2024年8月30日更新事業承継

事業承継対策のポイント|必要性・考え方・事前準備の方法・注意点も徹底解説【事例付】

事業承継を成功させるうえで、税金・資金対策は重要です。事業承継の成功を目指し、従業員などへの承継やM&Aを活用した第三者への承継を行うケースが増加する中で、親族内承継・親族外承継・M&Aによる事業承継の対策ポイントを紹介します。

目次
  1. 事業承継対策の必要性(中小企業)
  2. 事業承継対策が必要な会社3パターン
  3. 事業承継対策の基本的な考え方・ポイント
  4. 事業承継対策の成功ポイント
  5. 事業承継対策の流れ
  6. 事業承継方法別の対策【後継者候補選定後】
  7. 事業承継の税金・資金対策
  8. 事業承継対策を早期に講じるべき理由
  9. 事業承継対策の際の相談先・支援
  10. 事業承継対策の事例
  11. 事業承継対策で受けられる公的な支援
  12. 事業承継対策のまとめ

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事業承継対策の必要性(中小企業)

日本では、中小企業を中心に経営者の高齢化が進行しているうえ、後継者確保が難しい状況です。そういったなか、十分に事業承継対策を講じなかった企業が、相続問題や後継者の能力不足などにより業績悪化を招いてしまったケースが多く報告されています。

中小企業にとって事業承継問題は非常に重要な課題として位置付けられていますが、事業承継対策が必要とされる理由は以下です。

会社の存続

事業承継は経営者が培ってきた要素を後継者に引き継ぐ必要があり、短期間で済ませられる行為ではありません。経営者に専門的な能力が求められる企業では、ノウハウの承継だけでも数年単位の準備期間が必要です。確実に後継者に引き継ぐためにも、事前準備として事業承継対策が重要な役割を担います。

相続トラブルの解消

相続問題の発生は当事者である親族同士のトラブルだけでなく、取引先や社員などにも悪影響を与えます。相続問題の解決がスムーズに進まない場合、会社の経営を任せることに不安を感じた取引先・社員が会社から離れてしまうおそれもあるでしょう。

相続問題を理由に銀行からの信用を失えば、将来的に融資が受けられなくなるリスクもあります。たとえ相続問題が解決しても事業の存続が困難となりかねないため、事前に対策を練っておくことが必要です。

税金問題の解決

加えて、最近は相続税・贈与税の優遇措置が受けられる「事業承継税制」の活用により、多くの中小企業が税金の悩みを解消しながら事業承継を進行できる状態です。事業承継税制の活用には特例承継計画の策定をはじめ多くの手続きが求められるため、ゆとりを持って準備を行わなければなりません。

以上が、事業承継対策が必要となる理由です。上記を読んで危機感を覚えた経営者の方は、事業承継対策を入念に講じましょう。

事業承継対策が必要な会社3パターン

ここでは、事業承継対策が必要な会社として以下の3パターンを具体的に紹介します。自社がどういった状況に該当するのか確認し、事業承継対策の必要性を理解しましょう。

①後継者が決まっていない会社

帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)

出典:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p231108.pdf

帝国データバンクの調査によれば、2023年の後継者不在率(全国・全業種約27万社を対象)は53.9%であり、2022年と比べ3.3%低下しています。

コロナ前の2019年と比べても11.3%低下しており、2023年は同社が調査を開始した2011年以降で過去最低の後継者不在率となりました。

国内企業の後継者不在率は改善傾向が続いていますが、後継者不在の企業も半数程度の割合で存在するため、企業にとっては適切なタイミングでどのように事業承継を行うかが引き続き課題であるといえるでしょう。

もし事業承継できずに廃業を選んだ場合、事業用資産・ノウハウの消失だけでなく、取引先や社員に迷惑をかけるなどのデメリットも懸念されます。自社の関係者に悪影響を与えないためにも、早期のタイミングで事業承継対策を進めて、後継者候補を定めると良いでしょう。

②経営者の影響力が大きい会社

経営者の影響力が大きい会社も、事業承継対策の必要性が高いです。こうしたワンマン経営の会社では、経営者個人によって取引先との関係が構築されているケースが多く、経営者の突然の死亡や引退が生じた場合に取引先との関係性が消失してしまうおそれがあります。

一方、大きな影響力を持つ経営者に対して、周囲は事業承継対策を提案しにくい状況も考えられます。事業承継対策の提案は、経営者に引退を勧めることに直結するためです。以上のことから、廃業リスクを低減させるためにも、経営者自身が率先して事業承継対策を検討する必要があります。

③相続人が複数存在する会社

相続人が複数存在する会社でも、早期のタイミングで事業承継対策を講じる必要があります。相続問題の発生リスクが高いためです。

相続人同士でトラブルが発生すると、経営に関するスピーディーな対応が困難となり、本来であれば意思決定・行動が早い「中小企業特有の強み」も消失します。

相続人が複数存在する会社は、すべての相続人が納得できる形で事業承継対策を進める必要があります。議論を重ねる際は長い時間を要するケースが多いことから、長期的でゆとりのある事業承継対策の策定が理想的です。

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事業承継対策の基本的な考え方・ポイント

事業承継対策の必要性を理解したところで、本章では対策を講じる際に必要な基礎知識やポイントを順番に紹介します。

事業承継とは

事業承継とは、後継者に事業を引き継ぐことを指し、その目的は会社を存続させることです。会社の存続は、技術やノウハウの継承、従業員の雇用維持、取引先の安定、顧客の生活を守ることにつながり、地域経済の支えにもなります。

もし事業承継が行われず廃業する会社が増えれば、地域経済だけでなく日本経済全体の衰退にもつながります。

事業承継には、親族間で引き継ぐ「親族内事業承継」、従業員に引き継ぐ「親族外事業承継」、そして第三者に引き継ぐ「M&Aによる事業承継」があります。近年では、M&Aによる事業承継が急増しています。

これらの事業承継方法を会社の事情に合わせて活用することが、会社やその関係者、そして地域を守ることにつながります。

事業承継で引き継ぐもの

事業承継によって引き継ぐ要素には「人」、「資産」、「無形資産」があります。「人の引き継ぎ」とは、後継者に経営権を引き継ぐこと、「資産の引き継ぎ」は株式や事業用資産などを承継することです。

「無形資産の引き継ぎ」とは、技術やノウハウ、経営理念、信用といった無形の資産を引き継ぐことを指します。事業承継では、これらの要素を引き継ぐために十分な時間が必要であり、後継者の教育も含めると5年から10年の準備期間がかかると言われています。

事業承継を実施するつもりであれば、時間と手間をかけて計画的に準備する必要があります。

事業承継方法の種類とメリット・デメリット

事業承継の方法は、大まかに以下の3つに分かれます。ここからは、それぞれの承継方法ごとのメリット・デメリットを見ていきましょう。

  主なメリット 主なデメリット
親族内承継 ・周囲から理解を得やすい
・企業文化や経営理念を承継しやすい
・後継者育成の時間を十分確保できる
・後継者に事業を引継ぐ意思がないことがある
・相続人が複数いる場合は後継者決定が難しいこともある
・事業承継対策を早期から行う必要がある
従業員承継 ・優秀な人材を選べる
・取引先から理解を得やすい
・社内事情をよく知る人材に承継できる
・後継者に株式取得の資力がなければ承継できない
・社内から反発を受ける可能性がある
M&Aによる事業承継 ・自社に合う承継先を広範囲から探せる
・売却益を獲得できる
・後継者の育成が不要
・企業文化や経営理念の承継が難しい
・相手先がみつからない可能性もある
・経営者の担保や個人保証の引継ぎに注意が必要

親族内承継

経営者自身の息子や娘、配偶者や娘婿など、血縁者・親族が後継者となるケースの事業承継です。段階的に贈与を行えば、後継者は一度に多額の資金を用意しなくても事業を承継できる点がメリットですが、贈与税は相続税より高くなりやすいため最終的に支払う税負担が大きくなるおそれもあります。

従業員承継

自社の従業員や役員などに会社を引き継ぐ方法で、以下の2種類があります。

  • MBO(マネジメント・バイアウト):役員による株式の買収・経営権の取得
  • EBO(エンプロイー・バイアウト):従業員による株式の買収・経営権の取得

従業員承継は、会社の事情に精通する人物を後継者にできる点、後継者教育に時間的余裕ができる点、従業員や取引先などから理解を得やすい点などがメリットです。

後継者は株式を取得しなければならないため資金が不足していると難しい点や経営者の親族に反対されるおそれがある点などはデメリットといえます。

M&Aによる第三者への事業承継

さまざまなM&Aの手法がありますが、事業承継では「株式譲渡」と呼ばれる手法を用いるのが一般的です。M&Aによる事業承継は面識のない第三者へ自社を引き継ぐため、抵抗感がある経営者もいるでしょう。

しかし、身近に後継者候補がいなくても会社や事業の継続ができ、従業員の雇用や経営引退後の生活資金が確保できるなど、M&Aによる事業承継にはさまざまなメリットがあります。

ただし、リタイア後の喪失感が大きくなる点や、買収後の経営理念や企業文化の維持が難しいケースがある点はデメリットといえるでしょう。買収企業にとって魅力のある会社でなければ、相手探しが難しいことなども、予め理解しておくことが必要です。

事業承継対策の成功ポイント

計画的な準備

経営者の引退時期が間近に迫ってから事業承継を進めても、どうしても準備不足になってしまうため成功させるのは難しいでしょう。事業承継を成功させるためには事前の準備が必要です。

まず事業承継を行う時期がある程度決まったら、できるだけ早期から計画を立てておく必要があります。事業承継の計画書を作成しておけば、経営者が行うべきことや後継者自身が行うべきこと、必要な手続きなどが明確になり効率的に進めていくことが可能です。

事業承継の計画書に決まった書式はありませんが、中小企業庁がひな型を無料配布しているので利用すると作成の時間と手間を減らすことができます。もし、通常業務が忙しいなどの理由で計画書を作成が難しい場合は専門家の支援を依頼するのもよい方法です。

後継者対策

事業承継では後継者の育成時間も確保しておく必要があります。後継者教育に必要な期間は5~10年といわれることもあり、短期間で行うのではなく時間をかけて進めていくことが事業承継を成功させるポイントのひとつです。

具体的な後継者教育としては、経営者の側近として経験を積ませたり良好な関係にある他社で実務経験させたりなど、さまざまな方法があるので後継者のスキルに合ったものを選ぶとよいでしょう。

また、後継者がどれだけ優秀な人材であっても経営者として自社をまとめていくには不安もあるはずです。そのため、事業を引き継いだ後に後継者を支えるブレーン的人物も決めておく必要があります。

税金対策

事業承継では後継者が株式を取得するため、それに対して税金が課されます。株価が高く取得株数が多いほど納税額は高額となるため、あらかじめ対策を講じておくことも必要です。

具体的な対策のひとつに「株数対策」があります。これは、自社株の一部を後継者の経営権に影響が及ばない範囲で持株会や好意的な株主に移転させ、後継者の持ち分比率を下げる方法です。株数対策によって持ち分比率が下がれば納税額を抑えることができるので、税金対策として検討しておくとよいでしょう。

納税資金対策

株式取得時にかかる税金は現金納付しなければならないため、あらかじめ納税資金を用意しておく必要があります。また、生前贈与や相続によって事業承継を行った場合は、贈与税または相続税が発生することもあり、これらも現金納付です。

事業承継の場合は税額が高くなりやすいため、納税資金を確保するための対策をよく検討しておく必要があります。

遺産分割対策

現経営者に複数の複数いる場合、遺産分割についてよく協議しておくことが重要です。遺産をどのように分割するかを決めておかなければ、親族内でトラブルが起きたり株式が分散してしまったりする可能性もあります。

現経営者は遺言作成を行っておくなど、相続が発生した場合の遺産分割についても対策を行っておくことが重要です。

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事業承継対策の流れ

事業承継にはさまざまな対策がありますが、まずは事業承継の開始前に行うべき以下の対策を解説します。

①自社を取り巻く環境の把握

事業承継の対策を始める際、まずは自社を取り巻く状況を項目別に把握しましょう。あらかじめ自社に関する状況を把握しておけば、事業承継を円滑に実施できます。把握すべき項目は以下のとおりです。

後継者候補の有無

当然ながら、後継者の有無を把握しておくことは必要不可欠です。誰に事業承継するかによって、講じるべき対策は大きく異なります。親族内に後継者がいる場合は、後継者の能力適性・事業承継に対する意欲も見極めると良いでしょう。

親族内にいない場合は、従業員への承継かM&Aによる第三者のいずれかを選ぶ必要があります。後継者候補の状況次第で、今後講じるべき対策が異なるため要注意です。これは、事業承継対策を計画する際の基礎となる部分なので、優先的に確認しましょう。

会社の経営資源と競争力

次に、従業員数・資産および負債の額・キャッシュフローなど各経営資源の現状を把握しましょう。これにより、事業承継対策の内容を決めやすくなり、事業承継後における方向性の決定にも役立ちます。なお、今後の方向性に関しては、後継者との共有を怠らないでください。

経営者自身の状況

上記と合わせて、個人名義の土地・建物・負債・個人保証などの把握も重要です。今後の事業承継対策を考えるうえで、これらの要素をどの程度抱えているのか十分に把握しましょう。

上記の要素を把握していないと、事業承継時に親族間でトラブルが生じるおそれがあるほか、事業承継後に経営をスムーズに進行できなくなる可能性もあります。これらのトラブルを回避するうえで、経営者自身の状況を把握するプロセスは非常に重要です。

相続時に予想される問題点

法定相続人・株式の分散状況・具体的な相続財産なども把握しなければなりません。相続時に発生する可能性のある問題点を特定し、対策を立てる必要があります。

②後継者を選出する

次に、実際に事業承継を行う後継者を選出します。後継者の選出は、「親族から選ぶ場合」「従業員・役員から選ぶ場合」「第三者(M&Aの買い手)から選ぶ場合」に分かれますが、いずれの場合も経営者と後継者の意思確認および周囲の理解が必要不可欠です。

親族から選ぶ場合、周囲に受け入れてもらいやすいメリットがあります。後継者教育に着手しやすい点もメリットです。ただし、前経営者と後継者が親族であるために親族間の関係性が壊れるおそれもあります。後継者である親族に引き継ぎたいと思ってもらえる会社を目指すことも、経営者の使命です。

従業員・役員から選ぶ場合、自社で長年働いている人材であれば事業内容や経営方針などを十分に理解しており、事業承継を円滑に進行できる可能性が高いです。ただし、経営者が債務を抱えている場合、事業承継を拒まれるおそれがある点はデメリットといえます。

第三者(M&Aの買い手)から選ぶ場合、会社の売却により経営者が利潤を得られ、従業員の雇用を維持できる点がメリットです。ただし、M&Aによる事業承継は、他の方法以上に魅力的な会社であることが要求されます。多くの買い手候補に興味を示してもらうためにも、自社の磨き上げが必要です。

③事業承継計画の作成

自社の現状把握および後継者の選出が済んだら、事業承継計画を作成しましょう。事業承継計画とは、長期的な経営計画に事業承継の時期や具体的な対策方法などを追加したもので、作成すれば事業承継対策を長期的な視野で実行できます。

事業承継計画は、経営と事業承継の双方を包括的に考えたうえで作成するため、自社の経営戦略を策定する際にも役立ちます。事業承継ではさまざまな税金がかかるため、計画内に税金対策も盛り込むと良いでしょう。漠然と実行すれば事業承継後の経営が困難となるおそれがあるため、税金対策は重要です。

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事業承継方法別の対策【後継者候補選定後】

事業承継の方法は、親族内承継・親族外承継・M&Aを用いた事業承継の3種類に分類され、それぞれの方法により実行すべき対策が異なります。ここでは、事業承継方法別の対策について順番に把握しましょう。

親族内承継の対策

この方法を用いて事業承継する際は、主に以下3つの対策を実施する必要があります。

関係者の理解

事業承継後、後継者が円滑に経営を続行していくためには、従業員や取引先など関係者からの理解が必要不可欠です。経営者の変更後も円滑な関係を維持するためには、関係者に対して事業承継計画を十分に伝える必要があります。

ここでは、「どういった対策を実施するのか」「事業承継後はどのように経営するのか」などを伝えて、関係者からの理解を得ましょう。後継者自身に関しても認めてもらう必要があります。

第三者が経営者となるケースに比べると、経営者の子供は後継者として認められやすいですが、何も伝えずに突然経営者が変わると、従業員の中で不信感が生まれるおそれがあるため、あらかじめ後継者となる親族を紹介することも、事業承継では大切な対策の一つです。

後継者教育

親族内承継のメリットには後継者教育に多くの時間を割けるという点がありますが、これと同時に親族内承継での後継者教育は重要な事業承継対策として挙げられます。後継者教育では、経営に必要なスキル・知識を習得させるために、営業・財務など自社における各部門の業務を横断的に経験させると良いです。

意思決定力・リーダーシップを習得させるために、役員など責任のある地位に就かせることも有効な対策です。現経営者が直接指導を行い、ノウハウ・経営理念・自社の強みなど目に見えない要素も十分に伝えましょう。

事業承継セミナーへの参加・他社での業務経験も効果的な対策です。これらを経験させることで、人脈形成・幅広い視野の習得などが得られます。親族への事業承継では、時間をかけた良質な後継者教育が重要です。

株や財産の分配

親族内承継では、株式の財産分配に関する対策も大切になります。所有する株式数が多いほど株主総会での決定権は強まるため、基本的に株式・財産分配時は後継者や友好的な関係の株主に株式を集中させると良いです。裏を返せば、株式が分散していると経営権が安定しないため注意しましょう。

3分の2以上の議決権を後継者が持っていれば、株主総会であらゆる意思決定を独力で行えます。株式集中に関する対策としては遺言の活用が効果的ですが、現時点で株式が分散している場合は、可能な限り株式買い取りなどの対策を講じると良いでしょう。

親族外承継の対策

親族以外への事業承継時も実施すべき対策はいろいろありますが、関係者の理解や後継者教育に関する対策は基本的に親族内承継と同様です。そのため、ここでは、親族内承継と異なる以下の対策を紹介します。

後継者の資金確保

親族外承継では、後継者となる従業員や役員に、株式を取得するための資金力がない可能性が高いです。そのため、資金確保に関する対策を講じなければなりません。具体的には、本記事で後述する「補助金の活用」や「資金調達」などの対策が有効です。

個人保証や担保の処理

経営者が交代しても、現経営者の個人保証・担保が解除されるとは限らず、この点が親族外承継を実施するうえで大きな障害となります。事業承継では後継者が連帯保証人になるケースが大半ですが、経営者の親族ではない従業員や役員からすると債務保証の責任を負うのは大きな負担です。

これを理由に事業承継を引き受けてもらえない可能性もあるため、あらかじめ対策を講じたうえで事業承継を実行しなければなりません。事業承継前に、できるだけ債務を減らす対策が有効です。負担に見合った報酬を後継者に与える施策も効果的といえます。

M&Aを用いた事業承継対策

M&A(合併と買収)を用いた事業承継は、親族や自社内に後継者としてふさわしい人材がいない場合に実行するケースが多いです。近年は後継者不在の中小企業が増加していることから、M&Aによる事業承継を行うケースが目立っています。具体的な対策として、以下の2つを見ていきましょう。

企業価値の向上

M&Aによる事業承継において最も重要な対策は、企業価値の向上です。買い手側は事業拡大・シナジー効果を期待してM&Aを実行するため、当然ながら価値のある企業や事業の買収を狙います。

売り手としてM&Aによる事業承継を成功させるには、自社における強みの強化・経営体制の総点検・経営強化への理解獲得などを実行し、企業価値を磨くプロセスが必要不可欠です。

M&A時の取引価格は将来性や収益性を考慮して決定されるため、高い価格で売却するには自社独自の技術力・ノウハウ・ブランド力などの強みを強化する対策が有効です。取引価格をはじめとする希望の条件で事業承継できる可能性が高まります。

無駄な資産の処分

M&Aによる事業承継では、不要な資産や在庫の処分も大切な対策です。買い手企業からすると、無駄な資産やトラブルのもとがない企業を買収したいと考えます。そのため、これらの不安要素がない企業の方が、買い手から選ばれやすくなり、事業承継の成功可能性が高くなるのです。

以上、M&Aを用いた事業承継で実施すべき対策を紹介しました。とはいえ、これまで取り上げたのはあくまでも基本的な対策です。M&Aにはさまざまな種類があり、それぞれ特徴・実施すべき対策は大きく異なるため、綿密な事業承継対策を立てるには、各M&A手法に関して詳細に把握する必要があります。

M&Aによる事業承継をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所では、豊富な経験と知識を持つM&Aアドバイザーが、案件を丁寧にフルサポートいたします。

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)無料相談を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

M&A・事業承継ならM&A総合研究所

事業承継の税金・資金対策

事業承継を実施する際、税金や費用が障害となるケースは珍しくありません。例えば、親族内承継では莫大な相続税がかかり、M&Aによる事業承継では仲介手数料や所得税などで莫大な費用が発生します。事業承継で莫大な費用や税金がかかると、結果的にその後における経営続行が困難となるケースが多いです。

事業承継を実施するうえで、税金・資金対策は最重要課題です。ここでは、事業承継の際に活用できる税金・資金対策について見ていきましょう。

事業承継税制の活用

事業承継税制の活用は、相続税・贈与税対策の一つです。事業承継税制とは、後継者が株式を取得した際に、相続税や贈与税の納税が猶予される制度のことです。現在は一定の条件を満たすと、相続税もしくは贈与税が100%猶予されます。

平成30年度の税制改正により特例措置が創設されて、納税猶予の範囲が従来の80%から100%に拡大されました。多くの手続きが求められるものの、中小企業にとって非常に有利な制度です。

特例措置により、納税猶予の諸条件に関しても緩和されています。親族ではない後継者に対しても適用でき、理由を報告すれば雇用の8割を維持できなくても猶予が継続されるようになりました。M&Aによる事業承継に対しても税負担の軽減が受けられます。

事業承継税制は非常に役立つ事業承継対策であり、制度の活用は有効な税金対策手段なので、積極的に活用しましょう。

財産を減らす

財産を減らす施策も、相続税対策として役立ちます。事業承継は、相続する財産額が多いほど相続税額も大きくなる仕組みです。この仕組みを利用した行為が、財産を減らす施策です。相続する財産を減らせば、課税される相続税も減少します。

事業承継における主な対策に、不動産の購入が挙げられます。不動産の購入により、相続財産の減額が可能です。墓石・仏壇などの相続税がかからない財産を購入することも有効な対策といえます。

生前贈与の活用

生前贈与の活用も、事業承継で採用される対策の一つです。生前贈与とは、財産を贈与の形で後継者に譲渡する行為をさします。事前に贈与すると相続税を節税できますが、贈与税が発生する点にデメリットがあるため注意しましょう。

一方で、贈与税を発生させない対策方法もあります。それは、株価が低いタイミングで110万円以下の株式贈与を繰り返す方法です。110万円以下の贈与では贈与税が課税されないため、非課税となる贈与を繰り返せば、贈与税を支払わずに事業承継を実施できます。

事業承継・引継ぎ補助金の活用

事業承継時に多額の費用がかかると、結果として事業承継後の経営が不安定になりかねません。事業承継では、税金対策と同様に資金対策も重要です。有用な資金対策として、事業承継補助金(正式名称:事業承継・引継ぎ補助金)の活用が挙げられます。

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継の実行時にかかる費用を軽減させる制度で、以前は第二創業促進補助金と呼ばれていました。ケースにより100万円から500万円の幅で補助金を支給してもらえるため、事業承継後の資金を賄う有効な手立てといえます。

ただし、厳格な審査を通過する必要がある点に注意しましょう。本制度の対象となるのは、「経営革新や事業転換を目的に事業承継を実施する(した)中小企業」です。拠点とする地域に貢献していく必要もあります。補助金制度を活用する際は、厳しい審査を通過するための長期的な対策が求められるのです。

事業承継対策を早期に講じるべき理由

事業承継を円滑に進行するためには、いろいろな事前準備が必要です。基本的に事業承継は長期計画を要するので、事業承継対策を早期に講じる必要があります。

老々承継を防ぐため

日常業務が忙しくなかなか引退のタイミングがつかめないなどの理由で、高齢になっても現役を続けている経営者は少なくありません。そうなれば事業承継のタイミングがどうしても遅くなってしまい、後継者も高齢になっている可能性があります。

後継者が高齢になったタイミングで事業承継を行った場合、次の事業承継までのスパンが短くなるため企業の体力も削られてしまい、あまりよいとはいえません。

企業が将来的に成長・発展していくためには適切なタイミングでの事業承継が必要です。現経営者は自身の引退時期を考えておき、事業承継に向けた準備を計画的に進めておく必要があります。

突然の経営者引退の可能性

高齢になれば、病気のリスクが誰でも高まるものです。現経営者が病気などの理由により急なタイミングで引退せざるを得ない可能性もあるため、自身が健康なうちから事業承継の準備を進めておく必要があります。

また、相続が発生した場合に親族間でトラブルが起こらないよう、後継者候補を誰にするか、遺産はどのように分割するかなど、現経営者の意思を明確にしておくことも重要です。

後継者教育には時間がかかる

後継者教育に必要となれる期間は、一般的に5~10年といわれています。事業承継後の経営が円滑に行えるまでに後継者を育てるには、十分な後継者教育期間が必要です。

そのため、現経営者は自身の引退について検討し始めた段階から事業承継の準備を行っておくことが重要ですが、その際は後継者教育にかかる時間も加味しておく必要があります。

事業承継対策の際の相談先・支援

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者不在に悩む中小企業の事業承継をサポートする国の機関です。全国47都道府県に相談窓口があり、マッチング支援や専門的知見からのアドバイスなどを受けることができます。

必要に応じて第三者(M&A仲介会社や中小企業診断士など)への橋渡しを受けることも可能です。相談は無料で行えるので、事業承継について検討し始めたら一度相談してみるのもよいでしょう。

中小機構

中小機構は、中小企業や小規模事業者の成長を支援する国の中小企業政策の中核的な実施機関です。中小企業支援機関や自治体と連携しながらサポートを行っており、事業承継についての窓口相談も設けています。

事業承継を円滑に行うための計画的な取り組み、事業承継に関するセミナーやフォーラムの実施、後継者育成の研修など、支援内容は公式ホームページで確認できるので一度チェックしてみるとよいでしょう。

商工会議所

商工会議所は中小企業や個人事業者などが抱える課題解決をサポートし、事業者の活力強化と地域活性化を目的に事業を行う非営利団体です。

経営に関する相談・IT化やDX化の支援・補助金制度の案内などを行っており、事業承継に関する相談も受けています。商工会議所は全国に515カ所(2021年時点)あり、会員になっていればサービスを利用することが可能です。

税理士・公認会計士

税理士や公認会計士へも事業承継に関する相談を行うことが可能です。財務・税務面の専門的なアドバイスが受けられ、事業承継時の税金対策なども相談できます。

自社の顧問会計士や顧問税理士であれば、財務状況をよくわかっているので相談してみるのもよいでしょう。ただし、税理士や公認会計士はM&Aの専門家ではないため、相談できる範囲やサポート範囲が限定されることもあります。

M&A仲介会社

M&A仲介会社はM&A支援を専門に手掛けており、マッチングからM&A交渉や手続きまでのサポートが受けられます。M&A支援のノウハウや実績を豊富に有しており、事業承継計画の策定段階からクロージングまでM&A全般のサポートを受けられる点が大きなメリットです。

多くのM&A仲介会社が初期相談を無料で行っているので、M&Aによる事業承継を検討している場合は一度相談してみることをおすすめします。

金融機関

銀行や信用金庫などの金融機関でも事業承継について相談でき、後継者の株式取得資金など融資を考えている場合などは具体的なアドバイスが受けられるメリットもあります。

日常的に利用している金融機関や担当者がいる場合、自社の状況も理解してくれているので相談してみるのもよい方法です。ただし、金融機関の規模によっては大手M&A案件しか扱っていない場合もあるので、事前に確認しておく必要があります。

事業承継に関するマニュアル

事業承継について基本的なポイントを理解したいという場合は、中小企業庁や中小機構が作成しているマニュアルを読んでおくとよいでしょう。

事業承継計画の作成方法や磨き上げの方法、事業承継の手順、注意すべきポイントなどがわかりやすくまとめられており、どれも無料でダウンロードすることができます。
 

  • 「経営者のための事業承継マニュアル」・・・中小企業庁
  • 「会社を未来につなげる-10年先の会社を考えよう-」・・・中小企業庁
  • 「中小企業経営者のための事業承継対策」・・・中小機構
  • 「事業価値を高める経営レポート<作成マニュアル改訂版・事例集>」・・・中小機構

事業承継対策の事例

この章では、事業承継対策の事例として、成功事例と失敗事例を見ていきましょう。

成功事例

事業承継対策を講じて、結果的に承継に成功した事例を紹介します。関東地方で宿泊業を営むA社は、従業員10名ほどの小規模企業です。宿の建物は長い歴史を持ち、国の登録有形文化財に指定されています。

創業時より安定的な経営を継続していましたが、長時間労働による負担の大きさを理由に、経営者は事業承継を検討しました。経営者は以前より自身の子供から事業承継の承諾を得ていたことから、長い時間をかけて策定した事業承継計画のもとで事業承継を進めています。

後継者教育でも長い期間をかけて入念にノウハウを伝えたため、承継後には事業の拡大・利用客数の増加に成功しました。時間的にゆとりがあったので、経営者は自身の事業承継で課題となり得る要素も早期に発見しています。

経営者は、会社を立ち上げる際に親族・知人などから株式を買ってもらい出資を受けていたため、株式が分散していました。そのため、この状態では子供に経営権を取得させるだけの株式を移転できないと考え、経営者は親族・知人などから株式を買い集めたのです。

このときに海外在住の株主を訪ねる必要もありましたが、承継までに相当の時間があったため大きな負担にはなりませんでした。また、経営者の妻は事業に参加しておらず事業資産の承継を回避する必要がありましたが、専門家の協力を得ながら相続問題の発生も防止しています。

後継者教育を行いつつ課題にも適切に対処できたのは、経営者が綿密な計画のもとで事業承継を進めたためです。

失敗事例

次に、事業承継対策を十分に行わなかった結果、承継に失敗した事例を紹介します。九州地方で製造業を営むB社は、30名ほどの従業員を抱える中小企業です。創業者であるC(80歳)は会長職を務めており、B社の株式を過半数以上持ったうえで経営の最終決定をくだす役割を担っていました。

Cの子供であるD(60歳)は社長職に就いていますが、社長に就任してから15年ほど経過したものの、20%の株式しか保有していない状態です。Cによる経営権の承継を希望していますが、提案しにくい状況にありました。

ある日、決意を固めたDは、Cに対して株式の移譲を求めました。しかし、Cからは、Dとの経営方針における対立などを理由に会社を売却する意向を示されてしまいます。結果的に、B社はM&Aにより、第三者に会社を売却されました。

これは、経営者が子供を社長に据えたにもかかわらず、速やかに経営権を委譲しなかったために生じたトラブルです。本来であれば、経営権の委譲は経営者が行うべきといえます。後継者から経営権の委譲を提案するのは困難であり、提案によりかえってトラブルが深刻化するケースも珍しくありません。

事業承継対策で受けられる公的な支援

中小企業が事業承継対策を講じる際は、中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)などの公的機関から支援の提供が受けられます。

中小機構とは、事業承継フォーラムの開催・事業者向けの情報提供・講習会(セミナー)・中小企業大学校東京校による経営後継者研修・専門家による相談対応など、中小企業のスムーズな事業承継に向けてさまざまな支援を手掛けている公的機関のことです。

例えば、事業承継フォーラムは、過去に事業承継を行った経営者や後継者に自身の経験・取り組む際のポイントなどを紹介してもらう場(参加無料)で、過去の開催レポート動画もホームページで無料公開されています。

中小機構は、全国47カ所に設置された事業承継・引継ぎ支援センターをつうじて、M&Aによる第三者への事業承継に対するサポートも提供しているため、必要に応じて支援を求めましょう。

【関連】事業承継セミナーとは?種類やメリット、参加するときの注意点を解説

事業承継対策のまとめ

事業承継は、誰に引き継ぐかによって講じるべき対策が大きく異なります。税金や資金に対する対策も、事業承継を成功させるうえで非常に重要です。近年は、中小企業の事業承継を支援する動きが加速しています。さまざまな制度を活用しつつ、早期の段階から事業承継を計画的に実行すると良いでしょう。

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