M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2025年11月17日更新会社・事業を売る
M&Aの事業譲渡における消費税は誰が払う?課税対象と計算方法をわかりやすく解説
M&Aの手法である事業譲渡では、譲受企業に消費税の負担が発生します。本記事では、消費税の課税対象となる資産・非課税資産の内訳や、具体的な計算方法、実務上の注意点をわかりやすく解説します。
目次
事業譲渡とは
会社が行っている事業の全部、または一部を切り離し、他の会社との間で売買するM&A手法が事業譲渡です。株式譲渡によって、会社を丸ごと売却するよりも手続きが複雑になるデメリットはあるものの、事業や資産を個別に切り離して売買できるのはメリットとされています。
また、会社を手放さず存続させられる点も有用と考えられているポイントです。会社の規模に比例して手続きが複雑化、煩雑化する傾向があるので、手続きが簡素化しやすい中小企業のM&Aにおいて活用される場合が多いのが実態です。
事業譲渡は、場合により営業譲渡ともいわれていますが、いずれにしても、会社間の金銭での売買取引になります。したがって、そこに必ず待っているのが課税です。事業譲渡では、譲渡側企業と譲受側企業それぞれ別種類の課税を受けます。まずは、その内容から見ていきましょう。
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事業譲渡で発生する税金①【譲渡側】法人税
事業譲渡で譲渡側企業に発生する税金は法人税です。譲渡価格が譲渡資産の簿価を上回った場合、その差額が「譲渡益」となります。この譲渡益が他の事業利益と合算された課税所得に対して、法人税が課されます。
もし譲渡価格が譲渡資産の簿価を下回れば譲渡損となり、法人税は発生しません。なお、法人税が課税される場合は、地方法人税や法人事業税、法人住民税などもあわせて課税対象となります。
これらを総合した法人税の実効税率は、企業の規模や所在地によって異なりますが、2024年現在、おおむね29〜34%程度で推移しています。
事業譲渡で発生する税金②【譲受側】消費税
一方で、事業譲渡の譲受側企業が負担する税金には消費税があります。この消費税は、一般における商取引、つまりは一般消費者が買物をするときと同様の課税と納税の関係です。すなわち、資産を売却する立場である事業譲渡側企業が、譲渡価格に消費税を加えて譲受側に請求します。
事業譲受側企業は、請求に沿って消費税を加えた譲渡代金を支払うのです。この支払いを受け消費税を預かった事業譲渡側企業が後日、この消費税を税務署に納付することになります。ただし、一般消費者の買物とは大きな相違点があります。
事業譲渡において売却される資産には、消費税の課税資産と非課税資産が混在しています。したがって、この消費税の課税資産と非課税資産を仕分けし、課税資産分の消費税を算出する必要があるのです。課税資産と非課税資産の詳細については、次項で取り上げます。
このように、事業譲渡は税務の専門知識が不可欠なM&A手法です。税金の計算ミスや手続きの漏れは、後に大きなトラブルに発展しかねません。
事業譲渡を成功させるためには、税務や法務に精通したM&A仲介会社など、専門家のアドバイスを受けながら進めることが重要です。専門家を活用することで、複雑な税務処理を正確に行い、スムーズな取引を実現できるでしょう。
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消費税の課税資産と非課税資産
ここでは、消費税の課税資産と非課税資産の内訳について具体的に見ていきましょう。その前に、なぜ消費税が非課税になるものが定められているかについて言及しておきます。これは、消費税法において定められた法令です。
それによると、「消費税とは消費に負担を求める税という性格であり、課税の対象としてなじまないもの、あるいは社会政策的配慮を働かせ、消費税の課税をしない非課税取引を定める」とされています。
(1)課税資産
まず、事業譲渡の際に消費税が課税されることになる資産から見ていきましょう。資産の種別と、その具体例は以下のとおりです。
- 土地以外の有形固定資産:建物、施設、設備、車両運搬具、器具備品、機械装置、専門工具類、船舶など
- 無形固定資産:ソフトウェア、特許権、意匠権、商標権、漁業権など
- 棚卸資産:企業が販売目的で保有する商品や製品、およびその原材料や仕掛品などで、一般に在庫とも呼ばれるもの
- のれん代(営業権):譲渡価格が譲渡資産総額を上回った場合の差額分
有形固定資産のうち、土地は例外的に非課税であることを忘れないでください。また、棚卸品(在庫品)は、事業譲渡側企業においても正確に数を把握しきれていない場合もあるため、算定には時間と労力が伴います。
のれん(営業権)は、譲渡企業のブランド力、技術、顧客基盤といった貸借対照表には現れない無形の価値を金額で評価したものです。超過収益力とも呼ばれ、事業の将来性を反映する重要な指標となります。
のれん代の評価額は、譲渡対象事業が将来生み出すと期待されるキャッシュフローや、類似企業の取引事例などを基に算出されます。一般的には、時価純資産に営業利益の数年分(通常3~5年分)を加える形で計算されるケースが多く見られます。
(2)非課税資産
事業譲渡において消費税が非課税扱いとなる資産と、その具体例を以下に記します。
- 土地:有形固定資産の中の非課税となる例外措置
- 有価証券:株式、債券、手形、小切手など
- 債権:売掛金等、貸付金など
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事業譲渡における消費税の具体的な計算方法【シミュレーション】
事業譲渡における消費税の課税資産と非課税資産について、具体的な計算例を用いて解説します。消費税率は、現行の10%(2024年時点)を適用して計算します。
【例:事業譲渡価格2億円の内訳】
- 建物:5,000万円
- 棚卸資産2,000万円
- 有価証券:2,000万円
- のれん代:3,000万円
- 土地:3,000万円
- 債権:3,000万円
- 特許権:2,000万円
上記の例の場合、消費税の課税対象資産は、建物、棚卸資産、のれん代、特許権が該当します。一方で、消費税が非課税措置となる資産は、有価証券、土地、債権です。したがって、建物、棚卸資産、のれん代、特許権の和を求め、それに消費税率を掛け合わせて消費税額を算出します。
- 課税資産額=5,000万円+2,000万円+3,000万円+2,000万円=1億2,000万円
- 消費税額=1億2,000万円×10%(消費税率)=1,200万円
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事業譲渡における消費税の申告・納税手続き
事業譲渡で発生した消費税は、定められた手順に沿って申告・納税する必要があります。ここでは、納税義務者や手続きのスケジュール、知っておくべき控除制度について解説します。
納税義務者は譲渡側企業
消費税を実際に負担するのは譲受側企業ですが、税務署へ申告・納税する義務を負うのは、消費税を預かった譲渡側企業です。譲渡側企業は、譲受側企業から受け取った消費税を、課税期間の末日の翌日から2か月以内に税務署へ申告し、納付しなければなりません。
申告と納税のスケジュール
譲渡側企業の課税期間(通常は事業年度)における課税売上高に応じて、申告・納税のタイミングが異なります。
- 原則: 事業年度終了の日の翌日から2か月以内に確定申告と納税を行います。
- 中間申告: 直前の課税期間の消費税額が一定額を超える事業者は、課税期間の途中で中間申告と納税が必要です。回数は、直前の課税期間の消費税額によって年1回、3回、11回と定められています。
仕入税額控除の活用
譲受側企業は、事業譲渡の対価として支払った消費税を、自社の消費税申告時に「仕入税額控除」として差し引くことが可能です。これにより、課税仕入れ等にかかった消費税額を、売上にかかる消費税額から控除できるため、消費税の負担を軽減できます。この控除を受けるためには、インボイス(適格請求書)の保存が要件となります。
事業譲渡で消費税を計算する際の3つの注意点
事業譲受側企業としては、事業譲渡費用に加えて消費税分の現金も用意しなければなりません。それ相応の出費負担です。そして、その支払い消費税の金額に影響を及ばす可能性のある注意事項が3点あります。いざというときに備えて、心に留めておいてください。
(1)のれん代が上がると消費税も上がる
非上場の中小企業が事業譲渡を行う際の事業譲渡価格は、純資産額にのれん代を加えた金額で決定されることが多い傾向にあります。のれん代は、上述したように営業利益、または経常利益の3~5年分で算出するのが通例です。
例えば、営業利益が大きかったり、事業のノウハウやブランド力が高評価である場合には、のれん代も必然的に高額になり、その結果、消費税額の高騰化を招きます。これが、のれん代の評価については一考の余地があるといわれるゆえんです。
したがって、できるなら、そのあたりの事情も理解し合える事業譲渡企業を探したいところでしょう。
(2)棚卸資産の不確実性が高い
事業内容によっては、棚卸資産は毎日変動する企業もあります。事業譲渡契約において、先に棚卸資産の額を決めていても、最終的な事業譲渡の日に棚卸を実施したところ、価格が変動してしまうことは実際に発生している事実です。
つまり、消費税の想定についても、それはあくまで見込み値でしかなく、最終的な消費税の支払額も変動すると考えておくしかありません。準備する資金も余裕をもっておくべきです。
(3)消費税率の変動に注意
消費税率は将来的に変動する可能性があります。2019年10月に8%から10%へ引き上げられましたが、今後の社会保障制度の財源確保などを理由に、さらなる税率変更の議論が起こることも考えられます。
事業譲渡の契約から実行までに期間が空く場合、その間に税率が改正されるリスクもゼロではありません。契約書には、消費税率が変動した場合の取り扱いについて明記しておくなど、事前の対策が重要です。
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まとめ
M&Aの手法である事業譲渡では、譲渡対象となる資産の中に消費税の課税対象と非課税対象が混在するため、正確な仕分けが不可欠です。特に、のれん代や棚卸資産の評価は消費税額に大きく影響するため、慎重な対応が求められます。
本記事の要点を以下にまとめます。
- 納税義務: 法人税は譲渡側、消費税は譲受側が負担し、譲渡側が申告・納税する。
- 課税対象: 建物、機械、ソフトウェア、棚卸資産、のれん(営業権)などが課税対象となる。
- 非課税対象: 土地、有価証券、売掛金などの債権は非課税。
- 注意点: のれん代の評価額や棚卸資産の変動、将来の税率改正リスクを考慮する必要がある。
事業譲渡における税務は複雑なため、M&Aの専門家や税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。