M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年10月12日更新会社・事業を売る
M&Aに関する法律まとめ!専門用語や仲介契約、法務の注意ポイントも解説
M&Aにおける法律は、契約書の締結などさまざまな場面で深く関わります。法律に反するようなことがあればM&Aが無効になってしまうばかりか、罰を課せられる恐れもあり注意が必要です。本記事では、M&Aに関する法律や専門用語、法務の注意点などを解説します。
目次
M&Aと法律の関係性
M&Aには多くの手法が存在しますが、いずれの手法を用いたとしても法律が深く関わります。法律に反する行為は厳しく罰せられてしまうので、M&Aに関連する法律を把握したうえで順守しなくてはなりません。
これは売り手・買い手の双方にいえることです。どちらか一方でも法律に反するとM&Aが無効になって徒労に終わってしまう可能性があります。検討しているM&A手法に応じた法律を双方が把握しておく必要があります。
M&Aと法律には切れない関係性がある
法律を無視した形でM&Aを実行するとM&Aの正当性が認められず、M&Aの交渉にかけた費用や手間が無駄になってしまいます。さらに深刻になると、売り手・買い手の間でトラブルが発生して損害賠償問題に発展することもあり得ることです。
本来の目的の達成どころかM&A前よりも状況が悪化してしまうため、法律に沿った形でM&Aを進行することが求められます。
M&Aのスムーズな進行には関連する法律の熟知が必要
M&Aに関連する法律は数多くあります。ただし、「M&Aに関連する法律はコレ」とわかりやすく分別されているわけではないので、膨大な数の法律の中から、M&Aに関連する、または関連する可能性のある法律を見つけ出して理解しなくてはなりません。
たとえば、株式の売買が伴う手法であれば、金融商品取引法が深く関わります。M&Aによる急激な株式価値の変動で投資家が損失を被らないように設けられているもので、M&A当事者は定められた形で情報を一般公開する義務があるのです。
用いるM&A手法次第で、関連する法律は異なります。M&Aをスムーズに進行するためには、さまざまな法律を熟知しておきましょう。
M&Aに関する主な法律・専門用語
M&Aは、さまざまな場面で法律が深く関わります。いずれも軽視できないので、正しく把握しておかなくてはなりません。M&Aに関する法律には、以下のものが挙げられます。
- 会社法
- 労働契約承継法
- その他の雇用に関する法律
- 独占禁止法
- 金融商品取引法
- 税法
- 民事再生法
- 産業競争力強化法
- 建設業法
- その他の許認可
- その他のM&Aに関する法律
①会社法
会社法とは、会社の設立・組織・運営・管理について定めた法律です。2006(平成18)年に「旧法」「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」「有限会社法」の3つが統合されて会社法が誕生しました。
M&Aを実施すると会社の管理体制に変化が生じるため、会社法も深く関わってきます。いずれの手法を用いたとしても影響するものなので、会社法の理解は必要不可欠です。2015(平成27)年には、M&Aによる組織再編の差し止め請求について改正されています。
法令または定款に反する、かつ株主に不利益をもたらすM&Aである場合、株主はM&Aを検討する企業に差し止め請求できる内容です。差し止め請求は、6カ月以上前から株式を保有している株主に限られるなど利用範囲は限定されますが、M&Aの際も株主に発言権が与えられています。
②労働契約承継法
労働契約承継法とは、会社分割時の労働者の保護を目的とした法律です。会社分割はM&A手法の1つで、組織再編の手法として広く活用されています。会社分割は、M&A譲渡対象を選択可能なうえ、権利義務を包括承継できる点が特徴です。
しかし、自動的に承継された労働者は多大な影響を受けることが想定されるため、以下の規定が設けられています。
- 労働者および労働組合への通知
- 労働契約の承継についての会社法の特例
- 労働協約の承継についての会社法の特例
- 会社分割にあたって労働者の理解・協力を得る手続き
- 商法等改正法附則第5条における労働者との協議の規定
③その他の雇用に関する法律
雇用に関する法律は、「労働基準法」「雇用対策法」「国民健康保険法」など多くの法律があります。これらの法律は、労働者を守るための法律であるとともに、職業によって必要となる能力を開発し、労働者の社会的な活躍を推進することも目的としたものです。
労働者の職業能力の向上により、労働者側・企業側ともにメリットが豊富にあります。また、特殊なケースの雇用関係の法律としてあるのが、前述した「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)」です。
④独占禁止法
独占禁止法とは、公正な競争環境を維持するための法律です。特定市場で大きな影響力を持つ事業者同士がM&Aで統合を果たすと、他の事業者が参入する余地がなくなってしまい、独占状態が発生する恐れがあります。
競争環境が失われると製品・商品の値段は釣り上げられ、一方的に消費者が搾取されることになりかねません。公正な競争環境を維持することで、事業者と消費者を保護することを目的としています。
実体規制
実体規制とは、M&Aによって特定市場の競争環境を損なうと判断された場合にM&Aが規制されることです。M&A後の企業が積極的に阻害するかどうかではなく、M&A自体が市場に与える影響を考慮したうえで判断されます。
たとえば、特定市場でトップシェアを誇る大手企業同士のM&Aは、不正な価格操作で他の事業者を排除するリスクがあると判断されたことがありました。
届出規制
届出規制とは、M&Aの規模が一定以上である場合は公正取引委員会に事前に届出する義務のことです。要件を満たすM&Aにもかかわらず届出を行っていないと、M&Aの正当性が認められません。また、公正取引委員会への届けの受理後、30日間はM&Aを進行できないことになっています。
ただし、公正取引委員会による許可を得られる場合は、期間を短縮することも可能です。株式譲渡を用いたときの独占禁止法の届出要件は下記のようになっています。要件は用いる手法によって変わりますので注意が必要です。
- M&Aに関与する企業および企業結合集団に属する企業の国内売上高合計が200億円を超える場合
- 株式発行会社およびその子会社の国内売上高合計が50億円を超える場合
- 株式取得後に議決権合計が新たに20%もしくは50%を超える場合
⑤金融商品取引法
金融商品取引法とは、証券市場における有価証券の発行・売買について定めた法律です。金融商品の多様化に対応するため、2006年に証券取引法から金融商品取引法へと改正されました。
さまざまな規制が設けられていますが、いずれも株式に関する情報を広く一般の投資家に浸透させるように努めることで、投資家を保護する目的があります。
インサイダー取引・相場操縦
インサイダー取引とは、重大な投資判断材料を知り得る人間が、対象とする株式の取引に関わることで不公正な取引を行うことです。情報を知り得る投資家とそうでない投資家の間で一方的な差が生まれてしまい、株式市場の信頼性も損なわれます。
M&Aにおいては、当事会社の内部の人間が、M&A情報の公開前に株式を買い集めるなどが該当する行為です。
相場操縦とは、他人の認識を利用し株式市場を意識的・人為的に操作して、自身の利益を確保しようとする行為をさします。約定させる意思がない注文を発注して、第三者の注文を誘う見せ玉などが該当する行為です。
企業内容等開示制度
企業内容等開示制度とは、有価証券報告書等の各種開示書類の提出を義務付ける制度です。事業内容や財務内容を一般情報として公開することで、全ての投資家が等しく判断材料を確保することを目的としています。
主に上場企業を対象としている制度ですが、非上場企業においても一定以上の規模を超えると有価証券届出書を提出しなくてはなりません。有価証券届出書の要否は以下の判断で行われます。
区分 | 発行価格の総額 | ||
1千万円以下 | 1千万円超から1億円未満 | 1億円以上 | |
募集または売出し | 不要 | 有価証券通知書 | 有価証券届出書 |
上記以外 | 不要 |
株券等の公開買付の開示規制
株券等の公開買付の開示規制とは、ある会社の経営権取得を目的として株式の買付を行う場合は、事前公告を行う義務が課せられる制度です。株式を保有する株主や投資を検討する投資家に対して、情報を共有するために定められています。
公告内容は「買付期間・買付数量・買付価格・買付目的」などです。また、公開買付はTOBとも言われており、上場企業のM&Aの際に活用されています。
株券等の大量保有の状況等に関する開示制度
株券等の大量保有の状況等に関する開示制度とは、ある会社の株券を大量に(5%以上)保有する場合は、適時情報を公開する義務が課せられる制度です。取引市場の公平性・透明性を高めることで、投資家の保護を目的としています。
本制度は5%ルールとも言われており、金融商品取引所に上場している企業の発行済株券の5%以上を保有する場合が該当です。株券以外に投資証券・新株予約権証券なども含まれます。
金融商品取引業者等の監督
金融商品取引業者等の監督とは、金融商品取引業者の健全な業務の確保による金融商品の公正な取引環境を保つ考え方です。金融商品取引業者は、主に証券会社や投資信託委任会社が該当します。
日本の金融市場は間接金融に偏重していますが、健全な経済発展を目指すためには、直接金融(金融機関等を介さずに直接投資すること)にシフトしていく必要があるという見解がなされました。
全ての投資家が直接金融を行うためには、取引市場を正しく機能させたうえで透明性を確保する必要があり、本制度が求められたものです。
⑥税法
この場合の税法とは、主として「法人税法」のことであり、法人税法とは、法人税に関する法律のことです。会社が所得に対して支払わなければいけない税金は、法人税・住民税・事業税の3つがありますが、住民税と事業税は地方税であるのに対し、法人税は国税にあたります。
行政機関が法人税の手続きを明記した文書として存在するのが「基本通達」です。企業の納税担当者はこの基本通達を参照し、個々に応じた適切な計算をしなければなりません。
法人税、住民税、事業税以外にも、企業が関連する税金は多様です。以下に、その多様な税金に関連する法律をまとめて列挙します。
- 国税通則法
- 国税徴収法
- 所得税法
- 相続税法
- 登録免許税法
- 消費税法
- 印紙税法
- 租税特別措置法
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(復興財源確保法)
- 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(租税条約実施特例法)
- 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令(租税条約実施特例省令)
⑦民事再生法
企業における民事再生とは、経営が困難になったときに、ただ会社を倒産させるのではなく、借金を減らして経営を立て直すために行うものです。経営が困難になった企業が民事再生を行うと、銀行からの融資は一切、受けられなくなります。
したがって、民事再生を行うためには、スポンサーとなってくれる企業があることが前提です。経営が困難になった企業は、基本的に自社株式をスポンサーとなる企業に譲渡し、その譲渡代金を借金の返済にあてます。
近年、民事再生を実施した企業として有名なのがスカイマークです。スカイマークは民事再生の申し立て後、実質約1年2カ月で借金を完済し、経営を立て直せました。
⑧産業競争力強化法
産業競争力強化法とは、日本経済全体の再興や、そのための経済・経営環境是正について定めた法律です。2014(平成26)年1月、アベノミクスの一環として施行されています。
従来は、類似する法律として「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産業活力再生特別措置法)」がありました。しかし、産業競争力強化法の施行に伴い、重要部分は産業競争力強化法に引き継がれて、産業活力再生特別措置法は廃止されています。
⑨建設業法
建設業法とは、建設業務における不正行為を防止するための法律です。建設工事の請負契約の適正化を図り、発注者や下請けの建設業者を保護することで、建設業の健全な発達を促進する目的で定められています。
建設業法は1949(昭和24)年に定められた法律です。戦後復興時に建設需要が拡大した際、ダンピング受注や不適正施工が乱立して建設業界全体で大きな問題となり、早急に対応するべく制定されました。
以降、1964(昭和39)年の東京オリンピックや2008(平成20)年のリーマン・ショックなど、建設需要に大きな変化が見られるタイミングで適時改正が行われ、現在の建設業法へと行き着いています。
⑩その他の許認可
許認可とは、特定事業を行う際に行政機関から取得しなければならない許可のことです。許認可が必要な事業を無断で行っていることが発覚すると、業務停止命令を下される可能性があります。悪質だとみなされると、対象事業だけでなく企業全体に及ぶこともあるものです。
許認可の種類は全部で5つに分類されており、対象事業の性質によって必要な許認可が異なります。それぞれの区分の扱いは以下のとおりです。
- 届出:届出のみで完了
- 許可:一般的に禁止されている行為について特別に許可を得ること
- 登録:名簿への登録
- 認可:定められた要件を満たす
- 免許:特定の資格を要する
届出は、該当する行政機関に通知書を提出するだけで開業が認められます。具体例としては「理容業・美容業・マッサージ業」などです。前述した建設業の許認可は「許可」に該当します。届出を行ったうえで許可を取得して初めて、事業に取り組めるものです。
⑪その他のM&Aに関する法律
M&Aの実施において、ここまでに紹介したもの以外にも関連する法律・法令はまだあります。以下に、その可能性のある法律をまとめました。参考にしてください。
- 有限責任事業組合契約に関する法律(LLP法)
- 投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)
- 外国為替及び外国貿易法
- 対内直接投資等に関する政令
- 外国為替の取引等の報告に関する省令
M&Aの法務手続きと注意ポイント
M&Aは、進行に合わせてさまざまな契約書を締結するものです。この章では、契約書の内容と発する効力に焦点をあてて解説します。
秘密保持契約書の作成・締結
秘密保持契約とは、M&Aで開示される情報を目的外に利用しないことを誓約する契約です。秘密情報をM&Aの交渉以外の目的で利用されると大きな損失を被る可能性があるため、M&Aの初期段階で締結しておきます。秘密情報とは、たとえば売り手の企業情報です。
買い手に対してM&Aの判断材料を提供するためには、事業内容から財務状況まで全ての情報を公開します。この際、独自に保有する技術の外部流出などがあれば、売り手が受ける損失は計り知れません。また、M&Aを検討している事実も秘密情報に該当します。
M&Aの契約が正式に決定していない段階でM&Aの情報が流出すると、いたずらに株式市場をあおることにもなりかねないので、秘密保持契約による適切な管理の下、M&Aを進行することが必要です。
秘密保持契約書には、情報漏えいとする基準や損害賠償額を盛り込んでおきます。契約書に反する行為が認められた場合は、定められた内容に準じて賠償請求などが実行されるでしょう。
基本合意書の作成・締結
基本合意とは、M&Aの最終契約に向けて現段階における交渉内容をM&A当事者間で確認し合うための書類です。基本合意に至るまでの情報整理と今後の進行を円滑にする目的で交わされます。基本合意書は、一部の条項を除いて法的拘束力がありません。
基本合意書の締結時はデューデリジェンス(売り手側の価値・リスクの調査)前であるため、基本合意書に定められた取引条件は変更される可能性があるからです。
例外的に法的拘束力を持たせるものとして、売り手に他の企業とのM&A交渉を一定期間禁止する「独占交渉権」、情報漏えい防止に努める「秘密保持」、「売り手のデューデリジェンスへの協力義務」などがあります。
最終契約書の作成・締結
最終契約とは、M&Aの最終的な交渉内容に双方が合意したことを意味する契約です。便宜上、最終契約書と呼びますが、実際には用いるM&A手法名が契約書名になります(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、合併契約書など)。
最終契約書はデューデリジェンスの結果を反映させたものなので、全ての条項において法的な効力を持ちます。契約書に反する行為や一方的にM&A契約を破棄する行為は、被害者側に損害賠償する権利が与えらるため、契約前に全条項を把握しておくことが大切です。
また、従業員や取引先の引き継ぎに関する前提条件が定められることがあります。事業譲渡の場合、包括承継ではないため個別に同意を得なければなりません。条件を満たせないとクロージングが実施できないので、前提条件も注意が必要です。
表明保証とスタンドアローン問題
取引上の問題点の1つとして、「スタンドアローン問題」があります。
「スタンドアローン問題」とは、M&Aの実施後に、M&Aの対象企業がグループ企業から離れることにより、以前から利用してきた顧客基盤をはじめ技術や調達力、販売力などを失い、重要な販売先や仕入先を手放すことなどです。
中小企業では、社長の個人的な信頼関係に基づく取引が行われている場合がよくあります。M&Aの実施後にオーナー経営者が退任すると、従来の取引を行ってきた企業が取引そのものを回避したり、取引量や価格を不利益な内容に変更したりなどの問題が生じるかもしれません。
これもスタンドアローン問題の1つです。M&Aを実施前に取引を行っていた企業との取引がなくなった場合、従前どおりの利益を対象企業が得ることが困難となってしまうことがあり得ます。
この問題を回避するためには、対象企業の企業価値を維持するなど、可能な限リスタンドアローン問題に事前に対処することが大切です。
具体的には、M&Aの実行後も一定の取引価格や総量を継続することに関して、取引先との間で書面を取り交わしておくことをM&Aの最終契約のクロージング条件とします。また、表明保証で、主要な取引先との間の取引関係が変わらないことを条項に記載することなどが重要です。
労働契約
M&Aにおける労働契約とは、M&Aの際に転籍となる従業員の雇用条件の承継のことです。用いるM&A手法によって扱いが異なるため、各手法を理解しておく必要があります。
株式譲渡の労働契約
株式譲渡とは、売り手が保有する株式を譲渡して経営権を移転するM&A手法です。包括承継のため手続きが簡便な特徴があり、主に中小企業のM&Aで活用されています。株式譲渡が与える影響は資本関係のみであるため、従業員の労働契約に影響はありません。
雇用条件もそのまま引き継ぎが行われ、会社と労働者間の契約関係は維持されます。経営者が入れ替わることでM&A後に雇用条件が変更される可能性もありますが、最終契約書において雇用条件の継続・維持を定めておくことで数年間は防止することが可能です。
事業譲渡の労働契約
事業譲渡とは、事業の全部あるいは一部を譲渡するM&A手法です。資産や権利義務などの譲渡対象を選別できるため、事業再生の手段として広く活用されています。
事業譲渡は包括承継ではなく個別承継であるため、労働契約は従業員の同意を持って承継されるものです。売り手企業の労働契約を維持する「譲渡型」と、買い手企業と新しく労働契約を締結する「再雇用型」の2つがあります。
会社分割の労働契約
会社分割とは、事業の全部あるいは一部を資産や権利義務とともに譲渡するM&A手法です。事業部門を丸ごと譲渡するわけですが、新設会社に譲渡する新設分割と、既存会社に譲渡する吸収分割があります。
会社分割の承継は従業員の同意は要りませんが、必ずしも労働契約が引き継がれるとは限りません。従業員が望む労働契約だとしても、交渉内容次第では分割前の事業と切り離される可能性もあるでしょう。
会社分割での従業員の引き継ぎを希望する場合は、交渉段階から売り手と買い手の認識を深めておく必要があります。
合併の労働契約
合併とは、2つ以上の会社を1つの会社に統合するM&A手法です。新設会社に統合する新設合併と、既存会社に統合する吸収合併があります。合併は包括承継であるため自動的に従業員の引き継ぎが行われますが、事業譲渡や会社分割とは異なり、一部の従業員のみを除外できません。
労働契約は存続会社と消滅会社における労働条件が異なるため、扱いは難しくなります。合併の交渉次第では存続会社の労働条件に合わせることもあるため、確認を取っておくことが必要です。
業務委託契約
業務委託契約とは、M&Aの仲介を依頼する専門家との間で締結する契約です。業務委託によるサポート範囲は専門家によって異なりますが、M&A先の選定・交渉や各種契約書の締結など、M&Aの進行に関するサポートを受けられます。
業務委託契約書に記載される内容は「業務範囲・仲介手数料・秘密保持」などです。仲介手数料は専門家に支払う手数料のことで、支払うタイミングや科目が記載されます。秘密保持は、知り得た委託側の情報を、M&Aのサポート以外に利用しないことを誓約するものです。
契約形態も重要なポイントとなります。他の専門家にM&Aのサポートを依頼できるかどうかは重要なので「一般契約」と「専任契約」の違いにも注目です。
TSA
TSA(Transition Service Agreement)とは、M&Aにおいて特定の事業を切り離す際、移行期間中の事業サービスの管理の取り決めを行う契約です。移行期間とは、具体的に最終契約書の締結日からクロージング日までの期間をさします。
主に企業グループの子会社や事業部門を譲渡する際に、一定の移行期間を設けて一時的に本社の機能を利用できるように定めるものです。買い手側は、この期間中に準備を進めて事業の受け入れ体制を整えます。
TSAの締結タイミングは最終契約書と同じです。事業の切り離し効果を持つ事業譲渡や会社分割を用いる際は、TSAに関しても理解を深めて置く必要があります。
M&Aの法律の手続きに弁護士の助力は必要不可欠?
ここでは、M&Aにおける法務に関し、弁護士が担ってくれる役割を考えてみましょう。
弁護士の担う業務
M&Aにおける弁護士の役割は以下のものが挙げられます。
- 各種契約書の作成
- 独占禁止法・金融証券取引法に基づく申請および書類作成
- 労務問題
- 法務デューデリジェンス
- 法的トラブルの対応
①各種契約書の作成
M&Aの進行に合わせて契約書を作成・締結します。いずれも法的な内容を伴いますので弁護士に作成を依頼することが一般的です。インターネット上には各種契約書の雛形がありますが、あくまでも汎用的な内容になっています。
雛形をそのまま利用すると、交渉内容を反映できずにトラブルが起きる可能性があるでしょう。雛形を使って自力で作成する場合も、弁護士によるチェックが必須です。M&Aに関する知識がある弁護士ならば、手法に合わせた最適な契約書に修正してくれます。
②独占禁止法・金融証券取引法に基づく申請および書類作成
独占禁止法の届出規制や金融証券取引法の開示制度は、関連書類を作成して申請します。それぞれに要件が定められていて期間も限定されるものもありますので、弁護士の手によって円滑に進めるのが肝要です。
③労務問題
M&Aは必ずしも従業員の引き継ぎを行えるとは限らないため、解雇せざるを得ない場面も訪れます。その際に、解雇された従業員より不当解雇として申立を受ける可能性もあるものです。
弁護士は労務問題に関しても法的に対応できるので、問題が大きくなる前に解決に導けます。引き継ぎの際に起こりがちな残業代の未払いや、退職金の引き継ぎなどに関しても弁護士のサポート範囲です。
④法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスとは、M&A対象の法務リスクを調査することです。労務・知的財産権など調査範囲は多岐に渡りますが、特に重視されるのは「許認可」です。事業の性質によっては、許認可の引き継ぎが認められていない事業があります。
許認可の再取得は一定の時間がかかりますので、M&A後に遅滞なく事業開始できるように事前に調査しておかなくてはなりません。極めて例外ですが、売り手が許認可を取得せずに営業している場合もあります。引き継ぎ後に買い手が罰則を受ける可能性もあるので、あわせて注意が必要です。
⑤法的トラブルの対応
法的トラブルとは、M&Aの取引や契約書を巡って発生するトラブルをさします。相互の認識に相違があると法的トラブルの発生は珍しくなく、損害賠償問題になると裁判まで発展する可能性もあるものです。
法律のプロである弁護士なら大事になる前に対応できますので、交渉の一時停止や契約書の再締結ですむこともあります。
弁護士に依頼するメリット
1つひとつの法律に関して理解することは難しくありませんが、M&Aに関する法律は膨大です。全てを自力で学ぼうとしたときの労力は計り知れません。また、M&Aの進行に合わせて締結する契約書もそれぞれ法務に関する知識が必須です。
法務リスクを回避しながらM&Aをスムーズに進行するなら、法律の専門家である弁護士の力は欠かせません。これこそが、弁護士にM&A実務を依頼するメリットです。
他の士業やM&A仲介会社との違い
士業にはそれぞれ専門分野があります。公認会計士は財務面、税理士は税務面、社会保険労務士は労務面、そして、弁護士は法務です。M&Aを進めるうえで、法的な面を考慮したアドバイスが得られるのは弁護士以外にありません。
M&A仲介会社は、M&Aの専門家でありM&Aプロセス全体の進行上、頼りになる存在ですが、専門的な法律の知識や解釈・運用では弁護士が勝ります。
クロスボーダーM&Aの法律面での注意点
クロスボーダーM&Aとは、日本企業が外国の企業と行うM&Aのことです。この場合、それぞれの国で法規制は異なります。売り手・買い手の立場の違いも含めて、どちらの国の法規制を優先させるかなど難しい判断を伴うものです。
クロスボーダーM&Aにおいて、最低限、法律面で以下の点に留意しましょう。
- 当該企業国現地の弁護士、あるいは国際弁護士の起用を検討する
- M&Aを正当に成立させるために必須となる当該企業国の法的な要件をリサーチする
- M&A後、事業を行う際にネックとなる法的リスクの有無を事前に十分にチェックする
法律に強いおすすめのM&A仲介会社
M&Aは法律を順守しながら進める必要があるため、法律を網羅している弁護士のサポートを受けるのがベストです。しかし、M&Aは法務以外に財務や税務の知識も求められるため、弁護士だけではM&Aの一貫したサポートは受けられません。
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M&Aに関する法律のまとめ
M&Aでは数多くの法律が関連しているため、実行する際は認識を深めておく必要があります。また、用いる手法によっても関連する法律や締結する契約書が変わるものです。全てを把握するのは非現実的なので、必要に応じて専門家に相談するとM&Aを円滑に進行できるでしょう。
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トップ面談は、M&Aの条件交渉を始める前に行われる重要なプロセスです。当記事では、M&Aにおける役割や基本的な進め方を確認しながらトップ面談の具体的な内容と知識を解説します。トッ...
ディスクロージャーとは?M&Aにおける意味やメリット・デメリットまで解説!
ディスクロージャーは、自社イメージの向上や株価の上昇を実現する目的として実施されることが多いです。 本記事では、そんなディスクロージャーの意味や種類、メリットとデメリット、実施のタイミングなど...
連結会計とは?連結財務諸表の作成方法から修正・おすすめ管理システムまで紹介!
対象の財務諸表を連結修正を行って正しい金額(連結会計)に再計算をする必要があります。ここでは、そもそも連結会計とはどういうものなのか、連結決算には絶対必要な連結財務諸表の作成方法から連結修正の方...
【2024年最新】webメディア売却の事例25選!動向や相場も解説
webメディアの売却・買収は、売買専門サイトの増加などの背景もあり年々活発化してきています。本記事では、webメディア売却の最新事例を25選紹介するとともに、売却・買収動向やメリット・デメリット...
株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。