2021年10月22日更新会社・事業を売る

M&A手法の株式譲渡とは?事業譲渡との違い、メリットや手続き、税務、家族間での譲渡も解説

株式譲渡とは、株式を譲渡して経営権を移行する手法です。中小企業のM&Aで多く活用されており、株式譲渡は売り手側にメリットが大きい手法でもあります。この記事では、株式譲渡のメリット・デメリット、M&Aの手続きや税務、家族間での譲渡を解説します。

目次
  1. 株式譲渡とは?
  2. M&Aにおける株式譲渡と事業譲渡・株式交換・合併の相違点
  3. 株式譲渡によるM&Aを行うメリット
  4. 株式譲渡によるM&Aを行うデメリット
  5. 株式譲渡を行う際の手順・流れ
  6. 株式譲渡によるM&Aの必要書類
  7. 株式譲渡によるM&Aの価格算定
  8. 株式譲渡によるM&Aの会計処理・仕訳
  9. 株式譲渡によるM&Aの税務
  10. 株式譲渡によるM&Aの注意ポイント
  11. 株式譲渡によるM&A後の社員の処遇
  12. 株式譲渡によるM&Aの成功事例
  13. 家族間で株式譲渡を行う際の手続き
  14. 株式譲渡によるM&Aのまとめ
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株式譲渡とは?

株式譲渡とは?

株式譲渡M&A手法のなかで最もポピュラーなものですが、どのような手法なのでしょうか。この章では、中小企業で株式譲渡が多く活用される理由もあわせて解説します。
 

M&A手法としての株式譲渡

株式譲渡とは、売り手側が第三者に株式を譲渡するM&A手法です。売り手側が自社の株式を譲渡し、買い手側は対価として現金を支払います。

では、なぜ株式の譲渡を行うと、会社売却が可能なのでしょうか。一般的に、株式会社の場合は株式の過半数を保有すると、経営権を掌握することができます。

取締役や監査役の選任や役員報酬など、会社の重要事項を独力で決定できるようになり、株式保有率が3分の2以上を超えれば社名などの根幹的な部分も独力で変更可能です。

つまり、株式の所持率が高いほど、支配権が強くなります。株式譲渡では、売り手側が所持する全株式を売却し、経営権を全て買い手に譲渡すると、すなわち会社を売却したことになります。

株式譲渡が非上場企業のM&Aで好まれる理由

非上場企業のM&Aで、株式譲渡が好まれる最も大きな理由は、複雑な手続きがなく、現金化が早いことです。

株式譲渡以外の場合は特別決議や債権者保護手続きが必要となり、決議や手続きに当然かなりの時間がかかります。

そのうえ、反対株主が多い場合には、M&A自体実行できないリスクもありますが、株式譲渡はそのリスクがないため、非上場の中小企業が事業承継などの理由で用いています。

また、売り手としては手続きが早く終わることに越したことはないため、株式譲渡はそのような非上場企業にとって活用しやすい手法です。

税金計算は簡単だが専門知識は必須

ほかのM&A手法と比較して発生する税金の計算も株式譲渡は比較的簡単である点も、非上場企業にとって活用しやすい理由の一つです。

しかし、M&Aである以上、税金や手続きが簡単でも専門知識が必要な場面は多々あります。そのため、株式譲渡も専門家のサポートを得て進めていくのをおすすめします。

株式譲渡を行う手段

株式譲渡を行う手段には、以下の3種類があります。ここでは、それぞれの手段について解説します。

  • 相対取引
  • 市場買付け
  • TOB

相対取引

相対取引は、買い手側が個別で売り手株主との交渉をして、株式譲渡を行う手法です。対象会社が未上場会社の場合は、相対取引しか株式譲渡の手段がありません。

譲渡価格は、売り手株主ごとにそれぞれ異なる価格を提示することもありますが、価格に違いがあると株主間で不満が生まれる可能性が高く、交渉に時間を要することになります。そのため、同一価格で相対取引が一般的です。

市場買付け

市場買付けは、対象会社が上場している場合に、直接株式市場から買い進める手法です。株価が安いタイミングで多くの株式を取得することで、投資コストの圧縮ができるメリットがあります。

ただし、発行か済み株式総数と潜在株式総数の5%を超えて取得すると、管轄の財務局に「大量保有報告書」の提出が必要なので注意しましょう。

大量保有報告書の開示で買い手が対象会社の株式を買い進めていることが公表されれば、株価暴落のリスクが高まります。そのため、対象会社の連結子会社化をしたい場合は、後述のTOBを利用することが一般的です。

TOB

TOBとは、個人株主を含む不特定多数の株主に対し、公告により買付け申し込みを勧誘し、市場外で株式を買い進める手法です。市場外で5%を超える買付けを行う場合は、TOBが義務付けられています。

一般的に、TOBを行う場合は、現時点の株価にプレミアム分を乗せた高い株価で申し込みを勧誘します。

現在の株価より低い価格でTOBを行っても、既存株主にとっては市場でそのまま売却したほうが多く利益獲得ができるため、TOBに応じる経済的メリットがないことがその理由です。

M&Aにおける株式譲渡と事業譲渡・株式交換・合併の相違点

M&Aにおける株式譲渡と事業譲渡・株式交換・合併の相違点

M&Aには株式譲渡以外にも、事業譲渡・株式交換・合併などの手法が存在します。各手法にはどのような特徴や違いがあるのでしょうか。本章では株式譲渡と事業譲渡・株式交換・合併それぞれの相違点を解説します。

事業譲渡との相違点

株式譲渡は、売り手側の保有株式を法人もしくは個人譲渡する手法であり、手続き完了後は経営権が買い手側に移るだけで、会社自体が消滅するわけではなく、会社内の契約関係にも変化はありません

一方、事業譲渡は、全ての事業を譲渡する「全部譲渡」と一部を譲渡する「一部譲渡」の方法があります。

そのため、売り手側は譲渡後もそのまま経営権を存続できますが、従業員や取引先、不動産などの譲渡した資産の契約はいったん解除され、買い手側との契約をし直す必要があります。

株式交換との相違点

株式譲渡と株式交換の相違点は、対価が株式であるか現金かという点です。どちらも会社法に定められており、株式交換は会社法に基づいた組織再編方法で、対象会社を完全子会社化します。

株式交換では、対象会社が買い手に発行済み株式の全てを取得させ、代わりに買い手会社の株式を引き受けます。株式譲渡でも対象会社の株式を100%取得すれば完全子会社化できますが、対価となるのは現金です。

また、株式譲渡は取得比率を問わず行えますが、株式交換は完全子会社化する手法なので全株式を取得する場合にしか利用できません。

合併との相違点

合併は、2つ以上の会社を1つの会社に統合する手法です。包括的な承継となるため、消滅する会社の権利義務の全てが譲受企業に引き継がれます。

合併は、既存する会社にもう一方の会社が吸収される吸収合併と、新設会社に既存する会社の全てを引き継ぐ新設合併の方法があります。

合併と事業譲渡の大きな違いとして、吸収合併は権利義務を包括的に承継し、事業譲渡は対象事業の権利義務を選択して個別に承継する点があります。

また、合併の場合、消滅会社は法人格がなくなりますが、事業譲渡の場合は譲渡企業に法人格が残るといった違いもあります。

【関連】吸収合併とは?M&Aにおける吸収合併や子会社の吸収合併を解説

株式譲渡によるM&Aを行うメリット

株式譲渡によるM&Aを行うメリット

数あるM&A手法のなかで、株式譲渡が特に非上場企業のM&Aに多く利用される理由は、すでに解説したとおりです。

では、株式譲渡は売り手側にとってメリットが大きい手法ですが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。この章では、株式譲渡にはメリットを解説します。

株式譲渡における売り手側のメリット

まずは、大きな効果が得られる売り手側のメリットには、以下が挙げられます。ここでは、これらのメリットに関してみていきましょう。

  1. 手続きが簡単で迅速である
  2. 売り手側が受け取る売却利益が多い
  3. 税引き後に残る利益が多い
  4. 事業承継問題を解決できる
  5. 会社のさらなる発展が期待できる
  6. 従業員の雇用維持ができる
  7. M&A後も企業の独立性を維持できる

①手続きが簡単で迅速である

株式譲渡は、契約書の作成手続きのみで完了できます。基本的には、株主総会の承認が不要なため、手続きを迅速に進められます

もちろん、株式を買ってくれる会社が現れるのが前提条件ですが、相手がみつかってしまえばスピーディーに売却まで進むことも可能です。

ただ、譲渡制限がかかった非上場株式の譲渡では、手続きが若干面倒です(株式譲渡の手続きは後述します)。

とはいえ、この場合でもほかのM&A手法と比べると簡便に完了できます。また、迅速に手続きできるため、株式公開をするケースと比べて早く現金が得られます。

②売り手側が受け取る売却利益が多い

株式譲渡を活用して会社を売却した際、売却代金には「のれん」が含まれます。「のれん」とは、独自のノウハウやブランド、優良顧客との取引関係などの目に見えない資産(無形資産)の価値です。

株式譲渡手続きの過程で、買い手側が「のれん」の価値を評価した場合、その分の価値が売却価格に上乗せされます。つまり、この「のれん」の価値が大きいほど、株式譲渡した際に受け取れる金額は多くなるわけです。

特許やノウハウの無形資産を強化すれば、それが「のれん」として評価されます。加えて、不要な在庫の処分によっても、企業価値の向上が可能です。

③税引き後に残る利益が多い

税金の観点からみても、株式譲渡は手元に残る利益が多くなる可能性が高いです。たとえば、事業譲渡と呼ばれるM&A手法では、会社に対して約30%の法人税、課税資産に対して消費税も課されます。

株式譲渡における税金に関しては後述しますが、株式譲渡では基本的に20%の所得税のみが課されるので、
事業譲渡よりも税引き後に残る利益が多い可能性が高くなります。

加えて、事業譲渡で課税される資産には「のれん」が含まれます。「のれん」が多いほど、事業譲渡では支払う税金の額が多くなるため、「のれん」の価値が大きい場合には、株式譲渡によるM&Aのほうが税金面では有利となります。

④事業承継問題を解決できる

中小企業において、後継者がいないことは深刻な問題です。実際に、子息などの親族が事業を継ぐ割合は、年々減少しているのが現状であり、それによって廃業した会社や、廃業を予定している会社が多く存在します。

また、ある中小企業経営者へのアンケートでは、廃業予定と答えた約6割の会社が、事業に成長性や将来性はまだあると回答しています。

成長性・将来性があるのに、後継者がいない理由で会社をたたむことは、経営者にとって心苦しい決断です。

株式譲渡は、そのような後継者問題を解決できるだけでなく、事業の継続も可能です。そのため、もしも「親族や社内に後継者がいない」場合でも、外部への売却によって会社をたたまずに済みます。

⑤会社のさらなる発展が期待できる

株式譲渡を行うと、売り手企業は買い手企業の子会社となり、事業を継続させていくことになります。株式譲渡の売り手側は、買い手企業のさまざまなリソースを活用できます。

そのため、その企業のブランド力はもちろん、技術力や人材などによってさらに成長することも可能です。

さらに、金銭的な理由から着手できなかった事業や、より広い分野の事業を行える可能性もあります。特に、大手企業への譲渡が成功すれば、双方にとって大きなメリットを得られるでしょう。

⑥従業員の雇用維持ができる

売り手側の経営者が、第三者への事業承継で心配する点に、従業員の存在が挙げられます。従業員の雇用を継続するかどうかは買い手側に権利があるので、心配になるのも当然のことです。しかし、株式譲渡をしても従業員の雇用は引き継がれ、権利があるからといって簡単に解雇はできません。

整理解雇などを行う企業もたしかに存在しますが、手荒な行いは買い手側企業の社会的評判を落とすことにつながります。そういった理由もあるので、売り手側の経営者は安心して譲渡ができます。

ただし、ファンドを行う企業など、利益第一の買い手であればその限りではありません。そのため、株式譲渡の際は信用に足る相手か、きちんと調査して見極めるのが重要です。

⑦M&A後も企業の独立性を維持できる

株式譲渡では、買い手側に売り手側の株式を譲渡することで、経営権を引き継ぎます。売り手側の法人格はM&A後も残るため、企業の独立性の維持が可能です。

経営権だけが引き継がれ、経営者や役員、会社名などはそのままというケースもあるため、従来通りの社風で経営ができる可能性もあります。

しかし、社風を維持するには従業員の雇用や待遇の維持が欠かせないため、事前にしっかり説明することが大切です。

株式譲渡における買い手側のメリット

次に、株式譲渡における買い手側のメリットを紹介します。主なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。

  1. 迅速にM&Aができスムーズな営業の開始が可能
  2. 「のれん」を獲得による事業の拡大
  3. 株式を過半数取得すれば支配権を確保できる

①迅速にM&Aができスムーズな営業の開始

先ほどの売り手側のメリットと同じく、買い手にとっても手続きが簡単な点がメリットです。買い手側は取引先や従業員との再契約が不要なため、登記変更申請などの手続きも必要ありません。また、株式譲渡では許認可における各種権利なども引き継がれるケースが多いです。

事業譲渡や新設合併の場合、買い手が許認可申請などを再申請が必要な場合がありますが、株式譲渡にはそれがありません。許認可申請を事前にする必要がなく、株式譲渡後円滑に事業を行えるでしょう。

ただし、許認可が引き継げない可能性もあるため、確認は必要です。

さらに、売り手と買い手の交渉がスムーズに進めば、短期間でM&Aが完了する可能性があります。非上場の中小企業では、売り手側の経営者個人が全ての株を所持していることも少なくありません。その場合、交渉や手続きは二者間だけで済むため、かなり短期でM&Aを完了させられます。

交渉が長引くことは、双方にとってあまり良いことではないため、時間をかけずに済むのは大きなメリットです。

②「のれん」の獲得による事業の拡大

先ほども説明したように「のれん」とは、独自のノウハウやブランド、優良顧客との取引関係の目に見えない資産の価値です。これらを引き継ぐことによって、少ない労力で技術や顧客を一気に入手できます。特許や販売ルートが手に入ることで、自社の利益をさらに増やせるでしょう。

また、経営権を獲得しているので、自社のノウハウや技術も、買収した企業に利用してもらえます。買収した企業の経営状況を改善したり、自社の販売ルートを提供したりと、株式譲渡前よりも売り上げを伸ばせるでしょう。

③株式を過半数取得すれば支配権を確保できる

買い手は、株式の過半数(50.1%以上)を取得すれば、支配権を確保できます。株式会社において取締役の選任は、株主総会の普通決議で行います。

普通決議では過半数の賛成で承認されるため、買い手が過半数の株式を取得すれば自社の役員を取締役に選任することも可能になります。

ただし、重要な意思決定を行う株主総会の特別決議を通すためには、議決権が2/3以上の賛成が必要です。支配権をより確固たるものにするためには、2/3以上の株式取得を目指すとよいでしょう。

【関連】ファンドとは?ファンドの種類と事業承継・M&Aについて

株式譲渡によるM&Aを行うデメリット

株式譲渡によるM&Aを行うデメリット

続いては、株式譲渡のデメリットに関しても、売り手側と買い手側にわけて紹介します。

株式譲渡はメリットの大きい手法ですが、少なからずデメリットも存在します。株式譲渡を行うのが適切かを判断するためにも、正しく知っておきましょう。

株式譲渡における売り手側のデメリット

売り手の主なデメリットに、税金の支払いがあります。株式譲渡では、株式を買い手側に売却し、その対価を得ます。これも会社にとっては利益となるため課税対象です。

株式譲渡によって発生する税金は後述するため、まずは税金が発生するのを認識しましょう。

株式譲渡における買い手側のデメリット

株式譲渡では、以下のように売り手側よりも買い手側にデメリットが多くありますので、買い手側となる場合には十分に検討したうえで株式譲渡を行うようにしましょう。

  1. 問題点を引き継いでしまう
  2. 多額の「のれん」が後々利益を圧迫する可能性がある
  3. シナジー効果を獲得できないおそれ
  4. 株主が分散していると手続きが複雑化する

①問題点を引き継いでしまう

株式譲渡は包括承継スキームであるため、買い手は売り手の資産だけでなく負債も引き継ぐことになります。

どれだけデューディリジェンスを徹底してもすべてのリスクを排除するのは難しく、不要な経営資源や、賠償義務、簿外債務までも承継する可能性があります。

内容によっては今後の経営に影響を及ぼし得るため、M&A前にデューディリジェンスを徹底して行い、しっかり検討することが重要です。

もし問題があった際、問題点を踏まえたうえで買収するメリットがあるかどうかを再度検討し、もしも「リスクを負いたくないが欲しい事業がある」という場合は、事業譲渡などの別手法の活用も考えるとよいでしょう。

②多額の「のれん」が後々利益を圧迫する可能性がある

「のれん」を高く見積もった場合、株式譲渡の実施後に悪影響が出る可能性があります。会計上「のれん」は、毎年少しずつ費用へ振り替えていく減価償却が必要です。「のれん」に多額の資金を支払っても、当面は資産に計上できます。

しかし、この金額が収益と比べて過大であると判明した場合、減損処理が必要です。減損処理を行うことは、投資の失敗を意味します

そうなれば、投資額を回収できないばかりか、投資の失敗によって株価の下落を招く可能性もあります。

したがって、買い手側は買収したい企業の収益性を見極めたうえで、株式譲渡を実施しなくてはいけません。

株式譲渡は、売り手側にメリットが多い一方で、買い手側にとってはリスクがあるM&A手法です。とはいえ買い手側にとっても、簡単な手続きで買収できる点はメリットでしょう。

もし「のれん」の価値を適切に見極めたいのなら、売り手となる会社の状況なども踏まえて慎重に候補を選定するのが大切です。

③シナジー効果を獲得できないおそれ

株式譲渡後、売り手側は別会社として存続します。買い手と売り手は親会社・子会社の関係になるものの、別会社である以上、親会社と子会社間で取引等を行うには一定の制限があります。

制限がかかることにより、十分なシナジー効果が獲得できない可能性がある点はデメリットの1つといえるでしょう。そのため、シナジーをより多く得られるよう、対象会社を100%買収後に合併するケースもあります。

シナジー効果を最大にするためには、企業文化の相違や経営陣の関係性などを、デューデリジェンスやトップ面談の段階で見極めることも重要です。

④株主が分散していると手続きが複雑化する

株主が分散していると、手続きが複雑化する可能性があります。株式譲渡では株主から株式の買い取りを行いますが、株式の買い取りには強制力がないため売却を拒否される場合もあるでしょう。

仮に、1名の株主が全ての株式を保有しているケースでは、その1名との交渉が成立すれば、買い手側は全ての株式を取得することができます。

しかし、株主が10名いて株式を10%ずつ保有しているといった場合、6名が反対すると買い手側は目標となる過半数の取得が困難になります。

また、基本的に株式の買い取りは相対取引となるので、株主ごとに価格が違うことも考えられます。

ですが、実際は個別で交渉をすると手間がかかるうえ、株主間で不満がでるケースも想定されるので、同一価格で買い取りを行うのが一般的です。

【関連】のれん償却とは?会計処理や期間、メリット・デメリットを解説

株式譲渡を行う際の手順・流れ

株式譲渡を行う際の手順・流れ

冒頭で、株式譲渡の手続きは簡単であると述べました。しかし、株式に譲渡制限がかかっている場合は、株主総会の承認の手続きが必要となります。

昨今、多くの非上場中小企業は、株式に譲渡制限がかかっています。したがって、多くの企業は以下の手続きが必要です。

  1. 株式譲渡承認の請求
  2. 取締役会または株主総会での承認
  3. 決定内容通知
  4. 株式譲渡契約
  5. 株主名簿の書き換え

①株式譲渡承認の請求

まずは、会社に対して株式譲渡を承認してもらうための手続きを実施します。具体的には、株式譲渡承認請求書と呼ばれる書類を作成・提出します。

この書類は、インターネット上にあるテンプレートを利用しても、サポートしてくれるM&A仲介会社などに用意してもらってもよいでしょう。

株式譲渡承認請求書には、以下の項目を明記する必要があります。

  • 譲渡する株式の種類と数
  • 株式譲渡を受ける人の氏名と住所

なお、この手続きは原則として株式譲渡する側とされる側が共同で実施しなくてはいけません。シンプルな手続きではあるものの、株式譲渡の中でも重要なプロセスになります。

よって、税理士などの専門家の協力を得たうえで、手続きを実行するのがベターです。また、有限会社では例外なく株式に譲渡制限がかかっていますので、無条件でこの手続きが必須です。

②取締役会または株式総会での承認手続き

次に、所定の機関で株式譲渡の承認手続きを実行します。社内に取締役会がある場合は取締役会、ない会社では株主総会で承認手続きを行います。

ただし、定款の定めにより取締役会設置会社でも、株主総会で当該手続きを実施可能です。この手続きで株式譲渡が承認されると、株式譲渡が正式に認められます。

株式譲渡を認めないケース

株式譲渡の承認手続きに際し、会社側は株式譲渡を承認しないことも可能です。この場合には、会社側が制限株式の買取手続きを遂行しなくてはいけません。具体的には、企業側が株を買い取るか、買取人を指定して買収してもらうことが必要です。

企業側が買い取る場合には、株主総会にて「株式を買い取る旨」と「買い取る株式数」に関する決議手続きを実行します。一方で、買取人を指定するケースでは、取締役会または株主総会にて、決議手続きを完了する必要があります。

③決定内容通知

株主総会や取締役会で決まった事項を、請求した人に通知します。この手続きは、承認請求の日から2週間以内(定款で変更可)に進めるようにしましょう。もしも2週間以内に実行しない場合、決定内容に関係なく株式譲渡を承認したとみなされるからです

また、株式譲渡を承認しないケースでは、誰が株式を買い取るのかを通知する必要があります。企業が買い取る場合は40日以内、指定買取人が買い取る場合は10日以内に通知しましょう。期間内に通知しないと場合は、株式譲渡を承認したこととなります。

④株式譲渡契約

株式譲渡の承認や通知が完了すると、今度はトップ面談やデューデリジェンスの手続きを経て、売り手買い手双方が合意したら、株式譲渡契約書の作成手続きを行います。株式譲渡契約書は、株式と現金の交換を保証する目的で締結されます。

なお、株式譲渡契約書に記載する内容は以下の通りです。

株式譲渡契約書の記載内容

株式譲渡契約書には、主に下記内容を記載します。

  • 基本合意
  • 株式譲渡代金の支払い方法
  • 譲渡承認手続きに関する内容
  • 株主名簿の名義書換えに関する事項
  • 表明保証と損害賠償に関する事項


基本合意の項では、株式譲渡に関する基本的な合意内容を記載します。具体的な内容は以下の通りです。

  • 株式会社の情報(会社名や住所)
  • 株式譲渡の価格
  • 譲渡する株式の種類
  • 譲渡対象の株式数

上記に加えて、株主の氏名や株式譲渡の目的なども必要に応じて記載しましょう。株式譲渡の価格は、さまざまな算定方法があるため、後ほど詳しく解説します。

株式譲渡では、対価として買い手から売り手に対して現金が支払われます。株式譲渡契約書には、対価の支払い方法と支払期限を盛り込みましょう。株券発行会社であれば、支払いと同時に株券を交付する旨を記載してください。

譲渡制限株式である場合は、承認手続きを実行する旨と期限を記載します。株券未発行の場合で株式譲渡の効力を生じさせるためには、株主名簿の書き換えが必要です。名簿書き換えを実行するうえでも、株式譲渡契約書には代金支払いと同時に株主名簿書換え請求書を交付する旨を記載しましょう。

表明保証とは、株式譲渡に関して開示した情報が正しい旨を売り手側に保証させることです。表明保証を株式譲渡契約書に記載し、後々に買い手側が損失を被るリスクを軽減できます。万が一、表明保証に虚偽が発覚した際に備え、損害賠償も定めておきましょう。

株式譲渡契約書の印紙税

ビジネスで作成する契約書には、原則として印紙税と呼ばれる税金が発生します。この際、収入印紙を購入し、それを契約書に貼付する形で印紙税を納税します。では、株式譲渡契約書の作成に印紙税は課税されるのでしょうか?

株式譲渡契約書は非課税文書とされているため、原則として印紙の貼り付けは不要です。ただし、代金がすでに支払われた旨が株式譲渡契約書に記載されているケースでは課税文書となり、収入印紙の貼り付けが必要となります。

⑤株主名簿の書き換え

株式譲渡契約が完了後、株券を発行している企業であれば、契約完了後に株券を交付すれば手続きが完了します。しかし、多くの非上場中小企業は株券を発行していません。そのため、株券の交付手続きを実施できません。

株券を発行していない企業は、その代わりに株主を「株主名簿」に記載しています。つまり、株券不発行の非上場企業では、最後に株主名簿の書き換え手続きを実行する必要があります。この手続きを実施してはじめて、株式譲渡が正式に完了します。

【関連】株式譲渡の手続き

このように、簡単といわれる株式譲渡でも、これだけの手続きが必要となります。事業譲渡などほかのM&Aの方法と比べると簡単な手続きで済みますが、専門家のアドバイスやサポートもなく独力でできるというわけではありません。

株式譲渡のM&Aを検討している場合は、M&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所ではM&A知識・経験が豊富なアドバイザーがフルサポートをいたします。

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしておりますので、M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。

M&A・事業承継ならM&A総合研究所

株式譲渡によるM&Aの必要書類

株式譲渡によるM&Aの必要書類

株式譲渡をする際には、譲渡を行う目的が問題なく進められるよう、さまざまな書類を不備なく準備する必要があります。

また、取締役会設置会社と取締役会非設置会社で異なる書類が必要です。ここでは、株式譲渡に関する手続きの書類を紹介します。

取締役会設置会社の必要書類

取締役会設置会社の必要書類は、以下の書類が必要になります。買い手と売り手どちらかが揃えるわけではなく、両方で必須とされている書類です。さまざまな手続きを必要としているため、事前に把握しスムーズに進めるのが重要です。

まず、取締役会設置会社の場合は株式譲渡承認が必要になります。取締役会非設置会社との大きな違いは、取締役会で譲渡承認の決議をした取締役会の議事録を揃えなければなりません。

  • 株式譲渡承認請求書
  • 取締役会議事録
  • 株式譲渡承認通知書
  • 株式譲渡契約書
  • 株式名義書換え請求書
  • 株主名簿
  • 株主名義記載事項証明書

取締役会非設置会社の必要書類

取締役会非設置の必要な書類は、以下のとおりです。取締役会設置会社との違いは、譲渡承認の機関が株主総会になり、手続き書類の内容が異なります。

  • 株式譲渡承認請求書
  • 株主総会招集に関する取締役の決定書
  • 臨時株主総会招集通知
  • 臨時株主総会議事録
  • 株式譲渡承認通知書
  • 株式譲渡契約書
  • 株式名義書換え請求書
  • 株主名簿
  • 株主名簿記載事項証明書交付請求書
  • 株主名簿記載事項証明書
取締役会非設置会社の場合は、株主総会に関する多くの書類が必要になるため、作成に多くの時間を費やすことになります。自社でこれらの書類をそろえるには困難なことも多く、不安のある方は必要に応じて専門家へ依頼するのがベストでしょう。

株式譲渡によるM&Aの価格算定

株式譲渡によるM&Aの価格算定

株式譲渡は取引される株式の価格を算定する必要があります。株式譲渡価格の算定に際しては、下記3種類のアプローチを用います。

  1. コストアプローチ
  2. インカムアプローチ
  3. マーケットアプローチ

アプローチごとに用いる場面や着眼点が異なるため、状況や会社の規模などを踏まえたうえで算定方法を選択する必要があります。

①コストアプローチ

コストアプローチとは、評価対象の純資産額に基づいて、株式譲渡価格を算定する方法です。簡単に客観性の高い株式譲渡価格を算定できるメリットがある一方で、将来的な収益力を一切加味できないデメリットもあります。

この算定方法は、清算予定や業績が低迷している中小企業の株式譲渡で主に活用される方法です。具体的な手法には「簿価純資産法」があり、純資産をそのまま株式価値として株式譲渡価格を算定します。売り手企業にとっては、予想よりも低い株式譲渡価格となる傾向があります。

②インカムアプローチ

インカムアプローチとは、評価対象から将来期待される利益やキャッシュフローに基づいて、株式譲渡価格を算定する方法です。将来的な収益力を株式譲渡価格に加味できる一方で、客観性に欠けた恣意的な価格が算定されるリスクもあります。

多少のデメリットはあるものの、M&Aでは最も合理的な価格算定方法といわれており、具体的な手法には「DCF法」があります。こちらの手法では、将来得られるフリーキャッシュフローの現価値合計を元に、株式譲渡価格を算定可能です。

ただ、計算に専門的な知識を要するため、専門家に依頼したうえで用いる必要があります。

③マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、類似企業や類似取引に基づいて、株式譲渡価格を算定する方法です。未上場企業でも客観性の高い株式譲渡価格を算定可能である一方で、類似する取引や企業を見つけ出すのが困難です。この算定方法は、成長性の高い未上場企業の株式譲渡での活用事例が多くあります。

具体的な手法には、「類似会社比準法」があり、この手法では類似する上場会社の株式指標(PERやEBITDA)を用いて、株式譲渡価格を算定します。上場企業と比較するため、評価対象はある程度の規模でなければ適用できません。

株式譲渡によるM&Aの会計処理・仕訳

株式譲渡によるM&Aの会計処理・仕訳

株式譲渡によるM&Aの会計処理・仕訳は、売り手と買い手でそれぞれ異なります。本章ではそれぞれの会計処理・仕訳を解説します。

売り手側の会計処理・仕訳

売り手側が仕訳を行う際は、支配権・影響力に応じて計上していた勘定項目から取得原価を控除し、売却対価との差額を売買損益に計上します。また、株式譲渡に要した支出は、発生した事業年度の費用として処理を行います。

売却代金1億円、株式簿価5,000万円のケースでの仕訳例は以下の通りです。
 

借方 貸方
現預金:1億円 株式:5,000万円
  株式売却益:5,000万円

売り手側がFA(ファイナンシャル・アドバイザー)などに対し支払う手数料は、業務委託費などの勘定項目に仕訳します。FAに対し500万円を支払ったケースでの仕訳例は以下の通りです。
 
借方 貸方
業務委託費:500万円 現預金:500万

買い手側の会計処理・仕訳

買い手側は、個別財務諸表と連結財務諸表で、仕訳が異なります。

個別財務諸表上では、株式の取得に関する仕訳をします。計上する株式の取得原価は、売却金額から取得価額と売却手数料等を差し引いた金額です。

取得価格には実際に株式を取得する際に支払った代金はもちろん、購入手数料や名義書換料など、株式取得に要した関連費用も含みます。

買収代金1億円、株式取得に要した仲介手数料などの費用1,000万円のケースでの仕訳例は以下の通りです。
 

借方 貸方
子会社株式:1.1億円 現預金:1.1億万円

一方連結財務諸表上では、対象会社の資産・負債を時価で受け入れ、対象会社の資本と親会社の投資勘定とを差し引きする仕訳を行います。

その差額を「のれん」として処理しましょう。「のれん」は会計基準により20年以内のその効力が及ぶ期間にわたり行うことが定められています。

「のれん」とは、譲渡対価から純資産を差し引いた金額です。算出をしてプラスになる場合は「正ののれん」、マイナスになる場合は「負ののれん」と呼ぶこともあります。

対象会社の資産2億円、負債1.5億円、買収価格1億円、取得比率は100%のケースでの仕訳例は以下の通りです。
 
借方 貸方
資産:2億円 負債:1.5億円
のれん:5,000万円 子会社株式:1億円

また、のれん償却期間が10年の場合の、1年後の仕訳は以下の通りです。
 
借方 貸方
のれん償却費:500万円 のれん:500万円

なお、のれん償却費はあくまで連結財務諸表上のみ計上され、個別財務諸表上は計上が行われません。

株式譲渡によるM&Aの税務

株式譲渡によるM&Aの税務

無事に株式譲渡が終わった後に気になるのは、「何に課税され、どの程度が税金で持っていかれるのか」ではないでしょうか。他のM&A手法と同様に、株式譲渡でも税金がかかります。ここでは、株式譲渡の税務(課税される税金)と、節税対策をご紹介します。

なお、税金面に関しての詳細事項は、国税庁のホームページをご覧になるか、専門家のアドバイスを受けるのをおすすめします。

株式譲渡で必要となる税金

株式譲渡を実施した際の税金は、申告分離課税によって算出されます。申告分離課税とは、給与所得と事業所得を合算した金額を区分したうえで、税金の額を計算する方式です。つまり、事業活動でどれだけ稼ごうが、株式譲渡の税金計算には無関係です。

株式譲渡の税金計算には、2つのパターンがあります。具体的には、売り手株主が個人か法人かによって、株式譲渡で課税される税金が異なります。では、それぞれのケースを解説します。

売り手が個人のケース

大半の非上場中小企業では、経営者個人が株を所持しています。その場合には、このケースに当てはまり、譲渡所得に対して20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金が課税されます。譲渡所得とは、株式譲渡によって獲得した代金から、各種費用(取得費、譲渡費用)を引いた部分です。

取得費とは、会社を設立する際に要した株式の取得費用であり、購入代金や手数料、名義書換料などが取得費に該当します。取得費がわからない場合には、売却価格の5%を概算取得費として適用できます。また、相続によって得た株式も取得費が定められています。

一方で譲渡費用とはM&Aの際にかかった費用です。M&Aアドバイザリーに支払った仲介手数料などがこれに該当します。実際に、株式譲渡でかかる税金は、下記のとおり計算されます。

  • 売却代金-各費用(株式取得費用、譲渡費用)=譲渡所得
  • 概算取得費の適用が可能
  • 税金=譲渡所得×20.315%(所得税15.315%、住民税5%) 

なお、税金ごとに納税時期が異なる点には注意が必要です。所得税は翌年の3月15日までに確定申告を実施して納税し、住民税はその年の6月に自治体から納付書が届きます。所得税の支払いで安心して、住民税の支払いが困難にならないように注意しましょう。

売り手が法人のケース

売り手が法人のケースでも、基本的には個人売り手の場合と同じ部分が多いです。しかし、いくつか違う部分もあります。まず、譲渡所得ではなく譲渡益と呼ぶ点が異なります。譲渡益自体は、前述した譲渡所得と算出方法が同じです。

ただし、概算取得費の適用はできない点に注意が必要です。また、法人が株主のケースでは、会社側に法人税が課税されます。法人税率は、各法人によって税率が異なります。一般的には約30%程度であり、実際に株式譲渡でかかる税金は、下記のとおり計算されます。

  • 売却代金-各費用(株式取得費用、譲渡費用)=譲渡所得
  • 概算取得費の適用不可
  • 税金=譲渡所得×法人税(約30%)

以上のとおり、売り手の株主が法人か個人かによって、支払う税金の種類や額が異なるので注意しましょう。

株式譲渡で利用できる節税手法

上述したとおり、株式譲渡を実施した際には、多額の税金が課されるため、経営者ならば誰しもが節税を考えます。全てのケースには当てはまらないものの、退職金制度の活用によって節税できる場合があります。

具体的には、株式譲渡代金の一部を退職金として受け取れば、株式譲渡に課税される税率よりも低くなるケースがあります。これは買い手側にとってもメリットです。譲渡代金の一部を退職金として支給すれば、その分の金額を損金に算入可能です。

つまり、売り手・買い手双方が支払う税額を抑えられます。ただし、この手法を活用するには専門的な知識が必要です。実際に検討する際には、専門家の意見を仰ぎましょう。

【関連】株式譲渡にかかる税金とは?種類、課税額の計算方法を徹底解説

株式譲渡によるM&Aの注意ポイント

株式譲渡によるM&Aの注意ポイント

株式譲渡では、注意しないと思わぬ損害を招くポイントがいくつかあります。

  1. 株主の所在がわからない
  2. 同族会社間で株式譲渡を行う
  3. 自社で手続きを進める
  4. 従業員持株会が株式譲渡を行う
  5. 非上場株式の株式譲渡時に生じる譲渡所得
  6. 上場企業が受ける規制

①株主の所在がわからない

株主の所在がわからない場合は、株主名簿の住所へ通知や催告を行えば有効としています。また、5年以上通知や催告が株主宛に届かない場合は、通知や催告は行わなくても良いとされており、不明株主がもしもいたとしても議決に影響はありません。

しかし、所在のわからない株主が多いと、買い手側にとってもリスクとして捉えるため、できる限り不明株式をなくしたいと考えます。そうした場合、通知や催告が5年以上届かず、配当も受け取らない状態が続いているのであれば、競売や売却の方法で処分するのも可能です。

他にも、強制的に不明株式を取得するスクイーズアウトで処理する方法もあります。

②同族会社間で株式譲渡を行う

同族会社間の株式譲渡の場合は、親族でもあるため手続きや譲渡金額の決定がどうしても緩くなってしまいます。通常、株式譲渡価額の算定方法は時価を算出して取引額を決定し、適正な手続きを踏んで株式譲渡を行います。

一方、同族会社間になると、都合に合わせて譲渡価額を決定したり、譲渡手続きを簡易な方法で済ませたりするのも少なくありません。しかし将来的にトラブルの原因ともなるため、親族間であっても厳正な手続きで進めるようにしましょう。

③自社で手続きを進める

株式譲渡は法務局など公的機関への申請手続きが必要ないため、小規模な企業は自社で手続きを進めようとするケースもあるでしょう。しかし、申請が必要でない書類であれば、不備があっても気付かない状態のままになります。

こうした場合、後々のリスクを減らすためにも、自社で手続きを進めるのではなく専門家に依頼し、書類作成などの手続きをするのが良いでしょう。

④従業員持株会が株式譲渡を行う

従業員持株会は、通常、上場企業は大半の企業が導入しており、非上場企業でも導入しているケースも多く見られます。従業員持株会の株式を譲渡する場合は、会員全員の承認を得るか、従業員持株会を解散させ清算手続きを行わなくてはなりません

⑤非上場株式の株式譲渡時に生じる譲渡所得

非上場株式を株式譲渡する場合、会社の持つ全てを承継します。譲渡した際に生じる譲渡所得は、申告分離課税と呼ばれる方式によって、他の所得などとは区別されたうえで課税されます。したがって損益通算するなどして税金を減らせません。

また上場株式と非上場株式の間で損益通算もできないため、注意が必要です。

⑥上場企業が受ける規制

上場企業が株式譲渡を行う場合、いくつかの規制があります。まず1つ目は、TOB規制です。法律により公開買付け(TOB)の実行を義務付けられ、公開買付け開始広告などで一般の株主にも機会を与える情報の開示が必要です。

2つ目は、インサイダー取引規制です。この規制は、上場企業の関係者が職務や地位により知った情報を元に、公表される前に株式の取引を行うのを禁止する規制です。このように、上場企業の株式譲渡は規制の影響を受けます。

【関連】非上場の株式譲渡とは?手続きや課税される税金の仕組みを解説

株式譲渡によるM&A後の社員の処遇

株式譲渡によるM&A後の社員の処遇

経営者が最後まで心配するのは、これまで自社で働いてきた社員のことではないでしょうか。では、株式譲渡後に社員はどうなるかに関して解説します。

株式譲渡後における社員の処遇と雇用

株式譲渡により経営者が変わるため、社員の処遇を心配する方は多いのではないでしょうか。結論としては、株式譲渡後も社員の雇用や待遇は維持されるケースがほとんどです。買い手企業にとって、売り手企業の社員は収益力の源泉です。

株式譲渡により会社の経営権を保有しても、社員がいなければ経営は成り立ちません。雇用を継続しても処遇を悪くした場合、従業員の離職やモチベーション低下を招きます。このような事態は買い手企業にとって好ましくないため、基本的には引き続き雇用や処遇は継続されるのが一般的です。

雇用や処遇維持をするためには

基本的には、株式譲渡後も社員の処遇や雇用は維持されるものの、100%ではありません。社員の雇用や処遇を維持するためには、契約段階で確約を取り付ける必要があります。具体的には、基本合意契約書や最終契約書にて、社員の雇用・待遇の維持に関して確約を盛り込みます

永遠に確約を取り付けられないものの、1〜2年間は社員の雇用や待遇を維持できます。もしも、社員の雇用や待遇の維持に関するのを契約書に盛り込むことを買い手側が拒んだ場合、交渉の相手として本当に良いのかを考え直す必要があるといえます。

社員への精神的な影響

雇用や待遇に変化がなくても、社員は精神的な影響を受ける可能性があります。経営者の交代により、社内の雰囲気や環境が変わった場合、従業員に精神的な負荷がかかる恐れがあり、その結果として、モチベーション低下や離職を招くリスクがあります。

新しく経営者となった買い手は、従業員の精神的負荷を取り除くように取り計らう必要があります。収益力の源泉である社員の扱いは、買い手が特に重視すべき課題です。

株式譲渡によるM&Aの成功事例

株式譲渡によるM&Aの成功事例

株式譲渡は、どのような背景で行われているのでしょうか。本章では、株式譲渡によるM&Aの成功事例を五つ紹介します。

  1. VAMOSによるさくらさくプラスへの株式譲渡
  2. ミッドテックによるダイベアへの株式譲渡
  3. RIZAPグループによるシスコへの子会社株式の譲渡
  4. ポテトかいつかによるカルビーへの株式譲渡
  5. アウルスによるエン・ジャパンへの株式譲渡

①VAMOSによるさくらさくプラスへの株式譲渡

2021年6月、保育園の運営などを行うさくらさくプラスは、学習塾を経営するVAMOSの全株式を取得し、完全子会社化しました。取得価額は1億7200万円と公表されています。

今回のM&Aの目的は、子どもの教育事業の拡充です。中学受験を中心とした学習塾を経営するVAMOSのノウハウとの組み合わせにより、子どもの保育や教育を幅広い年齢を対象にサポートする体制が整うことになります。

②ミッドテックによるダイベアへの株式譲渡

2021年6月、ボールベアリングの製造などを行うダイベアは、ベアリングの旋削加⼯を行っている会社のミッドテックの全株式を取得しました。

目的としては、ダイベアのベアリング事業の強化が挙げられます。電磁クラッチ用を始めとしたベアリングの旋削加⼯を行っているミッドテックを子会社化することで、ダイベアの持つベアリングの技術とのシナジー効果が見込めると判断し、M&Aにいたりました。

M&Aは株式譲渡により行われ、全株式を取得してミッドテックの完全子会社化が実現しました。

③RIZAPグループによるシスコへの子会社株式の譲渡

2020年12月、減量ジム事業を中心に展開しているRIZAPグループが、連結子会社を株式譲渡でシスコへ譲渡しました。対象となった子会社は、印刷関係に携わるエス・ワイ・エス、北斗印刷の2社です。

現在「事業の選択と集中」を掲げているRIZAPグループにとって、エス・ワイ・エスと北斗印刷の2社は十分なシナジー効果が生み出せずにいました。そのため、事業の整理・売却の一環として、飲食店経営のシスコに譲渡した次第です。

M&AはRIZAPグループの保有するエス・ワイ・エス、北斗印刷の全株式を、シスコに譲渡する形で行われました。

④ポテトかいつかによるカルビーへの株式譲渡

2020年2月、スナック菓子の製造販を営むカルビーは、焼き芋原料の小売向け販売、焼き芋の直販事業などを営むポテトかいつかはの株式を取得し、子会社化しました。

今回のM&Aは、ポテトかいつかの持つサツマイモに関する専門知識や技術と、カルビーの持つ馬鈴しょの品種開発や貯蔵技術等の資産を活用することで、甘しょ事業の拡大を図ることを目的としています。カルビーでは重課題として「新たな食領域での事業確立」を掲げており、今回の子会社化により取り組みを強化していく次第です。

用いられたM&Aの手法は、取得比率を100%とする株式譲渡です。

⑤アウルスによるエン・ジャパンへ株式譲渡

2019年2月、UI/UXデザインカンパニーであるアウルスは、求人サービスを提供しているエン・ジャパンと株式譲渡契約を締結しました。

アウルスの子会社化によって、UI/UXデザインによる企業の課題解決が可能となり、採用ホームページや採用パンフレットなどの企画・制作依頼などにスピーディなサービス提供ができるようになります。

M&Aは株式譲渡と株式交換の2段階で行われ、第1段階として2019年2月にアウルスの株式の51%をエン・ジャパンに譲渡しました。

その後第2段階として、2021年1月31日から8月31日までの日を効力発生日とし、株式交換が実施されました。これによりアウルスはエン・ジャパンの完全子会社となります。

家族間で株式譲渡を行う際の手続き

家族間で株式譲渡を行う際の手続き

家族間で株式譲渡を行う際、生前贈与により株式譲渡を行う場合には、どのような手続きが必要なのでしょうか。メリットやデメリット、生前贈与を用いる際にかかる税金、手続きの流れをご紹介します。

生前贈与を用いるメリット

生前贈与の大きなメリットは、節税効果を期待できる点です。生前贈与を行い相続財産が減れば、課税対象の金額が少なくなり、累進課税の税率も低く抑えられます

株式の価値が上がる前に家族に贈与すれば、相続で譲渡するよりも税負担を軽減できるため、節税の有効な手段です。

また生前贈与のメリットとして贈与税免除措置があります。年間110万円までであれば贈与税が免除されるため、計画的に実施すると被贈与者の税負担を軽減できます。

生前贈与を用いるデメリット

生前贈与のデメリットは、生前贈与をしてから被相続者が3年以内に亡くなった場合、相続税の課税対象となってしまうことです。このケースでは、節税効果を得られなくなります。

また自社株の場合、株式の所有比率が経営権です。そのため生前贈与で家族に株式を譲渡しようとする場合、株式所有比率が現経営者と後継者で分散してしまう恐れもあります。自社の重大な決定をする際に不都合が起こらないよう計画的に行う必要があります。

生前贈与を用いる際にかかる税金

家族間で株式譲渡の生前贈与を行う場合、基本的には贈与税が課されます。しかし、前述で紹介したとおり年に110万円までは非課税になるケースもあります。

生前贈与にかかる税金は、贈与税、譲渡益課税(所得税+住民税)などです。贈与税は、年間110万円を超えた場合、累進課税により税率が決定します。

なお、仮に株式譲渡の贈与が「みなし贈与」と認定されてしまった場合、税金が増加する可能性があるため、留意が必要です。

生前贈与を用いる際の手続きの流れ

家族間で生前贈与により株式譲渡に用いられる手続きの流れは主に以下のようになっています。

  • 株式の評価額の決定
  • 贈与契約書の作成

株式の評価額の方法で最も低い価格を株式の価格とし、価格が決まった後に、贈与契約書を作成します。贈与契約は合意があれば口頭でも成立しますが、のちにトラブルとならないよう、契約書を作成しておくことが重要です。

株式譲渡によるM&Aのまとめ

株式譲渡によるM&Aのまとめ

この記事では、株式譲渡の売り手側が第三者に株式の譲渡を行うM&A手法を解説しました。

また、株式譲渡を実施するうえで不可欠な知識も紹介しています。株式譲渡は他のM&A手法よりも比較的簡単にできるのですが、手続きや税金など、知っておくべき情報が多いです。加えて、非上場企業が株式譲渡を用いてM&Aを行う際には、注意すべき事項が増えます。

株式譲渡を用いてM&Aを実施すれば、さまざまなメリットを得られますが、十分な準備なしに実施すると、思わぬトラブルや失敗を招く可能性もあります。株式譲渡を実施する際には、綿密に計画を練り実行しましょう。

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