M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年6月19日更新会社・事業を売る
会社売却の相場はいくら?利益の算出方法・高く売るポイント・税金・社員の処遇も解説
会社売却の相場に関してまとめました。会社売却の基礎知識を確認しながら、会社売却相場の具体的な算出方法、算出に影響を及ぼす要素、会社を高く売るポイント、売却時に発生する税金、手続きの流れ、メリット・デメリットなどを解説しています。
目次
会社売却の基礎知識
会社・事業売却の相場を把握するには、前提としてそれぞれの取引行為の概要を知っておくことが必要不可欠です。まず本章では、会社・事業売却の概要を含む基礎知識を順番に取り上げます。
会社売却とは
会社売却とは、会社が保有している財産・権利・義務などをすべて第三者に譲り渡して、売却先からその対価を受け取る行為のことです。売却対象の財産には、現預金・株式・営業用資産だけでなく、知的財産・ノウハウ・取引先との関係・従業員の雇用なども該当します。
なお、中小企業が会社売却を行う場合、株式譲渡と呼ばれるM&A手法を用いるケースが多いです。株式譲渡による利益は、売り手である株主が受け取ります。
事業売却とは
事業売却とは、会社が保有する事業の一部または全部を第三者に譲り渡して、売却先からその対価を受け取る行為をさします。つまり、売却対象は事業であり会社全体ではないため、会社自体の経営権に変更は生じずに新たな事業の開拓も可能です。
なお、実際に事業を売却する際は、事業譲渡と呼ばれるM&A手法を用いるのが一般的です。事業売却によって得られた利益は、会社の利益に計上されます。
会社売却と事業売却の相違点
会社売却と事業売却は、主に以下3つの点で異なります。
- 売却対象
- 対価の受け取り先
- 消費税
会社売却はいわば株式の売却ですが、事業売却では事業それ自体を売却します。そのため、対象事業の持つ資産や負債も売却対象になります。その性質上、事業売却の場合は資産や負債も事業譲渡契約書に記載されます。
また、会社売却か事業売却かによって、売却時の対価の受け取り主も変わります。会社売却の場合、対価を受け取るのは売却される会社の株式を有する株主です。一方、事業売却の場合は、対価を会社が受け取ることになります。
そのほか、株式譲渡は非課税取引となるため、会社売却の際は消費税の対象になりません。事業売却の場合は、対象資産に含まれる消費税の課税対象のものに消費税がかかります。
会社売却の相場・企業価値評価
会社・事業の売却は会社存続・事業拡大などを目指すうえで有効策ですが、経営者としては売却相場も考慮すべき要素だといえます。
なるべく高い金額で売却を成功させたいと考えるのが自然ですが、「会社・事業売却の相場はどの程度なのかわからない」と悩む方は少なくありません。そこで、ここからは会社・事業売却の相場を紹介します。
①簡便な算出方法
実際の会社・事業売却の相場を算出する際は、企業価値を考慮しながら複雑な計算が行われます。しかし、大まかな金額であれば以下の式使って求めることができます。
- 純資産+営業権(単年度利益✕3年分)=会社・事業売却の相場価格
例えば、純資産が5,000万円・単年度利益が1億円の会社(あるいは事業)を想定した場合、上記の計算式を用いて算出すると会社・事業売却の相場価格は以下のようになります。
- 5000万円+1億✕3年=3億5000万円
事業売却よりも会社売却の相場が高くなる理由
一般的に、会社売却の方が事業売却よりも相場が高くなる傾向にあります。なぜなら、会社売却の方が、対象となる範囲が広いためです。
そもそも事業売却では、あくまでも会社の一部にあたる事業のみが取引されます。これに対して、会社売却は、会社が保有している資産すべてが取引される手法です。そのため、同等の事業規模を持つ会社で比較すると、事業売却よりも相場が高まります。
相場価格を考慮すれば会社売却が選択されますが、事業売却には「継続保有したい事業・資産を法人格ごと残せる」点に大きなメリットがあるため、両者の特徴を比較して状況に応じた手法を選ぶとよいでしょう。
②純資産法
純資産法は、会社の帳簿価額をもとに企業価値を算定する方法です。
中小企業の会社・事業売却を中心に広く活用されており、負債などのマイナス要素を差し引く点で簡便な相場算出方法とは異なっています。なお、純資産法は、簿価純資産法と修正純資産法の2つに分類可能です。
簿価純資産法は、企業価値の計算方法において比較的簡単な算出方法ですが、将来の収益性が加味されていません。つまり、会社売却を実施する会社の将来性・キャッシュフローを無視した相場価格が算出されます。
その一方で、修正純資産法では、帳簿上の資産と負債を時価で再評価し純資産の金額を計算したうえで、株価を算出します。つまり、簿価純資産法では加味されなかった時価を反映させた算出方法です。
とはいえ、修正純資産法であっても、貸借対照表に記載がない無形資産の評価は反映されません。
③配当還元法・収益還元法
配当還元法・収益還元法は、株主への配当あるいは会社の利回りをベースに、会社・事業売却の相場を算定する方法です。この方法では、会社・事業を売却する際の買い手側や株主の期待値が加味されるため、簡潔かつ合理的だといえます。
ただし、配当還元法は、中小企業に多い「経営陣と株主が同一人物のケース」には適用できません。また、収益還元法は、継続的な赤字状態にある会社では適用不可能です。このように、使用可能な条件が限られている方法であるため注意しましょう。
④DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)
DCF法とは、キャッシュフローや将来の収益性を加味しつつ、想定されるリスクを割り引くことで企業価値を算定する方法です。大企業の会社・事業売却を中心に、広く使用されています。
しかし、将来の収益性はあくまでも予測の域を出ないため、計算する側の主観が少なからず反映されます。とはいえ、前提条件を適切に設定できれば、会社売却の正確な相場を算出可能です。
⑤類似会社比較法(マルチプル法)
類似会社比較法では、事業内容などが類似している上場会社の株価を参考にしつつ企業価値を算定します。株価や決算情報などをもとに算出するため、客観性の高い相場の算出が可能です。また、類似した事例や会社を参照するため、現実味のある相場を割り出せます。
このようにわかりやすい相場の算出方法であるため、DCF法と並んで広く活用されています。とはいえ、類似している事例が存在するとは限らないため、算出不可能となるケースも少なくありません。
以下の動画では、弊社M&Aアドバイザーが計算例を用いてマルチプル法について解説しておりますので、ぜひご覧ください。
⑥過去事例比較法
過去事例比較法とは、過去の株式取引価額をもとに株式を評価して企業価値を算定する方法です。もしも過去に株式売買などを実施しているならば、客観性のある評価を算出できます。
しかし、過去の評価日から売買までの期間や、取引株数の規模などの要因を洗い出しつつ評価し直すことが必要です。
会社売却の相場に影響を与えるもの
会社・事業売却の相場はこれまでに紹介した算出方法で求められますが、それ以外にも売却価格の相場に影響する要素を把握しておく必要があります。
これにより、相場算出の正確性が高まるだけでなく、より高い価格での会社・事業売却につなげることが可能です。純資産や収益以外で相場に影響する要因は、主に以下の5つです。
- 人材
- 技術・ノウハウ・販路
- 取引先・顧客リスト
- 市場のシェア
- 企業体質・経営理念
①人材
人材は、会社を成り立たせるための大切な要素です。営業系の企業など人手が必要な業態では、人手が充実しているほど収益性が上がる傾向にあります。
人材が多い会社は、人材を求める買い手から会社・事業売却において高い相場価格を付けられる可能性が高いでしょう。
もちろん、人材は、その人が持つ技能と合わせて捉えられます。建築・インテリアなど専門的技能を持つ人材がいる会社は、企業価値が上がりやすいです。また、薬剤師・医者・エンジニアなど、資格が必要な業務に就いている人がいる場合も、売却時の評価が高まります。
一般的に、専門性の高い人材は採用が難しく、これらの人材を求めている会社からすれば魅力的であるため、会社売却の相場が加算される可能性があります。その一方で、会社・事業売却の前後は、人材が流出しやすいタイミングでもあるため注意が必要です。
働く環境の変化を嫌い、人材が辞めていくケースは少なくありません。流出した人材を買い手が求めていた場合、会社売却の取引に悪影響を与えるおそれがあります。
したがって、人材は、会社・事業売却の相場に大きく影響を与える要素であることを心得ておきましょう。そのうえで、会社・事業売却の取引実施前に、従業員にしっかりと説明して了承を得ておくと良いです。
②技術・ノウハウ・販路
会社・事業売却を実施する会社が持っている技術やノウハウも、相場に影響を与える要因です。人材と重なる部分もありますが、その会社が磨いてきた技術や培ってきたノウハウは、希少性が高いほど企業価値を引き上げます。
特に、買い手企業が新事業を展開したがっていたり、新たな設備を欲しがっていたりする場合には、相場が上がる可能性が高いです。また、販路も、会社売却を有利にする要素だといえます。
例えば、ある会社が別の地域に進出したいと考えたとき、その地域に販路を持つ企業を買収すれば、コストを抑えて規模を拡大できます。
このように、買い手が会社売却を通じてシナジー効果を生み出したいと考えている場合、会社の持つ技術・ノウハウ・販路が大きく注目されるのです。
③取引先・顧客リスト
会社・事業売却を実施する会社が持つ取引先や顧客リストも、相場に少なからず影響を与えます。そもそも買い手側は、取引先・顧客リストの獲得を狙って会社買収を実施するケースも多いでしょう。
そのため、有している取引先・顧客リストが相手企業にとって魅力的ならば、高い相場価格を付けられる可能性があります。
特に、大企業や取引先として珍しい企業と取引している場合、相手側が魅力的に感じやすいです。したがって、会社・事業売却までの時間に余裕があるならば、取引先や顧客リストをできるだけ増やしておくことも有効策だといえます。
④市場のシェア
売却する会社や事業が特定分野において高い市場シェアを誇っているならば、相場に良い影響を与える要因に該当します。基本的に、市場のシェアは大規模であるほど望ましいです。
たとえニッチな分野であっても、シェアを占めていれば相手側が魅力に感じる可能性があります。
⑤企業体質・経営理念
売却する会社や事業の体質や理念によっては、売却相場に良い影響を与えるケースもあります。買い手側は、会社や事業を買収する際に、企業風土の相性を考慮します。なぜなら、企業風土の相性が悪い会社や事業を買収すると、スムーズに統合できないおそれがあるためです。
また、企業風土の相性が悪いと、人材が流出するだけでなく、その後の企業運営に悪影響が及ぶおそれもあります。
これらの要素は会社売却の相場に少なからず影響を与えますが、これを踏まえて相場を具体的に算定することは決して簡単ではありません。もし会社・事業売却時の資産算定についてお困りでしたら、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所では、知識・経験豊富なアドバイザーが専任につき、ご相談からクロージングまでを丁寧にサポートいたします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
相談料は無料となっておりますので、会社・事業売却の相場に関して不明点がある場合には、お気軽にご相談ください。
会社売却で相場よりも高く売るポイント
会社・事業売却の相場に影響を与える要素を踏まえて、本章では会社・事業売却で相場よりも高く売るポイントとして、以下の10種類の対策を取り上げます。
- 適切な売却タイミングを逃さない
- 自社の長所と短所を把握する
- 買い手のメリット・シナジー効果に注目する
- なるべく多くの買い手候補を確保する
- 同業他社を相手企業に選ぶ
- 健全な財務状況を維持する
- 高い収益性や市場シェアを持つ
- 子会社化した事業を売却する
- 社内の人材とセットにして売却する
- M&Aの専門家からサポートを受ける
①適切な売却タイミングを逃さない
会社・事業を相場よりも高く売却したいならば、適切な売却タイミングを逃してはなりません。自社および自社の事業を買収したいと考えている企業が多いほど、相場よりも高い価格で売却できる確率が上がります。
具体的にいうと、業績が好調な状態での売却が適切なタイミングです。業績が好調なタイミングでは売却を控える経営者の方も多いですが、買い手からすると業績が低迷している会社よりも業績が好調な会社を積極的に買収したいと考えます。
こうした心理が働いて、業績が好調なタイミングでは高く売却しやすいです。
②自社の長所と短所を把握する
会社・事業の売却価格を向上させるには、自社の長所・短所の把握が必要不可欠です。自社の強み・弱みを把握したうえで買い手側にわかりやすく伝えられるようにしておくと、買い手が魅力的に感じて売却価格が相場よりも高くなる可能性があります。
具体的には、顧客や取引先リスト・市場シェア・社員の技術力・ノウハウなどの観点から、自社の長所と短所を洗い出すと良いでしょう。
③買い手のメリット・シナジー効果に注目する
会社・事業の売却で相場よりも高く売るには、買い手側の立場からメリット・シナジー効果に注目することも大切です。買い手からすると、売り手企業と相性がよければシナジー効果が獲得でき、成長の促進につなげられます。
例えば、買い手と売り手の技術力を融合させることで、画期的な新製品が生まれて売上を大きく向上させる可能性があります。
こうしたシナジー効果の獲得が見込める場合、買い手からするとより魅力的に感じるため、売却額が上がる可能性は高いでしょう。
④なるべく多くの買い手候補を確保する
多くの買い手候補を確保しておくと、会社・事業売却時の価格が相場よりも高まる可能性があります。
なぜなら、買い手候補が多いほど、高い金額での売却を了承してくれる買い手がみつかる確率が上がるためです。
また、買い手候補が多いと競争心理が働くため、他社に取られないように高い売却金額を提示する買い手が現れる可能性もあります。
⑤同業他社を相手企業に選ぶ
会社・事業売却の相手は、同業他社であることが望ましいです。同業他社の場合、自社の魅力をより深く正確に理解してくれる可能性が高まり、相場以上での売却につながりやすくなります。
そのため、特に同じ業界でないとわかりにくい技術などを保有している場合、同業他社への売却を積極的に検討しましょう。
⑥健全な財務状況を維持する
会社・事業売却の相場を気にかけるならば、健全な財務状況を維持することも非常に大切です。
買い手からすると、財務状況の悪い会社を積極的に買収したいとは考えません。買い手が魅力を感じるように、なるべく財務状況を健全化させた後で売却を実施しましょう。
⑦高い収益性や市場シェアを持つ
財務状況にも通じますが、高い収益性や市場シェアの保有も、会社・事業売却の金額を高める要因です。
このうち市場シェアに関しては、市場規模が小さくても特定の地域・世代などで大きなシェアを占めていれば、これに魅力を感じる買い手が現れる可能性があります。
⑧子会社化した事業を売却する
事業売却を行う場合、子会社化させた後で売ると高い価格が付く可能性があります。なぜなら、買い手からすると、事業買収よりも会社買収(株式譲渡)の方が、節税効果が期待できるためです。
つまり、課税額を抑えられることから、買い手が相場よりも高い金額を提示してくれる可能性があります。ただし、買い手における節税効果の有無を判断するには専門的に高度な知識が求められるため、詳細は税理士やM&Aアドバイザーに問い合わせましょう。
⑨社内の人材とセットにして売却する
会社・事業を問わず、売却する際は人材をセットにすると相場よりも高い金額で売れる可能性があります。なぜなら、人手や技術力の獲得を目的に買収を図る買い手が多く存在するためです。
⑩M&Aの専門家からサポートを受ける
会社・事業を少しでも高く売却したいならば、M&Aの専門家に相談してサポートを受けましょう。M&Aの専門家は会社・事業売却に精通しており、プロの目線から相場よりも高く売る方法を探ってくれます。
M&Aの専門家には、大きく分けて、M&A仲介会社とM&Aアドバイザリーの2種類が存在します。
M&A仲介会社は当事会社の間を仲介する役割を担い、M&Aアドバイザリーは売り手・買い手のいずれかに付いてサポートを行う専門家です。
そのため、相場よりも高い金額で会社・事業を売却したいならば、M&Aアドバイザリーに相談しサポートを依頼するとよいでしょう。
会社売却の手法・課される税金
ここまで会社・事業売却の相場を紹介してきましたが、売却時に相場価格をそのまま獲得できるわけではありません。
なぜなら、会社・事業売却時に税金が発生するためです。会社売却と事業売却で課される税金はそれぞれ異なるため、順番に紹介します。
①株式譲渡で課される税金
会社売却では、所得税・住民税と呼ばれる2種類の税金が課されます。会社売却時の利益は株主であった経営者が得るため、譲渡所得に対して所得税と住民税が課される仕組みです。
会社を売却すると、具体的には所得税が15%・住民税が5%・復興特別所得税が0.315%(令和19年まで)課されます。つまり、あわせて20%程度の課税を受ける点を把握しておきましょう。
②事業譲渡で課される税金
事業売却では、法人税・消費税と呼ばれる2種類の税金が課されます。事業売却時の利益は売却企業が受け取るため、売却した利益に対して法人税が課される仕組みです。事業を売却すると、具体的には、法人税がおよそ30%課されます。
その一方、消費税は、売却時に利益が出ていない場合でも支払わなければなりません。売却利益ではなく売却額に対して課され、2021年5月現在の消費税は10%です。なお、消費税は、買収先に相当額を請求して消費税申告時に納付する仕組みです。
会社売却を行う流れ・手続き
会社売却を行う基本的な流れとしては、下記のような手順を踏みます。以下の節でそれぞれ説明していきます。
- 売却ニーズの発生
- 必要書類の準備
- ソーシング
- 秘密保持契約の締結
- 企業概要書の提示
- トップ面談の開催
- 基本合意契約書の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
- 取引条件の交渉
- 最終(株式譲渡)契約の締結
- クロージング
①売却ニーズの発生
後継者不足や、他事業への集中、負債の返済などの理由で、売却を検討し始める段階です。M&A仲介業者を利用する場合は、このタイミングで相談しておくとよいでしょう。
②必要書類の準備
会社売却の意思が固まったら、まずは必要書類を用意します。過去三期分の決算書類が用意できると今後の流れがスムーズになります。M&A仲介業者を介している場合は、仲介業者に必要書類を確認しましょう。
③ソーシング
次に、売却相手を探す「ソーシング(案件発掘)」を行います。M&Aにおけるソーシングとは、マッチする企業の選定を指す場合と、相手企業の選定から交渉までの工程を指し場合に使われる用語です。
M&A仲介業者を介している場合は、仲介業者から売却先の候補を提案してくれます。
④秘密保持契約の締結
ソーシングにより売却先が定まると、M&Aの内容を交渉する前に、秘密保持契約を締結します。お互いの非公開情報を守れるようになるので、本格的なM&Aの交渉へと進むことができます。
秘密保持契約は、英語ではNon Disclosure Agreementとなるので、NDAやNDA契約とも呼ばれることがあります。
⑤企業概要書の提示
秘密保持契約を締結すると、本格的な交渉が始まります。その入り口として、売却側は企業概要書の提示が求められます。
M&Aのマッチングをスムーズに行うために、ノンネームシートと呼ばれる会社名が特定されない程度の資料をM&A仲介業者側で集約することがありますが、企業概要書には沿革や財務状況、資産に関する情報など、ノンネームシートよりも踏み込んだ企業情報を記載します。
⑥トップ面談の開催
企業のマッチングが行われ、ある程度情報交換が終わったところで、トップ面談を開催します。トップ面談では、企業の経営者などのトップ同士が実際に顔を合わせます。
トップ面談で、企業の相性や経営理念の詳細など、書面ではわかりにくい部分を確認し合うことが多く、激しい議論が行われるということはあまりありません。
⑦基本合意契約の締結
トップ面談が無事に終了すると、条件などに互いが大筋合意したら基本合意契約を締結へ移ります。基本合意契約では、ここまでの流れで合意した条件を正式な書面にします。
この時点では、売却側が提出した情報の正確性が確認できていないため、基本合意契約には基本的に法的な拘束力を持たないとされるのが通例です。ただし、独占交渉権などの一部の項目には法的な拘束力を持たせます。
⑧デューデリジェンス(買収監査)の実施
基本合意契約の締結の後は、デューデリジェンス(買収監査)が実施されます。デューデリジェンスは、財務、法務などの観点から、これまで正しいことを前提に進めてきた情報の正確性をチェックする作業です。
さらに、簿外債務や訴訟リスクなど、将来的に発生しうる潜在リスクの存在の有無なども徹底的に調査します。
デューデリジェンスで大きな問題点が発覚すると、売買価格を下げたり条件の追加や変更が行われたりします。最悪の場合、取引が白紙になってしまう可能性もあるので注意が必要です。
⑨取引条件の交渉
デューデリジェンスが無事に終了すれば、取引価格を含むM&A取引の最終的な条件交渉に入ります。もしデューディリジェンスでなにか問題が発覚した場合は、この段階でどのようにすべきか(価格を下げるなど)も話し合います。
⑩最終(株式譲渡)契約の締結
デューデリジェンス後の条件交渉で固まった内容をもとに書面を作成し、最終契約(または株式譲渡契約)を締結します。基本合意契約の時とは違い、最終契約はすべての事項に法的な拘束力を持つものです。
⑪クロージング
最終契約の内容を履行する決済手続きのことをクロージングと呼びます。売却側は株式などの取引対象物を引き渡し、買収側は対価を支払いますが、最終契約締結から1~2ヵ月以内にクロージング日を設定するのが通例です。
それに伴い、最終契約には「クロージングの前提条件」を設け、クロージング日までに前提条件を満たす必要があります。
会社売却を行うメリット・デメリット
会社売却も有効な選択肢とするために、会社売却のメリット・デメリットを把握しておきましょう。具体的に紹介していきます。
メリット
会社売却のメリットは、下記のとおりです。
- 後継者不在問題の解決
- 売却利益の獲得
- 倒産・廃業の回避
- 個人保証からの解放
①後継者不在問題の解決
会社売却のメリットの一つは、事業継続の意思がありながら、後継者がみつからずに撤退せざるを得ない問題の解決策となることです。
株式譲渡の手法で会社を売却する場合、法人名や従業員を残したまま事業を第三者に承継できます。
②売却利益の獲得
会社売却の対価として、売却利益を獲得できる点も、大きなメリットです。M&A取引では一般的に大きな金額が動きやすく、買い手側から高い評価を受けられれば、経営引退後もゆとりをもって生活できます。
③倒産・廃業の回避
倒産・廃業を回避できることも、会社売却のメリットです。株式譲渡の手法を用いる場合、会社にある負債ごと買い手に継承されます。
M&Aで会社売却を検討する場合、買い手がつきにくくはなるものの赤字企業が売却できないわけではありません。そのため、倒産・廃業を回避する戦略として検討できます。
④個人保証からの解放
M&A取引により会社売却が成立すると、売却会社の個人保証は解除されるのが一般的です。
そのため、個人保証を設定している場合、個人保証が解除され、経営者の責から解放される点は、会社売却のメリットになります。
デメリット
会社売却のデメリットには、下記のようなものがあります。
- 競業避止義務を負う可能性
- 取引後に一定期間の拘束を受ける可能性
- 会社売却後に寂しさを感じる
①競業避止義務を負う可能性
一般的に使われる競業避止義務は、退職した従業員は6ヵ月間、競合他社への就職や競合領域での事業を禁止する義務を負うことです。
M&Aにおける競業避止義務とは、事業譲渡を行った際は一定区間において20年間同一の事業を行ってはならないというもので、会社法で定められています。
一定区間は同一または隣接する市区町村を指し、当事者間で取り決めがない場合でも、原則として20年間は同じ事業を始めることができません。また、当事者間で取り決めて特約を設定すれば、最長30年まで延長できます。
②取引後に一定期間の拘束を受ける可能性
M&Aの契約内容次第ではM&A成立後に、創業者、経営者が一定期間会社に残るケースがあります。売却会社の事業が円滑に継承されるよう、引継ぎ作業を行うためです。特に事業譲渡では、取引対象の規模によっては引継ぎ作業に年単位で時間を要するケースもあります。
こういった一定期間の拘束が発生する際は、M&Aの最終契約にロックアップ(キーマン条項)として盛り込み調整します。
③会社売却後に寂しさを感じる
オーナー経営者が会社売却後に寂しさを感じるという意見は少なくありません。人生のやりがいがなくなってしまう寂しさや喪失感に囚われないためにも、会社売却後の計画を考えておくと良いでしょう。
会社売却後の経営者・社員の処遇
M&Aにより会社売却を行うと、その後の経営者や社員の処遇を心配になるという声も少なくありません。本章では、会社売却後の経営者・社員の処遇を解説します。
経営者の処遇
経営者の処遇は、引退もしくは業務継続の2通りです。どちらになるかは、経営者本人の意向と売却先経営陣の意向をすり合わせて決まります。
売却会社の事業引継ぎに売却会社の経営者が必要であれば、売却先の企業に役員として残る可能性が高くなります。後継者不足からの事業存続が目的であれば、経営者は引退の道を選ぶことが多いです。
社員の処遇
会社売却を行った際、社員の雇用契約は維持されます。ただし、売却先によって経営方針が変わるため、役職や業務内容、就業条件が変更されるケースもあります。
社員の労働環境を守るためにも、M&Aの最終契約を交渉する際に従業員の待遇に関しても条件をすり合わせておきましょう。
会社売却の成功事例5選
ここまで会社売却について解説してきました。ここからは、会社売却の実例を5つ紹介します。
①motoによるログリーへの会社売却
ログリーは、2021年4月にmotoの全株式を取得して完全子会社化しました。取引価額は7億3500万円です。
会社売却したmotoは、転職メディアの「転職アンテナ」を運営しています。売却先であるログリーは、広告効果を最大化、広告主の収益向上を支援する会社です。
ログリーは、転職サービス市場への市場拡大に加え、motoの蓄積した転職者のデータを活用することで、新規事業が創出可能と判断し、今回のM&Aに至っています。
②武田薬品工業によるブラックストーンへの会社売却
武田薬品工業は2021年3月、その完全子会社である武田コンシューマーヘルスケアをブラックストーンへ株式譲渡により会社売却しました。今回売却先となったブラックストーンは、アメリカにある投資ファンドです。
このM&Aの目的は、選択と集中です。武田コンシューマーヘルスケアは、ビタミン剤の「アリナミン」や風邪薬の「ベンザブロック」を主力商品として運営していましたが、ブランド力を維持しながら成長のための投資をするのは難しいという判断で会社売却に至りました。
このM&Aに伴い武田コンシューマーヘルスケアは今後、新たにアリナミン製薬としてブラックストーンの積極的かつ戦略的な投資のもと、事業を発展に動いていきます。
③オリンパスによるロート製薬への会社売却
オリンパスは、2021年3月、子会社であるオリンパスRMSの全株式をロート製薬へ売却しました。オリンパスRMSは再生医療技術開発、ロート製薬は医療品や機能食品の製造・販売事業を行っています。
M&Aの目的は、ロート製薬による再生医療事業の加速・発展です。ロート製薬は、両社の細胞製造技術等の研究開発分野での相乗効果により、細胞製造コストの低減や新しいユニークなパイプラインの創生などのシナジー発揮も期待しています。
④ライフ・コーポレーションによる日輪への会社売却
人材サービス、業務委託を主に事業展開している会社である日輪は、2019年7月、ライフ・コーポレーションの全株式を取得して子会社化しました。ライフ・コーポレーションは、愛知県で警備事業を行っている会社です。
このM&Aは、ライフ・コーポレーションの後継者不足を懸念して行われたもので、日輪は事業拡大のために会社買収に踏み込んでいます。
結果的に、人材が集まりにくい警備業界への安定的な労働力供給を実現しています。このM&Aは、インターネットを活用し、最初のメッセージから約1ヵ月でM&A成約というスピード成約になりました。
⑤アンドールシステムによるソーバルへの会社売却
アンドールシステムは、2015年5月に会社売却をしました。売却先は、組み込み開発を主力に事業展開しているソーバルです。アンドールシステムサポートは物流搬送設備などの制御システム開発を手掛ける会社です。
ソーバルは、事業分野拡大を狙い今回のM&Aに踏み切っています。株式譲渡の手法で行われた、このM&Aの取引価額は9900万円です。
会社売却の相場に関する相談先
M&Aの相場に関しては、M&A仲介業者に相談するとよいでしょう。最近では、相談料を無料にしているM&A仲介業者が増えてきているため、相場だけでなく、直近の課題やM&A戦略についても聞いてみることをおすすめします。
①M&A総合研究所
M&Aのサポート先をお探しの経営者様は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。経験豊富なアドバイザーが培ったノウハウと知識を活かし、親身になってフルサポートいたします。
当社では成約までのスピードを重視してサポートしており、最短3か月での成約実績も有しています。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)
無料相談をお受けしておりますので、M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。
②インターリンク
インターリンクは、顧客至上主義を掲げているM&Aアドバイザリー会社です。また、秘密保持も徹底しています。インターリンクの設立は2010年8月ですが、そのメンバー構成は設立の約20年前からM&A界隈(かいわい)の業務を専門に携わってきた人材を中心に成り立っています。
また、インターリンクは公式サイトでも、自社を「提案型M&A仲介の専業会社」と紹介しており、顧客至上主義を掲げていることからも倫理観のある対応が期待できます。
③クラリスキャピタル
クラリスキャピタルは、大手企業から個人の店舗まで幅広い規模のM&Aに対応できるM&A仲介会社です。料金体系に完全成果報酬型を採用しており、料金設定も非常にリーズナブルです。
取引金額により成果報酬が決定される形式ですが、取引金額が2,500万円以下の場合の成功報酬は200万円と業界最安値水準の料金体系です。
④中小企業M&Aサポート
中小企業M&Aサポートは、高い成約率が特徴です。2017年度~2018年11月末のM&A成約率は、78.3%を達成し、2018年からの直近3ヵ年累計の成約率は80%を超えています。
中小企業M&Aサポートは、成約「数」ではなく成約「率」にこだわっており、その手法も直接仲介を徹底しています。
直接仲介により、売り手側、買い手側と密にコミュニケーションをとり、両者の長所と短所を深く理解することによって、高水準の成約率を保持している会社です。
⑤東京MAパートナーズ
東京MAパートナーズは、調剤薬局業界に特化したM&A仲介会社です。2009年から約10年同一業界での活動歴を強みに、業界内の経営者、企業との接点を持つことで独自のネットワークを構築しています。
料金体系は、M&A取引対象の店舗数によって設定されており、シンプルかつリーズナブルです。
会社売却の相場まとめ
会社・事業売却は、売り手と買い手の双方にとって非常に重要な取引です。売る側は少しでも高い相場で、買う側は少しでも安い相場で取引を実施したいと考えます。
売り手側からすると、会社売却前は自社の実情や価値を細かく把握したうえで、少しでも早い段階でマイナス要因を摘み取りましょう。
これにより、相場よりも高い金額で会社売却できる確率が上がります。また、会社売却は、経営者や株主が大きな利益を得る可能性のある取引であるため、慎重かつ入念に実施しましょう。要点をまとめると、以下のとおりです。
・会社売却とは
→会社が保有している財産・権利・義務などをすべて第三者に譲り渡して、売却先からその対価を受け取る行為
・事業売却とは
→会社が保有する事業の一部または全部を第三者に譲り渡して、売却先からその対価を受け取る行為
・会社/事業売却の相場算出方法(簡便な方法)
→純資産+営業権(単年度利益✕3年分)
・会社/事業売却の相場算出方法(企業価値を加味)
→純資産法、配当還元法/収益還元法、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)、類似会社比較法(マルチプル法)、過去事例比較法
・会社/事業売却の相場に影響を与えるもの
→人材、技術/ノウハウ/販路、取引先/顧客リスト、市場のシェア、企業体質/経営理念
・会社/事業売却で相場よりも高く売るポイント
→適切な売却タイミングを逃さない、自社の長所と短所を把握する、買い手のメリット/シナジー効果に注目する、なるべく多くの買い手候補を確保する、同業他社を相手企業に選ぶ など
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