2023年2月8日公開事業承継

M&Aで必要なPPAとは?会計処理の内容やのれんとの関係について解説!

M&AにおけるPPAとは、取得原価の配分のことをいいます。有形資産はもちろんのこと、無形資産もPPAの対象となります。
のれんは無形資産のひとつですが、無形資産の中にはのれんに含まれない資産もあります。この記事では、M&Aで必要となるPPAについて、PPAで認識される無形資産の具体例や評価方法、PPAの評価方法や会計処理、評価の注意点などについて解説しています。

目次
  1. 会計処理のPPA(取得原価の配分)を知ろう!
  2. M&AにおけるPPAの実務手続き・流れ
  3. PPAで認識される無形資産
  4. 無形資産の評価方法
  5. PPAの「のれん」評価の注意点
  6. PPAには高い専門性が必要!
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M&AにおけるPPAとは、取得原価の配分のことをいいます。
有形資産はもちろんのこと、無形資産もPPAの対象となります。
のれんは無形資産のひとつですが、無形資産の中にはのれんに含まれない資産もあります。
この記事では、M&Aで必要となるPPAについて、PPAで認識される無形資産の具体例や評価方法、PPAの評価方法や会計処理、評価の注意点などについて解説しています。

会計処理のPPA(取得原価の配分)を知ろう!

はじめに、M&Aの会計処理におけるPPAの意味や、PPAと切り離せないのれんについて解説します。

PPAの意味は?


PPA(Purchase Price Allocation)とは、会計処理における「取得原価の配分」のことをいいます。
企業がM&Aによる買収を行った場合、「企業結合に関する会計基準(企業結合会計基準)」において、次の会計処理が求められます。

【M&Aによる買収時に必要とされるPPA(取得原価の配分)】

  • 被買収企業の資産と負債の受入について、企業結合日時点に認識可能な資産と負債を買収企業の資産と負債に配分する。

そして、PPAの会計処理が不適切な場合、次のような問題が生じる可能性があります。
  • M&A成立後の財政状態及び経営成績が適切に表示されない
  • 会計監査で指摘を受ける
なお、PPAの会計処理は企業結合日から1年以内に行う必要があります。

PPAの「のれん」とは?

PPAののれんとは、取得原価と被買収企業の純資産額との差額のことです。
買収企業は取得原価(買収企業が被買収企業の取得に要した原価)について、被買収企業の認識可能な資産や負債を、買収企業の資産や負債に配分します。
PPAにおけるのれんとは、この取得原価と被買収企業の純資産額との差額のことで、無形資産(目に見えない資産)のひとつです。
なお、被買収企業の資産や負債に含まれない無形資産のことを、超過収益力といいます。
超過収益力はのれんを含む無形資産によって構成されており、超過収益力はM&Aの検討において重要な意味をもちます。
ただし、超過収益力はPPAで認識される無形資産と同一ではありません。
PPAで認識される無形資産は、超過収益力の一部分です。
取得原価(買収価額)の配分とのれんの発生について、例を用いて解説します。

【取得原価の配分とのれんの発生例】

  1. 純資産(時価※)が30の被買収企業を、買収価額130で取得した
※時価に置き換えて評価できない純資産は、簿価で計算します。
  1. 130(取得原価)-30(純資産)=100(純資産を上回った取得原価)
  2. 純資産を上回った取得原価100は、認識可能な無形資産がない場合、のれんとして計上される
この認識可能な無形資産とは、商標や商号、特許などのことです。
「企業結合に関する会計基準」第29項において、無形資産の配分方法は次のように定められています。
  • 受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う。
つまり、PPAにおいて受け入れた資産のうち、分離して譲渡できる無形資産はのれんに含まれません。
無形資産配分後の資産がのれんとなります。
そして、分離して譲渡できる無形資産は、無形資産として個別に計上します。
要約すると、認識可能な資産は無形資産として計上しますが、認識要件を満たさない(分離して譲渡できない)無形資産はのれんとして会計処理するということです。
また、のれんは一定期間内に減価償却する必要があります(のれん償却)。
ただし、のれんがマイナスの場合(負ののれん)は、利益として計上します。

M&AにおけるPPAの実務手続き・流れ

それでは、M&AにおけるPPAの事務手続きや流れなど、PPAで具体的にどのようなことを行うのかについて見ていきましょう。

資料の収集・情報整理

まずは、売り手企業の資料を集めます。
資料の収集は、売り手企業の資産や負債、事業内容などを把握することが目的です。
PPAの分析開始段階で必要な資料が全てそろっていると、評価者による分析がスムーズに進みます。
M&A実施段階からPPAに必要な資料や情報を収集し、整理しておくと良いでしょう。
PPAの分析には、例えば以下のような資料が必要です。

【PPAの分析に必要な資料例】

  • DDレポート(財務、税務、法務など)
  • 買収の概要や目的に関する資料
  • 買収案件に関するインフォメーションメモランダム(売却予定の企業や事業の詳細な情報を記載した資料のこと)
  • 株式譲渡契約書
  • 株式価値の算定レポート
  • 対象会社の将来事業計画
  • 買収対象会社の決算書
  • 対象会社のクロージングB/S

このようなPPAの分析に必要な資料を基に、取得金額と純資産との差額や、PPAにおいて無形資産で計上される金額などについて分析します。
のれんなどの無形資産に注目されがちですが、PPAは取得価額の配分なので、無形資産と有形資産の両方について時価評価を行い配分します。
なお、有形資産を評価したうえで無形資産の評価を行うという流れが一般的です。

買い手企業・対象会社へヒアリング

外部評価者によって、買い手企業の責任者やキーマン、売り手企業のマネジメントを対象にPPAの無形資産に関するヒアリングが行われます。
何を無形資産として計上するのか確認したうえで、売り手企業がもつと思われる無形資産を確認します。
IFRS(国際会計基準)においては、以下のような無形資産が計上されます。

  • 顧客関連の無形資産(顧客リスト、顧客契約など)
  • 芸術関連の無形資産(演劇、書籍、音楽、写真、動画など)
  • 技術関連の無形資産(特許技術、ソフトウェアなど)
  • マーケティング関連の資産(商標、商号、ドメイン名など)
  • 契約関連の無形資産(ライセンス、ロイヤリティ、フランチャイズ契約など)

PPAの無形資産は全て計上されるわけではないため、買収の目的や売り手企業の強みなどを確認して、PPAにおいて識別すべき無形資産(法的要件や分離可能性要件を満たす資産)がないか判断します。

無形資産の識別を行う

買い手企業や売り手企業からヒアリングした情報を基に、PPAの無形資産を識別します。
こうして識別された一定の要件を満たす無形資産が、PPAにおける無形資産として計上されます。

無形資産の価値算定を行う

識別されたPPAの無形資産の価値を算定します。
PPAの無形資産は、主に以下のような方法で評価します。

  • コストアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • インカムアプローチ
さまざまな評価方法から最適な方法を選び、価値算定を行います。
PPAの無形資産の種類や評価方法などによっては、識別された無形資産の価値算定を外部の専門家に任せる必要があります。
主な評価方法の詳細は後述します。

会計監査

PPAの評価結果について、会計監査人による監査を受けます。
会計監査人は、無形資産の計上や評価方法などの妥当性を確かめます。
無形資産の評価については、見積もりの要素を含むため、専門家によって判断が異なることもあります。
会計監査が済めば、PPAは完了です。

会計処理

PPAの会計監査が済み、計上科目や計上額、償却期間が決定したら、決定した内容に従って会計処理が行われます。

PPAで認識される無形資産

PPAにおける無形資産の認識基準は、法律上の権利と無形資産の分離可能性の2点です。
法律上の権利では、法律に基づいて保護される権利が含まれているかどうかが基準となります。
例えば、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)や著作権などが含まれる場合、法律上の権利を満たしていることになります。
無形資産の分離可能性(分離して譲渡可能な無形資産)では、分離して売買することができる無形資産であるかどうかが基準となります。
分離して譲渡可能な無形資産であれば、法律に基づいて保護されていない権利であっても、基準を満たしていることになります。
例えば、特許として登録されていない特殊技術や顧客リストなどがこれに該当します。
このような認識基準を満たさない無形資産は、識別できない資産として、のれん(または、負ののれんの減少)に含まれます。
なお、認識基準は日本基準とIFRSで微妙に差異があり、IFRSでは無形資産の分離可能性は問われません。
また、法的基準を満たさない場合でも、分離可能であれば識別可能と判断されます。
PPAで認識されることがある無形資産には、次のようなものがあります。

顧客関連

  • 顧客リスト
  • 受注残
  • 顧客との契約

マーケティング関連

  • 商標・商号
  • 商業上の飾り
  • 新聞のマストヘッド
  • インターネットのドメイン名

技術関連

  • 特許権を取得した技術
  • ソフトウェア
  • 特許申請中や未申請の技術
  • データベース
  • 製法などの企業秘密
  • 仕掛中の研究開発

契約関連

  • ライセンス
  • 建設許可
  • フランチャイズ契約
  • 営業許可
  • 利用権
  • 雇用契約

無形資産の評価方法

PPAの無形資産の一般的な評価方法は、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチの3つです。
無形資産の特徴によって特定の評価方法を採用したり、複数の評価方法を併用したりして価額を算定します。
ただし、マーケットアプローチに必要な類似の無形資産に関する情報を手に入れることは容易ではありません。
そのため、インカムアプローチやコストアプローチを採用するケースのほうが多いでしょう。

①マーケットアプローチ

PPAのマーケットアプローチとは、類似の無形資産の売買事例など、類似の無形資産が市場で実際に取引される価格を基に無形資産の価値を算出する評価方法です
客観性が高く有効な方法ではありますが、比較的適用が難しい評価方法だといえます。
マーケットアプローチには、次のような方法があります。

  • 売買取引比較法
無形資産の価値を、類似の無形資産の売買取引事例に基づいて見積もります。
  • 利益差分比較法
無形資産を使用している類似事業と使用していない類似事業とを選定し、それぞれの事業をしている企業が達成した利益の差額に資本還元率を適用して、無形資産の価値を見積もります。
  • 概算法
無形資産の売買において使用されることが多い一定の経営指標と、類似する無形資産取引金額とを用いて、無形資産の価値を見積もります。
  • 市場取替原価法
一般市場における無形資産の再調達原価を、その無形資産に関する外部の専門家によって推定してもらいます。

②インカムアプローチ

PPAのインカムアプローチとは、評価対象となる無形資産が将来生み出すキャッシュフローの割引現在価値(将来得られると見込まれる価値を、現時点で受け取った場合の価値)を、当該無形資産の価値とする方法です。
インカムアプローチは企業の将来性に注目した、最もポピュラーな無形資産の評価方法です。
インカムアプローチには、次のような方法があります。

  • 利益分割法
評価対象の無形資産が使用されている事業部門の全体の利益やキャッシュフローなどに対して、無形資産が貢献している割合を見積もります。
  • 企業価値残存法
評価対象の無形資産が使用されている事業の価値を算定し、その額から運転資本の時価や、当該事業に使用している有形資産の時価、当該事業に使用しているその他の無形資産の時価を控除します。
このようにして算出された残額を無形資産の評価額とみなします。
  • 超過収益法
評価対象の無形資産を活用している事業全体の利益から、事業活動で使用しているその他の資産が獲得するであろう利益(キャピタルチャージ)を差引いた残りの利益を基に、評価対象の無形資産を評価します。
  • ロイヤリティ免除法
特許や商標などの無形資産を保有していることにより、第三者から当該無形資産の使用許諾を得るときにかかるロイヤリティが免除されているとみなし、免除されたロイヤリティ額を算定して、無形資産を見積もる方法です。

③コストアプローチ


PPAのコストアプローチとは、評価対象資産を再取得または再生産するために必要なコストを算出して、当該無形資産の価値とする評価方法です。
コストアプローチには、次のような方法があります。

  • 複製原価法
評価対象の無形資産と全く同じ複製を製作するときにかかる現時点でのコストに基づいて、無形資産の価額を評価します。
  • 再調達原価法
評価対象の無形資産と全く同じ効用をもつ無形資産を製作するときにかかる現時点でのコストに基づいて、無形資産の価額を評価します。

PPAの「のれん」評価の注意点

M&Aにおける、PPAののれん評価の注意点を2つ紹介します。

評価額は評価者によって変動する

のれんの評価額は評価者によって変動します。
見積もりの要素を含む無形資産の評価には絶対的な解が存在しないため、評価者によって見解が異なることがあります。
評価の前提条件や評価方法などが不適切である場合、不適切な評価額となるため注意が必要です。

のれんの評価を誤るとのれんの減損が発生する可能性がある

のれんの評価を誤ると、のれんの減損(のれんの価値を修正すること)が発生する可能性があります。
のれんの減損は株価が低下したり、配当金が減少したりするなどの影響を与える可能性があります。
のれんの減損は、本来の価値よりも高い価額で買収したことで高値つかみとなったり、M&A後の引継ぎに失敗したことで想定した効果が得られなかったりするなどの要因によって発生します。
こういった要因は適切なDD(デューデリジェンス:対象事業のリスクを精査する手続きのこと)や、スムーズなPMI(Post Merger Integration:M&A成立後に実施する経営統合プロセスのこと)によって対処できますが、経済環境や株式市況の悪化など、中には主体的に管理することが難しい外部要因もあります。
こうして引き下げられたのれんの価額は特別損失に計上され、計上された分だけ当期の純利益が減少するため、株価の急落が危惧されます。
また、のれんの減損額は資本から補うため、のれんの減損額が大きい場合、配当金が減少したりゼロになったりすることもあり得ます。

PPAには高い専門性が必要!

PPAを実施するためには、高い専門性が必要です。
特にのれんを含む無形資産の認識や評価では、専門知識と実務経験の両方が求められます。
このようにPPAは一般的な会計処理とは異なるため、外部の経験豊富な専門家に相談しながら実施することをおすすめします。

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