M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの流れも解説【図解】
2021年9月30日更新会社・事業を売る
M&AのTSA (Transition Service Agreement)とは?意味・契約の内容を紹介
M&Aの件数は年々増加中であり、企業にはM&Aに関する知識が求めらつつあります。TSAはM&A最終段階における重要な契約で、M&Aを検討するうえで知っておくべきものです。本記事では、TSAの契約内容や契約の意義などを紹介します。
目次
M&AのTSA (Transition Service Agreement)とは?
M&Aの一般的な流れとしては、大きく分けて「交渉前フェーズ」「交渉フェーズ」「交渉後(クロージング)フェーズ」の3つがあります。
交渉前フェーズは、企業がM&A仲介会社にM&Aに関する相談、ノンネームでM&A相手先の候補を探す時期です。交渉フェーズはネームクリア後のトップ面談やM&A取引価格の交渉、デューデリジェンスなどを行う時期です。
そして交渉後(クロージング)フェーズは、当該M&Aの条件決定、最終合意のもと各種引き継ぎを行う時期です。
その中でもTSAは、交渉後フェーズの際にとても重要な役割を果たします。TSAがどのようなものなのか、理解を深めましょう。
TSA(Transition Service Agreement)とは?
M&A対象事業・企業の移行期間中におけるサービス提供に関する契約がTSAです。TSAは、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など、M&A最終段階の各種契約と総称して売買契約書(DA)と呼ばれることもあります。
TSAの意味は
事業譲渡や会社分割といったM&Aスキームを採用する場合、M&Aのクロージング(対価支払いなど)までに、全ての業務内容の移行が完了できないケースは多々あります。
それらのリスクを事前に把握するために、買い手企業はデューデリジェンスなどを通じて、M&Aの障壁になるような事由や移行難易度の高い順に洗い出しを行い、M&Aのスムーズな実現を図るのです。
そしてそれらの事由をTSAの対象に盛り込むことで、M&A実施後の移行期間中のトラブルなどを未然に防ぐのを目指します。
近年では、PMI(=合併後の統合、事業統合)がM&Aの中で最も重要なプロセスといわれています。しかし、M&A実施後を見据えた契約であるTSAは、PMIをしっかりと行っていくうえで大変重要な要素です。
事業譲渡や会社分割といったカーブアウトを伴うM&Aスキームの場合は、TSAが活用される場合がほとんどでしょう。
さらに、M&Aの対象事業・企業の一部機能が、なんらかの形で親会社などの業務システムに依存している場合は、業務引き継ぎに難航する懸念が高く、より一層TSAに注力をする必要があると考えられているのです。
TSAはM&Aのどんな場面で行われる?
TSAは、M&Aの流れなかで交渉後(クロージング)段階で結ばれます。買い手企業によるデューデリジェンスでは、M&Aの対象事業・企業にどれくらいの価値があるのか、またM&Aを取り組むうえでのリスクはどのようなものがあるのかなどが総合的に調査されます。
TSAの対象となるのは、デューデリジェンスの結果で移行難易度が高いと思われる事由が中心で、M&A実施後のサービス管理方法を明らかにしたうえで、各種移行を円滑にする目的があります。
実際のM&Aでは、最終的な契約締結の段階で同時にTSA契約を締結するのが一般的です。この段階で締結できないと、M&A後の業務継続に支障をきたすおそれも考えられるため、最終フェーズで締結できるようデューデリジェンスと並行して行うがベストといえます。
TSAの締結には専門的な知識が必要となります、また、M&Aの交渉や各手続きをスムーズに進めるうえでも専門家のサポートは不可欠といえるでしょう。
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M&AでTSAに含まれる契約内容
前章では、M&AにおけるTSAとはどのような契約なのか、またM&Aのどんな場面で使われるのかを確認しました。この章では、TSAで盛り込まれる契約内容をみていきます。
ここであげる3つは、いずれもM&Aの対象事業・企業が、もともと大手企業グループ傘下に属していた場合の事例です。
人事・財務・総務など
人事・財務・総務などの間接業務を、中核企業に依存したシェアードサービスなどで運用している企業は多く存在します。これらの業務の引き継ぎは、対象資産等の単純な所有者移転、名義変更などとは同じスピードで行えない場合が多いです。
そのため、M&A後も買い手が、売り手側のシェアードサービスを利用できるかどうかなどをルールメイクする必要があり、その際にTSAが活用されます。
つまり、M&A実施後も一定の移行猶予期間を設定し、引き続き本社の機能・サービスなどを利用できるよう契約を締結する(どのようにサービスを管理するかを取り決める)ことで、さまざまな形で移行期間中への手当てを施すのです。
一般的には親会社などに依存をしやすい、人事や財務・総務といった間接業務がTSAの契約内容の代表例にあたります。
ロジスティクス
一般的に顧客のニーズにあわせながら在庫を調整し、物流の効率化とコスト削減を目指す「ロジスティクス」を導入する企業は多くあります。
売り手のロジスティクスに対しTSAを契約を結ぶと、買い手はクロージングやPMIが実施しやすくなるメリットがあります。
例えば、ロジスティクスで在庫管理や出荷タイミングを図っている企業を買収した場合、TSAを締結していないと、一時的に物流コストが高額になってしまうことも考えられます。
そのため、ロジスティクスも契約対象とし、M&A後も一定期間はTSAの対象として業務を行うのがおすすめです。
サプライチェーンマネジメント
グループ全体で仕入れを行ったり、仕入れ・調達・物流専用の会社を傘下に設置したりするなど、スケールメリットを生かしてコストを削減している企業は少なくありません。
M&Aの対象事業・企業が仕入れや物流をグループ企業に依存している場合は、M&A実施後にサプライチェーンをどのように管理するのか、適切に定めておく必要があります。
例えば、M&A実施後の一定期間は、引き続き売り手企業側の仕入れ・物流機能を買い手側が利用するなどが挙げられます。仕入れ・調達・物流といったサプライチェーンマネジメント領域に関しても、TSAの対象になりうる領域です。
研究開発、優良顧客情報
基礎研究部門や研究開発部門が本社や別会社に集約されている場合は、それらの事由もTSAに盛り込まれる可能性は高いです。
さらに、グループ全体で優良顧客の情報を一元管理しているケースも、買い手企業がどこまでその情報に触れる機会があるのかを定めるのが肝要であり、TSAの契約内容となる場合があります。
M&AでTSAに関連する契約
TSAはM&Aの交渉後フェーズの一プロセスで、また他の各種契約と総称して売買契約書(DA)と呼ばれるケースがあると前章で述べました。ここでは、TSAと同じカテゴライズをされる各種契約も確認しましょう。
最終契約
M&Aの一連の流れで大きな意味をもつ契約書は2種類です。交渉フェーズでは、大筋合意の意味で締結される「基本合意契約書」と、デューデリジェンスを踏まえて詳細条件を決定した後に結ばれる「最終譲渡契約書」があります。
最終譲渡契約書は、M&Aスキームによって契約名称は異なり、株式譲渡であれば株式譲渡契約、事業譲渡であれば事業譲渡契約と呼ばれる契約書を交わします。
最終契約では、M&A取引の対象企業・事業の特定、譲渡価格、デューデリジェンス結果への対応、クロージング後の各種取り決めなどが、主な構成要素となっています。
業務受委託契約
業務委託契約とは、一般的に、自社で対応できない業務などを、自社以外の企業や個人などの外部ソースに委託する契約です。業務受託契約はその逆で、他社で対応できない業務などを自社で受託する契約となります。
M&Aの交渉後段階における業務受委託契約は、TSAに盛り込まれている対象業務を受委託する契約です。
上述した例でいえば、M&A売り手側の親会社のシェアードサービスを、M&A実行後も引き続き買い手企業が利用するために、人事・総務といった業務に関して業務受委託契約を交わします。
つまり、M&AではTSAと業務受委託契約は不可分の関係にあるといえ、TSAにてどのようにサービスを管理するか取り決め、具体的に業務受委託契約にて取引契約を交わすといったイメージでしょう。
TSAを実施するまでのM&A手続きの流れ
M&Aを行う際は、売り手側と買い手側の間に仲介会社などが入って進むことが多く、仲介役となるのは、金融機関やコンサルティング会社、M&A仲介会社などです。
M&Aを検討している場合は、売り手も買い手もまず仲介会社などのサポート先をみつけることから始めることになるでしょう。
実際のM&A手続きの流れは、「準備段階」「交渉段階」「最終契約段階」の大きく3つのフェーズに分類され、TSAは「最終契約段階」で取り交わします。ここでは、TSAを実施するまでのM&A手続きの流れを説明します。
①準備段階に行うM&A手続き
準備段階では、本当にM&Aが必要なのか検討したうえで実施を決めたら、サポートを依頼するM&A仲介会社と相談しながら相手先を選定していきます。
子の際、売り手企業はM&A仲介会社と秘密保持契約およびアドバイザリー契約を結び、自社が特定されないよう匿名で要約書を作成するノンネーム登録を行います。その後、企業価値評価を実施して売却希望価格を設定し、企業概要書も作成します。
【準備段階に行う主なM&A手続き】
- 秘密保持契約
- アドバイザリー契約
- ノンネーム登録
- 企業価値評価の実施・企業概要書の作成
②交渉段階に行うM&A手続き
交渉する相手先が決まったら、トップ同士の会談や具体的な条件交渉など交渉段階へと進みます。
買い手企業は、売り手企業の秘密保持契約や企業概要書を確認した後、M&A仲介会社とアドバイザリー契約を締結することになります。
交渉段階で買い手企業と売り手企業のトップ会談をし、互いがM&Aの内容に大筋で合意したら基本合意締結書を結びます。
【交渉段階に行う主なM&A手続き】
- 秘密保持契約
- 企業概要書の確認
- アドバイザリー契約
- トップ会談
- 基本合意
③最終契約段階に行うM&A手続き
売り手・買い手で基本合意書を交わしたら、買い手によるデューディリジェンスが実施され、最終契約へ向け手続きを進めていきます。最終段階での主な手続きには、以下の6つがあります。
【最終契約段階に行うM&A手続き】
- 最終合意
- 最終契約の締結・クロージング
- ディスクロージャー
- クロージング監査や譲渡価格の修正
- 株式の譲渡と対価の支払い
- TSAの実施
まず、デューデリジェンスの内容をもとに、買収条件の最終確認をします。基本合意時点では、企業価値をベースに交渉したおおよその買収価格が決定されています。
しかし、もしデューディリジェンスによって簿外債務や法的リスクなどが発覚した場合は、買収価格を下げるだけでなく、条件の追加や変更、最悪は白紙というケースもあり得ます。
デューデリジェンスで問題なければ、最終合意をもとに最終契約を締結します。TSA契約は、実際に株式などを利用した売買実務を進めていく段階で進めていきます。
その際、株主などの利害関係者に経営実績、財務・業務状況を公開し、譲渡価格の変更がある場合は、最終調整を行います。最後に株式の譲渡・対価の支払いが行われ、TSAが終了した時点でM&Aが完了です。
M&AのTSAまとめ
M&A市場が活況を呈している一方で、国内では統合後の管理ができておらず、計画どおりの効果がでていないケースが多かっため、M&A実施後のPMI(事業統合)が最も注力すべきフェーズといわれるようになりました。
TSAはPMIの土台となる要素であり、TSAへの理解を深めることがM&Aの成功を導くものと考えられるでしょう。
日本国内の内需縮小やグローバル化の進展に伴い、企業規模や業種を問わずM&Aの件数は増加傾向にあります。
今後の事業計画を検討するうえで、M&A戦略の立案は多くの企業で必要になってくるものと考えられ、そのための事前準備や情報収集はしておいて然るべきものともいえるでしょう。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。