2021年5月7日更新会社・事業を売る

事業譲渡における債権者保護手続きとは?事業譲渡の流れも解説

事業譲渡は、買い手となる会社が承継するものを選べる一方で、ケースによって債権者保護の手続きが必要な場合と不要な場合があります。そのため、あらかじめ専門家のサポートを得ておくなど、万全の体制を整えたうえで行うようにしましょう。

目次
  1. 事業譲渡における債権者保護手続き
  2. 事業譲渡とは?どのような手法?
  3. 事業譲渡の流れ
  4. 事業譲渡における契約関係
  5. 事業譲渡における債権者保護手続き
  6. 事業譲渡における債権者保護手続きの流れ
  7. まとめ

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事業譲渡における債権者保護手続き

事業譲渡はM&Aの手法の一つであり、大企業に限らず中小企業でも用いられます。M&Aというと、会社同士が買収や合併をするようなイメージがありますが、事業譲渡は事業単体を取引するものです。そのため、事業譲渡は他のM&Aの手法と違う点が多く、その違いについてはよく把握しておく必要があります。

今回は、事業譲渡の全体の流れや、ケースによって必要となる可能性がある債権者保護手続きについてお伝えしていきます。

事業譲渡とは?どのような手法?

まずは、事業譲渡がどのような手法なのかについて紹介していきます。事業譲渡は冒頭でもお伝えしたように、会社のすべてを取引するのではなく、基本的には特定の事業を取引するM&Aの手法の一つです。そのため、事業譲渡では会社の一部の資産を売買することになります。

なお、事業譲渡などのM&Aを行う際には専門的な知識や実務が多くありますので、専門家のサポートを受けて実施するのがおすすめです。

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買い手は承継する資産や負債を選択できる

事業譲渡の特徴は、買い手が承継する資産や負債を選択できるという点です。M&Aで一般的に使われる手法の株式譲渡や合併は包括的承継といい、買収した会社のすべての要素を引き継ぐことになり、売却される会社の事業や従業員、設備はもちろん、すべての資産や負債なども引き継ぎます。

したがって、買収する会社にとっては、経営統合を行っていくうえで不都合な資産や負債をも承継することになる点がネックとなり、さらに買収する会社が認識していない簿外債務も当然承継されるため、これもトラブルとなる原因になります。

しかし、事業譲渡の場合は、買収する会社が承継したくないものがあれば、交渉によってそれをあらかじめ取り除いて承継することができるというわけです。

プロセスが煩雑でコストもかかる

事業譲渡を実行すると、その事業に属する従業員の雇用契約が白紙になってしまうため、買い手の会社は改めて従業員と雇用契約を締結する必要があります。また、事業を行うために必要な関係省庁の許認可や、不動産の移転手続きなども必要となることから、プロセスが煩雑になりコストもかかります。

そのため、スピーディーなM&Aを行いたい会社には不向きともいえます。とりわけ、従業員の雇用契約が白紙になってしまう点には注意を払っておくべきです。もしもM&Aに不満を持っている従業員が多かった場合、雇用契約が白紙になったことをきっかけに離職に踏み切るケースがあります。

大量に従業員が流出すれば、事業に関する情報やノウハウの漏洩につながりますし、事業の中核を担う従業員が離職してしまうと、事業自体の価値が大幅に下落してしまう恐れがあります。この点は、事業譲渡の最大のデメリットだといえるでしょう。

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事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡の流れ

ここでは、事業譲渡の流れを大まかにお伝えしていきます。事業譲渡は、以下のようなプロセスで行っていきます。

  1. 事業譲渡の準備
  2. 意向表明・基本合意
  3. デューデリジェンス
  4. 事業譲渡契約の締結
では、これらのプロセスについて、どのようなことが行われるかを紹介していきます。

①事業譲渡の準備

事業譲渡は買い手、あるいは売り手の候補を見つけることから始まります。このとき、自分達だけで候補を探してもいいですが、M&A仲介会社の協力を得た方が見つけやすくなるでしょう。候補が決まったらスクリーニングを実施し、最終的な候補に打診します。

先方が事業譲渡に興味を持ち、交渉を承諾すれば秘密保持契約を締結し、本格的に交渉を開始していきます。

②意向表明・基本合意

事業譲渡の交渉が開始されると、先方とトップ面談を行います。そして、事業譲渡を行うことが決定されると、意向表明・基本合意が行われます。意向表明では、買収方法・買収価格・買収条件などの提案が書かれた資料である「意向表明書」を作成します。

その後に、基本合意において事業譲渡を行うことの決定を示す基本合意契約を締結します。

③デューデリジェンス

事業譲渡、ひいてはM&Aのプロセスで重要なものの一つが、このデューデリジェンスです。デューデリジェンスはM&Aを行う会社のリスクを洗い出す作業であり、M&Aの成否を占うといっても過言ではありません。当然、ここで致命的なリスクが見つかれば、M&Aが破綻してしまうこともあり得ます。

④事業譲渡契約の締結

デューデリジェンスを経て、事業譲渡の実行に問題がなければ、事業譲渡契約を締結します。このプロセスは俗にいうクロージングであり、事業譲渡を実行するプロセスの最後の場面といってもいいでしょう。

事業譲渡契約では、改めて事業譲渡の内容を記載すると共に、トラブルがあった際の賠償を明記する表明保証などを記載していきます。

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事業譲渡における契約関係

さきほどお伝えした事業譲渡のプロセスの中で、いくつか契約が出てきましたが、ここではその契約についてより詳しくお伝えしていきます。

秘密保持契約

秘密保持契約とは、その名のとおり取引に関する機密情報を定め、それを保持することを明確にする契約です。事業譲渡に限らず、M&Aは会社や事業の在り方が大きく変わる可能性が高いものであり、初期段階で漏洩してしまうと従業員や取引先を動揺させてしまうことにつながります。

そのため、秘密保持契約を締結することは、M&Aを行ううえで非常に重要です。

意向表明

意向表明は、さきほどもお伝えしたようにM&Aを行うことに対して双方が合意を得た際に交わすものです。内容としては、M&Aを行ううえでの企業提携を行う意思や基本的な条件があります。ただ、意向表明は必ず締結するものではなく、基本合意のみを行うケースもあります。

基本合意

さきほども触れた基本合意契約(基本合意書)ですが、これは事業譲渡、ひいてはM&Aで行うにあたり、これまで交渉を行ってきたことの中で決定した基本的な諸条件を明確にしたものです。ただ、基本合意は法的な拘束力があるものではありません。

後のデューデリジェンスなどで問題が発生し、条件を変えなければならない場合は変更されることがあります。

事業譲渡契約

事業譲渡契約はクロージングの段階で締結する契約です。事業譲渡契約では、譲渡する対象や対価、手続き、競業避止義務、従業員の扱いなどについて明記します。ただ、契約は取引の実態や結果を決めるうえで一番重要なものであり、手違いがあると、後々トラブルに発展することもあります。

最近はインターネットで検索すれば雛型が見つかり、無料で使うことができますが、それをそのまま使ってしまうと取引の実態から乖離してしまう恐れがあります。そのため、事業譲渡契約のような重要な契約を締結する際は、専門家に相談してきちんとチェックを受けておきましょう。

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秘密保持契約書(NDA)とは?書き方や有効期限、ひな形をご紹介

事業譲渡契約書のポイント

事業譲渡における債権者保護手続き

M&Aでは、プロセスの中に組織再編にあたって債権者の権利を保護するための「債権者保護手続き」を行うことが多いです。事業譲渡の場合も、債権者保護手続きが必要なのでしょうか。結論から先にいいますと、事業譲渡の際は基本的に債権者保護手続きは必要ありません。

厳密にいうと、事業譲渡に伴って債権の移転手続きが行われるケースを除き、事業譲渡において債権者保護手続きは不要です。なぜなら、事業譲渡を行っても会社自体の独立性や存在はそのまま維持され、移転しない限りは債権に影響はないからです。

もし、債権を移転するなどして債権者保護手続きを行う必要が出てきた場合、債権者から個別同意を得る、あるいは官報公告への通知を行う必要があります。ちなみに、事業譲渡と似た手法である会社分割では、債権者への保護手続きが会社法で定められています。

一方で、事業譲渡においては債権者保護手続きを会社法で定められているわけではありません。M&Aにおける似た手法であっても、それぞれの特徴によって会社法での定めも異なります。

事業譲渡における債権者保護手続きの流れ

事業譲渡は債権の移転、つまり負債を買い手となる会社に承継させるかどうかを決められるため、債権者保護手続きが必ず発生するわけではありません。ただ、負債を背負っている会社が売り手となる場合、できることなら買い手となる会社に承継してほしいと考えることは多いでしょう。

ここでは、債権者保護手続きを行う際のプロセスとなる「債権者の個別同意」と「官報公告への通知」についてお伝えします

債権者の個別同意

債権者への個別同意を行う際、まずはすべての債権者を網羅した債権者リストを作成します。当然ながら、一人の債権者も漏らしてはいけません。そして、事業譲渡を行った場合の債務の状況、債務者の移転など、債務の移転がどのように行われるか、その項目を同意書に記載し、勧告書を作成します。

また、必要に応じて債権者ごとに債務の状況を伝えることもあります。債権者への個別同意は、債権者の数によってかかる時間が変わります。当然、債権者の数が多ければ作業に必要なトータルの期間は長くなりますし、数が少なければすぐに終わります。

ただ、債権の移転に関する個別同意書は、1ヶ月以内に解答しなければならないものです。もしも1ヶ月以上経過しても解答がなければ、強制的に同意したとみなされます。つまり、個別同意が完了する期間は長くても1ヶ月は必要だというわけです。

官報公告への通知

官報公告への通知を行う際、まずは記載しなければならない内容を把握しておく必要があります。官報公告に記載する内容は、直近の会社財務諸表や、決算報告などといった会社に関する情報であり、事業譲渡の際の売り手、買い手の双方ともに必要となります。

そして、これらの情報は決算公告を掲載した官報の号数とページ数を記載することによって掲載となります。ただ、決算公告を掲載していない場合は、債権者保護手続きを行う官報公告で記載することになるので注意してください。

ちなみに、個別通知にも要約貸借対照表を掲載する必要があります。この手続きが大変であることが多いので、気を付けておきましょう。

官報公告における注意点

官報公告に情報が掲載されるまでの期間は、官報公告の掲載号などの記載で済むのであれば、あまりかかることはありません。しかし、貸借対照表などを掲載する場合は、10営業日ほどかかることがあるため、スケジュール調整は注意しておきましょう。

また、官報公告に掲載するには費用がかかります。官報公告は一行ごとに費用が発生する形式をとっており、1行ごとに1000円弱~数千円ほどかかります。また、枠で申し込むのであれば、枠の数によって費用が変化します。

1枠であれば7万円ほどの費用が発生し、枠の数が増えると数十万円に達することもあります。官報公告の記載には、それなりの費用がかかるため留意しておいてください。

債権者から異議を唱えられた場合

債権者保護手続きの過程で、債権者が事業譲渡に同意せず、異議を唱えることもあります。債権者が異議申し立てを行った場合、債権者の利益や権利を損なうようであれば、その都度対処を行う必要があります。この場合の対処は債務の弁済や、担保の提供といったものが挙げられます。

いうなれば債権をすぐに解消する、もしくは債権の回収が困難となった際の保全がされるように対処するわけです。

事業譲渡が債権支払いに影響しなければ対応は不要

債権者が異議申し立てを行ったとしても、債権者に対する債務支払いに事業譲渡が影響しないのであれば、特段対応する必要はありません。たとえ異議申し立てが発生したとしても、債務の支払い自体に影響がなければ、問題がないからです。

裏を返せば、事業譲渡による債権者への影響がないようにすれば、異議申し立ての影響はあまりなく、債務の弁済や担保の提供といった対処が必要になったとしても、ちゃんと実行すれば事業譲渡が頓挫(とんざ)するようなことはないでしょう。

ただ、債権者とのトラブルは会社の信頼に関わるようなことであるため、債権者保護が必要な場合はきちんと相手の利益や権利を尊重して行うようにしましょう。

まとめ

事業譲渡は買い手となる会社が承継できるものを選べる方法である一方、ケースによって債権者保護の手続きが必要となる場合や不要となる場合があるなど、他のM&Aの手法とは異なる点が多いものです。そのため、あらかじめ専門家のサポートを得ておくなど、万全の体制を整えたうえで行うようにしておきましょう。

また、必ずしも必要と限らないとはいえ、債権者保護の手続きには備えておいた方が賢明です。

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