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2025年4月11日更新会社・事業を売る
株式譲渡制限会社とは?メリット・デメリットと手続きを専門家が解説
株式譲渡制限会社(非公開会社)の定義、メリット・デメリット、設立・株式譲渡の手続き、注意点を会社法に基づき解説。M&Aや事業承継での重要ポイントも網羅しています。
目次
株式譲渡制限会社とは?定義と特徴
株式会社のなかには「株式譲渡制限会社」がありますが、具体的にはどのような会社をさすのでしょうか。まずは、株式譲渡制限会社の定義や特徴について見ていきましょう。
株式譲渡制限のきまりとは
株式を持っている人は、基本的にその株式を自由に他の人に売れます。これは「株式譲渡自由の原則」と呼ばれており、日本の会社法にもこのルールが書かれています。つまり、もし株主が自分の持っている株を売りたいと思ったら、その会社は売ることを止められません。
しかし、会社法には株式を自由に売買できない場合の例外も設けられています。特定の条件の下では、株を売る前に会社の許可が必要になります。
このようなルールが存在する理由は、株の持つ権利を悪用して会社の運営に悪影響を与えないようにするためです。結局のところ、これらの規定は会社の健全な運営を守るために設けられています。株主が持っている基本的な権利には、以下の3つがあります。
- 議決権:株主総会での議論に参加し、投票する権利
- 利益配当請求権:会社の利益(配当金など)を受け取る権利
- 残余財産分配請求権:会社が解散したとき、残った資産を受け取る権利
これらの権利が濫用されると、会社の運営に悪影響を及ぼすことがあります。そのため、会社法では株式を自由に売買することに制限を加える例外を設けています。
特に、公に株式を売買しない非公開会社では、株式の自由な譲渡が会社の運営や人間関係に問題を起こす可能性があるため、譲渡に制限を設けています。非公開会社では株主自身が経営に関わることも珍しくなく、経営と所有が密接に関連しています。これは、多くの人から資金を集める公開会社とは異なる点です。
公開会社と非公開会社
一般的に上場している会社の株式のように、株式は自由に売買できますが、株式譲渡制限会社は会社によって承認されなければ株式の譲渡ができません。前者の自由に売買できる株式がある会社を公開会社と呼びます。
一方、後者の株式における譲渡が制限されている株式(譲渡制限株式)のみで株式が構成されている会社を非公開会社といいます。株式譲渡制限会社とは、すべての株式に譲渡制限に関する規定がある会社のことです。
株式譲渡制限会社は中小企業や設立したばかりの企業に多い形態で、株式譲渡制限会社のメリットが一つの要因です。
公開会社と株式譲渡制限会社の特徴を、下記の表に示します。
株式譲渡制限会社 | 全株式に譲渡の制限がある会社 | 中小規模の企業に向いている |
公開会社 | 一部の株式でも譲渡の制限がない会社 | 大規模の企業に向いている |
特例有限会社も非公開会社
会社法によって現在は有限会社を設立できません。それまで有限会社として存在していた会社は、特例有限会社といった名の株式会社として存続しています。もともと有限会社は、株式の譲渡に制限がある会社です。
つまり、特例有限会社も株式譲渡制限会社で、非公開会社になります。
株式譲渡制限会社の特徴・意義
株式は自由に売買できると同時に、経営者の経営権をつかさどります。端的にいうと、株式を多く所有するほど経営権が強まり、会社の経営を動かす立場を確立できるのです。
しかし、自由に売買できる状態にすると、その株式が何らかの形で分散する可能性があります。その結果、経営者の経営権が不安定になり、経営者にとって不都合な相手に株式が流れてしまうと、最悪の場合経営者の立場が逆転することにもなりかねません。
株式譲渡制限会社にすれば、株式が分散する可能性を低くでき、経営権が不安定になるリスクを低減できます。株式譲渡制限会社は経営者本位の経営体制を構築しやすく、その継続性を高められる特徴があるのです。
非上場会社は、ほとんどの場合、株式譲渡制限会社で、会社を作る際は司法書士か弁護士に依頼します。意識していなくても、譲渡制限会社の定款になっているでしょう。
株式譲渡制限は、知らない株主が勝手に株式を得て会社を乗っ取る事態を防ぐために設けられたルールといえます。
株券発行会社とは【参考】
株式について、株券を発行することを定款で定めている株式会社を株券発行会社と呼びます。株券発行会社は、原則として、株式を発行してから遅れずに当該株式の株券を発行しなければなりません。
非公開会社は株主から請求されるまで、株券を発行しないこともできます。その主な理由として挙げられるのは、株式の流通性がほとんどない非公開会社には株券の必要性が少ないことです。
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、その名のとおり譲渡が制限されている株式のことをいいます。株式譲渡制限会社は、譲渡制限株式のみで構成している会社をいいますが、それ以外の会社は譲渡制限株式を発行できないわけではありません。
実際、一部の株式だけを譲渡制限株式としている会社も多く、議決権を守りつつも株式を自由に売買できるよう資金を確保する形態を取っています。
種類株式に譲渡制限を付加して発行するケースもある
株主総会の決定に対して拒否権を行使できる黄金株や、配当や剰余金の分配を優先的に受けられる優先株式などの種類株式に、譲渡制限を付加して発行するケースもあります。
株主や経営者にとって有益な株式を発行した際に、その利益を守るために譲渡制限株式に変えるのです。
ある程度成長した会社は、単純に譲渡制限しか付加されていない譲渡制限株式を発行するよりも、種類株式として何らかの機能を付加した譲渡制限株式を発行するケースが多い傾向にあります。
株式譲渡制限会社のメリットとデメリット
多くの中小企業や設立したての会社が採用していることからも、株式譲渡制限会社にはそれだけのメリットがあるといえます。しかし、何事にもメリットがあればデメリットもあり、株式譲渡制限会社も例外ではないので、メリットとデメリットの両方を正確に把握しましょう。
株式譲渡制限会社のメリット
株式譲渡制限会社のメリットは、以下のとおりです。
経営者の経営権を確立しやすい
株式譲渡制限会社は株式の譲渡が制限されているため、定款で定められた承認機関の承認を得なければ、たとえ無断で株式を譲渡しても、その株式に議決権は発生しません。
中小企業や設立したての会社は規模自体が小さいため、大企業と比べると少ない資金で株式を取得できます。つまり、比較的簡単に買収できるのです。
それを防衛して経営権を確立させる手段として、株式の譲渡を制限する株式譲渡制限会社にすることはメリットがあるといえます。
信頼できる人間だけを経営に参加させられる
株式譲渡制限会社では、信頼できる人間だけを経営に参加させられます。株式が自由に売買できる状態であると、良くも悪くも株主になる敷居が下がってしまい、会社にとって不都合な人間が株主になってしまうリスクがあるでしょう。
会社にとって不都合な人間が株式を多く取得して発言権を強めれば、経営に支障が出る可能性もあります。株式譲渡制限会社であれば、経営者の意にかなった人間のみを株主にできるのです。
株式の売買による株主の入れ替わりも防ぎ、その意味では経営者の経営権を確立させる一助になります。
会社の体制を構築しやすい
株式譲渡制限会社は、会社の体制を構築しやすいメリットもあります。株式譲渡制限会社は取締役会を設置する義務がなく、取締役の人数は1人のみも可能です。代表取締役の承認のみで株式の譲渡もできるのです。
株主総会は、原則開催日の2週間前に書面かメールで通知しなければなりませんが、定款で定めれば、株主総会における招集通知の期限を1週間以内にしたり、役員の任期を最大で10年にしたりすることもできます。口頭による召集も可能です。
このように、株式譲渡制限会社は経営者にとって都合のいい会社の体制を構築しやすいです。株券原則不発行、監査役の業務を会計監査に限定する、などのメリットもあります。
メリットをうまく活用すれば、意思決定のスピードを上げたり発生するコストを節約できたりするなど、経営していくうえでプラスになるでしょう。
買収防衛策になる
上述したとおり、株式譲渡制限会社の形態は、敵対的買収といった経営陣の合意を得ないM&Aに対する買収防衛策としてもメリットがあります。そもそも株式譲渡制限会社は、経営陣の合意を得ない一方的な買収が成立できません。
そのため、敵対的買収を防ぐ買収防衛策として使えるのです。
事業承継が楽になる
経営者が引退して後継者が引き継ぐ場合、株式譲渡制限会社は事業承継を円滑にする効果も期待できます。株式譲渡制限会社が承認機関の承認を得なければ、株式譲渡を行えない点を利用すれば、経営者の意にかなった後継者にのみ株式が行き渡るよう調整できるのです。
不都合な人物に株式を渡さないことも可能なので、株式の分散を防いで後継者が経営権を掌握できます。
売渡請求権を利用できる
株式譲渡制限会社は、定款に定めさえすれば売渡請求権を利用できます。売渡請求権とは、株式が望まない相手に渡った際に売渡を請求できる権利で、株主における3分の2以上の賛同を得られれば行使できるのです。
売渡請求権の効力は強く、請求された相手は基本的に拒否できません。万が一不都合な相手に株式が渡ってしまった場合でも、それを取り戻すことが可能です。売渡請求権は諸刃の剣になる可能性があるため、設定は慎重に行いましょう。
株主総会等の手続きが簡単
株式譲渡制限会社であれば株主総会等の手続きが簡単にできます。株式譲渡制限会社には取締役会の設置義務がなく、年に1度の株主総会を機関設計にすると効率的な運営とコスト削減が可能になるでしょう。
株式譲渡制限会社のデメリット
株式譲渡制限会社にはデメリットもあり、株式の譲渡に制限がかかっているため発生します。
新株発行の資金調達が制限される
株式譲渡制限会社の株式は簡単に売買ができず、現金化は極めて難しいものです。株式譲渡制限会社は投資側からみると、魅力的な投資先とはいえないでしょう。そのため、公開会社と比較すると、多額の資金調達が難しくなっているのです。
なお、非上場企業の配当金には上場企業より高い税率が課せられます。
株式買取請求権が発生する
株式買取請求権とは、会社が株式譲渡を承認しなかった場合に株主が行使できる権利で、会社に公正な価格で株式を買い取らせるものです。株式買取請求権を行使されると会社は一定の期間内に株主へ通知しなければならず、期限を過ぎた場合はみなし承認扱いとなります。
株式買取請求権を行使されると、公正な価格を巡って会社と株主が対立することも珍しくなく、訴訟に発展するケースもあるのです。株式は一定数になると高額になるため、中小企業や設立したての会社であればその負担は大きな痛手になります。
中小企業や設立したての会社は、株主自体が少数であったり、経営者のみが株主であったりするパターンが少なくありません。そのため、株主買取請求権がデメリットになるのは会社がある程度成長し、一定数以上の株主がいる状態のときです。
売渡請求権が諸刃の剣になる
株式譲渡制限会社のメリットでもある売渡請求権ですが、これは諸刃の剣になる可能性があります。例えば、事業承継を行う際に経営者の選んだ後継者に対して他の取締役や株主が反発し、彼らが結託して後継者に対し売渡請求権を発動させることがあるのです。
そうなれば、後継者は株式を売り渡さなければならず、会社の経営権を完全に失います。経営者だけが株主の状態であれば心配ないデメリットですが、経営者以外にも株主がいる場合は留意しなければなりません。
決算公告が求められる
株式譲渡制限会社では、毎年の決算を公にする義務があります。これを「決算公告」と言います。具体的には、会社の財務状況が書かれた文書を、会社の定めた方法で人々に知らせることです。
決算公告は、株式市場に上場している大きな会社と同じように、株式譲渡制限会社も実施しなくてはならず、通常は官報に載せる必要があります。官報への掲載は、掲載料として約6万円が必要で、これが最も安価な方法です。
株式譲渡制限会社で発生しやすいトラブル
ここでは、株式譲渡制限会社で発生しやすいトラブルについて見ていきましょう。
家族間での無効な株式譲渡
小さな同族経営の会社が閉鎖性を保つために株式譲渡制限を用いるので、譲渡制限された株式に関して生じる多くの問題は、家族間で起こるケースが少なくないです。
譲渡制限株式でも、家族から株式を相続すればその株式を承継できますが、会社に敵対する人も株主となれるため、会社にとって不都合な状況になることも考えられます。
そこで、会社は相続やその他の一般承継で譲渡制限株式を得た人へ、株式を会社に売り渡すよう請求できる旨を定款で定められると規定しています。これにより、会社にとって好ましくない株主を除くことが可能です。
定款で定めれば相続人から株式を取得でき、定款の規定に基づいて会社が売渡請求をすれば、株主総会特別決議が要ります。会社が相続を知った日から1年以内に売渡請求を行わなければなりません。
資産価値向上時に起こる紛争
譲渡制限会社でも、会社が成長すると、その会社における株式を購入したいと考える投資家が増加します。このケースでは、その会社における株式を高値で購入したい投資家もいるでしょう。
資産価値向上時には、株式の保有者が株式を売ろうとするインセンティブが働くので、株式の資産価値が向上すると、会社の株式を売ろうとする者と会社の間で紛争が生じやすいです。
株式譲渡制限会社の設立方法と注意点
ここでは、株式譲渡制限会社を設立する方法と注意点について見ていきましょう。
株式譲渡制限会社の設立方法
株式譲渡制限会社の設立には特別な手続きを行う必要がなく、定款に株式譲渡の際に株主総会や取締役会、代表取締役、取締役全員など、承認機関の承認が必要である旨を掲載すれば良いだけです。つまり、定款の内容次第で株式譲渡制限会社であるかどうかが決まります。
取締役会や株主総会となっているのは、株式の譲渡に関して決めるのは、取締役会がある会社は取締役会、ない会社は株主総会だからです。自社の状況に合わせましょう。
有限会社は事実上、株式譲渡制限がかかっていたので定款に株式譲渡制限の項目がないケースが多いです。有限会社から株式会社に組織を変えるときは、定款に株式譲渡制限に関する条項を盛り込みましょう。忘れてしまうと、公開会社扱いになります。
株式譲渡制限会社を設立する際の注意点
株式譲渡制限会社を設立する際は、意思決定プロセスのビジョンを明確に持たなくてはなりません。株式譲渡制限会社は、経営者にとって都合のいい体制を構築しやすいですが、あくまでも事業を進めるうえで有利になる意思決定のプロセスを構築する意味です。
単純に経営者の権力を強化するために使ってしまうと単なるワンマン経営に陥ってしまい、経営者なしでは成り立たない会社になります。ワンマン経営の会社は意思決定のスピードこそ早いですが、事業承継など会社の重要な局面で経営者が抜けると脆弱になりやすいです。
外部の株主が経営に参加しやすい体制も決して悪いものではありません。むしろ、会社のさらなる成長のために株式譲渡制限会社の形態を変えることもあるでしょう。株式譲渡制限会社だけにこだわるのではなく、状況に応じて対応できる柔軟な考え方も必要です。
株式譲渡制限会社の形態を変更する方法
株式譲渡制限会社の形態を変更する、つまり非公開会社から公開会社へと変更する場合、まずは譲渡制限を廃止させる必要があります。この際、取締役や監査役は任期満了となるため、新たに取締役と監査役を選任しなければなりません。
取締役会の設置も行います。最後に、登記の変更手続きを行って発行可能株式総数を変える流れで公開会社へと変更できます。
譲渡価格の決定方法に関する注意点
株式譲渡制限会社の株式は、証券取引所で取引される上場株式とは異なり、客観的な市場価格が存在しません。そのため、譲渡価格の決定は当事者間の合意に委ねられますが、その価格算定は複雑であり、税務上のリスクも伴います。
非公開株式の評価方法としては、主に以下の方法が用いられます 。
- 純資産価額方式:会社の貸借対照表上の純資産額に基づいて株価を算定する方法。
- 類似業種比準方式:事業内容が類似する上場企業の株価などを参考に株価を算定する方法。
- 配当還元方式:将来の配当予測額に基づいて株価を算定する方法。
どの評価方法を用いるか、あるいは複数の方法を組み合わせるかは、会社の状況や取引の目的によって異なります。
特に注意が必要なのは、適正な時価から著しく乖離した価格で譲渡が行われた場合です 。例えば、個人間での譲渡において時価よりも著しく低い価格で譲渡すると、差額が贈与とみなされ、譲受人に贈与税が課される可能性があります。また、法人が関与する場合、時価との差額が寄付金として扱われ、法人税の計算に影響が出ることがあります 。
このような税務リスクを回避するため、特に取引価額が大きい場合や法人が関与する場合には、公認会計士や税理士などの専門家に相談し、適切な株価算定(株価算定書の取得を含む)を行うことが強く推奨されます 。
株式譲渡制限会社に関するトラブル事例
株式に譲渡制限があるために起こってしまうトラブルもあるので、この章では、株式譲渡制限会社に関するトラブル事例を見ていきましょう。
譲渡承認決議を経ずに家族間で譲渡を行ったケース
家族間で株を分け合うケースは少なくありません。最近見られるのは、株主と関係が希薄になった孫の世代が株を引き継ぐ際に生じるトラブルです。
本来は、定款に従って株主総会や取締役会で譲渡承認決議を行い、株主総会議事録や取締役会議事録に残してから譲渡すべきですが、譲渡承認決議を経ずに株が二代目や三代目に譲られているケースもあります。
こうした場合は法律的に無効となるだけでなく、ほかの正当な株主がひっくり返すこともあるでしょう。家族間の株式譲渡でも、正しい方法で引き継ぐことがトラブルを防止するために必要です。
株主構成を念入りに確認しておく必要性
中小企業の高齢化が進み、事業承継問題が生じています。経営者が息子や妻へ法的手続きを踏むことなく株式を譲渡するケースはよくみられ、老後における資金のために会社を売却しようとした際に初めて株式の帰属に焦点が当たるケースも多いです。
中小企業の場合、経営者が当初は100%所持したケースが多いですが、少しずつ家族や親戚へ譲るステップで、譲渡承認決議が抜けたり株券を交付していなかったりするケースは少なくありません。
そうなると誰が一体株主なのか、そもそも本当に現在の株主なのかなど、株式の帰属問題が生じ得ます。遡って取締役会議事録・株主総会議事録を作り、株券不発行会社にすることに各役員や各株主が同意すればよいですが、家族や親戚でもそれを認めないケースが考えられます。
この状態では会社の売却ができなくなり、最終的な解決方法は訴訟で株式の帰属を明確にするか、金銭で解決するかの二択となるでしょう。もし訴訟になれば時間がかかり、争いのある会社は売れづらいのが実情です。
事業承継を将来的に考えている場合は、経営者が自社株式の株主構成をしっかり確認し、譲渡する際は正式な手続きを踏むなどの注意が必要になります。
資産価値の上昇に伴い株主間で争いが起こるケース
会社が持つ土地が再開発となり、高層マンションができる場合、あまり価値のなかった土地が突然10倍以上に上がる状況になったとしましょう。こうしたケースでは、株主がより多くの権利を求めるために争いが生じることも考えられます。
争いが生じれば、法律的に争点となるのは本当の株主構成がどのようになっているのかです。そのなかで譲渡承認決議を得ない譲渡が発覚すれば、譲渡は無効となり株主構成が変化します。
トラブルとなるケースは少ないかもしれませんが、実際に問題が生じれば会社の支配権をめぐって大きなトラブルとなります。
株式譲渡制限会社の株式を譲渡する方法
ここでは、株式譲渡制限会社の株式を譲渡する方法について見ていきましょう。
株主総会から承認を受ける
株式譲渡制限会社(非公開会社)の株式を譲渡する際、株主総会または取締役会から承認を受ける方法が一般的です。
自分が有する株式譲渡制限会社の株式を譲渡したい場合、株式譲渡契約書といった契約書を買収側と作成し、会社へ株式譲渡の承認を請求します。
譲渡制限株式の譲渡請求が届いたら、非公開会社は定款にあるとおり、株主総会や取締役会で協議しましょう。承認を受けたら、第三者へ譲渡制限のある株式を譲渡できます。
定款で定めておく
例外的な方法として、株式譲渡における承認のときに、株主総会や取締役会以外の組織や人物が、承認の否決ができることを定款で定めておく方法があります。
よくある例を紹介しましょう。株式譲渡には代表取締役の承認が要り、このケースでは株式譲渡の承認を代表取締役が行います。株主総会や取締役会を開かなくても、株式譲渡の手続きができるのです。
株式譲渡制限会社を公開会社にする方法
非公開会社(株式譲渡制限会社)を公開会社に変更する方法と手順について説明します。多くの株式会社は、非公開会社(株式譲渡制限会社)として設立されます。
非公開会社として設立すると、株式が知らない第三者に渡るのを防ぐことができ、監査役や取締役会の設置義務がないなどの利点があります。
譲渡制限規定の廃止手続き
公開会社へ移行するための最も基本的な手続きは、定款に定められている株式譲渡制限に関する規定を廃止することです 。これは定款変更にあたるため、株主総会において、可決要件の厳しい特殊決議が必要となります 。
定款変更の決議後、効力発生日から2週間以内に、法務局へ変更登記を申請する必要があります 。この登記により、株式譲渡制限が廃止されたことが公示されます。
機関設計の変更(取締役会・監査役の設置)
株式譲渡制限を廃止して公開会社になると、会社法上の機関設計に関する要件が変わります。公開会社は、原則として取締役会及び監査役(または監査等委員会、指名委員会等)を設置しなければなりません 。
したがって、移行前の会社が取締役会や監査役を設置していなかった場合、株主総会で必要な員数(取締役会設置には取締役3名以上)の取締役及び監査役を選任し、その旨の設置及び役員変更の登記を行う必要があります 。
注意点として、株式譲渡制限規定を廃止すると、それまで定款で伸長されていた役員の任期に関する規定の効力が失われ、既存の役員の任期が満了となる場合があります。そのため、移行に伴い、改めて役員を選任し直す必要があるケースが多いです。
発行可能株式総数の変更登記
株式譲渡制限会社(非公開会社)では、発行可能な株式の総数(発行可能株式総数)に法律上の上限はありませんでした 。しかし、公開会社になると、原則として、発行可能株式総数は、発行済株式総数の4倍を超えることはできないという制限がかかります。
もし、移行前の会社が定款で定めている発行可能株式総数が、移行時点での発行済株式総数の4倍を超えている場合には、この上限に収まるように、株主総会の決議(通常は特別決議)によって定款を変更し、発行可能株式総数を減らす必要があります 。そして、その変更についても登記申請が必要です。
株式譲渡制限会社のまとめ
本稿では、株式譲渡制限会社(非公開会社)について、その定義、法的根拠、メリット・デメリット、設立や株式譲渡の手続き、公開会社への移行方法などを解説しました。
株式譲渡制限会社は、発行する全ての株式の譲渡に会社の承認を必要とする株式会社であり、多くの中小企業で採用されています。その最大のメリットは、経営権の安定化、望まない第三者の排除、柔軟な機関設計、役員任期の伸長、事業承継の円滑化などにあります。これらは、経営のコントロールと安定性を重視する企業にとって大きな利点となります。
一方で、株式の流動性が低いためにエクイティファイナンスによる資金調達が困難になる点や、譲渡不承認時の株式買取請求権のリスク、決算公告の義務などのデメリットも存在します。
株式譲渡の手続きは、承認請求、承認機関による決議、通知、契約締結、株主名簿の書換えといったステップを踏む必要があり、会社法に則った厳格な運用が求められます。特に、承認手続きを怠ると譲渡が無効となるリスクがあるため注意が必要です。また、非公開株式の価格算定は複雑であり、税務上のリスクも伴うため、専門家への相談が推奨されます。
株式譲渡制限会社から公開会社への移行も可能ですが、定款変更(特殊決議)、機関設計の変更(取締役会・監査役設置)、発行可能株式総数の見直しなど、複数の法的手続きが必要となります。
M&Aや事業承継の場面では、対象会社が株式譲渡制限会社であるか否か、その定款の内容、株主構成などを正確に把握することが、デューデリジェンスやスキーム検討、手続き実行の前提となります。本稿で解説した内容が、株式譲渡制限会社に関する理解を深め、適切な経営判断や実務対応を行うための一助となれば幸いです。
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