2022年10月23日更新事業承継

経営の課題とは?自社の問題点を探す方法、解決策を解説

企業にとって最大のテーマは収益の向上ですが、その実現に向けてはさまざまな経営課題を解決しなければなりません。本記事では、外部の統計調査を基にして企業規模別に経営課題を洗い出すとともに、自社の経営課題を探す方法とその解決策を解説します。

目次
  1. 経営の課題最新レポート
  2. 企業の経営課題
  3. 自社の経営課題を探す方法
  4. 自社の経営課題の解決策
  5. 経営の課題まとめ

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経営の課題最新レポート

会社の規模や業種に関係なく、経営者はいつでも何かしら経営に関して課題を抱えているものです。本記事では、一般社団法人日本能率協会の「日本企業の経営課題2019」をベースにして、企業の規模ごとに共通している経営課題が何であるか分析します。

調査資料は同協会会員法人など480社の回答(回答率12.9%)が取りまとめられています。下表は、日本能率協会が用意した経営課題の選択肢から、各社3つまで選択可能とした調査結果の上位10位までの統計です。回答方法の関係で比率の合計値は100%になりません。

順位 経営課題 比率
1位 収益性向上 44.4%
2位 人材の採用と育成・多様化への対応 41.0%
3位 売上・シェア拡大 33.3%
4位 新製品・新サービス・新事業の開発 25.2%
5位 事業基盤の強化・再編 21.5%
6位 技術力・研究開発力の強化 12.7%
7位 働きがい・従業員満足度の向上 12.5%
8位 現場力の強化 11.5%
9位 商品・サービス・技術の品質向上 10.8%
10位 高コスト体質の改善 10.4%

やはり全企業的テーマとして収益向上が経営課題の1位でした。そして、収益向上にとても近い比率で人材問題が続いています。さて、この全体結果が経営規模別に見るとどのように変化するのか、次章で比較してみましょう。

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企業の経営課題

ここからは、中小企業、中堅企業、大企業に区分し、それぞれの経営課題を見ていきます。区分の条件は以下のとおりです。

  • 中小企業:従業員数300人未満
  • 中堅企業:従業員数300~3,000人未満
  • 大企業:従業員数3,000人以上

中小企業の経営課題

日本能率協会の「日本企業の経営課題2019」によると、中小企業が挙げた経営課題は以下のとおりです。

順位 経営課題 比率
1位 人材の採用と育成・多様化への対応 45.0%
2位 売上・シェア拡大 42.9%
3位 収益性向上 35.7%
4位 新製品・新サービス・新事業の開発 25.0%
5位 事業基盤の強化・再編 17.1%
6位 商品・サービス・技術の品質向上 16.4%
7位 現場力の強化 15.0%
8位 ブランド力の向上 13.6%
8位 財務体質の強化 13.6%
8位 働きがい・従業員満足度の向上 13.6%

①人材の採用と育成・多様化への対応

中小企業の経営者が最も強く感じている経営課題は、全体調査1位の収益向上を大きく引き離し、人材問題が挙げられました。日本社会の少子化により人材採用では売り手市場となっているため、ネームバリューのある大企業などに流れてしまいがちな人材確保が最大のネックなのでしょう。

また、それは現在の中小企業では、人員不足であるということです。その人員不足のさなか、政府の推し進める働き方改革への対応が、中小企業にとっては実行が重い状況となり、経営者にとって悩みとなっているものと推測されます。

②売上・シェア拡大

中小企業経営者が、1位の人材問題に近い比率で経営課題として考えているのが売上・シェア拡大問題です。こちらも、収益性向上を上回る結果となっています。つまり、収益よりも、まずはシェアを広げ売上額を高めることが先決問題と考えているということです。

売上と利益は半ば連動するものですが、中小企業の場合、起業したばかりの会社も多くあり、その場合、今は売上計上に必死という段階にあるのかもしれません。

③ブランド力の向上、財務体質の強化

中小企業の経営課題統計結果の同率8位として、全体統計では10位以内にランクインしていなかったブランド力の向上、財務体質の強化です。まず、ブランド力の向上は、経営課題1位の人材問題、2位の売上・シェア拡大に直結する経営課題と考えられます。

ネームバリューの差で大企業に人材をさらわれ、ブランド力不足で売上高に悩む日常が映し出されているのです。しかし、これを逆手に取って、経営課題を改善に導く手段として捉えられれば、チャンスが訪れる可能性もあります。

財務体質の強化は、時代に関係なく中小企業の多くが抱えている経営課題でしょう。昨今は、国や自治体のさまざまな助成システムも用意されています。あきらめずに情報収集すれば、思ってもみなかった財務体質強化につながる施策に出会える可能性もあるものです。

④生産性の向上

ここからは、中小企業の経営課題として語られることの多い4つのテーマを取り上げます。まずは、生産性の向上です。公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2021」によると、2020(令和2)年の日本の時間当たり労働生産性就業1時間当たり付加価値は49.5ドルでした。

OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development=経済協力開発機構)加盟38カ国中23位です。OECDには、EU22カ国、日本、イギリス、北米・中南米諸国、豪州、韓国、トルコなどが加盟しています。

また、日本の1人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は78,655ドルで、38カ国中28位でした。これらのデータを見れば明らかなように、日本の生産性は先進国の中で低水準であるということです。

主な原因として、IT導入の遅延、残業体質の慢性化などがあります。したがって今後は、IT導入による合理的な労働環境の構築、働き方改革による長時間労働の削減が必須となるでしょう。

⑤技術力や開発力の強化

製造業などでは、日本の中小企業の技術力の高さは世界レベルでも定評があります。しかし、全ての中小企業が該当するわけではありません。日本は少子化による人口減少に歯止めがかからず、ほとんどの産業において国内市場はシュリンクしていくのは明らかです。

今後、収益向上を図っていくためには、遅かれ早かれ多くの企業が海外市場に進出せざるを得ません。そうなれば、海外企業との間で技術力や開発力を競うことになります。

このことを踏まえると、どの中小企業においても、単に現在の技術力・開発力を維持するだけでなく、一層の強化を図らねばなりません。そのためには、研修やリスキリング制度の充実など、従業員教育の改善が急務です。

⑥コストダウン

コストダウンは収益向上に直結します。売上高が横ばいであっても、コストダウンが実現すれば収益は上がるものです。コストダウンを実現するには、固定費と変動費のいずれか、あるいは両方を削減するしかありません。

固定費については、従業員数、業務システム、業務環境などの見直し、変動費については製造ラインの改善、IT導入などによる簡素化・合理化などが削減する手段です。自社をよく分析し、自社に適した見直しや導入内容を見定める必要があります。

⑦営業力・販売力の強化

営業力・販売力の強化も、収益向上に直結します。中小企業でありがちなのが、営業や販売が属人化してしまっていることです。情報の共有化もなされていないことが多く、部門内で十分な連携が取れていないことも少なくありません。

情報の共有化は部門内の問題に限らず、企画・開発コンセプトを営業・販売部門が共通認識していないケースもあります。業務のマニュアル化や報告システムの改善による各人の業務の見える化、マーケティング戦略の徹底化などの対策を行い、営業力・販売力の強化を図りましょう。

中堅企業の経営課題

日本能率協会の「日本企業の経営課題2019」における従業員数300~3,000人未満である中堅企業経営者の考える経営課題は、以下のとおりです。

順位 経営課題 比率
1位 収益性向上 50.0%
2位 人材の採用と育成・多様化への対応 41.2%
3位 売上・シェア拡大 32.7%
4位 新製品・新サービス・新事業の開発 28.3%
5位 事業基盤の強化・再編 20.4%
6位 技術力・研究開発力の強化 13.7%
7位 働きがい・従業員満足度の向上 12.8%
8位 現場力の強化 10.6%
8位 商品・サービス・技術の品質向上 10.6%
10位 高コスト体質の改善 10.2%

①収益性向上

中堅企業の経営者が思う経営課題の上位10位の内訳は、それぞれの比率こそ違うものの、全体統計と全く同じ結果となりました。順位も含めての同一結果です。そして、その1位は、50%という高い比率で収益性向上になっています。

一定の規模まで会社が成長し、順当に売上を計上してきたものの、過去に経験してきたような成長過程ではなくなってしまった中堅企業の現状への悩みがにじみ出ているように感じます。起業した頃の売上至上主義から、利益を重視する姿勢に経営者自体も転じたのでしょう。

②人材の採用と育成・多様化への対応

中小企業と同様に、中堅企業にとっても人材不足は大きな経営課題です。近年の売り手市場環境の中、大企業を志望する若者が多く、新しい人材の確保が困難になっています。そこで、最近行われるようになったのが、採用ターゲットの変更です。

産後復帰を考えている女性、外国人労働者、高齢者などに雇用の枠を広げることで、人材確保に成功しているケースが見られるようになっています。雇用層の変化に合わせて、就業制度や賃金体系を見直し改善する動きも見られるようになってきました。

人材問題を解決していくにあたっては、経営課題調査7位である「働きがい・従業員満足度の向上」にもっと関心を寄せ、従業員の労働意欲向上に積極姿勢を持たなければいけない状況を示唆しているとも言えるでしょう。

③売上・シェア拡大

中堅企業における経営課題としての売上・シェア拡大問題は、中小企業のそれとは趣が異なります。単に売上を増やしたいということではなく、対大企業という構図の中で、いかにすればシェアを伸ばせるのかという経営課題です。

投下できる広告宣伝費の規模では、大企業に太刀打ちできません。ここはむしろ、自分たちより規模の小さい中小企業が、どのような戦術を用いているか見ることがヒントになる可能性があります。

大企業も決して万能なわけではなく、手が回らない分野もあるでしょう。また、昨今の手法としては、たとえばSNSを用いれば、低コストでもプロモーション効果を発揮できる場合もあります。独自の販路を開拓したり、顧客を取り込む方法はまだまだ残っているはずです。

そして、売上・シェア拡大のもう1つの手段としてM&Aがあります。売上高は頭打ちですが、有効な打開策も見つからないというようなときに、発想を転換し、M&Aによって事業基盤の強化・再編を行い、売上・シェア拡大につなげるという考え方も有効です。

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大企業の経営課題

日本能率協会の「日本企業の経営課題2019」における従業員数3,000人以上の規模である大企業が挙げている経営課題は、以下のとおりです。

順位 経営課題 比率
1位 収益性向上 44.4%
2位 人材の採用と育成・多様化への対応 36.1%
3位 事業基盤の強化・再編 30.6%
4位 売上・シェア拡大 23.1%
5位 新製品・新サービス・新事業の開発 19.4%
6位 デジタル技術の活用・戦略的投資 17.6%
7位 働きがい・従業員満足度の向上 14.8%
8位 技術力・研究開発力の強化 13.9%
9位 高コスト体質の改善 13.0%
9位 コーポレート・ガバナンス強化 13.0%

①事業基盤の強化・再編

大企業ならではの経営課題を取り上げます。1つ目として特徴的な課題が、統計で3位の事業基盤の強化・再編です。順位だけでなく30.6%という比率は、中小企業や中堅企業のそれと比べて10%以上も高い結果になっています。

それだけ大企業において、この経営課題が重要であるということです。事業基盤の強化・再編とは、事業ポートフォリオの再構築とも言われます。大企業の場合、この経営課題への対策として行われることの1つがM&Aです。

実際にソフトバンクなどの大企業が、海外の会社を買収合併することで事業基盤の強化・再編を図っているのを目にします。特に今後は、新規事業に算入する場合、一から立ち上げるよりも、M&Aによる買収で事業体制を整える傾向が強まるでしょう。

②デジタル技術の活用・戦略的投資

中小企業、中堅企業の経営課題でランクインせず、大企業のみでランクインした経営課題の1つが、デジタル技術の活用・戦略的投資です。このデジタル技術の活用・戦略的投資とは、ひと言で言えばITとどう向き合うかということになります。

ITという日進月歩で進化するテクノロジーは、これまで人類が経験していない分野のものです。傍観や、のんびり検討していては、あっという間にライバル企業の後塵を拝すかもしれません。まさに戦略的投資が必要であり、経営課題として実行していかなくてはならないものです。

③コーポレート・ガバナンス強化

現在、上場企業では必須の社内制度がコーポレート・ガバナンス(corporate governance=企業統治)です。経営陣が独善的に経営を行わないように管理・監視することを目的に、社内に設ける制度やシステムのことをさします。

言い方を変えれば、企業が不祥事を起こして企業価値(株式価値)を落とすことのないよう、株主の立場に立った目の光らせ方をすることです。組織が巨大化し従業員の数も膨大となれば、ハラスメント問題も含め、どこから問題が発生するかわかりません。

そのような意味合いも含め、コーポレート・ガバナンスの体制を強化することを経営課題に挙げる経営者も増えているということでしょう。

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自社の経営課題を探す方法

ここでは、自社の経営課題を探す方法を解説します。主な方法は以下の4つです。

  • 経営資金の可視化
  • 従業員の成績の抽出
  • 組織状況の可視化
  • 業務フローのチェック

経営資金の可視化

経営資金を可視化し経営者が資金の流れを把握することで、自社の経営課題を見つける一助になります。経営資金の可視化の方法として、一般的にはキャッシュフロー計算書の作成・把握が勧められることが多いでしょう。

キャッシュフロー計算書により、月次や四半期、年次ベースでキャッシュフローを把握すること以外に、日次ベースの入出金予定表を経理に作成させ、自社の資金の入出金を細かく見ることも役立ちます。

従業員の成績の抽出

かつては年功序列型の評価制度だった日本企業も、今では成果主義・能力主義型の評価制度に変遷したとされています。従業員に対し、成果主義・能力主義の評価を行っているのであれば、評価の低い従業員と評価の高い従業員の評価内容を比べることで経営課題が見つかるのです。

具体的には、評価の低い従業員の行動特性と評価の高い従業員の行動特性を比較します。その違いや差を埋める方法を考察する過程で会社が持つ経営課題があぶり出せるでしょう。

組織状況の可視化

一定以上の規模の企業の場合、単なる組織図だけでは、各部門や担当者が抱える問題点・課題は見えづらいものがあります。そこで、定期的に従業員に対しヒアリングやアンケートを行うなどして、組織状況の可視化を行うと経営課題が見つけやすくなるでしょう。

ヒアリングやアンケートの内容は業種や職種、立場により異なるものになるので、経営コンサルタントなどへ相談して決めるのがおすすめです。

業務フローのチェック

従業員の成績の抽出や組織状況の可視化と関連することですが、各従業員の業務フローのチェック・見直しを行うことも経営課題を見つけることにつながります。特に要チェックなのは、属人化してしまっている業務の部分です。

属人化を解消し部門における業務効率の向上を図ることで、それと連動する経営課題の見極めが可能になります。

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自社の経営課題の解決策

ここでは、経営課題の解決策となり得る具体的な方法を紹介します。

  • 経営計画書の策定
  • 人事評価制度の見直し
  • インフラリソースの見直し

経営計画書の策定

経営計画書とは、会社をどう経営していくか、どのような将来像を持っているのかを示すものです。具体的には、以下の手順で策定していきます。

  1. 会社の大目標を定める(経営方針、経営理念、経営ミッションなど)
  2. 中長期の経営目標を定める(大まかな数値目標)
  3. 中期事業計画を定める(3年間)
  4. 翌期の事業計画書に落とし込む

大目標や経営目標は社内外に公表します。そうすることによって、社内では意識の共有、社外では信用力の向上につながり、最終的に経営の安定化となることを狙うものです。

人事評価制度の見直し

従業員の成績の抽出、組織状況の可視化、業務フローのチェックで判明した課題の解決には、人事評価制度の見直しを行うことが賢明です。人事評価制度を見直す場合には、労務専門のコンサルタントなどへの相談をおすすめします。

人事評価制度の見直し後は、変更した内容の周知を従業員に対して十分に行うことも肝要です。

インフラリソースの見直し

労働環境の改善、業務の効率化などを図るには、インフラリソースの見直しも重要です。特に新型コロナウィルス感染拡大問題でリモートワークが急激に浸透した現在は、就業体制の変更に合わせたインフラリソースの見直しは欠かせません。

従来の環境から削減するインフラ、導入するインフラを早期に見極めないと、今後の事業成長の加速度という点で同業他社に後れを取る危険性があります。

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経営の課題まとめ

今回用いた統計資料における回答会社数の規模別比率は、中小企業29.1%、中堅企業47.1%、大企業22.5%、不明1.3%です。中小企業と中堅企業偏重ではないかという意見もあるかもしれません。しかし、中小企業庁の調査では、2016(平成28)年の日本企業の99.7%は中小企業です。

中小企業庁のいう中小企業とは、今回用いた統計で言えば中小企業と中堅企業を合わせた総数になります。したがって、大企業の課題もきちんと表出させるため、一定のサンプル数が必要だったということでしょう。

いずれにしろ、企業の経営課題への対応については、自社内で判断し決定していくしかありませんが、その際の参考資料として各種統計を活用するのも1つの手段です。

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