M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2025年11月16日更新会社・事業を売る
M&Aの事業譲渡とは?株主総会の特別決議や手続き、メリット・デメリットを解説
M&Aの手法である事業譲渡は、必要な事業だけを売買できる点が魅力です。しかし、実行には株主総会の特別決議など複雑な手続きが伴います。本記事では、事業譲渡のメリット・デメリットから必要な手続き、株主総会の注意点までをわかりやすく解説します。
目次
M&Aにおける事業譲渡とは
「事業譲渡」はM&Aの手法の1つで、会社の事業を売買する点が特徴です。M&Aと聞くと、会社の経営権である株式を売買する「株式譲渡」や、会社同士の連携や相手の会社を吸収する「合併」など、会社全体を売買するイメージが強いものです。
しかし、事業譲渡は会社内にある事業を売買するものであるため、会社の独立性を保ったまま実行することができます。事業譲渡は主に、不採算事業の切り離し、組織再編の一環でノンコア事業(非中核事業)の処分をする際に使われます。
また、事業譲渡は、その事業の簿外債務(貸借対照表上に記載されていない債務)や不要な資産などを除外したうえで売買することができるため、買い手側は新事業の開拓や業態の強化といった戦略をローコストで実践することができます。
中小企業における事業譲渡
事業譲渡の実行には、原則として株主総会の特別決議が必要です。株主が多い大企業では、株主の招集や合意形成に多大な時間とコストがかかります。一方、中小企業は株主が経営者一族などに限定されていることが多く、意思決定を迅速に行えるため、事業譲渡がM&Aの選択肢として活用しやすいのです。
ただし、事業譲渡は個別の資産や契約を移転する手続きが煩雑なため、専門家の支援を得ながら進めるのが一般的です。
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事業譲渡のメリット【売り手・買い手別】
ここでは事業譲渡のそれぞれのメリットについて、詳しくお伝えしていきます。
- 売買の当事者同士が事業の内実を調整できる
- 資金を得られ節税になる
①売買の当事者同士が事業の内実を調整できる
事業譲渡の最大のメリットは、売買の当事者同士が事業の内実を調整できる点にあるでしょう。
通常の株式譲渡や合併では、会社全体の経営権を売買してその会社全体を引き継ぎます。しかし、それでは会社が抱える事業や従業員と一緒に、不要な資産、契約や負債などまでもすべて引き継ぐことになってしまいます。そのため、無用なトラブルを引き起こすリスクがあるのです。
特に、貸借対照表に記載されない偶発債務(将来発生しうる債務)や簿外債務は、デューデリジェンスでも発見が難しい場合があります。株式譲渡や合併では会社を丸ごと引き継ぐため、こうした隠れたリスクも承継してしまいます。事業譲渡であれば、譲受する資産・負債を契約で明確に特定できるため、不要な債務を引き継ぐリスクを回避できます。
譲渡する会社の経営者の中には、会社の独立性を失うことや経営者としての地位を失うことに抵抗感を持っている場合もあるでしょう。しかし、事業譲渡であれば、交渉の段階でトラブルや不利益になりうる不要な要素を排除することができるため、買い手にとって理想的な形で事業を買収することができます。
売り手側も、手元に残しておきたい契約や従業員をあらかじめ決めておくことで、会社が失いたくない要素を守りながら事業を譲渡することができます。
②資金を得られ節税になる
事業譲渡は、売り手と買い手の双方にメリットをもたらします。
売り手側は、事業を売却して得た現金を、残った事業の成長投資や新規事業の立ち上げ、借入金の返済などのために会社経営に直接活用できます。株式譲渡では対価が株主個人に渡りますが、事業譲渡では会社に資金が入るため、経営基盤の強化につなげやすい点が大きなメリットです。
一方、買い手側には大きな節税メリットがあります。事業譲渡で取得した資産と負債の時価純資産額を、買収価額が上回った場合、その差額は「のれん(営業権)」として資産計上されます。税務上、こののれんは5年間で均等償却が可能で、償却費を損金に算入できるため、法人税の負担を軽減できます。
事業譲渡のデメリットと注意点
事業譲渡は売り手側と買い手側のどちらの立場であっても理想的な取引を実現できる手法ですが、デメリットもあります。事業譲渡のデメリットは、買い手側に傾倒したものが多いため、しっかりと把握しておきましょう。
- 承継できないものの扱いに手間がかかる
- 事業譲渡した会社は同一の事業ができない
①承継できないものの扱いに手間がかかる
事業譲渡は、売買する事業の従業員、契約、負債などについて、売り手と買い手で自由に採択できる点がメリットです。しかし、これは裏を返せばデメリットにもつながります。本来、事業譲渡は会社の経営権を動かすものではなく、その事業の持ち主を別の会社に変えるという形式で行われます。
それはつまり、事業を譲渡する会社から譲受する会社に名義変更されるということであり、各種契約もそれに沿って書き直す必要があるということなのです。
従業員の雇用契約
事業譲渡を行った場合、まずは従業員の雇用契約をすべて書き換える必要があります。
もし売り手側の事業に所属している従業員の数が多い場合は、従業員全員の雇用契約を書き換える手間と時間が膨大なものになります。加えて、雇用契約の書き換えは本人の同意が必要なものです。万が一、本人が事業譲渡に同意しなければ、雇用契約が白紙になり、すぐに離職することが可能になります。
従って、M&Aでは事業譲渡に限らず人材流出が発生し得るものですが、事業譲渡では特にそのリスクが高いと言えるでしょう。最悪の場合は、事業の価値を左右する人材が事業譲渡に反発して離職してしまい、結果的に事業の本来の価値が下がってしまう可能性もあります。
取引先との契約
契約に関する問題は他にもあり、もちろん取引先との契約関係も書き換えなければなりません。
事業譲渡は事業主体そのものが変わるため、取引先からすれば取引する会社が全くの別会社になってしまうという認識になります。売り手側と買い手側が事前に協議し、取引先から合意を取っておく必要があるでしょう。
登録関係と許認可
不動産の移転登記や特許権の移転登録などといった登録関係も、改めて行う必要があります。
さらに厄介なのは、その事業の「許認可」です。「許認可」とは、事業を行うために行政機関から得た許可のことをさします。原則として許認可は承継することができません。そのため、事業譲渡を行った場合は、改めて許認可を取り直す必要があります。
株式譲渡や合併であれば経営権を持つ人間が変わるだけで事業主体は変わらないため、こういった手間がかかることはありません。しかし、事業譲渡は事業主体が変わってしまうため、許認可を改めて取り直すという手間が発生します。
このように、事業譲渡は買い手と売り手が恣意的に売買する事業の内容を決められる反面、承継できないものに関しては逐一行わなければならないという一面があります。そのため、事業単体でも大規模になりやすい大企業で事業譲渡する場合は、手間が増えるため、あまり使われない傾向にあります。
もしこのようなデメリットを回避したい場合は、いかに相性のいい売り手を見つけられるかが重要です。そもそも相性のいい売り手なら、トラブルが起こるリスクも低いです。条件の合う売り手を選びたければ、M&A総合研究所のM&Aプラットフォームをご利用ください。
M&A総合研究所には日本全国から多種多様な業界・業種のM&A案件が集まっており、理想的な売り手を見つけられる可能性があります。豊富なM&A案件の中からAIがマッチングするという独自のシステムを持っています。
そのため、買収ニーズを登録するだけで自動的に条件の合う案件が紹介され、効率的にM&Aの候補探しをご提案できるようになっています。
②事業譲渡した会社は同一の事業ができない
会社法第21条により、事業を譲渡した会社(売り手)は、原則として同一市町村および隣接市町村の区域内において、譲渡日から20年間、譲渡した事業と同一の事業を行えません(競業避止義務)。この期間は、当事者間の特約によって最長30年まで延長できます。
逆に、特約でこの義務を排除したり、範囲を限定したりすることも可能です。これは譲受した事業の価値を保護するための規定であり、契約時に内容を明確に定めておくことが重要です。
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事業譲渡における税金と会計処理
売り手側(譲渡企業)にかかる税金
事業譲渡によって得た利益(譲渡益)に対して、法人税等が課税されます。譲渡益は「譲渡価額 − 譲渡資産の簿価」で計算されます。また、課税対象となる資産の譲渡には消費税も発生するため、買い手から預かった消費税を納税する必要があります。
買い手側(譲受企業)の税務メリット
買い手側は、取得した資産の対価と時価の差額である「のれん(営業権)」を資産として計上できます。税務上の「のれん」は5年間にわたって均等償却でき、償却費を損金として算入できるため、法人税の節税効果が期待できます。これを「のれんの償却」と呼びます。
事業譲渡の会計処理
売り手側は、譲渡した資産・負債を帳簿から消し、譲渡価額との差額を事業譲渡損益として特別損益に計上します。一方、買い手側は、譲り受けた資産・負債を時価で自社の貸借対照表に計上します。支払った対価が受け入れた純資産の時価を上回る場合は、その差額を「のれん」として計上します。
事業譲渡に必要な手続き(法務)の流れ
事業譲渡を実際に行う場合、どのような法務(手続きや届け出)が必要になるのでしょうか?
①取締役会の決議および株主総会の特別決議
事業譲渡を行うかどうかを決定する際には、はじめに取締役会の決議および株主総会の特別決議を必要とします。特に株主総会においては、株式買取請求の機会を確保するため、事業譲渡の効力発生日の20日前までに株主への通知・公告を行っておく必要があります。
②公正取引委員会への届出
一定規模以上の事業譲渡は、実施前に公正取引委員会への届出が必要です(独占禁止法第16条)。2024年現在、原則として譲受会社グループの国内売上高合計額が200億円超で、かつ譲渡対象事業の国内売上高が30億円超(事業の重要部分の場合)または譲渡会社の国内売上高合計額が30億円超(全部譲渡の場合)のケースで届出が義務付けられています。
また、上場会社などの有価証券報告書提出会社は、内閣総理大臣(金融庁)への臨時報告書の提出も必要です。
③監督官庁への届出
事業の許認可を再度取得する必要がある場合は、事業譲渡を終えた後で監督官庁に申し出なければなりません。
このように、大企業と比べて規模が限られている中小企業では、その会社の事業形態や事業譲渡の内容によっては臨時報告書の提出や公正取引委員会への届出を行わなくてはなりません。
そのため、M&Aを検討し始めた段階で、さまざまなサポートが受けられるM&A仲介業者に相談することをおすすめします。
M&A総合研究所では、専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが、M&Aによる事業譲渡をしっかりサポートいたします。
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事業譲渡における株主総会の特別決議とは?
事業譲渡の際は、原則として株主総会の特別決議が必要です。特別決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成がなければ可決されません。会社の根幹に関わる重要な意思決定であるため、普通決議よりも厳しい可決要件が定められています。
株主総会の特別決議が必要な場合
株主総会の特別決議が必要な事業譲渡は、以下の6つが該当します。
- 事業すべてを譲渡する場合
- 事業内で重要な一部を譲渡する場合
- 子会社株式の全部、あるいは一部を譲渡する場合
- 他会社の事業をすべて譲渡する場合
- 事業すべての賃貸や経営の委任などに関する契約・解約・変更の手続きを取る場合
- 成立後2年以内においては、成立前から存在する財産であったとしても、その事業のために継続して使用するものとして取得を行う場合
株主総会を行う際は、事業譲渡に反対する株主がいる可能性を踏まえて、「株式買取請求」ができるようにしておく必要があります。「株式買取請求」とは、株主が所有しているその会社の株式を公正な価格で買い取ってもらうというものです。
事業譲渡では、事業を譲渡しても会社自体が失われることはありませんが、事業という会社の貴重な財産を他社に売り渡す行為であることに違いはありません。
ノンコア事業や不採算事業などを譲渡する場合には問題ありませんが、譲渡する会社の重要な事業を譲渡する場合は、会社の価値が大幅に変化するリスクもあります。
そのため、事業譲渡に反対する株主が出てくる可能性も視野に入れておきましょう。事業譲渡は、株主総会で特別決議を得られなければ実現できません。売り手も買い手もそれぞれの株主を説得できるだけの材料をきちんと用意しておく必要があります。
株主総会の特別決議がいらないケース
事業譲渡は、一般的には株主総会の特別決議が必要です。しかし、中には特別決議が不要な場合もあり、以下のケースが該当します。
- 簡易事業譲受
- 略式事業譲受
簡易事業譲受
例えば、事業譲渡によって事業を譲受する場合であっても、取得対価として得られる財産の合計金額が総資産の20%以下である場合、譲受する会社は株主総会を行う必要がなくなります。このようなケースの事業譲渡を「簡易事業譲受」といいます。
ただし、もしこの簡易事業譲受に株主から反対が起こった場合は、事業譲受の効力が発生する日の前日までに株主総会の特別決議の承認を得る必要が出てくるので注意しましょう。
略式事業譲渡
もう1つのケースが「略式事業譲渡」です。略式事業譲渡は、事業を譲受する相手が事業譲渡を行う会社の特別支配会社(親会社など、90%以上の議決権を直接的、あるいは間接的に持つ会社)である場合において、株主総会の特別決議による承認をスキップすることができます。
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事業譲渡の株主総会議事録作成例
事業譲渡では、株主総会の特別決議を得る際に「株主総会議事録」を作成する必要があります。
事業譲渡の株主総会議事録には、最低でも「対象となった事業譲渡の内容が特定されていること」「特定された事業譲渡の内容について承認を得ていること」を明記しておく必要があります。
また、事業譲渡を行う目的についても記しておいたほうがいいでしょう。事業譲渡の内容に関しては、すべて事細かに書くのではなく、別途で事業譲渡契約書を添付する方法が一般的です。
事業譲渡の株主総会議事録の作成例は、以下の通りです。
|
【第一号議案】 当社の〇〇事業の譲渡の件について 議長は、当社の選択の集中および効率化を図ることを目的とし、当社の〇〇事業を××会社へと譲渡した旨、添付の事業譲渡契約の承認の可否を議場に諮った際、出席株主の3分の2以上の賛成を以て原案通り承認可決された。 |
ただし、株主総会である以上、株主が事業譲渡に反対してくる可能性は十分にあり得ます。その場合は、反対された旨の記載をしておかなければなりません。
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まとめ
事業譲渡は、中小企業のM&Aで広く使われている手法です。しかし、他の手法の中でも手続きが煩雑であるため、その点については注意しておく必要があります。
株主総会の特別決議を得る必要がある点はもちろんのこと、事業譲渡をした後の契約や許認可などの取り直しといった作業にも手間がかかります。
また、株主総会を開催する以上、株主から反対を受ける可能性も考慮しておかなければなりません。事業譲渡の種類のよっては株主総会をスキップできますが、株主総会を行う必要がある場合はしっかりと手順を守って準備しておきましょう。
事業譲渡を行う際には、譲渡する会社・譲受する会社それぞれがきちんと協議をしておき、行うべきプロセスをしっかり果たしていくことが重要になります。
要点をまとめると、下記の通りです。
・事業譲渡とは
→会社内にある事業を売買すること
・事業譲渡のメリット
→売買の当事者同士が事業の内実を調整できる、資金を得られ節税になる
・事業譲渡のデメリット
→承継できないものの扱いに手間がかかる、事業譲渡した会社は同一の事業ができない
・事業譲渡の法務
→取締役会の決議および株主総会の特別決議、公正取引委員会への届出、監督官庁への届出
・株主総会の特別決議がいらないケース
→簡易事業譲受、略式事業譲受
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。