M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年5月1日公開事業承継
二段階買収の手続き方法を徹底チェック!目的やメリット・注意点は?
二段階買収(Two-Tier Takeover Strategy)は、買収側が売却側の少数株主から株式を買い集める際に有益な手法です。当記事では、実施目的や手法、メリットやデメリット、過去事例や注意点を交えながら、二段階買収について詳しく解説します。
二段階買収の概要
ここでは、二段階買収の意味と特徴、目的を解説します。
二段階買収とは?
二段階買収(Two-Tier Takeover Strategy)は、会社がM&Aで買収を実施する際、売却側の株式を2段階に分けて全取得することです。売却側の株主が買収に反対する可能性があるため、1度で全株式の取得が難しい場合があります。その際、まず公開買付によって株式を買い付け、次にスクイーズアウトを用いて全株式を取得するのが一般的です。
スクイーズアウトとは、買収への反対株主や少数株主に金銭を支払い、強制的に株式を取得することを言います。二段階買収は、主に株式の全取得(対象企業の完全子会社化)の際に活用されるのがポイントです。
二段階買収の目的
二段階買収は、主に完全子会社化(100%子会社化)を目的に実施されます。何も問題なく全取得できれば必要ありませんが、反対株主が存在する場合、この手法が効果的です。基本的に売却側企業の株式の過半数を取得すれば、経営権を獲得できます。ただ、より円滑に意思決定を反映させるためには、株式の全取得が必要です。
二段階買収の手法と手続き方法
二段階買収では、第一段階としてTOB(公開買付け)、第二段階としてスクイーズアウトを実施します。スクイーズアウトは、少数株主から株式を買い集めるために必要で、4種類の手法を用いるのが一般的です。ここでは、二段階買収の手続きの中で活用される主な手法と特徴を詳しく解説します。
- TOB
- 全部取得条項付種類株式
- 特別支配株主の株式等売渡請求
- 株式交換
- 株式併合
TOB
第一段階として、TOB(公開買付け)を実施します。TOBは、Take Over Bidの頭文字をそれぞれ取ったもので、不特定多数の株主に対し、会社株式の売買を実施することです。TOBを実施する際は、募集株式の下限と上限を設け、価格・期間を知らせる必要があります。設定した株式数に到達すればTOBは成立し、下限に満たない場合は不成立となるのが一般的です。ここで、少数株主以外からの株式取得を目指します。
全部取得条項付種類株式
第二段階として実施されるのが、スクイーズアウトです。以下の通り4つの手法が存在します。
- 全部取得条項付種類株式
- 特別支配株主の株式等売渡請求
- 株式交換
- 株式併合
全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によって全株式を取得できる株式のことです。決議によって承認が得られれば、少数株主から個別に合意を得ずとも、株式を買い集められるため、効果的な手法の1つとして活用されます。この際、株式を対価として交付するのが特徴です。ただし、全部取得条項付種類株式は「種類株式」に分類されるので、会社定款を変更しなければなりません。
特別支配株主の株式等売渡請求
議決権の90%以上の株式を持つ株主を特別支配株主といい、特別支配株主は、会社から承認を受けることで少数株主から株式を買い取れるという仕組みが、特別支配株主による株式等売渡請求です。この手法では株主総会で承認を得る必要がありません。そのため、効率的に株式を買い集められます。ただし、特別支配株主が存在しなければ、別の手法の検討が必要です。
株式交換
株式交換は、売却側の発行済み全株式を買収側に譲渡し、買収側が自社株式や現金によって対価を支払うものです。完全親会社・完全子会社の関係を構築できるため、主にM&Aや組織再編で活用される手法ですが、二段階買収にも活用できます。株式併合によって複数株式をまとめられれば、少数株主の株式を端株(はかぶ)化できるという点が魅力です。端株とは、1株に満たない端数的な株式を指します。
株式併合
株式併合も二段階買収で用いられることがあります。株式併合は、複数株式を1株にまとめることです。1株自体の価値は高まりますが、全体的な株価に影響することはありません。この手法を用いれば、少数株主の株式を端株にできます。1株に満たない端株を保有する少数株主は、株主の権利を喪失するので、結果的に少数株主の排除が可能です。ただし、株式総会の特別決議で承認を得なければなりません。
二段階買収のメリットとデメリット
ここでは、二段階買収のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
メリット
二段階買収には、主に以下のようなメリットがあります。それぞれ詳しく解説します。
- 対象企業の合意なしで買収ができる
- 煩雑な事務手続きを簡素化できる
- 経営リスクを軽減できる
- 株主代表訴訟のリスクが軽減できる
対象企業の合意なしで買収ができる
株式の全取得は、売却側企業が反対する可能性が大いにあります。一般的な買収の場合、株主との個別交渉に多大な労力と時間をかけなければなりません。これに対し、二段階買収なら株主から合意を得ることなく買収を進められるので、効率的であるという点が魅力です。M&Aは多くのプロセスを円滑に進めなければなりません。長期化による失敗を避けるためにも、二段階買収は有益な手段の1つと言えるでしょう。
煩雑な事務手続きを簡素化できる
株主が多ければ多いほど、事務手続きが煩雑化します。例えば、株主総会を開催する場合、それぞれの株主に招集通知を送付しなければなりません。また、株主総会の開催場所の設営や手配、費用の支払いも必要です。二段階買収で少数株主を排除できれば、これらの作業を減らせます。買収にかかる時間を節約できるだけでなく、事務コストの削減も一緒に期待できるでしょう。
経営リスクを軽減できる
少数株主が増えて株主が分散した場合、会社の意思決定に影響を及ぼすおそれがあります。保有比率にもよりますが、例えば、取締役解任請求や損害賠償請求などの経営リスクが考えられます。M&Aで二段階買収を活用すれば、少数株主を減らせるので、これらのリスクを最小限に抑えながら買収を進められるでしょう。
株主代表訴訟のリスクが軽減できる
少数株主であっても、その会社の株主であることに変わりはありません。業績によっては、経営責任を追及される可能性もあるでしょう。最悪の場合、損害賠償請求や訴訟に発展するリスクも考えられます。このようなトラブルが起きれば、経営停滞により、事業がうまく回らないおそれがあります。二段階買収で少数株主を排除すれば、このようなリスクを最小限に抑えられるため、買収側には有益な手法と言えるでしょう。
デメリット
一方、二段階買収には以下のデメリットに留意が必要です。
- 実施までに時間がかかる
- 対価の支払いが高額になるリスクがある
実施までに時間がかかる
確かに二段階買収は多くの利点がありますが、実施までに時間がかかるという点には留意が必要です。例えば、株主総会や取締役会の開催や各種書類の作成などさまざなプロセスがあります。必要な手続きは会社法によって規定されているので、必要手続きや書類に漏れがあると、やり直さなければなりません。二段階買収は、最短でも20日以上かかると考えて良いでしょう。
対価の支払いが高額になるリスクがある
場合によっては、少数株主への対価が高くなるおそれもあります。対価を現金で支払う際は、公正な価格にしなければならないためです。想定外の出費になる可能性も考えられるので、専門家に相談し、おおよその取得費用を想定しておくと良いでしょう。少数株主の数によっては、多額の資金調達が必要なケースもあります。
二段階買収の相談先
二段階買収は効率的に少数株主を排除できるため、買収側には多くの利点があります。ただ、手続きを進める上で専門知識が求められるので、専門家によるサポートが必要です。ここでは、二段階買収やM&Aの相談を受け付ける専門機関を2つ紹介します。
- 金融機関
- M&A仲介会社
金融機関
上で説明しました通り、二段階買収では多額の資金が必要になるかもしれません。M&Aの資金調達に関する相談は銀行などの金融機関で受け付けます。M&Aの専門知識を持った行員が在籍する銀行も存在します。取引先の銀行ならば、自社の経営事情を熟知しているため、より現実的な助言・提案が受けられるでしょう。ただし、金融機関はM&Aの専門機関ではないので、サポート範囲が限られるという点には留意が必要です。
M&A仲介会社
二段階買収を含め、M&Aの買収に関する総合的な相談は、M&A仲介会社の利用をおすすめします。名前の通り、M&Aに特化した専門機関なので、手法策定やマッチング、手続き仲介までワンストップでサービスを受けられるという点が強みです。
サポートを正式依頼する場合、着手金や中間金、成功報酬といった仲介手数料がかかるので、契約前に料金体系を把握しておくと良いでしょう。売却側に着手金や中間金が原則かからない、完全成功報酬型のM&A仲介会社もおすすめです。
二段階買収の事例
ここでは、実際に二段階買収が実施された事例を3つ紹介します。公式で発表されたIR情報の詳細については、各事例の下に掲載のリンクから参照できます。
- 日本生命が三井生命を株式等売渡請求にて買収
- ユニゾン・キャピタルが旭テックをTOBで買収
- ZホールディングスがLINEをTOB・株式交換・吸収合併にて子会社化
①日本生命が三井生命を株式等売渡請求にて買収
国内の保険会社大手2社による事例です。特別支配株主による株式等売渡請求の方法で二段階買収を実施しました。商品ラインアップの拡充や新商品開発における協業など、シナジー効果を期待できると判断し、完全子会社化を実現させています。
売却側 | 三井生命(現在は大樹生命) (生命保険・医療保険事業等) |
---|---|
買収側 | 日本生命 (生命保険事業・付随業務) |
手法 | 株式等売渡請求 |
目的 | ・商品ラインナップの拡充化 ・新商品の開発や拡販面での協業 ・教育ノウハウの共有 ・シナジー効果の創出 |
時期 | 2016年1月 |
②ユニゾン・キャピタルが旭テックをTOBで買収
投資ファンドと自動車部品メーカーによる事例です。第一段階では、大株主から株式をTOBで買付け、第二段階として一般株主から残りの株式をTOBで買付けています。ファンド側は売却側の支援の一環、売却側は経営効率化と海外における自動車部品事業の拡大を主な狙いとしています。
売却側 | 旭テック (自動車部品の製造) |
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買収側 | ユニゾン・キャピタル ※対象子会社:ATCホールディングス2号 (投資ファンド) |
手法 | TOB(公開買付け) |
目的 | ・ファンド側によるノウハウや人材面での支援の一環 ・経営効率化 ・売却側の中国・タイにおける自動車部品事業の拡大 |
時期 | 2011年12月 |
③ZホールディングスがLINEをTOB・株式交換・吸収合併にて子会社化
ヤフーで知られる国内インターネットサービス大手と、LINEによる事例です。TOBを実施した後、株式交換と吸収合併により子会社化を実現しました。双方の経営資源がかけ合わさることで、コマースやECなどさまざまな分野でシナジー効果が生まれると判断しました。
売却側 | LINE (コミュニケーションアプリ「LINE」事業) |
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買収側 | Zホールディングス (インターネットサービス大手) |
手法 | TOB(公開買付け) 株式交換 吸収合併 |
目的 | ・コマース分野の統合 ・配送の利便性向上 ・双方における決済方法の統一 ・シナジー効果の創出 |
時期 | 2021年3月 |
二段階買収の注意点
ここでは、二段階買収を実施する上での注意点を2つ解説します。
- 買収企業のイメージダウンにつながる場合がある
- 訴訟に発展する可能性もある
買収企業のイメージダウンにつながる場合がある
対象外社から合意を得る通常の買収とは異なり、強制的な買収となるため、二段階買収では買収側企業のイメージが低下するおそれがあります。少数株主とはいえ同じ株主なので、トラブルを避けるためには、相手の立場を尊重しながら丁寧に説明することが大切です。
訴訟に発展する可能性もある
中には、買収価格に合意できない少数株主も出てきます。場合によっては、株主保護の制度を活用し、訴訟を起こされるリスクがあるという点には留意してください。リスクを最小限に抑えるためにも、できるだけ公正な買収価格にすることが重要です。
二段階買収はM&A専門家への相談がおすすめ!
二段階買収は、売却側の少数株主から効率的に株式を買い集められる有益な手法の1つです。対象企業から合意を得なくても買収を進められるなど多くの利点がありますが、少数株主からの損害賠償請求や訴訟といったリスクにも留意しなければなりません。
できるだけ円滑かつ円満な二段階買収につなげるためには、専門家のサポートが必要です。実施の際は、一度M&A仲介会社など専門知識を持つプロフェッショナルに相談することをおすすめします。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。