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2022年10月28日更新事業承継
事業承継で代表権を後継者に引き継ぐ方法をケースごとに解説!
事業承継では代表権の引継ぎが重要なポイントになります。税制上の優遇措置を受ける際の要件に、法的な代表権の移転が定められていることが多いためです。本記事では、事業承継で代表権を後継者に引き継ぐ方法をケースごとに解説します。
目次
事業承継で代表権を後継者に移転するとは
事業承継の課題の1つに代表権の引継ぎがあります。代表権の引継ぎが適切に行わなければ、経営体制を保てなくなり経営意思を統一することも難しくなります。
また、事業承継の税金負担を軽減できる事業承継税制という制度がありますが、要件に代表権の移転が定められているので、引継ぎが行われていなければ利用できません。
健全な体制を構築するためには、適切な手続きで代表権を後継者に引き継ぐことが大切です。この章では、事業承継で引き継ぐ代表権の意味、事業承継税制との関係を解説します。
事業承継で引き継ぐ代表権とは
事業承継で引き継ぐ代表権は、取引や業務などの会社決定を行う法律上の権限のことです。会社の定款に代表取締役として登記されている者が、代表権を有していると認められます。
代表権の任命は取締役の互選や株主総会・取締役会の決議で行われ、任命された者は会社の代表として会社の重要な意思決定を行えるようになります。
なお、代表権のことを経営者のリーダーシップと捉えることもあります。この意味としての代表権は、法的な手続きを伴うものではないので引継ぎは必須ではありませんが、従業員からの信頼や求心力が高いリーダーシップも代表権の要素の1つです。
代表権の移転と事業承継税制の関係
事業承継税制とは、事業承継で自社株を承継した際の相続税や贈与税の納税義務について猶予措置を受けられる制度です。
平成30年の改正により利便性が大きく向上しており、要件を満たして適用を受ければ全額猶予措置を受けたうえで、最終的には全額免除措置を受けることができます。
事業承継税制の要件は、経営者・後継者・会社など対象別に定められており、経営者に対しては「会社の代表権を有していたこと」と「贈与時点で会社の代表権を有していないこと」が定められています。
この要件からは、前任の代表者から事業承継で後継者に代表権が引き継がれたことが条件であることが分かります。
事業承継税制の目的は、税金負担の軽減により次世代への引継ぎを円滑化することなので、法的な代表権の引継ぎが行われていない場合は対象外となります。
事業承継で代表権を後継者に移転するタイミング
事業承継税制を活用する際は、代表権の後継者への引継ぎは株式の贈与時点までに終えている必要があります。
代表権の移転タイミングを誤ると、事業承継税制の要件を満たせなくなります。適用を受けられないと不都合が多いため、代表権の移転をケース別に把握しておくことが大切です。
事業承継で代表権を後継者に引き継ぐ方法とケース
事業承継で代表権を後継者に引き継ぐ方法は、大きく3ケースに分けられます。ケースによっては事業承継税制の要件を満たせなくなるので注意が必要です。
①代表権を移転して退任と就任した後、株式を贈与するケース
こちらは代表権の移転後に株式の贈与を行うケースです。事業承継は親から子への親族内承継が多く、こちらのケースが採用されることが一般的となっています。
事業承継税制の要件判定
こちらのケースでは、株式の贈与以前に代表権の移転が完了しているので要件はクリアしています。
後継者が1人の場合は、同族関係者のなかで最も多くの議決権数を有している必要があり、後継者が2人あるいは3人の場合は、各後継者が10%以上の議決権を有し保有割合が上位2名あるいは3名である必要があります。
なお、前任者は前任者の退任と後継者の就任後も会社に残り続けることは可能です。代表権の移転さえ行えていれば、前任者が役員や従業員として在籍することは認められています。
前任者の退任後のポジションには、会長や役員、従業員などがあります。事業承継が会社に与える影響は大きいので、安定するまでは前任者が会社に残って後継者をサポートする形をとる企業も多いです。
②代表権を親族外移転を経て、後継者に移転し株式も贈与するケース
後継者に代表権を移す前に一度親族外を経由しているケースです。こちらのケースでは、親族外移転の際に株式の贈与を行わずに代表権の移転のみを行っています。
一度親族外を経由するメリットとしては、後継者育成の時間を確保できることが挙げられます。後継者が経営者に必要なスキルや覚悟を養うまでの一時的な措置として、親族外の役員や従業員に代表者に就任してもらいます。
本来の後継者の育成が完了次第、親族外の代表者から後継者に代表権の移転と前任者から後継者への株式の贈与を行い、後継者が就任する流れになります。
事業承継税制の要件判定
親族外移転を経た代表権の移転は要件をクリアしています。ポイントは「会社の代表権を有していたこと」なので、一度でも代表者の座についていたなら移転したと認められます。
なお、使用例の紹介のために親族外移転を挙げましたが、一時的な移転先は親族・親族外を問いません。事業承継税制においては、あくまでもポイントは株式の贈与前に代表権の移転を行っているかどうかです。
③株式の贈与を経た後、代表権を移転して退任と就任したケース
適切な手続きで、代表権の引継ぎを行う前に株式の贈与を行ったものです。実務的には、定款の代表取締役の変更を行う前に株主名簿の書き換えを行ったケースが該当します。
前任者の死亡などで引き継ぎを急いでしまうと、起きてしまいがちな失敗パターンです。株式贈与以前に代表権の退任と就任を済ませておくことが重要でしょう。
事業承継税制の要件判定
株式贈与を代表権移転前に行った場合、要件は満たせません。事業承継税制を活用して税制上の優遇措置を受けるためには、株式贈与の前に代表権の移転を行っておかなくてはなりません。
要件を満たせないと事業承継税制を活用できません。すると相続税・贈与税の猶予措置を受けられないので、税金を全額納めなくてはなりません。
納税資金の確保が難しい場合は、延長や物納を検討します。しかし、利子税の問題がある他、延納は最大期間が設けられており物納は財産の種類によって優先順位が定められています。
延納や物納が難しい場合は、最終手段として株式や事業用資産の売却や担保を検討します。最悪の場合は、事業を行うために必要な財産も手放すことにもなりかねません。
事業承継の際に行う株式の承継パターン
代表権を移した後の株式承継は大きく分けて3パターンあります。それそれの承継方法を使って後継者へ引き継ぐことで事業承継の手続きが完了します。
【事業承継の際に行う株式の承継パターン】
- 生前贈与
- 相続承継
- 売買承継
生前贈与
生前贈与は、現経営者の存命中に後継者に株式を贈与することをいいます。事前に経営者と後継者で話し合いをできるので、代表権や節税対策の準備を綿密に練ることができます。
生前贈与で発生する税金は贈与税です。贈与財産の価値に応じて最大55%の税率になるため、自社株を承継する際は事業承継税制の活用が大前提となります。
なお、相続人が複数いる場合は、代表権の移転前に後継者以外への分配も決めておくとトラブルを避けやすくなります。対策していないと、株式の分散で法的に代表権を有することが難しくなる場合があります。
相続承継
相続承継は、現経営者の死亡後に後継者に株式を相続することをいいます。事業承継を行う前に現経営者が病気や事故などで急死すると相続が発生します。
相続承継で発生する税金は相続税です。相続する財産価値に応じて最大55%の税率がかかるため、相続が発生した時は事業承継税制の活用を検討することになります。
相続人が複数いて遺言が残されていない場合は、財産の相続分配について協議を行うことになります。事業用資産や株式以外の財産が少ない場合は、後継者に代表権を移転させることが難しくなります。
売買承継
売買承継は、現経営者から第三者に株式を有償で譲渡して代表権を移転させることをいいます。代表権の移転は、親族内承継は無償譲渡、親族外承継やM&Aによる承継は有償譲渡が主流となっています。
売買承継で発生する税金は、所得税・住民税・復興特別所得税です。事業承継税制の適用外ですが、税率は20.315%と負担が軽くなっています。
注意点は、代表権の移転前に後継者に株式買取資金を用意させておく必要があることです。資金が不足している場合は、代表権を持つだけの株式を承継することが難しくなります。
なお、資金不足が原因で譲渡価格を引き下げた場合は贈与とみなされて後継者に贈与税が課せられることがあります。
経営承継円滑化法による事業承継支援
複数の相続人がいる場合、生前贈与や相続承継は相続人間で株式が分散する可能性があります。株式分散の問題とは、後継者以外の相続人からの干渉を受けると、一貫した経営体制を維持しづらくなるというものです。
この問題の対策として、経営承継円滑化法で遺留分に関する特例が定められています。以下の2つの合意を活用することで、株式の承継を円滑に行うことができます。
【経営承継円滑化法による事業承継支援】
- 除外合意
- 固定合意
除外合意
除外合意とは、全ての相続人と後継者の合意により、贈与された自社株式を遺留分から除外する制度です。全ての相続人は現経営者の兄弟姉妹とその子は除くとされています。
遺留分とは、法律で保障されている一定割合の相続分のことです。保障分より少ない割合の分配しか受けられなかった相続人は、遺言に従った相続であっても遺留分を侵害されている箇所の内容を覆すことができます。
除外合意を活用することで、ほかの相続人からの遺留分減殺請求によって自社株式が分散することはなくなります。
後継者は、除外合意をした日から一ヵ月以内に、経済産業省又は地方経済産業局に申請書及び添付書類を提出します。
固定合意
固定合意とは、遺留分算定のための財産価格を合意時の価格に固定する制度です。除外合意と同様、後継者の利益を確保するための制度です。
事業承継後、後継者の働きによって会社の業績が向上すると株式評価額も高まりますが、遺留分額の増加という問題も付きまといます。
固定合意を活用すれば会社の業績が向上しても遺留分額は固定となるので、遺留分増加による経営者の経営意欲の阻害を回避できます。
基本的な手続きは除外合意と同じですが、固定合意で定めた価額は弁護士などの専門家の証明書を添付する必要があります。
事業承継で代表権を後継者に引き継ぐ際の注意点
事業承継の代表権引継ぎはいくつかの注意点があります。代表権に関して特に注意すべきポイントは以下の2つです。
【事業承継で代表権を後継者に引き継ぐ際の注意点】
- 代表権を移転する後継者の育成について
- 社長から会長になった場合について
代表権を移転する後継者の育成について
後継者には経営者としてのスキルが求められます。代表権の移転段階で経営スキルが身についていない場合は、引継ぎ後に経営がうまくいかなくなる恐れもあります。
場合によっては、社内の役員や従業員に一時的に代表権を移転して、後継者育成の時間を確保することも有効な選択肢となります。
社長から会長になった場合について
代表権の移転後に会長の座につくケースが多いですが、社内の肩書として社長から会長に変更しただけでは要件を満たせないため注意が必要です。
事業承継税制の要件は、あくまでも法律上の代表権の移転がポイントとなります。法律的に代表権が移転したと認められるためには、定款の代表取締役を変更する必要があります。
そのため、事業承継税制を利用する際は、定款の代表取締役の変更を行って代表権を移転した後に株式の贈与を行うことになります。
事業承継のご相談はM&A総合研究所へ
代表権の移転は、株式の承継方法によって注意すべきポイントがあります。特に、生前贈与や相続承継は株式贈与以前に代表権の移転を行っておかなくてはなりません。
また、売買承継で代表権を移転する場合は、相続税・贈与税の代わりに住民税や所得税が課せられます。代表権の移転手続きも複雑化するので、M&Aの専門家のサポートが必要不可欠です。
M&A総合研究所は、M&A・事業承継の仲介サポートを手掛けるM&A仲介会社です。中堅・中小規模の事業承継に関して豊富な実績を有しておりますので、事業承継や代表権の移転のサポートも安心してお任せいただけます。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
事業承継や代表権の移転に関して無料相談をお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
事業承継の代表権の判定に使われる書類
事業承継税制の認定を行う場合、判定に使用される書類は法人の謄本(履歴事項全部証明書)や法人の定款です。
代表権があるかどうかは、あくまでも法律上の名前で記載されている「代表取締役」の部分で判定されます。つまり、代表取締役として登記されている人=代表権を保有している人ということです。
書類を提出する前は、履歴事項全部証明書や定款、規則などを改めて確認しておくとよいでしょう。また、贈与の場合は元経営者が代表権の制限のない代表取締役を退任しているか、新経営者は代表権の制限のない代表取締役に就任しているかなどをよく確認する必要があります。
事業承継で代表権を後継者に引き継ぐ方法まとめ
事業承継の際は代表権の移転タイミングが重要です。タイミングを誤ると相続税・贈与税の猶予・免除措置を受けられなくなり、後継者の税金負担が増大します。
代表権の移転や株式の承継はパターン別の注意点もあります。代表権の移転は事業承継の専門家に相談しておくとスムーズに準備を進められるようになります。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。