M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年5月24日更新会社・事業を売る
会社分割と事業譲渡の違いとは?メリット・デメリット、税務、許認可、選ぶポイントも解説
M&Aの手法として混同されやすい会社分割と事業譲渡には大きな違いがあります。買収対価支払い、税金、簿外債務や不要資産の引き継ぎ、契約と許認可の移転、手続き方法の5点で主に異なる、会社分割と事業譲渡の内容を明らかにします。
会社分割とは
ある会社(分割会社)が事業の全部または一部を分割し、他社に移転するM&A手法が会社分割です。そして、その事業を承継する会社(承継会社)が、新規に設立された会社の場合は新設分割、既存の会社の場合は吸収分割という呼び方で区分けされています。
それとは別の観点で、物的分割(または分社型分割)、人的分割(または分割型分割)という区分もあります。物的分割とは、承継会社から交付される対価の渡し先が分割会社の場合です。人的分割では、承継会社の対価の渡し先は分割会社の株主という違いがあります。
少しわかりづらいかもしれませんが、物的分割は親会社が子会社を設立するような縦の会社関係構築です。一方の人的分割は、同一グループ内に兄弟会社が増えていくような横の会社関係構築に用いられます。それゆえに会社分割は、企業の組織再編手法とも呼ばれています。
物的分割・人的分割は、それぞれ新設分割・吸収分割どちらの場合でも用いられますので、会社分割の最終的な種類は、新設物的分割、吸収物的分割、新設人的分割、吸収人的分割の4種類です。
物的分割・人的分割は法律用語としての呼び方であり、会計・税務用語としては分社型分割・分割型分割という言い方が使われます。いずれにしても、会社分割が組織再編行為として活用される場面としては、以下のようなケースが該当します。
- 一部の重点事業を切り離して分社化する
- グループ内の他社に一部の事業を移転することで経営資源の再配分を行う
- 複数の企業間で経営統合を実施する
会社分割のメリット・デメリット
会社分割の主なメリット・デメリットを紹介します。
メリット | デメリット |
・個々の契約などもまとめて引き継げる ・買収側に資金がなくても実施できる ・転籍する従業員から個別に同意を取る必要がない |
・煩雑な税務の手続きが求められる ・会計帳簿に計上されていない簿外債務を引き継ぐリスクもある |
事業譲渡とは
会社の中の事業について、その一部または全部を他社に売買するM&A手法が事業譲渡です。ある会社で今まで行っていた事業が、別の会社に移るという形式だけを見ると、会社分割との差が見分けられないほど似ています。
しかし、事業譲渡が行われるとき、そこには会社分割のような組織再編を行う意思は皆無です。純粋に事業とそれに紐づく資産を売買するためのM&A手法として、事業譲渡は用いられています。それを如実に示すのが、会社分割にはない事業譲渡独特の法規制である競業避止義務です。
競業避止義務とは、事業譲渡した売り手側の会社は、譲渡した事業と同一の事業を同一市区町村および隣接市区町村内で20年間行えません。ただし、事業譲渡時の契約で何らかの定めを交わせば、その契約内容が法律よりも優先されます。
事業譲渡は、中小企業のM&Aで株式譲渡に次いで多く活用されている手法です。事業譲渡がよく用いられるシーンとしては、以下のようなケースが多いです。
- 後継者不在で事業承継できない(売り手)
- 不要な事業や資産を売りたい(売り手)
- 事業売却益を獲得したい(売り手)
- シナジー効果が狙える事業を取得したい(買い手)
ただし、実務上では、結果的に組織再編手法として事業譲渡が活用されるケースもあり得ます。
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡の主なメリット・デメリットを紹介します。
メリット | デメリット |
・後継者問題を解決できる ・不採算事業、中核以外の事業を整理できる ・譲渡側は資金が得られる ・繰り越し欠損金や創業者などの退職金の拠出金は損金として計上できるため、税負担を軽減できるケースもある |
・課税や負債の処理に注意が必要 |
会社分割と事業譲渡の違いを徹底比較
ここからは、買収対価支払い、税金、簿外債務や不要負債の引き継ぎ、契約と許認可の移転、手続き方法という5つの側面から会社分割と事業譲渡の違いを徹底比較します。
買収対価支払い
はじめに、買収対価支払いの側面から会社分割と事業譲渡の違いを明らかにします。
会社分割の場合
組織再編行為である会社分割は、一般的に事業移転への対価は現金ではなく自社株式の交付です。これは、後述する税金に関する重要な要素になります。組織再編行為として認められれば、組織再編成税制に則り、法人税上の優遇措置を受けられる仕組みです。
組織再編行為と認知されるためには、法令で定められている適格要件を満たさなければなりません。この適格要件の内容は、分割会社と承継会社との資本関係の有無または内容によって、3種類に分かれています。
その3種類のいずれの場合でも共通する要件として挙げられているのが、対価を株式交付によって行うことです。対価を現金で支払うことも不可ではないので、そのようなケースもゼロではありません。
ただし、その実施によって、組織再編行為としての会社分割という認定を失ってしまいます。対価が株式交付ということは、事業譲渡のように買い手が買収資金を用意しなくて済むメリットもあります。
事業譲渡の場合
事業譲渡は、事業および資産の売買目的で活用されるのが常です。したがって、対価は現金で支払います。売り手企業(譲渡企業)は、単に現在の事業の収益性だけでなく、ノウハウや技術力などのいわゆる「のれん」分を上乗せした対価を受け取れます。
組織再編の意図を持たない中小企業の一般的なM&Aでは、会社分割が選択される余地はほとんどありません。つまり、事業を譲受する側の企業としては、対価の現金を用意できなければM&Aが成立しないことを意味します。
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税金
次に、税金の側面から会社分割と事業譲渡の違いを明らかにします。
会社分割の場合
適格組織再編行為と認められる会社分割の場合、通常であれば法人税の課税対象となるところが繰り延べられ、実質的に課税を受けません。
この仕組みを説明すると、まず分割会社から移転してきた資産について、通常は時価換算し簿価との差額が益金と見なされ課税されます。しかし、適格組織再編と認められれば、移転資産は分割会社の簿価のまま計上して問題ありません。
つまり、差額が生じる余地はなく課税対象になりません。組織再編行為としての絶対的な要件である対価の株式交付は、消費税の非課税対象であり、この点も会社分割の有利な点です。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、売り手に対して法人税、買い手に対して消費税が課されます。法人税は、譲渡する事業の資産および負債額の合計と売却金額の差額が益金とみなされ課税対象です。2022(令和4)年12月現在、法人税の実効税率は、約33%前後とされています。
消費税に関しては、対象は課税資産だけです。消費税非課税資産もあるので注意してください。課税対象資産には、以下のものがあります。
- 土地以外の有形固定資産:建物、設備、機械、工具、備品など
- 無形固定資産:ソフトウエア、商標権、特許権、営業権(のれん代)など
- 流動資産:棚卸資産など
上記資産の中で、営業権と棚卸資産には注意が必要です。事業そのものの評価額ともいえる営業権は、場合によっては高騰化しかねません。そうなると、そこに課される消費税額も高額です。税額次第では、会社分割に切り替えた方がよい場合もあります。
棚卸資産の注意点は不確実性です。棚卸資産はその性格上、日々変動します。したがって、譲受側企業に引き渡される当日にならないと、正確な価額が特定できません。当日対応のため、計算ミスにも留意しましょう。
簿外債務や不要負債の引き継ぎ
続いて、簿外債務や不要負債の引き継ぎという側面から会社分割と事業譲渡の違いを明らかにします。
会社分割の場合
会社分割を実施する場合、切り離した事業がそっくりそのまま移転する形となります。そのため、簿外債務や不要な負債を引き継ぐリスクがあります。簿外債務とは、貸借対照表に記載されていない債務です。例えば、下記のものが簿外債務に該当します。
- 未払い給与
- 退職給付引当金
- 未払い残業代
- 回収可能性の低い売掛金
通常の負債だけでも負担増となるところに加えて、簿外債務によって、さらに多額の支出が発生する可能性があります。この点は、会社分割のデメリットです。
事業譲渡の場合
事業譲渡における譲渡対象資産は、契約の中で個別に特定可能です。したがって、不要な負債はその段階で選ばなければ引き継ぐリスクはありません。包括的な承継ではないため、簿外債務が偶発する余地も基本的にはないでしょう。この点は事業譲渡のメリットです。
ただし、包括的ではない個別契約のため、一つひとつの資産評価の見極めや、譲渡側との交渉など、頼れるM&A仲介会社に依頼するのがおすすめです。
事業譲渡をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。豊富な経験と知識を持つアドバイザーがM&Aを徹底サポートします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしておりますのでお気軽にお問い合わせください。
契約と許認可の移転
続いて、契約と許認可の移転という側面から会社分割と事業譲渡の違いを明らかにします。
会社分割の場合
契約や許認可などの移転に関するメリットでは、事業や資産を丸ごと承継することになる会社分割に軍配が上がります。債権債務、従業員との雇用契約、行政機関から取得する許認可の3点に分けて内容を解説します。
①債権債務の移転
会社分割の場合、債権債務の移転については、その相手方の同意を個別に得ることなく実行可能です。ただし、債権者保護手続きは行わなければなりません。債権者保護手続きとは、法令により定められている債権者の利益を守るための決まりです。
具体的には、官報に債権者が1ヶ月以内に異議を述べられる旨を公告し、なおかつ各債権者に対して個別の催告を実施しなくてはいけません。債権者が異議を述べた場合、分割会社は債権者に対して、債務の弁済や担保の提供などを行う必要があります。
②雇用関係の移転
会社分割では、従業員の移籍および雇用契約について、従業員からの個別同意は不要です。ただし、労働承継法で定められている手続きが必要とされます。手続きとは、話し合いや書面での通知などの簡易なもので、具体的な労働承継法の内容は以下のとおりです。
承継される事業に従事する者との契約
分割契約書(吸収分割の場合)または分割計画書(新設分割の場合)の中に従業員との雇用契約も承継される旨が定められている場合は、従業員は分割会社から承継会社に移籍となります。分割契約書または分割計画書に承継される旨が定められていない場合は、原則的には分割会社に残留します。
ただし、従業員が異議を申し出た場合には、承継会社に移籍できます。
承継される事業に従事する者以外との契約
分割契約書または分割計画書の中に従業員との雇用契約も承継される旨が定められている場合は、原則として従業員は分割会社から承継会社に移籍となります。ただし、従業員が異議を申し出た場合には、分割会社に残留可能です。
分割契約書または分割計画書に承継される旨が定められていない場合は、従業員は分割会社に残留します。パートやアルバイト従業員に対しても上記の手続きは必要です。
③許認可の移転
会社分割では、一部を除いて許認可もそのまま承継できるか、または簡易な手続きですぐに事業活動を開始可能です。例外となるのは宅地建物取引業の免許と貸金業の登録で、この2つの場合は承継が認められていません。したがって、承継会社が新たに許認可を得る必要があります。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、会社分割と比べた場合、各種契約と許認可の移転手続きは、ひと言でいうと面倒なものがあります。事業譲渡の場合も、債権債務、従業員との雇用契約、行政機関から取得する許認可の3点に分けて内容を確認してみましょう。
①債権債務の移転
事業譲渡で債権や債務を移転する際は、それぞれの相手方に対し個別に同意を得る必要があります。具体的には、売掛金などの債権の移転では債権譲渡の手続きが必須です。一方、借入金などの債務の移転では、債権者からの同意を得なければいけません。
ただし、事業譲渡では債権者保護手続きは不要です。しかし、すべての債権債務について個別交渉をして同意を得る作業を行わなければならないため、会社分割よりも圧倒的に手続きは煩雑になります。
②雇用関係の移転
事業譲渡では、従業員の雇用契約を移転する際も、各従業員から個別に同意を得なければなりません。このとき仮に従業員が移転先企業に悪い印象を持っているなどすれば、雇用契約締結を拒否される可能性があります。つまり、優秀な従業員を引き継ぐことができないリスクがあるのです。
業績を伸ばすために行うM&Aで、取得したいのは事業そのものだけではなく、それを担う優秀な従業員も含まれています。優秀な従業員が流出してしまった場合、M&Aが失敗となる可能性すら起こり得ます。事業譲渡では、そのリスクが会社分割よりも高いといわざるを得ません。
③許認可の移転
事業譲渡の場合、許認可の移転は不可能です。買い手側企業ですべて新たに再取得するしかありません。許認可の種類によっては、長い時間がかかるものもあります。事業譲渡を実施する場合、この点も理解したうえで進めなければなりません。
手続き方法
最後に、手続き方法という側面から会社分割と事業譲渡の違いを明らかにします。
会社分割の場合
事業譲渡であれ会社分割であれ、これを実施する場合、法令で定められている手続きに則らなければなりません。会社分割の場合は、さらに新設分割か吸収分割かによって手続きの出発点が異なります。吸収分割の手続きのスタートは、分割会社と承継会社間での吸収分割契約締結です。
新設分割の場合は、共同で新設分割計画を作成しなくてはいけません。その後、吸収分割契約や新設分割計画について、株主総会での特別決議による承認が必要です。また、会社分割の内容などを記載した書面について、本店に一定期間備え置く義務も発生します。
例外的に株主総会を省略できるケースもゼロではありませんが、通常は原則として必須の手続きです。前述した債権者保護手続きなども法令で定められた手続きであり、全般的に会社分割の方が手続きは多いといえます。
事業譲渡の場合
事業譲渡における手続きとして以下のケースに当てはまる場合、譲渡企業と譲受企業のいずれでも株主総会での特別決議による事業譲渡契約の承認を受ける必要があります。
- 事業の全部譲渡(譲渡側)
- 事業の重要な一部の譲渡(譲渡側)
- 事業の全部譲受(譲受側)
重要な一部の譲渡とは、譲渡する資産が譲渡企業の総資産額の5分の1を超える場合の事業譲渡のことです。つまり、譲渡側は事業の全部もしくは重要な一部を譲渡する場合、特別決議によって株主からの同意が必要となります。
譲受側の場合は、事業の全部を買収するケースでのみ特別決議が必要です。事業譲渡の契約に関する書面に関しては、備え置き・閲覧などの義務はありません。この点も会社分割とは異なります。
会社分割と事業譲渡の違いまとめ
会社分割と事業譲渡の5つの違いを指摘しました。当初は同じように見えた会社分割と事業譲渡において、その内容には大きな違いがあったとおわかりいただけたことでしょう。自社にとって、会社分割と事業譲渡のどちらが適しているのか十分に見極めてから実行してください。
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