M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2025年11月15日更新会社・事業を売る
M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは?3つのアプローチと算定方法をわかりやすく解説
M&Aの成功は、適正な企業価値評価(バリュエーション)にかかっています。自社の価値を把握し、有利な交渉を進めるために不可欠な知識です。本記事では、企業価値評価の基本から3つの主要アプローチまで、専門家がわかりやすく解説します。
目次
M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)の重要性
M&Aにおいて企業価値評価(バリュエーション)は、交渉の根幹をなす極めて重要なプロセスです。売り手にとっては自社の価値を正当に主張する基準となり、買い手にとっては投資の妥当性を判断する指標となります。適正な価格でM&Aを成功させるため、双方にとって企業価値評価は不可欠です。この記事では、その具体的な評価方法を詳しく解説します。
企業価値評価(バリュエーション)の基本
まずは、企業価値の評価について解説します。
企業価値の評価の概要
企業価値とは、事業が生み出す価値の総計であり、一般的にEV(Enterprise Value)と呼ばれます。これは「事業価値」とも同義で、株主だけでなく債権者などすべての資金提供者に帰属する価値を示します。一方、株主だけに帰属する価値は「株主価値(株式価値)」と呼ばれ、企業価値から有利子負債などを差し引いて計算されます。M&Aの価格交渉では、この企業価値と株主価値の違いを理解することが重要です。評価は収益性、将来性、保有資産などを総合的に考慮して行われますが、評価者(売り手・買い手)の立場によって見解が分かれることが多いため、客観的な評価アプローチを用いて算出する必要があります。
動画でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
企業価値評価を行う場面
企業価値の評価方法を用いる場面は、M&Aだけではありません。この項では、企業価値の評価方法を利用する場面を3つ紹介します。
投資判断
金融機関が企業に融資する際、融資対象企業の安全性や収益性を重視します。判断材料として、企業価値を評価するケースがあります。ベンチャーキャピタルがベンチャー企業に対して融資する際も、企業価値の評価を実施します。合理的な投資判断を行ううえで、公正な企業価値の評価方法を利用することは大切です。
相続(事業承継)
相続(事業承継)で非上場株式を評価する際は、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて行います。特に、2024年以降の評価においては、類似業種比準価額の計算に用いる株価や配当、利益の斟酌割合が見直されるなど、評価方法の細かな改正に注意が必要です。税務上の評価とM&Aにおける時価評価は目的が異なるため、混同しないようにしましょう。
経営戦略の策定
自社の経営戦略策定にも、企業価値の評価は有効です。将来の収益性を加味した企業価値を評価することで、中長期的な経営戦略をイメージできます。
企業価値の評価アプローチ①:コストアプローチ
この項以降では、具体的に企業価値の各評価方法をご説明します。まず、コストアプローチから解説します。
評価方法の概要
コストアプローチとは、評価対象の純資産に主眼を置く企業価値評価方法の総称です。M&Aではネットアセットアプローチとも呼ばれ、これまでの利益の蓄積に着目した評価方法です。
貸借対照表と最低限の知識さえあれば、簡便に企業価値を評価できる点や、客観性に長けた企業価値評価を実行できる点がメリットです。
これまでの蓄積に着目する評価方法であるため、企業価値に将来性を含有できないデメリットがあります。
どのような企業に適した評価方法か?
コストアプローチは企業の純資産を基準とするため、企業の過去の実績を客観的に評価するのに適しています。そのため、資産が多い不動産管理会社や、事業の清算を前提とする企業の価値評価で主に用いられます。また、スタートアップ企業のように将来の収益予測が難しい場合、他のアプローチの補助的な手法として活用されることもあります。ただし、将来の成長性が評価に反映されないため、成長中の企業のM&A評価においては、単独で用いることは少ないのが実情です。
コストアプローチによる評価方法
コストアプローチに属する企業価値の評価方法として、今回は3つ紹介します。
純資産価額法
純資産価額法では、純資産価額をベースに企業価値を評価します。純資産価額には、状況に応じて時価と簿価のどちらかを適用します。
年買法
年買法とは、時価純資産額に営業権(のれん代)を加算して企業価値を算出する評価方法です。営業権は、一般的に「営業利益 × 3〜5年分」で計算されます。この年数は企業の収益性や業界の動向によって変動します。近年の中小企業M&Aの実務においても広く用いられる手法ですが、あくまで簡易的な評価方法であるため、他のアプローチと組み合わせて多角的に価値を判断することが推奨されています。(2024年現在)
以下の動画で弊社M&Aアドバイザーが計算例を用いて分かりやすく解説しておりますので、是非ご覧ください。
清算価値法
清算価値法は、全資産を売却して入手できる金額から負債総額を差し引いた金額を基準とする評価方法です。
上記の金額(資産売却利益−負債総額)は正味売却価格と呼ばれ、最終的に経営者の手元に残る金額です。清算する会社の企業価値に特化した評価方法であり、他の場面では原則利用しません。
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コストアプローチ
企業価値の評価アプローチ②:インカムアプローチ
次に、インカムアプローチについて説明します。
評価方法の概要
インカムアプローチは、評価対象の将来的な収益性やキャッシュフローに主眼を置く企業価値評価方法の総称です。コストアプローチとは異なり、これからの利益に着目する評価方法です。将来的な収益性を企業価値に加味するため、M&Aやさまざまな場面に利用可能です。
予測の精度や評価する人の主観に企業価値が左右されやすいデメリットもあり、正確性や客観性の担保がこの評価方法の課題です。
どのような企業に適した評価方法か?
将来的な収益力を加味するため、M&Aや設備投資、金融機関の投資判断など、幅広く活用されています。今後経営を存続しない清算会社などには不適な評価方法ですが、経営を存続しないケースはあまり考えません。幅広い場面で利用できる点がこの評価方法の強みであり、企業価値の評価では最も合理的です。
インカムアプローチによる評価方法
インカムアプローチで代表的な評価手法がDCF(Discounted Cash Flow)法です。これは、企業が将来生み出すと予測されるフリーキャッシュフロー(FCF)を、WACC(加重平均資本コスト)と呼ばれる割引率で現在価値に割り引いて合計し、企業価値を算出する方法です。FCFは事業計画に基づいて算出され、WACCは資本構成やリスクを反映して決定されます。将来性や個別性を評価に反映できる最も理論的な手法ですが、事業計画の客観性や割引率の設定に専門的な知見が求められ、前提条件によって評価額が大きく変動する点に注意が必要です。
M&Aを検討されている場合は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、さまざまなM&Aに携わってきたノウハウを活かしてM&Aをフルサポートいたします。
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インカムアプローチ
企業価値の評価アプローチ③:マーケットアプローチ
最後に、マーケットアプローチをご紹介します。
評価方法の概要
マーケットアプローチとは、評価対象と類似する会社の財務指標や取引を基準にする企業価値評価方法の総称です。コストアプローチやインカムアプローチとは異なり、外部の環境を基に企業価値を評価する方法です。
通常、類似会社は上場企業を用いるため、客観性の高い企業価値を評価できます。比較対象によっては、根拠に乏しい企業価値と見なすデメリットもあります。
どのような企業に適した評価方法か?
マーケットアプローチは、主に創業したばかりで十分な利益がない未上場企業の企業価値評価に用いられるケースが多いです。上場企業を基準に用いるため、十分な利益や資産がなくても客観性に長けた企業価値を算定できます。
相続では、類似業種比準方式という評価方法が適しています。上場企業のM&Aでは、市場株価法が採用される傾向にあります。市場株価法を利用すれば、市場による企業価値への影響を抑えることができます。
マーケットアプローチによる評価方法
ここでは、類似会社比準方式に焦点を当てます。類似会社比準方式とは、類似する上場企業の財務指標を基に企業価値を算定する評価方法です。
PERやEVITDAの指標を用いて、未上場企業がM&Aを行う際の企業価値を評価します。正確な企業価値を評価するためには、可能な限り類似度の高い上場企業を選定することが大切です。
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マーケットアプローチ
M&Aで企業価値を高めるためのポイント
M&Aの交渉を有利に進めるためには、自社の企業価値を日頃から高めておくことが重要です。ここでは、企業価値向上につながる3つの重要なポイントを解説します。
収益性とキャッシュフローの改善
企業価値評価、特にインカムアプローチでは将来の収益性が重視されます。安定した収益モデルを構築し、フリーキャッシュフローを最大化する経営努力が評価額に直結します。コスト削減や新規事業による売上拡大など、具体的な改善策を実行しましょう。
強固な組織体制と人材育成
経営者が不在でも事業が継続できる組織体制は、買い手にとって魅力的に映ります。俗人性を排除し、業務マニュアルの整備や権限移譲を進めることが重要です。また、優秀な人材の確保と育成は、事業の持続的な成長を支える基盤として高く評価されます。
無形資産(ブランド・技術力)の強化
貸借対照表には表れない無形資産も、企業価値を大きく左右します。独自の技術や特許、顧客からの高いブランド認知度、強固な取引先ネットワークなどは、他社にはない競争優位性として評価されます。これらの価値を客観的に示せるように準備しておくことも大切です。
M&Aプロセスにおける企業価値評価のタイミング
M&Aを行う際、2つのプロセスの後に最終的な譲渡価額が決まります。譲渡企業と仲介会社の話し合い、そして譲渡企業と譲受企業で実施する譲渡価額のすり合わせです。前者では、仲介会社がM&Aの交渉の際に基準とする「譲渡企業にどれほどの市場価値があるか」を算出します。
企業価値評価は、譲渡企業が仲介会社との秘密保持契約・アドバイザリー契約が終わった時点で行います。M&Aの交渉において、譲渡企業・譲受企業は目安の譲渡価額がなければ検討を始めるのは不可能です。
譲渡企業にとって、M&A後にどれくらいの金額が残るかはとても重要であり、譲受企業もM&Aでどれくらいのお金が動くのか推測できれば、M&A後の事業計画を行いやすくなります。
まとめ
今回は、企業価値の評価方法をご紹介しました。企業価値の評価方法は状況や目的に応じて最適な方法を選ぶことが大事です。M&Aに限れば、将来性を重視するインカムアプローチがおすすめです。インカムアプローチが利用できない場合は、他の方法を模索しましょう。要点をまとめると、下記になります。
企業価値の評価とは?
→収益性や将来性などを考慮した「会社の価値」を見積もること
企業価値評価を行う場面は?
→投資判断、相続(事業承継)、経営戦略の策定
コストアプローチとは?
→①評価対象の純資産に主眼を置いた企業価値評価方法、②成熟企業や衰退傾向にある企業、清算や相続を行う企業に適している、③純資産価額法、年買法、清算価値法が具体的な評価方法
インカムアプローチとは?
→①将来的な収益性やキャッシュフローに主眼を置く企業価値の評価方法、②あらゆる場面に適した評価方法、③DCF法が具体的な評価方法
マーケットアプローチとは?
→①評価対象と類似する会社の財務指標や取引を基準にする企業価値の評価方法、②創業したばかりで十分な利益がない未上場企業などに適している、③類似業種比準方式や市場株価法、類似会社比準方式が具体的な評価方法
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。