M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2021年4月29日更新会社・事業を売る
非居住者(海外在住)の株式譲渡
日本非居住者(住民票が国内にない海外在住者)が株式譲渡により利益を得た際、課税はどのようにされるでしょうか。今回は、M&A実施や投資のエグジットなどにより、非居住者が株式譲渡を行った場合の税金について、整理しながら具体的に説明していきます。
非居住者の株式譲渡は課税対象になるのか
そもそも、株式譲渡はM&Aや事業承継、投資等の目的で行われますが、所得税法により、獲得した利益に対しては課税されることが定められています。日本居住者が、日本国内において、内国法人の株式を譲渡(売却)すれば、日本の税法に則って所得税が課されることになります。
しかし、日本国内に事業所や工場などの恒久的施設(PE:Permanent Establishment)を保有しない非居住者が国外で株式譲渡を行う限りにおいては、日本国内での課税はありません。
それでも、いくつかの例外はあり、非居住者による株式譲渡であっても、日本国内での源泉所得が生じたとみなされ、日本の税務当局に課税されるケースは存在しています。
今回は、日本非居住者の株式譲渡と課税に関して、整理して具体的に説明していきます。
非居住者と株式譲渡の定義
まず、「非居住者」と「株式譲渡」の定義ですが、各々どのようなものでしょうか。ここを押さえることが最初のポイントになってきます。
⑴非居住者とは
日本の所得税法上、国内に一年以上居住する場所を有していない状態の方を「非居住者」と呼んでいます。おおむね、日本国内には住民票がなく、海外に出て一年以上居住している方であれば、ここで言うところの「非居住者」に該当します。
例えば、海外法人への出向やリタイアメント、外国人との婚姻などにより一年以上国外に居住し、日本の健康保険証は返納しているような方であれば、基本この「非居住者」に該当すると考えて良いでしょう。
なお、先にも触れましたが、日本国内に事業所や工場等の恒久的施設(PE:Permanent Establishment)を保有しているか否かにより、株式譲渡時の「非居住者」に対する課税方法は異なってきます。
恒久的施設を保有する「非居住者」への課税方法は相当複雑になりますので、今回は、大多数の恒久的施設を有しない「非居住者」のケースに限定しての説明であることをご承知おきください。
いずれにせよ、恒久的施設を有しない「非居住者」であれば、日本国内に発生源がある所得(国内源泉所得)に対してのみの課税であり、住民票を抜いているので住民税については課されない、と理解しておけばよいのです。
⑵株式譲渡とは
「株式譲渡」とは、株式を第三者に売却、もしくは無償で譲渡する行為をさします。「株式譲渡」がM&Aや事業承継、投資のエグジットを目的に実施されることは、上でも述べました。
中小企業のM&A手法として株式譲渡を行う場合、全株式を売買するケースが一般的で、これは実質的に経営権の譲渡になります。
株主のみが入れ替わり、債権者への影響もなく、ステイクホルダーへの影響もミニマイズできる上、特別決議や債権者保護などの煩雑な手続きも不要です。
※関連記事
株式譲渡とは?メリット・デメリット、M&A後の社員や税務を解説
非居住者が株式譲渡時に課税されるケース
それでは、日本非居住者が株式譲渡を行う際に課税されるケース・考え方を、順を追って理解していきましょう。
⑴非居住者の株式譲渡益の算出方法
ここで、「株式譲渡益」の算出方法をいま一度確認しておきます。ご存じの方も多いと思いますが、株式譲渡を行った際の課税は、「株式譲渡益」に対して行われます。非居住者であっても、「株式譲渡益」の考え方(算出方法)は通常の株式取引と何ら変わりません。
株式譲渡の際は、株式の売却益から取得費用と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対する課税(所得税)となります。
まず取得費用ですが、これは株式を購入等により取得した時、実際に要した費用のことです。取得費用が何らかの理由ですでにわからないという場合は、株式譲渡金額の5%を取得費用として計上することが可能になっています。
そして、譲渡費用とは、株式譲渡の際に起用したM&Aアドバイザリー等に支払う手数料などをさします。
日本非居住者の「株式譲渡益」は、以下の計算式を用いて算出できます。
- 株式譲渡益(譲渡所得)=株式売却益−(取得費用+譲渡費用)
この「株式譲渡益」をベースに、非居住者に対する課税ケースを以下で見ていきましょう
※関連記事
⑵非居住者による株式譲渡で課税される6つのケース
こちらでは、日本非居住者の方が株式譲渡益に対して所得税を課される、具体的なケース6つを解説します。別の言い方をすれば、以下の6ケースに該当しない非居住者による株式譲渡は、日本では非課税です。
1)買い集めによる株式の譲渡
非居住者の方によるこの事情での株式譲渡は、そもそもレアケースと考えられます。内国企業の株式を買い集め、保有者として優位な地位を利用して、その株式を発行法人に対して株式譲渡する際には、所得税が課されることになります。
例えば、日本非居住者の方が、とある日本企業の株式を買い占めた上で、当該企業に対して高値での株式譲渡を行うようなケースが当てはまります。国内企業の経営にとって不利となる観点から、非居住者でも課税上優遇されないわけです。
2)大口株主による株式譲渡(事業譲渡類似株式の譲渡)
こちらは、企業オーナーの方には特にご留意いただきたいケースです。M&A実施等による多額の課税逃れを防止する目的で、大口株主による株式譲渡(事業譲渡類似株式等の譲渡)の場合は、日本非居住者であっても所得税の課税対象となります。
具体的には、企業オーナーを含む大口株主による株式の譲渡を想定しており、以下の要件を満たす株式譲渡です。
- 株式譲渡以前に発行済み株式総数の25%以上の株式を保有していた大口株主が、発行済み株式総数の5%以上を譲渡した場合
つまり、企業オーナーである方が、M&Aや事業承継などの理由で株式譲渡を行う際には、仮に日本非居住者になっているとしても、所得税を課されるものと理解しておく必要があるのです。
毎年の税負担を軽くするために、海外移住されている富裕層の方もおられますが、このケースにおける株式譲渡時の課税からは逃れることができません。
3)税制適格ストックオプションの権利行使により取得した株式の譲渡
こちらは、今までにストックオプションを付与された経緯がある方は必見となります。昨今は広く耳目を集めるようになったストックオプションですが、新株予約権の1つであり、あらかじめ定められた権利行使価格で株式を取得できる権利のことです。
自社や関連会社の役員や従業員に付与され、一種の成果報酬(インセンティブ)としての性格を持っています。「税制適格ストックオプション」を権利行使後に売却(株式譲渡)した場合、譲渡所得とみなされ、日本非居住者の方でも課税対象となります。
これは、一般の居住者の方との税負担の公平性を担保する意図があるものと考えられます。これに対して、「税制非適格ストックオプション」の場合は、売却(株式譲渡)しても、非居住者の方は課税対象とはなりません(少額の一般株式譲渡と同様の扱い)。
どちらのタイプのストックオプションであるか、権利行使と売却(株式譲渡)に先立って、非居住者の方はしっかり確認しておきましょう。ストックオプションが付与された際に、どちらのタイプかの案内が都度されています。
4)日本滞在中に行う株式譲渡(売却)
こちらのケースは、比較的多くの非居住者の方が気にかけておく必要があるでしょう。
国内証券会社の口座を用いて、内国法人の上場株式等を保有している場合、日本非居住者は現行法制では株式譲渡(売却)は不可能です。
例えば、非居住者が投資のエグジットとして株式譲渡(売却)をしたいのであれば、日本に一時帰国して滞在する必要があります。
日本で内国法人の株式譲渡(売却)を行う以上、非居住者となっている方でも、一般の居住者同様に所得税を課されることになります。
株式譲渡をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&Aの専門知識・実績豊富なアドバイザーが、ご相談からクロージングまでフルサポートしています。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
5)不動産関連法人の株式譲渡
こちらのケースが当てはまる可能性のある日本非居住者の方は、企業の役員や、役員のご親族などです。ただし、現時点で不動産関連事業を営んでいない企業の場合であっても、このケースに当てはまる可能性があります。
「不動産関連法人」とは、株式譲渡日から1年以内に保有する資産総額のうち、日本国内にある土地等の価額の合計額が50%以上を占める法人、もしくは、このような法人の発行済株式の50%以上を保有している法人のことをさします。
この不動産関連法人の株主である日本非居住者が、以下の条件(A)(B)いずれかに該当する株式譲渡を行った際には、通常通り所得税を課されることになります。
- (A)【上場株式の譲渡】
- (B)【非上場株式の譲渡】
こちらの場合、実質的に日本の土地を譲渡(売却)しての源泉所得であるとみなされ、課税対象になっていると考えられます。
6)日本国内にあるゴルフ場会員権(株式形態)の譲渡
こちらのケースは、日本のゴルフ場会員権を保有しておられる方ならば、注意しておく必要があります。そもそも、ゴルフ場の会員権には、「預託金方式」と「株式形態」との2種類が存在しています。
この「株式形態」のゴルフ場会員権を非居住者が譲渡(売却)する場合、所得税が課されることになりますので、覚えておいてください。
※関連記事
非居住者の株式譲渡における実際の税率
日本非居住者の方による株式譲渡においては、以下2種類の課税方法が適用されます。先に紹介した株式譲渡益に所得税を課される1)~6)までの6ケースについて、念のため、実際の税率を確認しておきましょう。
⑴基本的な税率
先に説明した1)~5)までのケースに該当する日本非居住者の株式譲渡の際は、一般的な居住者と同様の税率が適用されます。つまり、譲渡所得に対して、申告分離課税により一律15%の所得税が課されることになります。
申告分離課税とは、他の所得とは切り離した上で個別に所得税額を計算する方法であり、上場株式と非上場株式も、分離して各々所得税額を計算することになります。
⑵株式形態のゴルフ場会員権譲渡のみは例外
例外なのは、6)の日本非居住者による株式形態のゴルフ場会員権の譲渡で、他の5ケースとは異なる税率が適用されます。
こちらは、譲渡所得に対して、総合課税により最高45%の所得税が課されます。総合課税とは、他の所得と合算した上で所得税額を計算する方法で、累進課税となっていますので、譲渡益が多いほど税負担も大きくなります。
※関連記事
非居住者に対する国外転出時課税制度
2015年7月から「国外転出時課税制度」がスタートしていますので、日本非居住者に対する課税には一層の注意を払う必要があります。
従来は、シンガポールなど一部の国に居住している非居住者の方は、内国企業の株式譲渡を行っても、その居住国では非課税とされるメリットを享受できました。
しかし、この「国外転出時課税制度」は事実上の出国税(Exit Tax)であり、非居住者として日本から転出する際には、あらかじめ保有資産に対して課税されることとなりました。
1億円以上の株式など有価証券等を保有している場合、海外転出に際して有価証券等の譲渡があったものとみなし、その含み益に対して所得税を課す、というのがこの「国外転出時課税制度」の考え方です。
詳細は相当複雑であり、今回深入りすることは避けますが、企業オーナーの方など大口株主が非居住者として国外に転出するにあたっては、懇意の税理士などと前もって十分に協議されてください。
まとめ
今回は、日本非居住者の方による株式譲渡と、その際の課税について解説させしました。一般の日本居住者による株式譲渡と比べ、非居住者の株式譲渡には特殊な制度が適用されることになりますので、図らずも脱税となってしまうリスクがあります。
毎年の税負担の軽減を企図して海外在住の非居住者となっているにも関わらず、日本国内における株式譲渡と同様に所得税を課されるケースが存在するのです。
今回のポイントをまとめると、以下のようにになります。
- 非居住者とは
→日本国内に一年以上居住する場所を有していない状態の方
- 株式譲渡とは
→株式を第三者に売却、もしくは無償で譲渡する行為
- 非居住者の株式譲渡益(譲渡所得)
→株式売却益−(取得費用+譲渡費用)
- 非居住者による株式譲渡での課税の有無
→日本では原則非課税
- 非居住者による株式譲渡でも課税される6ケース
→買い集めによる株式譲渡、企業オーナーなどによる大口の株式譲渡、税制適格ストックオプションの権利行使により取得した株式の譲渡、日本一時帰国時に行う株式譲渡、不動産関連法人の株式譲渡、日本国内にあるゴルフ場の株式形態ゴルフ場会員権の譲渡
- 非居住者の株式譲渡における所得税率
→申告分離課税により一律15%、ゴルフ場会員権のみ総合課税で最高45%
- 非居住者の株式譲渡における住民税
M&A・事業承継のご相談なら24時間対応のM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談は成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬!
- 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
- 上場の信頼感と豊富な実績
- 譲受企業専門部署による強いマッチング力
M&A総合研究所は、M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
あなたにおすすめの記事
M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
近年はM&Aが経営戦略として注目されており、実施件数も年々増加しています。M&Aの特徴はそれぞれ異なるため、自社の目的にあった手法を選択することが重要です。この記事では、M&am...
買収とは?用語の意味やメリット・デメリット、M&A手法、買収防衛策も解説
買収には、友好的買収と敵対的買収とがあります。また、買収に用いられるM&Aスキーム(手法)は実にさまざまです。本記事では、買収の意味や行われる目的、メリット・デメリット、買収のプロセスや...
現在価値とは?計算方法や割引率、キャッシュフローとの関係をわかりやすく解説
M&Aや投資の意思決定するうえでは、今後得られる利益の現時点での価値を表す指標「現在価値」についての理解が必要です。今の記事では、現在価値とはどのようなものか、計算方法や割引率、キャッシ...
株価算定方法とは?非上場企業の活用場面、必要費用、手続きの流れを解説
株価算定方法は多くの種類があり、それぞれ活用する場面や特徴が異なります。この記事では、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチといった株価算定方法の種類、株価算定のプロセス、株...
赤字になったら会社はつぶれる?赤字経営のメリット・デメリット、赤字決算について解説
法人税を節税するために、赤字経営をわざと行う会社も存在します。しかし、会社は赤字だからといって、必ず倒産する訳ではありません。逆に黒字でも倒産するリスクがあります。赤字経営のメリット・デメリット...
関連する記事
税務DDの目的や手順・調査範囲を徹底解説!M&Aにおけるリスクは?
M&Aの成功のためには、税務DD(デューデリジェンス)が重要です。税務DDとは、企業が他の企業を合併や買収する際に行う重要な調査の一つです。本記事では、税務DDの目的、手順、調査範囲、実...
事業譲渡と合併との違いとは?種類からメリット・デメリットまで徹底解説!
事業譲渡と合併は有効な事業統合のスキームで、さまざまなM&Aで導入されているのが現状です。双方ともに有効な事業統合のスキームですが、手続きや手法などさまざまな違いがあります。 本記...
株式交付とは?株式交換との違いから手続き手順・メリット・デメリットを解説!
株式交付は有効なM&Aの手法で企業の合併や買収の際に使用され、手続きが難しいので正しく把握しなければスムーズに取引を進めることはできません。 そこで本記事では株式交付を詳しく解説し...
兄弟会社とは?意味や関連会社・関係会社との違いを詳しく説明!
本記事では、兄弟会社とは何か、その意味と構造、関連会社や関係会社との違いについて詳しく解説します。兄弟会社の役割、設立のメリットと課題、それぞれの会社タイプが持つ独自のポイントと相互の関係性につ...
法務デューデリジェンス(法務DD)とは?目的から手続きの流れまで徹底解説!
M&Aは事業継続やシェア拡大の目的達成のために行われ、その取引を成功させるためにも法務デューデリジェンスは欠かすことができません。そこで本記事では法務デューデリジェンス(法務DD)を詳し...
トップ面談とは?M&Aにおける役割や進め方・成功のためのポイントも解説!
トップ面談は、M&Aの条件交渉を始める前に行われる重要なプロセスです。当記事では、M&Aにおける役割や基本的な進め方を確認しながらトップ面談の具体的な内容と知識を解説します。トッ...
ディスクロージャーとは?M&Aにおける意味やメリット・デメリットまで解説!
ディスクロージャーは、自社イメージの向上や株価の上昇を実現する目的として実施されることが多いです。 本記事では、そんなディスクロージャーの意味や種類、メリットとデメリット、実施のタイミングなど...
連結会計とは?連結財務諸表の作成方法から修正・おすすめ管理システムまで紹介!
対象の財務諸表を連結修正を行って正しい金額(連結会計)に再計算をする必要があります。ここでは、そもそも連結会計とはどういうものなのか、連結決算には絶対必要な連結財務諸表の作成方法から連結修正の方...
【2024年最新】webメディア売却の事例25選!動向や相場も解説
webメディアの売却・買収は、売買専門サイトの増加などの背景もあり年々活発化してきています。本記事では、webメディア売却の最新事例を25選紹介するとともに、売却・買収動向やメリット・デメリット...
株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。