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2021年4月26日更新事業承継
自社株の事業承継について解説します
事業承継において、自社株の引き継ぎは重要です。自社株の承継方法は、相続による事業承継、贈与による事業承継、M&Aを用いた売却があります。この記事では、事業承継における自社株の引き継ぎや自社株の株価算定などについて解説します。
自社株の事業承継
日本各地で多くの経営者が高齢になり、事業承継を検討する企業が増えています。事業承継は、信頼する後継者が会社を継ぐ大事なイベントです。
事業承継では経営ノウハウや店舗設備など、さまざまな資産を引き継ぎます。資産で特に重要なのが自社株です。自社株とは、事業を運営するうえで欠かせない資産です。
また、事業承継を成功するうえでも円滑な自社株の承継は欠かせません。円滑な自社株承継を実現するには、いくつかのポイントがあります。そこで今回は、自社株の事業承継について詳しく解説します。自社株引き継ぎのポイントや節税対策、事業承継に役立つ情報をお伝えします。
自社株承継のポイント
まずは、事業承継における自社株承継の重要なポイントをご紹介します。事業承継を実施するときに意識してみてください。
事業承継の準備
事業承継は計画的に実行する必要があります。事業承継では、資産の承継や後継者教育など行うべき手続きが山ほどあります。事業承継の準備は時間がかかるため、すぐに準備はできません。経営者が健在の間に、計画的に事業承継の準備を進めましょう。
特に自社株の承継は事業承継の中でも重要な要素なので、優先的に考えなくてはいけません。自社株は会社の経営権に直結するからです。
自社株の承継が円滑に進まなければ、事業承継後の経営が難しくなります。また誰に事業を承継するかによって、自社株引き継ぎの手続きや準備が変わります。
早い段階で誰を後継者にするか決定することも大切です。いかに早く準備を始めるかが事業承継の成功を左右します。
経営権を後継者に
円滑な事業承継には、経営権を後継者に集中させることが不可欠です。経営権とは、会社の運営に関わる権利全般をさします。株式会社の場合、自社株の保有割合で経営権の強さが決まります。原則株式会社では、一つの自社株で一つの議決権を行使でき、過半数の自社株を保有すれば普通決議を独断で行えます。
普通決議とは、取締などの役員の選任や剰余金の配当、準備金の減少などに関する決議です。また、自社株の保有割合が3分の2以上になれば、特別決議を独断で行えます。特別決議とは、M&A(組織再編行為)の決定や定款の変更、株式併合などに関する決議です。
自社株の保有割合が高いほど会社の根幹部分に関して権限を行使できます。後継者に経営権を移転するならば、3分の2以上の自社株承継が不可欠です。ただし、中小企業の事業承継では100%の移転がベストです。
事業承継における節税
事業承継で、経営権の引き継ぎと同様に重要なのが節税です。自社株の事業承継では相続税や贈与税が課されます。事業承継では、一人の後継者が全ての自社株を受け継ぎます。そのため、莫大な相続税や贈与税が後継者に課されます。ここで厄介なのが税金発生の仕組みです。
贈与税や相続税は自社株の評価額を基に算出します。しかし事業承継後、自社株を換金するわけではありません。実際には現金を得ていないにも関わらず、税金の支払いだけが発生します。税負担を理由に、事業承継後の資金繰りが悪化するケースもあります。
また税金を理由に事業承継を遂行できない恐れもあります。そのため、自社株を引き継ぐ際は節税を意識しなくてはいけません。
自社株の承継方法
自社株の承継方法は「誰に事業承継するか」「いつ事業承継するか」の視点から分類できます。ここではいつ事業承継するのかの観点から自社株の承継について解説します。いつ事業承継するかによって、実行すべき自社株対策が変わります。事業承継のタイミングは、早い時期に決定しましょう。
相続による事業承継
まずは相続による事業承継について解説します。経営者が亡くなった時点で、相続により自社株を受け継ぐ方法です。自社株の承継時には、後継者に相続税が発生します。遺言書や後述する特例を活用しなければ、遺産分割協議に則って遺産を相続します。
そのため、事業承継には不十分な自社株を引き継ぐ可能性があります。自社株を後継者に集中させる手段として、遺言書や経営承継法の特例活用が有効です。また、相続がいつ発生するか予測できない点にも注意が必要です。
遺言書を残しても、それを書いた時点と事業承継の時点とでは状況が異なる場合があります。そのため、遺言書はその都度書き換えましょう。いつ事業承継が発生しても問題ないように、前もって準備することが重要です。
贈与による事業承継
次に、贈与による事業承継です。経営者が存命の間に、生前贈与により自社株を受け継ぐ方法です。贈与による事業承継には、計画的に自社株を引き継げるメリットがあります。また、株価が低いタイミングで引き継ぐことで、節税対策にもつながります。贈与により事業承継を実施する際、贈与税がポイントです。
贈与税の課税方式は暦年課税と相続時精算課税で、暦年課税は年間110万円までの贈与ならば、非課税となります。110万円を超えれば、累進課税によって贈与税が課されます。累進課税のため、まとめて自社株を引き継ぐ場合は多額の贈与税がかかります。
そのため累進課税を用いる場合は、年間110万円以内の贈与に抑えましょう。一方、相続時精算課税は、計2,500万円までの贈与が非課税となります。2,500万円を超える贈与については、一律20%の税率分の贈与税が発生します。まとめて自社株を贈与する場合は、相続時精算課税がおすすめです。
ただし贈与した財産は、後々相続税の計算に含まれます。さらに、一度この制度を適用した当事者間の贈与は、暦年課税に戻せません。贈与による事業承継では、上記の点に注意しましょう。
売却による事業承継(M&A)
タイミングの観点とは関係ありませんが、自社株を売却する形で事業承継することも可能です。従業員に売却する場合、M&Aによって第三者に売却するケースが一般的です。売却による事業承継では、自社株は相続財産の対象から外れます。そのため、遺留分関係によるトラブルが発生する心配はありません。
後継者に経営権を引き継ぐうえで、最も効果的な方法です。ただし、後継者には自社株を買収するだけの資金が必要です。
また事業承継の際は、売り手の株式譲渡益に所得税が発生します。さらに後継者に、贈与税が発生する場合もあります。売却による事業承継は、税金と買収資金に注意しなくてはいけません。
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事業承継の方法
自社株の株価算定
事業承継で節税するには、自社株の価値を把握する必要があります。自社株の価値次第で税額が決定するからです。また実行すべき節税対策も異なります。ここでは、自社株の株価算定方法についてご紹介します。
純資産価額方式
純資産価額方式は、純資産に着目して自社株の株価を算定します。小会社や株式保有特定会社などの事業承継では、この手法を用います。純資産を基準にするため、歴史のある企業ほど算出する株価が高くなります。また、短期的な利益変動などの影響を受けにくいのも特徴です。
用いるデータが貸借対照表の項目のみなので、比較的自社株の価値を算出しやすいです。純資産価額方式では、時価純資産か簿価純資産を利用します。時価純資産を用いた方が、正確な自社株の価値が算定されます。
類似業種比準方式
類似業種比準方式は、類似業種を基準に自社株の価値を算定する手法です。つまり、自社事業と類似する業種に属する上場企業を参考にします。大規模会社の事業承継では、この手法を用います。算出する株価は、上場企業の株価や国際情勢の変化に影響を受けやすいです。
また、自社の配当金や利益額、純資産を減少すると自社株の価値が下落します。株価算定に用いる類似業種のデータは、国税庁HPで参照可能です。
併用方式
併用方式は、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用する方式です。中規模会社の事業承継では、この手法を活用します。総資産額や従業員数、取引金額などを基に各方式の比重を決定します。
配当還元方式
配当還元方式は、配当金を基準に自社株の価値を算定します。同族株主ではない人物が自社株を受け継ぐ際は、この手法を活用します。事業承継を行う企業の規模は無関係です。配当金額のみを参考にするため、通常は他の手法を用いる場合より株価は低いです。
配当金の安定が使用条件であるため、非上場企業の自社株に用いるのが一般的です。また事業承継だけでなく、M&Aの価値算定に用いる場合があります。M&Aの実務では、インカムアプローチという手法です。
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事業承継の株価算定
事業承継における自社株対策
最後に、事業承継における自社株対策についてご紹介します。事業承継を成功するには、自社株の承継が鍵を握ります。事業承継を成功させたい方必見です。
後継者への経営権集中(経営承継法の特例)
事業承継を成功するには、経営権を後継者に集中させる必要があります。贈与を用いる場合は問題ありませんが、相続を用いる場合は遺留分の問題があるため、注意が必要です。遺留分とは、一定の親族に保障する最低限の遺産です。
自社株承継で他の相続人の遺留分を侵害した場合、遺留分減殺請求のリスクがあります。遺留分減殺請求が行われると、経営権確立に必要な自社株が分散します。その結果、事業承継後の経営に支障が出る恐れがあります。このリスクを軽減するうえで、経営承継法の特例の活用は有効です。
具体的には、除外合意と固定合意を活用しましょう。除外合意は、事業運営に必要な自社株を遺留分の対象から除外する制度です。固定合意は、自社株の株価上昇分を遺留分の計算に含めない制度です。2つの制度を活用すれば、自社株の分散を防いで後継者の経営権を確立できます。
経営承継法の活用には、経済産業大臣の確認などの手続きが必要です。複雑な部分があるため、専門家に手続きの支援を依頼しましょう。
株価の引き下げ
経営者は、自社株の株価は高い方が良いと思うかもしれません。高い方が、自社への評価が良いと見なすからです。しかし事業承継では、自社株の株価は低い方が得です。
自社株は優良な企業の方が、株価が高い傾向があります。下記に該当する場合、自社株の評価が高く、特に株価の引き下げが不可欠です。
- 業績が良い
- 独自の技術力やノウハウがある
- 会社所在地の地価が高騰
ここでは、自社株の価値を下げる手法をご紹介します。
生命保険の活用
事業承継の節税対策として、古くから利用される手法です。簡単にいえば、高額な生命保険に加入し、加入直後に自社株の引き継ぎを完了する方法です。株価を大幅に下げたうえで自社株を引き継げます。その結果、事業承継の節税につながります。
ただし生命保険ならば、何でも良いわけではありません。自社株対策に用いるには、さまざまな条件を満たす必要があります。生命保険を活用する際は、専門家の助力を得て入念に準備しましょう。
役員退職金の活用
経営陣に支払う役員退職金も、自社株対策です。役員退職金を支払うと、その分利益が圧縮します。その結果株価が下落し、節税につながります。また役員退職金は、事業承継の資金に充てることも可能です。自社株というより、事業承継全般にメリットのある手法です。
事業承継税制の活用
事業承継を実施する際は、税制活用の検討も不可欠です。事業承継税制は、一定条件を満たせば相続税・贈与税の納税を猶予する制度です。自社株承継の税負担を軽減できるため、ぜひ活用したい制度です。平成30年度の税制改正によって、従来よりも活用しやすくなりました。
従来は、議決権株式総数の3分の2が猶予対象でした。しかし改正により、承継する全ての自社株が納税猶予の対象です。加えて相続税・贈与税ともに100%猶予されます。この改正は、中小企業に追い風となりました。事業承継を実施する際は、ぜひこの税制活用を検討してください。
ただし事業承継税制の活用には、さまざまな条件を満たす必要があります。そのため、税理士などの専門家に相談しましょう。
事業承継・M&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、培ったノウハウを活かしてM&Aをサポートいたします。
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事業承継計画を作る
事業承継計画は、会社のビジョン、将来の経営目標と密接にかかわっています。経営権の承継は将来の会社の売上や事業内容、組織体制などを考え、下記のように計画しましょう。
- 経営理念の引き継ぎ
- 中期的な経営ビジョンの作成
- 事業承継の具体的対策と実施時期の決定
- 事業承継計画の「見える化」
経営理念は、自社事業の方向づけ、何を実現していくか、どのように事業を通じて社会貢献するかなどを明示する会社経営の基本軸です。経営理念は会社にとって不変的であり、後継者はその理念を引き継いで経営を行います。ただ、基本的な考えは維持して見直しを行うケースもあります。
経営ビジョンは、会社の将来を実現する具体的基本計画です。事業承継計画を作りながら、後継者が社長や経営幹部と中期的な経営ビジョンを立てれば円滑な事業承継につながります。
次に、自社株の承継などさまざまな対策の実施時期を決定します。後継者育成、事業関係者の理解、自社株や財産の承継、会社を磨く方策などの対策を行う時期です。
事業承継計画は、スケジュールに記載することがとても重要です。どこまで進んでいるか、次に取り組むことは何かなど誰が見ても明確になるからです。また計画の軌道修正にも役立ちます。事業承継計画を常に目にすれば、事業承継への社長と後継者の意識も保てます。
まとめ
今回は、自社株の事業承継についてお伝えしました。事業承継の中でも、自社株の承継は非常に重要です。経営権の確立や節税を成功するうえで、自社株対策は必要不可欠です。事業承継の方法には、相続や贈与、売買などの手法があります。用いる方法によって、最適な自社株対策は異なります。
事業承継の際は、まず「誰に」「いつ」事業承継するのか決定しなければ、自社株の対策を実施できません。経営者が健在の間に誰を後継者とするか決めて自社株対策を考えます。要点をまとめると下記になります。
・自社株承継のポイントとは?
→事業承継は計画的に行う、経営権を後継者に集中させる、節税を意識する
・自社株の承継方法は?
→相続による事業承継、贈与による事業承継、売却による事業承継(M&A)
・自社株の株価算定とは?
→純資産価額方式、類似業種比準方式、併用方式、配当還元方式
・事業承継における自社株対策とは?
→後継者への経営権集中(経営承継法の特例)、株価の引き下げ、事業承継税制の活用
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。