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2021年4月27日更新会社・事業を売る
会社分割における適格要件
会社分割の定義、事業譲渡との違いを整理しながら、会社分割の税務、会社分割における適格要件、非適格要件、税制適格分割のメリット・デメリットを解説します。会社分割の課税範囲、手続きについても解説します。
会社分割における適格要件
会社分割といえば、M&Aで使われる手法の1つです。しかし、会社分割には適格要件と非適格要件があり、それぞれ微妙にその内容が異なっています。
会社分割における適格要件と非適格要件は税務に影響するものであり、適格要件であれば税の負担が軽くなります。
会社分割を行う場合には、この2つの要件を把握しておくことが重要です。今回は、会社分割における適格要件・非適格要件の違いについてお伝えしていきます。
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会社分割とは
そもそも会社分割とはどういった手法なのか、簡単におさらいしていきましょう。
会社分割は、会社内の事業の権利義務の一切を会社から切り離して、他の会社に承継させるというものです。その名のとおり、会社を分割するというものが会社分割であり、主に組織再編の目的で使われることが多いです。
例えば、会社内で抱えている事業をより事業に集中できる体制にするために、会社から切り離して独立させたり、逆に会社内の不採算部門を切り離すために、他社に吸収させるといった理由で会社分割は行われます。
詳しくは後述しますが、会社分割は複雑なスキームになることもあります。また、会社分割の適格要件については、平成29・30年に改正されているため、改正点を見逃してしまい非適格となれば、課税の義務を負うことになります。
会社分割の種類
会社分割は大きく分けて2種類あり、新設分割と吸収分割に分けられます。
①新設分割
新設分割は、その名のとおり、新しく設立した会社に事業を承継させるという手法です。これは1つの会社内で完結する手法であって、分割を行う会社の株式をそのまま交付できるなど、適格要件を満たしやすいものでもあります。
ただ、新しく会社を設立する必要があるため、分割や設立に関する登記を行わなければならず、手続きがやや煩雑なのが欠点です。
②吸収分割
もう1つの手法である吸収分割は、会社から分割した事業を他の会社に承継(吸収)してもらうというものです。
こちらは新設分割とは異なり、基本的に既存の会社に承継させる形式になっていますが、なかには新しく孫会社を設立したうえで親会社の事業を承継させるというパターンの吸収分割を行うこともあるようです。
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新設分割と吸収分割の違い
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割とよく似た手法として、M&Aでよく使われる「事業譲渡」と呼ばれる手法があります。
事業譲渡は、その名のとおり、会社内にある事業を他の会社に譲渡するという手法であり、どちらかというと会社を分割するというより事業(資産ともいえます)を直接的に売買するというニュアンスが強いものです。
一見すると、同じ事業を他の会社に渡すという点においては、会社分割と事業譲渡はあまり違いがないように思えます。ただ、会社分割と事業譲渡は根本的に異なっているものです。
会社分割が組織再編の手法であることに対し、さきほどもお伝えしたように、事業譲渡は資産の売買というニュアンスが強いものです。
それもあって、会社分割は、事業の対価を現金だけでなく株式で支払うことも可能であり、価額も簿価か時価で選択できますが、事業譲渡における事業の対価は現金しか使えず、価額も時価で扱います。
また、事業譲渡には、新設分割のような手法はなく、基本的に、既存の会社に事業を譲渡するという形式を取ります。前述したように事業の売買であるため、会社分割と事業譲渡では課税範囲や株主総会の必要性の有無が異なっており、手続きが違う部分があります。
事業譲渡はスピーディーに事業の承継を進めたいときに活用
さらに事業譲渡は、会社分割と違って規模の小さい案件に使われることが多く、よりスピーディーに事業の承継を進めたいときに使います。
そのため、事業譲渡は事業の譲渡に特化している手法ですが、会社分割は事業以外の範囲も踏まえたうえで自由に分割する内容を調節できるため、柔軟な設計が可能になります。
ただ、事業譲渡は事業を譲渡するときに、承継する従業員や資産、取引を契約の範囲内で自由に設定できますが、会社分割はそれができません。
会社分割は、株式譲渡や合併のように包括的な承継を行うものであるため、簿外債務や偶発的な債務のようなものがあった場合は、それも承継されてしまうので注意してください。会社分割と事業譲渡はそれぞれ使用される目的が異なるため、混同しないように気を付けておきましょう。
ただ、いずれの手法にせよ、他社と行うのであれば売り手の条件が買い手と合致しているという必要があります。とりわけ売買のニュアンスが強い事業譲渡では、売り手の選び方は非常に重要です。
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会社分割の税務
会社分割の税務は、主に法人税です。会社分割を行った場合、それは分割する対象に譲渡したものとみなされ、譲渡損益が発生します。その譲渡損益に法人税が課税されることになります。
詳しくは後述しますが、適格要件をクリアすると、譲渡損益は繰り延べられます。非適格要件になってしまうと、譲渡損益は通常どおり譲渡利益、または譲渡損金として分割会社に計上されます。
このように適格要件・非適格要件の違いは税務上かなり大きいです。そのため、会社分割を行う会社は、税務上の負担を軽減するために、適格要件をクリアする状態で行うケースが多いです。
ちなみに、事業譲渡を行うと消費税が発生します。あくまで事業譲渡は、事業=資産の売買として扱われるため、買収の際には消費税を踏まえて現金を用意しなければなりません。
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支配率と適格要件
会社分割における適格要件について一言で言ってしまえば、「支配関係が継続している」かどうかということと、その支配率が大きなポイントです。そのため、移動した資産の支配関係が継続する場合であれば、適格要件をクリアしている、という扱いになります。
会社分割における適格要件は、両社の関係が「支配率100%」「支配率50%超~100%未満」「支配率50%未満で支配関係がない会社との共同事業」の3つの各パターンでそれぞれ異なります。支配率が低いほど、満たす必要がある要件が増えます。
したがって、対象となる両社の関係性をしっかりと把握したうえで、どの適格要件を満たしておくかを事前に十分に確認しておくことをおすすめします。
次に、支配率の適格要件をパターン別にご紹介します。
①支配率が100%のパターン
両社の支配率が100%のパターンでは、適格要件は最も満たしやすくなります。
このパターンでは、「分割を行った際の対価資産が分割承継する会社か、分割承継を行う親会社の株式以外の資産が分割する会社か、その会社の株主に交付されていないかどうか」がポイントです。これは、会社資産の支配権の継続を示しています。
②支配率が50%超~100%未満のパターン
このパターンでは、株式交付に関連した項目はそのままに、さらに以下の要件が追加されます。
- 分割された事業に関する主要資産および負債が、分割承継された会社に移転されている
- 分割される事業に関わる従業員のうち、その総数の大体80%以上の従業員が分割後もその事業に従事することが決定されている
- 分割された事業が分割後も継続して、分割承継された会社で営業を継続している
もちろん前提条件には、「分割後も支配率が50%超の支配関係が継続されていること」も含みます。
③支配率が50%未満で支配関係がない会社との共同事業のパターン
このパターンでは、前述した支配率50%超~100%未満のものにさらに要件が追加される形になります。
つまり、クリアしておかなければならない適格要件が最も多くなる状態であるため、このパターンにあたるときは十分に注意しておきましょう。
このパターンで新たに追加される要件は、以下のとおりです。
- 分割する事業と分割前に分割承継される会社でもともと営まれていた事業の間に相互関連性が存在していること
- 分割する事業と分割前に分割承継される会社でもともと営まれていた事業のそれぞれの売上金額、従業員数、もしくはそれらに準ずるものの規模の割合が50%を超えていない
- 分割する会社役員の誰かと、分割承継される会社社長や副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役、常務取締役、あるいはこれらに準ずる会社の経営に従事している役員(これらを総じて特定役員という)の誰かが分割後に分割承継された会社の特定役員になると見込まれている
このパターンでは、事業の相互の関連性や経営に参画する役員など、さまざまな事柄が要件に含まれるようになります。事業の規模の要件も満たしておかなければならないものであり、かなり細かい点まで念頭に置かなければならないので注意してください。
会社分割における非適格要件
非適格要件は端的にいってしまえば、これまでお伝えした適格要件のいずれかを満たしていなければ該当するものです。税務面で考えると、非適格要件に該当することはただ課税対象を増やして、税の負担を増やしてしまうだけといえるため、メリットはありません。
そのため、適格要件を満たしていくように会社分割を行い、非適格要件から外れる必要があります。ただ、気をつけておきたいのが、会社分割を行う際に、事業(資産)の対価を簿価で支払うか、時価で支払うかです。
簿価で会社分割を行った場合は、適格要件を満たすことになりますが、時価で行った場合は、必然的に非適格要件となります。前述でお伝えしたように、時価での支払いは、事業譲渡の要件を満たすことになり、課税が発生してしまうことになります。
簿価で支払うか、時価で支払うかも適格要件・非適格要件を分けるファクターになるので、意識しておくことをおすすめします。
税制適格分割のメリット・デメリット
ここでは税制適格分割、つまり適格要件を満たした会社分割のメリット・デメリットをお伝えしていきます。
一見、適格要件を満たした会社分割にはデメリットがあるとは考えにくいかと考えられますが、もともと会社分割が持っているデメリットが解消されるわけではないため、会社分割という手法に内在するデメリットは、ある程度把握しておく必要があります。
税制適格分割のメリット
税制適格分割のメリットは、やはり課税対象から外れることができるという点にあります。会社分割に限らず、組織再編、グループ再編、M&Aにおいては、税の負担はなるべくなくしておきたいものです。
そもそも会社分割は、組織再編やグループ再編の場合に多用される手法であり、適格要件もそれを前提として設定されている傾向があります。
そのため、適格要件は関連している企業との組織再編や、会社のグループ化を行うものであれば、クリアしやすい要件になっており、それさえクリアすれば税の負担を軽減することができます。
M&Aのニュアンスが強い事業譲渡と会社分割の違いは、ここにあるといっても過言ではありません。単純な事業の売買である事業譲渡には適格要件がないため、法律上で定められた課税を受ける必要があります。
会社分割は組織再編・グループ再編を行ううえで適した手法
それと比べると、組織再編やグループ再編を念頭に置いた課税範囲と適格要件が設けられている会社分割のほうが、組織再編・グループ再編を行ううえで適している手法といえます。
また、適格要件を満たした会社分割は、株主に対して発生するみなし配当の計上も不要になるため、株主への負担も軽減することができます。
会社分割という手法は、基本的に株主総会で承認を受けなければならないというものであり、株主が会社分割に対して、どういう心証を持っているかが重要になります。会社分割が適格要件を満たしており、自身や投資している会社への負担が少ないものであれば、株主も賛同しやすくなります。
しかし、非適格要件であって、自身や会社への負担が多いようであれば、心証は悪くなってしまうでしょう。
万が一、株主総会で会社分割が否決される、あるいは反対する株主が株式買取請求権を使うような事態になれば、会社分割のスケジュールが遅れることになり、最悪の場合であると、会社分割の実行自体が難しくなってしまうことも考えられます。
そういった点を踏まえると、税制適格分割にしておくことは、会社分割を行ううえで非常に重要といえるでしょう。
税制適格分割のデメリット
税制適格分割のデメリットは、会社分割という手法それ自体が影響している一面があります。そもそも、会社分割を行う場合に株式を対価として支払えるというメリットは、現金を用意しなくてもいい反面、デメリットをはらんでいます。
会社分割を行う会社の株式が非上場株式であった場合は、改めてその株価を計算する必要がでてきますので、これがかなり手間がかかるプロセスになってしまいます。
株価は単純にその会社の利益などを算出するだけでなく、将来性などその会社を多角的に分析したうえで初めて算出されるものです。
上場株式であれば、株価が明示されているので算定する必要はありませんが、非上場株式の場合は専門的な知識を持ったプロフェッショナルを交えて株価を算定していく必要があります。
そのため、非上場株式を持つ会社は、分割後に余計な手間がかかってしまう可能性があることを念頭に置いておかなければなりません。
最初にお伝えしたように、会社分割は株主総会や登記などといった手間がかかってしまう手法であるため、どうしても一定の期間を設けたスケジュールを立てる必要があります。
分割後の株式の現金化の作業でさらに手間をかければ、余計なコストや時間を取られる結果になりかねないので注意しておきましょう。
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適格組織再編とは?適格要件と適格組織再編の種類
まとめ
今回の記事をまとめると、以下のようになります。
【会社分割とは?】- 会社の事業の権利義務を分割し、新設した会社や既存の会社に承継させる手法
- 課税範囲や手続き、対価に使えるものが異なっている
- 会社分割は組織再編やグループ再編で使われることが多い
- 会社分割は譲渡損益が発生するため、法人税が発生する。ただ、適格要件を満たしていれば、会社分割をしても課税対象から外れることができる
- 会社分割の適格要件は会社の支配率によって要件が異なっており、いずれも共通しているのは「支配関係が継続されているかどうか」である
- 支配率が低いほど、要件が増えていくので注意
- 会社分割を簿価で行わず、時価で行うと非適格要件になってしまうので注意
- 税制適格分割を行えば、課税対象から外れることができるため、会社や株主にかかる税の負担を軽減できる。ただ、非上場株式の場合、株価の算定に手間がかかるので注意
会社分割を行う際、適格要件を満たしておくことは、ある意味前提条件となっているといっても過言ではありません。
事業譲渡と違って、適格要件を満たして税制適格分割を行うことで、課税対象から外れることができることは、会社分割の一番のメリットといっても過言ではないでしょう。
ただ、いくら適格要件を満たした会社分割でも、株価の算定などで思わぬ手間がかかってしまうリスクがあることもあらかじめ踏まえておくことがおすすめです。
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