M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年12月25日更新業種別M&A
クリニックのM&A最新動向|事例や案件例・成功のポイントを解説
病院・クリニック業界の現状やM&A相場、成功・失敗の要因、事例を解説します。病院・クリニック業界では、買い手・売り手ごとにM&Aの目的は異なります。期待できるメリットを把握し、M&Aの成功を目指しましょう。
目次
クリニックの現状
次に、クリニック業界が置かれている現状について解説します。
クリニック数の推移
現在の国内の病院・クリニックの動向を把握するために、厚生労働省の資料「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」から抜粋し、全国の医療施設数と前年度との比較を下表にまとめました。
種別 | 施設数 | 増減数 | 開設数 | 再開数 | 廃止数 | 休止数 |
---|---|---|---|---|---|---|
クリニック | 105,182 | +890 | 7,847 | 324 | 6,697 | 584 |
歯科クリニック | 67,755 | -144 | 1,333 | 107 | 1,410 | 174 |
病院 | 8,156 | -49 | 60 | 3 | 106 | 6 |
表を見てわかるとおり、歯科クリニックは非常に数が多いために、独立してカウントされています。そして、病院、クリニック、歯科クリニックを合計すると、2022年10月現在での日本の医療施設数は、181,093施設です。
表における「増減数」は、前年度と比較した数になります。その右横の「開設数・再開数・廃止数・休止数」は、増減数の内訳です。廃止・休止する病院・クリニックの数が多いことに、驚かれた方も多いのではないでしょうか。
クリニックの競争激化
昨今の病院・クリニック業界では、診療報酬の切り下げが問題視されています。従来のように、診療をしていれば収益を上げられる状況が変化しているのです。したがって、病院・クリニック間における競争も年々、激化しています。
「景気に左右されない」印象とは反対に、赤字経営に陥る病院やクリニックも多いのが現実です。それに加えて、いかなる業界でも悩まされる後継者不足・人手不足などの問題も相まって、まさに生き残りをかけた競争が繰り広げられています。
そのため、病院・クリニック業界でも、事業の多角化・シェア拡大・収益性向上などの取り組みが活発化しており、M&Aも経営戦略の1つとして広く活用されるようになりました。
クリニックの市場環境
厚生労働省の「令和4年度 医療費の動向」によると、過去5年間の日本の概算医療費は以下のように推移しています。
- 2018(平成30)年度:42兆6,000万円
- 2019(令和元)年度:43兆6,000万円
- 2020(令和2)年度:42兆2,000万円
- 2021(令和3)年度:44兆2,000万円
- 2022(令和4)年度:46兆円
- 2023(令和5)年:47.3兆円
毎年増え続けてきた医療費が2020年度はコロナの影響もあり、前年より減少しました。しかし全体を見ると、増加傾向にあることがわかります。
出典:厚生労働省「医療費の動向調査」
経営者の高齢化
医療施設(病院や診療所)に勤務する医師を年齢別に見ると、「30~39歳」が66,951人(20.4%)で最も多く、次いで「40~49歳」が66,384人(20.3%)、「50~59歳」が66,375人(20.3%)と続いています。
また、性別構成を年齢別に見ると、すべての年齢層で男性医師の割合が高いものの、女性医師の割合は若い世代ほど増えています。特に「29歳以下」では女性が36.2%を占めており、他の年齢層に比べて高い割合となっています。
平均年齢も「診療所」では60.4歳となっています。診療所の高齢化が特に目立つ結果となっています。
帝国データバンクの「全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」では、業種別の後継者不在率が最も高いは自動車ディーラ(66.4%)の次に、病院・診療所(クリニック)など「医療業」65.3%となっています。
後継者不在の背景として、少子化や資格を必要とするすることから後継者が見つかりにくいといった要因があります。
出典:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」
休廃業の増加
医療機関(病院・診療所・歯科医院)を運営する事業者の休廃業や解散が急増しています。2023年度(2023年4月~2024年3月)には、倒産件数の約12.9倍にあたる709件の休廃業・解散が確認され、過去最多を記録しました。この件数は10年前と比べて2.3倍に増加しています。
この増加の背景には、経営者の高齢化や後継者不足といった問題があります。特に「診療所」における休廃業・解散が顕著で、事業を断念するケースが今後さらに増えることが予想されています。
クリニックのM&A・売却・買収動向
ここでは、病院およびクリニック業界の現状やM&A・売却・買収の動向に関して、以下の4項目に分けて解説します。
①診療報酬の切り下げによるM&A
現在の日本では、高齢者の増加(65歳以上の人口が約28%)により、社会保障費負担の増加・税収の伸び悩み・財政状況のひっ迫などを背景とした医療制度改革が推進されています。
この改革によって診療報酬が切り下げられていますが、この流れは今後も続く見込みです。診療報酬は病院・クリニックの収益の柱であり、診療報酬が引き下げられれば収益減に直結するため、経営上の大きな障壁であるのは、いうまでもありません。
②医療従事者が慢性的不足によるM&A
医師や看護師は病院・クリニック経営に必要不可欠の経営資源であり、サービスの質を大きく左右する要素でもあります。多くの病院・クリニックではこれらの医療従事者が慢性的に不足しており、事業を継続するための人材確保が非常に困難です。
特に看護師に関しては「7対1看護配置」制度の影響により、各病院・クリニック間において看護師採用の競争が激化したことで、大幅な人手不足状況が継続しています。
7対1看護配置とは、患者7人に対して看護師1人が配置される制度であり、条件を満たせれば高く設定された診療報酬を受けることが可能です。その一方で、「10対1」や「13対1」といったように看護師1人が対応する患者数が多くなるほど、診療報酬が低くなります。
看護師の大量確保が収益単価を上げる意味でも非常に有効であるため、各病院・クリニック間で採用競争が激化しているのです。さらに、労務管理が厳格化されたことも、この採用競争に拍車をかけています。
このように診療報酬の切り下げも相まって厳しくなった経営環境の中で、廃業に追い込まれる医療法人が増加傾向であるのを否めません。
③設備投資の必要性によるM&A
国が進める地域包括ケアシステムに関する施策や耐震対策などの影響を受けて、将来的に多額の設備投資が必要となる病院・クリニックが多い見込みです。こうした設備投資のための借入増も、病院・クリニックを経営するうえで大きな負担となり得ます。
④さまざまな目的のもとM&Aが実施されている
日本の人口構成や政府施策を考慮すると、市場環境が大きく好転する要素が少ないことから、病院およびクリニックでは、生存をかけて重要な経営判断を迫られています。
M&Aも経営判断の1つとして実施されており、事業存続・資金調達・事業承継を目的とするM&Aが増加傾向にあるのです。
そもそも医師は個人でクリニックを開業できる専門職であるため、若い医師を引き受けるために比較的小規模なクリニックを買収するM&Aも、今後は増加すると予測されています。
医療法人のM&Aについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックの売り手側のM&Aメリット
クリニックのM&Aで売り手が獲得できるメリットは、以下のとおりです
後継者問題を解決できる
経営者が高齢化する中、後継者が不在であるために病院・クリニックの存続が困難になっているケースが目立っています。後継者問題を抱える病院・クリニックがM&Aを実施すれば、事業承継が実現し病院・クリニックを存続させられるのです。
地域医療の観点から見ても、医療機関の存続は大きな意味を持ちます。
経営の安定化が期待できる
M&Aによって大企業や大手グループの傘下に入ることができれば、大規模な経営資本の活用で経営を安定化させるメリットが期待できます。また、大企業の知名度・ブランド力などにより、社会的な信用度の向上も見込めるでしょう。
同地域内でM&Aを実施すれば、地域の医療機関が持つ機能を向上させつつ、地域の医療体制発展への貢献も望めます。
従業員の雇用を確保できる
事業存続が困難になっているケースに関して、M&Aには従業員の雇用を確保するメリットも期待できます。仮に病院・クリニックを廃業してしまえば、在籍する医師・看護師・事務スタッフなどの雇用継続が不可能となってしまうからです。
設備投資による経営の効率化が図れる
病院・クリニック事業の一部を売却するケースでは、売却で獲得した資金を設備投資に回すことで、経営の効率化が図れます。事業存続に必要不可欠である考え方「選択と集中」を実現する方法としても、M&Aは大いに有効です。
創業者利益を獲得できる
M&Aによる売却で、病院・クリニックの創業者は利益を獲得できます。このときに獲得した利益は、引退後の生活資金や他の事業への投資など自由使途資金です。
眼科クリニック業界のM&A・売却・買収事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックの買い手側のM&Aメリット
クリニックのM&Aで買い手が獲得できるメリットは、以下のとおりです。
医療従事者を確保できる
昨今、医師・看護師の採用競争が激化しており、スムーズな採用活動の実施は困難な状況です。M&Aによって売り手の病院・クリニックと統合すれば、売り手に在籍する医師・看護師をそのまま引き継げます。
特に看護師数を増やせられれば、診療報酬上のメリットが生まれる可能性も高いでしょう。
医療事業をスムーズに開始できる
M&Aによる買収では、医療従事者だけでなく、医療施設もそのまま引き継げます。医療業界の事業は専門性が高く、事業の開始には相当の準備が必要です。
そこで、M&Aを活用すれば、完成した状態の病院・クリニックや医療環境を入手できるため、事業の開始を円滑化できるメリットが期待できます。
機能の多角化・専門性の推進が図れる
M&Aによる買収では、これまで未対応だった診療領域などを確保でき、機能の多角化が図れます。病院・クリニック同士の統合では専門性も推進され、市場における存在感の強化も期待できるのです。
これらの効果は企業規模の拡大にもつながるため、経営上、大きなメリットを享受できます。
病床規制に対応できる
病床規制がある環境下では、M&Aの実施によって認可病床数を増加できます。病床数は患者の受け入れ可能人数のことであり、医療サービスの実力を左右する要素です。既存の医療施設で増床を図るよりも、M&Aでは比較的容易に病床を増やせるメリットがあります。
病院・クリニック業界は許可制の規制業界です。したがって、病床規制以外にもさまざまな規制が存在します。M&Aの実施によって、こうした規制をクリアしていくことが大切です。
経費の削減が期待できる
M&Aによる分院などで拠点を増やせれば、購買面・外部への委託費用面で、取引先との交渉力を強めることが可能です。取引交渉で値引き幅を広げられれば、経費の削減にもつながります。
複数の拠点で共通する経費を一元化できれば利益率の上昇も望めるため、より効率的な経営が目指せるのです。
病院・クリニックの事業売却・M&A動向については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックのM&Aの売却相場
ここでは、クリニックのM&Aの売却相場について解説していきます。
クリニックの簡単な相場計算
あらかじめ売却相場を知っておくことで、安く買い叩かれずに済みます。また、高値で打診して成約が決まらないという事態を避けることもできます。クリニックのM&Aであれば、以下の計算式で算出されるものが一つの目安です。
- クリニックの相場 = 時価純資産+直近の利益の2~5年分
時価純資産とは、病院・クリニックの所有する資産や設備の現在の価値から、借金や負債を引いたものです。上記の計算式は年倍法と呼ばれており、直近の利益をもとにして将来の収益性を簡単に見積もったものです。収益の安定性や成長性が高いほど高く評価されます。
クリニックの売却額の目安を詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください。
クリニックの売却相場に影響がある要因
クリニックの企業価値評価に影響を与える要因をご紹介します。
プラスの影響要因
純資産
・時価の高い自己所有の土地・建物を保有
・時価の高い施設・設備を保有
収益性・将来性
・知名度が高い
・患者数が多い
・良い立地
・優秀なスタッフがいる(継続雇用が可能)
引き継ぎが容易
マイナスの影響要因
純資産
・負債が多い(金融機関からの借入金、リーズ残債)
・残業代未払い退職給付引当金など未計上の負債がある
収益性・将来性
・知名度が低い
・患者数が少ない
・立地が良くない
・将来的に損害賠償を課されるなど、クリニックの評判を落とすリスクがある
引き継ぎが困難
上記の中でも特に、引き継ぎの点は事業承継で重視されるポイントになります。院長が一人で診療している場合、患者は院長でそのクリニックを選んでいる可能性が高いです。そのため、いくら利益が出ている場合でも、将来的に院長が抜けたクリニックの価値を考えた際に収益性の面で評価を下げなくてはなりません。
したがって、譲渡後もしばらくは診療にあたり患者の引き継ぎを行うことを視野に入れることも大切です。また、クリニックの名称に院長個人の名前が入っている場合も検討が必要です。名称の変更は知名度に影響を与え、患者離れを招く恐れがあります。
事業承継までに時間がある場合は、あらかじめ名称を個人名を含まないように変更することで問題を避けることができます。
クリニックの具体的な譲渡価額を調べる方法
上記で紹介した算定方法を、病院・クリニックの経営者自身がいきなり駆使するには無理があります。そこで、病院・クリニックの具体的な譲渡価額を算定するには、M&A仲介会社などの専門家を活用するのがおすすめです。
クリニックのM&A・売却・買収にかかる期間
一般企業のM&Aは、最短で3カ月程度、通常は半年~1年程度の時間がかかるとされています。一方、病院・クリニックのM&Aの場合は、一般企業よりも長い期間がかかってしまうでしょう。これには2つの理由があります。
1つ目の理由は、病院・クリニックの売り手が絶対的に少ないことです。どんなに買い手が病院・クリニックのM&Aを実施したくても、売り手がいなければ成立しません。つまり、売り手探しに時間がかかってM&Aの機関が長くなってしまうのです。
2つ目の理由は、病院・クリニックのM&Aでは、一般企業のM&Aと違って行政機関との手続きが必要になることが挙げられます。病院・クリニックは行政機関の許認可が必要な事業ですから、M&A実施の際には当事者同士の手続きだけではすみません。
行政機関との手続きも発生する分、一般企業のM&Aよりも時間がかかることになります。
医院継承の親子・親族承継のメリット・デメリットについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックのM&A・売却・買収の事例
ここでは、近年におけるクリニックのM&A・売却・買収の事例をご紹介します。
徳洲会によるベテル泌尿器科クリニックの事業承継
2022年3月、徳洲会がベテル泌尿器科クリニックの事業承継しました。徳洲会グループは全国で多数の病院・診療所・クリニック・介護施設・訪問看護ステーションなどを展開する医療法人です。
ベテル泌尿器科クリニックは札幌市で泌尿器科の診療を行う、有床のクリニックです。院長の体調不良によって、従来通り診察できなくなったとして徳洲会へ譲渡しました。
廣仁会が昭和皮膚科クリニックを現院長個人に承継
2021年5月、昭和皮膚科クリニックの院長が廣仁会の昭和皮膚科クリニックを事業承継しました。廣仁会は北海道および宮城県に展開する皮膚科を中心とした医療法人です。今回の事業承継により、昭和皮膚科クリニックは新体制となります。
豊栄会によるきゅう眼科医院の事業承継
2020年1月、豊栄会はきゅう眼科医院を事業承継しました。豊栄会は東京、埼玉に眼科を展開する医療法人です。
きゅう眼科医院は静岡に展開する眼科です。今後は、最良の医療を目指していくとしています。
病院・クリニック業界のM&A・売却・買収の成功と失敗
これまで、買い手と売り手ごとに獲得できる病院・クリニックのM&Aメリットを見てきましたが、M&Aは失敗してしまう可能性もあるため、あらかじめ成功要因を把握しておくのが大切です。ここでは、病院・クリニック業界のM&Aの成功要因と失敗要因を確認します。
病院・クリニック業界のM&A・売却・買収の成功要因
これまで見てきたメリットを十分に獲得できているM&Aは、成功ケースといえます。たとえば、医師不足により病院・クリニック事業の一部を譲渡したことで、選択と集中による経営資源の効率的な活用を実現できたケースは、「M&Aに成功した」のです。
さらに、買い手側もM&Aの実施により想定していた事業を買収し、事業領域の拡大という目的を達成したのであれば、売り手・買い手の双方にとって成功事例といえます。以上のことから、双方がメリットを享受できるM&A相手を見つけるのが、M&Aの成功要因です。
病院・クリニック業界のM&A・売却・買収の失敗要因
M&Aにおける失敗として深刻なのは、従業員の離職です。医師や看護師などの医療従事者は、病院・クリニックの事業運営に与える影響が非常に大きいため、従業員の離職は最も避けなければなりません。
特に、人材不足の病院・クリニック業界では転職が容易です。M&Aスキームの選定や買収資金の調達も重要ですが、医師・看護師が1人も欠けることなくM&Aが成約することを、常に念頭に置きながら手配を進めましょう。
以下に、失敗事例を一つご紹介します。
成長戦略として分院展開を目指す医療法人が「矯正に強い歯科診療所」を譲受しましたが、売上の主な源泉であった矯正医が数ヶ月後に退職。業績が急激に悪化し、1年を待たずして再度の譲渡を検討する事態に陥りました。
譲受側は、対象医院の強みとその強みを支えるキーマンを特定し、譲受後もその維持が可能かを慎重に検討する必要があります。特に自費診療の割合が大きい矯正歯科や美容皮膚科では、キーマンの継続雇用が事業成功の鍵となります。
対応策として、ロックアップ条項(キーマンの一定期間雇用を確保する契約)を活用し、譲受後の安定を図ることが重要です。狙ったシナジー効果が得られないM&Aは失敗といえます。
クリニック業界のM&A・売却・買収を成功させるポイント
病院・クリニック業界でM&A・売却・買収を実施する際には、以下に挙げるポイントに着目しましょう
①開設などの手続きの確認
たとえば、病院の開設主体は、国、自治体などの公的部門と、医療法人、社会福祉法人、公益法人、個人などの民間部門と大別され、それぞれ手続き方法は異なります。許可制事業である病院・クリニックでは、1つひとつの手続きが重要ですから、よく確認しましょう。
②許認可の引き継ぎに注意する
M&A実施によって病院・クリニックの経営者が変わるのであれば、許認可の引き継ぎを行わなければなりません。この許可要件で注意したいのは、各自治体独自の事務処理を行うことから、必ずしも統一されたフォーマットやプロセスが敷かれているわけではない点です。
スムーズに病院・クリニックの許認可を得るためにも、自治体の担当窓口とよくコミュニケーションを取って交渉・折衝を行い、支障が出ないようにしましょう。
③医師・看護師を流出させない
病院・クリニックを買収する側にとって、医師・看護師をまとめて獲得できることもM&Aの1つの目的です。しかし、経営者主体が変わることに不安や異論を持ち、医師・看護師が退職してしまうケースがあります。
これは単に人材の流出にとどまらず、退職した医師や看護師を慕っていた患者の離脱にもつながる由々しき問題です。したがって、医師・看護師の流出は極力、避けなければなりません。
M&A実施の際は、早い段階から各医師・看護師とコミュニケーションを持ち、待遇改善を図るなどもして、人材がM&A後も退職しないための対策を取りましょう。
④適切なM&Aスキームを選ぶ
病院・クリニックは一般企業とは異なりますから、M&Aスキームも特殊です。まず、株式交換・株式移転・会社分割のような組織再編手法は存在せず、また、株式も存在しないた、株式譲渡も行えません。
したがって、実施できるM&Aスキームは、事業譲渡、合併です。また、病院・クリニックのM&A固有のスキームとして、医療法人理事の交代、または理事などの出資持ち分譲渡があります。
病院・クリニックのM&Aの場合、以上の選択肢の中から最適なM&Aスキームを選ぶことは、とても重要です。
⑤相手先の選び方
一般の企業のM&Aであれば、異業種間でもM&Aは成立します。しかし、病院・クリニックは許可制の事業で開設可能者も限定されるため、M&Aの取引相手候補は多くありません。したがって、そのことを念頭に置いて、取引相手候補を選定する必要があります。
⑥M&Aの専門家に相談する
病院・クリニックのM&Aで最適なスキームを選ぶためには、M&A仲介会社など専門家のアドバイスが役立ちます。病院・クリニックのM&Aは一般企業のM&Aとは異なる点が多いため、相談先は病院・クリニックのM&A実績を持つ専門家であることが重要です。
⑦行政との折衝
一般的な企業のM&Aでは発生しないのですが、病院・クリニックのM&A後に後継者が事業を再開させる場合は、管轄行政の許可が必要です。また、許可要件は地方自治体により異なることもあります。事前に許可を得られるようにM&Aを始める前から行政との折衝を行っておくのがベストだといえます。
クリニックのM&A・売却・買収の相談先
病院・クリニックのM&Aは、専門性が高く、業務や設備などに関する知識にも精通している必要があります。ここでは病院・クリニック業界のM&Aの主な相談先を紹介します。
①金融機関
銀行や信用金庫などの金融機関でも、M&Aの相談ができます。地元の金融機関は地域に根ざしているため、条件の合う病院があればスムーズに話が進むでしょう。しかし地方の病院やクリニックの場合、その地域周辺だけで最適な条件を探すのは難しいケースもあります。
②事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者がいない、あるいは後継者不在の中小企業・小規模事業者に対して、助言や情報提供、マッチングなどを支援しています。全国47都道府県に設置された、公的相談窓口です。
事業承継・引継ぎ支援センターには、M&Aや事業承継に関する専門家が在籍しています。
③弁護士・税理士・公認会計士事務所
M&Aを行う弁護士・税理士・公認会計士事務所も、有力な相談先です。これらの士業の中には、病院やクリニックなど、医療分野に特化している事務所もあります。事前に、ホームページなどでリサーチしてから相談するのがよいでしょう。
④マッチングサイト
マッチングサイトは、相談先ではなくM&Aの相手探しの場です。簡単に全国規模でM&Aの候補先を探せるといったメリットがあります。医療分野に特化したサイトや無料で利用できるサイト、無料相談も行っているサイトなど、提供内容はさまざまです。
複数のサイトを比較し、病院やクリニックに合った最適なマッチングサイトを利用するのがよいでしょう。
⑤M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&Aを専門に取り扱っており、M&Aのトータルサポートを行っているのが特徴です。病院やクリニックの売り手と買い手をマッチングさせ、M&Aの専門的な知識や経験を生かしたアドバイス・サポートを受けられます。
クリニックの事業承継については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
クリニックのM&A・売却・買収のまとめ
一見すると病院・クリニック業界は景気に左右されない印象ですが、赤字によって厳しい経営を余儀なくされている病院・クリニックも多いのが実情です。それと同時に、後継者不足や人材確保が困難である問題も深刻化しています。
近年では病院・クリニック業界でも、事業の多角化・市場規模の拡大・収益性の向上を図る取り組みが活発化し、経営戦略の選択肢の1つとしてM&Aが注目されている状況です。
ただし、病院・クリニックのM&Aには特殊性が多いため、病院・クリニック業界に精通しているM&A仲介会社の起用が、M&Aをスムーズに進めるポイントになります。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。