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2021年4月29日更新会社・事業を売る
会社分割と債務超過
債務超過会社にとって、会社分割は非常に役立つ手法です。債務超過部分を切り離したり、優良部分を独立させることで、経営再建を実現できます。会社法における債務超過会社の会社分割と注意点、債務超過会社の会社分割における会計処理(仕訳)などを解説します。
会社分割と債務超過の関係性
市場環境が複雑化している昨今、大企業を中心に組織再編の必要性が高まっています。組織再編の実行手段として、会社分割は役に立ちます。会社分割を利用すれば、経営資源の再配分や合弁企業の設立、さまざまな目的を実現することができます。
組織再編のみならず、ビジネスを売買する目的でも会社分割を活用できます。債務超過に陥っている会社の会社分割の実行可否は、従来から議論されていますが、非常に複雑かつ困難な論点であるため、意外と知られていません。
そこで、今回は、会社分割と債務超過の関係性に関して会社分割の実行可否を詳しくご説明します。債務超過に陥っており、事業再建に関心のある方は必見です。
会社分割と債務超過
まずはじめに、会社分割と債務超過に関して、それぞれ最低限知っておくべき知識をお伝えします。
①会社分割とは
M&A手法の一種である会社分割は、会社内からある事業部門を切り離して、それを他の企業に移転させる方法です。事業を切り離す側を「分割会社」と呼び、事業を引き受ける側を「承継会社」といいます。
すでに存在する企業に移転する方法は「吸収分割」、新しく設立する企業に移転する方法は「新設分割」と呼びます。
また、「交付する対価を誰が受け取るか」という観点でも、会社分割を分類できます。企業側が対価を受け取るケースは「分社型分割」、株主が受け取るケースは「分割型分割」と呼ばれます。
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会社分割の利用目的
経営の効率性向上や企業提携を主な目的として、会社分割は利用されます。まれなケースですが、事業譲渡のようにビジネスを売買する目的で利用される事例もあります。
会社分割の実行前後では、資本構成や権利などが大きく変動するため、特別決議や債権者保護手続きが原則として必要となります。債権者や株主に対する影響が微小の場合には、その手続きを省略できます。
また、現金以外を対価として交付することができます。現金以外を対価とする際には、税負担を軽減するために、適格要件を満たすことがベストです。
非課税となる適格要件には、金銭不交付要件や関係を継続する要件があります。株式以外を対価とする場合には、登記手続きも必要となります。
②債務超過とは
債務超過とは、ある企業の負債総額が資産総額を上回っている状態です。債務超過の状況では、全ての資産を現金化しても、負債を返済できません。
単なる赤字と比べると、債務超過は非常に深刻な状態です。債務超過は破産の直接的な原因となり得るため、早急な改善が必要です。
債務超過に陥ると、新規の資金調達が困難となったり、上場企業であれば上場廃止となります。当然この状態に陥ると、M&Aによって第三者に買収してもらえる可能性は非常に低いです。
債務超過を解消する方法はさまざまありますが、会社分割を利用すれば解消可能です。債務超過の原因(不採算事業など)を切り離すことで、会社全体の財政状況を大幅に改善できます。実際に会社分割を用いて、債務超過の原因を切り離したいと考える経営者は少なくありません。
このように、会社分割には有用な面もありますが、複雑な手続きを要するうえ濫用的会社分割の問題などもあります。そのため、専門家のサポート下で進めていくほうがよいでしょう。
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会社法における債務超過会社の会社分割
債務超過会社が行う会社分割については、これまで数多く議論されていました。この項では、債務超過会社が会社分割を実行することについて、会社法の観点から妥当性を解説します。
①債務超過会社は会社分割を実行可能なのか?
債務超過会社が取り得る会社分割の選択肢は、主に下記の2つになります。
- 優良事業を切り離す
- 債務超過の要因を切り離す
どちらの選択肢を取っても、経営再建の足がかりとなります。各選択肢ごとに、会社分割を実行可能か考えてみましょう。
優良事業を切り離す
優良事業を会社分割により分社化し、その事業だけでも生き残りを図るケースです。つまり、優良事業を切り離す結果、分割会社が債務超過に陥る場合です。
法改正前(旧商法)までは、「債務履行の見込みがあること」を事前開示書類として要求されていたため、このケースの会社分割は認められていませんでした。
現行会社法への改正により、上記事前開示書類に修正が加えられ、分割会社は「債務履行に関する事項」を開示すれば良いこととなりました。債務履行が見込めないことを開示しても問題ないため、分割会社が債務超過に陥る会社分割は認められます。
債務超過の要因を切り離す
債務超過の要因を切り離し、分割会社の財政状態改善を図るケースです。つまり、会社分割により切り離す事業自体が、債務超過である場合です。
旧商法では、債務超過事業の会社分割は認められていませんでしたが、法改正により認められるようになりました。このケースでは、株主総会で状況説明が必要となります。
②債務超過会社が会社分割を実行する目的
債務超過会社は、経営を立て直すために会社分割を実行します。債務超過の要因を切り離したり、優良事業の存続を図れば、経営を大幅に立て直すことができます。債務超過の要因がなくなれば、経営再建のみならず会社自体のイメージ改善にもつながります。
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債務超過会社の会社分割における会計処理(仕訳)
次に、債務超過会社が会社分割を実行した際の会計処理(仕訳)について説明します。分割会社と承継会社では処理内容が異なるため、それぞれの会計処理を解説します。
①分割会社の会計処理(仕訳)
切り離す事業が債務超過である場合には、初めにすでに保有している子会社株式の価額分を足し合わせます。足し合わせたうえで債務超過が残る際には、債務超過分の金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」という勘定科目を用いて、負債に計上します。
連結財務諸表上では、当該負債額は相殺されますが、個別財務諸表上では残ります。つまり、債務超過の金額は、分割後も負債部分に残ることとなります。
②承継会社の会計処理(仕訳)
会社分割により債務超過事業を引き継いだ会社側では、債務超過分の金額を「その他利益剰余金のマイナス」として処理します。債務超過分は、資本金や資本準備金、その他資本剰余金のマイナスには計上しません。
分割会社では「負債への計上」で対応する一方で、承継会社では「純資産の減少」として処理する点にはご注意ください。
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債務超過会社が会社分割する際の注意点
最後に、債務超過会社が会社分割する際の注意点をお伝えします。何も考えず自社の利益を最優先すると、後々思わぬ損失を被る恐れがあります。債務超過会社が、会社分割を実施する際は、この項で説明する注意点を意識することが重要です。
①濫用的会社分割
会社分割では、原則債権者に対して保護手続きを実行する必要があります。債権者から異議申し立てがなされた際には、弁済や担保提供を行わなくてはいけません。
債務超過会社にとって、債権者保護手続きは非常に厄介な手続きです。会社法の決まりを逆手に取れば、会社側は債権者の介入を防いだうえで、債務から逃れることができてしまいます。
会社分割において保護対象となる債権者は、「会社分割後に分割会社に対して債務履行を請求できない債権者」に限定されます。
会社分割後も債権の一部を残しておいたり、分割会社が移転する債務を連帯保証すれば、債権者を保護対象から外すことが可能です。結果として債権者は、債務弁済や担保提供を請求する権利を失います。
以上のような、債権者の利益を著しく害する会社分割は、濫用的会社分割と呼ばれます。債務超過会社にとっては、一見すると非常に魅力的な手法に見えますが、後々大きな損失を被る可能性があります。
②濫用的会社分割を行うデメリット
濫用的会社分割に対して、債権者はさまざまな対策を施すことが可能です。例えば、会社法第429条に基づいて、取締役に対して責任を追及し、損害賠償を受け取れます。また、詐害行為取消権を行使し、会社分割の効力を取り消すことも可能です。
つまり、濫用的会社分割を実行すると、損害賠償を請求されたり、会社分割の効力を取り消しされたりする可能性があります。濫用的会社分割は、理論上便利であるものの、成功する可能性はほぼ0です。
上記で述べたデメリットが生じる上に、会社の信用力は一気に低下します。債務超過会社が会社分割を実施する際は、濫用的会社分割とならないように注意しましょう。
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まとめ
今回は、会社分割と債務超過の関係を解説しました。債務超過会社にとって、会社分割は非常に役立つ手法です。債務超過部分を切り離したり、優良部分を独立させることで、経営再建を実現できます。
従来は認められていませんでしたが、会社法改正によって債務超過会社も会社分割を実行できるようになりました。債務超過会社が会社分割を行うときは、債権者の利益を蔑ろにしてはいけません。
自社の利益を最優先し、債権者の利益を著しく害すると、後々大きなダメージを被るかもしれません。会社分割の際には、あらゆる関係者の利益を考えて実行することが求められます。要点をまとめると、下記になります。
・会社分割とは
→会社内からある事業部門を切り離して、それを他の企業に移転させる方法
・債務超過とは
→ある企業の負債総額が資産総額を上回っている状態
・債務超過会社による会社分割
→会社法の改正により実施可能となった
・債務超過会社が会社分割を実行する目的
→経営再建、会社に対するイメージの改善
・債務超過会社の会社分割における会計処理(分割会社)
→債務超過分の金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」として負債計上する
・債務超過会社の会社分割における会計処理(承継会社)
→債務超過分の金額を「その他利益剰余金のマイナス」として処理する
・債務超過会社が会社分割する際の注意点
→濫用的会社分割を実行すると、債権者から責任追及されたり、詐害行為取消権を行使されたりする可能性がある
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