aハンドブックでは、冒頭の挨拶文「はじめに」の後、以下の章立てで構成されています。
- 中小企業でもM&Aが可能です
- M&Aには早期判断が重要
- M&Aの流れについて
- M&A専門業者について
- M&Aプラットフォームについて
- 相談窓口
中小M&Aハンドブックは、経済産業省のホームページ内でPDFにて公開されています。今すぐに目を通したい方のために、直接リンク先のURLを記載しておきます。
https://www.meti.go.jp/press/2020/09/20200904001/20200904001-2.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2020/09/20200904001/20200904001-2.pdf
中小M&Aガイドラインのまとめ
後継者不在の中小企業にとって、廃業を免れ会社が存続できるM&Aによる事業承継は、有効かつ唯一の手段といえるでしょう。しかし、各経営者としては、日常の業務で触れてくることのなかったM&Aというものに、踏み出しづらいのが実情です。
そのような中小事業者の後押しをすべく、経済産業省によってまとめられた中小M&Aガイドラインでは、M&A支援業務を行っている機関に対しても、中小M&Aが円滑に行われていくための行動指針を提示しました。
中小M&Aガイドラインは、M&Aを志す事業者の側もM&Aを支援する業務を行う側も、一度は目を通すべき内容です。
そのような中小事業者の後押しをすべく、経済産業省によってまとめられた中小M&Aガイドラインでは、M&A支援業務を行っている機関に対しても、中小M&Aが円滑に行われていくための行動指針を提示しました。
中小M&Aガイドラインは、M&Aを志す事業者の側もM&Aを支援する業務を行う側も、一度は目を通すべき内容です。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。