M&Aとは?手法ごとの特徴、目的・メリット、手続きの方法・流れも解説【図解】
2021年6月11日更新事業承継
事業再生ADR制度とは?手続きは?メリット・デメリットなども紹介
事業再生ADRとは、経営危機に瀕した企業が法的整理手続きを使わず、当事者間の話し合いで解決を図る手続きです。債務免除を受けられるため、再生を図る手段として活用されています。本記事では、事業再生ADR制度の手続きやメリット・デメリットを解説します。
事業再生ADR制度
事業会社は事業を展開して利益を生み出しますが、時には業績が悪化して経営に行き詰まることもあります。
さらに深刻な状態になると、業績悪化の根本的な原因を取り除くために事業再生の必要性がでてくる可能性もあります。
そのような場面で活用できる手法が事業再生ADR制度です。この章では、ADR制度そのものや事業再生ADR制度の概要についてみていきます。
ADR制度とは
ADR制度とは、訴訟手続や法的整理手続などの裁判所の関与を受けず、問題解決を図れる制度です。ADR制度には、あっせん・調停と仲裁の2通りのタイプがあります。
あっせん・調停は、当事者同士の話し合いで解決を図るというものです。当事者同士の話し合いが難航した場合、あっせん人から解決案を提示されることもありますが、拘束力はないので当事者は拒否することができます。
仲裁は、当事者同士が仲裁を受けることを合意した仲裁人に解決案を委ねるものです。仲裁人の判断は裁判の判決と同等の拘束力を持つため、当事者は拒否することはできません。
事業再生ADR制度とは
事業再生ADR制度とは、経営危機にある企業が法的整理手続きを使わずに事業再生を図る手続きです。事業再生にADR制度を取り入れたもので、話し合いによる解決を重視した制度になっています。
当事者(債務者と債権者)の話し合いの仲介人は、経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が努めます。その際、双方の税負担の軽減や債務者に対する融資の円滑化などを図って、早期の事業再生を支援します。
事業再生には事業再生ADR制度以外の方法もありますが、私的整理は全ての債権者からの同意を得るための交渉が難航したり、法的整理は公に手続きすることによる事業価値の毀損などのデメリットがあります。
事業再生ADR制度は、私的整理と法的整理のデメリットを補った手法です。公正・中立な第三者が仲介に入ることによって非公表で手続きができ、穏便に話し合いを進めることができます。
事業再生ADR制度の対象
事業再生ADR制度の対象は、複数の金融債権者が関与しており、私的整理について当事者に経済合理性が認められること、かつ再建に対して意欲がある債務者企業です。
以下の経済産業省が定める「特定認証ADRに基づく事業再生手続規則 第22条」の要件をすべて満たす債務者企業が、事業再生ADR制度を利用することができます。
【事業再生ADR制度の利用条件】
- 過剰債務により経営危機に瀕しており、自力再生が困難であること
- 収益性や将来性がある事業を有しており、債権者からの支援で事業再生の可能性があること
- 法的整理手続きの申し立てにより、事業価値が著しく毀損される恐れがあること
- 本手続きにより、債権者が破産手続きよりも多く債権回収できる可能性があること
- 仲介人の助言に基づき、公正・妥当性及び経済合理性があると認められる再生計画案を策定できる可能性があること
事業再生ADR制度の手続き
事業再生ADR制度を利用するためには、所定の手続きを行う必要があります。この章では、事業再生ADR制度の手続きと、反対する債権者がいる場合の手続きを解説します。
【事業再生ADR制度の手続き】
- 一時停止の通知
- 第1回債権者会議
- 再建計画案の調査
- 第2、3回債権者会議
- 裁判所への申立
- 調査・調停
- 調停に代わる決定
- 法的整理手続きへ移行
1.一時停止の通知
債務者企業が事業再生実務家協会(JATP)に事業再生ADR制度の利用申請を行い、審査を通って正式に受理されることで手続きが開始されます。
申請が受理されたら、JATPと債務者の連名で対象の債権者に対して一時停止の通知を行います。一時停止とは、債権回収や担保設定、法的整理手続きの申し立てをしないことを意味します。
一時停止通知に法的な拘束力はありませんが、JATPの審査を通った時点で事業再生の見込みがあるので、債権者は権利行使を控えることが多いです。
2.第1回債権者会議
一時停止の通知後、原則として2週間以内に第1回債権者会議を開催します。債務者から債権者に向けて、現在の資産・負債状況や事業再生計画案の概要説明をする場となっています。
【第1回債権者会議の議題】
- 議長の選任(手続実施者選任予定者のうち1名)
- 手続実施者を選任(手続実施者選任予定者から選任)
- 一時停止の内容と期間(原則は第3回債権者会議まで)
- 第2回債権者会議、第3回債権者会議の日程
3.再建計画案の調査
手続実施者により、再建計画案の調査が行われます。この後に控えている第2回債権者会議では、再建計画案に妥当性があることを示す必要があるため、計画案の事前調査は不可欠になります。
第2回の開催タイミングは、第1回の開催から1ヵ月間ほど後になることが多いので、その期間中に調査を完了させて意見をまとめておくことが必要です。
4.第2、3回債権者会議
第2回債権者会議では、債務者から再建計画案の最終版を説明し、手続実施者からは計画案の調査報告書の説明が行われます。
1ヵ月ほど期間を空けて第3回債権者会議が開催されます。ここまでに出揃った資料や報告書を基に、事業再生ADR制度の利用に関して決議を取ります。
事業再生ADRの決議ではすべての債権者の同意が必要となり、一人でも反対する債権者がいた場合はここまで進めてきた再生計画案は成立しません。
全員賛成
全ての債権者から同意を得られた場合は、事業再生ADRが成立して私的整理ができるようになります。後は成立した再建計画案を基に事業再生を実行します。
この時点で債権者は一部の債権を放棄することになりますが、事業再生が成功して債務者企業の収益性が向上すれば、法的再生による破産手続きよりも多くの債権を回収できることになります。
一部反対
事業再生ADRは私的整理なので、一人でも債権者から反対があった場合は成立させることができません。
この場合でも事業再生計画を止めるわけにはいかないので、事業再生ADRから法的整理に切り替えることになります。
5.裁判所への申立
法的整理の再建型は、民事再生手続や会社更生手続、特定調停などがありますが、いずれも裁判所の管轄下で手続きを進めます。まずは法的整理手続きの申し立てを行って、認可を受ける必要があります。
民事再生手続は、会社更生手続よりも手続きが簡便で迅速に行えるメリットがあります。また、原則として経営陣の続投となっているので、中小企業の事業再生に向いている制度です。
6.調査・調停
特定調停は、返済条件の緩和などで債務整理を行う方法です。裁判所から専任された調停委員により、債務状況・支払原資の有無・援助の有無などが調査され、返済計画案が作成されます。
調停委員は公正中立を前提としているので、すべての債権者から平等に意向を反映させやすい特徴があります。その調停委員が作成した返済計画案も公正妥当と判断されることが多いので、債権者からの納得感も得やすくなります。
再建型ではなく清算型の破産手続きを進める場合は、裁判所より破産管財人が選任されて資産調査が開始されます。
この時点で会社の財産は破産管財人の管理下に移り、経営者による資産の売却や債権者による財産の差し押さえなどができなくなります。
7.調停に代わる決定
特定調停に対して協力的でない債権者もいるため、必ずしも成立するとは限りません。作成された返済計画案に債権者が反対すれば、そこで進行を中止することになります。
特定調停が成立しなければ目的である債務整理も行えないため、そのほかの債務整理手続きを検討する必要があります。
8.法的整理手続きへ移行
事業再生ADRや特定調停による事業再生が難しい場合は、実質的に残された選択肢は清算型の法的整理です。破産・特別清算手続きに移行しなくてはなりません。
この場合はすべての債権者から同意を得る必要はありません。裁判所の管轄下で進められるため、不正が行われにくく全ての債権者に対して公平なので、決議されやすいメリットがあります。
事業再生ADR制度のメリット・デメリット
事業再生ADR制度にはたくさんのメリットがあります。ほかの事業再生手法の欠点を補えるようなものもあるので、数ある選択肢のなかから選ばれることも珍しくありません。
しかし、いくつかのデメリットも存在するので、検討する前に確認しておくことが大切です。この章では、事業再生ADR制度のメリット・デメリットを解説します。
事業再生ADR制度のメリット
まずは、事業再生ADR制度で受けられるメリットからみていきます。特に恩恵が大きいものは以下の5点です。
【事業再生ADR制度のメリット】
- 法的整理と連携しやすい
- 商取引を円滑に継続できる
- 公平・公正な手続きができる
- つなぎ融資を受けられる
- 税制上の優遇措置がある
①法的整理と連携しやすい
事業再生ADR手続きから特定調停に移行した場合、裁判所は事業再生ADR手続きが実施されていたことを考慮して、特定調停の相当性を判断します。
ほかの手法に移行しやすいため、事業再生ADRが難しくなった場合でも、事業再生計画を完全にストップさせることなく対応しやすくなります。
②商取引を円滑に継続できる
事業再生ADRは、原則として金融債権者(金融機関等)だけと話し合いを進める制度です。顧客や取引先などの商取引債権者には、事業再生手続きを進めている事実が伝わらないので、商取引に影響を与える心配がありません。
官報公告などもされないので事業価値が毀損するリスクは低く、事業再生後も従来通り取引を継続することができます。
③公平・公正な手続きができる
事業再生ADR制度は、経済産業大臣の認可を受けた中立的な第三者機関の監督下で進められるので、手続きの公平さを保つことができます。
第三者機関の信頼性の高さもあるので債権者から納得を得やすく、話し合いや交渉が円滑に進むことも期待できます。
④つなぎ融資を受けられる
つなぎ融資は、事業再生ADRの過程で発生する費用を用意できない場合に受けられる融資です。
資金不足では再建計画案を立てることも難しくなるので、そのための資金を確保しなくてはなりません。
事業再生ADRの再建計画案が経済合理性のあるものであれば、債権者にとってもメリットが大きいので受けられることが多いです。
⑤税制上の優遇措置がある
事業再生ADRに基づいた債権放棄では、本来債権放棄にかかるはずの税負担が免除されます。
税務局から合意的に債権放棄がされたと判断されるため、債権放棄に関して余計な費用がかかるのを防ぐことができます。
事業再生ADR制度のデメリット
続いて、事業再生ADR制度のデメリットを解説します。特に注意しなければならないポイントは以下の2つです。
【事業再生ADR制度のデメリット】
- 全ての債権者の同意が必要
- 私的整理より手続きが厳格
①全ての債権者の同意が必要
再建計画案に反対する債権者が一人でもいる場合、事業再生ADRは成立しません。対象の債権者の数が多くなるほど、さまざまな意向・主張があるので成立のハードルは高くなります。
どうしても同意を得られない場合は、多数決原理の法的整理への以降を検討する必要があります。
多数派が少数派を拘束することができるので、反対する債権者が少数派であれば法的整理を成立させることができます。
②私的整理より手続きが厳格
事業再生ADRは、第三者機関の仲介により公平を保ちながら進められるので、手続きが厳格というデメリットがあります。
同じく話し合いで進める手法である私的整理と比較した場合においても、手間と時間を要します。
事業再生ADR制度の相談はM&A仲介会社へ
事業再生ADRは厳格な手続きが必要になるため、M&A仲介会社に相談することをおすすめします。M&Aの専門家として企業の経営支援にも携わっているので、事業再生に関しても適切なサポートが可能です。
M&A総合研究所は、中堅・中小規模の案件を得意とするM&A仲介会社です。M&Aの知識・支援実績豊富なアドバイザーが多数在籍しており、丁寧にフルサポートいたします。
無料相談は随時お受けしています。事業再生ADRに関するご相談なら、M&A総合研究所までお気軽にご連絡ください。
まとめ
事業再生ADR制度は、第三者機関が仲介に入ることで公平に手続きを進めることができます。うまくいけば債務整理で負担を軽減できるので、企業の状態が芳しくない時は積極的に検討したい手法の一つです。
しかし、複雑な手続きは経営者の負担が大きいという欠点もあります。日常の業務に支障を与えることなく計画的に進めるためには、専門家に相談してサポートを受ける方法をおすすめします。
【事業再生ADR制度の手続き】
- 一時停止の通知
- 第1回債権者会議
- 再建計画案の調査
- 第2、3回債権者会議
- 裁判所への申立
- 調査・調停
- 調停に代わる決定
- 法的整理手続きへ移行
- 法的整理と連携しやすい
- 商取引を円滑に継続できる
- 公平・公正な手続きができる
- つなぎ融資を受けられる
- 税制上の優遇措置がある
- 全ての債権者の同意が必要
- 私的整理より手続きが厳格
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。