M&Aとは?目的・メリットから手法、最新動向までわかりやすく解説
2025年12月17日更新会社・事業を売る
M&Aの企業価値評価とは?計算方法3種(インカム・コスト・マーケットアプローチ)をわかりやすく解説
M&Aを成功させるには、自社の企業価値を正しく把握することが不可欠です。本記事では、企業価値評価の基本から、代表的な3つの計算アプローチ(インカム・コスト・マーケット)の特徴やメリット・デメリットまで、専門家がわかりやすく解説します。
目次
企業価値とは
企業価値とは、その言葉のとおり会社の価値を指す言葉です。特にM&Aの交渉において、対象企業の売却価格を算定する基準となるため極めて重要です。近年、事業承継問題や成長戦略の一環としてM&Aの件数は増加傾向にあり、2024年以降も活発な市場が続くと予測されています。こうした状況下で、自社の企業価値を客観的に把握しておくことの重要性はますます高まっています。
特にM&Aでは、対象企業は最終的に売買されるわけですから、企業価値の明確な数値化が必要です。対象企業が現在所有している資産、抱えている負債、収益の状況、今後の事業見通しなど、その企業を取り巻く様々な要因を全て合わせ込んで計算しなければなりません。
そのような非常にデリケートである企業価値算定にあたっては、特別な計算方法がいくつも開発され実用化されてきました。現在、それらの計算方法は以下の3タイプに分類されています。
- ネットアセットアプローチ(コストアプローチ)
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
どの企業価値計算方法も専門的で高度であるため、M&Aにおいて当事者企業側でその計算を実施するのは非常に難しいでしょう。しかし、心配には及びません。M&A実施の際にはM&A仲介会社に業務委託しているでしょうから、企業価値の計算もM&A仲介会社が行ってくれます。
ただし、その際に注意したいのは、M&Aの経験が不十分な担当者の場合、企業価値の計算で思わぬミスを起こしかねません。
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企業価値の計算方法①:ネットアセットアプローチ(コストアプローチ)
ネットアセットアプローチは、企業の貸借対照表(B/S)上の純資産に着目して企業価値を算出する方法です。「コストアプローチ」とも呼ばれ、企業の保有する資産の価値を客観的に評価できる点が特徴です。現時点での企業の価値を明確に把握しやすい一方、将来の収益性を直接的には反映しにくいという側面もあります。
ネットアセットアプローチは、英語でNet Asset Approachと表記し、Net Assetは純資産という意味です。ネットアセットアプローチは、インカムアプローチやマーケットアプローチと違って、別称があります。
それは、コストアプローチ(Cost Approach)とストックアプローチ(Stock Approach)です。Costとは費用の意味で、Stockとは株式資本という意味になります。昨今では、コストアプローチと呼ぶ方が多いかもしれません。
ネットアセットアプローチに分類されている計算方法はたくさんあるのですが、その計算方法の特性から、会社の業績が悪く今後回復の見込みがないような場合に限って使用される計算方法も存在します。
そのようにネットアセットアプローチには、最も客観的に現時点での企業価値を算出できることがメリットです。しかし、開業からこれまでの業績に注目しすぎて、将来性の価値が計算方法に含まれていないデメリットがあります。
ネットアセットアプローチには、主に以下の3つの企業価値計算方法があります。
①時価純資産価額法:資産・負債を時価で評価
企業の資産と負債を現在の時価で評価し、その差額(時価純資産)を企業価値の基礎とする計算方法です。貸借対照表をベースにするため客観性が高く、特に中小企業のM&Aで広く用いられます。計算式は『時価評価した資産 − 時価評価した負債』で算出された時価純資産に、将来の収益力を示す『営業権(のれん)』を加算して最終的な企業価値を求めます。営業権は、ブランド力や技術力といった無形資産を評価するもので、通常は将来の超過収益力の2〜5年分で計算されます。
②簿価純資産価額法
簿価とは、仕入れた時に会計処理され、帳簿に記載された価値です。つまり簿価純資産価額法とは、資産を手に入れた時点の価格を基にして、企業価値を計算する方法です。時価純資産価額法との違いは、純資産を時価で見るか簿価で見るかの違いのみで、計算方法は変わりません。
時価換算をしなくてもいいため、計算方法としては時価純資産価額法よりもさらに簡便ですが、仕入れた時の簿価に対して、現在の時価があまりにもかけ離れているケースでは、企業価値を適正に計算できません。
したがって、資産の価値が著しく低下もしくは上昇している場合には、他の方法で企業価値を計算するのが妥当です。
③清算価値法
清算価値法では、現在抱えている負債を、現在保有している資産を売却した金額で返済したと仮定します。その後に、どの程度の資産が残っているかを計算し、それを企業価値とするのです。しかし、実際の計算方法としては、注意点があります。
資産の価値を簿価の満額とはしません。例えば売掛金などは金額の80%、棚卸資産などは50%といった具合に修正したうえで計算を行います。つまり、全ての資産は、仕入れ時よりも価格が下がっていると判断して計算するのです。
そして、清算価値法は、その名が示すとおり、会社清算時に株主が得られるであろう金額を算定するために用いられる計算方法です。
企業価値の計算方法(インカムアプローチ)
インカムアプローチは、企業の将来的な収益性やキャッシュフロー創出能力に着目して企業価値を算出する方法です。将来の成長性を評価に織り込めるため、スタートアップや成長企業、無形資産が重要な企業の評価に適しています。M&A後のシナジー効果などを期待する買い手側にとって、特に重要な評価アプローチと言えます。
したがって、M&Aにおいて最も適した企業価値の計算方法だと言われています。ただし、将来性を合理的に判断できる反面、企業価値が安定しないデメリットもあります。なぜならば、企業価値の計算式の割合や数字は操作可能だからです。
この方法を用いて企業価値を計算する場合、ある程度その不明瞭さを理解しておく必要があります。インカムアプローチに分類されている計算方法は、主なものとして以下の3つです。
①DCF法:将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く手法
DCF法とは「Discounted Cash Flow」の頭文字で省略した呼称です。その会社が将来に渡り、どの程度利益を生み出すかを企業価値として数値化します。キャッシュフローを生み出せる能力、すなわち期待値を加重平均資本コストで割り引いたものが企業価値なのです。
基本的にDCF法は、成長性が高い会社の企業価値を計算する際に用いられます。インカムアプローチの中でも、客観的に企業価値を計算できる方法とされており、現在のM&Aの現場でも最も多く採用されている計算方法です。
②APV法
資本構成が今後変化するかどうかは、経営者でも予測不可能です。したがって、DCF法で将来的なキャッシュフローを計算するには限界があります。そして生み出された計算方法が、このAPV法です。なお「Adjusted Present Value」の頭文字を取って呼称となっています。
APV法は、将来得られるキャッシュフローに重点を起きつつも、現在の価値も企業価値の計算に含めます。DCF法で算出する場合と比べ、企業価値が高くなりやすい特徴があるので、その点は前提として抑えておきましょう。
③配当還元法
配当還元法は、現段階で配当金額を株主にいくら分配できるのか、という点に着目しています。前述した企業価値の計算方法では会社全体の価値を算出しましたが、配当還元法では会社の配当のみに着目します。
この場合、他の計算方法よりも企業価値は低くなります。株式を少ししか保有していない株主や、ストックオプションとして保有している従業員などに対して、より多く還元するために活用される方法です。
計算方法の内容でわかるとおり、配当還元法がM&Aでの企業価値算定で用いられることはありません。
企業価値の計算方法(マーケットアプローチ)
マーケットアプローチは、株式の公開を目指している会社に対して利用されることが多い計算方法です。計算対象となる会社が市場の中でどのような立場にあるのか、他の会社と比べてどのくらい価値があるのか、などの視点で企業価値を計算します。
対象会社と似ている会社との比較により、企業価値を定めるということは、客観性のある計算方法と言えます。しかし、その似ている会社を探すというこちに時間と手間がかかります。また、本質的な企業価値を計算できているのか、という点では不確かさは否めません。
マーケットアプローチには、いくつもの計算方法がありますが、本項では以下2種類の計算方法を掲示します。
①類似企業比準法(マルチプル法):類似する上場企業と比較
類似企業比準法は、マーケットアプローチの代表的な計算方法の1つです。計算対象となる会社と、企業規模や事業規模、利益やキャッシュフローが似ている上場企業を選び出し、その会社の数値を基準に企業価値を算出します。
この時比較対象とする会社は、上場企業でなければいけません。上場企業でなければ、企業価値のわかる数値が公表されていないからです。同じマーケットアプローチの中には、類似する計算方法として、「類似取引比較法」や「類似業種比準法」があります。
②売買実例法
売買実例法では、これまでの売買実例に着目して企業価値を計算します。非上場企業の場合、上場企業と違って株式市場での売買取引はされません。しかし、株式市場外で現実に株式取引がなされる場合もある場合があります。
そのような過去にあった取引実態を転用して、対象企業の企業価値とする計算方法が売買実例法です。このように、マーケットアプローチでは、対象会社の立場やこれまでの実績に基づいて企業価値を計算します。
企業価値の計算を行う際、会社の状態やどこに着目するかによって用いるべき手法が異なります。会社の業績が悪ければアセットアプローチを使用し、将来性が期待できる会社であればインカムアプローチを使用するのが通例となりつつあります。
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マーケットアプローチ
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M&Aで企業価値評価(バリュエーション)を行う際のポイント
M&Aにおける企業価値評価は、専門的な知見が求められる複雑な作業です。ここでは、評価を行う際に押さえておくべき3つの重要なポイントを解説します。
複数の評価方法を組み合わせて多角的に分析する
企業価値評価では、単一の手法に固執すると実態から乖離した結果になるリスクがあります。例えば、資産の少ないIT企業をネットアセットアプローチだけで評価すると、その価値は著しく低く算出されてしまいます。そのため、対象企業の特徴に合わせて複数の評価方法を併用し、それぞれの結果を比較検討することで、より客観的で納得感のある企業価値を導き出すことが重要です。
のれん(営業権)の評価を適切に行う
のれん(営業権)は、企業のブランド力、技術力、顧客基盤といった無形の資産価値を指し、企業価値に大きな影響を与えます。特に中小企業のM&Aでは、こののれんの評価が価格交渉の鍵を握るケースが少なくありません。将来の収益力を何年分と見積もるかなど、評価には専門的な判断が求められるため、算出根拠を明確にしておくことが不可欠です。
M&Aの目的に合った評価方法を選択する
企業価値評価は、M&Aの目的によっても重視するポイントが変わります。例えば、買い手が事業シナジーを重視している場合は将来性を評価するインカムアプローチが、売り手が会社の清算を検討している場合はネットアセットアプローチの結果が重要視されます。当事者間で目的を共有し、どの評価方法を主軸に交渉を進めるか合意形成を図ることが円滑な取引につながります。
まとめ
M&Aにおける企業価値評価は、価格交渉の出発点となる重要なプロセスです。本記事で解説した3つのアプローチにはそれぞれ一長一短があり、対象企業の特性や状況に応じて複数の方法を組み合わせて多角的に評価することが一般的です。適正な企業価値を算出するには高度な専門知識が不可欠なため、M&Aを検討する際は、経験豊富な専門家へ相談することをおすすめします。
本記事の要点は以下のようになります。
・企業価値とは
→M&Aの際に会社の価値を表す
・ネットアセットアプローチ(コストアプローチ)
→貸借対照表の資産の部に着目して行う企業価値の計算方法
・インカムアプローチ
→将来的な成長が期待できる場合に利用される企業価値の計算方法
・マーケットアプローチ
→類似する上場企業の数値から企業価値を求める計算方法
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。