M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年10月28日更新会社・事業を売る
株式等売渡請求とは?特別支配株主の株式等売渡請求によるスクイーズアウトの手続きを解説
会社法改正で新たに設定された株式等売渡請求は、少数株主排除(スクイーズアウト)を可能とする制度です。本記事では、株式等売渡請求の概要やメリット・デメリットとともに、スクイーズアウトの具体的な各種プロセスなどを解説します。
目次
株式等売渡請求とは?
事業承継やM&Aの実施件数が増えてくるなか、経営権の分散を防ぐことは経営者にとって重要な課題です。「株式等売渡請求」は経営権の集中につながるため、この課題に対して非常に有効な解決策となります。
株式等売渡請求に関する知識は、事業承継やM&A実施における必須の知識です。この記事では、株式等売渡請求の概要をわかりやすく解説します。
はじめに、株式等売渡請求の意味と使用場面を解説します。使用場面にはいくつか種類がありますので、それぞれのケースに合った使用ができるよう基本的な事項を押さえておきましょう。
株式等売渡請求の意味
株式等売渡請求とは、少数株主に対して、当該株式を売り渡すことを請求できる制度です。同意を得ずとも強制的に取得できる点が、株式等売渡請求の特徴とされています。2014(平成26)年の会社法改正により新たに導入され、2015(平成27)年5月より施行されました。
株式等売渡請求の使用場面
株式等売渡請求は、相続(事業承継)や100%子会社化、少数株主の排除などの場面で活用されます。特に完全子会社化の手段として、株式等売渡請求は有効性が高いです。従来(会社法改正前)、上場企業を完全子会社化するためには、二段階買収を実施するケースが一般的でした。
二段階買収とは、TOB(公開買付け)により、株主総会における特別決議を可決できるだけの株式を取得し、全部取得条項付種類株式または株式交換を用いて買収することです。
平成26年度の会社法改正により、全部取得条項付種類株式や株式交換の代わりに、株式等売渡請求を活用すれば完全子会社化を実現できるようになりました。株式等売渡請求によって、従前に比べて容易に完全子会社化を実行できるようになりました。
平成27年施行改正会社法・株式等売渡請求制度について
ここでは、株式等売渡請求制度の概要として、その根幹である「要件」と「対象となる株式」を掲示します。
株式等売渡請求制度の要件
株式等売渡請求を実施できるのは特別支配株主に限られています。これが株式等売渡請求制度の要件です。特別支配株主とは、90%以上の議決権分の株式を所持している株主を意味します。
特別支配株主の定義には注意が必要です。複数の個人や会社が合意して、90%以上の株式(議決権)を持つグループを形成しても、そのグループは特別支配株主にはなれません。特別支配株主は、1人または1社と規定されています。
上記の例のような場合、1人または1社に株式の所有権を集約させなければなりません。ただし、1人または1社が100%の株式を保有している別の会社(特別支配株主完全子法人)が関連する場合は、例外規定があります。
1人または1社が特別支配株主完全子法人と合わせて、当該会社の株式を90%以上所有している場合は、特別支配株主と見なされるのです。特別支配株主の必要所有議決権数は、定款で90%超に定められることも可能です。
株式等売渡請求制度の対象となる株式
株式等売渡請求制度では、これを実施する際に、特別支配株主が所有する以外のすべての株式を対象としなければなりません。複数の少数株主がいる場合に、相手を選んで株式等売渡請求は行えません。これも、ある意味で要件といえます。ただし、当該会社が所有する自己株式と特別支配株主完全子法人が所有する株式は、対象から除外されます。
株式等売渡請求のメリット・デメリット
この章では、株式等売渡請求のメリットとデメリットを解説します。それぞれを踏まえて、株式等売渡請求検討の際にご参考ください。
株式等売渡請求のメリット
株式等売渡請求のメリットには、主に以下の4つがあります。
- 経営者に経営権を集中できる
- M&Aの実行期間を短縮できる
- 税制上、有利な条件で自社株を取得可能
- 新株予約権も強制取得できる
①経営者に経営権を集中できる
株式等売渡請求の最大のメリットは、経営者が経営権を集約できる点です。相続(事業承継)時点で株主が親族間で分散している場合、後継者に経営権を集中できないおそれがあります。
相応数の議決権株式を保有していなければ、意思決定の際に遅れが生じてしまいます。しかし、株式等売渡請求を行使すれば、強制的に経営権を集中させることが可能です。M&Aの場面でも、自社にとって不都合な株主を強制的に排除(スクイーズアウト)できるメリットがあります。
②M&Aの実行期間を短縮できる
株式等売渡請求には、完全子会社化などのM&A実行期間を短縮できるメリットもあります。完全子会社化のために、全部取得条項付種類株式や株式交換を実施する場合、株主総会決議の実行が必要です。
株式等売渡請求を活用すれば、取締役会の決議のみで実行できるうえに株式の端数処理も不要となるため、大幅に期間を軽減できます。スクイーズアウト目的のM&Aを短期間で実行できる点は、株式等売渡請求の大きなメリットです。ただし、相続場面での株式等売渡請求では、株主総会の特別決議が必要となるため、注意が必要です。
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③税制上、有利な条件で自社株を取得可能
非上場企業の経営者が自社株を取得する際、基本的にはみなし配当課税が生じます。みなし配当課税では最高で50%の課税が生じるため、自社株取得の負担は大きなものです。
しかし、株式等売渡請求により相続人から取得した場合は、みなし配当ではなく「譲渡所得」と見なされます。譲渡所得は一律で20.315%の課税であり、軽い税負担で自社株を取得可能です。非上場企業の事業承継で、この点は魅力的なメリットといえます。譲渡所得の税率20.315%中の0.315%分は復興特別所得税であり、2037(令和19)年までの時限措置です。
④新株予約権も強制取得できる
株式等売渡請求では、新株予約権も強制取得できます。新株予約権の強制取得は、他の手法にはない独自のメリットです。全株式を取得しても新株予約権が残っている場合、完全子会社化は実現できません。新株予約権を発行している企業を完全子会社化する際は、株式等売渡請求を実行する必要があります。
株式等売渡請求のデメリット
株式等売渡請求を検討する際は、メリットだけでなくデメリットも把握しておくことが大切です。ここでは、株式等売渡請求の主なデメリットを3点紹介します。
- 実行要件が厳しい
- 税務上の非効率が生じる恐れがある
- 裁判などの手続きが生じるリスクがある
①実行要件が厳しい
株式等売渡請求の最大のデメリットは、実行するための条件が厳しい点です。スクイーズアウトや完全子会社化を目的として株式等売渡請求を行使するためには、前章で述べた特別支配株主として、総議決権のうち90%以上を有している必要があります。逆にいえば、株式が分散していて経営者が90%未満の議決権しか持っていない場合、株式等売渡請求を行使できません。
②税務上の非効率が生じる恐れがある
株式等売渡請求によるスクイーズアウトを実施する際、税務上の非効率が生じるおそれがあります。スクイーズアウト後も株主として残したい相手がいる場合、一旦は全株式を特別支配株主に譲渡し、その後に再度、株式を戻す必要があるためです。二度手間となるうえに、課税がその都度、発生してしまいます。
③裁判などの手続きが生じるリスクがある
株式等売渡請求の実施にあたり少数株主が裁判を起こして対抗してきた場合、売渡請求を実行した側は、裁判手続きに着手する必要があります。本来、必要ない手間が発生し得る点は、株式等売渡請求のデメリットです。
株式等売渡請求を用いたスクイーズアウト
この章では、株式等売渡請求を用いたスクイーズアウトを解説します。
スクイーズアウトを実施するメリット
株式等売渡請求によりスクイーズアウトを実施すると、さまざまなメリットが得られます。スクイーズアウトの結果、経営者が全株式を保有することで、あらゆる決定を自身の一存でできるようになるためです。経営に関する意思決定が迅速化します。株主間で意見が食い違うと面倒な紛争が生じますが、スクイーズアウトの実施後は、その心配もありません。
株主が経営者1人になることで、株主の管理に伴う事務作業も削減できます。株式等売渡請求を用いたスクイーズアウトでは、このとおり多種多様なメリットを享受できます。
株式等売渡請求を用いたスクイーズアウトの手続き・流れ
特別支配株主がスクイーズアウトのために行う株式等売渡請求を実施する場合、その手続きは以下のような流れです。
- 特別支配株主が会社に対して株式等売渡請求を実行する意思を通知
- 会社は取締役会を開き株式等売渡請求の承認を決定
- 会社は特別支配株主に取締役会結果を通知
- 会社は株式等売渡請求の対象株主に株式売渡請求の通知・公告(取得予定日の20日前までに行う)
- 会社は株式等売渡請求に関する事前備置資料を本店に備え置く(前項と同一日に実施し取得日から1年間)
- 取得日当日になることで株式は強制的に取得される
- 会社は株式等売渡請求に関する事後備置資料を本店に備え置く(取得日から1年間)
- 特別支配株主が取得代金を対象株主に支払い
この株式等売渡請求手続きは、最短20日で完了します。株式等売渡請求であれば、短期間でのスクイーズアウトが実行可能です。
相続人に対する株式等売渡請求
この章では、相続人に対する株式等売渡請求を解説します。
制度の概要
この制度は、経営者である被相続人が死去し、その後継者が事業承継する際に複数の相続人の間で株式が分散する事態を防ぐ目的で制定されました。相続によって株式が分散すると、後継者の事業承継後、経営が円滑に進まなくなるおそれがあります。
複数の相続人がいて、それぞれに遺産として株式が渡ってしまった場合、後継者は各相続人に売渡請求を行えば強制的に後継者に株式を集中させられます。事業承継後の円滑な経営体制を確立するためには、後継者以外の相続人への株式等売渡請求は不可欠な手続きです。
相続人に対する株式等売渡請求の条件
相続人に対する株式等売渡請求には、いくつかの条件があります。まず1つ目は、相続の事実を知ってから1年以内に請求することです。1年を過ぎると、株式等売渡請求は実行できなくなります。
2つ目の条件は、分配可能利益の範囲内で株式買取を実行する点です。分配可能利益とは、貸借対照表における「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」の合計となります。この規定があるため、株式等売渡請求の実施には、ある程度の資金力が必要です。
3つ目の条件は、株式等売渡請求の対象は譲渡制限株式です。譲渡制限株式とは、株式譲渡の際に会社側の合意が必要となる株式です。ほとんどの中小企業は譲渡制限株式になっているため、この点はほぼ心配ありません。
相続人に対する株式等売渡請求の手続き
相続人に対して株式等売渡請求を実施する場合には、基本的に以下のような手続きを踏みます。
- 定款にて相続人へ売渡請求が実行できる旨を定めておく
- 株式等売渡請求を行う株式数と対象者の氏名(または名称)について株主総会で特別決議を取る
- 特別決議の可決後、対象者に売渡請求の通知を行う
- 対象者と会社側で協議し株式の売買価額を決める
- ※売買価額が協議で決まらない場合、株式等売渡請求から20日以内に裁判所に申し立てることにより裁定を受けられる
- 売買価額決定後、株式の売渡を実行する
M&Aにおける特別支配株主の株式売渡請求
ここでは、M&Aにおける特別支配株主の株式等売渡請求に関する注意点を紹介します。特別支配株主とは、対象会社の議決権の90%以上を保有する株主です。特別支配株主がM&A目的で株式等売渡請求を実施する際は、下記の点に注意しましょう。
90%要件の確認タイミング
M&Aの目的である「特別支配株主の株式等売渡請求」では90%以上の議決権保有が条件となりますが、満たすタイミングが複数設定されています。具体的には、株式等売渡請求時・承認時・取得日の各々のタイミングで、90%以上の議決権保有を満たさなければなりません。任意の時点で90%以上の議決権を保有していればよいわけではないため、十分に注意しましょう。
条件の妥当性
特別支配株主から通知を受けた会社は、株式等売渡請求を承認するか否かを決議します。決議の際は「株式等売渡請求の条件が、対象株主にとって適正であるか」の観点から、実行可否を判断しなければなりません。
対象となる株主からすると、株式を失うことで重大な損失を被るリスクがあるため、妥当な条件や対価の金額が設定されている必要があります。
種類株式発行会社における株式等売渡請求
種類株式発行会社の場合も、株式等売渡請求に際して注意点があります。種類株主に損害をおよぼすおそれがある場合は、種類株主総会の決議が必須です。
種類株主総会の決議を経なければ、取締役会による承認の効力が発生しません。株式等売渡請求を実行する際は、種類株主の有無と損害の有無を慎重に確認する必要があります。
株式等売渡請求の通知を受けた対象会社の取締役会の役割
特別支配株主の株式等売渡請求の通知を受けた会社が行う妥当性の判断とは、会社の取締役会が行う判断です。特別支配株主は経営者であり取締役会でも中心的な存在ですが、各取締役は具体的に以下の2点の妥当性を検証し、株式等売渡請求の適正性を判断しなければなりません。
- 対価の妥当性
- 対価の支払い見込み
対価の妥当性とは、特別支配株主が少数株主に対して支払う予定の売渡対価額が適切であるかどうかです。対価の支払い見込みとは、特別支配株主が支払う予定の売渡対価額の資金の準備ができているかどうかです。この確認のためには、最新の預金通帳の写しや預金残高証明書などの提出を求め、その内容を検証します。
株式等売渡請求を行う際の注意点
ここまで述べたように、株式等売渡請求にはメリットもありますが、実行時には注意すべき点もいくつかあります。この章では、株式等売渡請求を行う際の注意点をみていきましょう。
税務上の非効率性
株式等売渡請求を行う場合、少数株主からすべての株式を取得しなければなりません。また、スクイーズアウト後も特定の人を株主として残しておきたいシチュエーションでは、特別支配株主が株式などをすべて取得した後に株式の再譲渡が必要です。
このような場合、課税が2度行われることから、税務上の非効率性が問題となるおそれがあります。
売渡株主等による対抗措置
特別支配株主の株式等売渡請求は、少数株主の承諾なく強制的に株式を取得する手続きであるため、これに対して不満のある少数株主には会社法上の対抗措置が規定されています(例:裁判所に対する売渡株式等の売買価格決定の申し立て)。
この場合は裁判所が売買価格を決定するため、支配株主としては買い取り価格が想定よりも高騰する可能性を念頭に置いておきましょう。
株式等売渡請求のまとめ
株式等売渡請求は、相続による事業承継時や完全子会社化、少数株主排除などの場面で活用されます。完全子会社化のM&A実行期間を短縮化できる点や、税制上、有利な条件で自社株を取得可能のメリットがある一方、株式が分散している場合には株式等売渡請求を行使できない可能性もあるため注意が必要です。
株式等売渡請求の実施を考える際は、専門家であるM&Aアドバイザーなどに相談し検討しましょう。
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