2021年4月29日更新事業承継

遺贈と相続の違いとは?引き継ぎ方の違いや注意点について解説

相続と遺贈、一見すると同じ意味に捉えられますが、実は大きな違いがあります。相続と遺贈の財産の引き継ぎ方の違い、税金の違い、遺贈と死因贈与についても解説します。

目次
  1. 相続と遺贈の違い
  2. 相続と遺贈とは?
  3. 相続と遺贈における農地取得や不動産登記などの違い
  4. 相続と遺贈の税金の違い
  5. 遺贈と死因贈与の違い
  6. まとめ
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相続と遺贈の違い

人が亡くなると同時に、相続が開始されます。相続とは、亡くなった方の財産を受け継ぐための制度です。「〜を○○に相続する」「〜を××に遺贈する」といったフレーズを耳にしたことがあるのではないでしょうか。

相続と遺贈、一見すると同じ意味に捉えられますが、実は大きな違いがあります。相続か遺贈かによって、思わぬ損を被る可能性もあります。損をしないためにも、相続と遺贈の違いについて、理解を深める必要があります。この記事では、相続と遺贈の違いをご紹介します。

相続と遺贈とは?

まず、相続と遺贈について、基本的な違いを確認します。

①相続とは

相続の概要

相続とは、亡くなった方(被相続人)の財産を法定相続人に対して、包括的に移転する行為です。法定相続人とは、法律上指定されている相続人のことで、配偶者や子供、兄弟姉妹、親や祖父母までをさします。

そのため、法定相続人以外(友人や内縁の妻など)に対して財産を移転する場合、相続とは呼びません。「包括的」に移転するとは、現金の資産だけでなく、借金などの負債も引き継ぐことを意味します。

原則遺言書の記載内容にもとづき、遺産分割協議によって各々が相続する財産を決定し、話し合いがまとまらない場合には、民法上決められている法定相続分ずつ財産を分け合います。民法における法定相続分は、下記となります。

  • 配偶者と直系卑属(子供や孫)が相続人:配偶者2分の1、直系卑属2分の1
  • 配偶者と直系尊属(親や祖父母)が相続人:配偶者3分の2、直系尊属3分の1
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1

上記のとおり、配偶者は原則必ず相続人となります。子供や孫がいない場合には、直系尊属に相続人の権利が発生します。また、直系尊属が存在しない場合には、兄弟姉妹が相続人となります。

相続による注意点

相続に関して、どのようなものが遺産相続の対象になるのでしょうか。遺産相続の対象となる財産とならない財産は下記のとおりなので注意しましょう。

対象になる財産

  • 動産(自動車や貴金属類など)
  • 家や土地などの不動産
  • 預金
  • 株などの有価証券
  • 借金などのマイナスの財産

 対象にならない財産

  • 死亡保険金
  • 死亡退職金
  • 祭祀財産(さいしざいさん)家系図や仏像、墓碑など

また遺言書がある場合、無効になる場合もあります。亡くなった方の遺言書の効力は強力なため、書き方を誤ると無効になります。そのため、遺言書を作成する場合は、以下に注意して遺言書を書いてもらいましょう。

無効な遺言書

  • 日付の記載されていない
  • 押印がされていない
  • 相続する財産の内容が不明確

相続による財産の引き継ぎ方

相続には、さまざまなケースがあり、土地や資産などのプラスとして残る財産だけではありません。残念ながらマイナスの財産を残して亡くなる場合もあり、残された遺族は困ってしまいます。そういったケースがあるため、相続には以下のような3種類の方法から選べるようになっているのです。

  1. 単純承認
  2. 限定承認
  3. 相続放棄

1つ目は「単純承認」で、自身の取り分である資産・負債を全て引き継ぐ行為です。そのため、負債があった場合でも相続人が支払うことになります。手続きは特になく、何もしなければ自動的に単純承認となります。また、ほかの相続人との相談もいりません。

2つ目は「限定承認」で、相続する資産金額の範囲内で、負債を引き継ぐ行為です。そのため、負債があった場合は、相続する財産の中から返済します。手続きは、限定承認申述書、財産目録を家庭裁判所に提出することになります。

3つ目の「相続放棄」は、相続する権利自体を放棄する行為です。手続きは、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出することになります。

負債があまりにも多い場合は相続放棄を行い、手放したくない資産がある際は限定承認を実施するケースが大半です。限定承認や相続放棄を実行するためには、相続開始から3ヶ月以内に手続きを完了させなくてはいけません。

また、限定承認の場合は、相続人全員の合意が必要になりますが、相続放棄の場合は、ほかの相続人との相談は必要なく、個人で手続きが生じるなどの違いがあるので、注意しましょう。相続の手続きは非常に面倒であるため、弁護士や司法書士に業務を委託することをおすすめします。

②遺贈とは

遺贈の概要

遺贈とは、被相続人が遺言書を用いて、特定の人物に対して財産を無償で譲渡する行為です。相続が法定相続人を対象とする点に対して、遺贈では対象者に制限がありません。つまり、親族以外の個人、法人問わず自由に遺贈を実行できます。

遺贈は遺言書によって、遺産の全部、一部を無償あるいは、一定の負担をして受け継ぐことが可能です。遺贈を受ける者は、受遺者(じゅいしゃ)といいます。また、移転する財産にも違いがあります。相続では財産を包括的に移転しますが、遺贈では移転する資産を指定できます。

つまり相続とは違い、負債を引き継がせずに済みます。無償であるため「贈与」と同じだと勘違いする方も多いですが、「贈与」と「遺贈」も異なる手法です。

遺贈する場合の注意点

贈与は両者(あげる人・もらう人)が合意したうえで実行しますが、遺贈は被相続人の一方的な意思によって財産を譲渡します。また、遺贈の際には注意点があります。被相続人が亡くなった時点で、受遺者が生存していなければ、遺贈は無効となります。

そのため、受遺者の相続人がいたとしても権利が移って遺贈することはありません。もし、受遺者の相続人へ遺贈したい場合は、「受遺者の相続人へ遺贈する」との予備の遺言書を残しておく必要があります。

また、兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺留分といわれる最低限相続できる割合が法律で決められています。遺留分を持っている相続人は、遺贈によって遺留分を侵害された場合には、受遺者に対し遺留分侵害額請求をすることが可能です。

遺贈による財産の引き継ぎ方

遺贈には、2種類の方法があります。

  1. 包括遺贈
  2. 特定遺贈

「包括遺贈」は、遺贈する財産を割合で指定もしくは全財産を移転、そして相手を指定できる遺贈になります。包括遺贈の対象者は、相続人と同様の権利を獲得し、遺産分割協議に参加できます。負債を引き継ぎたくない場合には、遺贈の権利を放棄しなくてはいけません。

包括遺贈のメリットは、財産構成に対応できることでしょう。遺贈者の財産は、遺言を作成してから亡くなるまでに変化する可能性があります。包括遺贈であれば、財産構成が変化した場合でも、常に一定の割合を特定の相手に残すことができるのです。

また、受遺者に不動産取得税がかからないという点もあります。デメリットとしては、包括受遺者は権利だけでなく義務も負わなければなりません。つまり、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継ぐことになり、借金があれば遺言の指定割合の債務を負います。

一方で、特定の財産と相手を指定するケースは、「特定遺贈」と呼ばれます。特定遺贈の権利は、自由にいつでも承認もしくは放棄できます。相続とは違い、遺贈放棄は口頭での意思表示でも成立します。メリットとしては、遺言で指定されていない限り、マイナスの財産を引き継がなくてもよい点です。

一方、特定遺贈のデメリットは、財産構成の変化に弱いところが挙げられます。

例えば、亡くなるまでに預金を使ってしまった場合、受遺者の取り分が少なくなる可能性があります。ほかにも、遺贈の対象が不動産だった場合、特定遺贈では不動産取得税が発生することに気を付けましょう。

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相続と遺贈における農地取得や不動産登記などの違い

この項では、相続と遺贈について農地取得や不動産登記、借地権・借家権などに関する違いをご紹介します。

①農地取得

相続では移転登記により、円滑に農地を相続人に移転できます。農地を相続した場合の手続きとしては、まず、相続登記して、次に農業委員会への届出をすることになります。また、相続による農地の取得については、許可は必要ありません。

農地を遺贈する場合は、包括遺贈かあるいは特定遺贈かによって農地法による許可が違ってきます。包括遺贈の場合、遺贈によって農地を取得した時は許可を不要としていますが、届出は必要です。

特定遺贈の場合、農地の移転には農業委員会もしくは知事の許可が必要です。相続と比べると、農地取得に手間がかかります。遺贈の対象者(受遺人)が農業従事者でないと、許可が下されない可能性があります。許可がおりなければ、受遺者は農地を取得できません。

また、農地を遺贈された場合、相続の場合と同様、相続税が課税されます。農業の事業承継などを実施する際には、特定遺贈のリスクに注意しましょう。

②不動産登記

相続では、相続人は単独で所有権移転の登記を申請できます。一方で遺贈を選択すると、相続とは違い手続きが面倒です。受遺人は、法定相続人全員と共同で所有権移転の登記を申請しなくてはいけません。また、あらかじめ遺言書の中で遺言執行者を指名しておくことが可能です。

もし、遺言執行者が指名されているならば、遺贈の名義変更手続きは遺言執行者と受遺者が共同しておこないます。また、仮に相続争いが勃発した場合には、相続人からの協力が得られず、登記申請を進められなくなる恐れがあります。

遺贈は相続とは違って、登記を経ないと債権者に対して自身の権利を主張できません。

③借地権・借家権の移転

借地権・借家権の移転でも、相続と遺贈の間に違いがあります。相続は、相続する人によって入れ替わる性質を持つ包括承継であるため、借地権・借家権を相続することによる移転について、地主の承諾の必要はありません。しかし、対抗要件は備えておくようにしましょう。

しかし、遺贈では移転に際して承諾が必要です。相続と違い包括承継とはならない遺贈のケースは、借地権・借家権の譲渡に該当します。そのため、受遺者が遺贈によって借地権・借家権を受け取るためには、地主の承諾と地主への譲渡承諾料の支払いが必要となってきます。

相続と遺贈の税金の違い

この項では、相続と遺贈における税金についてご紹介します。

①相続における税金

相続の際には、相続人に対して相続税が課税されます。下記の順序によって、相続税を計算できます。

正味相続財産の算出

まずはじめに、税金が課税される資産総額を算出します。相続財産そのものに税金が課されるわけではなく、さまざまな加減算を行い、正味相続財産を算出します。

課税財産の計算

正味相続財産から基礎控除金額を差し引いた部分に、税金が課税されます。基礎控除金額は、下記の計算式により算出します。

  • 基礎控除金額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

各々の税金額を算出

課税される財産総額が計算されたら、各々の財産取得割合に応じて、納税する税金を計算します。

②遺贈における税金

遺贈の場合、納税する税金は下記の順序で算出します。

  1. 正味相続財産の算出
  2. 課税財産の計算
  3. 各々の税金額を算出
  4. 税金に2割加算(一定範囲内の親族であれば不要)

①〜③までの順序は、相続と違いありません。遺贈の場合、算出された相続税額を2割増する必要があります。なぜなら、財産取得者が被相続人の一親等及び配偶者以外の人である場合には、税金に相続税額の2割分を加算する決まりがあるからです。

遺贈により親族以外に財産移転する場合、納税する税金が多くなります。相続においても、相続人が一親等及び配偶者以外であれば、税金の2割加算が適用されます。

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遺贈と死因贈与の違い

最後に、遺贈と死因贈与の違いも解説します。遺贈と死因贈与も、しばしば同一視されがちですが、両者には違いがあります。この項では、遺贈と死因贈与の違いを確認しましょう。

①死因贈与とは

死因贈与とは、被相続人の死亡を条件とした贈与契約です。つまり、被相続人が死亡した時点で、贈与が実行されます。死因贈与には、「負担付死因贈与」と呼ばれるものもあります。負担付死因贈与とは、受贈者に対して義務や負担を設定する死因贈与です。

例えば、「身の回りの世話をしてくれたら、○○○を与える」といったケースが最たる例です。「贈与」と付いていますが、死因贈与で納付する税金は「相続税」です。この点においては、相続や遺贈に違いがありません。

②遺贈と死因贈与の違い

遺贈と死因贈与には、主に下記2つの違いが存在します。

成立条件

遺贈では、効力の発生に「遺言書」が必要です。遺贈の場合は、相手の同意は必要とせず単独行為でできるため、自分の好きな内容で遺言を作成できます。しかし、民法に定められた形式に従って作成しなければならず、それ以外で作成されたものは無効です。

死因贈与では、遺贈とは違い双方の同意によって成立するため、口約束でも成立します。後々のトラブルを避けるうえで、死因贈与であってもその契約の証明を残すために、契約書を残しておくことがおすすめです。また、契約書の作成には遺言のような決められた形式はありません。

財産を引き継ぐ側の権利

遺贈は財産を分け与える方による一方的な意思表示であるため、受遺者は遺贈を拒否できます。一方で死因贈与は、遺贈とは違い贈与者と受贈者との間で交わす正式な契約です。死因贈与の場合、贈与者が亡くなった後に受贈者は原則財産の受け継ぎを拒否できません。

以上が、遺贈と死因贈与の違いとなります。遺贈と死因贈与は、互いに一長一短の手段です。どちらを選ぶかは、時間をかけて検討していきましょう。

まとめ

今回は、相続と遺贈の違いについてご説明しました。相続と遺贈には、さまざまな違いが存在します。親族に対して財産を移転するのであれば、相続を選択した方が有利です。親族以外(法定相続人)に財産を移転する場合には、基本的には遺贈となります。

要点をまとめると下記になります。

・相続とは

→被相続人の財産を法定相続人に対して、包括的に移転する行為

・相続する場合の注意点

→遺産相続の対象となる財産とならない財産、無効となる遺言書

・相続による財産の引き継ぎ方

→単純承認、限定承認、相続放棄の3種類

・遺贈とは

→遺言書を用いて、特定の人物に対して財産を無償で譲渡する行為

・遺贈する場合の注意点

→遺贈の無効、遺留分侵害額請求について

・遺贈による財産の引き継ぎ方

→包括遺贈と特定遺贈の2種類

・相続と遺贈における農地取得や不動産登記などの違い

→特定遺贈の場合、農地の移転には農業委員会もしくは知事の許可が必要

・相続における税金

→正味相続財産の算出、課税財産の計算、各々の税金額を算出

・遺贈における税金

→正味相続財産の算出、課税財産の計算、各々の税金額を算出、税金に2割加算(一定範囲内の親族であれば不要)

・死因贈与とは

→被相続人の死亡を条件とした贈与契約

・遺贈と死因贈与の主要な違い

→成立条件、財産を引き継ぐ側の権利

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