M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
2023年5月30日更新事業承継
事業承継対策のポイント|必要性・考え方・事前準備の方法・注意点も徹底解説【事例付】
事業承継を成功させるうえで、税金・資金対策は重要です。事業承継の成功を目指し、従業員などへの承継やM&Aを活用した第三者への承継を行うケースが増加する中で、親族内承継・親族外承継・M&Aによる事業承継の対策ポイントを紹介します。
目次
事業承継対策の必要性(中小企業)
日本では、中小企業を中心に経営者の高齢化が進行しているうえ、後継者の確保が難しい状況です。そういったなか、十分に事業承継対策を講じなかった企業が、相続問題や後継者の能力不足などにより業績悪化を招いてしまったケースが多く報告されています。
中小企業にとって事業承継問題は最重要課題に位置付けられていますが、事業承継対策が必要とされる理由は以下です。
- 後継者を確保して会社・事業を存続させるため
- 相続問題の発生を防ぐため
- 税負担の問題を解決するため
会社の存続
事業承継は経営者が培ってきた要素を後継者に引き継ぐ必要があり、短期間で済ませられる行為ではありません。経営者に専門的な能力が求められる企業では、ノウハウの承継だけでも数年単位の準備期間が必要です。確実に後継者に引き継ぐためにも、事前準備として事業承継対策が重要な役割を担います。
相続トラブルの解消
相続問題の発生は当事者である親族同士のトラブルにとどまらず、取引先や社員などにも悪影響を与えます。相続問題の解決がスムーズに進まない場合、会社の経営を任せることに不安を感じた取引先・社員が会社から離れてしまうおそれもあるでしょう。
相続問題を理由に銀行からの信用を失えば、将来的に融資が受けられなくなるリスクもあります。たとえ相続問題が解決しても事業の存続が困難となりかねないため、事前に対策を練っておくことが必要です。
税金問題の解決
加えて、最近は相続税・贈与税の優遇措置が受けられる「事業承継税制」の活用により、多くの中小企業が税金の悩みを解消して事業承継を進行できる状態です。事業承継税制の活用には特例承継計画の策定をはじめ多くの手続きが求められるため、ゆとりを持って準備を行わなければなりません。
以上が、事業承継対策が必要となる理由です。上記を読んで危機感を覚えた経営者の方は、事業承継対策を入念に講じましょう。
事業承継対策が必要な会社3パターン
ここでは、事業承継対策が必要な会社として以下の3パターンを具体的に紹介します。
- 後継者が決まっていない会社
- 経営者の影響力が大きい会社
- 相続人が複数存在する会社
自社がどういった状況に該当するのか確認し、事業承継対策の必要性を理解しましょう。
①後継者が決まっていない会社
現段階で後継者が決まっていない会社は、できるだけ早めに事業承継対策の取り組みを開始してください。帝国データバンクの「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2021年)」によると、2021年における休廃業・解散件数は5万4,709件です。
前年比2.5%減少したものの、今後も多くの企業が廃業を迫られる見とおしです。廃業件数の中には、経営自体は順調でも後継者不在であるために廃業に追い込まれた企業も多く存在しています。
事業承継に失敗し廃業を選んだ会社は、事業用資産・ノウハウの消失だけでなく、取引先や社員に迷惑をかけるなどのデメリットも懸念されます。自社の関係者に悪影響を与えないためにも、早期のタイミングで事業承継対策を進めて、後継者候補を定めると良いでしょう。
②経営者の影響力が大きい会社
経営者の影響力が大きい会社も、事業承継対策の必要性が高いです。こうしたワンマン経営の会社では、経営者個人によって取引先との関係が構築されているケースが多く、経営者の突然の死亡や引退が生じた場合に取引先との関係性が消失してしまうおそれがあります。
一方、大きな影響力を持つ経営者に対して、周囲は事業承継対策を提案しにくい状況も考えられます。事業承継対策の提案は、経営者に引退を勧めることに直結するためです。以上のことから、廃業リスクを低減させるためにも、経営者自身が率先して事業承継対策を検討する必要があります。
③相続人が複数存在する会社
相続人が複数存在する会社でも、早期のタイミングで事業承継対策を講じる必要があります。相続問題の発生リスクが高いためです。
相続人同士でトラブルが発生すると、経営に関するスピーディーな対応が困難となり、本来であれば意思決定・行動が早い「中小企業特有の強み」も消失します。
相続人が複数存在する会社は、すべての相続人が納得できる形で事業承継対策を進める必要があります。議論を重ねる際は長い時間を要するケースが多いことから、長期的でゆとりのある事業承継対策の策定が理想的です。
事業承継対策の基本的な考え方・ポイント
事業承継対策の必要性を理解したところで、本章では対策を講じる際に必要な基礎知識やポイントを順番に紹介します。
事業承継対策の基礎知識
近年は中小企業経営者の高齢化に伴い、事業承継問題に直面する企業が増加しています。多くの企業が事業承継に関心を寄せていると同時に、後継者不足に悩む中小企業も増えている状況です。
以前は子供をはじめとする親族に事業承継を実施するケースがほとんどでしたが、昨今は親族ではない従業員への承継もしくはM&Aを用いて事業承継を実施するケースが増加し、事業承継およびその対策におけるあり方が多様化しています。
そもそも事業承継とは、人・物・金・知的資産などの要素を後継者に引き継ぐ行為です。ここでいう「人」は後継者、「物・金」は自社株式・事業用資産・運転資金など、「知的資産」は経営理念・信用・ノウハウ・人脈・許可・認可などが該当します。これらの財産を円滑に引き継ぐために、事業承継対策が必要です。
事業承継方法の種類とメリット・デメリット
事業承継の方法は、大まかに以下の3つに分かれます。ここからは、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
- 親族内承継
- 従業員承継
- M&Aによる第三者への事業承継
親族内承継
経営者自身の息子や娘、配偶者や娘婿など、血縁者・親族が後継者となるケースの事業承継です。段階的に贈与を行えば、後継者は一度に多額の資金を用意しなくても事業を承継できる点がメリットですが、贈与税は相続税より高くなりやすいため最終的に支払う税負担が大きくなるおそれもあります。
従業員承継
自社の従業員や役員などに会社を引き継ぐ方法で、以下の2種類があります。
従業員承継は、会社の事情に精通する人物を後継者にできる点、後継者教育に時間的余裕ができる点、従業員や取引先などから理解を得やすい点などがメリットです。
後継者は株式を取得しなければならないため資金が不足していると難しい点や経営者の親族に反対されるおそれがある点などはデメリットといえます。
M&Aによる第三者への事業承継
さまざまなM&Aの手法がありますが、事業承継では「株式譲渡」と呼ばれる手法を用いるのが一般的です。M&Aによる事業承継は面識のない第三者へ自社を引き継ぐため、抵抗感がある経営者もいるでしょう。
しかし、身近に後継者候補がいなくても会社や事業の継続ができ、従業員の雇用や経営引退後の生活資金が確保できるなど、M&Aによる事業承継にはさまざまなメリットがあります。
ただし、リタイア後の喪失感が大きくなる点や、買収後の経営理念や企業文化の維持が難しいケースがある点はデメリットといえるでしょう。買収企業にとって魅力のある会社でなければ、相手探しが難しいことなども、予め理解しておくことが必要です。
事業承継対策の成功ポイント
事業承継対策を講じる際は、会社の経営面だけでなく、税金面・財産分割・納税面などを総合的に考慮しながら計画を策定・進行させましょう。
上場会社では株式の取引時価により株式評価が行われますが、非上場会社には取引時価がないため、一般的には財産評価基本通達の定めにより株式評価を実施します。土地などにおける資産の含み益や内部留保が多い会社の場合は、株価が額面の数十倍になるケースも珍しくありません。
非上場会社の株式は換金性が低いため、オーナー社長に相続が発生すると、たちまち納税資金が不足し、最悪のケースでは株式を手放さなければならない事態に陥ります。
非上場会社は同族会社であるケースが多く、株式の買い手探しが非常に困難であるうえ、経営者個人の信用力で成り立っている場合は後継者によほどの対外的信用がない限り、会社の円滑な運営が妨げられます。以上のことから、事業承継対策は、以下のポイントを踏まえて行いましょう。
- 後継者対策を綿密に行う(引き継ぎたいと思える会社作りを目指す)
- 株価対策により譲渡・相続時の税金を抑える
- 株数対策により事業承継を円滑に行う
- 納税資金対策を怠らない
- 遺産分割対策により後継者と後継者以外の相続人におけるバランスを調整する
なお、事業承継対策は後手に回るケースが多く、事業の収益悪化や事業継続が困難となりかねません。事業承継では、早い時期から対策を計画的に実施することが大切です。
事業承継の対策は多岐にわたるため、何から対策すれば良いのかわからない経営者も多いでしょう。そこで、次章からはさまざまな事業承継対策を紹介します。
事業承継対策【開始前準備】
事業承継にはさまざまな対策がありますが、まずは事業承継の開始前に行うべき以下の対策を解説します。
- 自社を取り巻く環境の把握
- 後継者を選出する
- 事業承継計画の作成
①自社を取り巻く環境の把握
事業承継の対策を始める際、まずは自社を取り巻く状況を項目別に把握しましょう。あらかじめ自社に関する状況を把握しておけば、事業承継を円滑に実施できます。把握すべき項目は以下のとおりです。
- 後継者候補の有無
- 会社の経営資源と競争力
- 経営者自身の状況
- 相続時に予想される問題点
それぞれの項目を順番に紹介します。
後継者候補の有無
当然ながら、後継者の有無を把握しておくことは必要不可欠です。誰に事業承継するかによって、講じるべき対策は大きく異なります。親族内に後継者がいる場合は、後継者の能力適性・事業承継に対する意欲も見極めると良いでしょう。
親族内にいない場合は、従業員への承継かM&Aによる第三者のいずれかを選ぶ必要があります。後継者候補の状況次第で、今後講じるべき対策が異なるため要注意です。これは、事業承継対策を計画する際の基礎となる部分なので、優先的に確認しましょう。
会社の経営資源と競争力
次に、従業員数・資産および負債の額・キャッシュフローなど各経営資源の現状を把握しましょう。これにより、事業承継対策の内容を決めやすくなり、事業承継後における方向性の決定にも役立ちます。なお、今後の方向性に関しては、後継者との共有を怠らないでください。
経営者自身の状況
上記と合わせて、個人名義の土地・建物・負債・個人保証などの把握も重要です。今後の事業承継対策を考えるうえで、これらの要素をどの程度抱えているのか十分に把握しましょう。
上記の要素を把握していないと、事業承継時に親族間でトラブルが生じるおそれがあるほか、事業承継後に経営をスムーズに進行できなくなる可能性もあります。これらのトラブルを回避するうえで、経営者自身の状況を把握するプロセスは非常に重要です。
相続時に予想される問題点
法定相続人・株式の分散状況・具体的な相続財産なども把握しなければなりません。相続時に発生する可能性のある問題点を特定し、対策を立てる必要があります。
②後継者を選出する
次に、実際に事業承継を行う後継者を選出します。後継者の選出は、「親族から選ぶ場合」「従業員・役員から選ぶ場合」「第三者(M&Aの買い手)から選ぶ場合」に分かれますが、いずれの場合も経営者と後継者の意思確認および周囲の理解が必要不可欠です。
親族から選ぶ場合、周囲に受け入れてもらいやすいメリットがあります。後継者教育に着手しやすい点もメリットです。ただし、前経営者と後継者が親族であるために親族間の関係性が壊れるおそれもあります。後継者である親族に引き継ぎたいと思ってもらえる会社を目指すことも、経営者の使命です。
従業員・役員から選ぶ場合、自社で長年働いている人材であれば事業内容や経営方針などを十分に理解しており、事業承継を円滑に進行できる可能性が高いです。ただし、経営者が債務を抱えている場合、事業承継を拒まれるおそれがある点はデメリットといえます。
第三者(M&Aの買い手)から選ぶ場合、会社の売却により経営者が利潤を得られ、従業員の雇用を維持できる点がメリットです。ただし、M&Aによる事業承継は、他の方法以上に魅力的な会社であることが要求されます。多くの買い手候補に興味を示してもらうためにも、自社の磨き上げが必要です。
③事業承継計画の作成
自社の現状把握および後継者の選出が済んだら、事業承継計画を作成しましょう。事業承継計画とは、長期的な経営計画に事業承継の時期や具体的な対策方法などを追加したもので、作成すれば事業承継対策を長期的な視野で実行できます。
事業承継計画は、経営と事業承継の双方を包括的に考えたうえで作成するため、自社の経営戦略を策定する際にも役立ちます。事業承継ではさまざまな税金がかかるため、計画内に税金対策も盛り込むと良いでしょう。漠然と実行すれば事業承継後の経営が困難となるおそれがあるため、税金対策は重要です。
事業承継方法別の対策【後継者候補選定後】
事業承継の方法は、親族内承継・親族外承継・M&Aを用いた事業承継の3種類に分類され、それぞれの方法により実行すべき対策が異なります。ここでは、事業承継方法別の対策について順番に把握しましょう。
親族内承継の対策
この方法を用いて事業承継する際は、主に以下3つの対策を実施する必要があります。
- 関係者の理解
- 後継者教育
- 株や財産の分配
それぞれの対策を順番に見ていきましょう。
関係者の理解
事業承継後、後継者が円滑に経営を続行していくためには、従業員や取引先など関係者からの理解が必要不可欠です。経営者の変更後も円滑な関係を維持するためには、関係者に対して事業承継計画を十分に伝える必要があります。
ここでは、「どういった対策を実施するのか」「事業承継後はどのように経営するのか」などを伝えて、関係者からの理解を得ましょう。後継者自身に関しても認めてもらう必要があります。
第三者が経営者となるケースに比べると、経営者の子供は後継者として認められやすいですが、何も伝えずに突然経営者が変わると、従業員の中で不信感が生まれるおそれがあるため、あらかじめ後継者となる親族を紹介することも、事業承継では大切な対策の一つです。
後継者教育
親族内承継には後継者教育に多くの時間を割けるメリットがありますが、これと同時に親族内承継において後継者教育は重要な事業承継対策として挙げられます。後継者教育では、経営に必要なスキル・知識を習得させるために、営業・財務など自社における各部門の業務を横断的に経験させると良いです。
意思決定力・リーダーシップを習得させるために、役員など責任のある地位に就かせることも有効な対策です。現経営者が直接指導を行い、ノウハウ・経営理念・自社の強みなど目に見えない要素も十分に伝えましょう。
事業承継セミナーへの参加・他社での業務経験も効果的な対策です。これらを経験させることで、人脈形成・幅広い視野の習得などが得られます。親族への事業承継では、時間をかけた良質な後継者教育が重要です。
株や財産の分配
親族内承継では、株式の財産分配に関する対策も大切になります。所有する株式数が多いほど株主総会での決定権は強まるため、基本的に株式・財産分配時は後継者や友好的な株主に株式を集中させると良いです。裏を返せば、株式が分散していると経営権が安定しないため注意しましょう。
3分の2以上の議決権を後継者が持っていれば、株主総会であらゆる意思決定を独力で行えます。株式集中に関する対策としては遺言の活用が効果的ですが、現時点で株式が分散している場合は、可能な限り株式買い取りなどの対策を講じると良いでしょう。
親族外承継の対策
親族以外への事業承継時も実施すべき対策はいろいろありますが、関係者の理解や後継者教育に関する対策は基本的に親族内承継と同様です。そのため、ここでは、親族内承継と異なる以下の対策を紹介します。
- 後継者の資金確保
- 個人保証や担保の処理
後継者の資金確保
親族外承継では、後継者となる従業員や役員に、株式を取得するための資金力がない可能性が高いです。そのため、資金確保に関する対策を講じなければなりません。具体的には、本記事で後述する「補助金の活用」や「資金調達」などの対策が有効です。
個人保証や担保の処理
経営者が交代しても、現経営者の個人保証・担保が解除されるとは限らず、この点が親族外承継を実施するうえで大きな障害となります。事業承継では後継者が連帯保証人になるケースが大半ですが、経営者の親族ではない従業員や役員からすると債務保証の責任を負うのは大きな負担です。
これを理由に事業承継を引き受けてもらえない可能性もあるため、あらかじめ対策を講じたうえで事業承継を実行しなければなりません。事業承継前に、できるだけ債務を減らす対策が有効です。負担に見合った報酬を後継者に与える施策も効果的といえます。
M&Aを用いた事業承継対策
M&A(合併と買収)を用いた事業承継は、親族や自社内に後継者としてふさわしい人材がいない場合に実行するケースが多いです。近年は後継者不在の中小企業が増加していることから、M&Aによる事業承継を行うケースが目立っています。具体的な対策として、以下の2つを見ていきましょう。
- 企業価値の向上
- 無駄な資産の処分
企業価値の向上
M&Aによる事業承継において最も重要な対策は、企業価値の向上です。買い手側は事業拡大・シナジー効果を期待してM&Aを実行するため、当然ながら価値のある企業や事業の買収を狙います。
売り手としてM&Aによる事業承継を成功させるには、自社における強みの強化・経営体制の総点検・経営強化への理解獲得などを実行し、企業価値を磨くプロセスが必要不可欠です。
M&A時の取引価格は将来性や収益性を考慮して決定されるため、高い価格で売却するには自社独自の技術力・ノウハウ・ブランド力などの強みを強化する対策が有効です。取引価格をはじめとする希望の条件で事業承継できる可能性が高まります。
無駄な資産の処分
M&Aによる事業承継では、不要な資産や在庫の処分も大切な対策です。買い手企業からすると、無駄な資産やトラブルのもとがない企業を買収したいと考えます。そのため、これらの不安要素がない企業の方が、買い手から選ばれやすくなり、事業承継の成功可能性が高くなるのです。
以上、M&Aを用いた事業承継で実施すべき対策を紹介しました。とはいえ、これまで取り上げたのはあくまでも基本的な対策です。M&Aにはさまざまな種類があり、それぞれ特徴・実施すべき対策は大きく異なるため、綿密な事業承継対策を立てるには、各M&A手法に関して詳細に把握する必要があります。
M&Aによる事業承継をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所では、豊富な経験と知識を持つM&Aアドバイザーが、案件を丁寧にフルサポートいたします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)無料相談を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
事業承継の税金・資金対策
事業承継を実施する際、税金や費用が障害となるケースは珍しくありません。例えば、親族内承継では莫大な相続税がかかり、M&Aによる事業承継では仲介手数料や所得税などで莫大な費用が発生します。事業承継で莫大な費用や税金がかかると、結果的にその後における経営続行が困難となるケースが多いです。
事業承継を実施するうえで、税金・資金対策は最重要課題です。ここでは、事業承継の際に活用できる税金・資金対策について見ていきましょう。
事業承継税制の活用
事業承継税制の活用は、相続税・贈与税対策の一つです。事業承継税制とは、後継者が株式を取得した際に、相続税や贈与税の納税が猶予される制度のことです。現在は一定の条件を満たすと、相続税もしくは贈与税が100%猶予されます。
平成30年度の税制改正により特例措置が創設されて、納税猶予の範囲が従来の80%から100%に拡大されました。多くの手続きが求められるものの、中小企業にとって非常に有利な制度です。
特例措置により、納税猶予の諸条件に関しても緩和されています。親族ではない後継者に対しても適用でき、理由を報告すれば雇用の8割を維持できなくても猶予が継続されるようになりました。M&Aによる事業承継に対しても税負担の軽減が受けられます。
事業承継税制は非常に役立つ事業承継対策であり、制度の活用は有効な税金対策手段なので、積極的に活用しましょう。
財産を減らす
財産を減らす施策も、相続税対策として役立ちます。事業承継は、相続する財産額が多いほど相続税額も大きくなる仕組みです。この仕組みを利用した行為が、財産を減らす施策です。相続する財産を減らせば、課税される相続税も減少します。
事業承継における主な対策に、不動産の購入が挙げられます。不動産の購入により、相続財産の減額が可能です。墓石・仏壇などの相続税がかからない財産を購入することも有効な対策といえます。
生前贈与の活用
生前贈与の活用も、事業承継で採用される対策の一つです。生前贈与とは、財産を贈与の形で後継者に譲渡する行為をさします。事前に贈与すると相続税を節税できますが、贈与税が発生する点にデメリットがあるため注意しましょう。
一方で、贈与税を発生させない対策方法もあります。それは、株価が低いタイミングで110万円以下の株式贈与を繰り返す方法です。110万円以下の贈与では贈与税が課税されないため、非課税となる贈与を繰り返せば、贈与税を支払わずに事業承継を実施できます。
事業承継・引継ぎ補助金の活用
事業承継時に多額の費用がかかると、結果として事業承継後の経営が不安定になりかねません。事業承継では、税金対策と同様に資金対策も重要です。有用な資金対策として、事業承継補助金(正式名称:事業承継・引継ぎ補助金)の活用が挙げられます。
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継の実行時にかかる費用を軽減させる制度で、以前は第二創業促進補助金と呼ばれていました。ケースにより100万円から500万円の幅で補助金を支給してもらえるため、事業承継後の資金を賄う有効な手立てといえます。
ただし、厳格な審査を通過する必要がある点に注意しましょう。本制度の対象となるのは、「経営革新や事業転換を目的に事業承継を実施する(した)中小企業」です。拠点とする地域に貢献している必要もあります。補助金制度を活用する際は、厳しい審査を通過するための長期的な対策が求められるのです。
事業承継対策の事例
この章では、事業承継対策の事例として、成功事例と失敗事例を見ていきましょう。
成功事例
事業承継対策を講じて、結果的に承継に成功した事例を紹介します。関東地方で宿泊業を営むA社は、従業員10名ほどの小規模企業です。宿の建物は長い歴史を持ち、国の登録有形文化財に指定されています。
創業時より安定的な経営を継続していましたが、長時間労働による負担の大きさを理由に、経営者は事業承継を検討しました。経営者は以前より自身の子供から事業承継の承諾を得ていたことから、長い時間をかけて策定した事業承継計画のもとで事業承継を進めています。
後継者教育でも長い期間をかけて入念にノウハウを伝えたため、承継後には事業の拡大・利用客数の増加に成功しました。時間的にゆとりがあったので、経営者は自身の事業承継で課題となり得る要素も早期に発見しています。
経営者は、会社を立ち上げる際に親族・知人などから株式を買ってもらい出資を受けていたため、株式が分散していました。そのため、この状態では子供に経営権を取得させるだけの株式を移転できないと考え、経営者は親族・知人などから株式を買い集めたのです。
このときに海外在住の株主を訪ねる必要もありましたが、承継までに相当の時間があったため大きな負担にはなりませんでした。また、経営者の妻は事業に参加しておらず事業資産の承継を回避する必要がありましたが、専門家の協力を得ながら相続問題の発生も防止しています。
後継者教育を行いつつ課題にも適切に対処できたのは、経営者が綿密な計画のもとで事業承継を進めたためです。
失敗事例
次に、事業承継対策を十分に行わなかった結果、承継に失敗した事例を紹介します。九州地方で製造業を営むB社は、30名ほどの従業員を抱える中小企業です。創業者であるC(80歳)は会長職を務めており、B社の株式を過半数以上持ったうえで経営の最終決定をくだす役割を担っていました。
Cの子供であるD(60歳)は社長職に就いていますが、社長に就任してから15年ほど経過したものの、20%の株式しか保有していない状態です。Cによる経営権の承継を希望していますが、提案しにくい状況にありました。
ある日、決意を固めたDは、Cに対して株式の移譲を求めました。しかし、Cからは、Dとの経営方針における対立などを理由に会社を売却する意向を示されてしまいます。結果的に、B社はM&Aにより、第三者に会社売却されました。
これは、経営者が子供を社長に据えたにもかかわらず、速やかに経営権を委譲しなかったために生じたトラブルです。本来であれば、経営権の委譲は経営者が行うべきといえます。後継者から経営権の委譲を提案するのは困難であり、提案によりかえってトラブルが深刻化するケースも珍しくありません。
事業承継対策を早期に講じるべき理由
事業承継を円滑に進行するためには、いろいろな事前準備が必要です。基本的に事業承継は長期計画を要するので、事業承継対策を早期に講じる必要があります。
現時点では元気でも、経営者が突然体調を崩したり事故に遭ったりすることもあるでしょう。どういった状況になっても困らないために、余裕があるときに事業承継対策に取り組むことが大切です。
後継者がみつからなかったり育成がうまくいかなかったりする場合は、第三者への事業承継を検討しましょう。他社への事業承継・M&Aに関しては、専門家に相談することをおすすめします。
事業承継対策で受けられる公的な支援
中小企業が事業承継対策を講じる際は、中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)などの公的機関から支援の提供が受けられます。
中小機構とは、事業承継フォーラムの開催・事業者向けの情報提供・講習会(セミナー)・中小企業大学校東京校による経営後継者研修・専門家による相談対応など、中小企業のスムーズな事業承継に向けてさまざまな支援を手掛けている公的機関のことです。
例えば、事業承継フォーラムは、過去に事業承継を行った経営者や後継者に自身の経験・取り組む際のポイントなどを紹介してもらう場(参加無料)で、過去の開催レポート動画もホームページで無料公開されています。
中小機構は、全国47カ所に設置された事業承継・引継ぎ支援センターをつうじて、M&Aによる第三者への事業承継に対するサポートも提供しているため、必要に応じて支援を求めましょう。
事業承継対策のまとめ
事業承継は、誰に引き継ぐかによって講じるべき対策が大きく異なります。税金や資金に対する対策も、事業承継を成功させるうえで非常に重要です。近年は、中小企業の事業承継を支援する動きが加速しています。さまざまな制度を活用しつつ、早期の段階から事業承継を計画的に実行すると良いでしょう。
M&A・事業承継のご相談なら24時間対応のM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談は成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬!
- 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
- 上場の信頼感と豊富な実績
- 譲受企業専門部署による強いマッチング力
M&A総合研究所は、M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
あなたにおすすめの記事

M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
近年はM&Aが経営戦略として注目されており、実施件数も年々増加しています。M&Aの特徴はそれぞれ異なるため、自社の目的にあった手法を選択することが重要です。この記事では、M&am...
買収とは?用語の意味やメリット・デメリット、M&A手法、買収防衛策も解説
買収には、友好的買収と敵対的買収とがあります。また、買収に用いられるM&Aスキーム(手法)は実にさまざまです。本記事では、買収の意味や行われる目的、メリット・デメリット、買収のプロセスや...
現在価値とは?計算方法や割引率、キャッシュフローとの関係をわかりやすく解説
M&Aや投資の意思決定するうえでは、今後得られる利益の現時点での価値を表す指標「現在価値」についての理解が必要です。今の記事では、現在価値とはどのようなものか、計算方法や割引率、キャッシ...
株価算定方法とは?非上場企業の活用場面、必要費用、手続きの流れを解説
株価算定方法は多くの種類があり、それぞれ活用する場面や特徴が異なります。この記事では、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチといった株価算定方法の種類、株価算定のプロセス、株...
赤字になったら会社はつぶれる?赤字経営のメリット・デメリット、赤字決算について解説
法人税を節税するために、赤字経営をわざと行う会社も存在します。しかし、会社は赤字だからといって、必ず倒産する訳ではありません。逆に黒字でも倒産するリスクがあります。赤字経営のメリット・デメリット...
関連する記事
資金ショートの意味をチェック!原因やショートしないための対策なども紹介!
経営を悪化させるだけでなく信用を大きく落としてしまう「資金ショート」。本記事ではそんな資金ショートの意味をご紹介します。また、資金ショートが引き起こされてしまう原因やその対策をいくつかご紹介しま...
跡継ぎとは?「後継ぎ」との違いや選び方・必要な資質まで徹底解説!
M&A業界でよく使われる「跡継ぎ」。「後継ぎ」と意味が混同されがちですが明確に違いがあります。本記事では「跡継ぎ」と「後継ぎ」の意味の違いや後継者の選び方・必要な資質などを徹底的に解説し...
範囲の経済とは?メリットや注意点・得られる効果まで詳しく解説!
企業が取り扱っている事業等の拡大に伴って、製品やサービスの単位あたりのコストが下がる現象は「範囲の経済」と呼ばれています。範囲の経済は企業にとってどのような影響をもたらすのでしょうか。範囲の経済...
オリジネーションの意味や手順を徹底解説!業務内容やポイントとは?
M&A仲介会社が行うオリジネーションとは、M&Aの案件の発掘や提案、調査を行うプロセスのことで、M&Aをする上で欠かせない業務の1つです。 今回は、オリジネーションの意...
M&Aによる会社を身売りするメリットは?社員への影響や注意点をチェック!
これまで会社の身売りに対してマイナスイメージを抱いていた経営者は多かったですが、最近はM&Aによるメリットが注目されています。 本記事では、M&Aによる会社を身売りするメリット...
財務DD(デューデリジェンス)とは?M&Aにおいて重要な実務の流れを解説!
財務DD(デューデリジェンス)はM&Aを行う上で欠かせないプロセスの1つです。財務DD(デューデリジェンス)を怠ってしまうとM&A成立後に重大な欠陥が見つかることがあり、大きな損...
M&A仲介での利益相反とは?問題点やメリットをわかりやすく解説!
売り手側企業と買い手側企業の間を取り持ち、交渉をスムーズに行うサポートをしてくれますが、企業双方の利害のバランスを偏らせてしまうこともあります。M&A仲介における利益相反とはどういったも...
合資会社のM&Aの進め方とは?株式会社との違いや注意点について解説!
合資会社でM&Aを実施する際、いくつかの課題を解決しなくてはいけません。課題を知らずにそのままM&Aに進めてしまうと、多額な損失を負う場合があります。そこで本記事では、合資会社に...
カーブアウトとは?M&Aでの意味やスピンアウト・スピンオフとの違いを紹介!
カーブアウトによって、企業の成長を加速させる効果が期待できますが、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。カーブアウトのM&Aにおける意味やスピンアウト・スピンオフとの違いに触...