M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年11月17日更新会社・事業を売る
M&Aで用いる契約書とは?種類や契約手順もわかりやすく紹介
M&Aで用いられる契約書およびそれに準ずる書類は、機密保持契約書、仲介契約書、アドバイザリー契約書、意向表明書、基本合意書、最終契約書です。本記事では、それぞれのM&Aの契約書の概要やポイントなどを解説します。
目次
M&Aで用いる契約書の種類とプロセスの手順
まずは、M&Aプロセスと対応する契約書の種類を紹介します。プロセスと契約書の概要は下記のとおりです。
M&Aプロセス | 用いられる契約書 |
---|---|
①M&A仲介会社の選択と契約 | 仲介またはアドバイザリー契約書 |
②M&Aの相手候補を選択 | 機密保持契約書・意向表明書 |
③交渉と基本合意書の締結 | 基本合意書 |
④デューデリジェンス | ー |
⑤最終契約を締結 | 最終契約書 |
⑥クロージング | ー |
①機密保持契約書
機密保持契約書は、M&Aの検討時点で最初に締結する契約です。M&Aをスムーズに進めるためには、公表できるタイミングまで関係者以外にはM&Aを検討していることを秘密にします。
従業員や取引先へ知らせるタイミングなどを間違えると、従業員の退職や取引停止などがリスクが生うじるので注意が必要です。また、相手の情報をM&A以外の目的に使ったり、許可なく情報を開示したりしてはいけません。
②仲介・アドバイザリー契約書
仲介・アドバイザリー契約書は、M&Aの専門家と締結します。一般に、M&Aをサポートするファイナンシャル・アドバイザリーやM&A仲介会社などとの間で、契約金額や委託する業務内容などが記された契約書です。
③意向表明書
意向表明書は、M&A交渉を開始する際に買収側が交渉内容に関して提案する書類です。交渉する前に、当事者間である程度の条件について目線を合わせるために提示されます。ただし、提示が義務付けられているわけではありません。
④基本合意書
最終契約書の締結にとって重要な条件に関して、合意した内容を確認するために締結するのが、基本合意書です。合意内容確認書という位置付けであり、基本的に法的拘束力を持ちません。
⑤最終契約書
最終契約書は、当事者間で最終交渉に合意し、M&A実行を成約するために締結します。実際の名称は、M&Aスキーム(手法)によって変わり、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、総株引受契約書、合併契約書などです。この契約書によって、譲渡価額や条件などが定められます。
M&Aの機密保持契約書
機密保持契約書は、開示された情報を第三者に漏えいしない、またはM&Aの検討以外で使用しない旨を約束するものです。M&Aを行う当事者同士は、事業内容や資産情報の非公開情報を開示するので、当然互いの機密情報を知ることになります。
そのため、情報漏えいには注意を払わなければなりません。特に売り手企業にとってはM&Aの検討自体が機密情報であり、これが周囲に知られると、経営に悪影響が生じる恐れもあります。
このような漏えいリスクを軽減する目的で締結するのが機密保持契約書を締結です。機密保持契約書を締結すると、双方が情報を開示し、より具体的なM&Aの内容を検討できるので、M&Aの初期段階で非常に重要な役割を持っています。
機密情報の定義・範囲
機密保持契約書では、どの情報が機密に該当するかを明確に定義することが重要です。M&Aの過程では、書面に限らず口頭での情報交換も多く、様々な情報が開示されるため、すべてが機密情報として扱われると非合理的な場合もあります。
このため、機密情報に含めない情報のカテゴリーを定義し、合理性のないものは除外するのが一般的です。通常、以下のような情報が除外されます。
- 既に公知の情報や、受領者の行為によらず公知となった情報。
- 受領者が契約前から知っていた情報。
- 秘密保持義務を負わない第三者から正当に取得した情報。
- 受領者が独立して開発した情報。
これらの規定により、機密保持契約の合理性を保ちつつ、M&Aを進める際の情報管理がスムーズになります。
機密保持契約書のポイント
機密保持契約書を作成する際は、どこまで機密保持の対象とするかがポイントとなります。もし契約書で範囲外の事項を漏えいされても、責任を問うことはできません。
M&Aの相手に責任追及できるのはあくまでも機密保持契約書の設定した範囲内です。したがって、契約書を作成する際は、機密保持の範囲は慎重を決定する必要があります。機密保持契約書のポイントとなるのは、次の2点です。
- 機密を漏えいされた際の責任も明記する必要がある
- 機密保契約書に記載しなければ賠償請求が認められない場合がある
なお、契約書の内容に関係なく、相手企業の情報管理は徹底しておくことが重要です。M&A取引は互いを信頼できなければ決して成功しません。ペナルティがあるからなどの理由ではなく、情報管理の徹底は不可欠です。
また、機密情報の範囲に含まない情報を定義して除外することはよくあります。除外となることの多い情報は以下のようなものです。
- 情報開示された時点ですでに公知の情報
- 情報開示後、自己の責に帰し得ない事由で公知となった情報
- 情報開示された時点で、すでに保有していた情報
- 正当な権限を持つ第三者から機密保持義務を負うことなく開示された情報
機密保持義務の有効期限・その他の取り決め
機密保持義務には有効期限があり、一般的には1年~5年です。ほとんどのケースで、機密保持契約の契約期間が終わっても、一定期間内は機密保持義務が続くことが規定されています。
まれですが、相手側から得た技術情報がすでに自社で開発済みの情報であるときは、独自開発の技術なのか否かという問題が起こるかもしれません。重要な技術情報などは確定日付・開発結果を保存して、有効期間内に得た情報でないことを明らかにする準備も必要でしょう。
その他の条項としては以下のとおりです。損害賠償は、契約に違反したときに被る損害を賠償することに関して規定します。
- 機密情報の使用と競業の禁止
- 機密情報の返還・破棄
- 損害賠償
機密情報の返還と廃棄
企業が合併や買収の話をして、結局話がまとまらなかったとき、どうやってその間に共有した秘密情報を扱うかというルールがあります。このルールは、情報が漏れたり、本来の目的以外で使われることを防ぐためです。
従来は、紙の書類で情報を共有していたので、簡単に返せたり破棄できたものです。しかし現在はデジタル情報が多いので、すべての情報を完全に削除したか確認するのは難しいです。
こうした理由で、最近ではこのルールも柔軟に適用されることが多いです。それでも、情報をちゃんと破棄したかどうかを証明するために、「廃棄証明書」を出すこともあります。
M&Aの仲介契約書
M&A仲介会社との契約には2種類あります。その1つがM&A仲介契約で、実際には「M&A仲介業務委託契約書」などと呼ぶことが多いです。この契約の場合、M&A仲介会社は、売り手・買い手双方と契約して両者の間に入って仲介業務を行います。
M&A仲介契約書の注意点は、専任条項を設けるかどうかということです。M&A仲介会社に依頼する際、仕事内容に納得がいかなければ別の会社に依頼したくなるのは当然でしょう。しかし、専任条項が設けられていれば、M&A仲介契約書を専任契約にしてしまう作用が生まれます。
そうなれば、業務内容・対応に納得できなきM&A仲介会社だったとしても、専任条項の契約を交わした以上、他社へ依頼することはできません。もし他社へ依頼すれば、賠償金を支払わなければならない事態に陥る可能性もあります。
通常、専任条項はM&A仲介契約書に設けませんが、専任条項を設けてクライアントを逃さないM&A仲介会社もあるため、契約内容はよく確認することが重要です。
M&A契約における双方代理
双方代理は、M&A仲介に関わる買い手となる会社と売り手となる会社双方の代理となることを意味します。大手や一般的なM&A仲介会社ではM&A仲介契約書に設ける条項なので、一見それほど問題があるようにみえません。
しかし、M&Aではより安く会社を買収したいと買い手側は考え、売り手側はより高く自社を売却したいと考えるのが普通です。双方の利害が衝突してしまうことも多いため、どちらかあるいは双方の譲歩によってM&A契約は成立しますが、当事者にとっては譲歩した分だけ、出費が増えたり利益が減ったりすることになります。
M&A仲介会社が双方代理の立場の場合、優先のは依頼した側の利益よりM&Aの成立です。その結果、依頼した側を譲歩させ利益を損なわせたうえでM&Aを成約させる可能性もでてきます。
そのため、双方代理はM&A仲介会社と依頼した会社間におけるトラブルの温床になりやすく、実際に訴訟に発展したケースもありました。
専任条項にせよ双方代理にせよ、いずれも依頼する会社の利益を損なわせる恐れもあります。M&A仲介会社と契約を結ぶ際は、記載された条項をすべて確認しましょう。
M&Aのアドバイザリー契約書
M&A仲介契約書はM&A仲介会社が売り手・買い手双方と契約しますが、アドバイザリー契約書では売り手・買い手のどちらかとのみ契約します。
アドバイザリー契約のM&A仲介会社は、顧客(契約相手)の利益を最大限にすべく交渉を進めるため、仲介契約の場合よりも交渉が長引く傾向が多いです。また、妥協をしないために交渉が破談する可能性もありえます。
仲介契約とアドバイザリー契約のどちらを選ぶかは契約の行方を左右しかねないため、M&Aを検討し始めた段階でよく考えておくことも大切です。
アドバイザリー契約書の内容
一般的なM&Aアドバイザーの業務内容は以下のとおりであり、これが提供業務としてアドバイザリー契約書にも記載されます。
- 業務依頼企業におけるM&A戦略の考察・提案・策定
- 業務依頼企業が売却側の場合、企業価値算定と売却目標価額決め
- 業務依頼企業が買収側の場合、デューデリジェンスの実施
- 各種資料や契約書ドラフト作成
- M&Aに関わる他の専門家との各種調整
- M&A取引候補探しと、その調査
- M&A取引候補との条件交渉
- 各プロセスにおけるアドバイス
アドバイザリー契約書のドラフトに記載してあるM&Aアドバイザーの提供業務で、上記に含まれていないものがあれば締結前に確認しましょう。
業務依頼企業が買収側の場合、M&A仲介会社によっては、M&A後の経営統合プロセス(PMI=Post Merger Integration)のサポートも行う会社があり、別途、依頼が可能です。PMIサポートを依頼する場合は、M&Aの成約報酬とは別報酬となります。
アドバイザリー契約書のポイント
アドバイザリー契約書の中でM&Aアドバイザーの業務内容とともにポイントとなるのは、報酬に関する取り決めです。M&A仲介会社それぞれで報酬体系は異なるものの、手数料の名目やその意味合いは共通ですので、それらをまとめて紹介します。また、報酬に関しては、M&A仲介契約の場合も内容は変わりません。
M&Aアドバイザーの報酬体系
M&A仲介会社へ業務依頼する場合に発生し得る手数料は、以下の5種類です。
報酬名 | 内容 |
---|---|
相談料 | アドバイザリー契約締結以前における相談段階での手数料。現在、多くのM&A仲介会社では無料。 |
着手金 | アドバイザリー契約の締結時に発生し得る手数料。完全成功報酬制の会社では発生しない。 |
リテイナーフィー | コンサルタント料などとも表現される。アドバイザリー契約締結後、成約するまで毎月、定額を支払う。完全成功報酬制の会社では発生しない。 |
中間報酬 | M&A当事者間で基本合意書を締結した時点で発生する手数料。基本的に成功報酬額の一部前払いとなるケースが多い。完全成功報酬制の会社では発生しない。 |
成功報酬 | M&Aが成約しクロージングとなった際の手数料。レーマン方式により報酬額が計算されることがほとんどだが、最低成功報酬額を設定している会社もある。 |
レーマン方式
M&Aの成功報酬額は、ほとんどの会社でレーマン方式と呼ばれる計算方法を用います。具体的には下表のとおり、基準額に対して定められた手数料率を掛け合わせて金額帯ごとに手数料を計算し、それを合算した額が成功報酬額です。
基準額 | 手数料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
50億円超~100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
注意が必要なのは、基準額がM&A仲介会社によって異なる点です。大別すると、以下の3タイプがあります。
- M&A成約額(≒株式価額)
- 企業価値(株式価額+有利子負債)
- 移動総資産(株式価額+負債総額)
基準額がどれになるかで大きく成功報酬額が変わりますので、アドバイザリー契約時は細かく確認し納得したうえで締結しましょう。
アドバイザリー契約書の免責事項
アドバイザリー契約書には、通常、故意や重大な過失を除いてアドバイザーが免責される条項が含まれます。重要なのは、意思決定の責任は企業側にあるということです。
つまり、アドバイザーの提案や助言に基づいても、最終的な決定は企業側が行い、その結果に対する責任も企業側が負う必要があります。案件が成立しなかった場合でも、専門家はその責任を負わないため、企業側はこの点をよく理解し、慎重な判断が求められます。
M&Aの意向表明書
意向表明書は「LOI(Letter Of Intent)」とも呼ばれ、基本的に買い手が売り手に提出する書類です。意向表明書には相手の会社を買収する意志や買収の目的、買収価額、資金調達法、M&Aのスケジュール、M&Aスキームなどが記載されます。
売り手にとって、意向表明書は買い手となる会社を選ぶ際の目安です。複数の買い手候補がいる場合は意向表明書の内容を判断材料にして買い手を選びます。
また、売り手に複数の買い手候補がいる場合は、意向表明書の内容が交渉テーブルに着けるかどうかを決めるといっても過言ではありません。
①買い手側の概要
最初に会社紹介として、買い手側企業の概要を意向証明書に記載します。子会社があるケースではグループの概要も含め、以下が主な記載内容です。
- 会社名と本社の所在地
- 事業内容
- 従業員数
- 過年度損益
- (グループ概要)
②M&Aによる買収の目的
M&Aにおける買収の目的を記載します。シナジー効果の創出や事業拡大、新規事業進出など、明確な目的を記載しましょう。
③M&A手法・スキーム
④M&Aの取引条件・買収額
M&Aスキームを記載することで、買収内容が明確になります。そこで、M&Aスキーム・買収内容に応じた希望買収価額を記載しますが、その計算根拠も示さねばなりません。また、デューデリジェンス以前の現在の情報のみの計算結果であり、後日、変更になる可能性もつけ加えます。
⑤資金調達の方法・手段
買収価額をどのように調達するかの説明も記載します。基本的には、「手元資金」か「金融機関からの融資」のどちらかでしょう。
⑥今後のM&Aスケジュール・計画
意向表明提出後のスケジュール展望を記載します。具体的には、契約交渉期間、デューデリジェンス、社内手続き、最終契約締結日、クロージング日などの見通しについてです。社内決裁の時期や要する時間はスケジュールに影響するため、漏らさず記載しましょう。
⑦独占交渉権の付与について
買い手としては、一定期間、売り手が他の買い手候補と接触できなくなる独占交渉権は、ぜひ得たい条件です。したがって、意向表明書においても、交渉過程において独占交渉権を希望する旨を表明しておきます。
⑧デューデリジェンス(買収監査)実施・費用負担
デューデリジェンスの予定実施範囲や費用なども記載します。財務・税務・法務・人事・ビジネス・ITなどが対象で、費用は記載しますが、負担するのは全額、買い手側です。士業などの専門家に依頼するので、依頼先の記載も必要となるケースがあります。
⑨M&A後の経営方針
M&A後の経営方針などは、売り手へ多大な影響を与えます。従業員の引継ぎは、従業員を守りたい売り手経営陣にとって重要です。そのため、M&A後の経営方針を示し、場合によっては、経営陣の体制や事業戦略などを記載するケースもあります。
⑩法的拘束力がない旨
意向表明書は、買い手側の考えを表明する目的の書類であり、法的拘束力を伴いません。念のため、その旨を記載します。しかし、記載した項目が今後の交渉における前提ともなるので、記載内容には留意が必要です。
⑪その他の注意事項
意向表明書は、他社より有利な条件を示すことがポイントです。そのため、補完できる項目を記載すると入札などで有利になります。意向表明書で特に重要なのが買収価額です。他社の条件よりもよく見えるよう、買収額をサポートできる情報を記載しましょう。
M&Aの基本合意書
M&Aの基本合意書は、交渉がある程度、進んだ段階で締結されるものです。M&Aのプロセスが、大詰めの段階に入ったともいえるでしょう。
基本合意書とは
M&Aの条件交渉が大筋で合意をみたときに締結するのが、基本合意書です。ただし、基本合意書は、現時点での合意内容確認書という位置付けであり、基本的に法的拘束力を持ちません。法的拘束力を持たないということは、破談となっても双方にペナルティは発生しないということです。
実際に、基本合意後に破談となったM&A事例も数多くあります。ただし、基本合意書に記載される条項の中で、例外的に法的拘束力を持たせるのが以下の3点です。
- デューデリジェンスへの協力
- 独占交渉権
- 機密保持
また、基本合意書が締結されると、買い手側によるデューデリジェンスが実施されます。
基本合意書の締結目的
一部の項目を除き法的拘束力を持たない基本合意書ですが、その締結により心理的な拘束効果は得られると考えられています。それこそが、まさに基本合意書締結の目的といえるでしょう。合意した以下のような内容を基本合意書に記載することで、最終交渉に向けた制御とします。
- 合意した条件
- M&A契約予定日
- デューデリジェンスに関する事項
- 独占交渉権
- 有効期限
- 機密保持
- 法的拘束の範囲
基本合意書の内容
基本合意書に記載される項目の中で主要なものについて、個別に概要を記します。
- 採用するM&A手法
- 取引の条件
- クロージングの前提条件・その他の条件
- 今後のM&Aスケジュール
- デューデリジェンスの協力義務・費用負担
- 独占交渉権
- 有効期間
- 準拠法・管轄の規定
①採用するM&A手法
採用するM&A手法は、合意したものを記載します。たとえば事業譲渡の場合、対象となる資産や負債の記載が必要です。しかし、基本合意書では、おおよその資産や負債などのみ記載することがよくあります。
②取引の条件
金額は取引の条件で重要な内容です。しかし、基本合意書締結の段階は最終決定ではないため、一般的に一定の幅を持って記載されます。
③クロージングの前提条件・その他の条件
取引を進めるとき、最終契約を締結する際に前提となる条件があれば記載します。従業員の引継ぎなど、その他の条件となることが考えられる条件も記載が必要です。基本合意書は売り手と買い手が合意した項目なので、合意した重要な条件が記載されます。
④今後のM&Aスケジュール
最終契約締結へ向けた、これからのスケジュールを記載します。デューデリジェンスの時期、最終契約書の締結時期、クロージングなどのスケジュールです。
⑤デューデリジェンスの協力義務・費用負担
売り手に対するデューデリジェンスの義務が記載されることもあります。売り手の協力がないと、デューデリジェンスは効率的に進まないからです。合わせて、デューデリジェンスの費用も記載されます。費用は全額、買い手負担です。
⑥独占交渉権
独占交渉権とは、一定期間、売り手が他の買い手候補と交渉することを禁じるものです。基本合意書締結後から、デューデリジェンス・最終交渉までの期間、買い手としてはぜひとも設定したいのが、この独占交渉権になります。
つまり、基本合意書に独占交渉権を書き加えるには、基本合意締結後、買い手が独占交渉権を得ることも交渉して合意しておかなければなりません。独占交渉権で設定される期間は、一般的に2~3カ月程度です。
⑦有効期間
締結した基本合意書の有効期間のことです。デューデリジェンスや最終交渉、最終契約書締結を考えて、有効期間は余裕のある期間で設けます。独占交渉権の項目があれば、その期間との調整が必要です。
⑧準拠法・管轄の規定
一部に法的拘束力を設定している基本合意書ですから、万が一のために準拠法・管轄裁判所も決めて記載する必要があります。売り手と買い手が日本企業であるM&Aでは、準拠法は日本法です。管轄の裁判所も日本の裁判所で、一般的に当事者の本社がある地域の裁判所になります。
また、特に海外企業とのM&Aの場合は、基本合意書に違反したときの法的措置を考えて、準拠法や管轄を必ず規定しましょう。
基本合意書の締結タイミング
基本合意書は、意向表明書のように一方の当事者が作成・提出するものではありません。したがって、基本合意書の締結時期自体も、M&Aの条件交渉の中での合意が必要です。具体的には、以下のような項目での大筋合意ができたときが、基本合意書の締結時期になります。
- M&Aの取引価額
- M&Aの手法
- M&Aの手法内容に応じた取引対象
- M&Aに付随して重要な合意事項(従業員の処遇、M&A後の経営体制・経営戦略)
- M&Aに付随して売り手が希望する条件(社名・屋号を変更しないなど)
- ロックアップ条項(事業譲渡・会社分割以外のM&Aのクロージング後、経営者が会社にとどまり経営の引継ぎや経営統合プロセスに協力する場合の期間)
- 独占交渉権
- デューデリジェンスへの協力(売り手)
- 基本合意書の締結
基本合意書のポイント
基本合意書では、以下の3点について例外的に法的拘束力を持たせるのが一般的です。
- デューデリジェンスへの協力
- 独占交渉権
- 機密保持
ここまでの交渉において、売り手側の経営情報はほとんどが開示されているはずです。しかし、買い手としてはM&A後のリスク発覚は絶対的に避けたいことですから、売り手のデューデリジェンスへの全面協力に法的拘束力を持たせ、要求した情報を全て開示する義務を負わせる必要があります。
複数の買い手候補が存在するM&Aの場合、買い手にとって独占交渉権は非常に効果的です。独占交渉権を設定すれば、買い手は他社にだし抜かれずにM&Aを実行できます。しかし、売り手は、より有利な条件でのM&Aの可能性を破棄することになるため、丁寧な合意交渉が必要です。
M&A交渉開始時点で機密保持契約書は締結済みですが、念には念を入れて、基本合意書の内容も機密事項として、その保持を規定しておきます。
M&Aの最終契約書
ここでは、M&Aにおける最終契約書について解説します。
最終契約書とは
M&Aの当事者同士が最終交渉で完全に条件合意したら、最終契約書の締結です。最終契約書を締結し、対価を支払った時点でM&Aの手続きが終わります。便宜上、最終契約書とよんでいますが、実際には、用いるM&A手法名の契約書名となり、具体例は以下のとおりです。
- 株式譲渡契約書
- 株式交換契約書
- 株式移転契約書
- 事業譲渡契約書
- 合併契約書
- 会社分割契約書
最終契約書の締結目的
最終契約書の締結目的は、合意内容を明示し法的拘束力を持たせて、お互いに契約内容の履行に義務を持たせるためです。したがって、最終契約書の締結以降、契約内容に違反した側は、相手方から損害賠償請求を受けることになります。
そのため、最終契約書では、賠償・補償についても定めるのが常です。
最終契約書の内容
最終契約書の内容は、M&Aの手法によって異なります。買収の場合、買収当事者間で法的に取り決められている項目が存在しません。したがって、当事者間で契約書の内容を決めます。
合併や会社分割は、会社法で定められた組織再編行為であることから、会社法の規定に基づいた契約書となるのです。また、法定契約とは別に、最終契約書が締結されるケースもあります。M&Aで締結する最終契約書の主な内容は、以下のとおりです。必要に応じて下記以外もつけ加えられます。
- 売買条件
- 手続条項
- 前提条件
- 表明保証
- 順守事項
- 補償条項
- 解除条項
- 一般条項
最終契約書の締結タイミング
基本合意書の締結後、買い手により売り手へのデューデリジェンスが実施されます。売り手の経営規模によりデューデリジェンスの期間は、まちまちです。短ければ2週間程度、長ければ2カ月以上かかる場合もあります。
買い手は、士業などのデューデリジェンス担当者から、その内容報告を受け最終交渉に臨みますが、その際の対応は以下のとおりです。
- デューデリジェンスで特に問題が出なかったケース:基本合意書どおりの条件とする
- デューデリジェンスで問題があったケース:問題点に該当する分を減額した条件に変更する
- デューデリジェンスで良い内容がわかったケース:基本合意書よりも条件を増額する
- デューデリジェンスで深刻な問題が発覚したケース:破談を申し込む
上記のようにデューデリジェンスの結果次第で買い手の対応は分かれますが、いずれにしろ、デューデリジェンス後、最終交渉が行われ、そこで売り手と合意が形成されれば、最終契約書の締結となります。
最終契約書のポイント
最終契約書のポイントを紹介します。いずれのポイントも、要となるのは法的拘束力のあり方です。売り手と買い手双方が最終的に合意し約定を交わすため、必然的に法的拘束力が存在します。
したがって、仮に最終契約書の締結後にどちらかが契約を解除したり破棄したりするなど約定を違える行為をした場合、もう一方の当事者は、違約金の支払いや損害賠償請求を行うことが可能です。
①取引対象物の特定・M&Aの合意
株式譲渡契約書では、取引対象物は株式であり株式数も記載し、事業譲渡契約書では、事業譲渡対象の資産・負債を記載します。譲渡価額は対価を記載し、手法により対価の一部を退職慰労金で支払うケースは、その旨も記載することが必要です。
譲渡条件は、価額の調整条項、アーンアウト条項、エスクロー条項などがあるときに記載する必要があります。
②表明保証事項
契約にあたり、双方の企業の一定事項が真実である証明をする事項です。M&Aで起こるトラブルの多くは、表明保証事項をめぐって発生します。表明保証事項により、買い手企業の調査だけでは発見できないリスクを回避できるのです。
表明保証事項の内容に相違があれば、後日、損害賠償を請求できると定めます。その結果、買い手のリスクを減少させるのです。買い手企業は、最終契約書で表明保証条項を入れないことはありません。具体的な表明保証事項は、一般に数十項目に渡ります。
③順守・誓約条項
双方の企業が契約内容を順守する約束です。順守事項は、主に下記内容を定めます。
- 最終契約書締結日からクロージング日までに、売り手企業が重要な資産を処分しない
- 最終契約書締結日からクロージング日までに、会社に重要な変更をもたらす経営判断を行わない
- 競合禁止条項
- クロージング開始後すぐに業務を遂行する
④前提条項・クロージング条項
これまでの契約に関する反すうを行わなければ、M&Aを実施しないと定める条項です。多くのケースでは、表明保証条項や順守事項に違反がない旨を確認します。官公庁に届けが必要な場合や、独占禁止法の届けを提出する必要があるときは、届け出自体が前提条項です。
つまり、表現保証条項や順守条項を、あらためて強調する条項です。
⑤賠償・補償条項
一方が表明保証条項や順守条項に違反した際に、もう一方が損害賠償を請求するための条項です。M&Aでは、買い手側にどの程度、損害が発生したのか明確にならないケースが少なくありません。そのため、損害の程度を証明するのは、買い手の責任です。
買い手はさまざまな事態を予測したうえで、規定する必要があります。売り手側は、損害賠償を請求される事態が起きると大きな損失につながるため、損害賠償は譲渡価額の一定額を超えないものと記載するのがよいでしょう。
また、損害買収請求を行える期間も設定します。期間は決算時期を考慮し、1年以内とするのが一般的です。
⑥解除条件
クロージングまでに一定事由が起こったときに解除できる旨の記載です。最終契約書の締結からクロージングまでは、一般的に一定の期間があります。
その間にクロージング条項を満たすなどの行動が予定されるため、最終契約書を締結したときに考えられなかったことが生じるケースに備えて規定されるのです。
⑦その他の条項
その他の条項として、競業の禁止や秘機密保持義務、準拠法などが記載されます。原本の取り扱い、契約当事者の名前、住所などは最終部分への記載です。なお、事業譲渡などで譲渡対象が多岐にわたる場合、最終契約書の別紙として譲渡目録を用意し、最終ページにとじます。
M&Aの契約書を作成する際の注意点
M&Aの契約における注意点は、専門家のチェックを受ける点が挙げられます。その理由は、M&Aの契約はお互いの交渉の結実ですが、表明保証条項や順守条項など今後の立ち回りや経営に関する制約も含められるからです。
そこには、買い手と売り手がお互いにフェアな関係でいられる内容が設定できるよう注意する必要があります。また、M&A契約における書式の参考として、インターネット上のひな型やサンプルを使う経営者も多いですが、そのまま流用するのはあまりおすすめできません。
インターネット上のひな型やサンプルが信頼できるものであればよいですが、その中身が実際に行っているM&Aと合っているかどうかはまた別の問題です。実際に行うM&Aの内容に合っていなければ、達成できない条件が盛り込まれてしまう恐れもあります。
M&A契約の際は、M&Aの内容や契約書を専門家にチェックしてもらいましょう。弁護士や司法書士などのプロフェッショナルは、契約内容や契約書の問題点をしっかりチェックしてくれます。
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M&Aで用いる契約書のまとめ
M&Aの契約書には多くの専門的な用語が記載されており、困惑するかもしれません。しかし、契約内容の多くは「うそをつきません」、「約束は守ります」、「違反をしたらお金を払ってもらいます」といっているだけです。
M&Aの契約書は、売り手・買い手企業の双方にとって、良いM&Aにするために作成します。M&Aを成功させるためにも、契約書は適正に作成することが必要です。そのためには、M&AアドバイザリーからM&A契約書作成のサポートを受けるのがよいでしょう。
豊富な経験や専門知識のもとで進めれば、売り手・買い手企業にとって、良いM&Aになるはずです。
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