2024年5月21日更新事業承継

事業承継を持株会社で行う目的とは?持株会社の概要や事業承継の方法・メリット・株価への影響まとめ

事業承継を行う方法には持株会社を活用した方法もありますが、 メリットやデメリット、目的、活用方法などしっかりと理解しておかなければ、会社に悪影響を及ぼしてしまいかねません。本記事では、持株会社が事業承継で活用される理由や、設立の流れ、注意点などについて解説します。

目次
  1. 事業承継の基本スキーム
  2. 持株会社を利用した事業承継の概要
  3. 事業承継を目的とした持株会社設立の流れ
  4. 事業承継のための持株会社設立のメリット・デメリット
  5. 持株会社を利用した事業承継が株価に与える影響
  6. 持株会社を利用した事業承継のポイント
  7. 持株会社を利用した事業承継の失敗例
  8. 持株会社を利用した事業承継のまとめ
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事業承継の基本スキーム

事業承継における基本的なスキームは、主に3つのケースがあります。
 

  1. 相続による承継
  2. 贈与による承継
  3. 株式譲渡による承継

それぞれの特徴を説明していきます。

①相続の承継

経営者の家族が後継者となる「親族内承継」の場合、経営者が亡くなったあとに家族が会社の株式を相続し、事業を継ぐことが一つの方法です。ただし、株式を相続すると同時に、相続税の支払いが必要になり、その額は高額になることが多いです。

相続税は現金で支払わなければならないのに、通常、会社の株式はすぐに現金化できないため、後継者は相続税を支払うための資金を準備する必要があります。後継者が十分な資金を持っていれば問題ないですが、そうでなければ、税金の支払いが重荷になり、事業承継やその後の経営にも影響を及ぼす可能性があります。

さらに、もし相続人が複数いる場合、株式の相続が他の相続人の権利を侵害しないように注意が必要です。これに失敗すると、事業のスムーズな引き継ぎが難しくなることもあります。

事業の相続は家族間のトラブルを招く「争続」となることもあります。問題を防ぐためには、事前に誰が後継者になるかを遺言で明確にしておくなどの準備が大切です。

②贈与の承継

事業承継には、経営者がまだ生きている間に、後継者に事業資産を無料で渡す「生前贈与」という方法があります。これには家族だけでなく、仕事をよく理解している自社の従業員や外部の適任者にも資産を渡せるため、後継者を自由に選べるという利点があります。

ただ、この方法を選ぶと、渡した資産の価値に応じて高額な贈与税がかかることがあり、結果として後継者の負担が増えることもあります。

しかし、生前贈与には税金を軽減できるいくつかの制度があるため、これらを上手く利用することで、後継者の税金の負担を減らすことが可能です。これには、毎年一定額までの贈与が税金の対象にならない「暦年課税贈与」や、相続が発生した時に一緒に計算して税金を決める「相続時精算課税贈与」などがあります。

③株式譲渡の承継

株式譲渡を使った事業承継は、経営者が自分の持っている会社の株を後継者に渡すことで、会社の経営権を引き継ぐ方法です。これは、M&A(合併や買収)を使った承継計画でよく見られる手法です。

相続やプレゼントの形で事業を引き継ぐ場合、税金の支払いは後継者が担うことになり、ときには大きな負担になることもあります。

しかし、株式譲渡の場合、元の経営者が株を売って利益を得るので、税金を払う責任も元の経営者にあります。これにより、後継者は税金の負担から解放されるという大きな利点があります。

【関連】事業承継と継承はどちらが正しい?違いや読み方、使い分けも解説

持株会社を利用した事業承継の概要

まずは、持株会社とはどのような会社なのか解説し、持株会社の事業承継における概要にも触れていきます。

持株会社とは

持株会社とは、グループ全体の支配・統制を目的として、傘下会社の株式を保有する会社のことです。ホールディングスカンパニーとも呼ばれ、グループ会社の経営権を掌握しています。

持株会社には、「純粋持株会社」と「事業持株会社」があり、純粋持株会社は持株行為自体を本業とする会社です。これに対して、本業とは別に持株行為を行っている会社を事業持株会社と呼びます。

一般的に持株会社と聞いて連想するのは、前者の純粋持株会社です。純粋持株会社は事実上、事業活動を実施しません。子会社の管理や支配を行い、子会社からの配当金で主に利益を獲得します。

また、持株会社は子会社への重要な決定権を持ち、子会社は持株会社が与えた権限内で事業活動を行います。

純粋持株会社

純粋持株会社とは、自社の製品やサービスを提供することなく、他の企業の株式を保有することだけを目的とする会社のことを指します。このタイプの持株会社は、1997年の独占禁止法の改正によって認められ、それ以降に設立されるようになった比較的新しい形態の企業です。

純粋持株会社は、他の企業の株式を保有し、その株式から得られる配当を収益としています。これによって、複数の会社を子会社として所有し、グループ全体の経営戦略を統括する役割を果たします。

事業持株会社

事業持株会社とは、自身で事業を運営しながら、他の企業の株式も保有する会社のことを指します。これは純粋持株会社とは異なり、自社の事業で収益を上げることができます。

事業持株会社は、子会社を所有し管理する一方で、自身も事業を行って売上を上げることが可能です。これは一般的な親子関係の会社ともいえます。

持株会社が増加している理由

持株会社は、複数会社の経営権を一気に掌握でき、傘下となる会社にとっても安定的な利益が得られる仕組みです。双方にとってメリットのある経営方法なので、近年は持株会社が頻繁に設立されています。

持株会社の設立が今になって増えているのかというと、実は純粋持株会社の設立は少し前まで禁止されていたことが理由の1つです。

1997年2月に改正された税制によって、持株会社の設立が純粋持株会社も含めて認められました。法律で禁止されていた持株会社の設立が解禁となり、メリットの多い持株会社の設立が増加していると考えられます。

持株会社のメリット・デメリット

支配権を持つすべての会社における利益を獲得できる点は、持株会社の大きなメリットです。さまざまな業種の株式を保有していると、各業界における業績の高低に経営を惑わされず、会社が安定するメリットもあります。

また、持株会社は複数企業の親会社といった存在となり、新規事業への参入、商品やサービスの開発なども行いやすくなります。一方で、親会社になると傘下の会社よりも上の立場となり、横並びの連携が取りにくい点がデメリットです。

事業承継の手法

事業承継を検討している場合、考えられる主な方法は相続、贈与、譲渡の3つです。ここでは、事業承継で想定される3つの手法について説明します。

相続

後継者が経営者の親族であれば、相続により自社株式を承継し、会社の経営権を引き継ぐケースが多いでしょう。経営者の高齢化や健康状態の悪化などの理由で、親族内承継を選択するケースは多いですが、相続による事業承継は、相続人の間でトラブルとなる可能性があるため、慎重に行うことが必要です。

相続する自社株式は、相続税評価額では一般的に換金が難しく、後継者が経営権取得のために多額の相続税を支払う必要がでてきます。

また、後継者が換金性のある財産を保有していない場合であっても、後継者以外の相続人が相続する相続税評価額の金額に不公平を感じるケースもあるでしょう。ほかの相続人の遺留分を侵害する可能性もあるため、事業承継がスムーズに進まないケースも多いので注意が必要です。

贈与

贈与を活用して事業承継する方法もあります。生前贈与を活用すると、相続税の問題に対処できる可能性もありますが、贈与税の発生に注意が必要です。

贈与税は、受贈者1人につき年間110万円の基礎控除が認められています。この方法を活用し、毎年少しずつ自社株式を贈与するのも効果的です。株式の評価額が低い時期に、多くの自社株式を贈与するのも有効な手段といえるでしょう。

株式譲渡

後継者に自社株式を譲渡し、経営権を承継する方法もあります。相続や贈与の場合、税金の支払いは後継者ですが、株式譲渡の税金の支払いは先代の経営者となるのが大きな違いです。

また、相続や贈与は累進課税であるのに対し、株式譲渡の税率は約20%と一定となっています。ただし、後継者が株式を買い取る必要があるため、多額の資金が必要です。

持株会社を利用した事業承継とは

事業承継は、会社の一部またはすべてを後継者に引き渡すことです。基本的に持株会社を事業承継する際は、すでに持株会社が設立され、それを承継しますが、事業承継のために持株会社を設立するケースもあります。

複数の会社における経営権を持つオーナーが事業承継する際は、経営権を掌握している会社を、1社ごとに株式の引き継ぎが必要です。例えば10社持っているケースでは、10社の株式引継ぎを1社ずつ行うことになります。

しかし、持株会社の場合、子会社の経営権を保有しているため、まとめて事業承継できます。つまり、持株会社化すると、複数企業の経営権を別々に引き継ぐ場合と比べて、事業承継における手続きの手間が削減可能です。

事業承継を目的とした持株会社設立の流れ

この章では、事業承継を目的とした持株会社設立の流れを見ていきましょう。

①後継者が出資し新会社を設立する

最初に、後継者が出資を行い持株会社を設けます。このとき、持株会社の全株式を後継者が所有すると、先代経営者における全ての議決権を持株会社をとおして後継者へ帰属することが可能です。

②金融機関から融資を受ける

後継者は株式を購入する資金が必要となるので、銀行などの金融機関から融資を受けるケースが一般的です。

多額の借財は会社法で取締役会の承認が必要となっているので、持株会社が取締役会を設置している場合は、取締役会で承認を得なければなりません。取締役会がなくても複数の取締役がいる場合は、取締役で融資を受けることに関して過半数の同意を必要とします。

③先代経営者が株式を持株会社に譲渡する

次は、先代経営者が持株会社へ株式を譲渡します。株式譲渡では、株式譲渡契約書を正確に作成しなければなりません。株式譲渡契約書を作るときは、注意しましょう。

④譲渡承認手続きを行う

次に、譲渡承認手続きを行います。「譲渡人である先代経営者側から譲渡承認を求める手続き」と「譲受人である持株会社側から譲渡承認を求めるケースの手続き」があり、どちらも会社法で決まっているので正確に実施しなければなりません。

⑤持株会社の取締役会で承認手続きを済ませる

持株会社の取締役会で承認手続きを済ませる際は、持株会社が取締役会がある会社の場合は、取締役会で承認決議を得なければなりません。

会社法で、重要な財産の譲受けは取締役会の承認が必要と定められており、取締役会がない場合も複数の取締役がいれば取締役における過半数の同意が必要です。

持株会社を利用した事業承継では専門的な知識が必要です。経営者や後継者のみではスムーズに進められないことも多いため、専門家のサポートを得ることをおすすめします。

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【関連】持株会社設立による経営統合とは?設立手順やメリット・デメリット、持株会社の上場を解説

事業承継のための持株会社設立のメリット・デメリット

事業承継のために持株会社を設立するメリットやデメリットは、どのようなものがあるのでしょうか。順番に見ていきましょう。

事業承継のための持株会社設立のメリット

事業承継のために持株会社を設立すれば、複数の会社をまとめて引き継ぐことができ、余計な手間をかけずに後継者は経営権を獲得できます。

また、経営面のメリットとして、会社同士が成長しやすい点が挙げられ、特に新しい事業部門の展開が行いやすいです。その結果、少ない時間と資金で新たな利益を生み出せます。優秀な人員確保や、会社の物理的な規模が拡大するなどのメリットもあります。

返済財源がしっかりしているために融資が受けられる

銀行などの金融機関から融資を受ける場合、返済の財源となるものを明確にできなければ簡単に融資を受けられません。しかし、持株会社を設立して事業承継すると、子会社となる会社から継続的に配当を受けられるのです。

そのため、配当金がしっかりとした返済財源となり、事業承継にかかる高額な資金についても金融機関が前向きに融資相談に乗ってくれます。金融機関は、これから設立される会社と関係性を築くチャンスと捉え、融資残高を確保するために積極的となる可能性が高いです。

通常の事業承継は、経営者が変わることで取引先との関係が悪化することなどを懸念して融資を渋るケースも少なくありません。しかし、継続的に配当金が入る持株会社を設立する事業承継では、比較的簡単に融資を受けることが可能です。

税制面でもメリットがある

2010年に改正された税制によって、100%の経営権を握っている子会社からの配当には、税金が課税されなくなりました。後継者は税金を気にすることなく融資返済を行えます。

また、相続において株式の引き継ぎを行う場合、相続税が発生しますが、持株会社を設立して事業承継すると、株式評価後における利益のうち42%程度が控除対象です。つまり、株価が必要以上に上がらず、相続税が高額になりません。

持株会社に自社の株式を譲渡する経営者も、譲渡所得は一律20%の分離課税となるため、特に実効税率が40%以上の所得者にとっては非常に有効的な手段となります。

事業承継のための持株会社設立のデメリット

事業承継のために持株会社を設立するメリットは多くありますが、一方でデメリットもあります。事業承継のために持株会社を設立するのは、いわばその場しのぎにしかなりません。後継者にも、いずれは事業承継を実行するタイミングが訪れます。

承継は、持株会社としての事業承継になるので、相続税は通常の事業承継と同等の額が必要です。つまり、相続税の節税対策は一代限りしか効果を発揮しないのです。事業承継のために持株会社を設立してしまうと、後継者が複数いた場合に争いの原因となります。

複数の会社における株式を保有していても、持株会社を設立すると1つの会社として事業承継され、1人しか後継者となれません。

譲渡所得税が発生する

まず、先代経営者に譲渡所得税が発生する可能性がある点がデメリットとして挙げられます。譲渡所得税は、株式を当初の取得代金と比べて高い金額で譲渡し、譲渡益が出た場合に課される税金です。

譲渡益とは、事業承継を行ったときの譲渡代金から、先代経営者が株式を取得したときの取得代金を控除した金額をいいます。譲渡所得税は、譲渡益に約20%かかります。

節税目的の設立は否認される可能性がある

持株会社の設立にあたり、後継者ではなく既存会社の経営者が設立するケースもあります。しかし、このケースでは税務署に否認されて課税対象となる可能性があるのです。そもそも、経営者が持株会社を設立する場合、既存会社の自社株も売却します。

これは一般的な株取引で不自然な行為であり、相続税法では節税目的などで不当に株価を下げる行為は税務署長の判断で否認できます。節税を目的に持株会社を設立して事業承継する場合は、こうしたリスクがあることも踏まえなければなりません。

なお、節税目的でも、後継者が持株会社を設立して事業承継するスキームであれば否認される可能性は低いです。

経営コストの増加や管理が複雑になる可能性もある

持株会社は1つの会社ではなく、同じグループ内にある別会社という考えです。グループ会社間で横の取引なども当然行われます。その際、同じグループの会社とはいえ、正当な手続きや手間が必要です。

持株会社化すると事務的な管理が複雑になり、それに伴うコストが増加する可能性があります。

融資を返済する必要がある

融資を返済する必要があることも、デメリットです。持株会社は、事業会社で法人税を支払った後の利益から配当を受けて、融資の返済に充てます。そのため、事業会社が持株会社に配当する利益を継続して作らなければなりません。

税務署から指摘されるケースがある

公認会計士は、M&Aにおいて買収対象企業の評価や経営統合、財務・会計問題の解決に携わります。持株会社を使用した事業承継には、株価の下落を抑制する効果や非上場株式の純資産価額計算による節税効果が期待されますが、節税目的でのみ持株会社を活用すると税務上の問題が生じる可能性があるため、注意が必要です。

【関連】持株会社のメリットとデメリットとは?設立方法や増加の背景に迫る!
【関連】持株会社を用いた節税|メリット・デメリット、節税できる理由を解説

持株会社を利用した事業承継が株価に与える影響

持株会社を利用した事業承継の場合、株価は下がる可能性が高いです。収益性のある子会社を収益性の少ない持株会社の支配下におくと、株式評価は引き下げられるので、結果として子会社株式の株価上昇を抑制する効果が期待できます。

また、子会社株式の含み益に対して法人税(37%)が控除されるため、長期に渡り節税効果も見込めます。株価引き下げによる税金対策は、事業承継に持株会社を活用する最大の目的ともいえ、事業承継にかかる税金負担を軽減できる可能性が高いでしょう。

持株会社を利用した事業承継のポイント

持株会社を使った事業承継では、株価が下がることが多いため、子会社の株価上昇を抑制できます。ただし、株式保有特定会社などに該当する場合は抑制できないので注意が必要です。

また、非上場株式の純資産価額計算では、含み益の37%を控除できるため、節税効果が期待できます。このため、税金負担の軽減を目的とする場合は、持株会社の利用が有効でしょう。

持株会社を利用した事業承継の失敗例

ホールディングス化に失敗する事例も存在します。よくあるケースを紹介します。相続税や贈与税などの税金対策や事業承継を目的とする場合です。これを「守りのホールディングス化」と言います。

よくある失敗は以下の3点です。

  • ホールディングス会社が機能していない
  • 単に企業数が増えただけで管理が煩雑になっている
  • 過度な節税スキームが国税庁から租税回避と指摘される

守りのホールディングス化が悪いわけではありませんが、「攻め」の戦略も同時に考えることが重要です。攻めと守りの両面を考えることが、ホールディングス体制の成功につながります。

持株会社を利用した事業承継のまとめ

持株会社を設立して事業承継する際は、「何のために」設立するのかを明確にするべきです。事業承継の当事者同士が手続きを簡素化する目的で持株会社を設立するのか、会社同士における成長のために持株会社を設立するのか、理由は当事者によって異なります。

前者の目的のみで持株会社を設立すると、今後の経営に悪影響を与える可能性があるでしょう。理由は何であれ、利益の獲得が会社の目的であるため、それを第一に考える必要があります。事業承継のために持株会社を活用する際は、その後の経営も考えましょう。

節税目的のために設立する場合は、税務署に否認されるリスクを把握し、後に「節税にならなかった」とならないように気を付けてください。

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